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日向創。彼の登場によって、世界の在り方は歪んでいく。
バスの窓から覗けていた景色は真っ白へ変わり、薄い緑色で描かれた数式が空中に羅列されていく。
エンジンの音は消え、適温だった空調も感じなくなる。
いつの間にか座っていたバスの座席がなくなって自分が立っていることに気付けば、常人でも現状が異常だと理解する。
「……だ、誰だよッ!!」
「カ、カムクラくん? いや、でも髪色が……」
山内、真鍋の両名は日向を見て当然の疑問を口にする。
どちらも驚愕。真鍋は似た顔の人物が思い浮かべたが、そう口にするのも致し方ない。
「俺はjomsys jsxo,r」
自己紹介の後、日向は笑顔を見せて2人を安心させようとした。
しかし、その声にはノイズが走っている。砂嵐のような音が言葉をブレさせる。
「色々と疑問が尽きないのは無理ないと思うが、詳しい説明は次に,repads,sdoys後で聞いてくれ」
日向は違和感に対して少し考えるような素振りをしたが、すぐに2人へ視線と笑みを戻し、同じように続けていく。
その微笑みに頼もしさと安堵感があることから、カムクラは日向が自身と同じ才能を有していることを確信し、警戒を強める。
また、カムクラはこの不可解な現象に対し、状況を理解する。
周囲の変化からここはプログラムの中で確定。このブレは、無理に介入していることによるバグのようなものと認識する。
「……対象のデータにjsdpmm、異常なし。ウイルスdommuii形跡なし。退学によるdrodom状態の異常なし。よって、これより“山内春樹”“真鍋志保”の2名を@itphits,iよりfsdduiyiさせる」
日向は退学者である2人をじっくりと観察した後、ゆっくりと口を開いた。
「お前、さっきから……、なに、を……」
日向がプログラムされた機械のように事務的に言葉を告げていくと、2人は眠気に襲われたかのように意識が薄れていき、目を閉じていく。
身体から力が抜けて、倒れ伏した2人の身体は光に包まれていき、空間を満たすように粒子となって広がっていく。
カムクラはその光景を見送り、事態を把握する。
今、2人は光に包まれながらデータの集合体としての役目を終え、この場から消えた。
日向の言葉通りならば、向かう先は外の世界。今まで行っていた推測が繋がったことを、カムクラは断定する。
「随分と遅い接触ですね、日向創」
真っ白の空間で、同じ顔を持つ人間が真正面から向かい合う。
日向の理想の体現者、カムクライズルは全てを透徹したような鋭い目付きで日向を睨む。
「悪いな。p,srの思っている通り、このdrlsoは予定通りには進んでいないんだ」
「……そのまま話し続けてください。即座にその文字化けを理解して会話を成立させます」
会話に差し支えるようなブレを、カムクラは分析していた。
そしてここまでのパターンから、その謎を解けると判断して会話を続行させる。
「分かった。p,srの予測通り、このdrlsoでは一悶着あってな。だが、それもlsolryiしてきた。やっと、p,srと話す時間を設けられた」
日向は空いていた距離を歩み、約1m程まで詰める。
その後、指をパチンとならせば、2つの白い椅子が何もない空間から現れる。
そんな魔法のような出来事にどちらも驚かないのは、その理屈を理解しているからだ。
日向は腰を下ろし、カムクラへ坐るように促すが、カムクラは動くことなく会話を続ける。
「こうやって接触したということは全てを話すと?」
「……このdrlsoのこと、どうしてptrとp,srが分かれているか、そしてのp,sr役割をな」
カムクラは超分析力で嘘がないと判断し、椅子に座る。
走り続けるノイズは砂嵐のような聞き慣れない濁音として走り続けている。
しかし、カムクラは超高校級の希望。その不規則な音に規則性を見出すことはそう難しいことではなかった。
「指示語……お前、僕の、役割……」
カムクラは分析をしながらも警戒を緩めない。
血のように赤い瞳と夕焼けのような朱色の瞳がぶつかり合う。互いに、超分析力で出方を伺っていた。
それもそのはず。
カムクライズルからすれば、生まれて初めて同格の相手と話す。日向創からすれば、有する才能の本来の持ち主と話す。
警戒しない方が難しい。
「……ははっ」
そんな張り詰めた空気の中、日向は思わず嬉しくなった時のような朗らかな笑みを零した。
カムクラはすぐに疑問に思い、追求する。
「何を笑っているのですか?」
「いや、以前はp,srの姿に驚いていたけど、落ち着いてxonimmの追い求めていた姿と対面すると何だかlsmhsonilsoというか……」
