ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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完全は醜く、正気は秀才

 

 

 

 

 ────僕が竜グループの優待者なんですから。

 

 

 

 

 その一言だけで彼の異常性が分かるには十分だった。

 今回の試験、攻略法はいくつかあれど、どの攻略法も優待者が関わっている。

 言うなれば、この試験は優待者を見つけたクラスが制する試験だ。優待者の存在は隠し通すことが大前提にすぎない。

 

「……あ、あなたは何を言っているの」

 

「特に難しいことなど言っていません」

 

「易しいか難しいかを聞いているんじゃないわ! 自分の言っていることがどれだけ馬鹿げたことだと……」

 

 声を荒げている自分を感じるのは久しい。それほど自分は取り乱していた。

 その原因を作った輩といえば、普段見せる無表情に僅かの変化を起こしながら椅子に深く座っている。

 これから飛んでくるたくさんの質問に対応できるようにどっしりと構えているように見えた。

 

「落ち着いて堀北さん。まだ彼が優待者だと断定するには早いんじゃないかな?」

 

「平田くん。でも彼は自分で……ッ!!」

 

 冷静さを欠いていた。普通に考えればわかることなのに、取り乱したことで見逃していた。

 

「……嘘、その可能性もある。平田くんはそう言いたいのね」

 

「うん。いきなり優待者だと明かすのは自爆行為に近い。僕は彼がそうするとは到底思えない。だから何か裏があると思うんだ」

 

 客観的に状況を見ていた平田くんは冷静に今起こったことを分析し、状況を把握する。

 冷静さを取り戻した私も彼が嘘をついていると仮定して、そこから何が出来るのかを考え始めた。

 

「カムクラくん、きみはもしかして……」

 

「結果4を導いてこの試験を終わらせようとしている、ですか? 残念ながらその推測は間違っています」

 

 結果4。それは優待者が判明して初めて使える方法だ。試験中であればいつでも、学校に優待者の情報を送れるこの手段は一度しか解答権のない諸刃の剣。危険と隣り合わせの手段だ。

 学校に送った優待者が合っていれば結果3、間違っていれば結果4になる。

 結果4の詳細は送った答えが間違った生徒の属するクラスに対して、-50cpのペナルティを与えると同時に、本当の優待者に50万pp、その所属するクラスに+50cp与えるものだ。

 

「嘘だな。お前は誰かが間違った答えを送るのを待っているんだろう? Cクラスにいる他の優待者を隠しきり、一人勝ちを狙っている」

 

 神崎くんは淡々に告げる。本当の優待者はCクラスの他三人の誰か、そう仮定して考えていくと結果4を利用する結論に導かれる。

 大胆な作戦。優待者の存在が見当もつかない1回目のディスカッションには非常に有効と言える。使うタイミングは完璧、やはり彼が優待者というのは嘘と結論づけた方が整合性がある。

 しかし、本当にそうなのか。

 

「けど、本当って可能性も否定できないよね?」

 

「そりゃないでしょ。もし本当なら、彼はマジもの狂人だよ。だってメリットないし」

 

 櫛田さんの薄い望みをAクラスの西川さんが否定する。

 西川さんの言う通り、もしカムクラくんの言葉が本当ならば、彼はまさしく狂人だ。デメリットのみを生む邪魔者に等しい。

 けれども、彼の近くに座る他のCクラスの生徒も私たちと同じように唖然としている。彼らがこの状況を想定していたとは思えない。

 本当に結果4を導く作戦ならば、予め伝えておく必要がある。独断でやるにはリスキーすぎる。

 彼らの唖然とした姿は想定通りの演技なのか、それともカムクラくんの独断行動に対する率直な態度なのか。

 私の分析力では、そこを判断するのは難しい。

 

「情報をまとめると、こいつの言っていることは嘘ということだ。わざと間違えさせ、Cクラスの一人勝ちを狙っている。

 他の皆も騙されるな。決してこいつの名前を学校に送ってはいけない」

 

 葛城くんは大きな声で伝達し、ことの重要性をアピールする。

 

