選抜種目試験
特別試験を乗り越えて1日の休暇を挟み、3月8日を迎える。
波乱万丈あった投票試験は終わり、ついに本来の1学年最後の特別試験の発表日になった。
各クラスで様々な変化を及ぼした投票試験。ついに学年から退学者が出てしまったことは、今後の立ち回りにも大きく影響するでしょう。
「それでは始めましょうか」
眼鏡の位置を調整し、ゆっくりと口を開いた坂上先生の表情はどこか暗い。
その視線は教室を端から端まで見渡していたが、一瞬、他より長く見ている場所があった。
つい先日まで机と椅子があった場所。40あったそれらが1つ欠け、空いてしまった穴。
そこは、真鍋志保がいた場所。
選挙ゲームで嫌われ者として選ばれ、強制的に退学者を出す投票試験によってこの学校から去った少女の席だ。
思う所があることは、表情から明白。しかし、坂上先生は私情を挟むことなくHRを始めていく。
「これより、1年度の最終試験の発表を行います。1年間を締めくくる最後の特別試験はこれまで学んできた集大成を見せてもらうことになるでしょう」
坂上先生は1年最後の特別試験、その説明を開始する。
誰も口を挟むことなく、ざわつくことなく、静かに話を聞き入っている。
今まで心のどこかにあった“退学者が出ない”という考えが粉砕され、クラスメイトは次の退学者は自分かもしれないと、危機感を抱いていた。
「1学年最後の特別試験は『選抜種目試験』。ペーパーシャッフルの時のように、対決するクラスを決めて行われます。試験内容は少々複雑ですので、カードを用いて説明していきます」
坂上先生は試験の説明をするために、ホワイトボードへトランプサイズのカードを張っていく。
何も書かれていない白いカードが10枚、生徒の名前が書かれた黄色のカードが38枚、計48枚が張り出される。
カードに名前が書かれていないのは僕だけ。不自然に足りないことから後々の説明に使用するために外しているのだろう。
「まず、この白い10枚のカードには『種目』を全部で10個。決着方法とルールも含め、3月14日までに自由に決めてもらいます。ここで言う『種目』とは……例えば筆記試験、将棋、トランプ、野球にしておきましょうか」
坂上先生が例で挙げた種目をカードに書き込んでいく。
種目と呼べる競技の範囲が気になる所だが、とりあえずは話の続きを待つ。
「もちろん、自由と言ってもいくつか決まりごとは存在します。極端な話、マイナー競技や特定のゲームは種目にできません。種目のルールも公正かつ分かりやすいものでなければいけません」
この自由に選べる種目10種も、ペーパーシャッフル同様、学校側が適切かどうかを判断するのだろう。
あまりにマイナーなスポーツや品がないゲームは選ばれないらしい。
「それと、引き分けが起きないようにルールを決めてもらいます。たとえば、筆記試験ならば1科目を選んでテストの点数を競い合うとして、同点は認められず、同点の場合に勝ち負けを決めるルールを皆さんには作ってもらいます」
厳密なルール決めによって、確実な勝敗がつくようにする。
先の例ならば、同点の場合は予め難関だと決めておいた問題の正答率や先に試験を解き終わった方などのような細かいルールを想定しておく必要がある。
ここまでの説明を纏めれば、要は大勢が知る、かつ絶対に勝ち負けを決められる明確なルールを決めた種目を10個決めればいい。
「対戦するクラスを本日決めた後、3月15日に対決クラスの10種目及びルールが発表されます。そして、3月22日の試験本番日に各クラスは10種目の中から5種目まで絞り、それを本命として提出。最終的に対戦するクラスの種目と合わせて10種目の中から、7種目をランダムで選んで対戦します」
試験日程を簡潔に話した後、坂上先生は補足説明に入っていく。
まとめると、今日中に対戦クラスを決める。
3月14日までに10種目を確定させる必要があり。もし決められなければ、学校側が代案する。
3月15日に対戦クラスの10種目とルールが発表され、1週間でブラフを見極めながら対策を練る。
3月22日の当日に選んだ10種目の内、5種目を学校側に提出。各クラスから選んだ20種目全てで対戦するのではなく、選ばれた10種目で試験種目が確定。
さらに、試験本番では完全ランダムで10種目の中から7種目が選ばれ、それらで勝敗を付ける試験だ。
「ここまでの説明で質問はありますか?」
坂上先生の声掛けに、金田くんが挙手する。
