司令塔がいる視聴覚室にも、不正がないかを確認しているカメラはある。
そして、そのカメラを通じて司令塔の戦いを観戦する者も当然いる。
「ふむ、これは想定外な行動ですね」
監視者、月城は思いの外の展開にそう独り言を零す。
名目上は学校の最高責任者として試験に不正がないかを確認。
学校のトップが試験を運営する裏方の従業員たちと共に働く光景は現場をその目で確認する理想の上司として映り、理事長としての評価は高まっている。
が、実際は綾小路清隆の観察。ひいては、退学への危機を促すため予め潜入させた工作員へ、直接指示を行うために来ていた。
「準備はできています」
試験が中盤戦に進んだのを見て、工作員の1人が月城の元へ近づいて確認を行う。
月城はそれに対して、アイコンタクトで応じた。
(聞いていた話やデータとは違う。少なくともホワイトルーム生ならば絶対に取らない選択肢で試験を行っている。それに何より……)
観察するはAクラスとDクラスのモニター。
理事長の娘である坂柳へ容赦なく攻めている綾小路に対して、月城は驚いていた。
自分たちが介入していることを知っているにもかかわらず、堂々とした背水の陣。ホワイトルーム生はおろか、まともな人間なら取れない選択肢だ。
しかし、それ以上に月城の目を引いたのは、
「存外、子供らしくできるじゃないですか」
その表情は変わっていない。
無表情を張り付け、データ通り感情の一切を表に出さない無機質な人間。
かと思えば、坂柳との戦いも己の実力を隠すことなく、使えるものをとことん使って戦いに応じている。
その姿は、新しい物事を知り、知的好奇心のままに動く子供。年相応に楽しんでいる最高傑作を見て、月城はその胸の内を隠しながらもクスリと笑う。
「この学校の教育が見事なのか、はたまたカムクライズルの影響なのか。何にしても、この環境は心の構築に適しているようだ」
「……どうされますか?」
月城が愉快気に笑うのを見て、工作員が再度確認する。
随分と心配性な工作員、杜撰な行動も相まってまだこの業界に入って若いと判断。その首を切ろうと思ったが、月城は気分が良かったためそう口にはしない。
「止めておきましょう。虎の尾を踏むだけならまだしも、その奥にいる竜の逆鱗に触れるのだけは避けるべきですからね」
月城は別のモニターを見ながら工作員へ指示を飛ばした。
モニターに映るはBクラスとCクラスの司令塔。片や無表情でペンを動かし、片や苦虫を嚙み潰したような顔で動かしている。
既に種目は7つ目。いよいよ最後の種目となり、ポイントの変動も確定する。
月城はCクラスの司令塔、一之瀬帆波に同情する。
その差はあまりに大きい。それでも、
──────
分かっていた。
この試験の相手がカムクラくんだと決まった時から、ずっと。
でも、クラスのリーダーとして、最前を歩く者として下を向いては絶対にいけない。
だって、私が下を向いてしまったら、私を、一之瀬帆波を頼りにしてくれている皆も諦めてしまう。
柔道
必要人数5人 必要時間4分(1試合の時間)
ルール・通常の柔道に準ずる。勝ち抜きルールを採用する。
司令塔・任意の対戦を一度だけやり直すことができる。
無情にも通告される第6種目。
私はそれを見て、目の前が真っ暗になっていく感覚というのを初めて実感した。
「また、Bクラスの……」
既に5種目が行われたが、私たちの種目が選ばれたのは1種目目と3種目目だけ。
運が悪かった。ただ、それだけのこと。今回の試験に限っては、そう言い切れる。そう、皆は慰めてくれる。
けれど、
「こちらの選出メンバーは“鈴平美羽”“宝島みこ”“旗手薫”“角倉真美”“山田アルベルト”の5名です」
少し離れた席から声が聞こえた。
対戦相手の司令塔、カムクラくんだ。彼はこちらを見ることなく、種目に出るメンバーを選択している。
こちらの顔など見る必要もない。予め、選んだメンバーを告げる理由もない。
こちらの心理を探る目的。既に勝ちが確定しているにもかかわらず、彼は手を抜く素振りを見せない。
これまでの勝敗は……0勝5敗。私たちはまだ1勝もできていない。