「くだらない感想、と言った所ですか。僕の記憶と容姿はとっくに把握しているはず。今更何を抜かしているのですか?」
理想の体現者になった自分との対談に、物思いにふける日向。
カムクラは言語を推測しながら、能天気な日向に喝を入れるように厳しい言葉を吐く。
「そうだけどさ、今のp,srはあのおどろおどろしいdihsysじゃなくなって近寄りがたくなくなった。jrmlsはそれだけなのに、何だかdroyupiしたように見えてな」
「最後の言葉は……、成長で合っていますか?」
カムクラがそう言えば、日向は瞬きを返した。
言葉で返さない。ジェスチャーでも正しいことを伝えないことから、カムクラは日向が言語以外にも行動制限を受けていることを察する。
「この僕が人間らしくなったと言いたいのですか?」
「このdilso……学園で、暮らすことでp,srは人を、lsmxupiを知れただろう」
日向はうっすらと笑みを浮かべる。
カムクラは対照的に無表情。そのまま彼の言葉から情報を照らし合わせていく。
日向は今までの自分を観察している。つまり、カムクライズルが変わるように仕向けていたのは日向創の可能性が高く、優位はあちらだと判断する。
「……なるほど、あなたのノイズにも少しずつ規則性を見つけてきました。つまるところ、この世界……学園は僕の更生プログラムでもあった訳ですか」
カムクラが確認を取るように告げれば、日向は先と同じように瞬きを返す。
「正確には、ついでにそうした。jpmtsoはp,srがここにいることなんてupyroになかった」
「では……その予定を全て教えてもらいましょうか」
カムクラはノイズの走っていた会話に対して、少しずつロスなく会話できるようになってきていた。
法則は見えてきた。だからこそ、ここで雑談を切り止め、本題に進める。
その判断は正しかった。実際、日向もそんな長い時間話し込めない。
重要な話を始めるには良い切出しだった。
「まず、このdrlsoについてだな。このdrlsoは『lsmdroしたdomdrlso@itphits,i』だ」
「……なるほど、法則性が分かりました」
淡々と告げた日向へ、カムクラも同様な口調で返す。
この短時間で、世界の希望はノイズまみれの言葉を解析し終える。
それでこそ、超高校級の希望。世界が生んでしまった埒外の怪物が、答えを口にする。
「この世界は────完成した新世界プラグラム。やはり、僕の推測は間違っていなかった」
カムクラがそう言えば、日向は笑みを返した。
法則を導いたことで、ノイズは既にノイズではない。
会話は、成立する。世界の真実は、話される。
新世界プログラム。
それは意識をプログラムデータに変換し、肉体を眠らせたまま精神だけをデータで作られた新しい世界へ転送する技術。
いわゆる、
「左右田和一と協力の下、僕の才能をフルに使って完成させましたか」
「その通りだ。この完成した新世界プログラムは以前使用したものと違って、何十万という人間のフルダイブを可能とした技術に進化した。今回は、被験者の記憶を利用してこの高度育成高等学校を舞台に設定して、プログラムを進めている」
被験者の記憶を頼りに複雑な世界を構築し、そこで生活する。
舞台は高度育成高等学校。全てが電子で構築された仮想の世界だった。
「オーバーテクノロジーであるこれを、もう一度使うことによく許可が出ましたね」
「そこは苗木の協力あってのことだ。だが、使わないに越したことはなかった。なにせ、進化したこのプログラムは文字通りの世界の創造。世界の中では管理者が時間の流れすら決められる。はっきり言って、この技術1つで世界の経済を破綻させれるくらいには危険な代物だよ」
日向は先ほどまでの笑みが嘘かのように、険しい表情で告げる。
カムクラは己の才能を正しく理解しているからこそ彼の心境に同意する。
完成された新世界プログラムの危険度は世界有数の兵器や発明ですら霞む。
使い方次第であらゆる分野で革命が起きると断定していい。
例えば、仮想現実内による軍の強化。
現実と同じ兵器を何のコストもなく作り出し、兵器を使用した実演、究極的には億単位のNPCを標的にした戦争の練習まで可能だ。
世界が喉から手が出るほど欲する恐ろしい技術。理由なしに使えない。
「その危険度を理解した上で完成した新世界プログラムを使うと決めた。つまり、使わざるを得ない理由があったわけですか」
「ああ。この高度育成高等学校にいた『絶望患者』を全員元に戻すためには、これを使わざるを得なかった」
カムクラは一瞬だけ眉を動かす。
高度育成高等学校にたくさんの絶望に落ちた人間がいる。
カムクラはそれを考慮していた。
以前からこの世界が新世界プログラムであることは気付いていた。
だから、こんな危険な技術をタダで使うわけがない。何かしらの大きな目的のために使っている。
