ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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推測

 

 

 突然ですが、1つ聞きたいことがあります。

 

 

 超高校級の希望と呼ばれた僕でも答える事が難しい問いです。

 時間が惜しいので早速問いを投げさせてもらいます。

 

 

 問い:学校から帰宅する時に男女で並んで歩いて帰る時の話題の振り方とは

 

 

 僕には恋愛感情と言ったものが存在せず、体験したことがないので予測こそ出来ても確信ができません。

 そしてこの場合、どうやって話を広げていくかが少し悩ましい。

 一般的な男女ならば少し緊張しながらも少しずつ話していけば打ち解けていくでしょう。

 例えば「今日は天気が良いね〜」や「今日の授業さ〜」などと言った話を振れば、そこまで仲が悪くない限りだんだんと話は続いていくし、お互いの距離も縮まっていくでしょう。

 

 だが本当にそれでいいのか。仮にお互いに好意を持っていればこれでいいのでしょう。会ってから時間が経ってない関係だったらその話題の振り方はおかしいのではないでしょうか。

 

 では仲を深めるために下校中の男子高校生が異性に甘い言葉を口にしていきなり口説き始めるか。

 断じてありえないでしょう。まして仮に僕がそんなことを言ったらイメージが大崩壊します。……いろいろと考えすぎて話が訳の分からない方へ飛んでいきましたね。

 

 

 さて、なぜここまで悩んでいるか。

 答え:隣に伊吹さんが並行して歩いているから。

 

 

 もう一度言わせてもらいますが確かに僕はありとあらゆる才能を持っているので相手が話しやすいように話すのは可能でしょう。

 ですが先程まで無口でまったく喋ろうとしない男が急に詐欺師顔負けの圧倒的トーク力を発揮しだしたらどう思いますか?

 

 気持ち悪いでしょう。

 

 表情筋がまったく揺れ動かない人間の顔が急にこれ以上ないほど清々しい笑顔を浮かべたらどう思いますか?

 

 気持ち悪いでしょう。

 

 まして甘い言葉なんて口にしたら?

 

 最悪通報されるでしょう。

 

 初めての高校生活初日で通報されて即退学なんてまさに絶望です。これでは超高校級の希望(笑)と呼ばれても文句はいえません。

 ですからここは伊吹さん、早く僕に話しかけても良いんですよ。

 珍しくこの僕が困っているのです。

 

 

 

 

 感情や趣味といった余分なものを全てなくしたはずの超高校級の希望、カムクライズルは結構受動的であった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「(あたしのクラスは……Cか)」

 

 私は伊吹澪。今日からこの高度育成高等学校に入学する女子生徒だ。

 この学校は進学率・就職率が脅威の100%をたたき出し、高い進学実績を誇りながらも様々な部活動が有名で文武両道を誇っている。そして何より国が運営している程の規格外な学校だ。

 

 仮にこの学校の卒業生を調べてみれば、ほとんどがテレビで1度は名前を聞いた事がある人ばかりだろう。

 とまあこんな感じのすごい学校ならば私の将来も良くなれんじゃね?と言う理由と一人暮らしが出来るからこの学校に進路を決めて、テスト受けたら合格出来た。結構ふわふわした感覚でここまで来た。そして本日とうとう入学式ってなわけなんだけど……まぁやはり1人だと不安だ。

 

 さっさと荷物置きに行くかと思い行動を開始する。

 教室に行けば少しは同性の人とかいるだろうし、人付き合いが苦手な私でも数人は友達が出来るでしょ、と楽観的な思考を持って私は行動を開始した。

 

 まぁ、こんな長々と思考してんの私らしくないし、さっさと教室に向かっちゃうのが1番だ。

 

「落としましたよ」

 

 背後から声がした。

 私は反射的に後ろを振り向き、飛び蹴りを入れてしまいそうになる。

 

 私はこれでも武術を少し嗜んでいる。身体能力には自信があるし、喧嘩なら一般的な平均男性くらいなら勝てると自負している。

 そんな私が背後にいる人間にまったく気づかなかった?

