ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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独自解釈入ります。


Chapter3
豪華客船


 

 

 

 視界に広がる世界は混沌を極めていた。

 活気溢れていたと思われる無数の建物は崩れ、壊れ、火の海に呑まれている。

 錯乱したような多くの人間の叫び声が響き渡る。

 

 叫び、倒れ、殺され、死んでいく。

 

 流れていく血の量が多すぎるために、どこもかしこも鉄分が含まれた独特な匂いと死の気配特有の腐臭が蔓延していて呼吸すら儘ならない。

 そんな光景を現在の“拠点”、そう言えるかも怪しい不衛生な廃墟から眺める。

 

 ───ツマラナイ。

 

 飽きとは恐ろしいものだなと僅かながらの感情がそう訴える。

 以前は絶望を未知のものと思っていたが、こう何度も見せられれば推測するのも容易くなってきた。

 

 結局、彼女の言ったことも一時的なものだった。

 分かりきっていた事だ。しかし、変わって欲しかった事。

 

 改めて、男は自身の求めるものを認識した。

 男は今夜の食事をする場所を見つけるために、新たな拠点を探し始めようと行動に移す。

 世界全体が絶望に呑まれ、混沌に陥った所で男には関係ない。

 

 “幸運”があるので死ぬことはない。“無人島生活”のような厳しい状況を毎日続けた所で、寿命尽きるまで生きることが可能だ。

 

 先程の場所から少し歩くと街が見えてきたので、特に警戒することなくそこに踏み入れる。

 崩れたレンガ、そこかしこにある複数の死体、壁に付着する変色した血。

 幅の広い道路に沿って延々と続いてるような商店街。高層ビルも一目見ただけでは判断しきれないほどある。

 もっとも、どちらも大破している。

 

 ここも活気溢れた場所だったが、そんな変化では男の歩みを止められない。

 

 数分後、男は“幸運”にもまだ食材が残っている場所を見つけた。

 明かりが取り付けられていて見やすい。明らかに人の手が加わっているデパートだ。

 

 

 男は初めて歩みを止めると同時に────身体を横へ逸らした。

 

 

「……ッ!? 貴様何者だ」

 

 男が止まったと同時に、物陰に身を潜めていた人間が一瞬で距離を詰め、日本刀を振り下ろしたからだ。

 振り下ろした場所から大量の土煙が上がる。くらったらひとたまりもない威力なのははっきりした。

 下手人は女、胸に晒しを巻き、所々に赤が付着した白の特攻服のようなスーツという奇抜な服装をした女。

 女は確実な隙をついた“先手”を外したことに驚きの表情を浮かべていたが、すぐに無表情に戻る。

 まともではない。

 事実、眼鏡越しに見える彼女の真っ赤な瞳は何重にも渦を巻いていて、ぐちゃぐちゃな何かを吸い込んでいるようだ。

 

「絶望の残党。確か、剣道家の才能を持ったヒットマンでしたね」

 

「……お前、何を知っている」

 

「何も」

 

 特に興味のない彼女を無視し、男は食材の山の元へと背を向けようとした。

 しかし、手が掴んだのは食材ではなく日本刀の柄。再び女が切りかかってきた。

 

「この際、お前の事などどうでもいい。だがその食材は坊ちゃんのものだ。勝手に取るなど許さん」

 

「『所有の権利を保証させたい』ならば、もう少しまともな意見を下さい」

 

 男はそう言い、内側が本物の刀になっている竹刀を離す。

 同時に、女はバックステップを踏み、男との距離を調整する。

 

「保証などいらん、ここら全ては坊ちゃんのものと決まっている。お前のような男に一欠片とて渡す気はない。

 もし、お前が次に奪おうとするのならば……私は坊ちゃんの『道具』として侵入者を排除する」

 

 淡々と言葉を告げる女の口角が徐々に上がり、とうとう不気味な笑みへと変わる。

 それは、人殺しを悦と感じる者が至る笑顔だ。

 

「感情を持つ道具。まさに絶望的ですね……ツマラナイ」

 

「死ね」

 

 

「そこまでにしろ、ペコ」

 

 

