ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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連日投稿。


変人と不良とお助けアイテム

 

 

 

 日曜日を越え、月曜日の朝がやって来た。

 僕の起床は早い。

 目が覚めたら、まず第一に凝り固まっている身体を伸ばし、ほぐす。

 その次に顔を洗い、意識を覚醒させる。

 覚醒したら、布団を綺麗に整えて、キッチンへと向かう。

 パンを焼いてる間に、上下真っ黒な寝巻きのまま、予め纏めていた昨日の夕食の残り物を元にして弁当を手際良く作る。

 冷蔵庫の中にある、学校の自販機から大量に持ち帰った無料飲料水を1本取りだし、今日初めて喉に何かを通す。

 冷たい喉越しを身体が実感し終えると、チンという機械音ともに歯ごたえの良さそうなトーストが焼き上がり、その上に草餅を作った時に残った餡子と市販で買えるやや高めのバターを塗って朝食を開始する。

 それを食べ終えたら、使った食器を洗う。

 それも洗い終えたら、この学校の独特な制服に着替える。

 最後に、学校へ持っていくものをスクールバッグに纏める。

 

「存外、自らで生活する方が悪くありませんね」

 

 希望ヶ峰学園にいた時は僕が何かをするまでもなく、食事は出てきた。

 栄養バランスが完璧な食事を決まった時間に与えられ、それ以外は才能の実験と研究。徹底管理された日常は退屈で、僕の意思は考慮されていなかった。

 絶望時代はその日暮らしだったが、幸運の才能だけで生存可能だった事から面白みはなかった。

 しかし、今は自分で考えて生活ができている。

 これが普通の生活。これから何度も繰り返され日常は退屈しかないが、それを己の手で変えられる以上、今までの生活よりかはだいぶマシです。

 

「丁度7時になりましたか」

 

 体内時計で感じた時間があっているかどうかを、携帯を取り出して確認する。

 AM7:00の電子文字が、血のように濃い赤の瞳に反映する。

 ツマラナイ。肉体は今日も不調を感じさせてくれない。

 朝のHR開始は8.30から。それまでの時間はこれといってやる事もなく、必要最低限の休息と整髪を終わらせて、寮の自室から出る。

 ガチャという鍵を閉める音が無人の空間に響いた後、エレベーターの方へ止まることなく向かう。

 道中で誰とも会わずにエレベーターへと到着し、機械的な動作でボタンを操作する。

 1Fの共有フロアに降りると、寮の職員と管理人、僕と同じように朝の早い生徒が数人、と少数の人間が視界に映る。

 それなりの人数でパーティゲームが出来そうな大きい机、座り心地が良さそうな3人用のソファーが複数、どちらも無人だ。

 他にも至る所にスペースが存在してるが、どこかもの足りない。

 1歩、1歩、と踏み出す毎に、スタッと小気味良く足音が響く。

 

 あぁ、ツマラナイ。

 

 朝早くから丁寧な仕事をしている管理人へと頭を下げ、僕は寮を出る。

 外に出ると太陽の強い日差しが僕を出迎え、夏本番の暑さが身体に染み渡る。

 この学校は夏服・冬服といった制服の区別がないので、夏でもブレザー着用だ。

 そのため登校の数分間は暑く、学校に行くだけで憂鬱な気分になってしまう。

 だが、学校に着けばそこは天国。冷房が完備されているため、涼しい。

 湯水のように金を使っている辺り、国が支援している学校だと改めて実感する。

 

「そう言えば、石崎くんに写真を渡し忘れていましたね」

 

 歩きながら、今日という日が退屈にならない為に普段と違う事がないかと記憶を辿る。

 数秒考えると、CクラスとDクラスの話し合いまであと1日だということを思い出す。

 石崎くん達が無罪を主張するだけで終わるツマラナイ争いがそろそろ始まるのだ。

 龍園くんはそれなりに力を入れているが、石崎くんと他2人に対して、意見を絶対に曲げるな、自白さえしなければ良いと強く脅しているだけ。

 負ける可能性がある、それを放置している龍園くんにはまだまだ成長の機会を与えなければならない。

 

「登校時間が短いことにもデメリットはあるのですね」

 

