ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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関係値リセット

 

 

 

 3月4日、木曜日の昼休み。

 他クラスが動きを起こす中、綾小路は経過観察を続けている。

 Dクラスは2000万ポイントによる救済ができないため、誰かが退学しなくてはならない。

 そんな過酷な状況で大きな動きがないことに、綾小路は違和感を持っていた。

 しかし、今日の朝のHRで状況が変わる。

 

(……何人かの生徒によるオレに向ける視線の種類が今日で変わった。まぁ高々5人の批判票ならば、明人たちの賞賛表で打ち消せるか)

 

 現状、Dクラスにおける退学者候補は三馬鹿と呼ばれる池、山内、須藤の3名。

 綾小路は特別試験によるクラス貢献が高く、残るべき人材として認識されているため、今回の特別試験は手をつけずとも退学しないと判断している。

 しかし、敵意と同情が混ざった視線から何人かの生徒が自分を狙っているということに今日気付く。

 よって、たとえ安全圏でも対策を立てようとしていた。

 

「やっほー、綾小路くん!」

 

 昼食の準備をしながら思考をフル回転させている綾小路の元に、満面の笑みを浮かべた櫛田が現れる。

 綾小路は無視せず櫛田に対応する。

 今回の試験は人望が大きく影響している。学年でも随一な顔の広さと人気を持つ櫛田はたった一声で状況を動かす影響力があるため、いくらDクラスにとって必要な人材として認識されている綾小路でも下手は打てない。

 加えて、櫛田はカムクライズルとのパイプがある。あの男と組まれては、流石の綾小路でも腹を括る必要があるため、最大限に警戒していた。

 

「どうしたんだ櫛田? やけに機嫌が良さそうだが……」

「えへへ。実はさっきさ、良い情報が手に入ったんだよ。だから是非とも綾小路くんに相談したかったんだ。お昼、一緒にどう?」

「もちろん、受けるさ。だが……」

 

 綾小路は隣人の堀北を横目で見る。

 声量は抑えられていたとはいえ、近くにいた堀北には当然この話は聞こえていた。

 

「情報通のあなたが良い情報と言うくらいだから、余程ためになるのでしょうね。その話、私も一緒に聞いてもいいかしら?」

「もちろん!」

 

 櫛田は満面の笑みのまま中指を立てた。

 

「……平田くんは呼んだ方が良いかしら?」

「平田くんも呼びたいけど、今は良いかな。今回の試験で仲間割れが起きないように立ち回ってくれてることもあって、疲れているみたいだからね」

 

 誰にでも優しい人気者の仮面を被った櫛田。その演技は本性を知っていなければ綾小路ですら見破ることが難しいほど卓越している。

 ゆえに、綾小路は櫛田が近付いてきた目的を測りかねていた。

 同時に、表情と仕草が一致しないことに少しだけ引いた。

 

「それじゃ、2人とも食堂……は、こんでるだろうから屋上に行こう!」

 

 櫛田は表の顔でそう言う。わざわざ教室で情報を話さないことから、2人は特別試験に関わる話と判断し、櫛田についていく。

 昼休みが始まって5分ほど経過しているため、食堂は混み合っており、話をする場としては適さない。

 選択肢は屋上。学校内では人気が少ない場所なので、理にかなっていた。

 足早に屋上へ到着すれば、冷気が肌に触れる。3月上旬とはいえ今日は肌寒い日だった。

 

「……さっむ。昨日はわりと暖かかったってのにどうなってんのよ」

 

 櫛田は本性を前面に出して悪態をつく。

 屋上に人がいないことを確認したとはいえ、こんなにも早く裏の顔を見せる。

 綾小路はその行動が少しだけ意外に感じた。

 

「それで櫛田さん、話って何かしら?」

 

 堀北はフェンスに寄り掛かるように座り、持ってきていたお弁当を膝の上で開ける。

 綾小路と櫛田はコンビニで買ってきた軽食であるため、立って会話に臨む。

 