 傲慢な言い方に聞こえるけど、さすがに背後に誰かいれば普通は気付く。

 なのに私は目の前にいるこのバカみたいに髪の長い男の気配に気づかなかった。

 てかあれ?こいつの持ってるの私のハンカチじゃん。まったくなんでこいつが持ってるんだか。

 

 私は目の前の長髪男からハンカチを強引に取り返すとすぐに思い出す。そう言えばこいつ「落としましたよ」って言ってたじゃないかと。

 

 少し気が動転して冷静じゃなかった。

 ……このままじゃ私性格悪い女みたいだ。少し遅いけどお礼言っとこ。

 

「……ありがとう」

 

 長髪男は特になんも言わないで頭を少しだけ下げた。

 私が言うのもなんだけどこいつ無愛想すぎだろ……。表情がまったく変わってないし、てかなんなのその頭、高校デビューとかで普通はそういうの切るものじゃないの!?

 それにこいつこっちの方向にいるってことは───

 

「…………ねえあんたCクラス?」

 

「ええ」

 

「やっぱりそうか」

 

 こんなのと一緒のクラスかよ〜。なんだか幸先不安だわ。と、心の中なので結構好き勝手に言い散らかす。

 そんなに伸ばしたらそりゃ気になるでしょと、責任転嫁する始末だ。

 でも気になんない方がおかしい。

 いっそのこと聞いてみるか?こんなに伸ばしてて聞かないのは何となく失礼な気がして来るし────

 

「僕の顔に何かついていますか」

 

 私の露骨な態度に気付き、黒髪の男子は疑問を投げてきた。

 私はその態度に一瞬だけビクリとした後に思っていた事を罵倒にならないよう慎重に応える。

 

「…………あんた男だろう?それにしては異常に髪が長くて少し驚いただけだ」

 

 ストレートに言いすぎたかな?と内心ビクビクとして彼の言葉を待つ。

 やっぱ私、人付き合いは苦手だわ……。こういうのにも多少気を使わなきゃいけないとか無理だわ。

 

「この髪は放置してたらこうなっただけです」

 

 あっ、よかった気にしてなさそう。てか放置って何!? 切れよ!高校デビューくらいしろよ!私があんたの立場だったら即切ってるわ!

 男の適当な答えに変なテンションへと私は変わる。

 

「放置って……あんた変わってるね。鬱陶しいだろその髪」

 

「慣れれば問題ないですよ」

 

 ……こいつは変人決定だ。しかし悪人には見えない。

 初めは誰かしらと一緒にいた方が気が楽だし、こいつの名前聞いておくかと気楽に考え実行しようとする。

 

「あんた名前は?」

 

「名前?」

 

「これから1年は絶対一緒なんだから、自己紹介は先にやっといた方が良いでしょう?」

 

「自己紹介なんて意味の無いことだと思いますが……まぁ良いでしょう」

 

 

 無機質な声。まるでロボットと話してると感じてしまってもおかしくないほど感情のこもっていない声。

 この男との出会いはここが始まりだった。

 この男との関わりがこれからの3年間、私の高校生活に大きな影響を与えることになったのだ。

 

 

 

「僕は神座出流(カムクライズル)。よろしくする気はないですよ」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 入学式と担任の先生からの説明が終わった。ここのシステムは異質だったけどまさか10万ポイントも貰えるとは思わなかった。

 それに龍園って奴が言ってた事も気になる。

 まぁそれはこの長髪男と話す時に聞くしかないか。

 多分私より頭いいだろうし(勘)。

 

 と、雑な思考をする私は現在進行形で下校していた。

 1人ではない。よりにもよってあの長髪変人男と並んで下校していた。

 

 話してみたら面白いかもしれないと思って話しかけたのは正直間違いだった。

 この男変人じゃない、超変人だ。

 表情は変わらないし、必要最低限のことしか話さない。加えてこちらの思考を高確率で読んでくる。

 

 でもこの学校のルールの事を確認し合うためにはしょうがないかなって思うし、些細のことは我慢するとしよう。

 

 校門を通ってから寮までは少し距離がある。とは言っても地図通りならば数分だ。

 なのにだ。私は今言いたいことがある。

 

 歩き出してから2分くらい経つけど、なんでこいつ一言も喋らないの!?

