ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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スカウトの時間

 

 

 

 3月4日の朝、一段と冷たい冬風に煽られながら龍園は登校していた。

 普段は時間ギリギリに登校する彼だが、今日は30分早く教室に到着する。

 人の少ない教室。それは早い時間の登校という理由もあるが、カムクラの指示によって“退学者を出す”派閥が纏まって登校してくることも起因していた。

 

(一塊にしておいて相互監視……だけじゃねぇな。集団行動させることで、俺から暴力という手段を奪おうって魂胆だな)

 

 龍園はカムクラの策を理解している。

 己の最大の武器、暴力。しかし、それは人目につかないことが大前提だ。

 彼らは朝の登校はもちろん、移動教室や昼休み、放課後も一緒に行動しているので、龍園としても襲いづらく面倒だった。

 しかし、この策は完全ではない。結局、寮に戻れば集団行動は解散するのでやりようはどうにでもある。

 ゆえに、大した問題はない。そう結論付ける。

 そして同時に────警戒する。

 

(相手はカムクラ。俺の行動を把握できないわけじゃねぇ。何を狙ってやがる)

 

 明らかな隙が1つ、カムクラの策にある。それがどうにも誘導に感じる。

 迂闊に行動することは命取りだ。

 

(……誘ってやがるのか? 目には目を、歯には歯を、暴力には暴力ってか?)

 

 1つ思いついた可能性はこちらが暴力を使ってくることを待っていること。

 暴力で“退学者を出す”派閥のメンバーを屈服させようとした時、カウンターでより強い暴力を見せつけることで龍園から手札を一枚奪おうとしている。

 カムクライズルの方が暴力も強い。そのことが公になれば自身の派閥から抜ける人間がいてもおかしくないと龍園は推測する。

 そして何より、カムクラなら自分を倒すことに労などない。十分にあり得る可能性と結論付ける。

 

(面倒くせぇ。だが、その程度で俺が止まると思っているなら大違いだ)

 

 カムクライズルの暴力は人外の領域。龍園はそう理解している。

 しかし、このままカムクラの張ったアンテナで行動の制限を受けることは面白くない上に、実際に派閥を増やす事はできない。

 その上、最大の武器を防がれっぱなしはもっと面白くない。

 

「クク、あのすかした顔面に一発くれてやらないとな」

 

 考えは決まった。

 己を変える気はない。己が勝つまで挑み続ければいい、それが彼のスタンスだ。

 

「おはようございます、龍園くん」

「……ひよりか。何の用だ?」

 

 バッグを置き、教室を出ようとした龍園に登校してきた椎名が鉢合わせになった。

 

「朝の挨拶です。今日は珍しく早くから登校しているようですが、何か暗躍しているのですか?」

「そんな所だ」

「私に手伝えることはありますか?」

「残念ながらねぇな」

 

 龍園は雑にあしらう。

 今日早く登校した理由は交渉をするため。

 相手は一之瀬。この交渉は理不尽な要求をするつもりだったので、善性ある椎名がいては邪魔以外の何でもない。

 

「そうですか。見学でついていくのもダメですか?」

「ああ。大人しく本でも読んでるんだな」

「……あまり乱暴なことは控えてくださいね」

「クク、それは保証しかねるな」

 

 龍園が威圧感を出して接しているというのに、椎名は全く引かない。

 加えて、龍園の性格からクラスへの飛び火を心配をする。

 よく見ていると、龍園は椎名の評価をまた上げた。

 

 

 

 ──────

 

 

 

「よぉ、一之瀬。ちゃんと兵隊を連れてきたようで安心したぜ」

 

 椎名と別れて監視カメラに映らない場所に移動した龍園は一之瀬の到着を歓迎する。

 

「おはよう、龍園くん。君にしては珍しく一人なんだね」

「今日は交渉をしに来ただけなんでな。馬鹿共を横に置いたところで邪魔になるだけだ」

 

 予め時間と場所を指定した龍園は1人だった。それは彼なりの争う気がないという意思表示だったが、あの龍園に呼びだされたとなれば護身は必須。

 一之瀬は神崎を連れて龍園との対談に臨んでいた。

 

「交渉、ね。チャットに書かれたことは本当でいいのかな?」

 

 龍園が送った内容はシンプルだ。

 足りないポイントを補っても良い、その代わりこちらの要求を呑め。

 要求の内容は記さず、時間と場所を指定して呼び出した。

 喉から手が出るほどポイントが欲しい一之瀬からすれば、いくら龍園からのメールといえど1つのつてと認識する。

 どんな要求をされるか分からないが、リスクを背負って参加せざるを得なかった。

 

