ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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超高校級の生徒会長

 

 

 

 3月24日、卒業式。

 3年生がこの学校で学ぶ課程を修了し、いよいよ旅立ちの日を迎える一大イベントの日がやって来た。

 体育館に集められた全校生徒と全教師たち。関係各位、普段見ることのない大人たちも列をなし、この卒業式を見守っている。

 子供の枠組みを超え社会に巣立っていく。

 生まれた時から社会の、世界のためにこうあれと示されていた僕とは違い、新たな未来へと旅立つ門出の日。

 新世界プログラムにて用意されていたあの卒業とは違う、イニシエーションとしての卒業。

 とはいえ、各々の選択の果てに大きな一歩を踏み出そうとしている瞬間に変わりはない。

 

「ではこれより、3年間を戦い抜き、晴れてAクラスで卒業したクラスの代表者より答辞を述べて頂きたいと思います」

 

 格式ばった流れがある程度進むと、進行役の大人がマイクを通してそう話す。

 

「Aクラス代表……堀北学くん、前に」

 

 より一層、静寂に包まれる体育館で呼ばれた名は、超高校級の生徒会長と呼べる人物。

 無事、最後の特別試験でも勝利を飾り、Aクラスで卒業できたようだ。

 彼は堂々と壇上へ歩みを進めると、在校生や関係各位へと視線を移す。

 

「答辞。梅の香りに春の息吹を感じるこの日、我々は卒業式を迎えました」

 

 盛大な卒業式に対しての感謝から始まり、3年前に入学してきたことが語られていく。

 

「高度育成高等学校に入学し、他校とは違う雰囲気を感じ、未来を担う大きな責任を持つとともに、やりがいのある3年間にしようと誓ったことを鮮明に覚えています」

 

 ゆっくりと言葉を続けていくその雰囲気は穏やかだ。

 かつて生徒会長として厳格な姿勢を貫いていた男とは違う。

 入学時からの変化、そしてここまで走り切ったことによる達成感。己と周囲の成長を懐かしんでいるように感じ取れる。

 

「私事ではありますが、生徒会の代表として昨年1年生たちに言葉を述べたことがあります。昨年この場所から見た時と比べて一目瞭然、皆さんの成長を感じ取ることができます」

 

 何のことか僕には思い至らなかったが、周囲を確認すれば、彼はどこかで威厳ある行動を見せていたようだ。

 

「そしてこれから3年生となり、在校生を牽引していく立場の2年生には、この学校の規律を守った上で存分にその力を発揮していただきたいと思っています」

 

 彼は温かい眼差しを向けながら、答辞を続けていく。

 学年ごとに視線を向け、ゆっくりと答辞を終わりへと進めていく。

 

「この学校で学んでいることはこの先の人生において、何よりも宝となり役立つものになるであろうことをここに約束します」

 

 改めて、彼は在校生を見つめる。

 

「来年、そして2年後。答辞を述べる人にも、きっと理解できる瞬間が訪れるでしょう」

 

 答辞を述べる人物はAクラスの代表者。

 来年であれば、送辞を読み上げた桐山生叶か。それとも、南雲雅か。はたまた、思わぬ伏兵がいるのか。

 そして2年後、その座は誰が手にしているだろうか。

 混沌とした結果こそ、僕は求めている。誰があそこに立っているか、それが答え合わせとなる。

 

「3年間、本当にありがとうございました」

 

 答辞が終わりを告げ、堀北学は壇上を降りていく。

 静まり返った体育館に、手を打つ音が波のように押し寄せる。

 超高校級の生徒会長、そのあるべき姿を歩み切った。見事な立ち振る舞いは称賛に値した。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 卒業式終了後、在校生は一度教室に戻り、HRを行う。

 卒業生は引き続き体育館に残り、全教師と卒業生の保護者を交えて謝恩会を行っている。

 在校生はHR終了後に帰宅しても構わないが、部活に所属している生徒や3年生と仲の良かった生徒たちは、この後準備をして卒業生が出てくるのを待つらしい。

 このことを事前に聞けたので、僕は体育館には向かわない。

 堀北学には用事があるが、生徒会長という肩書は人気者の称号です。

 公的なイベントとしての最後の責務には、学年問わず多くの生徒が彼の元に集まる。

 そう予測できていて無駄に時間を使うのはもったいないので、僕は予めメッセージを送っておく。

 いつここから旅立ってしまうかは不明だが、彼も僕になら話の機会を作ってくれるでしょう。

 

「さて、明日の終業式でも構わないんだが、簡単に今学期の総括をしておきましょうか」

 

