指定された20時40分が迫り、僕は2階のフロアへと足を運んだ。
2階層に普段生徒たちはいない。なぜならこの階層はほぼ全てが客室によって占められているからだ。
生徒たちが寝泊まりしている階層は3階なので、わざわざこの階に用事がある人間はいない。
だが、いざ辺りを見回してみると、数十人の生徒が見受けられた。
携帯をいじる生徒、床にもたれる生徒。多種多様だ。
僕はそのまま指定された部屋の方へ向かう。現時刻は20時35分、時間にルーズな者以外は全員集まっているだろう。
部屋付近では見覚えのある生徒がたくさんいた。
もっとも、言い争っている生徒。争いを止めようとする生徒。傍観している生徒に分けられてはいる。
僕はその中で一際目立つ黒を持つ少女、光沢のある美しい髪を持つ少女へと歩みを向ける。
近づくにつれて、複数人の会話が聞こえてきた。
「私たちはまだ入学して間もない。あなたと私にそれほどの差があるとは思えないわ」
「無人島での試験結果を見てそう豪語出来るだけでも大したものだな。君は随分と自信家のようだ。
だが、これは忠告だ。根拠のない自信は自らを滅ぼす恐れがあるぞ」
「余計なお世話ね」
彼らまで残り10mを切るか切らないかのところまで僕は歩みを進めた。
ここまで来ると、僕に気づく人間が現れ始める。
すると、3人の生徒が僕の方によって来た。
全員Cクラスの生徒。その中には無人島試験でのビーチバレーで一緒のチームになった園田くんも見える。
彼らは特に何も言わず、僕の背後に回る。奇襲を仕掛けるため……ではない。
僕を先頭にして行進を作るため。傍から見れば、従え歩いているという光景に映る。
「平田、大変なグループに巻き込まれたのかもな」
「そうだね、葛城くんや神崎くんと同じなら苦戦は必至だ」
「いや、それだけじゃない」
そんな会話を最後に、僕は彼らの会話に参戦する。その瞬間、この場にいる全員の表情が引き締ましまった。
「……カムクラか。お前もこの時間に召集されたのか? それとも、偶然ここを歩いているだけか?」
「前者です」
やや険しい声色の葛城くんの質問に、僕は答えた。
「……なるほどな、どうやらこのグループは学力の高い生徒を集めたと推測できそうだ」
「そんなくだらない基準でこの学校の人間が選考すると、あなたは本当にそう思うのですか?」
「可能性の一つだ。それにくだらない基準とは聞き捨てならないな。学業の良し悪しは将来を左右する最も大切な要素だ。
日本が学歴社会であることはお前も知っているはず。それを踏まえても、まだくだらない基準と言えるか?」
「はい、あんなものは視力検査と大差ありません」
「……視力検査だと。ふざけるのも大概にしろ」
葛城くんは目を細め、声色がさらに低くなり、怒りを顕にする。
「俺はおまえも、龍園も、その非道さを許す気もない」
「随分な言いようですね。あなたも勝つために賛同した身でしょう?」
「確かにそうだ。だが、貴様らには倫理観というものが欠如している。
普通の人間ならば、
葛城くんは無人島試験での出来事に納得していない様子だ。
激昂にも近い感情を見せるが、それは優しさの表れだ。
「聞けば、あの方法を考えたのは龍園ではなく、お前のようだな」
「あなたには『スパイを作る』としか伝えた記憶がありませんが、そういうことですか」
無人島試験では余計な小言を入れられるのが面倒だったので、僕は葛城康平に対してそれっぽい説明でごまかしてきた。
しかし、彼は計画のことを知っていた。それは僕のいない間に計画の全容を知っている人間が彼に説明したことを意味する。
計画の全容を知っているのは僕以外では龍園くんのみ。答えは言うまでもない。
「……ちょっと待て葛城。その1人の少女というのはまさか……、白波のことか?」
「そうだ、神崎。その人物で間違いはない」
「そうか、……そうか」
神崎と呼ばれた男は同じ言葉を繰り返した後に、敵意を持った視線を僕に向けて話しかけてくる。
「俺はBクラスの神崎隆二だ。カムクライズル、覚えたぞ。お前のことを」
「そうですか」
適当に返し、僕は目的の人物の方を向く。
怯えた様子はない。しっかりと僕のことを捉えている。
「こんばんは、堀北さん。
「……ええ、また会ったわね」
「今日は、聞きたいことがないのですか?」
「聞いたら答えてくれるのかしら?」
「あなたの問いが僕の予想を越えるなら」
堀北さんは不機嫌なしわを眉間に作る。
答える気があるのかないのかわからない僕に対して、やり場のない小さな怒りが心の中に蹲っていた。
