3月3日、水曜日の放課後を迎える。
選挙ゲームの役職は互いに決定した。昼休みには他クラスにもゲームの内容と役職が一年廊下に掲示され、誰もが知り得る情報になった。
この情報は瞬く間に学校中に拡散、他クラスの放課後の話題となっているに違いない。
掲示板に載っていた役職と情報は以下の通りだ。
選挙ゲーム
“退学者を出す”派閥
・代表者⇒カムクライズル
・人気者⇒自派閥指名:金田悟 敵派閥指名:椎名ひより
・嫌われ者⇒西野武子
“退学者を出さない”派閥
・代表者⇒龍園翔
・人気者⇒自派閥指名:椎名ひより 敵対派閥指名:金田悟
・嫌われ者⇒真鍋志保
○Bクラスは特別試験のシステムを利用してこのゲームを行う。Bクラスは各々が持つ他クラスへの賞賛票をこのゲームに使用することを所望する。また、クラス単位で参加する場合、クラスの代表者一人が龍園翔に参加表明をしなければならない。
〇A、C、Dクラスがこのゲームに参加するならば、報酬を約束する。
⇒最も賞賛票を送ったクラスには100万ポイントを与える。もし、3クラス全てが参加し、40票同票だった場合、全てのクラスに40万ポイントを与える。
最後のルールを追加することで、他クラスの参加を積極的にさせている。
また、龍園くんからの挑戦である以上、僕も手を抜くつもりはない。
だが、僕の予想では今回の戦いは苦戦を免れない。
何せ、龍園くんは確実に一之瀬さん率いるCクラスから40票を得るからだ。
この40票に対抗するため、僕もAクラス、あるいはDクラスを味方につけなくてはならない。
よって、本日から行動を起こす必要があった。
僕は帰宅準備を終えて席から立つ。
「ねぇ、私にできることはあるの?」
前の席で携帯を弄る伊吹さんが立ったことに気付き、こちらを向いて問いかけてくる。
「試験本番まで監視をして欲しい生徒がいます」
「誰? 後をつければいいの?」
「はい。木下さんをお願いします」
「分かった。金田は?」
「彼にもつける予定です」
昼休みの時点で、金田くんには派閥メンバーに部活動を休む趣旨、そして投票日当日まで僕を除いた14名は、朝、昼、放課後の下校も含めて複数人で行動するように告げている。
このゲーム、敵派閥から人員を引き抜かれないように立ち回る必要がある。
特に、僕の派閥からは龍園くんと縁がある金田くんや木下さんは引き抜かれやすい。よって、この二人は監視しなくてはならない。
最も安全な方法は僕の目で監視することだが、僕にもやるべきことがあるので他に監視を付ける。
もっとも、所詮付け焼刃の策。寮に帰って解散した後に接触される可能性は大いにある。
「金田くんには園田くんをつけます。彼とあなたには遅寝早起きを4日間強制させますが、構いませんね?」
「任せな。ゲームとは言え龍園に負けるのは癪だからな。報酬はあんたの手作りお弁当1週間でどう?」
「好きにしてください」
僕がそう言えば、伊吹さんは上機嫌に笑って任務に向かった。
明らかに纏まっている僕の派閥を見れば、誰だって何かあると思う。龍園くんならば、僕の意図にすぐ気づく。
「さて、面倒を済ませますか」
本当に面倒な人物と話し合いをするためか、つい独り言が出てしまう。
教室を去って人気のない廊下へ行ってから、僕は携帯電話を取り出してある人物に電話をかける。
2コールすることなく、電話は応答した。
『もしもし、イズルくん。選挙ゲームの事で何か用ですか?』
相手は坂柳さんだ。
幼さを感じる高い声は妙に上がっている。こちらの目的を把握していることから円滑に話が進むのはありがたいが、その対価で何を要求しようか、その腹黒さが垣間見える。
別に悪いことではない。タダの協力関係よりは余程信用ができる。
問題は対価だ。また才能か、あるいは現実的にポイントを要求してくるのか。
「はい。僕の部屋へ17時くらいに来れますか?」
『フフ、イズルくんの部屋。大胆ですね』
「お友達は連れてこないでください。それと、可能であるならば綾小路くんも誘ってください」
『……分かりました。では、今日の17時を楽しみにしておきます。というわけで、橋本くん。残念ながらあなたはお留守番ですよ』
『おいおい姫さん! そりゃ、意地が────』