 全員が着席すると、坂上先生がHRを始める。

 超分析力などなくとも目に見えて分かる機嫌の良さ。表情を取り繕っているが、選抜種目試験の獲得ポイントを見れば致し方ないだろう。

 そしてそれは、先生だけでなくクラスメイト達にも同様だ。

 

 

「まずは、おめでとうございます。何の問題もなければ、あなたたちは2年次からAクラスとなります」

 

 

 素直な賞賛に、クラスが沸く。

 石崎くんや小宮くんのような騒がしい生徒だけでなく、園田くんや矢島さんのようなムードメーカーと呼べる人物たちも声に出して喜びを露にする。

 今この場で笑みを浮かべていないのは、僕と龍園くんのみ。

 周囲の反応を確認するのだって僕たちしかいないので、自ずと目線が合う。

 すれば、彼も不敵に笑った。

 この結果を自分が導けなかったことに悔しさを覚えているが、そのことを決して表情に出さない。

 相変わらず、その胆力は大したものだ。

 

「学年末試験、これ以上ない結果でした。司令塔は言わずもがな。皆さんの実力が一つになったことを、私は称賛します」

 

 べた褒めな坂上先生に誰も反論はない。

 欣喜雀躍の大騒ぎ。それほどまでに、“Aクラス”という称号は生徒にとって大きいと読み取れる。

 卒業時に自分の希望する進路が100%保証される。

 将来の可能性を増やせるギフト。喉から手が出るほど欲しい権利。

 なるほど、素晴らしくも安定した未来への切符です。

 しかし、やはりツマラナイ。

 

「明日は終業式。授業はありませんが、学校の1日には変わりありません。くれぐれも、羽目を外し過ぎないようにしてください」

 

 その後は事務連絡をいくつか話された後、解散が促される。

 一応の注意を添え、坂上先生は教室を後にする。

 クラスの雰囲気は依然変わらず。解散を促されてから大半の生徒が、この後の予定を話し合ったりと雑談に花を咲かせている。

 なにせ、扱えるポイントがまた増えるのだ。

 このクラスはポイント徴収を行っている。特別試験で使うための名目で徴収しているそれらは、約6割と重たい税収だ。

 しかし、それでも反乱は起きない。

 これらは全て了承を得て行っている。

 前回の特別試験でしっかりと還元しているので、信頼は保証されている。

 時任くんのように不正しているかどうかを正面立って口にする生徒もいるので、横暴が許されない状況として整っている。

 

「これからの徴収は……」

 

 僕は選抜種目試験後の暫定クラスポイントを思い出す。

 

 

3月下旬の暫定クラスポイント

 

 3月1日時点のcp(クラスポイント)

 Aクラス(坂柳クラス):1386.5cp→1296.5cp(2勝5敗のため-90cp)

 Bクラス(神座クラス):1049.5cp→1359.5cp(7勝0敗のため+210cp、試験勝利報酬+100cp。合計+310cp)

 Cクラス(一之瀬クラス): 961cp→ 751cp (0勝7敗のため-210cp)

 Dクラス(堀北クラス): 298.5cp→ 448.5cp(5勝2敗のため+90cp、試験勝利報酬+100cp。合計+190cp)

 

 

 あっという間にAクラスになってしまった訳だが、それは致し方ない。

 僕の目的であったDクラスのポイント上昇は達成された。一之瀬さんのクラスは射程圏内に入り、絶望的な状況から一歩前に進められた。

 しかし、まだ足りない。各クラスを競争状態にするためには、Dクラスには2年次でも勝利を収めてもらわなくては困る。

 

「やっぱり、あんたはAクラスになっても全然喜ばないのね」

 

 来月からの徴収ポイントを変更するか、6万ポイントを維持するか迷っていると、伊吹さんがこちらに顔を向けていた。

 ポイントが上昇する度にこうやって話を振ってくるのは、歓喜の感情を共有したいからだ。

 

「あっ、待って。言いたいことは何となくわかるわよ」

 

 上機嫌な伊吹さんは話しかけておいてこちらの言葉を制止する。

 思考の先読みを普段からされているので、それの意趣返しをしたい。そんな子供のような思考が超分析力で読み取れる。

 

「『つまらない、僕が集団を率いたのですから当然です』、どう? 合ってる、合ってるわよね?」

「はい。あなたの予測は正しいですよ」

 

