ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

2 / 116
推測

 

 

 

「(あたしのクラスは……Cか)」

 

 私は伊吹澪。今日からこの高度育成高等学校に通う新入生だ。

 この学校は進学率・就職率が脅威の100%をたたき出し、高い進学実績を誇りながらも様々な部活動が有名で文武両道を誇っている。そして何より国が運営している程の規格外な学校だ。

 この学校の卒業生を調べてみれば、ほとんどがテレビで1度は名前を聞いた事がある人ばかり。

 とまぁ、こんな感じのすごい学校ならば私の将来も良くなれんじゃね? と言う理由と一人暮らしが出来るからこの学校に進路を決めて、テスト受けたら合格出来た。結構ふわふわした感覚でここまで来た。そして今日、とうとう入学式ってなわけなんだけど……まぁやはり1人だと多少不安だ。

 さっさと荷物置きに行くかと思い行動を開始する。

 教室に行けば少しは同性の人とかいるだろうし、人付き合いが苦手な私でも数人は友達が出来るでしょ、と楽観的な思考を持って私は行動を開始した。

 こんな長々と思考してんの私らしくないし、さっさと教室に向かっちゃうのが1番だな。

 

「落としましたよ」

 

 背後から声がした。

 私は反射的に後ろを振り向き、飛び蹴りを入れてしまいそうになる。

 私はこれでも武術を少し嗜んでいる。身体能力には自信があるし、喧嘩なら一般的な平均男性くらいなら余裕で勝てると自負している。

 そんな私が……背後にいる人間にまったく気づかなかった? 

 傲慢な言い方に聞こえるけど、さすがに背後に誰かいれば普通は気付く。

 なのに私は目の前にいるこのバカみたいに髪の長い男の気配に気づかなかった。

 てかあれ? こいつの持ってるの私のハンカチじゃん。まったくなんでこいつが持ってるんだか。

 私は目の前の長髪男からハンカチを強引に取り返すとすぐに思い出す。そう言えばこいつ「落としましたよ」って言ってたじゃないかと。

 少し気が動転して冷静じゃなかった。

 このままじゃ私性格悪い女だ。少し遅いけどお礼言っとこ。

 

「……ありがとう」

 

 長髪男は特になんも言わないで頭を少しだけ下げた。

 私が言うのもなんだけどこいつ無愛想すぎだろ……。表情がまったく変わってないし、てかなんなのその頭、高校デビューとかで普通はそういうの切るものじゃないの!? 

 それにこいつこっちの方向にいるってことは───

 

「……ねえあんたCクラス?」

 

 長髪は頷きで答える。

 こんなのと一緒のクラスかよ〜。なんだか幸先不安だわ。と、心の中なので結構好き勝手に言い散らかす。

 そんなに伸ばしたらそりゃ気になるでしょと、責任転嫁する始末だ。

 でも、この髪は気になんない方がおかしい。

 いっそのこと聞いてみるか? こんなに伸ばしてて聞かないのは何となく失礼な気がしてくるし……、

 

「僕の髪が何か?」

 

 私の露骨な態度に気付き、黒髪の男子は疑問を投げてきた。

 私はその態度に一瞬だけビクリとした後に思っていた事を罵倒にならないよう慎重に応える。

 

「……あんた男だろう? それにしては異常に髪が長くて、少し驚いた」

 

 ストレートに言いすぎたかな? と新しい環境での初めてのコミュニケーションに内心少しビクつきながら言葉を待つ。

 やっぱ私、人付き合いは苦手だわ……。こういうのにも多少気を使わなきゃいけないとか無理だわ。

 

「この髪は放置してたらこうなっただけです」

 

 あっ、よかった気にしてなさそう。てか放置って何!? 切れよ! 高校デビューくらいしろよ! 私があんたの立場だったら即切ってるわ! 

 男の適当な答えに変なテンションへと私は変わる。

 

「放置って……あんた変わってるね。鬱陶しいだろその髪」

 

「慣れれば問題ないですよ」

 

 こいつは変人決定だ。しかし、悪人には見えない。

 初めは誰かしらと一緒にいた方が気が楽だし、こいつの名前聞いておくかと気楽に考え実行しようとする。

 

「あんた名前は?」

 

「名前?」

 

「これから1年は絶対一緒なんだから、自己紹介は先にやっといた方が良いでしょう?」

 

