17時手前、綾小路は坂柳の呼び出しに応じてカムクラの部屋に向かっていた。
追加特別試験が始まって2日経過。
学年全体で大きな動きはBクラスによる選挙ゲームの発表だけで、各クラスはそれぞれの日常を過ごしている。
綾小路が所属するDクラスもまた変わった動きはない。
賞賛票と批判票のせいで思うように話し合いができない今回の試験、退学者の指名という重責から逃げるため、Dクラスは話し合いの場すら設けていない。
このまま好き嫌いで投票が行われれば必要な人材が退学しかねない状況だった。
しかし、綾小路からすれば今回の試験は手を出す必要性がなかった。
なぜなら、退学する可能性は低いから。
特別試験で貢献した実績が綾小路の人望を生み、何もしなければ試験を突破できる状況だ。
ただ、懸念点はあった。
たとえば坂柳の存在。綾小路は次の特別試験で坂柳と全力で戦う約束をしていた。
追加試験とはいえ、今回の試験も該当する。となれば、坂柳の戦略を見極めなければ、万が一の可能性がある。
ゆえに、今日の呼び出しは行かなければならなかった。
(問題はカムクライズルがいることか)
特別試験の話であることは理解しているが、綾小路はどうにも疑念が晴れない。
今回のメンバーが坂柳とカムクラと来れば、ホワイトルーム関係もあり得る。
「何にしろ、話してみなくちゃ分からないか」
綾小路はカムクラの部屋前に到着する。
チャイムを鳴らせば、鍵は開いているので入るように指示された。
玄関に女性の靴があることから坂柳が到着しているので、綾小路は部屋の鍵を閉める。
そのまま進んでいけば、
「こんにちは、綾小路くん」
カムクラがキッチンで飲み物の準備をしていた。
思い返すは屋上の戦闘。自分を凌駕する戦闘能力を持つ男が給仕の真似事をしているのは意外な光景だった。
「紅茶は飲めますか?」
綾小路は頷きで答え、部屋の奥へ進む。
「よく来てくれました、綾小路くん」
ベッドに腰かけている坂柳が挨拶をする。
上機嫌に微笑んでいることを、綾小路は少しだけ勘ぐってしまう。
「そう警戒しないでください。今日の呼び出しは私ではなく、イズルくんからです。私も何を話すか聞いていませんよ」
「だとしてもだ。お前たち2人を警戒しないというのは無理がある」
片や自分の過去を知る者、片や自分を凌駕する才能がある者。
味方の保証が何一つない以上、警戒は当然の行いだった。
「安心してください、綾小路くん。今日の話し合いはあなたに危害を与えるようなことはありません」
3つのティーカップをトレイに載せたカムクラは小さな机にそれらを置いていく。
そのままクッションの上に腰を下ろしたので、綾小路も続いた。
「それで、今日の用件は何なんだ?」
「今日はホワイトルームと特別試験についてです」
淡々と告げるカムクラに綾小路はさらに警戒する。
予想通りだが、ホワイトルームの名がカムクラから出たという事実が本能を刺激する。
「……お前は、あの場所をどこまで知っているんだ?」
「徹底的な教育機関と推測しています。あなたのような膨大な知識と経験を詰め込んだ人間を育てている施設で、その最高権力者があなたの父親でしょう?」
神妙な雰囲気を見せる綾小路に、カムクラは平然としながら答える。
推測で話しているようには聞こえない精度に、綾小路は全容を知っているのかと訝しんでしまう。
「坂柳から聞いたが、お前はオレの父親からホワイトルームの名を聞いたそうだな?」
「はい。この学校を訪れていたあなたの父親から告げられました」
カムクラの言葉は坂柳がくれた情報と一致。やはり、坂柳は敵ではない。綾小路はそう判断する。
「そうか。なら、お前はホワイトルームからの刺客ではないんだな?」
綾小路は1歩踏み込む。
カムクラの言い分では施設の概要を知っているだけ。よって、綾小路とホワイトルームの関係を知る訳ではない。
そして「刺客」という言葉を使えば、カムクラがこちらの関係を見抜いてくる。それを承知の上で、カムクラが敵がどうかを見極めるために仕掛けた。
「刺客ではありません。あなたを退学させる気はありません」
感情の機微がないカムクラの言葉は嘘かどうかの区別ができない。
だが、ここは真実だと確信していた。
なぜなら、刺客であるならば退学させる機会がいくらでもあったからだ。
未知を求めて自由に過ごすカムクラがホワイトルームや綾小路篤臣のような思考をしていないことも明らかだ。
しかし、