 思考に耽って入れば、いつの間にか下駄箱に着いていた。長考すらすることなく到着したので、ゆっくりと考え事もできない。

 僕はいつも通り、靴を履き替えようとする。

 誰もいないがために校庭の方から聞こえる声がよく響いてくる。

 距離があるため何を言っているかは分かりませんが、運動部の掛け声でしょう。

 気合の入っている行動に、この学校は文武両道を謳っていたな、という事を思い出す。

 

 部活動は結果を残せばボーナスポイントを貰えるので、Cクラスの7割ほどは何かしらの部活動に入っている。

 

 勿論、これはCクラスに限った話ではないので、どのクラスもだいたい同じ割合の人間が何かしらの部活動に所属している。

 だが、Cクラスの生徒は他のクラスよりも部活動に力を入れていることでしょう。

 偏にボーナスポイントの存在が大きい。Cクラスは月初めに徴収されるため、少しでも多く自由に使えるポイントを確保するため、必死に結果を残そうとする。

 もしかしたら、先程の掛け声の中には、Cクラスの生徒がいるかもしれない。

 そうであるならば、クラスポイントにも良い影響を及ぼしている。彼の考えた税制度が上手く機能しているな、と少しだけ感心する。

 

「……あれは」

 

 中靴へと履き替え、自分の教室へと足を向けた。普段ならこのまま教室に向かう予定だったが、僕は立ち止まっる。

 いつもと違う光景を目にしてしまったからだ。

 下駄箱から少し先にある階段の踊り場には生徒側も学校側も使える掲示板がある。

 そこに、CクラスとDクラスの争いに関係する情報を持つ生徒を募集する貼り紙──────

 

「うん、今日も私の顔はビューティフォーだね〜」

 

 ────の前に、高そうな手鏡で髪を整える変人が立っていた。

 掲示板の前に立ちながら、掲示物ではなく手鏡を見ている変人。少しの予想外をオモシロいと感じてしまうからか、少しだけ観察してしまう。

 

「おや、君は……」

 

 立ち止まったことによって変人に気付かれた。

 変人は手鏡を自身のポケットにしまうとそのままこちらへと歩いて来る。

 

「そのロングヘア〜、キミがカムクラボーイだね」

 

 やたらと発音の良い英語で変人は僕に話しかけて来た。

 丁寧にセットされた金髪に、僕とは違う薄い赤の瞳を持つ高身長の男が、僕の進行方向を塞ぐように立っている。

 僕はこの男のことを知っている。

 何故なら、Dクラスの情報を集めている時に知る機会があったからだ。

 

高円寺(こうえんじ) 六助(ろくすけ)ですね。何の用ですか?」

 

「いかにも、私が高円寺コンツェルンの一人息子であり、未来の社長、高円寺 六助さ」

 

 自分の腰に手を当て、髪を捲り、自身を誇張するようなポーズを決める。

 凄まじい鬱陶しさ、一之瀬さんの数十倍は鬱陶しいと直感的に判断する。

 

「そして何の用だったかね、その答えはナッシング! 気まぐれな行動さ」

 

「そうですか」

 

「ハッハッハ、朝は苦手かな? 少々エネルギーが足りてないんじゃないかい?」

 

 彼は謎の気遣いを見せた後に高らかに笑う。

 

「それにしても……。ふむ……なるほど、なるほど」

 

 騒々しく笑い終えると、彼は僕の身体をジロジロと見始める。

 

「服の上からでも分かる、良いボディーだ。少々失礼〜」

 

 褒められた。

 と同時に、彼は流れるように僕の身体を念入りにチェックし始めた。

 いやらしい手付きではない。単純に筋肉の発達具合などを確かめている。

 

「……素晴らしいポテンシャル。私と同等……いや、それ以上だ。エクセレント!」

 

 人の身体をベタベタと触った後に、馴れ馴れしく肩を組み始め、これまた発音の良い英語で褒めてくる。

 彼が何をするかは分かっていた。が、分かっていても抵抗に移せなかった。

 悪意を感じなかったのもあるが、あまりに唯我独尊すぎる彼の行動にされるがままにさせてしまった。

 

「カムクラボーイ、今度一緒に食事でもどうかな? 実は年上のレディたちの中に君の事を知りたがっている子がいてね」

 

「話が飛躍しすぎです」

 

「おっと、私とした事が少々せっかちになってしまったようだ。まずは名刺交換ならぬ、メール交換が先だったね」

 