「失敗したな。動揺を誘おうとしてももう無駄だ。そう何度もお前の手のひらでは踊らないぞ」

 

「失敗? 僕が?」

 

「虚勢を張るな。今お前は策を見破られている。その結果、Cクラスに優待者がいることが露呈された。知っての通り、この試験では優待者は勝利への手綱だ。

 それが3分の1にまで絞られているこの現状を失敗と言わず、何と言う」

 

「退屈」

 

「……‥いつまで余裕でいられるか、見物だな」

 

 葛城君は普段とは違う怒りが孕んだ視線で睨む。

 カムクラくんに反省の色はない。どんどんとヘイトは集まっていく。「CクラスVSそれ以外」の縮図は既に出来上がっている。

 ヘイトを集めた張本人は無表情。その大人しさはきっとこの状況に至るまでの推測があっているからだろう。

 そう思って、私は彼の挙動を確認しようとする。

 ────その時だった。

 

 

 

「……申し訳、ありません」

 

 

 

 突如、台風が再び動き始めた。

 奇しくもそれは、先程とは全く違う動きで動き始めてしまった。

 

「もう、僕を疑うのはやめてくれませんか? 僕は本当の事しか言っていないのに」

 

「……はっ?」

 

 私はあまりに間抜けな声を出してしまう。

 普段の中性的な声が枯れる寸前の花々のように生気を失っている。俯き、ぼそぼそと言葉を連ねいていく。

 この声を一言で表すならば、鳴き声。感情が表に出ているこの声を私はひどく不気味に感じた。

 

「ただ僕は、結果1に導きたい。この試験で誰にも傷ついてほしくない。そうするために僕は行動を起こしたのに」

 

「白々しいぞ。そんな演技に騙される者はいない」

 

「……演技じゃありません、僕は……」

 

「……くどい!! そもそも、本当に結果1で試験を終わらせたいなら言うタイミングというものがある!! お前が暴露したタイミングは間違った答えを送ってくれと言わんばかりだった!!」

 

 神崎くんはあまりにも自然すぎて違和感のない鳴く姿に対して、優しさという良心を振り切るかのように声を荒げ、攻め入る。

 ビクリと肩を震わせるカムクラくんがやはり不気味で仕方ない。

 まるで弱いものいじめをしているかのような現場に変わったことに誰も待ったを言わない。

 証言と行動が合わない目の前の男には隙を与えてはいけない。無意識ながらもそこは共通認識だからだ。

 

「……それ、でも。……それでも、僕は、……俺は!」

 

「……ッ!? みんな少し待ってよ! もしかしたら彼は本当に!」

 

 悲痛にまとわれたその叫びの中にどこか芯のある言葉。

 フラッシュバックが過ぎる。

 平田洋介という男は、どこまでも平等に接しようとするこの男は反応してしまう。

 しかし、

 

 

「────騙されちゃだめだよ」

 

 

 その矛盾を切ったのは、意外にも櫛田さんだった。

 いつになく真剣な表情の彼女は、表の顔とは思えない形相で睨みを利かせている。

 

「カムクラくん、前に見せて(・・・)くれたよね。いくつもある才能の中でも特別な才能……詐欺師の才能を。

 今その才能を使っているんでしょ? そうやって、能動的に人を騙すんでしょ?」

 

 冷たい声色はらしくない。

 彼女の裏を知っている私にはその行動が悪意に満ちていることがすぐに分かったが、知らなくても本性がばれそうになるほどの行動だ。

 だが何にしても、この態度から彼女にとっても彼は明確な敵という事実は進展だ。

 共通の敵がいるならば、いくら彼女でも協力的になってくれるだろう。

 

「櫛田、詐欺師の才能とは、人を騙す才能ということか?」

 

「うん。嘘や演技をまるで本当かのように見せる才能。彼が1度私に見せてくれた(・・・・・・・・・・)時には、こう説明してくれた」

 

「なるほどな。つまり、櫛田は一度見ていたから見破れたという訳か。確かに奴の言動や行動を嘘と見抜くのは至難の業だ。詐欺師と言っても過言ではない」

 

