ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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Interlude3
それぞれの反応


 

 

 

 

 ────豪華客船 Bクラスの集まるラウンジ──────

 

 

 

 Bクラスの特徴、それは何といっても協調性の高さだ。

 クラスの皆が仲良く、代表格の一之瀬帆波にもしっかり意見を言えて、まとまりのあることが強みだ。

 しかしラウンジ内では、普段の活気溢れる声はなく、すすり泣く声が聞こえる。

 1人の生徒が、この試験の裏で起こった真相を嗚咽交じりで説明していた。

 

「……ごめん、なさい。ごめ……、なさい」

 

 女子生徒、白波千尋は地に両膝をつけ、自身の顔を両手で隠しながら、許しを懇願する。

 この場にいる全員は彼女に同情するしかなかった。

 一歩間違えれば、自分がその状況になりえたかもしれない。

 この特別試験で彼女に降り注いだ厄災は決して避けられないものだった。同じ状況下になったとして、何もできないことは明白。

 女子だけでなく、男子ですら何も言えなかった。

 

「大丈夫、大丈夫だよ千尋ちゃん。私を助けてくれてありがとう。千尋ちゃんは精一杯頑張ったよ」

 

 崩れかけている白波を一之瀬が抱擁し、頭を撫でながら宥める。

 他の生徒たちも近くに集まり、彼女を覆い、彼女に対し、「大丈夫だよ」「心配するな」とエールを送る。

 

「でも、今回の試験。わ、私は……足を、引っ張っちゃって」

 

「そんなことはないよ千尋ちゃん。私たちの獲得したポイントは130ポイント、クラスポイントは増えたんだよ」

 

「でも……」

 

 嗚咽を交えながら話す白波に一之瀬は聖母のような優しさと笑顔を見せ、抱き寄せる。

 だんだんと、白波の虚ろな目に光が入り始める。そのままの状態が五分ほど続けば、白波は泣き止んだ。

 それを機に一之瀬は、立ち上がる。白波もゆっくりと続く。

 白波は右手で一之瀬の裾を名残惜しそうに掴み、左手で自身の目を拭う。

 

 

「みんな、聞いてほしい。今回の試験の全てを、そしてこれからの対応を」

 

 

 一之瀬はクラスメイトの顔を見渡してから、暗い雰囲気を吹き飛ばすようにハキハキとした声で話し始めた。

 

 

 

 

 ──────特別試験終了から小一時間後の共同スペース──────

 

 

 

 

「あれ、堀北さんどこに行ってたの? せっかくこの場での主役なのに」

 

「……お手洗いよ。それに私は主役ではないわ」

 

「クールぶってないで笑いなって。もっと褒めたいしさ~」

 

「褒めなくていいわ」

 

 この学校は楽園だ。

 それがここに入学した時の率直な感想で、今でも思っていることだ。

 しかし、入学してから4か月ほどでこの安寧が脅かされることに気付いた生徒は少ない。

 

「それにしても本当にすごいね堀北さんは! あんな作戦を思いついちゃうなんて!」

 

「……私だけの手柄ではないわ。平田くんや他の人たちの協力を得て思いついた作戦よ。

 それと軽井沢さん、失敗しているから褒められても嬉しくないわ」

 

「もう笑いなって~、幸せ逃げちゃうよ。それに謙遜しちゃってえ~、148ポイントもとれたなら凄いでしょ~」

 

 集団の輪から離れた所で一人耽っているオレの視点には、今までボッチだった隣人がクラスのカーストトップに話しかけられていることが映る。

 今回の試験で人と話す機会があり、彼女の尖った雰囲気がやや丸まったおかげか雰囲気が落ち着いている。

 この計画の立役者。予定通り、オレの影になる演技も行えている。

 

「綾小路、少し顔を貸してもらおうか」

 

 背もたれに、落ち着いた女性の声が届いた。

 美人の先生と二人っきりで相談。夢のような状況だろう。

 もっともオレを呼び出した先生は美人ではあるが、首筋にナイフを突きつけてくるタイプの先生。死神のほうが近い存在だ。

 