勝てる場面で戦力をつぎ込み、相手優位の種目にも最善の手を続けていた。
駆け引きを行い、温存できる場所では戦力を温存したからまだ勝ちの目はある。
しかし、それでも実感してしまう。
分かっていた。
────実力差なんて、本当はとっくに分かっていた。
3戦目は化学テスト。こちらが選んだ種目にもかかわらず、対策してきたであろう相手クラスに勝てなかった。
続けて空手が選ばれて、石崎くん一人に全員勝ち抜きされてしまった。
5種目目は現代文テスト。相手クラスの種目とは言え、勉強面ならば勝機があると思った。
こちらは浜崎くんを選択、相手は椎名さんを選択した。
結果は惜敗。浜崎くんも95点と高得点を取ったが、相手は満点だった。
そして今、第6種目。……もう、打つ手はない。
「……一之瀬さん、メンバーの選択をお願いします」
監督である真嶋先生が注意勧告を飛ばす。
しかし、私はペンを動かせない。相手のメンバーには、山田アルベルトくんがいる。
体格でも、技量でも敵わない。
勝ち抜きルールを採用してきた以上、山田くんが来るのは間違いなく先鋒。
カムクラくんはもっとも勝つ確率が高い方法で、正確に、最高効率で策を施行する。
選ぶ生徒は5人。厳格なルールがあるとは言え、柔道は接触の多さから危険も大きい。
5名、山田くんと戦う相手を選ばなければならない。
あの恵まれた体格を持つ相手への、犠牲を5人も選ばなくてはならない。
メンバーを選ぶための制限時間が過ぎてしまう。
無理だった、私には到底選べなかった。
「制限時間が過ぎたため、この種目はCクラスの不戦敗とする」
真嶋先生の宣言により、第6種目の勝敗が決する。
私は安堵した。選んで誰かが不測の事態になる可能性がある。それを避けれただけで、最悪を回避できたからだ。
「真嶋先生、そんなルールは存在していませんよ」
しかし、カムクラくんはその決定に待ったをかける。
「制限時間内にメンバーを選べなかった場合は、ランダムに選手が選ばれる。機械の不具合によって選べなかった、そんな理由で選べなかったのならまだしも、監督が独断でそのような決定をするのは越権行為だと思いますが?」
カムクラくんが制限時間内に選べなかったルールを指摘する。
何の間違いもない正論。もう一人の監督役である茶柱先生も、その指摘に間違いがないことには頷いている。
「……確かに、君の言う通りだ。しかし、このままランダムで選手が選ばれたとしよう。5人の生徒……仲間想いの生徒ならば、本気で勝利するために種目に挑む」
「それが正しい姿勢です。Cクラスの生徒はこのままいけばストレートで負けてしまう。だからこそ、懸命に戦っているリーダーに花を持たせるために、山田くん相手でも全力で挑むでしょう」
「それを分かっていて尚、君は試験を続けろというのか?」
「試験の勝敗が確定していても、ポイント変動はまだ確定してません。彼らに勝つ可能性が少しでも残っているならば、ルールに則って試験を続けるべきです」
「……ッ、不測の事態に発展するかもしれない」
「僕は不測を求めています」
私は真嶋先生の教師としての覚悟のようなものを感じ取る。
強くなる語気、生徒に危険が迫っていることを予見した今、試験を監督、管理する者として止めるべきだと行動した。
たとえそれがどちらかのクラスを贔屓する結果になっても、危険は止めるべきなのだと。
良い先生だ。生徒想いで正義感のある噂通りの人だ。
しかし、今回ばかりは相手が悪い。
情よりも、カムクラくんは己の未知を求める。
知っている。全知全能のような能力を持つが故の弊害を、私は既に知っている。
「真嶋先生、私たちは監督役です。お気持ちは察しますが、彼の意見は正しい。ランダムに選手を選出すべきです」
事態を俯瞰して見れた第三者、茶柱先生が致し方なさそうに告げる。
「生徒にとって危険だと判断すれば止める。教師が生徒に教えていることを守らなくてどうする」
「ふーん、あなたは覚悟を持って教鞭を執っているのですね」
自らの進退を揺るがすことになっても後悔はない、そんな強い意志を感じる真嶋先生。