 

 さっき、「少し話しましょうか」とか言ってたじゃないか。

 私だって会話が苦手なんだぞ。

 

 私は自分のコミュニケーション能力の低さを恨みながら、心の中で訴えていたが、焦れったくなったのでとうとう行動に移した。

 

 

「ねえ少し話すんじゃなかったの?」

 

 長髪男は特に表情を変えることなくこちらに視線を向ける。

 相変わらず無愛想だなーって思ってるとすぐに彼から言葉が返ってくる。

 

「そうですね。……伊吹さん、1クラス40人×4クラスに毎月10万円を3年間送れると思いますか?」

 

「……無理ね。いくら国でも月1600万も支出して、3年間続けたら5億以上お金が消えてるし。それに加えて他学年のもって考えると……」

 

「そう。いくら国が運営している高校とはいえこの額は出しすぎです。大学や大学院ならばまだ納得出来るかもしれませんが高校生には多すぎます。なので10万ポイントはおそらく4月のみと考えるのが妥当でしょう」

 

 やはり私の予想通りだ。

 そして幸運だ。私だけじゃこんな感じに広い視野持って考えることは出来なかったし、説得力も結構ある。でも……

 

「なんで坂上先生は龍園って奴の質問に答えられなかったんだ?」

 

「……意外と鋭いんですねあなた」

 

「……なによその意外そうな顔……でもないわね。無表情だったわ」

 

 表情筋死んでんじゃないのこいつ……。

 

「表情筋は基本動かしませんからね。死んでると思われてもしょうがないでしょう」

 

「心読まないでくれない?キモイんだけど」

 

「……まぁ話を戻しましょう。なぜ答えられなかったか、ですがはっきり言って情報不足すぎて結論を出せません」

 

 当然だろう。さすがにあれだけで結論出せたら人間か疑うレベルだと勝手に判断を下す。

 

「ですが今ある情報でも推測することは可能です」

 

 私はすぐにカムクラの顔を見る。さっきと全く変わらない無表情だが、そんなことは関係ない。

 この男ははっきりと推測は可能だといった。

 この推測が間違っていようがなかろうがそんなものはどっちでもいい。

 

 こいつ(・・・)の答えだから聞く余地がある。

 自分と違う思考回路を持つ人間、そいつが導き出す答えはきっと私じゃ考えられない答え。

 ゆえに聞く価値があるのだ。

 

「この学校には監視カメラの量が多すぎる。まるで監獄のように四六時中学校内のあらゆる所を監視している」

 

「……確かにこの帰り道にすらチラホラと見えるわね」

 

「ではなぜ監視する必要があるのか、それは問題が起きた時に学校側が素早く対処出来るためでしょう。

 これだけの監視カメラがあればいつ、どこで、誰が、何を、どのように、どうしてやったのかなど一目瞭然でしょう」

 

 カムクラの言葉は続く。

 

「そしてそれは授業も例外ではない。つまり学校は監視カメラで生徒達を監視し、何かを基準にして厳密に評価しているのでしょう」

 

「評価?」

 

「ええ。例を上げるならば授業態度や生活態度でしょうか。まぁその辺りは詳しく分かりませんが、ここまで厳密に評価してる事を学校側が教えるわけがない。むしろヒントを与えてるんだから気付けと言ってるように感じます」

 

 確かに坂上先生の言い方は違和感を感じた。違和感を1つ感じると何もかもが怪しく見える。なんて言ったけなそんな現象……。

 

「それに教えてしまえばいくら愚か者が多いクラスでもそのルールの中では『優秀』なんてなんの価値もない評価しか得られません。そんなものを求めるくらいならばこんなに監視カメラはいらない。

 ……少し話が逸れてしまいましたが、答えられなかった理由を要約すると素のままの生徒を評価して数値化させたいからでしょう。そしてその数値化した値こそが毎月のポイントと僕は推測します」

 

 こいつの言ってることが正しければ、この学校はまさに実力至上主義の学校ね。……それを教訓にしてるんだった。じゃあこいつの予想は結構いい線いってるってこと?

 へっぽこな私の脳ミソをフル活用して私は状況を理解しようとする。

 

「……じゃあ評価の基準ってのは何よ」

 

「知りません。それはこれから見極めていきます」

 

 ま、そうよね。でもやっぱりこの男の話は聞く価値があった。この異質な学校に慣れるまではこいつと一緒にいた方が困らなそうだ。

 ならば───

 

「……ねえ私と連絡先交換しない?」

 

 あれ?そう言えば男子と連絡先を直接交換すんの初めてかも……。

 私は言った後に、その事を思い出し、少しだけ恥ずかしい気持ちに支配される。

 

 

「いいですよ」

 

「……今度は思考を読まないのね」

 

「読んで欲しいのですか?」

 

「……きっも」

 

 

 こんなのが私の初めての男友達になった。

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 伊吹さんと話しているといつの間にか寮に着いていた。この学校は男子と女子の寮が一緒であり、下層が男子、上層が女子という珍しい構造をしている。