「種目は競い合えるものであるならば、大抵よいのですか? たとえば……、じゃんけんを種目にするとか」
「良い提案です。じゃんけんは誰もが知っていて、ルールも決めやすい。運が結果を左右する種目となりますが、勝ち負けははっきりするので学校側も認めるでしょう」
運だけで勝負が決まるような競技も入れられる。
素の実力だけでなくこのような要素を入れているのは、下克上を起こりやすくするためでもあるのでしょう。
「勝ち負けを決めるということは、7種目の内、4勝すればその時点で試験は終了なのでしょうか?」
金田くんは質問を続ける。
「いいえ、試験は7種目全て行われます。その理由は勝敗によって変動するクラスポイントが関係しています」
「……なるほど、ありがとうございます」
ポイントの変動という最も重要な点。説明は途中なので、金田くんは最後まで聞いてから判断をするように考え、一度発言を控えた。
「それでは説明を続けます。種目を決める以外にもう一つ、重要な部分があります。それは大人数を束ねるために、この特別試験では『司令塔』を一人用意しなければならないということです」
坂上先生は黒板に司令塔と書いた後、僕の名前が書かれた黄色のカードをその下に貼る。
「前回の試験で君たちのリーダーはカムクラくんになったとのことだからね、彼を例にして話を進めます。臨機応変な対応が求められる『司令塔』は全ての種目に関与し補助をするライフラインと捉えてください。……例えば、筆記試験の対戦中、カムクラくんは1問だけ問題を解くといった介入する余地が与えられます」
種目に選ばれた生徒同士の基礎能力対決ではなく、司令塔の介入ができる。
これによって、他クラスにも逆転の目が残されている。
「もちろん、司令塔が関与できるルールも皆さんに決めてもらいます。関与方法は平等な関与であれば、大体認められると思ってください」
筆記試験であれば、分からない問題を1問だけ解くことができる。
他の競技……例えば野球やサッカー。選手交代ができるような関与を設定すれば、実質的な監督として役目を担える。
ルール次第で本格的な介入ができるようにすることもあれば、間接的にしか介入できなくするように仕向けられる。
「以上のように、司令塔は必要不可欠な存在。必ず選んでもらいますが、もちろん、司令塔にもメリットデメリットがあります。勝利した際は個別にプライベートポイントが与えられ、敗北した時は責任をもって退学してもらいます」
僕が司令塔であると例を出されたこと、プロテクトポイントを持っていることから、僕に視線が集まっている。
それでいて、司令塔は全体の指揮官としての役割が強いので、このクラスのリーダーとなった僕は適任だ。
「さて、最後に肝心のポイントの変動について説明させてもらいます」
坂上先生は黒板に各クラスのポイントを書き記していく。
3月1日時点のcp(クラスポイント)
Aクラス(坂柳クラス):1386.5cp
Bクラス(神座クラス):1049.5cp
Cクラス(一之瀬クラス):961cp
Dクラス(堀北クラス):298.5cp
9月段階からポイントは変わらず。
どのクラスも問題行動なく過ごせているようだ。
「クラスポイントの変動は1種目につき30cp。7勝なら210cp、5勝2敗ならば90cpが『相手クラス』から移されます。加えて、試験勝利によって学校側から100cpが与えられます。ちなみに、司令塔への報酬プライベートポイントは一勝で10万ポイントです」
得られる最大ポイントは310cpと70万プライベートポイント。
相手のクラスから試験を奪える点を踏まえ、大量のポイントの増減が起こる特別試験と見ていい。
組み合わせと結果次第で、上位三クラスの順番は変わり得る。
「もし対戦相手のcpが不足していた場合は、その不足分を学校側が一時的に補う形で補填されます。つまり、cpがマイナスになってしまったクラスは、表面上は0のままだがそれ以降に学校に対し返済していく形を取ってもらいます」
見えない形で、cpが0以下になる。これは良い情報です。
ただ、今回は全てのクラスが210cp以上持っているため、その心配はなさそうです。
──────
坂上先生がいなくなった授業までの僅かな時間。
教壇に置かれた種目のルールが書かれた紙をクラスメイトが見ようとしている中、金田くんが割り込み、携帯で撮影し、クラス全員が所属しているグループチャットに転送する。
その後、紙を持って僕の元まで持ってくる。