その態度に変化はなく、このまま徹底した姿勢を見せると思った。
しかしその前に、カムクラくんが機微のない声ながらも興味を引いた様子を見せる。
「一之瀬さん、あなたは取れる可能性のあるポイントよりも、生徒の無事を優先しますか?」
「えっ、……う、うん。誰も怪我をして欲しくないよ」
カムクラくんが急に確認を取ってきたので、私はまごつきながら返答した。
「分かりました。真嶋先生、双方の司令塔により和解がありました。この和解によって、不戦敗となったとしてください」
「俺としては構わないが、良いのか? さっきと言っていることが違うが……」
「僕としては続けるべきだと思いますが、月城理事長代理に良いようにさせるのは癪ですから」
「……すまない、配慮に感謝する」
理事長代理? 何の意図があるか分からなかったが、何はともあれ中断した試験は、不戦敗として処理するようだ。
「では、最後の種目に移らせてもらおう」
咳き込んでから、真嶋先生がそう宣言する。
キックボクシング
必要人数3人 試合時間2分(勝ち抜けルールのため2分1ラウンドとする)
ルール・通常のキックボクシングに準ずる。
司令塔・任意の対戦を一度だけやり直すことができる。
先のやり取りで抜けた気が、現実へと引き戻される。
最後の種目で選ばれたのも、やはりカムクラくんのクラスから。
もう、笑うしかない。ただでさえインチキみたいな強さをしているのに、運までいいなんて。
どうすればよかったのだろう。どうすれば、彼に勝てるのだろうか。
いや、誰も勝てないよ。
この学校で一番権力を持っていた南雲生徒会長だって勝てなかった。
不運を呪うことすらできない。相手は幸運という運命すら従えている理不尽なんだもん。
うん。だから……、負けちゃうのは仕方ないよね。
「あなたは、そうやって誰かのためにクラスのリーダーを続けるのですか?」
また、彼が話しかけてきた。
今度はこちらに視線を送っている。相も変わらず無表情、見下している素振りはないが、今はその飄々とした態度がそう感じてしまう。
「……リーダーができる人が、私しかいないからさ……皆が私を頼ってくれるから、私は責任を果たさなきゃいけないの」
「ツマラナイ。誰かのためではなく、自分のために未来を選ぶべきだと、僕はそう言いましたよ」
「……あはは、そうだったね。でもごめんね、やっぱり私には無理だよ。私みたいな人間が、誰かの前に立つこと自体間違いなんだから」
カムクラくんの発言は覚えている。
偶然、彼に出会って借りを返して貰った日。自分が前を向いていくための方法を提示してくれた。
彼らしくない根性論のような言葉だった。でも、何となくその意味は分かっていた。
でも、理解していたとして、実行できるかどうかは別の話だ。
「私は、わたしは、自分を信じることができないよ」
結局、私は何も変われていない。
あの時の自分から、一歩も動けていない。
だって、私は犯罪者だから。罪を犯した自分に向ける信頼なんて、間違いなのだから。
「時期尚早でしたか。では、あなたが未来で変われるためにも、ここでしっかり心を折っておくことにしましょう」
容赦のない一言からペンを走らせるカムクラくん。
私もメンバーを選ぼうとするが、手が動かない。
「今逃げれば、癖になりますよ」
しかし、退路までも封じられてしまう。八方塞り、もう私は逃げることすら許されない。
真嶋先生の方を見るが、彼は首を横に振る。
相手が山田くんほど危険がないと判断したのか、はたまた2度も独断を行使できないのか。
何にしても、都合の良い奇跡は起こらない。
「……ごめんね」
私は傷ついてしまう3人に謝りながら、錘でも付けたかのように動かしづらい手を動かし、メンバーを選出する。
私のクラスからは“時任克己”“柴田颯”“別府良太”の3名を選択。運動能力の高い柴田くんが本命、残り2人もBクラスでは運動能力が高い方だったからこの種目に選ばれた。
どちらも選手を選べば、互いの選手が閲覧できる。
カムクラくんのクラスからは“伊吹澪”“西野武子”“龍園翔”の3名。
3人とも、荒事を得意とする噂がある生徒。