 櫛田さんは愛想を振りまかず軽く頷く。普段の愛嬌ある彼女とは思えない真剣な表情が信憑性を上げる。

 下劣な手段だ、そう吐き捨てる葛城くん。僅かに肩を震わせるカムクラくん。

 

「カムクラくん、今の話は本当なのか? 今のは演技で、僕たちを騙そうとしていたのかい?」

 

「聞く必要ないでしょ平田くん。作戦を見破られた時の言い逃れに用意していた手段じゃん」

 

 西川さんはそう強く言い切るが、正しいかどうかはわからない。

 平田くんはこの状況を信じられない。いや、信じたくないからこそ、さらなる追求を行った。

 

「答えてほしい。きみが本当に結果1へと導こうとしていたのならば…………」

 

 

 ダンッと机を強く叩いた音が部屋に響き渡った。

 その震源地は髪の長い不気味な男子生徒の丸めた左手からだ。平田くんの声は遮られた。

 

「……くそぉ、どうして、どうしてなんだよぉ!」

 

 立ち上がり、心底悔しそうな顔を浮かべながら情けない声を発するのはCクラスのリーダー格、カムクライズルだ。

 普段の無表情はどこに行ったやら。取り乱し、声を荒げる彼は学年1優秀な生徒とは到底言えない。

 その急な変貌に誰もがひるんでしまう。

 

「俺は……ミスをしてしまった」

 

「……え? か、カムクラさん?」

 

「園田、鈴木、野村、すまない。俺はどうしようもないくらい不甲斐ない奴だ。俺の策は、他のリーダーにあっさりと作戦を見抜かれてしまった」

 

 顔を右手で覆い、自身の失敗を悲痛溢れる声で告げていた。一人称は変わり、声も中性的な声から男性と判断できるやや低い声へと変わる。

 しかし、そんなことよりもだ。これで確定した。彼の変貌には今でも戸惑ってはいるが、雰囲気や仕草、状況から見ても彼の態度は今度こそ真実を語っているように見える。

 失敗とは結果4で終わらせる作戦の事だろう。現状の証拠から見ても、嘘とは考えにくい。

 

「ふっ、残念だったなカムクラ。お前の作戦は悪くはなかったが、やるグループを間違えたな。

 このグループはクラスのリーダー格が集まっている。みな一定以上の分析能力、状況判断能力はある」

 

 鼻で笑い、嘲笑を混じらせながら葛城くんは告げる。

 事実が確定したため、優位性を確保できた彼はここぞとばかりに上機嫌だ。

 

「うるさい、俺の嘘を1つ見破ったくらいで良い気になるなよ! 葛城、お前ごとき、坂柳と比べれば雑魚もいいところなんだよ!」

 

「その雑魚に貴様は策を見破られたんだがな。ところでその取り乱しよう、それがお前の本性か?」

 

「うるさいと言っているだろ!」

 

 長い髪を揺らし、無茶苦茶な身振り手振りを混ぜる彼はひどく憐れだ。あんなにも冷静沈着で、物事の先の先まで読める人間がたった1回の失敗でここまでなる。

 いや、そんな完璧に近しい人間だからこそ、今まで失敗なんて経験したことがなかったのかもしれない。

 ゆえに、ここまでの豹変を見せてくれている。

 

「お前は許さない。天才である俺を馬鹿にしたことは絶対に許さない」

 

「天才か、今のお前より坂柳の方がその言葉が相応しい」

 

「黙れ。それ以上俺を馬鹿にすれば、お前のクラスの優待者を1人当てる。今この場で1つのグループを終わらせる。そうされたくなかったらその汚い口を噤め。二度と開くな」

 

 罵詈雑言をまき散らし、格というものが一気に垢抜けている。

 なるほど。これが彼の本性ならば、確かに彼は二番手どまりだ。龍園くんの方がよっぽど恐ろしい。

 

「あはは、みじめ。今のあなたにそんなこと出来るはずがないじゃん」

 