龍園くんではなく僕に。今まで龍園くんの指示に尽力していた金田くんの行動に、クラスメイト達もリーダーが代わったことを改めて実感したに違いない。
僕はその紙に目を通す。
選抜種目試験、種目を決める際のルール
・マイナーすぎる種目、複雑すぎる種目、及びそのようなルールの制限
極めて細かなジャンルなどは不許可とする場合がある。
筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題作成を行い、公平性を保つものとする。
種目において、基本ルールを逸脱、改変する行為は禁止とする。
・使用できる施設に関して
試験当日、司令塔は多目的室にて種目進行を行う。
また、体育館やグラウンド、音楽室、理科室など学校内の施設は基本的に使用可能であるが、一部例外も存在する。
・種目制限、時間制限に関して
同じ内容と判断される種目は各クラス1つまでしか採用できない。
また種目の消化にかかる時間が長すぎる場合や時間制限のない種目など、採用が見送られるケースがある。
・出場人数に関して
種目に必要な人数は交代要員を除き、申請する10種で全てが違っていなければならない。
最小人数は1人であり、最大人数は20人まで(交代要員も含め20人を超えてはならない)
1クラスの出場する人数が交代を含め、10人を超える種目は最大2つしか登録が出来ない。
・参加条件に関して
各生徒が出場できる種目は1つであり、2つ以上の種目に参加することはできない。
ただし、クラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、2つ以上の参加を可能とする。
・司令塔の役割に関して
司令塔は7種目全てに関与する権利を持つ。どのように関与するかは種目を決めるクラスが定めること。
学校側が承認して初めて関与の採用となる。
細かく記載されたルール、これによって戦略はまとまった。
この特別試験は上のクラスとの差を縮めるには絶好の試験と言っていい。大きく動くポイントと運次第で有利な種目で戦える可能性から来る十分な勝機、仕掛けるには良い試験だ。
加えて、この試験で最も重要なのは相性。今回の試験は一年最後に相応しい学んできたことの集大成。一つの秀でた能力だけでは、試験で勝利を収めることは難しい。
ゆえに、今回はクラス間の相性が良い敵と当たり、長所を最も生かせる敵と戦うことが高い勝率に繋がる。
そして、このクラスにとって最も勝率が高い対戦相手とその戦略は既に思いついている。
「司令塔は僕がやります」
教壇に立つことなく、僕は座ったままクラスメイトに告げる。
携帯を見て各自ルールを確認していたクラスメイト達も一斉に僕を見た。
混合合宿の結果から導き出された僕の指揮能力とプロテクトポイントを有していることから反対意見はない。
龍園くんも大人しく携帯に目を通していて、反発する様子はなかった。
「指名するクラスはCクラス。種目に関しては確実な勝利をもたらせる種目がある場合、僕に提案してください」
彼らの気になっていることを、リーダーとして簡潔に告げる。
反応は驚愕が大半。指名した対戦相手が、最もcpが低い堀北さん率いるDクラスではなく、一之瀬さん率いるCクラスであったことがその要因だ。
「なぁ、なんで対戦相手がCクラスなんだよ。この手の試験なら、Dクラスの方が良いんじゃないの?」
前の席に座る伊吹さんがこちらへ身体を向け、真っ先に問う。
「当然、勝てる可能性が最も高いからです」
「なんで? 総合的な力が高い奴らとこの手の試験で真正面から戦ったら苦戦すると思うんだけど?」
伊吹さんがもっともな疑問を口にする。
坂上先生が申し上げた通り、今回はまさにこれまで学んできたことの集大成。競技は多岐に分かれ、運動能力と学力だけでなく、様々な能力が要求される。
秀でた能力を使い分ける対応力や状況判断能力、そもそもの指揮官の有無。不得意を補い、得意を活かす連携能力などとクラスの総合力、その強みを引き出す必要がある試験だ。
この総合力という点、正確に言うならば一之瀬帆波を中心にした連携力やチームワークはこの手の試験に向いている。
「団結力と結束力の高さからくる連携と全ての能力が平均以上でこれといった欠点が見つからない総合力の高さは確かに脅威です。事実、あなたの言う通り、総合的な能力の高さは4クラスの中で最も高い」
「……尚更わかんない。なんでCクラスを選んだのよ」
矛盾する会話に苛立ちが生じた伊吹さんは僕を睨む。
