ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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1学年最終試験に向けて

 

 

 

 1年のほぼ全員が特別試験の対策に動いている。

 それは試験開始まで一週間を切っているから。皆が知っている当たり前のことだ。

 だから面倒だけど、私も試験のために練習することは致し方ない。

 

「……はぁ、はぁ、ちょっと、伊吹さん。2対1なのに、全く当たらないって、もしかして手を抜いてる?」

「馬鹿、言うな。はぁ、私だって、全力でやってるってのッ!!」

 

 隣で両手を膝につき、息切れしているのは同じクラスの西野武子。

 私と同じくこのクラスでは友達が少ない女だ。

 特段仲が良い訳じゃない。話せばそれなりに話せるが、互いに一人を好むのもあって進んで話す間柄ではないからだ。

 そんな女と一緒にいる理由。それも、朝っぱらから校庭の端にて仲良く体操服を着ている理由というのは、

 

「ルールは覚えてきたようですが、まだまだですね」

 

 全部、この才能バカのせいだ。

 きっかけは、こいつが私と西野、そして龍園が参加するキックボクシングの種目の練習をすると言いだしたことだ。

 この才能バカは、クラス全員の種目を見ている。放課後はフル稼働して勉強を教えまくっているし、バスケをしに体育館にも顔を出している。

 だから、こいつの使える時間は少ない。結果、私たち3人の練習は朝の7時からという訳だ。

 

「ったく、何で、私たちが朝なんだよ。他のどうでもいい奴らを朝にすればよかっただろッ!!」

「僕にとって、あなたたちは雑に扱ってもいい枠に入っていますから」

 

 ちなみに、龍園はサボり。絶対に許さない。

 

「あっそ、死ねぇ!!」

 

 身体も休まったので、私はキックボクシングの練習を再開する。

 まずは、ローキックで牽制。相手の意識が下に向かったかどうかを確認し、そこから次手を組み立てる。

 相手の視線を、重心を見て判断す……何で目が合うのよ。

 

「僕の意識は下にいきました」

「嘘つけぇ!!」

 

 こちらの思考を先読みし、舐め腐った発言をする才能バカに対して、私は挑発に乗るようにミドルキックを狙う。

 こちらの右足が向かうは左脇腹。明らかにわざと隙を作っているのだが、練習だからこそ狙えということだろう。

 私は全力でそこへ蹴りこむ。

 しかし、この才能バカは練習だというのにミットすらつけていない。だというのに、私の蹴りを左前腕で平然と受け止める。

 舐められている。ムカつく。とはいえ、こいつの戦闘能力はどうなっているんだという感心の方が少し大きい。

 

「悪くありませんね。やはり、反則負けさえしなかったらあなた一人で勝負はつくでしょう」

「ハッ、当然だっての。私の戦闘センス、舐めているでしょ?」

「センス? あなたに才能はありません。今の能力はただの努力で身についた代物です」

 

 貶しと褒めが同時に来たが、感情が反応したのは当然前者。

 私は苛立ちに身を任せて突撃する。

 

「死ぃねぇ!!!!」

「……うわぁ、女がしちゃいけない顔している」

 

 西野が何か言っているが、どうでもいい。

 今はこの才能バカに一発叩き込むことが先決だ。

 私は全体重を乗せた飛び蹴りを放つ。

 狙うは、金的!! 確実に、潰す!! 

 

「反則です。まったく、あなたは痛みで覚えてもらうとしましょう」

 

 才能バカは飛び蹴りを片手で掴む。

 全体重の乗った一撃を苦労なく、さも当然と言わんばかりに。同時に、全体重を乗せたことで倒れそうになった私の肩を支え、わざわざ立たせてきた。

 

「こ、このッ!? あぐぇ……、いっだぁぃ!!」

 

 優しく扱われたことにイラついたのも束の間、額にとてつもない痛みが私を襲った。

 私は思わず仰け反り、そのまま芝生の上へ倒れこむ。そのまま頭を抱えて痛みを紛らわせるために左右へ何度も転がった。

 

「で、デコピンの威力じゃない。じゅ、銃声みたいな音がした」

 

 西野が恐れながら言って、私は自分にされたことをようやく気付いた。

 おそろしく速いデコピン、私ですら見逃してしまった。

 と、というか、い、痛すぎるッ!? 何でただのデコピンがこんなに痛いのよ!! 