そしてその代表例が、77期生に使った未完成の新世界プログラム。
この完成した新世界プログラムも同じように使う事くらい、推測の内だった。
しかし、その分かりきった事実にカムクラの内心は僅かな動揺があった。
絶望患者は全員なのか、それとも何人かは違うのか。以前の彼なら気にもしなかった事に焦点が当たり、そこから動揺は生まれていた。
「この世界にいる存在は全員生きているのですか?」
「いいや、皆の記憶から抽出されて出来たNPCもいる。だが、今の1年生、2年生、そして来年、再来年に入学してくる新1年生は退学した人間も含めて全員生きていて、プログラムに参加している」
その残酷な事実に、カムクラは少しだけ安堵した。
そして同時に、特定の集団が全員生き残っているという事実に違和感を覚える。
「なぜ、彼らは絶望蔓延る世界の中で生き残っていたのですか?」
絶望していたというならば、彼らは互いに殺し合っていてもおかしくない。
無意味な破壊と殺戮を、命を無駄にする行為を反復する。
そんな無価値な絶望を行っていない理由を、カムクラは日向に問いただす。
「彼らの大半が、統率された絶望患者だったからだ。彼らは無意味な破壊や絶望を広げることはなく、まるで機械のように黙々とこの学園で様々な訓練をしていた」
「人が機械のように……それも1つの絶望の形ですか。魂の抜けた人間のようだったと?」
軍隊のように統率された訓練をしていたから、死者が出なかった。そう考えれば辻褄は合う。
しかし、肝心の理由は見当がつかない。
「それに近い。彼らは
だから、殺し合いという最悪は起きなかった。
そしてそれを可能にした映像を作れる技術を持った男こそ、御手洗亮太。
元超高校級のアニメーター。アニメーターとしての能力は極めて高く、映像から五感に影響を与えられ、応用すれば人の感情をコントロール出来るほどの技術を有している。
そして、この能力は人類史上最大最悪の事件において江ノ島盾子に利用され、絶望のビデオを誕生させてしまった。
この学園の生徒はその模造品、あるいは欠陥品の洗脳映像を見て心を失った。
カムクラは日向の証言に矛盾がないことを確認できたが、もう一つ懸念する。
(心を失う。その技術はカムクラプロジェクトでも使われていた。この件には希望ヶ峰学園上層部、あるいはそれに接触できるほどの権力を持った人間が関わっている)
思った以上に根が深そうな事件。日向創がリスクを冒してまでも行動する理由は合点がいき始める。
「被験者全員が絶望に落ちたのですか?」
「いいや、洗脳映像が未完成だったこともあって、意志の強い人間は心を保っていた」
心が残っていれば、記憶ははっきりと残り、彼らから世界を形成できる。
まさに希望の意思と呼ぶべき強い精神力を持った人間がこの学園には残っていた。カムクラはそう推測する。
「俺はこの学校を訪れた時、目を疑った。この学校はどこにも破壊痕がなく、血の匂いもなかった。生き残った大人たちは無表情で何の感情を見せることなく、業務を全う。子供たちも同様で、全員が同じ時間に、同じ道を歩いて学校に向かい、同じ訓練を行っていた」
「おかしな話です。心がない人間がそんな統率の取れたことなどできない。それが習慣的な行動だったとしても、全員が同じ行動はあり得ない。彼らに訓練をするように指示をした人間がいるはずです」
本来の絶望ビデオが流されたのではなく、未完成の映像が流されたことで殺し合いに発展しなかった。
確かに、この学園は箱庭のようなところだが、外部から情報を取り入れることはそう難しいことではない。
絶望のビデオはこの学校でも流れるはずだった。しかし、日向創の話が本当ならば、映像を差し替えた人物がいる。
カムクラはそう推測していく。
「その通りだ。今回の件、これが人為的なものと判断した俺はすぐに捜査を開始した。そして、主犯格のグループを全員捕らえることに成功した。その後は苗木たちの協力の下、ジャバウォック島に移動。この高度育成高等学校の関係者、卒業生と生徒たちの記憶を使用してこの世界を構築。そこからは更生プログラムにかけて全て元通りって流れだったんだが……」
ここまでの会話から、カムクラは更生プログラムというのが、ジャバウォック島で使用した時と同様のものだと察した。
壊れてしまった彼らの心を戻すために、送れたはずの学校生活をプログラムの中でやり直す。
そして、プログラムを終えた際の記憶を肉体に上書きすることで壊れてしまった心を再構築するために、新世界プログラムを利用した。
しかし、
「なぜか、江ノ島盾子の介入があった」
「話が早くて助かる」
日向は申し訳なさそうに頷く。その後、指をパチンと鳴らす。
すると、空中に1人の男の画像が現れる。