「それだけだからです。素質はある。けれど、それを率いていく組織が未完成であるならば、その実力は引き出されない。特に、あのクラスはリーダーがいませんから」
さらに言うのならば、総合的な能力が高いだけで、1つずつ細かに能力を分析していけば、他クラスと比べて劣っている部分も分かる。
たとえば、学力。ペーパーシャッフルでは坂柳さんの介入によって勝利したが、そうでもしなければ単純な学力勝負ではAクラスに劣る。
たとえば、身体能力。体育祭で全てのクラスの運動能力を分析した結果、平均の高さはBクラスが最も高かった。
たとえば、意外性。連携力が高いことは大きな武器だが、バラバラながらも高い個人を有しているDクラスと比べれば、取れる戦略の幅も狭く、対応は容易だ。
そして何より、
「一之瀬がリーダーじゃないの?」
「ただの飾りです」
リーダーと指揮官がいないことによる集団の脆弱性。
一之瀬帆波は集団の前に立ち、団結して戦うことができても、取る戦略は一辺倒で絡め手に酷く弱い。
所詮は、烏合の衆。まして僕が率いていくのだから、取るに足らない。
「椎名さん、金田くん。あなたたちには、特別試験の対策として教師役となってもらいます。矢島さん、木下さん、園田くん、石崎くん。あなたたちはクラスメイトの得意不得意を聞き出して纏めておいてください。最後に何人かの生徒には、今日から試験当日まで敵の種目を探ってもらいます。選ばれた方は指示に従ってください」
それ以上の追求がなかったので、僕は特定の生徒に指示を飛ばす。
この試験の勝ち方は無数にあるが、僕がリーダーである以上、勝利は絶対だ。
────僕にも、この学校でやりたいことができた。
そのための前準備で、このクラスの総合力と連携を高めておく。
龍園くんに明け渡すために控えめではなく、他クラスと比べても遜色ないほどに。
全ては僕の知りえない景色のため。
この世界の仕組みを知った以上、そちらの対処をする必要があるが、惜しみなく才能を使用するので何も問題はない。
──────
特別棟にある多目的室。
ここは今回の特別試験でメインとなる教室で、司令塔はここから試験本番で指示を飛ばすことになっている。
「一番乗りのようですね」
多目的室へ一緒に向かっていた坂上先生が教室の扉を開き、辺りを見渡した。
目を引くのは、向かい合わせに並べられた2台のパソコンと共通の大きなモニターだろう。
あれらが特別試験本番に使用する機械と見ていい。
「坂上先生、先程の件は必ずお伝えください」
「……分かりました。あまり無茶はしないように」
僕の確認に、坂上先生は渋々とした様子で納得する。
道中、僕はあるお願いを坂上先生にしたのだが、坂上先生はあまり乗り気ではなく、今も同じ心情のようだ。
このお願いは今後の試験において重要なこと。リスクがあっても望まなければならないので、断られては困る。
「あれれ、一番だと思ったのになぁ」
扉が開かれる音と星乃宮先生の声が聞こえた。
背後から感じる気配は二つで、もう一つの気配は一之瀬さんだ。
振り向けば、彼女は穏やかな表情を張り付け、内に秘める緊張を隠していた。
「こんにちは、カムクラくん。やっぱり、君が司令塔なんだね」
驚いていないのは、僕が司令塔になったことが予想通りだから。
今回の試験は負けたら司令塔が強制退学するルールであるため、プロテクトポイントを持った人間がリーダーとなると予想していたのだろう。
ちなみに、前回の投票試験でプロテクトポイントを有した生徒と退学した生徒は以下の通りだ。
・Aクラス⇒プロテクトポイント所有者:坂柳有栖 退学者:なし
・Bクラス⇒プロテクトポイント所有者:神座出流 退学者:真鍋志保
・Cクラス⇒プロテクトポイント所有者:一之瀬帆波 退学者:なし
・Dクラス⇒プロテクトポイント所有者:平田洋介 退学者:山内春樹
「Bクラスは選挙ゲームでリーダーが君になったって聞いたけど、それは信じてもいいのかな?」
「事実です。今のBクラスのリーダーは龍園翔ではなく僕です」
選挙ゲームの目的と結果は隠すつもりがなかったので、他クラスに知られている。
ちなみに、選挙ゲーム参加による報酬は既に他クラスへ支払われている。
龍園くんはあの公約を出した時点で学校側にポイントを支払っていたようで、今朝の段階で三クラスにはそれぞれ40万ポイントが振り込まれていたようだ。
「そっか。それじゃあ、試験で当たったらお手柔らかにね」
「残念ながら、僕が試験で選ぶのはあなたのクラスです。お手柔らかにはいきません」