「ああ、お前らは特別試験で2000万ポイントを貯めたいが、足りない。だからポイントを貸してやろうと思ってな」

「待て龍園。お前は本当に補えるほどのポイントを持っているのか? まずはそこを確認させてほしい」

 

 神崎は一歩前に出て強気に告げる。

 対する龍園は携帯を取り出し、手持ちのポイントを見せつける。

 

「2000万pp以上だと!? どうしてそんな大量のポイントがッ!?」

「……凄いね。クラス中から定期的に集めてたの?」

 

 驚く神崎と冷静に会話する一之瀬。

 どちらが交渉に適した人間か、判断するまでもなかった。

 

「ああ、お前と同じだぜ一之瀬。俺も節約したほうが良いと思ってな」

「……何であれ、これで君がポイントを貸せるという事が証明されたね。それじゃあ、対価に要求することは何かな?」

「以前、体育祭でお前たちに要求したことを覚えているか?」

 

 龍園の発言に、一之瀬、神崎ともに眼を細くする。

 体育祭における要求、それは定期的なppの要求だ。当然、2人はあの理不尽な要求を覚えていた。

 

「つまり、今回私たちが足りないポイントを君が補填する代わりに、定期的にポイントを君に渡せと?」

「そういう訳だ。あの時と違って、今回は莫大なポイントを貸すんだ。利子を付けて返すことに不満はないよなァ?」

「そうだね、お金を借りるんだからある程度の利子は必要だと思っているよ」

 

 一之瀬とてこの龍園の行動が間違っているとは思わない。

 現実でもそうだ。家庭的に貧しかった一之瀬はこの点において納得する。

 

「クク、いくら足りないんだ?」

「……500万ポイント」

 

 苦し気に告げる一之瀬に対して、龍園は上機嫌に笑った。

 

「なら、毎月120万ppだな。1人あたり3万ppを卒業まで支払うならば、500万ポイントを貸してやる」

「ふざけるな! 卒業まであと2年あることを考えれば、俺たちは2500万ポイント以上支払う計算だ!」

「おいおい、立場を考えろよ神崎。お前は金を借りる立場、俺は金を貸す立場だ。俺の機嫌を損ねた瞬間、この契約は白紙だぜ?」

「だからと言って……ッ!!」

 

 感情的になる神崎の肩に一之瀬は手を置く。

 神崎の気持ちはよく分かる。この取引は横暴だ。

 しかし、頼れるつては少ないため、何とか交渉する必要があった。

 一之瀬が考える大量のポイントを持っている人間は堀北学、南雲、龍園、坂柳の4名だ。

 堀北学は借りられても、卒業まで1ヶ月以内に返さなくてはならないため交渉不可能。南雲は敵対しているため交渉不可能。

 このように上級生は頼れない。

 となれば、ポイントを借りられる可能性は同級生の上位クラスしかいなかった。

 

「流石に高すぎるよ、龍園くん」

「そうか? こちらはクラスメイト1人見捨てて500万ポイントを貸すんだ。消えるクラスメイト1人の2000万ポイントと貸す500万ポイントの合計とくれば、2500万ポイントは妥当な数字だと思うんだがな」

「減らず口をッ!! 元々クラスメイトを一人見捨てるつもりのくせに白々しいぞ!」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。俺としても苦渋の決断だ」

「そうかな? 本当に苦渋の決断ならば、選挙ゲームなんてしないと思うんだけどな」

 

 一之瀬は普段見せる笑顔を控えて龍園を煽る。

 一之瀬とて龍園の横暴さには怒りが沸いてくる。しかし、その怒りを抑えて相手が何を求めているかを正しく分析していた。

 

「あのゲームは余興だ。どうせ誰か一人退学になるならば遊びの要素を取り入れてやったに過ぎない」

「本当にそうかな? 言っちゃ悪いけど、龍園くんってあまり他人から好かれる人じゃないよね? 今回の試験、君は大量のポイントを対価としてこのゲームを持ち出したんじゃないの?」

「クク、何が言いたい?」

 

 一之瀬は片手で握り拳を作り、人差し指を伸ばして顎に当てる。

 

「君は今回の試験で退学者候補の1人ってこと。となると、君は賞賛票が欲しいんじゃないの?」

「……クク、ハハッ!! 流石だな、一之瀬。そこの馬鹿と違って俯瞰して状況が見えてやがる」

 