「嫌ならここで話すのでしょう? なるべく、涼しい部屋に案内してください」

 

「残念ながら部屋は用意してないんだ。贅沢を言うな」

 

 死神こと、茶柱先生に先導されるように船内を移動し、いつの間にか海に沈んできていた太陽が見えるテラスまで歩いていく。

 潮風はないが、夏にしては過ごしやすい気候だ。

 完全に人の気配がなくなり静寂になったところで、オレは話を切り出した。

 

「とりあえず、満足していただけましたか?」

 

「満足、か。そうだな、結果だけ見るとDクラスは2位、例年通りにいくのならば褒めるべき順位で、実に満足する結果と言えるだろう」

 

「回りくどい言い方は結構です。実際はどうなんですか?」

 

「ふっ、では満足してないと言ったらお前はどうするんだ?」

 

 茶柱先生は柵に背中を預け、意地悪な笑みを浮かべていた。

 

「非常に困ります」

 

「冗談だ。満足はしている……8割ほどな」

 

「では、教えてください。『あの男』がオレの退学を要求してきたのは本当ですか?」

 

「8割と言ったはずだぞ綾小路、随分とせっかちだな」

 

「……では、残りの2割は何が満足できなかったんですか?」

 

 オレは面倒な問答を続けるこの女に若干のイラつきが芽生える。

 だが、それでも声色には表さず、質問をした。

 

「今回、お前の働きで得たものはDクラス内の雰囲気、信頼、そして148ポイントのクラスポイント。

 見事だ。Aクラスへ上るための協力を見せれたのは間違いない。だが、お前は全力を出していない。

 ……いや、全力を出し切れていなかった。今後目立ちたくないという理由を優先したがために後手に回った、違うか?」

 

 チクリと脳内を刺激される言葉。

 どうやら、学校側は詳細にクラス試験の内容を把握しているらしい。

 

「オレは全力でやりました。全力でやり、A以外とのクラスとの差を開かれないよう立ち回り、最善の結果を導きました」

 

「ほう、それはAとCにリーダーを当てられることを知っていて、あえて諦めたということで良いのか? そしてこれは、手を抜いたということにも繋がる」

 

「手は抜いてないですよ。これが最善でした。次に繋げられるための一手です」

 

「……次にか。それはつまり、次の試験も協力するということだな、綾小路?」

 

 教師がする笑みには見えないあくどい笑いで彼女は告げる。

 元々、その言葉を引き出そうとしたくせによく言う。

 だが、今回だけはその挑発に乗るのも藪坂ではなかった。

 

「オレ自身、納得のいっていない結果でもあります。そのための準備はしました。そして、次が本当の最後です。……だから『あの男』からの接触が本当だと言える根拠を聞かせてください」

 

「私がお前の本当の実力を知っている。それこそ根拠だと思わんか?」

 

 思わない、そう一蹴するには少々戸惑う言葉だ。オレの入学試験の結果を知っている茶柱先生だが、それだけで俺のことを深く知っているとは言えない。

 やはり、何かまだ隠している。

 現状、この人の違和感を払拭するための情報が欠落しすぎている。これ以上は時間の無駄だ。

 

「……そうですか。じゃあ俺はもう戻りますね。ここで話しても先生はもう何も話さないのでしょう? それに他の生徒に何か言われるかもしれませんしね」

 

 そう言ってオレは茶柱先生から背を向け、元来た道をゆっくり踏みしめていく。

 

 

「イカロスの翼」

 

 

 歩みを止めることのないオレに茶柱はそう告げる。

 有名な神話だ。『自由』を得るために空へと飛び出したイカロスという者の御伽噺。

 

「イカロスは自由を得るために幽閉された塔から飛びたった。しかし、それは一人の力ではない。

 父であるダイダロスが翼を作るように指示し、飛び立たせた。自らの意志で飛んだわけではない。今のお前にそっくりだと思わないか?」

 