「もちろん、特別試験の話。今日、5人くらいのグループが新しくできて、そのグループが綾小路くんを狙っているよってことを教えにきてあげたの」

 

 コンビニのおにぎりを食べながら、櫛田は情報を開示する。

 何気なく告げた言葉だったが、その情報は堀北の手を止めるには十分だった。

 

「首謀者は誰なんだ?」

「山内くん。彼は今、せこせこと頑張って大きなグループを作ろうとしているよ」

 

 首謀者は山内春樹。3馬鹿の1人で退学者候補でもあるので、櫛田の情報は真実味がある。

 だが、ひとまず暫定。確実と言える判断材料が出るまでは、綾小路は櫛田の嘘を懸念する。

 

「そうか。山内が……」

「綾小路くん、何しちゃったのぉ~。狙われるなんて可哀そう~」

 

 櫛田は小馬鹿にしながら、指で綾小路の肩をつつく。

 

「さぁな。特に何かをした覚えはないな」

「じゃあ、嫉妬とかじゃない? 初めこそ一緒にいた綾小路くんだったけど、今じゃクラスでも有用な人物。動機としては十分でしょ」

 

 櫛田の推測は、綾小路も一考した。

 可能性としてはあり得る。だが生憎、その気持ちは理解できないものだった。

 

「動機としては弱いと思うがな。たとえ山内が俺に嫉妬していても、行動に移せるタイプには思えない」

「私も同意見ね」

 

 山内がクラスメイトを陥れるような立ち回りを考えられても、それを実行できるほど高い能力がある訳ではない。

 それはDクラスの誰に聞いても同じように返ってくる評価だ。

 

「じゃあここでもう一つ情報を開示するね。実は、山内と坂柳さんが接触していま〜す」

「そう言えば、昨日の朝にも坂柳が山内を呼び出していたな」

 

 櫛田はピンポーンと口に出して正解を称える。

 昨日の朝、坂柳がわざわざDクラスにやってきて、山内を呼び出していたことは記憶に新しい。

 その理由に誰も見当はつかなかったが、とりあえず恋愛関係ではないと心内の総意があった。

 

「何でかは知らないけど、山内くんの裏には坂柳さんがいるんだよね」

「彼女が山内くんを使ってDクラスに攻撃ってことかしら?」

 

 堀北は推測を1つ口にする。

 

「底辺の生徒を利用してDクラスの戦力を削ぐ。……まぁ分かるには分かるけど、駒に選んだのが山内じゃねぇ」

「確かに山内くんの能力はあまり高くない。でも、今回の試験はコミュニケーション能力と人望が物を言う。少なくとも、コミュニケーション能力なら綾小路くんよりは高いんじゃないかしら?」

「おい」

 

 理不尽に刺された綾小路はじとりと悪感情を乗せた人間らしい目付きで堀北を睨む。

 

「でも、所詮は山内。集まった5人も彼に従ってるんじゃなくて、致し方なくって感じだよ」

「なら安心、という訳じゃないんだろ?」

 

 綾小路は櫛田がこの程度の情報を渡しに来たとは思っていない。

 何かしらの恩を売るはず。承認欲求の塊である彼女ならその傾向が強いと判断していた。

 

「そうだね。正直、坂柳さんの介入が予想できないから今後どうなるかはわかんない。だからこそ、今日は狙われた張本人である綾小路くんと一緒に対策を考えにきたんだよね。まぁ、余計な奴もついてきたけど」

「綾小路くんの退学を狙ってる人を放置するとでも?」

 

 櫛田は過去を知る2人を退学させたがっている。

 最近こそ吹っ切れたことで特別試験は協力してくれるが、その本質は変わっていないと堀北は睨んでいた。

 

「騎士気取りかよ。まぁ姫よりは似合ってると思うよ、男勝りな性格だしねぇ」

「男勝りな部分は兄さんを見てきたからよ。だから何も恥ずべき点ではないわ」

「でも、そのお兄さんと仲良くできてない堀北さん可哀そう~」

 