 僕が肯定すれば、彼女は腕を組んでニヤニヤとしている。

 あんたの専売特許じゃない、私にだってできる。だから、褒めろ。

 分かりやすい感情。しかし、調子に乗られるのも面倒なので、僕は褒めない。

 また、こうして思考を読み取られることに不快感はない。

 余計な人格が構築されたことにも。他者との交わりの場である学校、そこで反映された僕の側面……感性や習性を頼った分析がこうやって当たる。

 実にくだらない変化。しかし、先生方の言いなりとしてツマラナイ未知を見続けるよりは上等な変化なのかもしれない。

 

「ちょっと、他にはない訳?」

「ありません。僕とそれなりに長い時間過ごしたのであれば、それくらいできても不思議じゃありませんから」

 

 続くことがないことを不満げに聞いてくるので、事実を口にする。

 すれば困ったように、それでいてどこか照れ臭そうに目を泳がせた。

 やはり、彼女は裏表のない子供のようです。

 今は僕という人間が近くにいるから変化の必要を感じていない。依存という程ではないが、彼女に変化を与えるには距離を置くのが正しい。

 

「……何だよ、急にじっと見て」

 

 何も言わずに彼女から離れれば、彼女がどう変化するなど分かり切っている。

 なら、より予想ができない未来のためには、彼女には事前に伝える必要がある。

 そう遠くない未来の話です。

 スッキリしない状態で僕と向かい合うより、割り切っていた方がオモシロイ結果になる。

 いや、なって欲しい。ここまで僕という人間に触れてきたことを利用して挑んできて欲しい。

 それで、僕が負けるという未知に繋がるならば、準備は怠らない。

 

「勘違いしないで欲しいことは、このクラスの本当のリーダーは龍園くんです。いずれ、その座は彼に戻ります」

「まぁ、だろうね」

 

 分かり切っていたことを答えるかのように、彼女は即答する。

 

「なに、おかしなこと言った? あんた、ずっと予想のできない未来を求めてたじゃん。こうやって完膚なきまでボコボコにするのがつまんないんじゃないの?」

「はい。何もオモシロクナイ作業です」

「だろ。その変な感覚はわっかんないけど、だからこそ、何するか分かんない龍園を見るために、あいつにリーダーの座をいつか返すんでしょ?」

 

 伊吹さんの導いた解答は、ほぼ完答に近い。中々どうして、純粋が故に悪くない推測です。

 

「あなたは龍園くんについていけますか?」

「……嫌いだけど、あいつがリーダーってのは認めてやらなくもない」

「あなたらしい回答ですね」

 

 確認を終えたので、僕は帰宅の準備をする。

 堀北学に会う必要がなくなったので、僕にやるべきことはない。真っすぐ帰路につき、才能を使って暇潰しをするだけです。

 

「カムクラさーん!! 今日って暇っすか、バスケ教えてくださいよ!!」

 

 身支度を終えて立ち上がれば、小宮くんが見計らったようにそう誘ってくる。

 横には近藤くんもいて、バスケ部の2人が揃っている。選抜種目試験でバスケを教えてから、彼らはかつて以上の尊敬を僕にしている。

 才能に狂信するのも時間の問題でしょう。

 

「あなた、そんなにバスケに熱心でしたか?」

「い、いやぁ~、ちょっと最近調子が良いのと……まぁ、頑張ってみたい理由みたいなのができまして」

 

 小宮くんは照れながら理由を告げる。

 入学当初からバスケ部に入るくらいには好きなのでしょうが、矢島さんのように熱心というイメージはない。

 事実、龍園くんの下っ端で働いている時の方が恐怖由来のものがあるとは言え、熱心だったくらいだ。

 しかし、この様子を見るに、色恋関係でやる気が出ているのでしょう。

 

「構いません」

「あ、ありがとうございます!! 場所は俺たちがご案内します!!」

 

 特段断る理由がないので、暇つぶしに彼らの誘いに乗ってみる。

 もっとも、彼らにバスケットボールの才能はない。

 しかし、腐って努力をしないよりはマシなので、意欲のある内は面倒を見てあげましょう。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 3月26日。

 終業式が終わり、学校は春休みに突入した。

 夏休みほどではないにしても長期休暇。競争が絶えないこの学校では、羽を伸ばすにはもってこいの時間です。

 しかしその初日、僕は午前中から堀北学と会う約束をしていた。

 待ち合わせ場所は学校の体育館。指定したのは彼で、何とも珍しい待ち合わせ場所だが、その理由は事前に説明されている。

 どうやら彼はこの学校を離れる前に僕と遊びたいらしい。

 今までのように橋渡しをするのではなく個人的に僕と遊ぶ、その真意は当然理解している。

 