 年頃の男女の寮くらい別々にした方が良いと思いますが、正直僕にはどうでもいい。僕からすれば性別など些細な違いでしかない。

 彼女と別れを済まし、すぐに寮内の自分の部屋へと向かっていった。

 部屋はそこまで広くはないが、1人の高校生が生活するには十分すぎる部屋だった。

 ベッドや冷蔵庫、机に椅子といった生活に最低限必要なものだけ置いており、料理道具などの小道具は置いていなかった。

 

 

「……まさか水道代や電気代まで無料とは……正直10万ポイントから払われると思っていたのですがね」

 

 なぜ最初に10万払われるのか、それは生活に必要な道具を整えるため、電気代や水道代のため、部活動などに入った人たちへの道具の調達のためなどなど、そういった何かしらの制約のために最初のポイントは多く払われたと思っていた。

 しかしよくよく考えると監視カメラの量や坂上先生の発言と照らし合わせるといろいろとおかしなところが出てくる。

 

「ただのデータ化した現金なんて認識は捨てた方がよさそうですね」

 

 時刻は1時を過ぎていている。そう言えばまだ昼食を済ませてなかったですね。時間もちょうど良い感じですし、昼食と生活に必要なものを揃えるついでに少し探検してみましょうか。

 

 部屋に対する必要最低限の確認と買いにいくものをある程度纏め終えたので外に出る。

 

 さて行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰ってきました。

 早過ぎないか?何を言っているのですか。僕は3時間ほど外出してきました。

 僕の両手に荷物があるのが見えないのですか。

 

 さて、まずは戦利品を紹介しましょうか。僕はホームセンターやコンビニである程度の必需品を買ってきました。

 これと言って有意義という訳ではなかったのですが、やはり買い物は1人に限ります。

 

 それなりに購入したのですが、ポイントにはまだまだ余裕があります。

 やはり10万ポイントというのは多い。余裕があるためかついインスタントラーメンなるものを買ってしまいました。

 料理人もとい、シェフの才能があるから自分で作れるだろうと言う人がいるかもしれませんが、確かにその通りだ。

 しかし僕はこの手の料理を食べたことがありません。

 

 なので少し期待しているところがあります。だから今日の夜ご飯はこれに決めました。

 

 

「それにしても無料品コーナーですか……」

 

 

 ほとんど無意識で独り言が出る。

 コンビニ、ホームセンターのどちらにもあった無料品コーナー。もっと言えば昼食を食べたフードコートでも無料食事を提供していた。

 

 はっきり言って甘すぎる。

 おそらくこれらの無料商品はポイントがない人への救済措置。何らかの事故でポイントを使えなくなった人に対してならばわかる。そうであるならば利用者はもちろん少ない。

 だが明らかに多かった。特に無料食事コーナーには顕著だ。そこにいた全員がダイエットや節約目的といった可能性は、彼らの表情からありえないと考えられます。

 全員が絶望しかけている顔。これが偶然だったなんて天文学的な数値じゃなきゃ説明できません。

 つまり今後何らかの事でポイントが減り、生活に影響を与えるほどの何かが起きる可能性は極めて高いと言えよう。

 

「……今日はいろいろとありましたので早めに寝ますか」

 

 やはり物事の始まりはいろいろと疲れます。

 なのでカップラーメンなるものを食べてさっさと寝てしまいましょう。

 感想はまた後日話しましょう。

 

 

 僕は新品の無印ベッドへと横になり、即座に瞼を閉じた。

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

 わいわいと賑やかな教室。入学式から初日である程度のグループに別れており、そのグループ内でそれぞれが楽しそうに話している。

 かく言う僕はと言うと1人だった。俗に言うぼっちと言うものです。

 

 もちろんクラスは集団なのだから僕のように1人の人間もいる。

 あのグループに入りたいけど今更入ってもいいのかと思っている生徒もいれば、友達すら必要とせずに1人を好む生徒もいる。このクラスは後者の生徒が多いので少し珍しいですね。それにもっと珍しいことに既に舎弟関係と思われる関係の生徒達もいる。

 

 そんなことを考えているといつの間にか次の授業の先生が来ていた。ここは国が運営する進学校。

 当然授業も非常に高いレベルのものを行っていると思っていたのですがそうでも無いらしい。

 どこの学校でも行っている普通の授業。ある程度の教育方針を教えた後にあまり早くないペースで授業を教えていく。違うところと言えば先生の質でしょうか?今のところ3つの授業を受けましたが、どの先生も教え方が上手い。