 櫛田は裏の顔のままケラケラと告げる。

 ムッとする堀北、そこから煽り合う2人をみて綾小路は2人の距離感が近付いたことを理解した。

 しかし、理解できない点が1つあった。

 

「櫛田、お前はまだオレを退学させる気なのか?」

 

 承認欲求の塊である櫛田の本性を知る自分は退学対象。

 綾小路はそう理解していた。

 だが、今日提供された情報は自分が狙われていることの知らせ。裏を考えなければ、危機的な立ち位置にいると教えてくれた。つまり、助けてくれたことになる。

 それが心底解せない。

 対価は後々要求するだろうが、それでも自分の知る櫛田桔梗のプロセスとは違う行動だ。

 ゆえに、警戒を解けなかった。

 

「ああ、そのこと? もう諦めたよ」

 

 櫛田は綾小路の目を見て否定する。

 

「確かに、私の本性を知るあんたは退学した方がバレるリスクが減ってせいせいする。でも、もういいのよ。たとえ本性がバレていても、私は私。むしろ考えを少し変えて、知ってしまったあんたはストレス発散にでも使った方が有効利用でしょ」

「日々溜まったストレスを定期的に発散することで同じようなミスを防ぐためか。理解はできるが、勘弁して欲しいな」

 

 心変わりした。

 ペーパーシャッフルにて兆しがあり、混合試験で協力することで素晴らしい成果を上げた。

 心の成長、侮れない相手になった。だからこそ、綾小路はその腹の内が読み切れず、警戒を強めていた。

 

「情報を与えた理由、これで分かったでしょ? これは私がもう敵じゃないよっていう意思宣言のつもり。納得した?」

「ああ。やっと安心して日々生活できる気がするな」

「はい、嘘~。綾小路くん、バレバレだよ」

 

 綾小路の肯定に櫛田は間髪入れず反論する。

 

「嘘はついてないんだがな」

「また嘘つくじゃん。澄ました顔で女の子を騙そうだなんて酷い人だなぁ。君がXって事実を言いふらしちゃうよ?」

「前も言ったが、俺はXじゃない」

「嘘つき。カムクラが言ってたよ、あんたがXだってね」

 

 怖いもの知らずの櫛田は綾小路の瞳を凝視し続ける。しかし、深い闇が潜むそれを見て、そんなものかと嘲笑う。

 

「私の後ろにCクラスがついていると思っているの?」

「……そうだな。借金のこともある」

 

 綾小路は正直に告げる。

 櫛田は全く信用ならないが、協力的な姿勢を取っていることは事実。敵対は愚策なので、櫛田のペースに乗ることにした。

 

「借金ならもう返したよ。私はもうCクラスのために働く必要はない。龍園とカムクラに本性を知られちゃってるから弱みではあるけど、もうたいした弱みじゃないしね」

 

 綾小路は事実確認のために堀北を見れば、彼女は頷く。

 

「本当に大丈夫なのか? 自分の本性がバレる可能性があるんだぞ」

「多少言いふらされても、今の私の人望ならば大したダメージはつかないわよ。むしろ、完璧美少女も稀に毒を吐くっていうイメージを少しはつけてみても良いかも」

 

 あっけらかんに告げる櫛田の態度を、綾小路は虚勢と疑う。

 しかし、それにしては矛盾が見当たらない。

 今の櫛田ならば、異常な承認欲求を上手くコントロールできる雰囲気があった。

 

「そうか。なら、オレの杞憂だったのかもしれないな」

 

 綾小路は今の櫛田に様子見の判断を下す。

 理由は切るつもりだった櫛田が予想以上に成長していたから。

 そのきっかけを作ったのは堀北。自分とは違うアプローチで人間を成長させた堀北に感心していた。

 そしてこれからの彼女がどんな成長をするのか、綾小路もまた気になっていたがために、櫛田を残すという堀北の選択肢を尊重した。

 