 女はその言葉と同時にピタリと止まり、膝を折って頭を下げた。

 2人のボディーガードと一緒に物陰から現れた男は“道具”の機械的な動作を見ると、心底、まさに心底愉快そうに笑う。

 

「よォ、客人。俺がこの辺りを支配している者だ」

 

「それで?」

 

「その食材はなぁ、俺のなんだよ。欲しけりゃ対価を置いていけ。対価交換の『契約』だ。それが出来ないなら……今すぐ死ね」

 

 小柄で帽子を被り、右眼を眼帯で隠す少年は笑いながらそう言う。

 ───ツマラナイ。男はそう思う。

 歴史が証明しているにもかかわらず、私利私欲のためだけに圧政を続けた“実力のない暴君”、所詮はその程度の存在。

 小さな男も女同様、様々な感情をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような瞳をしていた。

 

「陳腐な契約を結べと?」

 

「あぁ、悪い話じゃねえだろ。そうすればお前は命が助かる」

 

「ツマラナイ」

 

「……なら仕方ねえな。ペコ、俺の『道具』として命令する、奴を殺せ」

 

 早すぎる会話の流れに待ったをかける人間もいない。

 

「はい坊ちゃん、仰せのままに」

 

 そんな空間の中、人間の常識を超える速度で少女が突撃してきた。

 ────蹂躙は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと起きましたねカムクラくん」

 

 瞼を開き、初めて視界に入ったのは真夏の太陽から発せられるギラギラと輝く光。

 明るすぎて何も見えない中、高く美しい声だけが僕の聴覚に届く。

 寝惚けることなく、思考は加速し、現状を一瞬で理解した。

 

 夢───同時に頭の片隅にしまってあった記憶でもあるもの。

 

 滅多に見るものじゃないその現象に内心では少しだけ思う所があるが、状況の対応へと意識を割いた。

 

「ベンチの上に足を乗せるなんて行儀が悪いですよ」

 

 真横から聞こえる美声が、再び僕の聴覚を刺激する。

 僕は、落ち着いた声を響かせる人間の方へと顔を向けた。

 太陽の光で反射し、透き通るような薄水色の髪を持つ美少女。

 クラスメイトの椎名 ひよりが、見る人全てを魅了するような美しい笑顔でこちらを見ていた。

 

「癖なので」

 

 ベンチの上に乗せている片足を下ろし、断熱材が埋め込まれた地面に両足を付ける。

 アスファルトの上と全く変わらない感覚だと思いながら、眼前に広がる常夏の海を視認する。

 

「癖、ですか。

 ふふ、本当はもう少し注意した方が良いかなと思ったのですが、良いものを見れたので今日はここまでにしますね」

 

「良いもの?」

 

 ニコリと微笑む彼女は片手に持っている文庫本を膝の上に置き、頬に手を当てる。

 

「カムクラくんの寝顔です」

 

「ツマラナイものじゃないですか」

 

「いいえ。普段のあなたからは想像できない子供のような表情はつまらないものじゃありませんでした」

 

 先程と変わらない笑顔のまま、彼女は言葉を続けた。

 悪意の篭っていない純粋な賛美になんだかむず痒くなる。

 ───わけがなく、興味すら湧かない。

 

「頬をつついてみましたが、起きなかったので余程疲れが溜まってたんですね」

 

「……そのようですね」

 

 カムクライズルが他人の前で熟睡する上に、他者に触れられても意識を覚醒させないとは。

 どうやら、僕は無意識の内に彼女を害のない人間と判断していたらしい。

 

「ふふ、でも気持ちは分かりますよ。ぽかぽかとしたこの陽射しに、暑さを遮る澄んだ波風。こんな素晴らしい海の上ならお昼寝もしたくなっちゃいます」

 

 波風。海の上。

 何故それらを感じられるのか。

 それは僕たちが現在進行形で海の上を移動しているからだ。

 

「学校も太っ腹ですよね。高校生にこんな豪華な旅行をさせてくれるなんて」

 

 神々しく輝く太陽から発せられる陽射しは、無限に広がる雲ひとつない空を通過し、際限なく潮風を運ぶ海へと呑み込まれる。

 それらが出迎えてくれる豪華客船のデッキは芸術だ。

 この景色だけでも夏休みの1つの思い出になると言えるだろう。

 学生たち待望の夏休みが始まった中、こんな贅沢を出来るのは何故か。

 その理由は、高度育成高等学校の1年全員と担当教員は本日、8月1日から2週間、規格外の豪華旅行をしているからだ。

 