「何の才能もないダニは黙っていろ!! ……決めたぞ。お前らAクラスはこの試験では勝たせない。絶対にだ」

 

「それは虚言なのかしら? それとも泣言? あとは……、戯言だったかしら?」

 

 先ほどのお返しと言わんばかりに西川さんは過剰と言えるくらいに煽る。

 もうこれ以上は見てられない。

 これでは、弱い者いじめと変わらない。

 

「Aクラス、必要以上にカムクラを煽るのはやめろ。こいつの豹変は確かに驚くことだが、今はそれより考えることがあるだろう」

 

「神崎 隆二。お前も俺のことを馬鹿にするのか」

 

「……馬鹿にはしない。お前はお前のやり方で作戦を実行した。そして失敗しただけだ。そこに馬鹿にするという感情はない。

 むしろ、ここまで場を乱したことは敵ながら天晴れだ」

 

 神崎くんはAクラスの連中がしている腫物を見るような眼をせず、自分たちは対等ということが分かる程まっすぐで優しい瞳をカムクラくんに向ける。

 

「……やめろ。俺をその目で見るな。俺には才能がある。あの時みたいに、何の才能もない自分を変えたんだ。だから俺は、だから俺は!!」

 

 自身の過去と向き合うようなセリフを吐き捨てる。

 カムクラくんはそう叫んで携帯を取り出した。そしてとてつもない速さでタイピングを行い始める。

 その奇想天外な行動に一瞬の判断の遅れが生じた。

 

「……!? カムクラくん、君は何を!?」

 

「はっ、もう遅い!」

 

 その言葉と同時に、工場で大量生産を行っている機械のごとく動いていた彼の手は止まった。

 時計の針はチクタクと響きながら進んでいく。誰も音を発さない。否、発せない。

 20回ほど秒針が鳴った後、考えられる範囲で最悪のことが、現実になってしまった。

 

 

 

『鼠グループの試験が終了しました。鼠グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。

 他の生徒の邪魔をしないで気を付けて行動してください』

 

 

 

 訂正の連絡などなく、ここに1つのグループの試験が終了したアナウンスが響き渡った。

 即座に反応したのは葛城くんだ。

 彼は全てのグループで結果1を目指そうとしていたこともあり、適当な使命によって1つのグループが終わったことはとても許容できなかった。

 

 

「……何てことをッ!? カムクラ、お前は何をやったのか分か────」

 

「────Aクラスの優待者を当てました。先ほど、そう言いましたよ」

 

 

 葛城くんの怒鳴り声が独り歩きするだけならば、まだ良かった。

 私は分かっていなかった。いや、分かっている気になっていただけだった。

 今回相手するのが常識の外を歩く怪物ということを、正真正銘の天才だということを。

 

 

「決して、結果1で終わらせるような策は進めないでください。鳥と猪のグループが終了したくないのならば」

 

 

 怪物は取り乱した様子を見せることなく、いつもの仏頂面を張り付けていた。

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 

 

 波乱のグループディスカッションが終わる。

 終了のアナウンスが鳴り響く中、最初に席から立ち上がったのは渦中の男。

 クラスメイトを引き連れ、何の感情も映さない表情でこの部屋から出ていった。

 少し時間が経ってから、Cクラス以外もこの場から消え始める。

 狼狽えた葛城くんも落ち着き、それに対する反応も優待者の事態把握が優先されたことによって特に発展もなかった。

 皆のやったことと言えば、本当に鼠グループの試験が終了したかどうか。鼠グループにいる他の生徒に連絡を取り、確認して、その事実に皆が同じ反応をしていた。

 

「堀北、平田、櫛田。ちょっといいか?」

 

 この場から退散しようとしていたDクラスは、Bクラスの神崎くんから引き止められる。

 その後ろには彼のクラスメイトもいて、会話を聞く姿勢が見受けられる。

 

「今後のことを少しだけ話し合いたい」

 

「構わないわ。それに確認したいこともあったから丁度いいわ」

 

「確認したいこと?」

 