「なら、一つ聞いていいかしら」
僕が了承すると、彼女は薄い笑みを浮かべる。
嘲笑を連想できるその笑みから、仕返しの類を思いついたのでしょう。
「貴方のその髪、それはオシャレなのかしら?」
「ただ放置しているだけです」
「そう。なら、これは異性からの一意見として覚えておいてくれないかしら。────その髪型、はっきり言ってダサいわ」
場に静寂が訪れる。言ってやったりとややドヤ顔の堀北さん以外は言葉に詰まっていた。
いつの間にかこの場にいた櫛田桔梗はプルプルと小刻みに揺れ、笑いをこらえているのが分かる。
数秒後、この状況を見かねた平田くんがフォローに回る。
「……ま、まぁ、堀北さん。人には個性があってそれぞれの趣味で髪型は変わるもの。容姿を直接馬鹿にする発言はよくないよ。
それに聞くことがあるのならば、3日前の特別試験でのことを聞けばよかったんじゃないかい?」
「何を聞くのも私の自由よ。それに彼は自身の髪を放置していると言っていたわ。身だしなみを整えていないのは丸わかりだから、彼が悪いと思うのだけど」
が、一蹴される。
「少しだけ予想外でした。何か答えましょうか?」
「変に律儀ね、あなた。じゃあ、どうして龍園くんなんかに従っているのか答えて」
「彼の未知が最もふり幅が大きいと判断したからです」
「……ちゃんと答えてくれるのね。それって、龍園くん以上にあなたの予想外の事を起こせる人間がいれば鞍替えするということかしら?」
「はい。しかし、現状はいませんよ」
サービスは終わりだ。
我の強い性格と負けん気。そのことから子供っぽいより負けず嫌いというのが正しいと僕は堀北さんをそう分析した。
己を安く見ていない部分は評価に値します。
「そろそろ時間です。では、行きましょうか」
指定時間になったので、後ろにいるクラスメイトに声をかけ、僕も行動を開始した。
指定された部屋の扉の方へと進み、ノックをし、許可が下りてからゆっくりとその扉を開く。
ここに豪華客船における2回目の特別試験は始まった。
───────
指定された部屋である205号室に入ると、やや広い客室が出迎える
特徴的なものは、資料が置いてある小さなテーブル。4つ並べてある椅子。そしてテーブルを挟み、4つの椅子と対面するように一人の女性が座っていること。
「時間通りだな。Cクラスの生徒達。とりあえず座りなさい」
クールな表情のまま僕たちに指示を出す女性はDクラスの担任、茶柱先生だ。
入学当初こそ黒い噂のあった先生だが、今では落ち着きと大人の色気を持った美人な教師だ。
茶柱先生の指示に従い、用意された椅子へと座る。席に座ると茶柱先生は全員の顔を持っていた紙と見比べながら確認する。
証明を終えると、とうとう彼女の口が動いた。
「……では、これより特別試験の説明を行う。初めに言っておく、質問は適宜受け付けるが、説明の邪魔にならないタイミングを見計らってくれ」
彼女は変に溜めることなく、あっさりそう告げる。
メールである程度の推測はしてきたのだろう、と学校側からの通過儀礼のようなものと僕は認識した。
「今回の特別試験では、1年生全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」
問われるものは“シンキング”。
つまりは考える力。思考能力が関係している試験というわけだ。
同時に初めにこう断言する辺り、身体能力などの能力は目的ではないのかもしれないと推測する。
「社会人にとって求められる基礎力は大きく分けて3つ。『アクション』、『シンキング』、そして『チームワーク』だ。
この3つの能力を備えてこそ、初めて優秀な大人になれる資格が得られる。先の無人島試験は、『チームワーク』に比重が置かれた試験だった。が、今回は『シンキング』、考え抜く事が必須な試験になる」
試験の概要を説明し終えた彼女は僕たちに「ここまでで質問はないか?」と聞いてきた。
この場にいる全員が首を横に振ったので、彼女は説明を再開する。
「この試験では、グループは一つのクラスで構成されることはない。各クラス3人から5人ほどを集めて作られるものになる」
「茶柱先生、それはつまり他クラスと同じグループになるという訳ですか」
「その認識であっているぞ。競い合ってきた他クラスと協力することに疑問を抱いているのかも知れないが、君たちの学校生活は始まったばかり。こういう試験もあるということを認識してくれ」
園田くんは頷きで答える。