 違います。

 僕の中で高円寺くんという人間は、江ノ島(えのしま) 盾子(じゅんこ)に匹敵する破天荒と位置付けられる。

 嵐のような彼は素早い手付きで携帯を取り出し、連絡先を交換出来る画面を開く。

 

「さぁ、早くしたまえ。私も忙しい身でね。この後、レディたちとお話があるんだ」

 

「わかりました」

 

 これと言って断る理由が見つからなかったので、バッグから携帯を取り出す。

 そして、テキパキと連絡先を交換した。

 

「ふむ、ミッションコンプリートだね〜。それではカムクラボーイ! また会おう、アデュー!」

 

 自分のやりたい事が終わったのか、彼はすぐに僕の肩を離し、階段の方へと歩き始める。

 朝早いがために登校している人は少ないので、彼の笑い声がフロア中に響く。

 

 

「素晴らしい才能を持っているが……凄まじく面倒な人ですね」

 

 

 

 

 高円寺 六助との親密度が上がった?? 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

「おはようございます、カムクラくん」

 

 いつもより心做しか明るい声で椎名さんが挨拶をしてきた。

 お淑やかな笑顔と立ち姿はとても優雅で、優しさが含まれている。

 超変人との偶然の出会いがあった後、僕は特になんの障害もなく教室に着いた。

 

「おはようございます」

 

 挨拶を返し、2番目に教室に来た彼女を歓迎する。

 彼女の朝も早い。彼女は朝早めに来た後、準備を終えるといつも本を読んでいる。

 彼女の読む本はミステリー小説が多い。

 誰もが認める傑作から名前も知らない作品と、幅広く読んでいるようだ。

 僕には本を好きになるという感情が浮かんでこないので、彼女の趣味は合わない。

 名作中の名作と呼ばれている代物ですら、僕からすればくだらないからだ。

 もっと言えば名作である以上、そこには法則がある。法則がある以上、その先の結末を予測するのなんて造作もない。

 良くて時間潰しの存在、そこに楽しむなんてものは生まれない。

 もっとも論理が破綻している書物、いわゆる駄作と呼ばれる書物も読む気になれない。

 そもそも駄作だからツマラナイのではなく、ツマラナイから駄作なのだ。

 どっちにしろ時間の無駄でしかない。

 

「やはりカムクラくんの朝は早いですね。また勝てませんでした」

 

「勝ち負けをつける必要はありません」

 

「確かにそうですけど毎回2番だと、こう、なんとなく対抗心というものが出てきませんか?」

 

 笑顔でそう言う彼女は、とても嬉しそうで会話を楽しんでいるのが分かる。

 彼女にしては語彙力のない言い方に違和感を覚えるが、会話を楽しんでいるので気にしない。

 

「それより、あなたが僕に話しかけて来た理由はそんなことではないでしょう?」

 

「ふふ、そうでしたね。……では例のブツをお出しください」

 

「あなた、今度は何の小説にハマっているのですか?」

 

 満面の笑みとは正反対の言葉が口から零れた事に、読んだ小説に触発されたことを察する。

 

「刑事事件をテーマにした小説です。昨夜、最後に読んだシーンのセリフが使えそうでしたので、使わせてもらいました」

 

「楽しそうで何よりです」

 

「とっても面白くて楽しいです。これを機に、カムクラくんも読書を好きになってみましょう」

 

 ニコニコとしながら、相変わらず読書仲間を作ろうと誘ってくる。

 彼女には何度か図書館に付き合わされていますが、やはり僕は読書が好きになれない。

 決まって断っているが、彼女は全然諦めてくれない。

 

「しつこい。僕ではなく、他のクラスメイトと語り合ってください」

 

「……それが、いないのです。知っていますか? 私達の年代では本を好む人の減少が顕著なんです。そして、そのデータと合致するようにこのクラスにも本を好む人はいません」

 

「伊吹さんや龍園くん、金田くんの方が僕よりも可能性がありますよ」

 

「伊吹さんには断られてしまいました。他2人はあまり話す機会がありません。でも伊吹さんは確かに惜しかったです。彼女は沢山の映画を見る方なので、映画化した本の感想は語り合えたのですが……」

 

 喋り出しは嬉しそうな顔だったが、言葉が途絶え始めるとみるみる残念そうな表情に変わっていく。

 

「本の楽しみ方は人それぞれですが、多くの方は地の文から背景や登場人物の心情などを想像によって楽しむ。しかし、映画では想像するのではなく、確定した画像から映画としての画質、役者の演技などを楽しむ。感想の種類が違い、どこか噛み合わないという訳ですか」