 そしてどの先生方もフレンドリーだ。あまり学業が優れていない生徒に対しても質問をしに行けば優しく答えてくれる。

 しっかりと授業を聞いていれば授業内の復習をやっているだけでテストで高得点を狙える学力が身につけられると言っていいでしょう。

 

 ですが妙な所もある。

 例えば授業中の生徒への注意。何人かの生徒は授業中にもかかわらず、携帯をいじっていたり、寝ていたりと授業に対して相応しくない態度で望んでいる。先生方はそんな生徒に注意をしなかった。

 

 が、妙な所とはここだ。

 授業に対して相応しくない態度の生徒を見つけた時に注意ではなく、メモ書きをするように先生方のノート、あるいはクリップボードに何かを書き込んでいる。

 だいたい分かってきた。この学校が何を評価しているのか(・・・・・・・・・・)

 

 

「今日の授業はここまで。今日学んだことはしっかりと復習をしていくように」

 

 チャイムが鳴り響くと、先程まで日本史を教えていた女性教師は淡々と言葉を告げ、テキパキとした動きで教室を出ていく。

 彼女が出ていくとすぐに教室内ではざわざわとし始める。

 授業が一旦終わり、昼休みの時間だ。

 

 先程も言ったが僕はぼっちです。昼ご飯を食べる友達などいません。

 今日の僕の予定は学食に行くつもりです。

 本当は節約のためにお弁当を作ってくる予定でしたが、学食がどんなものかを知りたかったので今日だけ行ってみようという結論に至りました。

 

 そう言えば昨日のカップラーメンなるものはお世辞にも美味しいとは言えるものではありませんでしたね。

 ですが不味くもない。手軽に作れてあの値段ならば確かに人気が出るのはわかる気がします。欠点を言うのならば健康に良くないものをやや多く含んでいるといった所でしょうか。

 よって月に1、2回が限度でしょう。今度食べる機会があればラーメンライスというものを試してみるのも良いかも知れませんね。

 それに他の種類も────

 

「ねえあなた、お昼一緒にいかない?」

 

 僕の近くで誰かをお昼に誘う女性の声が聞こえた。

 つい反射的に声のする方を見てしまう。自分が呼ばれたと思ったからだ。

 だがそれは勘違いだった。誘われていたのは僕ではなく、僕の前の席に座っている伊吹さんだった。

 少し自意識過剰でしたね。もう少し大きなリアクションを取っていれば、変な目線を向けられていたかもしれません。

 

「遠慮するわ。私お弁当作ってきてるからさ」

 

「そうなの?でもみんなで食べた方が美味しくない?」

 

「……申し訳ないけど食事は静かにしたいんだ。他を当たってくれ」

 

 きっぱりと断っていた。彼女はなかなか男勝りな性格ですね。

 彼女を動物で例えるならば何でしょうかね。

 まぁ少なくとも草食動物に例えるのは難しそうだ。

 小動物も無理でしょう。どちらかと言えば小動物を食べる狼などの肉食動物の方が合ってそうだ。

 ですがお弁当を作ってる辺りなかなか家庭的な1面も見られます。そう考えると意外とこの例えは難しいですね。

 

 伊吹さんがきっぱりと断ると女生徒はどこかへ行ってしまった。断られた方は他の女子と合流すると何かぶつぶつと呟きながら食堂へと向かっていった。

 

 さて僕もさっさと食堂へ向かいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニに着きました。

 学食は混んでいたのでやめました。バカ正直に並んだら授業に遅れてしまいそうなくらい混んでましたので。

 

 よって今日はパンと無料飲料水で我慢します。明日こそ学食チャレンジだと心の中でしっかりと決意する。

 時間も少し押しているのでさっさと教室に戻ろう。

 僕は普段より早い速度で歩き始めた。

 

 

「それにしても混みすぎでしたね坂柳さん」

 

「ええ。ですがみなさんに迷惑を掛けてしまいました。私の歩くペースに合わせてもらったがために学食を食べれなかったことは申し訳ないです」

 

「い、いえ!そんなことないですよ!坂柳さんのせいじゃないっすよ!」

 

「そうです!運が悪かっただけですよ!」

 

 目の前から4.5人の集団が歩いてくる。

 その中に1人明らかに他の人達と違う雰囲気を持った白い少女がいる。

 髪、肌の白さがその少女全体を白く光らせているように見える。

 