 理解のできない話で興味のない話だ。欲の塊である人間にとって、『自由』は喉から手が出るほど欲しいものだ。

 初めに意思がなくても、人は本能的に『自由』を求め、求め始めたらそれは、自らの意志に違いない。

 

「『あの男』……いや、お前の父親はこう言っていた。清隆はいずれ、自ら退学する道を選ぶとな」

 

 オレは無視を続けた。それでも茶柱先生は問いかけてくる。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

 

 

「先生も知っているでしょう。イカロスはダイダロスの忠告を守らない」

 

 

 

 ────『自由』のために。それがオレのためだからだ。

 

 

 

 

 

 ───豪華客船 Aクラス貸し切り中のレストラン───

 

 

 

 和洋折衷、実に様々な料理が置かれていた。

 鶏のから揚げやソーセージなどを中心とした脂っこい料理、そうめんや白身魚のフライ、寿司など和食料理。

 さらにはカレーやピザ、オムライスといった洋食も見られる。

 バイキングだ。それも豪華客船内にある有名レストランから提供された食材を使ったバイキングだ。

 皆が楽しみながら料理を運び、そこかしこで笑顔が浮かんでいる。

 現在は特別試験終了日の夜、いわゆる祝勝会ってやつの時間だ。

 

「さすが葛城さんですね! 今回の試験はAクラスの完全勝利ですよ!」

 

「ふっ、当然だ。我々はAクラス、この学年で一番優秀なクラスだ」

 

 普段から異常なまでに気を張っている男、葛城康平。今回の試験結果でAクラスの実質的なリーダーへと昇格した男だ。

 そんな男もリラックスした状態で笑っている。

 その周囲には以前より増えたと思われる葛城派の人間が群がっていた。

 

「おいおい、橋本! お前も楽しめよ」

 

 視線を料理から外し、手が止まっていた俺に葛城派のクラスメイトがそう言う。

 

「何言ってるんだ楽しんでるに決まってんだろ。ちょうど何をお代わりしようかと考えていたんだ」

 

「お、そうなのか。じゃあ俺のも頼むぜ」

 

「嫌だね、自分でやりな」

 

 ケラケラと笑ってそいつから離れていく。

 自分で言うのもなんだが、俺のコミュ力、地位確保能力は大したものだと思う。

 現在、坂柳派の人間は“葛城の活躍によって大勝利”という特別試験の結果により肩身の狭い思いをしている。

 そのことにより、葛城派は葛城派で、坂柳派は少人数ながらも坂柳派で、極端に固まっている。

 しかし、騒がしい連中から離れた所でバイキングを楽しんでいるにもかかわらず、坂柳派である俺は葛城派の人間と意気揚々と話せているからだ。

 普段からバチバチと火花が散るくらい対立している二つの派閥、その中でも俺は坂柳派の中心人物と言える立場にいる。

 

「あ、橋本くん、なに狙っているの?」

 

「おいおい、俺を食いしん坊みたいな言い方するなよ」

 

「あはは、ごめんごめん。でもさぁ──────」

 

 話しかけてきた葛城派の女子に相槌を打ちながら、しっかりと話をした。

 終えると彼女は気分よさそうに去っていく。このように普通に会話もできる。

 

「さすが俺ってか?」

 

「何気持ち悪いこと言ってんの」

 

 自身の背後から声が聞こえた。思わず、持っている皿を落としそうになる。

 周囲はバカ騒ぎしているので、どうせ聞こえないだろうと高を括っていた独り言が聞こえていた。

 俺は振り向いて、訪問者に向き合う。

 

「……いやいや、でもすごいと思わないか? 俺は坂柳派の人間、なのにこんな話しかけられるんだぜ」

 

「そう、すごいんじゃない」

 

「相変わらず適当だな、神室。そんなん何もかもつまんねえって顔してると美人がもったいないぜ?」

 

 俺は目の前でドン引きしている女子に茶化しながらそう言った。

 彼女は神室真澄。Aクラスの女子で、坂柳の第一の駒と言える存在だ。

 

「それで、そんな気持ち悪い俺に何の用なんだよ」

 