 これがどれほど規格外なのかを掻い摘んで話しましょう。

 

 予定では最初の1週間は無人島に建てられているペンションで夏を満喫し、その後の1週間は客船内での宿泊という流れ。

 先程説明した芸術的な光景が見えるデッキ。

 楽しむために必要な設備を完備したシアターや高級スパ。

 屋上には複数のプライベートプールがあり、時間帯自由に扱えるだけでなく、水着を借りて遊べる。

 これ以外にも豪華なサービスがあるが、すべて無償という太っ腹さ。

 はっきり言おう、異常だ。

 

「また、以前のように裏を読めということでしょうか?」

 

「はい。楽しみながらも警戒しなければいけません」

 

 社会に必要なものを実践、つまり経験させて覚えさせるこの学校の教育方針は中々のものだが、今回はタチが悪い。

 天国から地獄に叩き落とされるような可能性の落差すらある事に、大量の悪感情が生まれるだろう。

 案の定というか、僕の言葉を聞いた椎名さんの表情が歪む。

 暗い空気が漂いながらも、彼女は自身の思考を言語を用いて形にしていく。

 

「今後何かが起こったら、それはもしかして運動に関わることなのでしょうか? 出来れば運動は遠慮したいです」

 

「運動が必要になる時は必ず来ます。もっとも、今回かどうかは知りませんが」

 

「……カムクラくん、私は運動音痴なのです。この先大丈夫でしょうか?」

 

 自虐しながら短所を露呈する彼女の瞳はやや暗い。

 かねてからの悩みでもあることが分かる。

 

「大丈夫ではありません」

 

「……手厳しいですね」

 

 椎名 ひよりは確かに賢く、学力もあり、超分析力とまではいかないが分析能力もかなり長けている。

 だが、この学校はそれだけで評価するほど甘くない。

 証拠に彼女はCクラス、学力だけならばAクラスでもそうなる理由がある。

 彼女にとっては身体能力がまさにそれだ。

 

「早急な改善を求められてはいませんので、ゆっくりと克服すれば良い。それだけです」

 

「ふふ、そうですね。ゆっくりと時間を掛けて頑張るしかなさそうです。

 ……ところでカムクラくん、私の貸した本は読み終えましたか?」

 

 先程の暗い態度と打って変わって、キラキラとした視線を向ける彼女はとても鬱陶しい。

 彼女の貸してくれた本、『ABC殺人事件』という本だが確かに読み終わっている。

 だが、期待の眼を向ける彼女には申し訳ないが、これといってオモシロイものではなかった。

 読み終わったがために、この場所で先程まで眠っていたのだ。

 余韻に浸ることなく本を閉じ、ポカポカとした暖かい陽射しから生じる睡魔に、僕は身を任せた。

 

「読みましたよ」

 

 適当な生返事。

 愛想がなく、そっけない雰囲気まで出ている自身のことを理解する。

 

「その表情は、つまらなかったのですか」

 

「ツマラナイとまでは行きませんよ。正確に言えば、時間潰しにはなりました」

 

「……でも読んでくれるだけ嬉しいです」

 

 トゲのある言い方をしても先程と同じようにニコリと微笑む。

 だが彼女も人間なので、心の底ではそんな言い方しなくてもという若干の怒りと戸惑いの感情が蠢いてる。

 

「感想はありますよ」

 

 ご機嫌取りのお時間だ。

 彼女はピクリと体を揺らす。

 本物の魚に見せるための動きをする前のルアーに食らいつく食欲旺盛な魚のような素早い反応で、こちらに顔を近づける。

 

「一部とは言え、どこか面白い所があったのですか!?」

 

「いえ、オモシロイという訳ではありません。ただ、以前読んだ『ABC殺人事件』は全て英語でしたので日本語版とはやや表現が違う部分が見受けられました」

 

「なるほど。それは興味深いことを聞きました」

 