間違いなく、カムクラくんはこちらの心を折りに来ている。何より、これまでの種目で、彼ら3人のカードを切らせることすらできなかったという事実がさらに追い打ちをかけてくる。
「先鋒は伊吹さんから。次鋒が西野さん、大将が龍園くんです。1人でも倒せるといいですね」
カムクラくんは戦略すら開示した。
先と違って、これは完全に舐めているからこその開示だ。
心を揺さぶる煽りではなく、勝利を確信した者の慢心。
……分かっている。これが慢心ではなく、余裕であることも。
分かっていた……分かってはいたことだよ。
けど、ここまで届かないなんて……。
私はモニターに映る光景を見届ける。
同じ轍は踏まない。
選んだのは私。どんな絶望的な結果になろうとも、その結果を見届ける義務がある。
呆気なく、最後の種目が終わった。
龍園くんどころか、西野さんにすら届かない。
先鋒の伊吹さんに3人とも破れ、私たちの特別試験は終了した。
──────
1学年最後の特別試験は幕を閉じた。
真嶋先生による試験終了と結果の確定を言い渡され、司令塔は速やかな退散を指示された。
この場で解散のようで、クラスに戻る必要はないとのこと。
何処までも僕に都合よく動く1日に辟易としてきたが、まだ念のためにやるべきことが残っている。
僕は隣の部屋の前、その1つしかない入り口へ向かう。
中ではAクラスとDクラスが試験を繰り広げている。
僕が知りたいのはその結果……だけではない。僕はここに訪れるであろう男を、その入り口で待つ。
ある程度時間が経過することを予見し、僕は壁に寄り掛かり、スマホを眺める。
クラス全員がいるメッセージを通じて、クラスメイトが今回の試験結果を讃えてくる。僕も教室に残る必要がないことを送る。
その後は、個別でも祝ってくる人間、自身の勝利を自慢げに送ってくる伊吹さんや椎名さん、バスケ部に勧誘してくる小宮くんと近藤くんなどとクラスメイトとの会話に時間を費やした。
「おやおや、こんな所で何をしているのですか」
時間はあっという間に過ぎ、既に30分ほど経過していた。
スマホから声の主へと視線を向ければ、月城理事長代理が部下を連れることなく一人で現れた。
「どうやら、不正は行わなかったようですね」
「……本当に、君はモンスターですねぇ。いやはや、選択を間違えなかったことをこれほどまでに安堵したのは実に久しい」
僕の一言で、月城は全てを悟ったらしい。
僕は司令塔の概要説明でこの部屋を見た時、一つの可能性を予期していた。
本当に綾小路くんを強制退学するならば、彼は強硬手段を用いて不正を作り出す。
パソコンを遠隔操作するという単純な方法に辿り着けば、その不正が絶対に露呈してはいけないので、証拠品を全て回収しに来ると踏んでいた。
僕ならば遠隔で全ての証拠を残さずに不正を行えるが、相手は凡人。大勢で早急な回収を想定していたので、月城が一人でここに来た時点でその線はほぼ消えた。
そして、この観念した様子から見て、今回は完全に手を引いたようだ。
「もし不正を行っていれば、私はこの部屋には入れなかったと?」
「はい。工作員共々気絶させ、証拠をこちらで回収するつもりでした」
「野蛮な方法ですね。監視カメラのことは考えなかったのですか?」
「ここは特別棟、だからあなたも強硬手段に出る可能性があったんですよ」
特別棟の廊下には、監視カメラはない。
それは1年の最初に龍園くんが起こしたいざこざから周知している。
「なぜ、不正を行わなかったのですか?」
「君と敵対しないというのも理由ですが、本当の所、不正をするにしても綾小路くんと坂柳さんに実力差がありすぎてしまいましてね。最後の種目になるにつれて、とても一方的な試合運びになってしまい、介入するにしても不審がられてしまうような圧倒的な結果になってしまったんですよ」
不正したくても差がありすぎてできなかった、ですか。
結果的に、綾小路くんは実力で退学を退けたことになりますね。
「答え合わせはよろしいですか? 私としては綾小路くんとお話がしたいのですが……」
「奇遇ですね。僕も綾小路くんに用があります」
どうやら、目的は同じようだ。