「いやいや、そうやって警戒してくれる方が道理に合ってるよ。どっかのバカ北さんは真正面からこの私を信じきっちゃうからねぇ」

「あなたはいちいち私を貶さないと死んでしまうのかしら?」

 

 人を殺してしまいそうな強い視線。

 箸をへし折る勢いで握力が込められていることが分かれば、櫛田は綾小路の背に回る。

 

「きゃー、暴力反対ー。助けてー、綾小路くーん」

「彼女を差し出しなさい、綾小路くん」

 

 棒読みの櫛田は綾小路の上腕にしがみついている。

 綾小路はこの茶番を終わらせようと、堀北に櫛田を差し出そうとする。

 しかし、予想外の出来事が綾小路の身に起こる。

 

「……櫛田、何で俺の上腕を揉んでいるんだ」

 

 手早く処理しようと思った綾小路だったが、櫛田が筋肉を確かめるようにペタペタと腕に触れるため、説明を中断させられた。

 

「綾小路くんってけっこう筋肉質だったなぁって思いだしてさ。それを確かめただけ。というか、やっぱり何かスポーツやってたでしょ?」

 

 櫛田が思い出すは入学当初の水泳の時間。

 下種な視線に耐える水泳は地獄だったが、地味な男子の肉体が非常に整っていたことに印象に残っていた。

 

「スポーツはやってない。あと、セクハラだ」

「はっ? 私の胸揉んだんだから、これくらい対価の1つよ」

 

 腕を揉みながら堂々と告げる櫛田に、食事をしていた堀北がむせる。

 

「……あ、綾小路くん?」

 

 どこか変な隣人だが、他の男子のような欲に従いすぎた行動はしないと堀北は思っていた。

 だからこそ、このカミングアウトは衝撃的だ。

 

「誤解だ堀北。俺はそんなことしていない」

「うわぁー、最低ー。私との関係は遊びだったんだー。証拠だってあるのになぁー」

「出鱈目なことを言わないでくれ。仮に証拠があるなら、俺は櫛田に弱みを握られたことになる。もっと櫛田に協力的な関係のはずだ」

 

 綾小路の言い分に堀北は納得する。

 よって、これは櫛田の嘘。隣人がまともであったことに安堵した。

 

「実はね堀北、1学期の最初くらいにドジって綾小路くんに本性バレちゃってさ。その時つい焦って、胸を揉ませる対価にその場を凌いだことがあるんだよね~」

「……綾小路くん?」

 

 堀北は再度隣人を睨む。

 そもそも、なぜ同じ中学ではない綾小路が櫛田の本性を知っているのか疑問だった。

 並外れた分析能力を綾小路が持っているため、それで見抜いたと思ったが、今の話を聞くと疑念が浮かぶ。

 

「だから今でも定期的に触らせてあげてるの。証拠もバッチリよ」

「て、定期的に。……不純だわ」

「待て堀北、騙されるな。これは櫛田の嘘だ」

「うん、嘘だよ堀北。顔を赤くしちゃって可愛いねぇ」

 

 頬を染めた堀北を櫛田は上機嫌に煽る。

 綾小路の腕を離し、わざわざ堀北の前に立って実に清々しい笑みを浮かべれば、堀北は般若のごとく怒り顕わにする。

 

「ごめんって、そんな怒らないでよ~。実際、定期的ってところ以外は本当の話だからさ~」

「……綾小路くん?」

 

 向ける敵意が変わり続ける。

 

「違う、俺はそんなことはしていない。仮に真実ならば、櫛田がここでこの情報を吐くメリットがないだろう?」

「本当はブレザーに指紋を残したつもりだったんだけど、カムクラ曰く指紋って綺麗に管理しないとダメなんだって。だからこの情報は手札としてもういらないのよねぇ」

 

 独り言を呟くように言う櫛田は、ニヤニヤと勝ち誇った笑みを綾小路に向けた。

 