そんな声を最後に、電話は切れる。
橋本くんの声は分析するまでもなく悲痛なものだった。
──────
坂柳さんへ連絡した後、僕はとある人物と会うために陸上部が活動しているグラウンドに足を運んでいた。
1つの学校にあるまじき広さの校庭。練習設備は質の高いものが揃っている。
数多くある運動部系の部活動が一斉に活動しても余裕を持って行えるだろう。
「真面目に練習しているようですね」
目的の人物、矢島さんを発見した僕は階段を下りてグラウンドへ。
そうすれば、部外者の登場に何人かの生徒が僕に気付き始める。
「君、1年生のカムクライズルくんだね?」
初めに声を掛けたのは上級生のマネージャー。悪感情なく接してくるので、2年Aクラスではないようだ。
「陸上部の誰かを探しているのかい?」
「矢島麻里子さんを。話したいことがあります」
「分かった、ちょっと待っててくれ」
マネージャーは足早に呼びに行く。
僕はその間周囲を確認する。
──2人。監視されている。
こちらに来る途中、尾行がいることは気付いていた。
1人は石崎くん。僕の監視という龍園くんの指示を忠実にこなしている。
尾行というにはあまりに杜撰で未熟。一定間の距離でこちらをずっと監視しているが、いつでも撒けるのでこれは放置でいい。
もう1人は月城理事長代理。こちらは隠れる気すらない。
散歩がてらこちらを見ているように堂々とグラウンドの方にやってきている。就任したばかりであることを理由とした見学で、僕の尾行は偶然という体にするつもりだろう。
それに、理事長代理がその気になれば己の足を使わない。彼もまたBクラスの選挙ゲームを知り、僕が約束を守るのかどうかを自らの眼で確実に判断したいらしい。
「お待たせ~、カムクラくん。何の用かな?」
監視の確認が済めば、マネージャーが矢島さんを連れてきてくれた。
ある程度事情を察したのかすぐに僕たちから距離を置き、対話の場はできあがる。
「想像通りですよ。あなたを僕の派閥に誘いに来ました」
「まっ、そうだよねぇ〜」
矢島さんは驚くことなく予想があっていることに笑みを見せた。
僕が彼女を呼んだ理由、それは僕の派閥に引き込むため。
彼女は龍園くんよりも僕の方がクラスのトップに立つべき人間と思っている。
ならば、言葉による説得でこちらに引き込めることは可能だ。しかし、狂信者を生む気はない。
「なぜ、あなたは“退学者を出さない”派閥に?」
「誰かを蹴落としたくないからだよ。一度っきりの高校生活をこんな理不尽でリタイアしてほしくない。そもそも、こういう時のためにポイントを貯めてたんでしょ。なら、使うべきじゃない?」
彼女は垂れる汗をタオルで拭いながら告げる。そこに嘘は感じ取れず、本心から発している言葉だった。
「2000万ポイントを使うことによって、今後の特別試験で有利に立ち回れなくなる時があっても?」
意地悪な質問に、彼女は黙り込む。
彼女は学校生活を純粋に楽しむ普通の女子高校生。仲間の退学を見過ごせない優しい人物であり、怖いものには怯え、逆らわない。
ごく普通。未知はなくツマラナイ。しかし、何も悪いことはない。
「頭では、理解しているよ。多分、今回は龍園くんの言う通りクラスで必要のない人間を切るべきなんだって。でもね、私はそれを選べない。選択することが嫌で、その責任を背負えない」
「それが本当の理由ですか。ならば、今回のゲームは責任から逃げたいあなたにとって都合が良かったですね」
「……意地悪」
「事実です。選択できないあなたは“退学者を出さない”派閥に妥協した」
本心で退学者を望まないならば、まだ言葉に詰まらなかっただろう。
しかし、彼女には退学者を出してポイントを残すべきという考えがあった。
それは特別試験におけるポイントの重要性を理解していなければ出ない。
ただ感情を優先した意見ではなく、利益を考えている。そして、それでも“退学者を出さない”派閥を優先した。
心の奥底で逃げの意見が現れた事は事実であっても、短絡的な考えはしてないようだ。
「もしあなたがこのクラスで必要のない人間を1人選ぶならば、誰を選びますか?」
「……選べないよ」
彼女は僅かな間を空けてから答えた。