 

「安心してください、腫れはできません。少々赤くなる程度です」

「や、やり過ぎじゃない?」

「彼女はあまり賢くないので、痛みによる教育の方が早く学びます」

 

 野蛮すぎる理論に、私は待ったをかけたかったが、悶絶中のため言い返せない。

 ゆ、許せない。痛みが取れたら、絶対にこいつのケツを蹴り上げてやる。

 

「さて、あなたは彼女のようにならないよう期待しても?」

「は、はい!! 全身全霊で練習させてください!!」

 

 西野が馬鹿でかい声でそう宣誓する。

 私がぶっ飛ばされたのを見たんだ、そうなっても致し方ない。

 ……こ、こいつ、西野にはヤケに丁寧に教えるな。

 痛みが引く間、才能バカの教えを観察していると、そんな感想が浮かんだ。

 贔屓だな。別に優しく教えて欲しい訳じゃないが、本当に私の扱いが雑過ぎる。

 

「おい、カムクラ!! 構えろ!!」

 

 私は勢いよく叫び、カムクラにもう一度挑む。

 痛みは消えた。むしろ、さっき頭にバカみたいな衝撃来たから、目が覚めた。

 今の私なら、さっきより速い蹴りをこいつにぶち込める。

 狙うは顔面、これなら反則じゃない!! 死ねぇぇぇぇぇ!! 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、カムクラさ……う、うぉぉおッ!? 伊吹が死んでるッ!?」

 

 

 数十分後、私は次の種目練習組である石崎の大声で目を覚ます。

 相変わらずうるさい。しかし、倒れ伏す私にとってはいい目覚ましだった。

 次は、絶対に一発入れてやる。そう決心して、心地よい芝生の上で時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 残り一週間を切り、どのクラスも種目に励んでいる放課後。

 Dクラスは遅ればせながらも他クラス同様に試験対策に臨んでいた。

 

「綾小路くん。あなたの奇策だけど、クラスには伝えたわ。もう後戻りはできないわよ」

「構わない。勝つための戦略だ」

 

 放課後のDクラスの教室に、鈴のように美しく良く響く声。それに対して、抑揚のない反応が返っている。

 

「そう。なら、文句はないわ。箝口令も敷いたから試験当日まで漏れることはないと思うけど……」

「今のクラスにそこまでの愚か者はいない」

「その言い方だと、まるで前はいたみたいな言い方だね、綾小路くん」

 

 放課後の教室で話し合っているのはDクラスの中心人物だ。

 リーダーの堀北、クラスの中心人物である櫛田、そして参謀としての地位を確立した綾小路。3名はAクラスに勝つための戦略を順調に進めていた。

 

「平田くんにはメンタルコーチのような役割を担ってもらっているわ。彼の口から作戦を伝えれば、クラスのみんなも信用してくれるはずよ」

「メンタルコーチってのは言い得て妙じゃん。平田が全力で応援に回るだけでそれなりの数はやる気上がるでしょ」

 

 平田に新しい役割を託したこと、それについて櫛田が小馬鹿にした様子で告げる。

 この場にいる2人は既に自分の裏の顔を知っている。ならば、わざわざ面倒な演技をする必要はない。

 加えて、放課後の教室は鍵を閉め、外から覗かれないように覗き窓の類は布で覆って隠している。

 ここもまた密室空間。となれば、遠慮なく素の自分を見せる環境が整っている。

 

「それにしても綾小路くん、やっぱり君がXだったんだね。聞いてはいたけど、正直驚いたよ」

 

 自席に座る綾小路に、櫛田は机の上に座って上から目線を作る。

 スカートを無造作に動かせば、健康的な素肌と太腿が綾小路の視界へ侵入する。

 堀北は馬鹿なことをしているなと思いつつ、2人の会話を隣の席で座りながら観察する。

 

「そうか。オレからすると櫛田の変化の方が驚いているけどな。前回の投票試験での行動、あれはその態度を多少外で漏らしても問題なくするための儀式のようなものだろう?」

 

 しかし、綾小路は櫛田の行動に反応せず。

 携帯から視線を逸らさず、画面に映るDクラスの生徒の情報をスクロールしていく。

 