 

「そうです。伊吹さんは嬉しそうに話してくれるし、気持ちは分かるのですが、やはりどうしても齟齬が生じるのです」

 

 彼女は肩を落として項垂れる。

 気力も普段より低く見え、あまり外出してないことが分かる彼女の白い肌も相まって体調が悪いのかと思えてしまう。

 庇護欲があれば、当てられてそうな魅力があった。

 

「あなたの言うブツですよ」

 

 彼女の御機嫌を取るために、バッグからある物を取り出し、少しだけ彼女のノリに乗ってあげて渡す。

 それを見ると、先程の悲しそうな表情はどこに行ったのか。

 彼女は年頃の女子らしく純粋な喜びを見せる。

 

「これが、カムクラくん作の────桜餅ですか」

 

 椎名さんは新しい玩具を買って貰った子供のようなキラキラとした眼をする。

 この桜餅は昨日伊吹さんと作ったものだ。

 宣言通り、僕たちは草餅と桜餅を作った。

 久しぶりにパティシエの才能を使用したので、才能の確認がてら多めに作ったのだが、ここで問題が発生した。

 

 ────食べれなかったのだ、桜餅が。

 

 超高校級の希望であるこの僕に、苦手な食べ物があった。この事実は驚愕に値する。

 口に入れた瞬間に舌が拒絶反応を起こし、思わず吐き出しそうになった。

 何とか水を使って飲み込んだものの、口の中には何とも言えない不快感が残り、身体の不調を実感した。

 オモシロイ。実にオモシロイ。

 まさか、この僕に片膝をつかせられる程とは思っていませんでした。

 

「これは茶道部で頂かせてもらいますね。放課後が楽しみです」

 

 食べれない桜餅を作りすぎてしまったため、処分に困っていた。

 そんな時、お勧めのお茶菓子がありませんかという白羽の矢が立つ。椎名さんからのメールだ。彼女は茶道部で用意するお茶菓子を探していた。

 偶然が噛み合う。

 結果、余った桜餅は茶道部に差し入れという形で処分を免れた。

 この救いのメールがあったため、伊吹さんの体重が増えるという悲劇は起こらなかった。

 

「今はまだ朝ですよ」

 

「おっと、そうでした。ふふ、待ちきれませんね」

 

 機嫌が良くなって何より。

 彼女と話しているとそれなりの時間が経った。

 そのため、他の生徒もぞろぞろと登校してきている。

 その中には石崎くんや伊吹さんの姿も見える。

 椎名さんは桜餅の入ったパックを持って自分の席へと戻った。

 入れ替わるように、包帯やガーゼが顔に付着している石崎くんが僕の前に現れる。

 

「カムクラさん、おはようございます!」

 

「おはようございます、石崎くん。前々から言っていますが、わざわざ僕の席まで来て挨拶する必要はありません」

 

「いえ! 自分、カムクラさんの事は尊敬してるんでこういうのは形から入りたいんです!」

 

「では、もう少し声のボリュームを下げてください。それならばいくらでもどうぞ」

 

「了解っす!」

 

 律儀に声を小さくし、敬礼を示す。

 石崎くんの好感度がやたら高い。彼とはそこまで会話をしてないのに、以前よりもだいぶ上がった。

 100%の善意、不良特有の純粋な上下関係だろう。

 

「それよりも石崎くん、携帯を出して下さい」

 

「携帯っすか?」

 

「今から君に万が一の時の写真を渡しておきます。もしDクラスに追い詰められる事があったら、これを見せ付けて下さい」

 

 僕は携帯を操作し、彼の連絡先へ複数枚に撮った現場写真を送る。

 

「……これって事件を起こした所の写真っすよね、何でこれを俺に?」

 

「Dクラスがこの事件に勝つために取るであろう手段を1つ、潰すことができる証拠と思って下さい。使える場面は今から教えます」

 

「つ、つまり……、カムクラさんが手伝ってくれるんすね! これは百人、いや千人力っす!」

 

 新しい言葉を造語した彼は、怪我の目立つ顔でも嬉しそうに笑っている。

 純粋な点は美徳。でかい子供を相手にしているようだ。

 

「おいおい、カムクラ。何だか面白そうな事してんじゃねえか。オレも混ぜろよ」

 