「いやいや、まだクラスを決めるくじ引きは始まってないから分からないよ」
「幸運の才能くらい持っていますから」
多目的室に向かう道中、坂上先生から対戦相手の選び方はくじと聞いている。
運要素が強い方法は僕の前では無意味。僕の望んだ未来が待っている。
そして、待っているその未来の結末はCクラスの敗北。戦いにすらならないことを、その身をもって知ることになる。
「失礼します」
再び教室の扉が開くと、真嶋先生と坂柳さんが現れる。
これで3クラス。今回の試験で入れ替わりの可能性が高いクラスが揃った。
「ごきげんよう、お2人とも」
杖の音が存在感を主張させ、その登場に格を見せる。
自身の強さを疑っていない者の歩みは規則的で、分かりやすく響く。
「こんにちは、坂柳さん。なんだか、凄く機嫌が良さそうだね」
「フフ、その通りです。前回の試験結果は非常に興味深いものでしたからね」
坂柳さんは一之瀬さんから僕へと視線を向ける。
得意げな顔を浮かべているのは、前回の特別試験の結果を僕と話し合いたいからだ。
Aクラスは2000万ppを使用して退学者を出さなかった。
この未来は僕の推測とは少し違う未来、新しい可能性だ。
しかし、優越感に浸っている表情を見れば、彼女が何を考えてこの未来を導いたかがすぐに推測できてしまう。
「リーダーの就任、おめでとうございます。こうやってあなたが表に出てきたということは、龍園くんはとうとう見限られてしまったのですか?」
「少々事情が変わっただけです」
「事情が変わった、ですか。それはとても興味深そうな話ですね。何か心変わりでも?」
「はい。やっと、僕にもこの学校でやるべき目的ができました」
坂柳さんは僕がリーダーになったことの意味を知ろうと言葉を交わしてくる。
超分析力を持つ彼女ならば、この発言が今までの僕の行動傾向とは違うため、非常に特異に映っているのだろう。
「失礼します」
3度のノックの後、最後のクラスの担任と生徒、茶柱先生と堀北さんが教室に入る。
これで、今回の役者は揃った。
だが、その登場に疑念が残ったことで、この場にいる者たちの視線が1つに収束する。
「おや、てっきり平田くんが司令塔だと思ったのですが、あなたがここに来るとは」
皆の疑念を、坂柳さんが代表して答える。
それはこの場にプロテクトポイントを持った生徒が現れなかったこと。
Dクラスのプロテクトポイント所有者である平田洋介。しかし、現れたのは堀北さん。その選択に、2人の司令塔は裏を読もうとしていた。
「間違っていないわ。Dクラスからの司令塔は平田くんよ。ただ、彼は体調不良だったから代わりに私が説明を聞きに来たの」
「体調不良じゃあ、しょうがないね」
「ええ、体調不良ならば致し方ありません」
心配そうに告げる一之瀬さんと表情を変えることなく告げる坂柳さん。
善良な心を持つ一之瀬さんは言わずもがな。坂柳さんの方は、本当に体調不良かを訝しんでいる。
しかし、実際の所は体調不良ではないのだろう。
前回の試験における平田洋介の取り乱し方、山内春樹が退学した結果を踏まえれば、どのような生活を送っているかは想像するに容易い。
この場に堀北さんが来たことが証明と言っていい。
「それでイズルくん、あなたがこの学校でやるべき目的とは何でしょうか?」
全ての司令塔が集まったので、特別試験の対戦相手決めに進むと思いきや、坂柳さんが先の続きを話すように促してくる。
彼女と会話する気はないので、あらかじめ教室にいた3クラスの教師に視線を送るが、彼らもまた興味深そうに視線を返してきた。
最後に見た真嶋先生に早く進めるように目で訴えるが、彼は薄く笑って口を開く。
「悪いな、俺達も少し気になっている。茶柱先生、あなたも気になるでしょう? 歴代で最も優れた生徒と呼ばれる彼が、この学校で何を為すかを」
「……気にならないと言えば、嘘になります」
真嶋先生が茶柱先生や堀北さんにも状況を理解させるために話を振る。
星乃宮先生や坂上先生もまた、真嶋先生に同意であることを表情で伝えていた。
「言いたくないならば構わないが……」
「構いません」
肯定したが、もちろん詳細を教えるつもりはない。
これは言ってみれば、ただの宣誓。予想のできない未来を作るために、僕がやる気を出したことさえ彼らには伝わればいい。
「僕の目的、それは舞台を整えること。予想のできない未来を作るための土壌を、僕が作り出します」
目的は端的に告げた。