「儀式っていうと大げさだけど正解。船上試験、体育祭とちょこちょこボロも出していたし、ここらで情報の更新をして不信感を消しちゃおうっていう目論見だよ」

「効果は覿面だったな。扇動の中心にいた山内を邪魔者扱いにしたあの一言……あれはお前の評価を変える、かつ山内退学を確定させた実質的な決定打でもあった」

「ちょっと、山内の退学はもともと決まっていたこと、私のせいじゃないっての。既定路線、既定路線」

 

 山内退学を受けて精神が崩れてしまった平田とは違い、櫛田は上機嫌にそう告げる。

 他者の人生に関係する行動を取ったことを本人も多少の自覚はあれど、そこに後悔は欠片もない。

 

「いくら山内くんに落ち度があるとは言え、その言い方は無いんじゃないかしら?」

「同情はしてるよ。高円寺の言葉じゃないけど、たった一度のミスがここまで大きなミスに発展しちゃうなんて可哀想だよ。まぁでも、この一年でのあいつの言動は気持ち悪かったし、視線とかもう……オ˝ッエー」

 

 舌を出して吐くような仕草に、堀北は性格の悪さへの怒りと同性だからこそ分かる嫌悪感を同時に抱く。

 

「……言い過ぎよ。綾小路くん、あなたも元友達ならばそこまで言及する必要はないはずよ」

「友達、ではないな。今思うと、友達と呼ぶには関わった時間が少なすぎる」

「あはっ、何だかんだ綾小路くんはクラスで活躍してたもんね。元の顔も整っているし、そりゃ山内は距離置くわ」

 

 この場にまともな常識を持っているのは自分しかいない、堀北はため息交じりにそう悟る。

 綾小路はその溜息で何を考えているのかを察したが、入学早々コンパスで自分の手を刺した女がはたして常識人なのか疑う。

 

「ていうか綾小路くん、それが素?」

「特に何かを気にしてコミュニケーションを行ってはいない」

「ふーん、そっか。やっぱり、私たち仲良くなれると思うんだけどなぁ」

「そうだな。それより、高円寺の件はどうなっている?」

 

 綾小路は櫛田を適当にいなして堀北に視線を向ける。

 櫛田の舌打ちが響くが、堀北も気にすることなく話を続ける。

 

「高円寺くんに関してはやはり無理だったそうよ。平田くんが今回の奇策を伝えるがてら、松下さんと一緒に頼み込んだみたいだけど……」

「そうか。やはり、制御しきれない力は力としてカウントするものじゃないか」

 

 綾小路はもう一度携帯に目を落とす。

 適当な扱いにイラついた櫛田が綾小路の膝に蹴りを入れるが、それには無反応。むしろ、蹴った方の櫛田が足の甲を押さえながら屈みこんでいた。

 

「櫛田、お前から松下の評価を聞きたい」

「……ほんと、いい性格してるよ綾小路くん」

「その足に関しては自業自得だろう」

 

 綾小路の指摘に、櫛田は再び舌打ちしながらも立ち上がる。

 

「で、松下さんの評価だっけ? なんで急にそんなこと気にするのよ」

「高円寺に期待できない以上、相手の種目である“フラッシュ暗算”で勝つには松下に賭けるしかないからな。勝ち目を探すためにも、松下がどの程度の実力を持っているかは知っておく必要がある」

 

 櫛田はその理由にニンマリと笑う。

 Aクラスが選んだ10種目、その内の1つであるフラッシュ暗算。Dクラスからは高円寺と松下が参加する。

 松下が平田と共に高円寺を説得しに向かったのは、同じ種目に出るよしみからだ。

 

「流石は綾小路くん、お目が高いね。松下さんの実力はねぇ〜」

 

 あえて言葉を伸ばし、綾小路の反応を探る。

 しかし、張り付いた仏頂面に変化はなく、こちらの言葉を淡々と待っている。

 すぐに答えない自分にイラつく様子も、匙を投げる様子もない。ただじっと待っている。

 冗談が通じないことの面白くなさはあれど、待つということは綾小路が自分を頼っていることとなる。

 目の前の無機質な男が自分をあてにしているという事実はなかなかに気分が良い。

 ここで貸しを作るためにも、櫛田は松下の評価を正直に答えることを決めた。

 