「つまり、証拠がないってことだろう。お前は嘘が上手いからな、今の話が全て嘘の話という可能性は大いに有り得る」

「嘘だって判断するのは綾小路くんじゃなくて堀北さんだよ。で、どっちが嘘をついてると思う、堀北さん?」

 

 偽証をしているのはどちらか。

 選択は第三者の堀北に委ねられる。

 

「ちなみに、私がこの情報をゲロったのは綾小路くんに対して切れるカードがないってことを証明するため。私はもう弱みを握ってない、だから安心してねっていう意味なんだけど……綾小路くんは理解できた?」

「さぁ、何の事だか分からないな」

 

 綾小路は恍ける。そして同時に、櫛田が本当に味方になろうとしていると断定する。

 櫛田は綾小路を抑え込める手札を1枚握っていた。杜撰な一手であるため、綾小路は抑え込まれているフリをしていたが、その必要はもう無くなった。

 これで2人は対等な関係、どころか櫛田の本性を知っている綾小路の方が有利と言える。

 そして特別試験の姿勢を振り返れば、櫛田が本気で変わろうとしていることを理解できた。

 

 

「……変態」

 

 

 それはそれとして、綾小路は性格が悪すぎる櫛田を少しだけ苦手になった。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 放課後を迎え、帰り支度している綾小路へ一通の連絡が届く。

 軽井沢からだった。

 チラリと教室を見るが、当の軽井沢はバッグを机に置いているが、教室にはいない。

 トイレから連絡していると判断し、稀なケースから急ぎの用件と推測する。

 

「きよぽん、一緒に帰ろうよ~」

 

 友人である長谷部が声をかける。

 その周りには綾小路グループと勝手に名付けられたグループメンバーが揃っていた。

 

「悪い、今日は堀北に調べ事を頼まれていてな。一緒には帰れない」

「そっかぁ~。ねぇ堀北さん、それって特別試験に関係すること?」

 

 同じように隣で帰り支度をしていた堀北に長谷部が聞く。

 綾小路は堀北へアイコンタクトを送る。困った時の言い訳としてはこのやり取りは慣れたものだ。

 

「ええ、そうよ。だから、今日は綾小路くんを借りていいかしら?」

「いいよ~。ていうか、私たちも何か協力しようか?」

「ありがたい申し出だけど、大丈夫よ。でも強いて言うなら、綾小路くんへ賞賛票を送ることを考えて欲しいわね」

「それなら大丈夫。私たち、グループ内で賞賛票を投票しあう予定だしね」

 

 綾小路グループは佐倉、長谷部、幸村、三宅、綾小路の5名。

 互いに平等に入れれば、一人三票は賞賛票が確保できる。

 

「どうして綾小路に賞賛票を送ろうとしているんだ?」

 

 幸村が疑問を口にする。

 

「生意気にも優秀な生徒だからよ。クラスの貢献度や平均以上の能力の高さを考えれば、綾小路くんはプロテクトポイントを任せるに足ると思うわ」

「なるほど。俺は堀北が手に入れるべきものと思っていたが……、確かに、綾小路でも納得はいく」

 

 Dクラスにおいて、綾小路の評価は高い。

 平田のように莫大な人気がある訳ではないが、特別試験において堅実な立ち回りをこなせる彼もまたDクラスには必要不可欠な存在と思われている。

 

「へぇ~、堀北さんは綾小路くんにプロテクトポイントを渡すべきと思っているんだ」

 

 グループ内の会話に、話を聞いていた女生徒3人が介入する。

 真っ先に確認したのは松下だ。彼女は堀北を値踏みするように観察する。

 

「堀北さんが言うなら、私たちも綾小路くんに賞賛票を入れようか?」

「私も私も! 堀北さんが言うなら間違いないでしょ!」

 

 続くのは篠原と佐藤だ。

 2人とも、前回の混合合宿から堀北へ信頼を置いている。

 

「ありがたい申し出だけど、まだ止めて欲しいわ。必要だと思ったらクラスに連絡するから、その時まだ私を信じてくれるならば彼に賞賛票を入れてちょうだい」

 