 一之瀬の説明を聞いて怒りが軽く収まった神崎だったが、龍園の煽りに再燃しかける。

 だが、何とか理性で抑えて黙り込む。

 

「ならさ、私たちが提供できる賞賛票40票、これを君に投票する。これでさっきの契約をチャラにしてくれないかな?」

「チャラは無理だな。さっきも言ったが、こちらとて本来救える2000万ppを切り崩しているという事実は変わらない。リスクある契約なんだよ」

「……そう言えば、君は“退学者を出さない”派閥の代表者だったね。この取引に応じてくれるってことは勝つ気がないって事かな?」

 

 龍園は表向き、退学者を望んでいないことになっている。

 つまり、選挙ゲームで勝てば、退学者を一人救わなくてはならない。

 退学者の救済に必要なポイントは2000万。

 しかし、ここでポイントを使うという事は2000万ppが足りなくなることになる。

 

「馬鹿言うな。やっとカムクラと勝負ができるんだ。勝つに決まってんだろ」

「でも、勝っちゃったら2000万ポイント使って救済しなきゃいけないんでしょ」

「クク、その通りだ。だからリスクを背負ってると言っただろう?」

 

 龍園は不敵に笑う。

 演技。一之瀬は龍園の態度をそう疑うが、矛盾した会話をした馬鹿の姿には見えない。

 

「でもそれって、君がカムクラくんに負ければ全部解決するよね。この選挙ゲームは全てブラフで君とカムクラくんが繋がっている可能性もあるんじゃない?」

「可能性はあるな。だが、それを証明できることが今のお前に出せるのか?」

 

 不可能だった。一之瀬は持ち前の推理力で状況を整理しただけで証拠など出せない。

 

「無理だね」

「なら、その懸念点を抱えながら交渉に臨むしかないな」

 

 一之瀬のペースを破り、龍園は会話の主導権を奪い取る。

 

「こちらとしてはお前が俺に40票の賞賛票を与えるならば、毎月100万ポイントに下げてやってもいいと思っている」

「……せめて毎月60万だね。そうじゃなきゃ、賞賛票は渡さない」

 

 賞賛票を渡すのはこちらであるため、一之瀬は強気に出る。

 

「安すぎだ。俺へのメリットが少なすぎる」

「私としても貴重な賞賛票を渡すからね。60万ポイントは最大限の譲歩だよ」

 

 視線がぶつかる。

 2人は落としどころを考えていた。

 金を貸す側が龍園である以上、龍園が圧倒的に有利。しかし、彼はカムクラとの戦いに勝利するため賞賛票を欲している。

 賞賛票という対価を用意できた一之瀬だが、龍園の目的が本当にカムクラへの勝利なのか疑問が尽きない。

 裏でカムクラと組んでいる可能性が拭えなかった。

 

「毎月90万だ」

 

 龍園が値を下げる。

 金に煩い龍園が金額を下げたことから、一之瀬は本当に称賛票を欲していると確信する。

 となれば、カムクラに勝利したいことは嘘ではない。

 しかし仮に勝ってしまえば、“退学者を出さない”派閥の代表者であるにもかかわらず、500万ポイントを貸し出したことでクラスメイトを救えない。

 約束を守らないリーダーなど見限られるだけ。となれば、何かしらの策を龍園が考えていることになる。

 リスクを背負っていることは本当でも、龍園は何かしらの解決策がある。

 だから、先の発言は演技。その可能性が大きくなった以上、一之瀬はより強気になっていいと判断する。

 

「60万」

「……85万」

 

 龍園は強い敵意を一之瀬に向ける。

 喧嘩慣れした生徒からの敵意は正しく恐怖を伝達する。

 神崎は一之瀬を守るように龍園の前に出る。

 

「60万」

「お、おい、一之瀬!!」

 

 なお引かない一之瀬に、神崎が驚く。

 激しい剣幕を見せる龍園は今にも手を出しそうな雰囲気がある。

 これ以上の交渉は不可能だと、神崎は悟っていた。

 しかし、

 

「……良いだろう、80万だ。これ以上は絶対に下げない」

 

 龍園は落ち着いた口調で告げた。

 

「分かった。80万なら賞賛票を渡してもいいよ。でも、まだ契約書は書かない。私たちも足掻きたいからね」

 

 まだ坂柳との交渉が残っている以上、諦めきれない一之瀬は正直に告げる。

 

「クク、良いだろう。Aクラスからの交渉額が提示されたら報告しろ。多少は金額を考えてやる」

 