答えづらかったから溜めた。そう見えなくもないが、バツの悪い表情から誰かしらが頭によぎったのだろう。
「そうですか。では明日、また聞きに来ます」
無理を強いて今日中に答えを出す必要はない。
よって、引き際はここ。僕はこの場を立ち去るために背を向けようとした。
「ごめんね、優柔不断で。つまらない?」
しかし、か細い声が僕を繋ぎ止める。
小さな絶望と焦燥が超分析力に映る。
揺れる感情は初々しい。否が応でも、僕との縁を欲している。ここで切られたくないと、開いた瞳孔が訴えている。
実にツマラナイ。
矢島さんが僕に抱いてる感情の名は恋。僕が知ることがない感情で、あってはならないこと。
その振り幅が理屈を無視して現れることも知っている。
「僕はあなたの恋愛感情に気づいています」
僕がその心内を指摘すれば、彼女は大きく目を見開く。
「まぁ……、そうだよね。カムクラくんには分かっちゃうよね」
照れ笑いの後、染まっていく頬。僕の才能を理解しているからこそ、自分の心を偽ることの無意味さを理解している。
それこそが僕の才能への狂信に繋がっていることに他ならない。
「カムクラくんはさ、私のこと……恋人として見れる?」
「いいえ。僕が誰かに恋愛感情を持つことはありません」
想いの告白に近い言葉を吐露するが、僕には何も響かない。
正直な言葉を受けた矢島さんは表情を暗くしてから無理に表情を動かし、諦観含む笑みを見せ始める。
「そう、だよね。うん……、そんな気はしてたよ。あはは、無駄な告白だったね」
「無駄なこととは言いません。あなたは勇気をもって一歩踏み出した。それには価値があります」
「振られることが価値……、酷い話だよ」
取り繕った表情は無機質な言葉ですぐに崩れた。
今にも泣きだしそうな表情を浮かべるが、やはりその表情に未知はない。
「ここで折れ、恋愛感情なしでどちらの派閥に入るか考え、自分の意見を出す。それこそが必要なことですから」
「……君らしいね」
矢島さんに告白まがいのことをさせた上で振れば、彼女が派閥間の移動に躊躇うことは百も承知。しかしそれでも、このまま僕の狂信者となることこそ、最もツマラナイ未来だ。
だからここで振っておき、より強靭な精神になることを期待する。
このまま絶望してふさぎ込む、そうならないことを僕は神とやらに祈るしかない。
「必要なのは僕に嫌われないことではありません。自分の意見をよく考えて出すことです」
その言葉を最後に、僕はグラウンドを後にする。
軽い放心状態に見舞われる彼女の心情を分析してしまうが、それは僕にとって一生理解できないものだろう。
────
「こんにちは、カムクラくん」
グラウンドから去って寮への帰路についていると、月城理事長代理が行く手を塞ぐように現れる。
矢島さんと話し合いが終わってから彼の姿が見当たらなかったが、どうやら先回りしていたようだ。
僕が立ち止まれば、彼は逃がさないと言わんばかりに距離を詰めてくる。
「女の子には優しくすべきですよ」
「僕は自分の思い通りになる人間を欲していませんから」
当たり障りないことを告げる彼に、僕は早く本題に入るように目で訴える。
彼は背に回している両手を組みなおし、ため息をつく。
「せっかちですね。まぁ、良いでしょう」
礼儀のなっていない子供に呆れたように演出し、こちらの感情を刺激しようとする。
会話の主導権を握り、優位にこの後の会話を進めたいらしい。
「ではカムクラくん、救済措置についてどのように進めていくかまとまりましたか?」
特別試験の救済措置、それは綾小路清隆を投票試験で退学に導くこと。
通達から1日しか経過していないというのに現状を聞きに来るとなれば、月城が何かに焦りを覚えていることが連想できる。
しかし、実際は違う。
彼の目的は、おそらく僕が救済措置に対してどの程度向き合うかの確認。こちらに協力的かどうか、そこを推し量ろうとしている。
昨日の接触から推測するに、彼の最終目的は綾小路清隆の退学と見るのが妥当。情報が足りていないためまだ断定はできないが、とりあえずは綾小路くんの敵と見ていい。