「りゅ、龍園さん! おはようございます!」

 

 僕の席へと本日3人目の来客。

 スクールバッグを肩で担ぐ点から、今登校してきたのでしょう。

 後ろにはアルベルトもいる。彼は僕と目が合うと律儀に頭を軽く下げる。

 僕はその動作に会釈で返す。

 そんなやり取りの間に、龍園くんは僕の机の上に座る。

 

 前に座っている伊吹さんが心底嫌そうな顔をしているのが分かる。

 

「よう、伊吹。今日も良い顔してんじゃねえか」

 

「唾飛ぶから喋んないでくんない?」

 

「クク、俺も嫌われたもんだな」

 

「自分のやってきたことを1つ1つ思い出してみたら?」

 

「そうだな、昨日は楽しく乱れた夜だったぜ」

 

「死ね」

 

 絶賛愉悦実感中な龍園くんに、伊吹さんは嫌悪全開で顔が歪む。

 

「それで、お前は何を石崎に渡したんだ?」

 

「事件が起こった現場の写真ですよ」

 

「なんでそんなもんを渡す? 何の意味がある?」

 

「意味はあります。僕には見えていて、あなたには見えていないだけです」

 

「クク、言うじゃねえか。じゃあ、その意味ってのを教えてみろよ」

 

 僕の机に座る彼は足を組み直しながら、僕の言葉を待つ。

 石崎くんとアルベルトも聞こえる距離に近付く。

 伊吹さんも興味が出たのかこちらを窺っている。

 

「あなたはまだ甘いという事です。大方、今回の事件を相手ならどう対処してくるかといった客観的な思考を浅くしかしてないでしょう?」

 

「そうだな。だからと言って、そうそう簡単に崩せるような計画は立てていない」

 

「攻めに関しては一流です。しかし、守りは薄い」

 

「ちっ、ごちゃごちゃ過程を垂れられんのは好きじゃねえ。先に結論を言え」

 

「Dクラスがこの事件を完全無実で切り返す方法の1つに、“偽物の監視カメラ”を設置して脅迫し、訴え自体を取り消させるという方法があります」

 

 僕がそう言うと龍園くんは腕を組み、数秒考えるとニヤリと不敵に笑う。

 

「……クク、なるほどな。嘘には嘘ってことか。確かに俺には思い付かねえな、そんな陰湿な手段」

 

「どの口が言ってんのよ」

 

 伊吹さんの意見に賛成です。

 

「だが、成功率は低いな。面白い発想だが、石崎が冷静に対処すれば良いだけだ。俺はそのための指示を送っている」

 

「そ、そうっすよカムクラさん。たとえ脅されても俺が黙り通せば何も問題ないっすよ!」

 

「だからもう一手間、二手間と加えます。一つは特別棟の暑さです」

 

 僕の言葉を聞き終えると、龍園くんは少しだけ目を見開いた後に薄く笑う。

 

「俺もあそこの下見はしたが、あの蒸し暑さなら……確かに思考と冷静さを奪うことは不可能じゃねえ。畳み掛けるようにもう一手間加えれば、さらなる動揺を作れてその場の空気を支配できるってわけか」

 

「さすがに理解が早いですね」

 

 頭の回転が早い彼は、もう既に僕の教えた手段の全容が見据えている。

 前の席にいる伊吹さんも、ある程度は状況が分かったようだ。

 

「でも暑さくらい、我慢すれば!」

 

「石崎くん、確かに人間は意外にも暑さには抵抗がある生き物ですが、同時に繊細な生き物でもあります。例えば、銭湯などにあるサウナの中でクイズをしたとしましょう。あなたは集中して問題に取り組めますか?」

 

「……いや、俺は頭悪いし、サウナの中なら尚更、集中なんか出来ないし、解ける訳ないっす」

 

「特別棟はサウナ程とは言いませんが、それに近いくらい暑いです。思考も集中もかなり乱れます。冷静さを失えば失うにつれて、人間は自らの焦りで追い詰められる。その状態で普段の思考はできない」

 

 僕ですら少しだけ集中が乱れるでしょう。

 他の人間ならば言うまでもない、冷静な思考なんて出来るわけがないのだ。

 

「……そっか、現場写真を予め持っておけば、たとえ相手が仕掛けてきても冷静でいられる。同時にDクラスが新しい嘘を仕掛けたって事で、そこから切り崩す一手にも出来る可能性があるのか」