「よく来てくれた」

 

 待ち合わせ場所の体育館、その中は柔道部や空手部が利用している道場があった。

 冷房完備でい草や使い古びた独特の匂いもなし。実に整った環境だ。

 畳が敷かれ、武道を行うに適した場所、その中心に堀北学はいた。

 道着を着こなし、闘志十分な佇まい。戦う意思は言葉などなくとも伝わってくる。

 

「遊びたいと言いましたが、随分と本格的ですね」

「この学校でできる最後の学びだからな。形から入りたいと思った。お前の分も用意してあるぞ」

 

 堀北学はそう言って、端の方にいる教職員の方を向く。

 確か、3年Aクラスの担任でしたか。彼はもう一着の道着を持って僕の方に近寄ってくる。

 

「3年Aクラスの担任、齋藤だ。今日は堀北からの要望を聞いて、審判を務めることになった」

 

 僕も名乗り返せば、彼から道着を受け取る。

 遊び、その一つ目は空手の試合らしい。

 

「約束は昨日送った通りだ。俺とクラスメイトから集められた1000万ポイントを対価に、今日は俺との勝負に付き合ってもらう」

「そしてその勝負であなたを満足させれば、ポイントを譲ってくれる。そう言う約束ですよね?」

「ああ。手は抜いてくれるなよ」

 

 今日の目的、それはポイントについてだ。

 以前、堀北学には僕の目的を話したが、その際に彼の所持ポイントを譲ってもらえるかお願いしたことがあった。

 好感触ではあったが、最後の特別試験もあってすぐには渡せなかったため、こうして再度交渉の場を設けた。

 しかし、ただ会うだけでなくこうして遊びに発展したのは彼の意志。

 ポイントを対価に、僕との競い合いをしたい。僕の実力を知っての挑戦です、手を抜くつもりは毛頭ない。

 ちなみに、1000万ポイントなのは、彼自身のポイントに加えて3年Aクラスの生徒の中で僕に融資してくれる分を合わせた合計だ。

 

「まずはご卒業おめでとうございます。無事、Aクラスで卒業できたことお祝いします」

「ああ。正直、混合合宿を無事に突破できたことは俺たちとしても大きかった。お前の協力には感謝している」

 

 南雲雅に対しては多少思う所はあれど、追及するつもりはないようです。

 もしくは、既に話し終わった後なのか。

 どちらにしても、橘茜に使用する可能性があったポイントが浮いたこと、そもそも南雲雅が三年生の試験に介入しなかったことは試験の勝率に関わっている。

 だからこその感謝。最後の最後で誰も欠けない結果を導けたようです。

 

「こちらも感謝しています。最後の特別試験、ポイントを使うことなく勝利してくれたのですから」

「お前の言っていた未来は俺も興味があったからな。これは……俺からの投資だと思ってくれ」

 

 軽い雑談を止め、僕は道着に着替える。

 この場には同性しかいないため人目を気にする必要はない。

 素早く着替えた後、準備運動を行う。

 

「投資の見返りですが……、日向創という人物の名を覚えてください。卒業後、彼の元に訪れれば融通を利かせてくれるはずです」

 

 学校卒業後、堀北学がこの世界からも卒業するかは不明だ。

 しかし、もし日向創がこの世界から脱出させるのならば、出会う機会は必ずある。

 ポイントは現金化できるものであるので、僕はその報酬を奪ってしまった。その借りを返却するのも含めて、日向創とのコネは対価に見合っているでしょう。

 

「分かった、覚えておこう。ちなみに、どういう人物かは聞いても構わないか?」

「僕の血縁と思ってくれれば構いません」

 

 説明は面倒なので、適当にぼかす。

 堀北学は僕のことを正しく認識できているので、その血縁と来ればある程度は納得してくれるでしょう。

 

「さて、そろそろ始めましょうか」

 

 雑談はこの後いくらでもできるので、まずは彼の実力を見てみましょう。

 準備運動は十分。僕は組手開始の位置へ移動する。

 

「……ふっ、凄い奴というのは知っていたが、まさかここまでとはな」

 

 向かってくる僕に対して、堀北学は唾を飲み込んでから薄っすらと笑みを浮かべた。

 そして自分の右手を胸元まで上げれば、その手が震えていることに気付く。

 武者震い。まだ手を合わせてすらいないが、彼はその実力差を理解しているようだ。

 

「ある程度、自分自身の直感や感性で相手の技量は感じ取れるつもりだったが、こうしていざ対面してようやく理解した。どうやら、俺はまだお前を過小評価していたようだ」

「やめておきますか?」

「馬鹿を言うな。格上に挑む、それもここまで圧倒的な差に挑める経験、逃す訳がない」

 