彼の策の1つである僕が順調に事を進めているかは気になるのは当然。まして、選挙ゲームという学校側としても想定外であろうことが起きれば、意思確認くらいははっきりさせたいはずだ。
「これから進めます。僕にも予定がありますので」
「予定というのは、選挙ゲームのことかな。先程の女子生徒との接触も選挙ゲームで勝つための行動だと?」
「はい。龍園くんからの挑戦を蔑ろにするつもりはありませんから」
「……龍園、確か選挙ゲームを提案した生徒でしたね。いやはや、まさか投票試験であのような催しを始める生徒がいるとは、思いの外ここの生徒も粒揃いのようですねぇ」
慇懃な態度に変化はないが、その評価に嘘はなかった。やはり、選挙ゲームは学校側でも想定外だったようだ。
「安心してください、僕はあなたからの指令も行うつもりですよ」
「それは良かった。しかし、君はどうにも2000万ppを得ることより、その龍園くんとやらと遊ぶことを優先しているように感じます。そのせいで、つい意思を確認しに来てしまいました」
月城は明らかに見下した発言をする。
こちらの怒りを誘発させ、感情をコントロールできなかった所で僕のやる気を救済措置の方へ向けさせる。
綾小路くんを退学させようとする人間としては矛盾のない行動。しかし、それにしてはアプローチが二流のそれだ。声色や態度に焦った様子はないが、通達から1日経過後に催促をする時点で焦っていることは相手に伝わってしまう。
そんな小さなミスをするような男ではない。僕の超分析力に測定ミスはない。となれば、この男はまだ何かを隠していることが推測できる。
「あなたの言う通り、僕は龍園くんとの遊戯を優先しています。しかし、同時に救済措置の方も進めていきます」
「それは素晴らしい。しかし、君は優秀といってもまだ子供。遊ぶことは大切ですが、大人の言うことを優先すべきです。どうでしょう、今回の試験は2000万ppを得るために救済措置を優先しては? 友達を見捨てて遊ぶのではなく救うために行動すべきかと」
言葉選びは相変わらずこちらを煽るようだが、言っていることはこちらを諭そうとしていて教職の言い分と捉えられる。
もっとも、試験を運営する最高権力者にしては面が厚い。
そして何より、埒が明かない。この男の擬態能力は大したものだ。このままのらりくらりと会話してもいいが、はっきりと意思を伝えるまでは後日も接触してくるでしょう。
仕方ありません。この後は坂柳さんとの話し合いもあって時間も迫ってきている。
情報を開示しましょう。
「申し訳ありません、月城理事長代理。あなたの言うことは正しいと思いますが、僕は龍園くんとの遊戯を優先します」
「なるほど、そうも意思が固いようなら今日はここで引くことにしましょう。しかし、救済措置の方もしっかりと進めてくださいね」
「あぁ、勘違いしないでください」
身を引こうとした月城を、僕は呼び止める。
すれば、掴み所のない不気味な笑みをこちらに向けた。
「僕が龍園くんとの遊戯を優先するのは────救済措置の落とし所について目処が立っているからです」
「……ほう、それは実に興味深い発言ですね」
後ろに組んでいた両手を解き、だらりと腕を下ろす。
僕の纏う空気に変化が起きたことを気付き、即座に脱力して不測の事態にも備えられるように対応した。
この男、本当に大したものだ。戦闘経験も豊富と見ていい。
「元より、僕はあなたたちの目的に協力するつもりです。しかし、綾小路くんを退学させるとなるとこの試験では少々難しい」
「その理由は?」
「彼のクラス内での人望ですよ。現状、彼のクラス内の評価は非常に高い。Dクラスの男子では2番目に頼りになる人物と言っていい」
綾小路くんは実力を出すことを嫌っているが、僕の介入によって表に出ざるを得ないことがいくつかあった。
その度に致し方なく対応して行った結果、クラスの地位は確立していった。
今では堀北さんの右腕としてクラス内で高い評価を得ている。
「確かに人気者である人物をこの試験で退学させるには困難でしょうね。しかし、これだけでは目処がついているという言葉に納得を持てません。学年一優秀な生徒である君ならば、まだ何か見えていると?」
「もちろん、策はあります。たとえば、綾小路くんと僕が協力関係であると捏造する。たったこれだけで、彼はクラスの裏切り者筆頭として名が上がります」