その男は貫禄があり、見るからに高価なスーツを身に纏った政治家のような男だった。
カムクラはこの男を知っていた。
かつて、校門前で自分の事を希望ヶ峰の犬と呼んだ男だからだ。
「主犯格の名は綾小路篤臣。元政治家であり、『ホワイトルーム』と呼ばれる教育施設の最高責任者だ」
カムクラはホワイトルームの詳細が気になったが、一旦おいておく。
それよりも気になったことがあるからだ。
「彼はこの世界で唯一、僕を超高校級の希望と認識していた。その際、僕を見て記憶を思い出したかのような反応を見せました」
「その分析は正しい。あの時、奴は思い出したんだ。本来ならば思い出せないはずの記憶を、人並外れた強い意志でな」
カムクラは綾小路篤臣が自分、そして希望ヶ峰学園に憎悪や怒りを向けていたことを思い出す。
服装から見ても権威ある人間、彼ならば希望ヶ峰学園とのつてを持っていてもおかしくなく、元凶と考えるには妥当な人物だった。
「……あの時。あなた、綾小路篤臣が記憶を取り戻した時、あの場を観察していましたね?」
カムクラはまるで実際に見ていたかのような言い方が気になり、日向に問う。
「ああ。奴は主犯格だが、絶望に影響を受けた可能性がある人間。警戒してはいたが……まさか、強引にプログラムを突破するとは思わなかったがな」
俄かには信じがたい現象だが、実際にカムクラは目の前でそれを観測した。
確かに、綾小路篤臣はあの場で記憶を取り戻したような素振りを見せた。
今の今まで知り得なかったが、カムクラを見たというトリガーで記憶が蘇っていた。
「あの場にはあなたともう1人監視者がいましたね?」
「……もう1人? 俺は常に1人で行動しているぞ」
齟齬があった。
あの時、カムクラは2人の監視者を感知している。
学校内からカムクラと綾小路篤臣を監視する者が2名いることをはっきりと感じていた。
しかし、日向創はその内の1人ではないと本人が告げている。
疑問が、カムクラの中に残る。
「あの時、あなた以外に2人監視者がいた。それも学園内に」
「……なんだと?」
それは日向ですら分からない事実。だが、無理もなかった。
日向は綾小路篤臣の予想外の事態によって、その状況に気づけなかったのだ。
ゆえに、2人の監視者を見落とした。
日向は優秀になった頭脳をフル回転させる。
「……まさか、あの時に綾小路篤臣の中に潜んでいた江ノ島のウイルスが分離でもしたのか? いや、だとしても校内にもう一人? 櫛田に接触した時に全て排除したはずだが、いったい何が……」
考え込み、独り言を呟いていく。
カムクラとしては新しい情報は推測の元になる。
同様に懸念を考慮していく。
「すまない。こちらで調査は進めるが、十中八九、俺の手の届かない場所でまだ江ノ島のウイルスが動いてる。お前も気を付けてくれ」
「気を付けてくれ? あなたが調査して、それを処分すればいいじゃないですか」
「そうしたいのは山々だが、それは無理なんだ」
日向の声色は落ち着いていて、真剣に意思を伝えようとしていることが伝わってくる。
その表情、声色から嘘をついているとは感じられない。
「少し話は戻る。そもそも、なぜこの世界の人間が希望ヶ峰学園に関わることを覚えていないか、についてだ」
日向は一呼吸置いてから話を続けた。
「それは、俺がこの世界から『希望ヶ峰学園に関係する全ての事象』をオールデリートするプログラムを打ち込んだからだ」
その発言に、カムクラは目を細めた。
おそらく、世界そのものに干渉するプログラム。
何らかのイレギュラーを排除するための緊急プログラムであることは、日向の真剣の表情から察していた。
世界観クロスです。
高度育成高等学校も希望ヶ峰学園もどちらも存在している世界線と設定しています。
よって、江ノ島とかいうはた迷惑な女が起こした事件の被害を高育も受けています。
しかし、絶望堕ちというよりは洗脳されたという方が近く、彼らは毎日指示通りに訓練をしていました。
パパ小路のせいです。やたら意志が強い人の代表であるパパは、絶望堕ちすることなく清隆の回収に素早く来たのですが、そこには外部から切り離された環境があり、絶望がそこまで広がっていない学校があった。パパは即座に外部からの情報を全てカット。人々が絶望の原因になった放送もちろん止めました。代わりに、政界関係のつてで手に入れた御手洗の洗脳アニメの模造品を流して学園を乗っ取ろうとした。
結果、心の強い人間達以外は洗脳へ。そこからはホワイトルームのような訓練を繰り返す人形のでき上がりです。
その後は、未来機関が発見して日向くんたちを派遣。そんであれよこれよと事件解決です。ちなみに、心がぶっ壊れてないのは心つよつよの人たちです。龍園とか軽井沢、高円寺とかね。
綾小路パパ⇒黒幕。まだいろいろやってる。詳細は秘密。