「成績はまあまあ。勉強も運動も並以上で、Dクラスでは上から数えた方が早いね。人間関係もまあまあ。中位カーストの集団で、軽井沢さんや篠原さんとよく一緒にいるかな」

「全体的に並以上の生徒という訳か。何でもそつなくこなすといえば聞こえはいいが、試験で運用するとなると、器用貧乏という印象の方が強いな」

「あはっ、いいね、綾小路くん。そういう容赦のない評価は嫌いじゃないよ」

 

 綾小路の冷淡な評価に、櫛田は本心から嗤った。

 

「でも、実際の実力がその程度かどうかは分からないかもよ」

「それはどういう意味だ?」

「うーん、ここからは私の推測もあるから断定はしないで欲しいんだけどさ、多分、松下さんは綾小路くんのように実力を隠している気がするんだよね」

 

 推測とは言え、人を見る目がある櫛田の推測。綾小路は聞く価値があると判断し、櫛田が続きを話すのを黙って待つ。

 

「松下さんってさ、性格悪いんだよね。篠原さんみたいに自分の気に入らないことに対してただ文句を吐く感じじゃなくて、けっこう現実主義者てやつ? 人のスペックや能力、才能や将来性とかを相手に求めるんだよね。だから、自分より能力低いなって子には薄っすら見下している感じがある」

「なるほどな。他に根拠はあるか?」

「あとは……恋バナかな。いつだったか、理想の恋人は高スペックの成熟した人みたいなことを言ってたんだよね」

「それは、理想が高いだけなんじゃないか?」

「まぁその可能性もあるんだけど、かなり妥協せずに恋愛したいようだし、現実主義なら相手のスペックに釣り合うように自分磨きも行っていると思うんだよね」

 

 櫛田の推測を、綾小路はあながち間違っていないと感じた。

 堀北がクラスから集めたデータには、松下は頭の回転が速いと評されている。容姿も整っている上で、性格はかなり落ち着いている。

 櫛田の言う現実主義というのも、物事を俯瞰して見ることができると捉えられる。

 すなわち、観察力も高い。

 それらを総合すれば、何も分不相応な立場から理想を語っていないことも成立する。

 

「なるほど。なら、その隠している実力があれば、善戦はできそうだな」

「あくまで可能性だけど、割と高い可能性だと思うよ。交渉してみる? 私もついていってあげようか」

「いや、いい。お前にこれ以上借りを作りたくない。何を要求されるか分かったもんじゃないからな」

 

 綾小路は櫛田の推測を信頼して、松下に接触することを決める。

 勝つと決めた以上、己のできることは必ずやる。

 それが最高傑作としての正しい思考。この試験だけは、目立ちたくないというヴェールを脱ぎ捨てた綾小路に慢心はない。

 

「別に何も要求しないっての。でも、本当に実力を隠しているなら、実力を隠していた者同士で話した方がスムーズに交渉できるかもね」

 

 綾小路もその考えには同意、それゆえに1人での交渉が成功確率が高いと判断していた。

 

「……まったく、どうしてこのクラスには実力を発揮しない人が多いのかしら」

 

 2人の話を黙って聞いていた堀北が、頭を押さえながらそう言う。

 

「だってよ、綾小路くん」

「お前もその1人だろ」

「いやいや、私は最近真面目にやってるっての」

「オレも今回は真面目にやっている」

 

 仲良く言い合う2人を見て、堀北は大きくため息を吐いた。

 話に出た松下を含めて3人。加えて、学年一の自由人という代表例もいる。

 リーダーとして自覚を持った堀北だったが、この濃いメンバーにはこれから苦労するだろうなと頭痛の種が増えていた。

 

 

 




最終決戦前に少しだけギャグっぽく。
伊吹とカムクラが戦うことは基本的にありませんが、日常生活でたまに暴力を振るわれています。全部ノーダメージだけど。戦ったら戦ったでこんな感じでボコボコにされます。

西野⇒お兄さんが不良だから龍園に耐性がある人。石崎のバカな所に呆れながらも世話を焼いている。一匹狼で石崎とくらいしかつるんでいないが、カムクラの情報は石崎から嫌という程聞いている。
特別試験では勉強面で世話になっている。カムクラが凄いことは理解していたが、暴力まで強いことは今回初めて知って面食らってる。


櫛田「うっふ~ん、綾小路くん仲良くしようよ~」
綾小路「かわいいけど、絶対裏があるんだよなぁ」
堀北「こいつら常識ないわ~、全くないわ~」

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