ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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選挙ゲーム

 

 

 

 最悪な特別試験が発表された日の放課後、堀北は試験の対策を考えながら下校していた。

 クラスが阿鼻叫喚とする中、リーダーとして方針を軽く定めることで皆を落ち着かせ、その具体的な対策を考えていくことは約束した。

 試験期間は四日間、時間は少ない。だからこそ、発表日の今日だけは落ち着いて思考を巡らせ、皆が救われるような解答を導く必要があった。

 

「よ、よぉ、鈴音。今日部活休みだから、一緒に寮帰んねぇか?」

 

 昇降口を越えるとすぐに、須藤が堀北の元に現れる。

 あまりのタイミングの良さから、堀北は須藤が自分を待っていたという事実に気付く。

 しかし、なぜこんなところで待っていたかは分からない。

 

「好きにしなさい」

「あ、ありがとよ。……なぁ鈴音、今回の試験について対策とか思いついたか?」

 

 須藤は普段の会話よりぎこちない様子で質問する。

 

「まだよ。けど、この試験は酷い仕打ちだと思っているわ」

「だよな。今まで頑張ってきて退学者を抑えられたのに、退学者が出ないことの報復のような試験だもんな」

「2000万ppを集めない限り、必ず一人を退学させなければいけない試験。本当に、覚悟がいる試験ね」

 

 溜息が白く濁る。

 思考を巡らせた結果、堀北は既に試験を理解していた。Dクラスに2000万ppを集める方法がない以上、絶対に誰かが退学しなければいけない。

 そのための投票、下手を打たなくともクラスのどこかしらに亀裂が入る。

 そして、その誰かを最終的に選ぶ人間が……Dクラスのリーダーである自分だということも。

 

(……情けない)

 

 堀北は横を歩く須藤を見る。

 律儀に歩くペースを合わせてくるクラスメイト。かつての堀北なら目障りな人種とでも判断していただろう。

 しかし、今や切磋琢磨するクラスメイトの1人。情が湧き、クラスから切り捨てるという決断ができない。

 そんな自分が情けない。同時に、これを成長と感じられる自分がいることに小さな驚きがあった。

 

「……やっぱ、俺も退学者の候補に入ってるよな?」

 

 須藤は絞り出したようなか細い声で問う。

 

「確かに、あなたは入学当初のことがあるから候補でしょうね。けど、あなたが努力してきたことをクラスメイトは知っている。安心しろとは言わないけど、不安視しすぎるのは良くないわ」

「お、おう。ありがとな、鈴音に言われるだけで不安が消し飛んじまうぜ」

「消し飛んではいけないわよ」

 

 須藤は6月の暴力事件以来、素行を改めて文武両道を心掛け、その態度はクラスから認められてきていた。

 目が合った瞬間におかしくなる挙動や無駄に気を使う様子さえなければ、堀北もまたクラスメイト以上友人未満くらいの位置に須藤を置けると判断していた。

 

「あれは……」

 

 寮まで半分ほど進んだ地点、休憩スペースとしておいてあるベンチに4人の男子生徒が向かっている。

 先頭を歩くひ弱で非力そうな男子1名と運動部と思われる体格の良い男子が3名。違和感ある集団であったために目で追うと、そのベンチには、1人の男子生徒が片足を乗せて座っていた。

 

「1年のカムクライズルだな?」

 

 先頭の男子が声を掛ければ、カムクラは視線だけを向けた。

 この学校で、堀北が最も警戒する生徒。追随することを許さない圧倒的な能力、その起因となる才能は実に恐ろしく、そんな彼へ今まさに喧嘩を吹っ掛けようとしている上級生には困惑した。

 小馬鹿にするような笑みを浮かべる男子を見て、彼は退屈そうに次の言葉を待っている。

 

「鈴音、あれって……」

「珍しいこともあるのね」

 

 堀北は須藤を引っ張って近くにあった柱に身を潜めた後に携帯を構え、一触即発しそうな現場を録画する。

 放置しても問題ないと思ったが、ここでカムクラに恩を売れれば得と判断して行動に移す。

 

「俺は2年Aクラスの……」

「自己紹介は結構です。大方、混合合宿における逆恨みでしょう?」

 

 カムクラがそう告げれば、目の前の2年生はピクリと眉が上がり、口が開く。

 混合合宿における逆恨み、それは2年Aクラスのリーダー南雲の退陣に起因している。

 そのクラスメイトが南雲を退けた張本人に攻撃を仕掛けている真っ最中であることを堀北も理解する。

 