「BクラスとDクラスの関係についてよ。無人島の特別試験では私たちは利害の一致もあって協力関係を結んだわ。

 でも、試験は変わった。試験が変わるということは当然、ルールや勝利条件も変わる。今回の試験、一人勝ちをしたいなら協力関係なんていらないわ。

 それでも話したいということは友好的、そう捉えても構わないのかしら?」

 

「俺個人としては友好的で、証拠こそないがBクラスとしてもDクラスとは友好的に行きたいと思っている」

 

 神崎くんの発言に、後ろの女子生徒2人も頷き、同意を示している。

 

「私も同意見よ。いずれ対立することになるでしょうけど、それは先の話。今は協力したいと思っているわ」

 

「感謝する。このことは一之瀬に伝え、クラスで共有したいと思う。そちらも同じことを頼みたい。……契約書の類は必要か?」

 

「いらないわ。これは私たちがBクラスを信用している意思表示と受けとってもらえると幸いね」

 

「そうか。それはこちらとしてもありがたい」

 

 彼は少々わかりづらいが、優しそうな微笑みを浮かべる。

 厳格そうに見えて、意外と表情は分かりやすい。

 クラスの隣人は同じように口数が少ないだけどこのような側面はないからか、何だか不思議な気分にさせられる。

 

「堀北さん、皆に伝えるのは僕がやっておくね」

 

「よろしく頼むわ」

 

 こういうことを私は出来ないので、クラスでも一際人気である平田くんに任せる。

 

「それで神崎くん、話したいことというのは……」

 

「……察しの通りだ。奴について、そしてこれからの対策だ」

 

 奴。それを指すのは長髪の彼以外にいない。

 既にAクラスもCクラスもこの場にいないので暈す必要はないが、それでも十分伝わるので良しだ。

 

「まず、奴が本当に優待者を知っているかどうか。これが重要だ。俺は堀北の推理と道理に合っていない行動をする理由に、奴が優待者を知っていると睨んでいる。加えて、結果4で終わらせようとしたことから、奴のクラスに優待者はいると見て間違いないだろう」

 

「私も彼は知っていると思うわ。けど、Cクラスに優待者がいるとは断定できない。

 加えて、鼠グループの指名、鳥と猪のグループを指名するという脅し。葛城くんの慌てようは異常だった。当てられたことの動揺と言っても過言じゃない。

 やっぱり、彼は何らかの手段で優待者を知った。それによって鼠グループの優待者を当てることが出来た」

 

「……そうかな? 僕としては本当は何も知らないような気がする。堀北さんの推理を否定するわけではないけど、彼の行動はあまりにも滅茶苦茶だ。

 まるで場をぐちゃぐちゃにすること自体を楽しんでいる気がする。櫛田さんの言っていた詐欺師の才能でただ遊んでいたように感じるよ。……直感だけどね」

 

 平田くんの意見は一概に否定できない。

 彼は狂人だ。彼にとってつまらない試験を面白おかしくするために、損得抜きにしてぐちゃぐちゃにしている可能性も十分にある。

 

「もしかして知った上で、奇想天外なことをしている、とか?」

 

「全く、それも全否定できないのが歯痒いわ。彼のクラスに優待者がいるのかどうかも考え直さなくちゃいけないのに」

 

 安藤さんの意見こそむしろ正しいのでは、と思ってしまう。

 自分が優待者とカミングアウトをした理由はおそらく二択。自分を優待者と誤認させ、誰かに結果4へと導いてもらうためか、ただ場を荒らしたいか。

 これがただの人狼ゲームならば、彼が狂人で本当の人狼の身代わりになろうとしていると解釈できる。遊びのゲームならば、前者も後者も選択肢。

 けれども今回行っているのは報酬ありの試験。後者はやるだけ無意味としか考えられない。

 

「とりあえず知っていると仮定しましょう。常に最悪を考えて行動する方が対応できるわ」

 

「そうだな。……しかしこれを言うと元も子もないが、知っていたらどう対応するんだ? 奴の気分次第で試験が終わっていくぞ」

 