茶柱先生は質問を想定していたため素早く対処し、説明を続けた。
「君たちの配属されたグループは『辰』。ここにそのメンバーのリストがある」
茶柱先生は机に置いてあったはがきサイズの紙を取り、一番近くにいた僕に手渡し、全員に回すように指示をした。
僕はその内容を一瞬で記憶する。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 津渡仁美
Cクラス・神座出流 鈴木英俊 園田正志 野村雄二
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
グループ名と合計14人の名前が記載されている。
辰とは聞かされたものの、グループ名には『竜』とも書かれてある。読みやすい方で構わないでしょう。
全員が見終わったのでこの紙は茶柱先生に返した。
「今回の試験、君たちにはクラスの垣根を取り払ってもらう。つまり、君たちはCクラスの生徒ではなく、竜グループの生徒として行動することになる。そして、試験の合否結果はそのグループ毎に設定されている」
ここまでのことを要約するならば、それぞれのクラスから3~5人、計12~15人程度で集まり、何かの試験をする、だ。
だんだんとこの試験が顕になっていくが、まだ全貌は見えない。
「特別試験での各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず、必ず4つのどれかの結果になるよう作られている。
わかりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意している」
1人1枚ずつ、B5サイズの紙を茶柱先生から受け取る。
4人分用意されていた紙の端が縒れていることから、他の生徒にも使いまわしているのだと理解する。
書かれてある基本ルールは以下の通りだった。
『夏季グループ別特別試験説明』
本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を起点とした課題となる。
定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。
・試験開始当日午前8時に一斉にメールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。
・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。
・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
・試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。
・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
・『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。
・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
これらが主なルールとして目立つように書かれていた。
さらに細かく、ルールの説明や禁止事項などについても記載されている。
見たところ、無人島試験よりも事細かにルールが張り巡らされていた。
あの時のような解釈を利用した反則技は使えないと理解する。さらに読み進めると、そこには特別試験の「結果」について記録された。
結果1
グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万プライベートポイント(以後、ppとする)を支給する。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のppを得る)
また、結果1に導いた際、優待者には50万ppではなく、100万ppを支給する。
結果2
優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、1人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万ppを支給する。
と、2つの結果が書かれていた。しかし、先ほど茶柱先生は4通りと言っていた。
表面には2つ、ならば残りの2つの結果は裏面だろう。
裏面