 彼女は顎に手を当て、うーんという感じで何かを考える。

 恐らく英語と日本語の表現技法の違いを考えているのでしょうが、たかが一高校生にその論題を考えさせるには些か難易度が高い。

 

 例えば、英語と日本語の時間の表し方一つ取っても違うのだ。

 英語は時間に厳しい言語で、日本語は緩い言語だ。

 英語は現在形、過去形、未来を表現する文法といった決まった表現がある。

 食べる、食う、口にするという様々な言い方が出来る日本語は英語の現在形では“eat”。食べた、食った、口にしたという日本語は英語の過去形では“ate”。時間を置いてから食べると今決めたならば“will eat”。

 その未来が既に決まっているならば“be going to eat”。今まさに食べようとしたなら“be about to eat”。

 

 こんな面倒な違いがある英語と比べて日本語はというと、現在形にしたいなら動詞の最後を「〜する」、過去形にしたいなら動詞の最後を「〜した」、未来の表現にしたいなら「〜する予定だ、〜するつもりだ」。

 些細な時間の違いで表現を変える必要は無いのだ。

 古典の時から、過去を表す表現が「き」「けり」しかなかった日本語なのだから、時間に緩い言語であることは別段不思議とは思えない。

 もっとも、過去の表現を使わずに時間や季節を日本語は現せるのだが、これ以上の追求は長くなってしまうのでやめておきます。

 端をつまんだだけでもこれだけの情報が出てくるのだから、翻訳による解釈の違い、所謂言語の壁とは並大抵の高さではない。

 

「……私、もっと英語頑張りますね。やはり本を理解するには言語の壁を突破しなければ話にならないと再認識しました」

 

 そう言う彼女の瞳にはメラメラと燃える炎のような好奇心が激しく動く。

 手は握り拳を作っており、やる気十分な姿勢が見受けられる。

 

「だからカムクラくん、その……出来ればなんですけど、私に英語を────」

 

 彼女が何かを告げようとした途端に、周囲が騒がしくなった。

 ワッと言う声が彼女の小さく、細い声を打ち消す。

 

「ど、どうしたのでしょうか?」

 

 彼女はデッキの取っ手を掴み、そこから景色を見渡した。

 島がはっきりと肉眼で確認出来る。

 どうやら島に到着するようだ。

 

「え? 回り始めた?」

 

 椎名さんの戸惑いの声が響く。

 島につけられると思っていた船が、何故か桟橋をスルーし、ぐるりと島の周りを回り始めたからだ。

 

「……妙ですね」

 

 その意見に賛成だ。が、これから泊まるであろう島の全容を1周回ることで把握させてくれるだけかもしれない。

 だが、疑えるものは全て疑う。

 かつて全ての事象を疑って真理を見つけた哲学者だっているのだから、多少懐疑的になっても怪しい事は警戒すべきだ。

 不自然に空洞が出来ている岩盤。高さがある程度整備されている森。

 自然に合うように作られている事が際立つがため、逆に自然に合っていない小屋。洞窟……いや洞穴と思われるところもある。

 さらには、鉄塔と倒れた大木。

 そして人工的に作られたと思われるヤシの木が生えたビーチ。

 島の面積は約0.5㎢、最高標高230m。

 百数人が過ごすにしては大きすぎる島だ。

 

 ああ、そう言えば、重要なことを言い忘れてましたね。

 

 一通り見ましたが、この島にペンションやそれに準ずるものなんてありませんでした。

 僕たちにどこで、どうやって生活させるのでしょうか。

 聡明な人間ならば、答えを推測出来るだろう。

 生活するための拠点がない島の中で人間たちを降ろし、やらせること。

 それは───

 

 

「────サバイバル」

 

 

「……どういうことですか?」

 

「いずれ分かりますよ。それにそろそろでしょうから」

 

 彼女から借りていた本を持ち、ベンチから立ち上がる。

 そのまま僕は彼女に背を向けて歩き始める。

 最後に見えた彼女の表情には不安が見えたが、わざわざ説明するまでもない。

 どうせ彼女ならば、直に1人で分かる。

 

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸します。

 生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認したあと、携帯を忘れず持ち、デッキに集合してください。

 それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

 

 予想通り、上陸に関するアナウンスが流れた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 体育の授業でも使用するジャージを身に付け、Aクラスから島へと下船する。