 堀北は凛とした態度で告げる。

 今や、クラスのリーダーとして実績を積んできている。そして、堀北もその責任を自覚している。

 

「それじゃあ、俺は失礼する。やらなければいけないことがあるんでな」

 

 切りの良いタイミングと綾小路は判断し、バッグを持って立ち上がる。

 

「頑張ってね、綾小路くん!」

 

 佐藤は健気な視線と声掛けを送る。

 見る人が見れば簡単に分かる態度だが、その純粋な気持ちに茶々を入れるような馬鹿な男(やまうち)はこの場にいない。

 綾小路は廊下を出た後、教室扉の前で待っていた軽井沢を1度無視してから、学校の裏口付近で軽井沢と合流する。

 

「遅いよ清隆! 何鼻の下伸ばしてんのよ!」

「お前、あの場面を見ていたのか。……いや、それよりも用件は何だ?」

「用件? ……そ、そうだ、大変なのよ! 今日、真鍋から特別棟に来るように呼び出されているのよ!」

 

 慌ただしく告げる軽井沢の態度に、綾小路は納得がいく。

 真鍋はかつて軽井沢に酷い仕打ちをした主犯格。

 また呼び出されたということは、いじめてくるかもしれない。

 しかし、綾小路からすれば不可解な話だ。

 真鍋の弱みは握っている。軽井沢を虐めた現場を写真としてこちらが押さえている以上、下手な動きをすれば自分の首を絞めることになる。

 まして、龍園やカムクラがそんな愚行を許すはずがない。

 

(……真鍋の暴走か。真鍋が選挙ゲームで嫌われ者の立場を脱するために何やら裏で動いているんだろうな)

 

 思い至ったのは選挙ゲームの役職。

 このゲームで退学の危機に瀕しているのは、代表者2人と嫌われ者2人の計4人であり、真鍋は龍園率いる“退学者を出さない派閥”の嫌われ者だ。

 龍園が敷いたルールであることから、もしかすると、龍園は初めから真鍋を見捨てるつもりだったのかもしれない。

 カムクラと競い合いたい気持ちもあったが、クラスに必要のない人材を効率良く処するためには良い機会だ。それでいてクラスにも納得のいく形、かつ退学する理由を明確に提示させることで、可能な限り真鍋に配慮した……

 

「……いや、流石にないか」

「何か思い当たることでもあったの?」

 

 龍園にしては慈悲深い選択をとったかもしれない。そう思ったが、暴力をこよなく愛する男が正常な訳ないので、勘違いとして思考からその考えを放棄する。

 

「もしかすると選挙ゲームのことで暴走しているのかもしれない。あいつは退学者候補だからな」

「……あのゲームね。ほんと、特別試験をあんな感じで遊びとして処理する所は頭おかしさ半分、尊敬半分よ」

「珍しいな。お前が特別試験のルールを把握しているなんて」

「そりゃ、放課後の話題はこれ一辺倒だもん。いやでも理解しちゃうわよ」

 

 軽井沢は呆れ返るように言う。

 女子のカーストトップであるため、彼女は情報に目敏く、多く触れられる機会がある。

 

「お前はあのゲームをDクラスでやりたいか?」

「絶対にいや」

「そうか。だが、お前には少し協力して欲しいことがある」

「はぁ、選挙ゲーム関係とか、龍園かカムクラくんが絶対関わってるじゃん」

「どっちだと思う?」

「……龍園?」

 

 恐る恐る答えた軽井沢に、綾小路は首を横に振った。

 ガックリと項垂れる軽井沢。だが、綾小路は特に反応することなく会話を続ける。

 

「今回、俺はDクラスの賞賛票を集め、カムクラに投票するという約束がある。そのため、お前の友人の他クラスに渡す賞賛票を全てカムクラに渡すように仕向けたい」

「なるほどね。でも、カムクラくんに渡す納得できる理由がないと説得は難しいかも」

 