「信用できないようですね」
カムクラは綾小路の心の内を見抜いてくる。
カムクラの行動全てが演技の可能性だって綾小路の視野にある。
自分を欺ける程の才能をよく理解している。だからこそ、完全な信頼は置けない。
「では信用がてらに1つ。今回の試験について有益な情報をあなたにお伝えしましょうか」
興味深い言葉に綾小路は耳を傾ける。
それを嘘かどうか判断できるかは置いておき、聞く価値はあると判断する。
「この学校に、あなたの父親からの刺客がいらっしゃってますよ」
「……何だと?」
思いがけない情報。
自分の父親が仕掛けてくるのがそろそろとは理解していたが、既に内部へ送り込まれているとは思わなかった。
「どうしてそれをお前が知っている?」
「刺客の方に会って確認しました。そして今回の特別試験であなたを退学させると2000万ポイントの報酬を与えるという専用の特別試験も与えられました」
依然として表情に変化なく話すカムクラだが、綾小路にとってその情報は目新しい。
そして、綾小路の気持ちを代弁するかのように坂柳の表情は驚きに満ちていた。
「……まさか、あなたもだったんですか?」
「ふーん、あなたも似たような依頼を受けたんですね」
坂柳の反応から、綾小路はカムクラの突拍子もない情報が嘘ではないと判断する。
ピンポイントで一致する情報を2人だけが持っていることから秘密裏に通達されたことは明白。
自分が退学者候補として選ばれることからホワイトルーム関連であることも不思議なことではない。であれば、カムクラの情報は嘘ではない。
「はい。おそらく、私はその刺客本人からではありませんが……」
「僕は新しい理事長代理から受けました。そして彼はホワイトルームのことを認識していたので、綾小路くんの父親に関係ある人物と見て良いかと」
「なるほど。もしかしたら、父の謹慎も関係しているのかもしれません」
二人の会話に齟齬はなかった。
綾小路もまた坂柳の父が理事長という事実も知っており、あの男の性質を考えれば妥当な処置と取れて腑に落ちる。
(……今日の会話は白と見て良さそうだな)
綾小路は2人が敵ではないと一旦置く。
しかし、問題なのはカムクラがなぜ自分に情報提供をしたのか。
その意図をはっきりさせない以上、警戒せざるを得ない。
「カムクラ、なぜオレに有利な情報を渡した? 黙っていれば2000万ppを手に入れられたんじゃないか?」
綾小路は率直に聞く。
下手な探りは逆効果、苦労する心理戦をするくらいなら素直に聞く方が早い。
「あなたに頼みたいことがあるから、そしてあなたは予想のできない未来を作ってくれる可能性があるからです。こんな所で退学させたらツマラナイじゃないですか」
返答は綾小路の予想通り。
未知を恋焦がれたように求める男がそれ以外の理由を口にするとは思っていなかった。
「お前からすれば、オレも予想のできない未来を作るための素材ということか」
明確に下と見られていることに不快感はなかった。
むしろ、心の内側から湧き水のように込み上げてくるものがある。
(……面白いな。心置きなく全力を出せる存在がいてくれるというのは)
ホワイトルームでは絶対に現れなかった存在。
そして、ホワイトルームを真正面から否定する存在。
もっと色々教えて欲しい、そう願わずにはいられない。
もし今後の特別試験、直接戦うことが叶うのならば……。
「……それで、頼み事は?」
自分の思いは一度伏せ、綾小路は話を続ける。
「選挙ゲームに関わることですよ。あなたには僕の協力者になって欲しい」
「協力者、か。俺はDクラスの持つ賞賛票をお前に送ればいいのか?」
「話が早くて助かります」
カムクラはファイルに入った念書を机に置く。
内容はDクラスの賞賛票を可能な限り得てカムクラに投票すること。
勝利に重要な要素として他クラスに渡せる賞賛票を確保するために、カムクラは動いている。
対価が書いていない点を綾小路は気になったが、まだ話は終わっていないので一旦質問せずに待つことにする。
「フフ、これでDクラスの票はイズルくんのものになったわけですね」
「全ての票は得られません。僕の予想が正しければ、堀北さんは確実に対立しますから」
綾小路を味方につけたことで、坂柳はカムクラの勝利を確信したが、当の本人は事実確認を行う時のように淡々と否定する。
「……堀北さんに、龍園くんが頼み込むと?」
優秀な頭脳を回して坂柳は答える。