 

「な、なるほど、伊吹って結構頭良いんだな!」

 

「あんたが馬鹿すぎんのよ」

 

 伊吹さんは石崎くんに対して嘲笑するのではなく、ため息をついて呆れていた。

 

「でもカムクラ、そんな事あのDクラスが考えられるの? あんたしか考えられなかったじゃないか」

 

「可能性の話です」

 

「クク、つくづく、お前が敵じゃねえのが勿体ねえな」

 

 僕の話が全て終わると彼は上機嫌に高笑いする。

 お前が敵じゃなくて良かった、味方に言うならばこっちの方が大多数の意見だろう。

 しかし彼はどこまでいっても、龍園 翔。

 そんなツマラナイ事は言わない。

 彼は高笑いを終えるとふと疑問に思ったのか、平常時の声で思った事を口にする。

 

「で、その発想はどう思いついた? 普通はそういう監視カメラなんて買おうとも思わねえが……」

 

 龍園くんの疑問に珍しく伊吹さんが同意するように頷いてるのを僕は見る。

 だが、僕の視線に気付いた彼女はその仕草を止め、いつものツンツンとした表情で僕の事を強く睨む。

 僕はそんな彼女を見て本当になんとなく、少しだけからかってみようと考える。

 そして殆ど機能してない自らの感情を働かそうとしてみる。

 

「伊吹さんとデートをした時にたまたま見掛けたんですよ」

 

「……はっ!?」

 

 勿論これは嘘だ。

 本当は入学して1週間経った頃、学校のシステムをハッキングできるかを検討するために、電化製品店に足を運んだ時の産物です。

 

「ほぉ〜、デートねぇ〜。クク、お前も隅に置けねえな伊吹」

 

 頭の回転が早い龍園くんは戸惑いを見せている伊吹さんに対して、良い笑顔で模範解答のような言霊(あおり)を発射する。

 

「……き、昨日の、あれはデートじゃないわよ!」

 

 そして。自ら墓穴を掘る伊吹さん。

 このようにテンパる、すなわち冷静じゃなくなると普段通りの思考が出来なくなるよというのを実践してくれる。

 

「クク、昨日か。で、あれってのは何だ?」

 

「あれとは買い物ですよ龍園くん。しかし、僕は昨日の買い物のことをデートなんて思っていなかったんですが……」

 

 龍園くんは僕の意図を察する。そして僕の机から立ち上がり、いつでも逃げられる体勢も整えた。

 

「そうかそうか。そりゃつまり、伊吹だけがそう思ってたって事か」

 

「───こんの!!」

 

 沸点の低い彼女は顔を真っ赤にさせ、大きな音を立てて椅子から立ち上がる。

 人は怒ると視野が狭くなる。暑さと怒りがあれば、このように冷静な思考はできない訳だ。

 

 つまり、今の伊吹さんに現在の時刻を把握することはできない。

 

「……どうしたのですか伊吹さん」

 

 勢い良く龍園くんに飛び掛かろうとする彼女の行動を見て、丁度クラスに入ってきた坂上先生は心配そうな声色で告げる。

 視野が狭くなった事に加えて、普段しっかり閉められている教室の扉が、今日に限って偶然(・・)開いていたから音もしない。

 彼が入ってきた事に、彼女は気付けなかった。

 

「……大丈夫です。何も問題ありません」

 

 怒りを必死に抑える彼女の声色は全然大丈夫に聞こえず、そんな彼女の姿に龍園くんは笑いを必死に堪えている。

 

「そ、そうですか」

 

 坂上先生は戸惑いながらそう言い終えた後に、全員に座るように指示を出す。

 皆が自分の席に座ると、わざとらしく1度咳を挟み、そのまま言葉を続けた。

 

 

「おはよう、それでは朝のHRを始めよう」

 

 

 そんな在り来りな挨拶で、くだらない学校生活の幕が開けた。

 

 




そろそろ2巻分もラストスパートです。
なので次回予告を今回だけさせていただきます。


「とうとう始まった暴力事件の話し合い…」

「双方の意見が衝突し、話し合いは延長という思わぬ形で幕を閉じる事となる」

「再審のための手段を整え、それぞれの想い、試作が交差する」

「しかしそんな話し合いの裏側では……」


「次回、フルフルニィ」

「ぜってぇ見てくれよな!」
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