 Dクラスはポイントが少ないため、大半が選挙ゲームに参加し、報酬を狙うことに同意する。

 綾小路は堀北が指示を出してポイントを取りに行くために参加すると見ている。

 

「それは簡単だ。龍園とカムクラ、どっちが怖いかを聞けばいい。暴力を振るう不良と無愛想な優等生ならば、どっちを残した方が危険度が高いかとな」

 

 どちらも恐れられる人間だが、カムクラは龍園と違って日常生活で相手を害するような行動をしない。

 果てしない暴力を有しているが、日常生活でチラつかせることはない以上、どちらの方がマシかは言うまでもない。

 

「危険度ねぇ。私、カムクラくんより龍園の方が嫌いだけど、怖さだけなら断然カムクラくんなんだよね」

「意外だな。大多数の人間は龍園を選ぶと思うが?」

「私もそう思うよ。でも、あの雰囲気を見せられたらなぁ。それに……」

 

 思い出すは超高校級の絶望としての圧を出したカムクライズル。

 綾小路の奥底に潜む深い闇とは違う、混沌を連想させる悍ましい圧は軽井沢の記憶に刻まれ、忘れられない。

 しかし、同時に思い返すはあの時のカムクラの表情。

 慈悲深さを錯覚させた表情は不愛想な素顔からは似ても似つかない。

 あの一瞬だけ、本当に救ってくれるような気もしたくらいだ。

 でも、それは追いつめられた時の気の迷い。

 カムクラは大好きな綾小路に暴力を振るった張本人だから、龍園同様に嫌いな人物の1人だった。

 

「それに?」

「……何でもない。兎に角、あんたの指示に従う事は分かったわよ。でもそれより、真鍋の対処したいからこっそり付いてきて!」

 

 軽井沢が呼び出した目的は真鍋の対処。

 特別棟に行き、船上試験の時のように集団で襲われるようなことは二度とごめんだ。

 そのために、綾小路という強い人物を潜ませたかった。

 

「分かった。なら、早速行こう。オレも真鍋の行動は気になるしな」

 

 綾小路が了承すれば、軽井沢は安堵する。

 綾小路に守られること、その安心は虐めを経験した彼女にとっては大きすぎる後ろ盾だった。

 

 

 





櫛田「私もう敵対してないよ。信じて♡♡♡」
綾小路「嘘くせェ」
堀北「えっちぃのは嫌いです!!」

真鍋⇒自業自得とは言え作中でもまあまあ可哀想な人。軽井沢を虐めてた。アニメでは龍園に思いっきり机に顔面を叩きつけられてた。可哀想。
選挙ゲームでは退学しない派閥を選んだが、代表者が龍園になっちゃったから嫌われ者に指名された。可哀想。
混合合宿では、カムクラの命令を忠実に聞かせて健気に頑張らせた。残した結果はそれなりに優秀。だが、龍園目線は任務失敗した奴に過ぎないので容赦なく退学候補者へ。可哀想。
カムクラはこの失敗からどう変化するかを見るため実験中。だが、2000万ポイントを使ってまで救う必要はないと思っている。
ビジュと声好き。

佐藤⇒綾小路に恋しちゃってる子。健気なギャル。足が早い場面を見て惚れたなら、柴田か須藤にしときなさい。あんなヤベェ奴に惚れちゃダメよ。
9巻カットのおかげで友達と仲悪くなってない。かわいいから好き。

篠原⇒最新巻で話題になってた人。この人も9巻カットのおかげで売春の風評被害がない。
作中ではブスってよく言われてるけど普通にかわいい。なお性格。

松下⇒実力隠しちゃってる系の女子。ビジュ人気がすごいイメージ。本作では失敗したとはいえ、いち早くカムクラに接触している。
原作よりもクラスに期待していないが、混合合宿での堀北の活躍を見てやる気を取り戻しつつある。本人は堀北とも良い勝負ができる実力があると思っているが、堀北の方が普通に実力高い。かわいいけど嫌い。
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