 無機質な声。まるでロボットと話してると感じてしまってもおかしくないほど感情のこもっていない声。

 この男との出会いはここが始まりだった。

 この男との関わりがこれからの3年間、私の高校生活に大きな影響を与えることになったのだ。

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 入学式と担任の先生からの説明が終わった。ここのシステムは異質だったけどまさか10万ポイントも貰えるとは思わなかった。

 それに龍園って奴が言ってた事も気になる。

 まぁそれはこの長髪男と話す時に聞くしかないか。多分私より頭いいだろうし。

 と、雑な思考をする私は現在進行形で下校していた。

 1人ではない。あの長髪変人男と並んで下校していた。

 話してみたら面白いかもしれないと思って話しかけたのは正直間違いだった。

 こいつ、変人じゃない。超変人だ。

 表情は変わらないし、必要最低限のことしか話さない。加えて、こちらの思考を高確率で読んでくる。頭の中を覗かれている気分になるのは、わりとムカつく。

 でも、この学校のルールの事を確認し合うためにはしょうがないかなって思うし、些細のことは我慢するとしよう。

 校門を通ってから寮までは少し距離がある。とは言っても地図通りならば数分だ。

 なのにだ。私は今言いたいことがある。

 

 歩き出してから2分くらい経つけど、なんでこいつ一言も喋らないの!? 

 

 さっき、「少し話しましょうか」とか言ってたじゃないか。

 私だって会話が苦手なんだぞ。

 私は自分のコミュニケーション能力の低さを恨みながら、心の中で訴えていたが、焦れったくなったのでとうとう行動に移した。

 

「ねえ、少し話すんじゃなかったの?」

 

 長髪男は特に表情を変えることなくこちらに視線を向ける。

 相変わらず無愛想だなーって思ってるとすぐに彼から言葉が返ってくる。

 

「伊吹さん、1クラス40人×4クラスに毎月10万円を3年間送れると思いますか?」

 

「……無理なんじゃない? いくら国でも月1600万も支出して、3年間続けたら5億以上お金が消えてるし。それに加えて他学年のもって考えると……」

 

「現実的ではない。いくら国が運営している高校とはいえこの額は少々出しすぎです。なので10万ポイントの支給には何かあると考えるのが妥当でしょう」

 

 やはり私の予想通り。

 そして幸運だ。私だけじゃこんな感じに広い視野持って考えることは出来なかったし、説得力も結構ある。でも……

 

「なんで坂上先生は龍園って奴の質問に答えられなかったんだ?」

 

「あなた、意外と鋭い直感を持っていますね」

 

「……なによその驚いた顔……でもないわね。無表情だったわ」

 

 表情筋死んでんじゃないのこいつ……。

 

「表情筋は基本動かないので、死んでいると思われてもしょうがないでしょう」

 

「心読まないでくれない? キモイんだけど」

 

「それはそれとして、話を戻しましょう。なぜ答えられなかったかは、はっきり言って情報不足すぎて結論を出せません」

 

 当然だろう。さすがにあれだけで結論出せたら人間か疑うレベルだと勝手に判断を下す。

 

「ですが、今ある情報でも推測することは可能です」

 

 私はすぐにカムクラの顔を見る。さっきと全く変わらない無表情だが、そんなことは関係ない。

 この男ははっきりと推測は可能だといった。

 この推測が間違っていようがなかろうがそんなものはどっちでもいい。

 こいつ(・・・)の答えだから聞く余地がある。

 自分と違う思考回路を持つ人間、そいつが導き出す答えはきっと私じゃ考えられない答え。

 ゆえに聞く価値があるのだ。

 

「この学校には監視カメラの量が多すぎる。まるで監獄のように四六時中学校内のあらゆる所を監視している」

 

「……確かに、この帰り道にすらチラホラと見えるわね」

 

「ではなぜ監視する必要があるのか、それは問題が起きた時に学校側が素早く対処出来るためでしょう。

 これだけの監視カメラがあればいつ、どこで、誰が、何を、どのように、どうしてやったのかなど一目瞭然でしょう」

 

 カムクラの言葉は続く。

 

「そしてそれは授業も例外ではない。つまり、学校は監視カメラで生徒達を監視し、何かを基準にして厳密に評価しているのでしょう」

 

「評価?」

 

「ええ。例を上げるならば授業態度や生活態度でしょうか。まぁその辺りは詳しく分かりませんが、ここまで厳密に評価してる事を学校側が教えるわけがない。むしろ、ヒントを与えてるんだから気付けと言ってるように感じます」

 

 確かに坂上先生の言い方は違和感を感じた。違和感を1つ感じると何もかもが怪しく見える。なんて言ったけなそんな現象……。

 

「それに教えてしまえば、いくら愚か者が多いクラスでもそのルールの中では『優秀』なんてなんの価値もない評価しか得られません。そんなものを求めるくらいならばこんなに監視カメラはいらない。

 少し話が逸れてしまいましたが、答えられなかった理由を要約すると素のままの生徒を評価して数値化させたいからでしょう。そしてその数値化した値こそが毎月のポイントと僕は推測します」

 

 こいつの言ってることが正しければ、この学校はまさに実力至上主義の学校ね。……それを教訓にしてるんだった。じゃあこいつの予想は結構いい線いってるってこと? 