「あんた、この結果でよくヘラヘラしてられるね」

 

「まぁ、坂柳さんに今回のことを報告してほぼお咎めなしだったからな」

 

「……そういうことね」

 

 神室は納得した様子を見せた。

 今回の試験、Cクラスとの協力によって大勝利を収めた。が、意外にも完全勝利とは言えないだろう。

 何せこれから卒業までAクラスの全員は龍園に対して月4万という頭のおかしい額を払わなければならないからだ。

 なぜ、葛城はこんな契約をしたのか。そういう文句は葛城派にも出ているだろう。

 だが、それも直に消える。夏休みが明ければ、Aのクラスポイントは1518ポイント、4万持っていかれても11万以上のプライベートポイントが残る。

 葛城はこれを考えて契約を承諾したのだろう。そして皆が一応納得した。

 だが、この結果を見たうちの上司、あの攻撃的なお姫様はそりゃあ怒り心頭だった。

 

「その様子だと、お前がはけ口になったみたいだな」

 

「……そうよ。最後まで携帯電話を投げなかった私を褒めてほしいくらいに不満を垂らしていたわ」

 

「ご愁傷様」

 

「うっざ」

 

 ちなみにだが、俺の個人的な推測として龍園と葛城は他にも個人的な契約を結んでいると思っている。

 まだ妄想の域だが、4万という多大な額を渡す理由は、おそらく還元できるからだと俺は踏んでいる。……2000万ポイントを貯めて、龍園をAクラスに迎え入れるための準備とかな。

 まあ、妄想だ。忘れてくれ。そう心の中でも独り言を言う。

 

「それで、あんたは葛城派に移るの?」

 

 俺が一人妄想していると、神室がやや小さい声で問いかけてきた。

 

「おいおいどうした、らしくないぜ?」

 

 こういう時、ついついふざけてしまうのは長所なのか、短所なのか。

 自問自答しながらも再び茶化す。

 

「そういうのいいから。あんたの性格はそれなりに分かってる」

 

「はー、嬉しいね。美人に自分を知ってもらえてるのは」

 

「つまんな」

 

「お、その言い方はカムクライズルに似てるな」

 

「あんなのと一緒にしないで」

 

 その反応についつい笑ってしまう。やっぱり神室はからかいがいがある。

 だが、これ以上からかうと面倒なので、会話をまじめに再開すると決める。

 

「さてと、葛城派に移るのか、だったな。その答えはほぼNoだ」

 

「ほぼ……、ね」

 

「俺のことをそれなりに知っているんだろう? ならこの意味も分かるよな?」

 

「ほんと、あんたも異常者。そんなに甘い汁を吸いたいの?」

 

「まあな。でも人間だれしも持っている欲求じゃないか?」

 

 そう言うと神室は嫌そうに顔をそらす。どうやら、地雷だったらしい。

 

「……すまん、一括りにしすぎた」

 

「別に謝らなくていい」

 

「そうかい、まあ、気分を害して悪かったよ」

 

 その言葉を最後に俺は神室から立ち去って行った。

 それにしても異常者か、そんな自覚はないんだけどな。

 俺はその言葉を本心で思い返す。そして、本物の異常者はもっと別次元だと再認識した。

 平然と暴力を振り回し、恐怖を操る龍園。他人を基本的に駒としか見ていない坂柳。

 今回の特別試験で、全てを把握していたにもかかわらず何もしなかった底の知れない男、綾小路。

 

 そして、この三人よりも抜きんでた実力があると思われる男、カムクラ。

 

 あれらに比べたら、俺なんて可愛いものだ。

 

「はは、これからのポジション取りは重要になってくるなぁ」

 

 俺にとって、誰の下に付くかなんて些細な問題だ。全く気にしていない。

 誰がリーダーなのかは関係ない。自分に益があるかないか、それが判断基準。大切なのは最後に逆転できるポジション取りのみだ。

 

 久しぶりに心の底から愉快な笑みが零れ落ちた。

 

 

 




今回は少なめです
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