今までの僕はこの世界の在り方に興味がなく、ただ未知を見るために矮小な存在達を転がして遊んでいた。
しかしこの学園には、超高校級には至らないが様々な才能を持った者がいることを、この1年間で観測できた。
さらに世界の在り方を知った今、彼らを絶望患者に戻す気はない。そして、折角このような学びの場があるのだからもっと大きな未知が見たいと僕は考えてしまった。
今までの、それこそ江ノ島盾子に接触する前の僕ならば絶対にありえない思考。
なくなった心が形になったという程の劇的な変化が僕に起きたわけじゃないが、より小さな未知の積み重ねから予想のできない未来を見たい、そう考えれるようになった理由に、この学校生活は間違いなく影響している。
僕はそんな彼らがその実力を十二分に活かせる舞台を用意するために行動することを決めた。
当然、その舞台には僕も参加する。予想のできない未来を最も間近で見るために、たとえそれがツマラナイ未来でも見届けるために。
その結果、この学園の人間たちが僕の予想を超えてくれることを期待して。
そして、その代表が────貪欲に勝利を求める何の才能もない男であることも期待して。
「フフ、傲慢ですね」
真っ先に感想を伝えてくるのは坂柳さんだ。
彼女は僕の目的の具体的な内容に興味が尽きないようで、その口元に弧を描かせる。
「歴代最高のAクラスになる訳でなく、個人で2000万ポイントを溜める訳でなく、それぞれのクラスが全力で競い合える舞台を作る。立派な目的ですが、それは生徒目線の目的じゃありません。それは、教師やもっと上の人たちが目標にすべきこと。その発想に普通の生徒が辿り着くとしたら……周囲に敵が存在しない時です」
「それが僕の日常で、変わって欲しい現実です」
「……自分が絶対に負けないと? 驕りが過ぎます」
敵意を向ける坂柳さん。
彼女は僕と対等でありたく、その天稟の頭脳が自信過剰ゆえにその言葉を引き出している。
当然、このプライドもへし折る予定だ。
「どう思われようとかまいません。真嶋先生、それでは特別試験の説明を始めてください」
「……分かった」
真嶋先生も何か言いたげな表情をしていたが、教師としてその役目を果たすために切り替える。
まずは対戦相手の決定からだ。
といっても、その結果は言うまでもない。僕が当たりくじを引いて一之瀬さん率いるCクラスを指名したことで、AクラスとDクラス、BクラスとCクラスが対戦相手に決定した。
その後の司令塔の説明もスムーズに進み、僕は負けようのない戦いに退屈しながらも、自身の目的のために才能を使用することを改めて決定した。
日向くんとあったことで、カムクラくんはついに目的を持ちました。
と言っても、そこまで彼自身に変化はありません。
もっとも、このやる気ある時にリーダーになってるので、まぁ予想通りの結果になると思います。
特別試験のプロテクトポイントが平田になっているのは、平田が人気で賞賛票が集まったことに加えて、カムクラ率いるBクラスからの賞賛票も投票されています。これによって、原作と違って綾小路がプロテクトポイントを所持しないまま選抜種目試験に臨むことになります。
各クラスの先生
真嶋⇒原作通り。カムクラがクラスを率い出して急激にポイント上げてきたBクラスは非常に脅威だと思っている。でも、何を成すか聞いたのは興味から。生徒に対して個人的な恨みをぶつけるような人ではない。なっ、聞いているか?
2年生編のノリが体育教師のそれだが、担当科目は英語。
星乃宮⇒原作よりは荒れていない。その理由は茶柱のクラスがDクラスのままで、所持ポイントが低いから。それでも、堀北や櫛田、綾小路などの一定数の生徒は評価しているため、警戒はしている。今までBクラスだったのに、下から凄まじい勢いで上がってきて追い抜かれたのは致し方ないと思っている。カムクラのことは嫌い。
坂上⇒原作よりも楽しく仕事をしている。最強の手札がついにやる気を出してくれて、大歓喜してる。初期は問題のある面もあったが、この人が一番教育熱心で、生徒のことを考えている。凄いよ。私が教師だったら、龍園もカムクラも怖くて面談とかしたくない。
茶柱⇒原作よりもクラスに期待はしているが、同時に一個上のクラスにいる化物がヤバすぎて頭抱えている。基本的に戦犯。綾小路がああなったのも大体こいつのせい。でも、それ以外だと厳しさと優しさの両面を持つ教師ってイメージ。
あと、服がどすけべ。風紀を乱している。でも、バストは86。超高校級の胸襟には勝てない。
みんなはどなたを担任にしたい?