 へっぽこな私の脳ミソをフル活用して私は状況を理解しようとする。

 

「……評価の基準ってのは何よ」

 

「それはこれから見極めていきます」

 

 ま、そうよね。でもやっぱりこの男の話は聞く価値があった。この異質な学校に慣れるまではこいつと一緒にいた方が困らなそうだ。

 ならば───

 

「……ねぇ、私と連絡先交換しない?」

 

 あれ? そう言えば男子と連絡先を直接交換すんの初めてかも……。

 私は言った後に、その事を思い出し、少しだけ恥ずかしい気持ちに支配される。

 

「構いません」

 

「今度は思考を読まないのね」

 

「読んで欲しいのですか?」

 

「……きっも」

 

 

 こんなのが私の初めての男友達になった。

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 伊吹さんと話しているといつの間にか寮に着いていた。この学校は男子と女子の寮が一緒であり、下層が男子、上層が女子という珍しい構造をしている。

 年頃の男女の寮くらい別々にした方が良いと思いますが、正直僕にはどうでもいい。僕からすれば性別など些細な違いでしかない。

 彼女と別れを済まし、すぐに寮内の自室へと向かった。

 部屋はそこまで広くはないが、1人の高校生が生活するには十分すぎる部屋だ。

 ベッドや冷蔵庫、机に椅子といった生活に最低限必要なものだけ置いており、料理道具などの小道具は置いていなかった。

 

「まさか水道代や電気代まで無料とは……10万ポイントから払われる訳ではないのですね」

 

 なぜ最初に10万払われるのか、それは生活に必要な道具を整えるため、電気代や水道代のため、部活動などに入った人たちへの道具の調達のためなど、何かしらの制約のために最初のポイントは多く払われたと思っていた。

 その点も間違いではないのだろう。しかし、よくよく考えると監視カメラの量や坂上先生の発言と照らし合わせるといろいろとおかしなところが出てくる。

 

「ただのデータ化した現金なんて認識は捨てた方がよさそうですね」

 

 時刻は13時を過ぎていている。そう言えばまだ昼食を済ませてなかった。頃合いですし、昼食と生活に必要なものを揃えるついでに少し探検してみましょうか。

 必要最低限の確認と買いにいくものをある程度纏め終えたので外に出た。

 

 

 ────帰ってきました。

 早過ぎないか? 何を言っているのですか。僕は3時間ほど外出してきました。

 僕の両手に荷物があるのが見えないのですか。

 

 さて、まずは戦利品を紹介しましょうか。僕はホームセンターやコンビニで生活必需品や暇潰しの道具を買ってきた。

 これと言って有意義という訳ではなかったのですが、やはり買い物は1人に限る。

 それなりに購入したのですが、ポイントにはまだまだ余裕があります。

 やはり10万ポイントは多い。余裕があるためかついインスタントラーメンを買ってしまった。

 料理人もとい、シェフの才能があるから自分で料理を作れるために縁がなかった代物。

 なので、少し期待しているところがあります。だから今日の夕食はこれに決めました。

 

「それにしても、無料品コーナーですか……」

 

 無意識に独り言が漏れる。

 コンビニ、ホームセンターのどちらにもあった無料品コーナー。もっと言えば昼食を食べたフードコートでも無料食事を提供していた。

 はっきり言って甘すぎる。

 おそらくこれらの無料商品はポイントがない人への救済措置。何らかの事故でポイントを使えなくなった人に対してならばわかる。そうであるならば利用者はもちろん少ない。

 だが、明らかに多かった。特に無料食事コーナーには顕著だ。そこにいた全員がダイエットや節約目的といった可能性は、彼らの表情からありえないと考えられます。

 全員が絶望しかけている顔。これが偶然だったなんて天文学的な数値じゃなきゃ説明できません。

 つまり、今後何らかの事でポイントが減り、生活に影響を与えるほどの何かが起きる可能性は極めて高いと言えよう。

 