「もっともな手段ですが、その捏造の根拠は?」
「これまでの試験、特に直近の体育祭やペーパーシャッフルでDクラスはBクラスに敗北しています。その敗北理由はどちらもクラス内での裏切り。その裏切り者は別にいますが、彼は罪を擦り付けるには最適な立場にいます」
僕は続けて説明していく。
堀北さんの右腕としてクラスの情報を多く知り、暗躍を繰り返してきた人物。
不審な行動こそ少ないが、手柄を堀北さんに全て譲っているせいで、彼が活躍したという証拠は少ない。
なにせ、彼は目立つことを嫌う。堀北さんの指示で暗躍していることをクラスメイトは何となく理解しているだろうが、実際に何をやっているかとなると詳細を知らないものが多い。
そして最終的に、殆どが堀北さんの口から「綾小路くんにも協力してもらった」と説明されているはずだ。
だからこそ、そこを詰めれば不審に思う人物もいる。
もちろん、それだけでは裏切者として確定させるのは不十分だが、投票試験という仲間を訝しむ状況で容疑が浮かび上がれば、一定数の批判票は集まるだろう。
「……なるほど、ある程度の成功率はありそうな計画ですね。しかし、これでも退学には追い込めないと?」
「はい、今回の試験は他クラスからの賞賛票がありますから。綾小路くんが本気で身を守ろうとすれば、坂柳さんに協力を持ち掛け、Aクラスの賞賛票を集めて退学を防ぎに来る」
坂柳有栖は綾小路清隆に愛に近い感情を抱いている。
愛。それが友愛であれ性的な愛であれ、理屈を塗り替える力がある。
どれだけ理論的に対策をとっても、乗り越えてくる可能性が拭えない。
オモシロイとは思う。だが、所詮は一度限りの予想外。その一度で坂柳有栖の価値は下がるので、将来的にはツマラナイ未来が待っている。
「坂柳……あぁ、坂柳理事長の娘ですね。彼女が綾小路くんを贔屓にしているとはこれまた予想外の情報です」
まるで坂柳さんの存在を初めて聞いたように告げるが、その発言が嘘だと超分析力に引っかかる。
彼はホワイトルームの関係者。坂柳さんがホワイトルームの存在を認知している時点で、その情報の出所が父親である可能性は高い。坂柳理事長が謹慎したのが彼らのせいならば、その娘の存在を調べていてもおかしくない。
それを考慮していないというのは、この男がするミスではない。
つまり、この嘘もまた何かを隠そうとしている。もしかすると、僕と同じように坂柳さんにも何かしらの指令がいっているかもしれません。
「という訳で、現状では綾小路くんを退学にすることは難しい。しかし、先ほども言った通り、僕はあなたに協力するつもりです」
「ここから彼を退学に近づける方法があると?」
「いいえ。しかし、プロテクトポイントを取らせないことはできます」
この発言に、月城は笑みを止めて細い目をさらに細める。
どうやら、僕の言いたいことは理解できたらしい。
「……中途半端に仕掛けた結果、坂柳さんの協力を得た綾小路くんはDクラスで最も賞賛票を取ってしまう恐れがある。そうならないために、今回は仕掛けない。そしてそう決断できた要因は────龍園くんが提案した選挙ゲームですね」
「正解です。もっとも、Bクラスの持つ賞賛票を他の人気の生徒に与えれば、綾小路くんがプロテクトポイントを持つことはまずありません。ついでに言うなら、これから綾小路くんを利用して坂柳さんには念入りに釘をさすつもりです」
龍園くんが提案した選挙ゲームには、他クラスの賞賛票を集めるためにポイントを報酬として用意している。
およそ1票=1万ppの価値を付けることで、この理不尽な試験でも利益が生まれる。となれば、票が集まる可能性は非常に高い。
これによって、他クラスからの賞賛票という透明な票は少なくなり、イレギュラーは少なくなる。
後は、クラス内での賞賛票を競い合う闘い。そうすれば、綾小路くんがプロテクトポイントを取ることはない。
あのクラスには圧倒的な人気がある生徒、平田洋介がいるからだ。
それでも、彼女の愛情の暴走によってひっくり返る可能性があるので、その懸念はこれから排除する。