以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも回答を受け付けるものとする。
また試験終了30分後も同じく回答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。
加えて、この回答は匿名性を付しているので、他者の目に晒されることはない。
結果3
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイント(以降、cpとする)を50ポイント得ると同時に、正解者に50万pp支給する。
また優待者を見抜かれたクラスは逆に-50cpのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが成功した場合、答えを無効とし試験は続行となる。
結果4
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えが間違った生徒が所属するクラスは-50cpのペナルティを受け、優待者は50万ppを得ると同時に優待者の所属するクラスは50cpを得る。
答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解だった場合、答えを無効とし受け付けない。
これで、試験の全貌が明らかになった。
結果1、2だけ見れば明らかに優待者が有利すぎるゲーム。だが“裏切者”の存在がバランスを保つ。
各々の立場を利用し、クラスが勝っていくためにどのような策略を進めていくかを考え抜くゲーム。まさにシンキングが重要なゲームと言えるだろう。
だが、
「ツマラナイ」
感想とともに、持っていた紙を置く。
「……つまらない、か。この試験の内容を見て退屈と感じる生徒を、私は初めて見た」
茶柱先生の二人称が変わった。説明用の言葉から普段使うフラットな口調に戻したためだろう。
全員に説明しているのではなく僕に話しかけているからの口調。
僕はそれに気づき、周囲を見渡すと、他のクラスメイト達は未だに表面へとかじりついている。
さすがに読み終わっていない生徒の事を無視し、補足説明を入れるような人ではないらしい。
「ちなみに、どこがつまらなかったんだ?」
「特出するのならば、このゲームが『嘘つき』を見つけるだけのゲームである点。簡単すぎる」
「お前なら『優待者』を簡単に見つけられると?」
「はい」
茶柱先生に軽い返事をすると、茶柱先生は薄く笑った後、もう一度僕に問いかけてくる。
「その言葉が真実だったとしても、つまらないと断定するのは早計じゃないか?」
「というと?」
「お前1人が勝てても、他のCクラスの生徒は『嘘つき』を見つけることは難しいだろう? 結果、クラスとして敗北することがあるかもしれない」
「確かにそうですね。僕1人勝っても、クラスで勝たなければ完全勝利とは言えない。
ですが、そんなこと僕がやる必要がありません。そういう戦いは
「……なるほど、お前なりに考えがあるということか。そしてそれは、他クラスの担任である私は聞かない方が良さそうだ」
茶柱先生はそう言って、僕との判断を中止する。
僕以外の人が資料を読み終わったのを確認すると、彼女は一度せき込み、補足説明を開始した。
僕は話半分に聞きながら、この試験を分析する。
ルールだけを聞くと今回の試験は個人戦。皆の協力が必要だった無人島試験とは真逆と言える試験だ。
クラス間で移動するポイントは高いので、理想の動きが出来るならば十分に昇格を狙えます。
だが、個人戦なので一人一人の能力に依存する。たとえ僕のように突出した人間がいても狙えるポイントは50万ppと50cp、そして優待者がいるクラスに-50cp。
干支になぞられた12のグループの中で、優待者は1クラスに付きそれぞれ3人。
先ほど考えた理想の動きは他全ての優待者を当てれる時。得られるポイントは450万ppと450cp、そして他3クラスにそれぞれ-150cp。
しかし、これはどこまで行っても理想論だ。
外すリスクや結果1でもらえるポイントを含めて考えると、やはりこの結果に持っていくのは非常に困難と言える。
加えて言うのならば、十中八九グループは何らかの基準で選ばれている。一例として、能力の高い、またはリーダー格と呼べる人間はこの竜グループに選ばれていた。
おそらくだが、同程度の能力を持った生徒達同士で試験をさせたいのだろう。他のグループの人間を確認していないので断定はできないが、試験である以上何かに測っているのは間違いない。