「撤退をお勧めします。その行動が南雲雅に更なるダメージを与えます」

「う、うるさい! お前のせいで……お前のせいで俺たちはBクラスに落ちそうなんだ! 1年のくせに、生意気に楯突きやがってッ」

「ツマラナイ」

 

 憎しみが前面に乗った表情と何の感情も映さない表情。

 見慣れたはずの無表情だったが、刻まれた敗北が彼の恐ろしさを雄弁に響かせる。

 

「お、おい、お前ら分かってるよな!?」

「ああ、分かってるさ。約束通り、こいつを潰せばいいんだろう? それよりポイントをさっさと用意しておけよな」

 

 会話から察するに、ガタイの良い3名は2年Aクラスの男子に雇われた傭兵、それも他クラスの生徒。

 同じ2年Aクラスの生徒ならばポイントの支払いをする必要はない上に、仮にも2年のAクラスなのでこの愚行を止めているはず。

 堀北はそう推測する。

 

「ツマラナイ。目撃者がいるにもかかわらず、暴力に頼るのは愚策です」

 

 カムクラが堀北のいる柱を見て、抑揚のない声で告げる。

 上級生たちは初めこそその言葉をブラフと思ったが、視線の先を確認してみれば柱に隠れきれていない須藤の大きな身体が見えた。

 

「おい、そこにいる奴。ふざけてんのか」

 

 須藤はビクリと身体を揺らして驚く。まさかバレているとは思わなかったと一目でわかる驚愕の表情から、堀北は頭を抱えたくなる。

 

「……そこまでよ」

 

 第三者の登場、それは彼らのような荒い手段を取る人間からすれば詰みの一手だ。

 携帯を見せつけるように持つ堀北を見て、上級生の判断は早かった。

 

「……ちっ、堀北学の妹だ。ずらかるぞ」

「お、おい待て。僕との約束はどうなる!?」

「状況をよく見て考えろ。今は撤退だ」

 

 証拠の映像を取られたこと、元生徒会長の妹という強い後ろ盾と不利な状況を即座に理解すれば、彼らはAクラスの上級生の首根っこを掴んでそそくさと撤退する。

 その流れは実に手馴れていた。

 

「その動画、後で送っておいてください」

「貸し1よ」

「……まぁ良いでしょう」

 

 カムクラは渋々と言った様子で告げる。

 上級生の誘いに乗ってのしても良かったが、この方が抑止力になると判断したので堀北を利用した。

 傲慢にも、世界の希望に貸しを要求する態度は性格が良いとは言えないが、カムクラは自分に恐れない骨のある少女に免じて了承する。

 

「こんな時期にあなたは面倒なことに巻き込まれているのね」

「あれらはいずれ消えます。放置しておけばいい」

 

 上級生の襲撃を意に介さないカムクラ。虚勢と思える態度はこれまでの経験によって完全否定されていた。

 

「あなたたちは随分と浮かない表情をしていますね」

 

 埃を払いながら、カムクラはベンチから立ち上がる。

 

「……まぁ、あんな試験が発表されたばかりだからな」

「身体能力的に考えれば、あなたは残される人材でしょう。しかし、退学に危機感を持っているあたり、学力とクラス内における人気が低いようですね」

「う、うるせぇ。お前だって安全ってわけじゃねえだろ?」

 

 初対面ではない2人だが、話した回数は少なく、須藤としてもカムクラは敵としての認識が強い。

 話しづらい印象があった上に見下されていると思っていたため、その率直な評価には内心驚いていた。

 

「安全ですよ。Bクラスには1人、誰よりも嫌われている人間がいますから」

「龍園くんね。確かに放置しておけば、クラスの嫌われ者である彼が勝手に退学する」

 

 他クラスでも理解している龍園翔という男の危険性。リーダーを1度降りたことによる支配力の低下とクラス間における人気の無さを考慮すれば、今回の特別試験における批判票が彼に集まることは十分に有り得ることだった。

 

「でも、彼の事だから既に行動を始めてるんじゃないかしら」

「ええ、彼ならではのやり方で今回の試験を乗り切ろうとしていますよ」

「何だよ、龍園ならではのやり方ってよぉ」

 

 須藤が率直に聞けば、カムクラは視線を須藤へ動かした後に会話を続ける。

 

「僕と龍園くん、どちらの方が退学するとあなたは嬉しいですか?」

 

 はぐらかされると思っていたため、会話を続けてくるカムクラに2人は戸惑った。

 質問の意図が読めない須藤は堀北の顔を見て答えてよいかどうか確認する。

 