「……今日はいろいろとありましたので早めに寝ますか」

 

 物事の始まりは疲労が溜まる。

 カップラーメンを食べてさっさと床につきましょう。

 僕は新品の無印ベッドへと横になり、即座に瞼を閉じた。

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 わいわいと賑やかな教室。入学式から初日である程度のグループに別れており、そのグループ内でそれぞれが楽しそうに話している。

 かく言う僕は1人だった。

 クラスは集団なのだから僕のように1人の人間もいる。あのグループに入りたいけど今更入ってもいいのかと思っている生徒もいれば、友達すら必要とせずに1人を好む生徒もいる。このクラスは後者の生徒が多いので少し珍しいですね。それにもっと珍しいことに既に舎弟関係と思われる関係の生徒達もいる。

 そんなことを考えているといつの間にか次の授業の先生が来ていた。

 ここは国が運営する進学校。当然授業も非常に高いレベルのものを行っていると思っていたのですがそうでも無いらしい。

 どこの学校でも行っている普通の授業。ある程度の教育方針を教えた後にそれなりのペースで授業を教えていく。

 違うところと言えば先生の質。今のところ3つの授業を受けましたが、どの先生も教え方が上手く、フレンドリーだ。あまり学業が優れていない生徒に対しても、質問には丁寧に答えてくれる。

 しっかりと授業を聞いていれば授業内の復習をやっているだけでテストで高得点を狙える学力が身につけられると言っていいでしょう。

 

 しかし、妙な所もある。

 例えば授業中の生徒への注意。何人かの生徒は授業中にもかかわらず、携帯をいじっていたり、寝ていたりと授業に対して相応しくない態度で望んでいる。先生方はそんな生徒に注意をしなかった。

 が、妙な所とはここだ。

 授業に対して相応しくない態度の生徒を見つけた時に注意ではなく、メモ書きをするように先生方のノート、あるいはクリップボードに何かを書き込んでいる。

 だいたい分かってきました。この学校が何を評価しているのかを。

 

「授業終了だ。今日学んだことはしっかりと復習をしていくように」

 

 チャイムが鳴り響くと、先程まで日本史を教えていた女性教師は淡々と言葉を告げ、テキパキとした動きで教室を出ていく。

 彼女が出ていくとすぐに教室内ではざわざわとし始める。

 授業が一旦終わり、昼休みの時間だ。

 先程も言ったが僕は1人です。昼ご飯を食べる友人などいません。

 昼は学食に行くつもりだ。

 節約のために弁当を作る予定でしたが、学食の味や値段、利用者が分析したかったので、今日だけ行くという結論に至りました。

 

 そう言えば、昨日のカップラーメンはお世辞にも美味しいとは言えるものではなかった。

 ですが不味くもない。手軽に作れてあの値段ならば、確かに人気が出るのはわかる気がします。欠点を言うのならば健康面でしょうか。

 よって月に1、2回が限度でしょう。今度食べる機会があればラーメンライスというものを試してみるのも良いかも知れませんね。

 それに他の種類も────

 

「ねえあなた、お昼一緒にいかない?」

 

 僕の近くで誰かをお昼に誘う女性の声が聞こえた。

 つい反射的に声のする方を見てしまう。自分が呼ばれたと思ったからだ。

 しかし、それは勘違いだった。誘われていたのは僕ではなく、前の席に座っている伊吹さんだった。

 少し自意識過剰でしたね。もう少し大きなリアクションを取っていれば、変な目線を向けられていたかもしれません。

 

「遠慮する」

 

「そう? でもみんなで食べた方が美味しくない?」

 

「……悪いけど、食事は静かにしたいんだ。他を当たってくれ」

 

 きっぱりと断っていた。

 女生徒は伊吹さんを軽く睨んだ後、どこかへ行ってしまった。断られた方は他の女子と合流すると何かぶつぶつと呟きながら食堂へと向かっていった。

 さて、僕もさっさと食堂へ向かいましょうか。

 

 

 

 コンビニに着きました。

 学食は並んだら授業に遅れてしまいそうなくらい混んでいたので、後日には変更です。

 よって、パンと無料飲料水が今日の昼食です。時間も少し押しているのでさっさと教室に戻りますか。

 

「それにしても、混みすぎでしたね坂柳さん」

 

「ええ。ですがみなさんに迷惑を掛けてしまいました。私の歩くペースに合わせてもらったがために学食を食べれなかったことは申し訳ないです」

 