その際実力がかけ離れた人間同士で測るのは非合理極まりないので、多少の差異はあれど能力は均衡しているはずだ。
だが、その理屈でいくと地頭や基礎能力の高い生徒が多いであろうAクラスが有利という発想が生まれる。
下位クラスには逆境を強いられ、上に行くのは困難。そうなると、どこかで抜け道や一発逆転の何かがあるのかと推測できる。
「────以上で試験の説明は終了する。何か質問はあるか?」
分析をしていたら補足説明は終わった。クラスメイトの顔色を窺うが、彼らに不安の色は見えない。
さすがにCクラスでも優秀な生徒、この程度のことを理解するのは造作もないようだ。
「茶柱先生、質問です」
僕がそう言うと彼女はこちらを向き、次の言葉を待つ。
「試験中、優待者の権利をクラスメイトまたは他クラスの生徒に譲渡、あるいは購入させることは可能ですか?」
購入とは、もちろんプライベートポイントを使った優待者の権利を買うことです。
この学校はプライベートポイントでほとんどのものは買えると言っていた。
この方法は試験中と言えど例外ではない。僕はそれを考慮して質問をしたのだ。
「できない。優待者は
まぁ、当然だ。優待者はこの試験の幹。簡単に変化してしまっては試験とは言えない。
僕はその分かり切っていた答えに感謝を述べた後、もう一つの質問を送る。
「────では、現段階で優待者の権利をプライベートポイントで買うことは可能ですか?」
その質問に茶柱先生は眉を動かす。だが、その反応とは裏腹に薄い笑みとセットで素早く答えを返してくれた。
「流石は当校始まって以来、最優秀な生徒だな。その発想に至る生徒は毎年1人、2人。素直に感心する。だが、その質問の答えはNoだ」
「なるほど、どうやら学校は優待者に相当こだわりがあるのですね」
「ああ。特別試験という名目である以上、我々学校も『評価』しなければならない。
優待者はこの試験の骨組み。人間で言えば心臓のような部分だ。代替可能であれば、測れるものも測れない」
茶柱先生はスラリと答えた。何の躊躇いもなく、想定通りの解答を。違和感を悟らさせないように。
そう、
僕の超分析力は人の視線、体の動作を一瞬たりとも見逃さない。あらゆる物事を分析し、真実を露呈することが可能だ。
僅かながらの淀みを、他の言葉を声量で調整し、強調させることで誘導にかけ、意識を逸らそうとしても関係ない。
「つまり、プライベートポイントで買えるものにも限度はあるということですか」
「そういうことだ」
それらしい言葉を適当に返す。
彼女は『嘘』を言っていない。だが、真実を言ってもいない。
引っかかる点は厳正なる調整の結果という言葉。つまるところ、何かの基準に沿って、学校側は優待者を決めていることは明確だ。
それもこの学校では万能に近しいプライベートポイントを使用してでも変えることが出来ないほど強い基準で。
それほど評価したいものがあるのか、それともそこに下位クラスが狙える一発逆転の方法があるのか。
どちらかは分からないが、どちらかではある。
「解答ありがとうございます。僕たちは退出します」
「ああ。もう9時を回っている。まっすぐ部屋に戻るんだな」
その言葉が終わると、僕は立ち上がり、他の生徒も続く。
回れ右。来た道を逆走し、僕たちは部屋を後にする。自室につながる廊下をゆっくりと歩く。
「ルールは他のグループと一緒みたいでしたね」
園田くんは僕の隣を並走し、そう告げた。
その言い方からするに事前情報を前の時間帯の人から聞いていたのでしょう。
「そうでしょうね」
学校側は何かを『評価』したい。
ルールが変わっては疎らで、意味のない集計データになってしまう。だからこそ、ルールは一緒だ。
「何か方針とか、策とかってあるんですか?」
「そんなものは龍園くんに聞いてください」
「龍園……さんなら後で発表するでしょう? 俺はカムクラさんの意見を聞きたいんですよ」
「何もありません。この試験は『嘘つき』を見分けるだけの試験。会話をすれば終わりです」
「簡単に言いますねぇ……、カムクラさん、もしかして人狼ゲーム得意?」
「やってみますか?」
「……ちょっと面白そうっすね。野村と鈴木はどうだ?」
園田くんの問いかけに、彼らは首を縦に振って意思表示をした。
重要な試験の説明が終わった後だというのに、僕たちはかなりあっけらかんとした態度で廊下を歩く。
それほど彼らに余裕があるという証拠だ。
そんな軽口を叩きながら、僕たちは自室に戻った。