 周りの人間はツマラナイ。特にこれと言った外見的特徴もなければ何か優れている様子もない。才能を感じられない。

 強いて言えばYシャツが第二ボタンまで外れていて、ズボンの履き方が少しだらしない不良っぽい見た目をした金髪のオールバックの生徒くらいでしょうか。彼もあの中ではなかなか見所がある生徒だろう。

 

 しかし目の前から歩いてくる白い少女は違った。

 体は女性というより少女の方が正しいと言える程小柄であるが、非常に整った顔立ちが見せる笑顔とお淑やかな立ち姿からは十分すぎる程魅力がある。

 あの青い眼、サファイアを連想させる宝石のような小さな眼は美しいだけでなく、冷たい。そして何より自分に自信を持っている眼だ。

 少女は杖をついている。歩く時に身体を杖で補助しながら歩いていることから身体に何か障害を持っているのでしょう。

 それにもかかわらず彼女の雰囲気は病弱な少女とはとてもじゃないが感じられず、むしろ獰猛な猛禽類の雰囲気を連想させられる。

 

 そのまま平然と歩いていく。あと少しで通りすぎる所だろう。

 集団は楽しそうに会話している。こちらに気付くことはないと思っていた。

 

 すれ違いざまに白い少女と視線が合う。一瞬の出来事だったが彼女は僕の中で強い印象を刻み込まれた。

 この一瞬で彼女は何を思ったのかはどうでもいい。

 この少女は強い。何を持って強いのかなど些細な問題だ。でもまだ足りない(・・・・・・)

 

 

 それでは届かない。ゆえに───

 

「ツマラナイ」

 

 口癖とはどうしようもないものだ。非常に小さい声だったが零れてしまった。他の取り巻きの方々には聞こえなかっただろうがあの少女にはおそらく聞こえてしまっただろう。

 僕は振り返ることなく、教室へと歩いて行った。

 

 

 

 後ろから視線を感じたがそんなことよりも昼食の方が大事だった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

「今日のHRで伝えることがある。それを聞いたら解散とする。安心してくれ、伝えると言っても1つだけだ。手短に終わらせるので君達の放課後の時間を奪ったりはしない」

 

 すべての授業が終わり、帰りのHRの時間となった。

 坂上先生が教壇に立ったことにより、生徒達は静かになる。

 するとすぐに先生は喋り始める。

 

「今日話すことはポイントについての追加説明だ。昨日、何人かの生徒から質問が来たのでこの場を借りて説明させてもらう。

 それはポイントを増やすことは可能かという質問だ。これは可能だ。部活動や生徒会などが良い例だろう。部活動は入部した部で良い成績が入ればポイントが増える。生徒会も同様だ。

 後日、新入生へのオリエンテーションがあるので部活動や生徒会に興味がある者はそこに参加するのをオススメする」

 

 つまるところ報酬ですね。これでは才能のない者達がポイント欲しさに部活動に参加してしまうだろう。

 ───ツマラナイ。

 

「昨日今日で君達はポイントの使い方には困ってなさそうだね。ポイントで買えないものはないので大事に使ってくれ。

では説明を終わりにする。忘れ物をしないように気を付けて帰りなさい。解散」

 

 本当に手短でしたね。

 それにしてもポイントで買えないものはない(・・・・・・・・・・・・・・)、ですか。

 ポイントがただの数値化された現金なんて認識はいよいよ取り除くべきですね。

 

 さて皆も帰り始めましたので僕も早速───

 

「おいカムクラ、この後暇か?」

 

 伊吹さんが話しかけてきた。

 僕にいったい何の用があるのか……大方ポイントについての話し合いでしょうが、残念ながら今日の放課後は予定がある。

 

「すみません伊吹さん。僕はこの後行く場所があります。暇ではありません」

 

「そっか。ならまた今度でいいわ」

 

「ええ。ある程度僕の中での見解が纏まったらあなたに話しますよ」

 

「……わかったわ」

 

 バツの悪そうな顔をする伊吹さん。考えている事を当てられて悔しいのだろう。

 プライドの高いことだ。実に人間らしい。

 

 時間が惜しいのでさっさと目的の場所へと行きましょうか。

 

 

「はぁ〜この後の時間どうしよっかな〜」

 

 伊吹さんのため息混じりのそんな言葉は無視し、僕は目的の場所へと向かった。

 

 

 

 


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