 1年生全員が砂浜がよく見える海岸付近へと集合する。

 

 そこに到着するまでテキパキと行動する人間もいれば、ダラダラと談笑しながら歩く人間もいた。

 そんな多種多様で纏まりのない人間たちも、誰もが全く同じジャージを着て画一化されていると考えると滑稽に思える。

 下船して少し経つと、全クラス一斉に出席の確認を始め、持ってきていた携帯を提出した。

 それが終わると高身長の教師が前へと出て、予め準備されていた白い壇上に上がる。

 よく鍛え抜いた身体をしているために、体育会系の先生に見えるが、英語を担当しているAクラスの担任、真島先生だ。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかったことは残念でならない」

 

 運が悪い。

 しかし、誰が休んでいようとどうでもいいので他に気になったことへと思考を集中させる。

 険しい表情を浮かべる教員たち。作業着に身を包んだ数十名の大人たち。

 特設テントの設置をはじめたり、パソコンといった電子機器を用意する人間も見える。

 僕の予測が正しいならば、あれは生徒たちの身の安全を守るための準備でしょう。

 先程から沈黙している真島先生は生徒たち一人一人を見つめていく。

 海のさざ波や潮風のような自然な音が、人工的に作られた機械音によって霞む。

 そんな雰囲気に生徒たちも困惑の色を見せ始める。

 

 だがとうとう、真島先生から冷酷な一言が発せられた。

 

 

「ではこれより───本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 

 この場に満たされたのは疑問、ほぼ全員が未だに幻想に浸っている。

 周囲を確認し、浸っていないかつ、平然としている人間を探す。

 Aクラスからは数名。僕とは対称的なスキンヘッドの男子と坂柳さんの取り巻きである金髪の男子と確か……真澄さんという女子。

 Bクラスからも数名。一之瀬さんは堂々とした態度をしており、彼女の隣にいる整った顔の男子も落ち着いている。

 Dクラスからは一人。これは例外だが、背筋を真っ直ぐ伸ばしながら、降り注ぐ太陽で爪を光らせる変人こと、高円寺 六助だ。

 

 

 ───そしてニヤリと不気味に嗤うCクラスの王。

 

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる」

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

 僕の2つほど後ろにいるCクラスの生徒が戸惑いながらもしっかりと手を挙げ、真島先生へと当たり前の疑問をぶつける。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由なく認められていない。この島での生活は衣食住全て、君たち自身で用意してもらう。

 スタート時点ではクラス毎にテント2つ、懐中電灯2つ、マッチ1箱、歯ブラシを各自1つずつ支給する。

 特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように、私からは以上だ」

 

 予想通りの流れに退屈がぶり返す。

 倦怠感が僕の身に纏い、退屈凌ぎのためか明後日の方を向くようになる。

 未だこの状況に納得がいかないのか、以前図書館で見たDクラスの生徒が真島先生に叫ぶ。

 それを冷静な口調で真島先生が返し、納得させる。

 そんなようなやり取りが続く。

 

 興味が湧いたのは、この特別試験のテーマが「自由」ということを聞いた後だ。

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。

 このポイントを上手く使ってこの特別試験を楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

 手にはそのマニュアルと思われる厚みを持った冊子が握られている。

 

「これにポイントで入手出来るモノが全て載っている。生活に必要なモノから娯楽まで全てだ。例えばバーベキューがしたいなら、機材と食材も用意できる」

 

 その言葉を聞くにつれて、生徒たちの表情は穏やかになっていく。

 

「言っておくが、2学期以降に悪影響はない。そして、難しいことなんてものもない。

 先程も言ったがこの試験は全て自由。集団生活を送る上での必要最低限のルールはあるが守ることが難しいものなんて一つもない」

 

 会話を円滑に運用するために出てくるであろうツマラナイ質問を先に潰して彼は話す。

 今のままでは、試験と聞こえの良い娯楽にしか聞こえない。

 どう考えても試験の全貌が見れないことに若干の楽しさがあったが、それは次の情報で無に帰す。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する」

 