となれば、共に扉の先に行くことになる。だが、その前に教室の扉が開いた。
その先には、互いの目的の人物が映っていた。
「意外な組み合わせだな」
彼、綾小路清隆はすぐに扉を閉め、こちらに一歩踏み出す。
普段通りの無表情だが、その雰囲気はどこかすっきりした様子だ。
「どうですか、後先考えずに全力を出した気分は?」
「……存外、悪くない。少なくとも、ホワイトルームでは知り得なかった感覚だ」
「それは重畳。今後もその実力を発揮することを期待しても?」
僕がここに来たのは、この意思確認のため。
彼は今回のみ本気で試験に取り組むと答えていた。そのとりあえずの答えに変化があるのか、それを知りたかった。
「正直、相手次第だ。お前か、高円寺……それと龍園ならば競い合ってみたいと思っている」
「その前向きな言葉を聞けただけで満足です。それと、今日はオモシロイ未知の提供に感謝します」
好感触の返事に、僕は目的を達成した。
もうここに用はないので、会話を月城にバトンタッチする。
「子供の成長とは、非常に早いものですね。階段であった時とは、まるで別人です」
「あの場所を知るあなたがそう評してくれるというのはありがたいことです」
「というと?」
「つまり、オレは成長しているということです」
本心で話す綾小路くんに、月城は一瞬戸惑った後、薄く笑った。
「これは個人的な感想ですが、どうやらこの学校に脱走したのは無駄ではなかったようですね。しかし、それはそれとして私も仕事をしなくてはいけません」
超分析力に嘘は映らない。やはり、月城という男は不思議な立ち位置にいるらしい。
「さて、綾小路くん。出来れば自主退学を選んでください。これ以上は、我々としても沢山の生徒を巻き込んでしまいますので」
「説得力に欠けますよ。なぜ、今回仕掛けてこなかったのですか?」
「2つ、想定外がありました。1つは仕掛け人である彼女が腑抜けていたこと、もう1つはそこにいるカムクライズルの介入です」
「なるほど。つまり、今回は坂柳を利用して本気でオレを退学させに来ていたと?」
「はい。それが私の仕事ですから」
不気味な笑顔を見せ、綾小路くんに真意を悟らせない月城。
このパフォーマンスのために、理事長代理という多忙な立場にもかかわらず、わざわざここへ足を運んだようだ。
「1つ聞きたいのですが、オレを退学させるにあたって障害となったカムクラを退学させないのですか?」
「質問に質問で返して申し訳ありませんが、あなたにこれを処分できますか? つまり、そういうことです」
「なるほど。納得のいく理由です」
何とも雑な納得方法です。
とはいえ、月城が本気で退学させようとすれば、その対処は苦労する。月城を処分するだけなら簡単だが、この学園でやることができた以上、可能な限りこの学校の生徒を守らなくてはならない。
できれば、そんな面倒は避けたい所です。
「雑談はこれで終わりです。好意的な返事を期待していますよ」
月城は最後まで本心を隠してこの場を去っていく。
月城という男の人格はある程度理解した。僕も付き合い方を修正する必要があると判断する。
「……帰るか?」
「そうですね。道中、そちらの対戦について教えてもらえますか?」
「分かった。そっちの対戦も頼む」
用事も済み、勝者である僕たちは何も背負うことなく試験を振り返れる。
寮までの道のりを2人でゆっくりと話しながら進んでいく。
試験の振り返りが終わっても、話題は山ほどでてきた。
綾小路くんが今回の大胆な策を行ったきっかけである龍園くんについて、屋上で見せた僕の才能について。
今日はこの程度しか語り合えなかったが、会話の才能を使うことなく円滑に会話を行えたことは久しい。
流石は僕の敵となり得る男。
今は転がして遊べる程度の実力だが、いずれはどうなるか。
そんな期待が出る程度には、今日の変化はオモシロイ未知だった。
これにて特別試験は終了。chapter11もこれで終わりです。
月城も干渉を最後までするか迷ったが、危険と判断して撤退です。
勝者は神座クラスと堀北クラスです。ポイントの推移はChapter11.5で出します。