「つまり、今回の試験における君の協力は確実な現状維持、マイナスな結果をもたらさないように試験そのものをコントロールすると?」
「はい。ここまですれば、気兼ねなく龍園くんと遊べますから」
「……終始嘘は言っていなかった訳ですか。言葉足らずではありましたが」
「言葉足らずはお互い様ですよ」
月城は納得した様子で口元の弧に僅かな変化を生じさせた。
「2つ聞きたいのですが、君にとって龍園くんは2000万ポイントの価値を持つ生徒以上に興味を引く存在なのですか?」
目的を達成できたというのに、月城は雑談を振ってくる。
時間も迫ってきているが、ここまで話したのだから隠すことなく伝えましょう。
「はい。何の才能もないくせに、この僕を本気で倒そうとしている。その成長過程を見ることが、この学園での僕の楽しみの一つですから」
「君を、倒す? なるほど……、選挙ゲームと言い、その妄言と言い、龍園くんは相当変わった子のようだ」
呆れた様子の月城には、もはや煽るような言葉選びはない。
不気味な笑みも薄れ始め、本心で話しているように感じた。
「最後にもう1つ、君はなぜ────
ついに、踏み込んできた。
ここまで『理事長代理』としての役割を完璧にこなしてきた月城が、本心からの疑問を口にしたのだ。
大きな一歩。警戒は未だ強いが、今回の僕の動きに納得を示し、信用を得られたと考えていいだろう。
そして、我々という言葉。僕が月城の裏にいる存在を知っている前提で告げられている。
どうやら、綾小路篤臣は月城にある程度の情報を与え、警戒を怠らないように命令していたらしい。
「僕が彼に期待しているからです。あなたたちの目的が本当に彼の退学なのか、僕と同じように危機感を与えて成長を促しているのかどうかは、まだ断定できませんが」
僕は嘘偽りなく答える。
疑問視している点は、彼らが本当に退学させようとしているか。
なぜ綾小路くんは退学に迫られているかは知らないが、本気で彼一人を退学にしたいならばもっとやりようがあるはずだ。
追加特別試験なんてせず、有無を言わせずに彼をこの学園から連れ去れば良かっただけ。なのに、わざわざルールに則っているのはなぜか。
だからこそ、本当に彼を退学しようとしているのか疑問が残る。
となれば、他の理由は僕と似た理由の可能性が浮上する。
「……期待ですか。あの綾小路清隆ですら、今のままじゃ相手にならないと?」
「はい。危機感は成長を促す。あなたたちという異分子による圧力は、彼の成長にもってこいですから」
僕が綾小路くんの退学に協力する理由、それは彼もまた僕にとっての未知になる可能性を秘めているから。
彼は自分が最後に勝っていれば良いという思想を持っている。
そうはさせない。そこで安心しては限界を超えられない。彼にもまた、様々な試練を体験して成長してほしい。
全ては僕の未知のため。結局の所、ここに着地する。
「どうやら、あの方の言う通り……君は本物のモンスターらしい。敵対はしない方向で固めるとしましょう」
本物のモンスター。綾小路篤臣が僕を希望ヶ峰の犬と呼んでいることから察するに、僕の才能は知っているので、月城はある程度僕の情報を持っていると見ていい。
その上で、敵対はしない。まったく信じていないが、一応記憶の片隅に入れておきましょう。
「今日はありがとうございました。今後は互いに良い関係で学校生活を送りましょう」
月城は腕を後方で組みなおして、僕の横を通り抜ける。
秘密の話し合いはこれにて終了。
もしかすると、彼を綾小路篤臣の傀儡と認識するのは早計かもしれない。この邂逅で、僕は月城という人間の評価をそう改める。
彼の分析を深めながら、僕も帰路を進み始めた。
ヒロインを作る気はないよ。強いて言うなら、龍園さんだけど。
カムクラ⇒方針は固まって動くこと!!不良に絡まれてもすぐ逃げること!!
伊吹と園田に頼んで、龍園と関わりがある金田と木下を監視中。あとはスカウトマンの才能を使っていけそうなやつを片っ端から派閥に誘っていきます。
坂柳と綾小路を呼び出して画策中。
龍園⇒カムクラと勝負ができてウキウキの人。
彼に勧誘はできません。恐喝です、あとポイントを使っての交渉です。
カムクラの監視と一之瀬への交渉を即座に行い、暗躍開始。