選挙ゲームは自クラスの賞賛票も重要だが、他クラスの賞賛票をいくつ取れるかが重要な要素となる。
カムクラは綾小路を協力者とし、Dクラスの賞賛票を集めようとしている。
しかし、その過程で綾小路の前に堀北が立ち塞がると予想している。
綾小路はカムクラへ賞賛票を渡すために動く。それに対立するということは真逆のことをすること。
すなわち、堀北は龍園へ賞賛票を渡すために動くことを意味する。
「龍園くんからすれば一種の賭けでしょうが、利害の一致で彼らは協力関係を取る。さて、今の堀北さんと綾小路くんではどちらの方がクラスの求人力が上なのでしょうね」
綾小路はカムクラの声色が弾んだ気がした。
答えが変わる可能性がある実験に期待する大人のように見えれば、掌の上で玩具を転がして遊ぶ子供のようにも感じる。
そして、その感覚は自分も同じだった。
「オレと堀北の勝負……今のあいつがどこまで成長したかを測るには良い機会だな」
「それはまた面白そうな戦いですね。私に協力できるようなことはありますか?」
坂柳がカムクラに問う。
先を見据えた淡い青の瞳が強欲な意思を見せている。
「何が欲しいんですか?」
「フフ、それは頼みを聞いてからのお楽しみですね」
互いに超分析力を持つ故に、この後の展開は脳内に描いている。
言葉にせずとも思考が一致しているなら話を進めて欲しいカムクラと、会話のキャッチボールそのものを楽しみたい坂柳。
面倒な女だな。綾小路はつい心の中で思ってしまう。
「では、結論から申し上げます。坂柳さん、Aクラスの賞賛票を全て僕に投票してくれませんか?」
カムクラの発言に坂柳は破顔一笑。恋愛話を楽しむ女生徒のような上機嫌な様子で会話を続ける。
「フフ、私としてはイズルくんからの頼みなので二つ返事をしたいところですね。しかし、私もAクラスのリーダー。その提案をする理由と受け入れた時のメリットを提示して下さらなければ、即答はできません」
のらりくらりとした返答。会話を引き延ばしてその反応を楽しんでいる。
「理由は、そうしないと勝負の土俵にすら立てないからですね」
「まぁ、あなたからそんな意見が出るとは珍しい」
坂柳さんは目を見開き、純粋な驚きを見せる。
もちろん、演技であることを二人の天才は見抜いている。
綾小路はここまで感情を顕わにして話す坂柳に少し驚いたが、会話相手であるカムクラが冷めた目をしているように見え、日常茶飯事なのだと感じた。
「あなたが苦戦を強いられるということは龍園くんは既に他クラスから賞賛票を得る方法を見つけている、と言った所ですか?」
選挙ルールをまだ知ったばかりであるにもかかわらず、坂柳は精度の高い推測を立てられている。
しかし、思考の速さに舌を巻くことはこの場ではありえない。話を聞く二人は共に怪物なのだから。
「どのクラスかも分かっているのでしょう?」
「Cクラス、今の一之瀬さんのクラスですね。龍園くんは私たちとの契約で得た大量のppを利用して賞賛票を買い取ろうとしている」
坂柳は上機嫌のまま答え、そのまま続ける。
「一之瀬さんはクラスメイトを見捨てません。2000万ポイントを貯めて必ず救済の道を選ぶ。である以上、龍園くんがそのポイントを補填する対価として、賞賛票を求めるのは合理的です」
一之瀬さん率いるCクラスはまず間違いなく退学者を出さないように立回る。
この試験で退学者を出さないためには2000万ppの支払いしかない。
しかし、今のCクラスにはおそらく足りない。そして足りないならば、誰かから借りる必要がある。
なりふり構っていられない。たとえ、それが悪魔との取引であっても。
「だから、龍園くんに対抗するためにイズルくんも1クラスの協力を仰ぎたい訳ですね。状況は理解しました。……では、協力した時の対価は何でしょう?」
「Bクラスの持つ他クラスへの賞賛票をあなたに投票します」
「ふふ、それは良い対価ですね。その票があれば、私は確実にプロテクトポイントを手に入れられるでしょう。しかし、残念ながら足りません」
2000万ポイントの価値があるプロテクトポイントを手に入れられるという交渉だったが、坂柳は拒否をつきつける。
「現状、私はクラスの票をコントロールできる支配力を持っています。クラス内の投票を操作して、私がプロテクトポイントを手に入れるのは造作もありません」
Aクラスのリーダーとして君臨した坂柳の地位は既に絶対のものとなっている。他クラスの賞賛票なしでプロテクトポイントを得られる以上、カムクラの提案はメリットとして相応しくなかった。