 クク、という特有の笑い声が聞こえてくる。

 どうやら彼の予想も当たっていたようだ。

 早い話これは、1週間の我慢によっては来月から貰えるクラスポイントが最高300ポイント増えるのだ。

 そしてこの戦いに学力は関係ない。何せサバイバルなのだから。

 ゆえに上位クラスが有利で、今まで変動することなんて有り得なかったクラスポイントは変化を始める。

 本格的な───クラス闘争だ。

 

「マニュアルは1冊ずつクラスに配布する。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。

 また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいる場合、30ポイント減少というペナルティが決まっている。

 そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

 ふーん、休んだのは坂柳さんですか。

 見当たらなかったのでもしやと思っていましたが、彼女の疾患ではこの無人島が厳しい環境なので仕方ない。

 

「これにて説明を終わりにする。まだ何か分からないことや質問がある者はいるか?」

 

 拡声器から発せられる太い声に反応するものはいない。

 生徒一人一人を見渡し、最終確認をしていく。

 しかしそこに、右手を天高く上げる人間が現れる。

 ───僕だ。

 この場で質問する事にメリットなんてない。

 なぜなら、未だに状況を理解しきれていない人間にヒントを与えるようなものなのだから。

 後で質問しやがれ、龍園くんにそう叱られそうですが、そんなものはどうでもいい。

 

 このままツマラナイ試験を行うことの方が僕からすれば退屈でしかない。

 

「質問を許可しよう」

 

 この場にいる全ての視線が僕へと集まる。

 緊張なんてない。

 むしろ、この視線は超高校級の希望として生まれた時点で背負わせれた宿命のようなものだ。

 

「2つ、質問があります。1つ目は、先程今後に悪影響はないと仰っていましたが、300ポイントが0ポイント未満になった時はどうなるのですか?」

 

「それに関しては問題ない。ポイントは0から減ることはない。たとえ全て使い切っても最低が0ポイントだ」

 

「そうですか。では、2つ目です」

 

 生徒が先生に使う言葉遣いではないためか、Aクラスの生徒から非難の目を浴びせられる。

 だが、そんなことお構い無しに僕はそのまま続けた。

 

「300ポイントは──譲渡する事が可能ですか(・・・・・・・・・・・)?」

 

 静寂。

 真夏のビーチを一連の潮風が靡くことで、砂埃が舞う。

 他クラスの生徒は何を言っているんだという表情を浮かべている。

 一之瀬さん、龍園くん、櫛田さん、スキンヘッドの男子、Dクラスの黒髪の美少女、そして地味目の彼も同様だ。

 我慢して耐えればかなりの量のお小遣いが二学期に貰えるこの試験において、僕のこの質問はそのお小遣いを他者に渡すというありえないもの。

 理解したり、真意を見抜こうとする方がバカらしく見えるものだ。

 事実、チラホラと馬鹿にするように笑っている人間が見える。

 

「……可能だ。モノを買うためにポイントを支払うならば、他クラスに投資するという意味でポイントを支払う事が出来る。

 ちなみに、ポイントを使用したい場合は誰でも、その都度担任に報告することで可能だが、キミのいうポイント譲渡は誰でもできる訳ではない。

 それについては後々各担任から説明されるリーダーと関係があるのでそこで聞いてくれ」

 

 真島先生はそんな僕の質問に真面目に答えてくれた。

 どこで使うんだよその情報、と多方面から聞こえるが気にしない。

 この段階で絶対に必要なものとは、僕も思っていない。

 だが数時間前にも言った通り、疑えるものは疑う。

 ルールの裏を突くには、ルール全てを把握する必要がある事と他人の予測を振り切る事が必要だ。

 そのための過程。結果を導くための過程を濃くすることで、成功の確率を上げるための手段。

 僕は幸運があるため、いちいち過程に拘ることなく勝つ事が決まっている。

 すなわち、結果は勝手についてくるのだ。

 ……本当にツマラナイ。

 僕が楽しめるのは、過程だけなのだ。

 

「もう質問はないな? ……これにて話を終了する。各クラス毎に解散してくれ」

 

 僕の質問で時間が押してしまったためか、真島先生は手早くことを済ませる。

 その後、拡声器をもつ別の教師が現れ、それぞれの担任の先生の方へと分断していく。

 

 

 

 各クラスが距離を取るようにして集まりだした。

 

 

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