「正直に答えれば大丈夫よ」

「わかった。……なら、俺は龍園が退学した方が嬉しいな」

「その理由は龍園くんのことが僕よりも嫌いだからですね?」

「そうだな。お前のことをよく知らないってこともあるけど、龍園は単純に嫌いだ」

「堀北さん、あなたはどうですか?」

 

 カムクラは様子見していた堀北に振る。

 

「私は……あなたね。あなたがBクラスから退学してくれれば大きな戦力が消えてくれる」

「えっ、まじかよ鈴音。絶対龍園の方を退学した方がいいって」

「単純な好き嫌いだけで選ぶならそうでしょうね。でも、この質問が特別試験に関係したものと考えれば、私はカムクラくんを選ぶわ」

 

 軽い議論はカムクラにとって予想通りの結果だが、確認が取れて満足だった。

 やはり、自分と龍園で投票しあった時、今の2つの考え方が基本で対立する。

 もし、先程椎名ひよりから届いた特別試験の対策会議の内容どおりならば、この状況を見越して龍園は立ち回ったと考えられる。

 だからこそ、カムクラは満足したのだ。

 

「それで、この質問の意図は何なのかしら?」

「いずれ分かります。そして分かった時、あなたがどのような行動を取るか、僕は期待しています」

 

 カムクラは仄めかし、帰路に就く。

 取り付くしまもなく歩み進んだため、聞きたいことがあった堀北も諦め、同様に寮へ戻った。

 

 

 

 ──────

 

 

「皆さん、注目してください」

 

 カムクラが職員室へ向かった後、金田は教壇に立ち、予定通り特別試験の対策を始める。

 指示は龍園から。特別な指示はなく、今回の試験におけるクラスの意思を確認するように言われていたので、彼は最もオーソドックスな方法を取った。

 

「今回の試験、素直に受け止められない人も多いでしょう。しかし、何もしないのは良くありません。まずは、最も簡単に試験を終える方法を試してみませんか?」

 

 簡単、誰かが必ず退学する試験を金田は簡単と言い切る。その理由が気になり、クラスには沈黙が広がった。

 

「この方法は正直言って戦略すら必要ありません。必要なのは試験を始まる前に『2000万ppを集められるか』です」

「クク、確かに最も簡単に乗り越えられる方法だな。ポイントがあれば、の話だがな」

 

 金田の発言に、龍園は背もたれに背を預け、馬鹿にするように告げる。

 

「龍園氏。クラスで徴収したppは僕の計算が正しければ1429万pp。今すぐ用意できますか?」

「ああ、そういう約束だからな」

 

 6月から1月までの徴収金額は3万pp×40人×8か月=960万pp。

 2月、3月の徴収金額は6万pp×40人×2か月=480万pp。

 そこから混合試験の−11万を引くので、合計は1429万pp。

 Aクラスからの徴収なしでは2000万に届いていないが、膨大なポイントだ。

 

「これで1429万ppは確実に用意できます。そこに前回の混合試験で得たポイントと皆の残りポイントを集めれば、ギリギリ2000万ppに届く可能性はあるのではないでしょうか」

 

 前回得たppは168.1万pp。そこにクラスが使っていない分を片っ端から集めれば、足りる可能性はある。

 しかし、それに納得しないものも当然いる。

 

「金田、その方法は人によって負担が違いすぎるな。100万持っている奴と10万持っている奴じゃ、天秤が釣り合わない。それに、クラスメイトを救うためにポイントを出すメリットは何だ? 100万出す奴には多く出した分だけ、メリットがあるんだろうな?」

 

 龍園の言い分は正しい。

 全員を救うという発想では金田の意見は正しいが、ポイントは資本主義的な側面が強い。実力あるものが必死に得たppをなぜ自分より実力が低い生徒に使わなければならない。当然の主張だ。

 

「……ありません。この方法は全員を救うために発案したもの。多くポイントを持つ生徒の方が損をします」

「なら、どうする。この問題を解決しなきゃ、俺やカムクラのように多くのポイントを持つ者はその案に乗らねぇぞ?」

「質問に質問で返して申し訳ありませんが、良いのですか龍園氏? そうやって発言すること自体、あなたがクラス投票の標的になるのでは?」

「クク、なるほど。確かに、この方法ができないとなれば、ポイントを持っているのにケチった人間が批判票を集めやすくはなるな」

 

 龍園は焦ることなく認める。

 想定通りの展開なんだろう、龍園の余裕から金田はそう察する。そして、なぜ龍園が自分の立場を弱くするよう立ち回ったかに疑問が生まれる。

 