 堀北学はそう言って、教師の方に視線を向ける。

 すれば、教師はすぐに察し、試合開始の合図を見計らう。

 ほんの少しの静寂が広がった後、教師の口が開く。

 

「始め」

 

 声が落ちた瞬間、堀北学は構えた。

 半身になり、左足を一歩前へ。膝をわずかに緩め、重心を低く落とす。左手を顔の前、右手を顎付近へ添えて脇を絞める。

 震えは既に収まっている。肩から余計な力も抜け、隙のない構えと言っていい。

 

「悔いのないように全力で来てください」

 

 その見事な立ち姿に敬意を表し、僕も構える。

 ありとあらゆる武道の才能を使用し、勇敢な挑戦者にその差を見せつける。

 

「……シッ!!」

 

 迷いなく、堀北学は攻めに出る。

 鋭い突き、踏み込みもよく狙いもいい。

 速さも申し分ない。が、僕に当てるとなるとまだ遅い。

 僕は首を傾げてその一撃を避ける。

 しかし、堀北学の攻撃はまだ終わらない。

 続けて逆突き。次手までの流れも想定している。

 教本通りの動きは十分な力を生み、それが伝達された拳の破壊力は分かりやすい。

 

「……ッ!!」

 

 僕はその突きを掌の外側で受け流す。

 一瞬の動揺。しかし、堀北学はまだ攻め手を緩めない。

 前蹴り。着地してからの回し蹴り。

 威力を重視した二連撃。受けられないための攻撃に切り替えたので、僕は半歩ずつ下がってそれらを避け切る。

 

「まだだ!!」

 

 一歩の踏み込みで距離を潰して肘打ち。そして、その勢いのまま懐に潜ろうとする。

 超分析力が相手の動きを予測すれば、僕はバックステップを踏んでさらに距離を取る。

 予測通りの動き。僅かに崩れた姿勢、その一瞬に前蹴りを放つ。

 

「グッ!?」

 

 堀北学は両腕を交差させ、防御に成功する。

 だが、その威力を殺しきれずに身体ごと後方へ押し飛ぶ。

 すぐには立てない。今の一撃で彼の腕は痺れている。

 僕は予備動作を省略し、一気に距離を詰める。

 

「……参った」

 

 何とか顔を上げた堀北学だったが、鼻先一寸に拳が置かれていては何もできない。

 たまらず降参。しかし、まだその目に闘志は宿っている。

 僕が手を差し出せば、彼は迷わずその手を掴む。

 引いて彼を立たせれば、先ほどよりも清々しい笑顔を浮かべている。

 

「もう一戦、構わないか?」

「はい。あなたが望むまで付き合いましょう」

 

 絶対的な実力差。しかし、それでも彼は挑むことを止めない。

 折れずに立ち向かうその姿は実に見事。何度床に転ばせても、彼の心は折れない。

 手は抜かない。一撃だって入れさせはしない。

 僕を倒そうとする意志に、僕は手加減せずに報いる。

 

「……ふっ、満足だ」

 

 十戦ほどすれば、彼は地面に背をつけながらそう宣言する。

 完膚なきまでの敗北を味わったというのに、堀北学の表情は曇っていない。

 むしろ、今日一番の歓喜に満ちた表情。自分の全力を出せたことは、気分が良かったようだ。

 

「約束通り、1000万ポイントはお前に渡す。だが、他にもお前と競い合いたい。昼食の後も付き合ってくれないか?」

「構いません。どんな勝負でも受けましょう」

 

 上半身を起こした堀北学は、約束の条件を満たしたことを告げる。

 今日は一日時間が空いている。彼との邂逅もこれで最後、多少の我儘は聞いてあげましょう。

 

 その後、彼が満足するまで沢山の物事で競い合った。

 

 知識や力比べ、スポーツ。果てには、ダーツやボウリングのような遊びまで。

 結局、彼は僕から一本も取ることはできなかったが、それでも超高校級の生徒会長として素晴らしい才能を持っていた。

 今日の経験が彼の進化に繋がる。久しぶりに、悪くない一日でした。

 

 

 堀北学との親密度が上がった!!

 

 

 




2000万渡したかったけど、普通はそんな集まらないと思うので半分だけ渡すことに。
堀北兄はスッキリして卒業です。
この後は、綾小路と原作通り話して彼に激励を送ってくれます。妹とも仲直りできるので、憂いなしです。
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