「い、いえ! そんなことないですよ! 坂柳さんのせいじゃないっすよ!」

 

「そうです! 運が悪かっただけですよ!」

 

 目の前から4.5人の集団が歩いてくる。

 その中に1人明らかに他の人達と違う雰囲気を持った白い少女がいる。

 髪、肌の白さがその少女全体を白く光らせているように見える。

 周りの人間はツマラナイ。特にこれと言った外見的特徴もなければ何か優れている様子もない。才能を感じられない。

 強いて言えばYシャツが第二ボタンまで外れていて、ズボンの履き方が少しだらしない不良っぽい見た目をした金髪のオールバックの生徒くらいでしょうか。彼もあの中ではなかなか見所がある生徒だろう。

 

 しかし、目の前から歩いてくる白い少女は違う。

 

 体は女性というより少女の方が正しいと言える程小柄であるが、非常に整った顔立ちが見せる笑顔とお淑やかな立ち姿からは十分すぎる程魅力がある。

 あの青い眼、サファイアを連想させる宝石のような小さな眼は美しいだけでなく、冷たい。何より、自分に自信を持っている眼だ。

 少女は杖をついている。歩く時に身体を杖で補助しながら歩いていることから身体に何か障害を持っているのでしょう。

 それにもかかわらず彼女の雰囲気は病弱な少女とはとてもじゃないが感じられず、むしろ獰猛な猛禽類の雰囲気を連想させられる。

 そのまま平然と歩いてくる。あと少しで通りすぎる所だろう。

 集団は楽しそうに会話している。こちらに気付くことはないと思っていた。

 すれ違いざまに白い少女と視線が合う。一瞬の出来事だったが彼女は僕の中で強い印象を刻み込まれた。

 この一瞬で彼女は何を思ったのかはどうでもいい。

 この少女は才がある。何の才能かなど些細な問題だ。けれど、所詮はその程度だ。

 それでは僕に届かない。ゆえに───

 

「ツマラナイ」

 

 口癖とはどうしようもないものだ。非常に小さい声だったが、零れてしまった。他の取り巻きには聞こえなかっただろうがあの少女にはおそらく聞こえてしまっただろう。

 僕は振り返ることなく、教室へと歩いて行った。

 

 後ろから視線を感じたが、そんなことよりも昼食の方が大事だった。

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

「今日のHRで伝えることがある。安心してくれ、伝えると言っても1つだけだ。手短に終わらせるので君達の放課後の時間を奪ったりはしない」

 

 全ての授業が終わり、帰りのHRの時間となった。

 坂上先生が教壇に立ったことにより、生徒達は静かになる。

 

「今日話すことはポイントについての追加説明だ。昨日、何人かの生徒から質問が来たのでこの場を借りて説明させてもらう。

 それはポイントを増やすことは可能かという質問だ。これは可能だ。部活動や生徒会などが良い例だろう。部活動は入部した部で良い成績が入ればポイントが増える。生徒会も同様だ。

 後日、新入生へのオリエンテーションがあるので部活動や生徒会に興味がある者はそこに参加するのをオススメする」

 

 報酬。これでは才能のない者達がポイント欲しさに部活動に参加してしまうだろう。

 ───ツマラナイ。

 

「昨日今日で君達はポイントの使い方には困ってなさそうだね。ポイントで買えないものはないので大事に使ってくれ。

 では説明を終わりにする。忘れ物をしないように気を付けて帰りなさい。解散」

 

 本当に手短でしたね。

 それにしてもポイントで買えないものはない(・・・・・・・・・・・・・・)、ですか。

 ポイントが数値化された現金という認識はいよいよ取り除くべきですね。

 さて皆も帰り始めましたので僕も早速───

 

「おいカムクラ、この後暇か?」

 

 伊吹さんが話しかけてきた。

 僕にいったい何の用があるのか……大方ポイントについての話し合いでしょうが、残念ながら今日の放課後は予定がある。

 

「申し訳ありません。僕はこの後行く場所があります。ポイントについて少し調べてきます」

 

「へぇ〜。なら、私もついて行っていい?」

 

「いいえ。1人の方が今日は行動しやすい。ある程度僕の中での見解が纏まったらあなたに話しますよ」

 

「……ん、わかった」

 

 バツの悪そうな顔をする伊吹さん。考えている事を当てられて悔しいのだろう。

 実に人間らしい。表裏のない一面は美徳でもある。

 時間が惜しいのでさっさと目的の場所へと行きましょうか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。