 お前の考えなど分かっている。龍園は暗にそう告げてこの場を立ち去る。

 何とか交渉を乗り切った一之瀬は冷や汗を拭った。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 3月4日の放課後、カムクラは龍園派閥の人間に交渉を繰り返していた。

 

「石崎くん、アルベルト、僕の派閥に来ませんか?」

「すいません、カムクラさん。俺は……龍園さんについて行くッス!」

 

 カムクラの監視役である石崎を、カムクラは堂々と誘っていた。

 しかし、石崎は全力で頭を下げて断る。

 一緒にいたアルベルトもまた、首を横に振っていた。

 

「あなたたちは明確な意思があるようですね。では、仕方ありません」

 

 変わらない無表情のままカムクラは次の龍園派閥の人間に。

 彼は帰宅しようとしていた女子グループへ足を運ぶ。

 

「少しお時間よろしいですか?」

「カ、カムクラくん!? え、え~と~、ちょっとだけなら……」

 

 応答した女子は諸藤リカ。

 彼女を含め女子は5人。反応は驚きか、怯えに二分化していた。

 5人の中には、藪菜々美、山下紗希がいたが、彼女たちのグループリーダーである真鍋志保の姿は見当たらない。

 

「あなたたちはなぜ“退学者を出さない”派閥へ?」

「そ、それは折角集めたポイントがあるなら、た、退学者は出さない方が良いと思ったからで……」

 

 諸藤が答えれば、他4人も同様に頷く。

 ツマラナイ。ありきたりな解答にカムクラはそんな感想を抱く。

 

「今回の試験は理不尽であることは間違いありません。しかし、何のリスクもなしに退学者を出せる良い機会でもある。2000万ポイントを貯蓄した上で、1年最後の特別試験に臨めると考えれば、退学者を出すことにも意味があると思いませんか?」

 

 カムクラは5人に無感情で利点を告げる。

 すると、5人中3人は反応を見せた。諸藤リカ、藪菜々美、山下紗希の3名だ。

 しかし、3人ともカムクラの問いに答えない。

 カムクラは既にその理由が分かっていた。

 この3人は、龍園翔が怖いのだ。派閥を裏切った時に龍園が自分たちにどんな仕打ちを施すのか。

 たとえカムクラの意見に肯定的な部分があっても、裏切った時のリスクに怯えていた。

 

「か、カムクラくん……ク、クラスメイトが退学になってほしくないって思うことは、そんなに変な事なのかな?」

 

 名前を挙げた3人以外の女子、宝島みこが勇気を振り絞って問う。

 

「いいえ。今までの特別試験で切磋琢磨してきたクラスメイトですから、あなたがそう思うことは変ではありません」

「な、なら、私はそれが理由。た、たとえあんまり仲が良くない人でも、今まで一緒に頑張ってきた人なら……退学してほしくないよ」

「では、退学者候補の人間がクラスに害を与えた人間ならば、あなたは退学するべきだと思いますか?」

 

 宝島の表情が歪む。

 かく言うカムクラは事務仕事でもするかのようににべもなく会話を続けていく。

 

「例えば、龍園くんや僕、真鍋さん。僕たちはこのクラスに迷惑をかけています。そして、3人とも批判票の対象です」

「そ、それは……」

 

 代表者であるカムクラと龍園は既に39票の批判票が募っている。

 残り1票の批判票は嫌われ者である真鍋と西野のどちらかへ。

 そして現状、クラスを一度裏切った真鍋が残りの批判票を集めていた。

 

「藪さんと山下さん、諸藤さんは真鍋さんと仲が良かったと記憶しています。なぜ、彼女を除け者に?」

 

 人の感情など簡単に分析できる化物からの意地悪な質問に、3人の女子は誰もがバツの悪い表情を浮かべていた。

 仲が良かったグループの1人を追放して“退学者を出さない”派閥にいる彼女たち。

 庇えば、自分が批判の対象になりかねない。スクールカーストに拘り、落ちる人間を切り捨てたからに他ならない。

 

「……悪いんですか? 自分が助かりたいって思うことが」

 

 今まで黙って話を聞いていた最後の1人、阿佐ヶ谷舞が悪態をつくように告げる。

 

「龍園くんが持ってきたこのゲームによって何もせずとも退学者候補が決まった。だから後は、なるべくヘイトを稼がないように今後の立ち位置のために立ち回る。それだって……実力でしょう?」

「余計なことを言って自分のカーストを下げたくないがゆえに、“退学者を出さない”派閥を選んだという訳ですか」

 