しかし、カムクラとてそれは想定済みだ。
「ならば、こちらで提供できるものなら一つだけ何でも差し出しましょう」
「フフ、何でもですか。あなたが言うと嘘に聞こえませんね」
坂柳はお淑やかな笑みのまま、顎に手を当てる。
「例えば、今後の特別試験で一度だけ無償の協力関係を結ぶことは?」
「構いません」
「イズルくんがAクラスに移籍することは?」
「それはできません」
「なるほど。では、私との交際はどうでしょう」
坂柳は試すようにカムクラを見る。
大胆な発言に綾小路はおおっと声を漏らした。逆に、綾小路の純粋な反応に坂柳は内心驚きつつ、嫉妬の感情が見えないことに少しだけ残念に思った。
「構いません。それは提供できるものです」
「……なるほど。では、無人島試験でAクラスと結んだ契約を破棄する事は可能ですか?」
「龍園くんと葛城くんが結んだ契約である以上、龍園くんが許可を出さない限りは難しいでしょう」
坂柳はふざけながらも“何でも”の解釈がどの程度が指標を取っていく。それでいて、最後の質問は本命だと綾小路は悟る。
AクラスにとってBクラスは迫りつつある壁。そんな中、内側からポイントを搾取され続けるのは痛いダメージとなってしまう。
だからこそ、早めに取り除きたいと考えるのは道理だ。
しかし、今回はカムクラと龍園が敵対しているので、この交渉はできない。
交渉権を持っているのは龍園。敵であるカムクラに有利な交渉は受け付けない。
「ですが、もし僕に40票の賞賛票を投票して僕がBクラスのリーダーとなった時はその交渉を行いましょう。それも、多少色をつけてね」
ここが坂柳の本命である以上、カムクラも無理を言って食い下がる。
「なるほど。勝てばクラスのリーダーはイズルくんに確定。となれば、龍園くんに命令して言う事を聞かせられるので、無人島試験における契約の交渉もできる。やや確実性に欠けますが、有効な一手でしょう」
「受けてくれますか?」
「はい、受けましょう。契約書はこちらで用意しておきます。よろしいでしょうか?」
坂柳は迷うことなく即答する。
クラス間で戦うにあたって、ppを継続的に取られることは単純に弱体化を受けていることに加え、相手に“ポイントを使った”番外の一手を作り出す可能性を与えている。
除去すべき優先度は高いため、即決したと思えた。
「いいえ、こちらで用意します。そしてもう一つ、追加で脅しをしましょう」
「……脅し、ですか」
ここに来て、初めて坂柳の表情から笑みが伏せられる。
「坂柳有栖、あなたが今回の試験で僕に協力しないならば、僕は追加特別試験を実行し、綾小路清隆を退学にするために動きます。もし嫌ならば、
表情や口調が変わったわけではない。
だが、言いようもない圧がある。怒りを示しているわけではなく、有無を言わせずに従えと言わんばかりの迫力がカムクラから発せられている。
「そうか。念書に成功時の対価が書いていないと思ったが、確かにこれは脅しだな」
「……はぁ、やられましたね。本当に油断も隙も無い人です」
綾小路は無表情ながらもどこか感心した様子に、坂柳は観念した様子でため息をつく。
坂柳にとって、カムクライズルが好意を向けている人物であっても、坂柳は合理的に利益を優先できる人物だ。
しかし、たとえ坂柳でもカムクラを出し抜くには一筋縄ではいかない。
相手が確実に諦めるような材料を的確に出し、裏切りは未然に防がれる。
「分かりました。流石の綾小路くんでも、ホワイトルームからの刺客とあなたを両方相手にすれば、非常に厳しいでしょう。ここは大人しくしておきます」
坂柳は不貞腐れた様子で告げる。
自分の都合を押し付けられなくて悔しいのだろうと、綾小路は心の中でそう予測した。
「そうだイズルくん、今回の試験でDクラスに私もちょっかいを掛けたかったのですがよろしいでしょうか?」
機嫌がいつの間にか戻った坂柳は唐突に重要な情報を開示する。
なぜ今回の試験でDクラスに攻撃するのか、その可能性を2人は考えるが、該当する情報は見当たらない。
「フフ、単純な話です。Dクラスには私の嫌いな生徒が所属しているんですよ。だから、今回を機に退学してもらおうと思いまして」
「余裕ですね。自クラスの対策よりも他クラスの生徒へ攻撃とは」
「先程も言いましたが、Aクラスの票は全て私が操作できる。それほど、私のリーダーの絶対性は保証されているのですよ」