「だが、これは実力ある者の当然の主張。だから、ここで提案しよう。俺は自力でポイントを集められない雑魚を助けるより、さっさと一人退学させる奴を選んで2000万ppを貯蓄することを提案する」

「……なるほど。確かに、その提案はありです。しかし、ここでそれを提案するのは愚策では? ヘイトはよりあなたに集まりましたよ」

「だろうな。だが、お前らも良く考えるべきだ。仲良しこよしのために、2000万を使うことは本当に正しいのかをな」

 

 龍園はクラスメイト1人1人を見ていく。

 かつてはこの行動で誰も震えて声すら出せなかった。

 しかし現状、カムクライズルという代理の存在によって、意思を持つ生徒は現れている。

 

「龍園、お前焦っているな?」

 

 反抗するは時任だ。

 アンチ龍園の筆頭である彼はニヤニヤと馬鹿にするように笑う。

 

「今回の試験、要は嫌われ者が批判票を集める試験だ。ははっ、お前は暴力をチラつかせてクラスを率いる嫌われ者。そりゃ、身の危険を感じて行動に移すわけだ」

「クク、反論にキレがねぇな時任。それなら、何で俺は最初からお前らに暴力をチラつかせない。どうして対話を選んだんだ?」

 

 時任は黙り込む。

 龍園が暴力という手段を放棄していないことは理解している。だからこそ、使わない理由に見当がつかない。

 

「お前らは今回の試験がこれまで培ってきたものが特別試験の鍵だと思っているようだが、それは違う。今回の試験は未来を見据えた試験だ。退学した時に生じるマイナスポイントはなく、無能を1人確実に消せる良い機会なんだよ」

「その無能がお前だろ、龍園。お前はクラスに何度も迷惑をかけた」

「クク、確かに船上試験じゃ出し抜かれたなぁ。だが、他はどうだ時任。無人島試験、体育祭、ペーパーシャッフル、どの特別試験も俺の采配あっての結果だったと思うが?」

「結果はプラスだな。だが、リスキーだった。未来を見据えた試験なら、そんな不確定な手段で危険を及ぼすリーダーを消す良い機会だ」

 

 どちらの主張も今までと変わらない。

 如何なる手段を用いても最後に勝つことを目指す龍園と、その如何なる手段という点に不満を持つ時任。根底にある考えが違う以上、議論は平行線をなぞる。

 それが、平常だった。

 

「なるほどな。お前の意見は分かった。お前らの中にも、こいつと似たような意見を持っている奴がいることもな。ならお前ら────俺とゲームをする気はねぇか?」

「……ゲームだと?」

 

 龍園は揶揄うように笑った。

 クラスから後ろ指を差されながらこの余裕。これは演技じゃない、時任はこれまでの経験からそう理解している。

 崖っぷちの状況でも、龍園翔は怯えない。勝つための方程式を組んでくる。たとえ、幾度となく崖に追い込まれても。

 

「俺は今500万ppの貯蓄がある」

「……なんだと? どうやってそんな膨大なポイントを……」

「そんなものどうでもいい。お前らが今考えなければならないのは俺からどうやってこのポイントを出させるかだ。だが当然、俺は雑魚に投資する気はない。だからこそ、ゲームをしようじゃねぇか」

 

 クラスは既に龍園の独断場。雰囲気に飲まれ、誰もが傾聴していた。

 

「ゲームは追加特別試験の投票を利用して行う。ルールは簡単、お前らの持っている賞賛票を2人の『代表者』のどちらかに投票する。そこで賞賛票が多い方の『代表者』を最高権力者として認め、そいつの指示に従って今回の試験を終わらせる」

 

 龍園の持ちかけた勝負、それはこの追加特別試験を利用してクラスの最高権力者を決め、その人間の意見で試験を終了させるというもの。

 言うなれば、選挙ゲーム。

 “代表者”を、クラス40人の中から選挙する。そして、その代表者の命令に従ってこの試験をどう乗り切るか決める。

 

「2人の『代表者』はどう決めるのですか? そもそも、なぜ2人なのでしょうか?」

 

 いち早く理解した金田がキーマンである『代表者』の確認を取る。

 

「今回の特別試験、論点が“退学者を出すか、出さないか”の2つに絞られるからだ。『代表者』の決め方は自由だ。立候補でも、人柱でも明日の朝までに2人決めるぜ」

 

 “退学者を出す”と“退学者を出さない”という2つの派閥から『代表者』を選出する。

 そこからは選挙だ。

 それぞれの派閥は各意見をアピールして派閥を大きくしていき、3月7日に備える。

 