 平凡な理由に退屈が押し寄せる。

 波風立てず立ち回ることをカムクラは間違いだと思わない。

 しかし、そこに未知はない。

 

「では、あなたたちのスクールカーストを下げない理由があれば、僕の派閥に来てくれるということでしょうか?」

「……まぁ、あたしはそうです。他の4人がどうかは知りませんが」

「わ、私はそれでも“退学者を出さない”派閥にいます!」

 

 カムクラから見れば興味がわかない2人だが、彼女たちはそれぞれの意見を述べていた。たとえ、ツマラナイ意見でも怯えて行動できない三人よりかはマシだった。

 カムクラは最後に三人の意志を確認しようと視線を向ける。

 ツマラナイ。退屈が心を埋めていく度に拒否反応として現れる言葉。それすらとっくに慣れてしまった怪物は、無心で必要な作業を行おうとした。

 しかし、

 

 

「クク、随分と派手に立ち回るじゃねぇか」

 

 

 その介入を、龍園翔が止めに入る。

 時刻は放課後成り立て。当然、龍園もカムクラの交渉を頭から聞いていた。

 即刻止めに入らなかったのは、カムクラの交渉に興味があったから。

 観察し、自分に吸収できることがないかを探っていた。

 しかし、結局は自分には性にあわない手段と判断し、今に至った。

 

「おい、お前らまさか俺の派閥を抜けるつもりじゃないだろうな?」

 

 鋭い目付きと低い声が女子生徒たちに向けられる。

 脅しじゃないことは月日が証明済み。内に秘める恐怖が込み上げてくる。

 

「それがゲームの醍醐味です。自分の思考を信じて好きな方に投票することを僕はオススメします」

 

 カムクラは恐怖を和らげるような言葉は吐かない。

 ここで龍園から守るように告げることで、狂信の駒ができるかもしれない。

 選挙ゲームに手っ取り早く勝つために必要な存在だろう。

 しかし、彼が求めるは未知。無数に通過した選択から導き出される未来、その可能性を望んでいる、

 

「はっ、相変わらず甘いな。お前のやり方じゃいずれ支配力が欠如し、内側から崩れるぜ」

「ツマラナイ集団なんて、勝手に自壊して構いません。木偶や人形は必要ありません」

 

 先頭に立つ者の求める人材が如実に表れる。

 従順な駒を求め、それらを自分自身がコントロールして戦う龍園。裏切りは脅しで紡ぎ、時に番外な戦術で勝利を目指す。

 確固たる意志を持つ個人を求め、それぞれの能力値を最大以上に引き出して戦うカムクラ。裏切りは歓迎、勝利は必然であり二の次、予想のできない未来を期待する。

 どちらに所属しても一長一短な一面あり。だからこそ、クラスメイトの選択は二分化する。

 

「クク、そうかよ。……で、お前らはこんな奴の派閥に行きたいか?」

 

 派閥を減らさないためにも、龍園は妨害を行う。

 鋭い眼光を止めることなく、決断を鈍らせるために意志の弱い人間から選択肢を奪おうとする。

 

「特別試験の勝利よりも、個人の欲求を優先する奴の口車に乗ることが正しい選択だと思っているのか?」

 

 どの口が言うか、そう思ったカムクラだったが口にはしない。

 既に彼女たちへのアプローチは済んだ。洗脳の如き勧誘は行わない。確実な勝利など不要だ。

 欲しいのは、選択。無数の選択が合わさることで、未知が現れると期待していた。

 

「なんだ、逃げるのか?」

 

 カムクラは背を向ける。

 既に興味はない。次の未知へと歩みを進めていた。

 

 

 




バチバチな2人、最悪な特別試験を楽しんでおります。
とは言いつつも、この手のゲームは龍園にとって不得意分野。悪評まみれの彼は勧誘ができません。交渉と恐喝が手段ですが、それもクラス間での戦いなので扱いづらく、派閥から移動しないように脅すことしかできていない。

ひよりん⇒原作最新巻ではヤンデレに狙われている人。本作では綾小路とは7巻から知り合っている(原作では6巻)。綾小路とは図書館で同じ本を取ろうとして仲良くなるというなんか良い感じの出会いになっちゃった。
原作では引退中の龍園の状況を知るために綾小路と接触しているが、本作でも話は聞かれている。龍園は絶好調なのですが、綾小路はカムクラを勝たせるために龍園の動向を探るために椎名と接触しているって感じです。
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