間違いようのない数式を答える時のように、坂柳は自信を持って告げる。
「ちなみに、Aクラスからは誰が退学すると思いますか?」
坂柳はカムクラだけでなく綾小路も見る。
2人の天才、彼らの現時点での見解を聞きたかったのだ。
綾小路は真っ先に葛城康平を思い浮かべた。
クラスにリーダーは二人も必要ない。今回の試験は既に失脚した葛城を排除するには良い機会だと考えた。
しかし、
「────戸塚弥彦でしょう?」
カムクラはどうでもよさげに一人の生徒の名を出した。
僅かに、坂柳の眉が動いたのを綾小路は見逃さない。
やはり、正解だったかと綾小路は心の中で思いつつ、言い切るカムクラの根拠が気になった。
自分は50%程の精度で推測を立てていたが、今の物言いは確信めいた発言だ。
「その理由をお聞きしても?」
綾小路とてその可能性は視野に入れた。なにせ、葛城を切るタイミングは良くても、そもそも葛城程の男をこんな所で切るには勿体ない。
坂柳とて、葛城の有用性はわかっているはず。となれば、他の退学者候補がいるはずだ。
そこで思いつく候補の一人が戸塚だ。
戸塚は葛城の右腕とも呼べる人物。葛城を信奉し、彼のために都合よく動く駒。
しかし、駒としてはプライドが高すぎるが故に扱いづらい男だ。
能力もAクラスだから平均値は高いのだろうが、何かに秀でている印象はない。
つまるところ、Aクラス内で戸塚の代替は無数にいる。
となれば、敵対派閥の凡人を見逃す坂柳ではない。葛城への嫌がらせも兼ねて、彼を狙う可能性は大いに有り得た。
「あなたの思考パターンから導きました。その1つの嫌がらせで、あなたは優秀な駒を失います。そしていずれ────龍園翔に敗北しますよ」
カムクラは本当にどうでも良いように淡々と告げる。
しかし、人一倍プライドの高い坂柳が反応するには十分すぎる言葉だった。
淑女らしく座っている彼女の眼光に、怒気が映る。
「……私が、龍園くんに負ける? あなたの才能が至上であることは理解していますが、その推測は聞き捨てなりません。どれ程先の未来を見ているか知りませんが、この一件をきっかけに私の敗北が決定するなど、流石のあなたでも早計では?」
「そうなればオモシロイ。そうなれば、ですけどね」
覆して欲しいのは己の推測。未来予知じみた推論が変わる未来を求めている。
だが、そう変わらないから彼の退屈は拭えない。
「これは忠告ですよ、坂柳有栖。葛城康平の存在はあなたが思っているよりも大きい。それこそ、あなたの未来を変える程に」
告げるカムクラに敵意は映らない。
諭すように言っているのは未知のため。彼にとって、坂柳一人では物足りないからこそ可能性を求めている。
「……分かりました。もう一度Aクラスの終わり方を考えておきます」
坂柳は渋々と告げる。
カムクラを認めているからこそ、その忠告は聞く予定だ。
しかし、プライドが高いからこそ掌で転がされている感覚が気に入らない。
たとえそれが好意を抱いている相手でも、本物の才能を有する人と称しても、彼女は対等でありたいのだ。
「話は以上です。2人とも、解散して構いませんよ」
世界有数の天才たちによる密談はここに終わる。
綾小路も今回の投票試験での立ち回りが決まったこと、予定外の情報収集ができたことに満足だった。
9巻がない影響で原作からだいぶ展開が変わっています。
特筆すべきは、やはり一之瀬の関係ですね。原作だと、一之瀬が綾小路を意識して頼り始めますが、本作でのこの二人の関係は仲が良い他クラスの友人程度。今はまだ綾小路が利用できる可能性があるためにちょこちょこ接触しているくらいです。シトラスがぁ……。
南雲との交渉も視野に入れていますが、まだ動いていない。心の成長もないので成長している龍園や堀北と比べて何歩も遅れてます。
坂柳⇒過信慢心少女。好きピ空間に入れて超喜んでいる。けど、最後はマジ切れ。プライド高すぎる。
お話終了後、綾小路とは停戦協定を結ぶ。次の特別試験で決着を付けようねと確約できたので、喜んでる。
まったく、幼気な少女の心を苛めなくちゃいけないなんて、心が痛いぜ。
綾小路⇒原作主人公。だんだんと学校に慣れ始めたこともあって順調に道具のような心のない少年に戻ってきた。だいたい茶柱が悪い。
と思いきや、カムクラと関わることで初期小路くんみたいな面も少しずつ復活してきてる。
あっ、言い忘れてた。山内は手遅れだよ。