「ルールの詳細はこちらで決めて、明日に発表する。参加は自由だ。もっとも、40人参加しなければ俺は500万ポイントを用意しないがな。クク、負けた方の『代表者』が退学ってルールも面白いなァ。その方が特別試験味がある」

 

 自由気ままな言動を、龍園は演出する。

 

「一応教えてやるが、このゲームにはメリットもある。今回のゲームで決まる『代表者』はこれからの試験を引っ張っていくリーダーとなるってことだ。クク、俺が気に食わないやつこそ、参加した方が良いと思うがな」

 

 未だ詳細は決まってないとはいえ、クラスのリーダーを決めるための選挙。簡単な概要だったので、クラスメイトは龍園の説明に不明点はなかった。

 しかし、不十分な点はあった。

 

「龍園くん、1つ懸念点があります」

「言ってみろ」

 

 発言者は椎名ひより。

 クラス屈指の頭脳を持つ彼女は既にこのゲームの勝利条件に気付いていた。その上で、危険性を考慮して発言する。

 

「龍園くんのゲームでクラスのリーダーをはっきりさせることは私も賛成です。しかし、今回の賞賛票。他クラスからの票もある以上、クラス総意のリーダーが決まらないと思います」

「投票に匿名性はない。それで、クラス内の結果は1度出ると思うが?」

「でも、負けた方の『代表者』は退学させるつもりなのでしょう? もし他クラスがこのゲームを知って協力関係を結んだならば、全ての賞賛票を優れていない、敵にして楽な方の『代表者』を残すと思いませんか?」

 

 今回のゲームのポイントは賞賛票。クラス内だけでなく、他クラスからも票が集まる。

 不透明な賞賛票は40人×3クラスで最大120票。仮に2人の代表者を除くすべての賞賛票が片方の代表者に集まったとしても38票であるため、条件次第では他クラスからの票だけでも勝利を掴むことができる。

 

「流石だな、ひより。確かにお前の懸念は正しい。ならば、他に退学者候補を用意するか。2人の『代表者』以外で退学者になるやつをな」

「それならば、私は異論ありません。有能な『代表者』のどちらかが消えてしまうのは悲しいですから」

 

 椎名はまるで代表者が誰だかわかるように告げる。

 先の想定ができているが故の発言は龍園を満足させていた。

 

「ちっ、異論がないだと? 馬鹿言うな椎名、こんなゲーム受ける必要はねぇ」

 

 未だゲームを否定するは時任だ。龍園の圧に負けじと反論の弾丸を発射する。

 

「このゲームをやってクラスのリーダーが確定することは理解した。それが大きなメリットでもあることもな。だが、それでも受ける必要はない。なぜなら、このまま放置していれば最終日に批判票を集めて退学する奴は龍園だからだ。こいつの口車に乗って退学の危険を増やすなんて馬鹿らしすぎるぜ」

「それで? 俺が退学したとして、次の学年末の特別試験は誰がリーダーをする?」

「はっ、そんなの……」

 

 時任は既にリーダー候補の名前が喉まで出ていたが、直前で詰まる。

 リーダー候補、カムクライズルを説得できるイメージが湧かなかったからだ。

 あれは、自分の言葉で変わるような人間ではない。巧みな話術を時任ができたとして、カムクラの性質を理解した上での利益を提供できない。

 だからこそ、時任は中途半端な否定しかできなかった。

 

「これ以上、否定はねぇな? なら、今日は解散だ。明日の朝までに“退学者を出す”“退学者を出さない”、どちらの派閥に所属するかよく考えるんだな」

 

 理不尽な特別試験の対策を立てるはずの時間、それは既に龍園が支配していた。

 彼は1人立ち上がり、出口へと向かう。

 そんな途中、伊吹は気軽に質問を行う。

 

「龍園、あんたは“退学者を出す”側の『代表者』になるの?」

「さぁ、どうだろうな」

 

 クラスメイト全員を見渡してから龍園は教室を後にする。

 後から石崎とアルベルトが続く様子は、かつての龍園を想起させた。

 

 

 




酷い試験だったので、少しゲーム要素を追加してみました。

金田⇒オタクみたいな呼び方してるから純粋なオタクかと思ったら普通に変なだけだった人。本作でも参謀役として頑張っています。

時任⇒貴重なアンチ龍園の人。カムクラをリーダーにしたい。が、カムクラもカムクラでヤバい奴だから頭痛が絶えない。
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