 その通りだ。彼がこの試験の幹である優待者を知っているというのならば、私たちには何もできない。

 せめて私たちも彼と同じステージ、つまり優待者を知っていなければ対抗は出来ないだろう。

 会話が止まり、この場で対策は浮かばない。

 

「……まず、彼と同じように優待者を知らなくちゃ話にならないわ。でも彼が知れたということは、何かしらの知る手段があるということ。諦めるには早いわ」

 

「確かにそうだね。ということは、目先の目標は彼の気分が変わらないうちに何らかの法則を見つけるってことだね」

 

 その通りだ。彼と戦うには、大前提として同じ目線にならなくてはならない。そこからが勝負だ。

 しかしグループディスカッションの回数は計6回。その内、1回が終わってしまった。ゆっくりしている時間はない。

 彼の気分が変わる前に、何としてでも法則を見つけたいものだ。

 

「でも、そこまで早くは変わらないと思う」

 

 櫛田さんは力強く可能性を示唆する。そこから自分の意見を展開していく。

 

「堀北さんも言っていたよね。彼は退屈なんだって。だから、変な行動をして場を乱している。だったらさ、つまらなくなるまでは試験を終わらせるようなことをしないと思うんだけど……」

 

 後の言葉になるにつれて声量が下がってきたのは、自信がなくなってきたからだろう。

 しかし一理ある。といっても、運要素が強すぎるが。

 

「……八方塞がりね。今ここで話し合いをしても有効な方法は出ないわ」

 

「そうだな。しかしやることが分かったのは大きな進歩だ。この後俺たちは、一之瀬やBクラスの皆を交えてこの議題を会議する予定だ」

 

「ありがたいわ。私たちも出来る限りを尽くすわ」

 

 感謝する、そう告げて神崎くんを筆頭にBクラスはこの場から立ち去って行った。

 次の試験の開始は午後8時。それまで後6時間以上、時間が余っている。しかし悠長なことは言ってられない。

 本当に、本当に悔しいが、綾小路くんから意見をもらっておく必要もある。

 無人島試験では、敗北こそしてしまったが、彼の実力の片鱗は垣間見えた。力を貸してくれるかはわからないが、役に立ってはくれるだろう。

 携帯を手にし、どこかで落ち合うよう連絡をする。すぐに彼の方から指定場所が送られてきた。時間は今すぐ、これから向かうために私もこの場から離れ始める。

 どうやら力を貸してくれそうだ。

 

「私はこれで失礼するわ」

 

「私も~! じゃあね堀北さん、平田くん、また後でね!」

 

 私と同じように誰かと連絡をしていた櫛田さん。彼女もこの後誰かと会う予定のようだ。

 

「うん、2人ともまた後で!」

 

 櫛田さんと私はそれぞれ別々の方向に歩いていく。平田くんは誰かとここで会うようになっているのか、まだここに居座るようだ。

 私はそんな彼から離れ、やや早歩きで廊下を歩いていく。道中、私の来た道を歩いていく軽井沢さんと遭遇した。

 彼女は携帯を使いながら廊下を歩いていてこちらに気づいていないようだが、その表情は少しの笑顔があったので彼氏の平田くんに会うのだろうと推測できた。

 自分には、この試験中そんな浮ついた行動など神経がどうかしないと出来ないので、彼女には呆れを通り越して感心してしまう。

 

「……気合を入れ直さなくちゃ」

 

 そう1人呟き、歩くスピードが速まっていく。

 そして再度、この試験の法則について考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、豪華客船地下。カラオケルームにて。

 1回目のグループディスカッションが終わってから約20分が経過した現在、そこに2人の男女が密会していた。

 予め部屋に居座っていた女子生徒は、ちょうど今入ってきた男子生徒を睨みながら出迎える。

 金と黒。ショートとロング。それぞれの髪型の特徴は対照的だ。

 しかし意外にも男子生徒の方が黒のロング、女子生徒の方が金髪のショートの容姿をしていた。

 

「そろそろ来ると思っていました」

 

 先に口を開いたのは男子生徒。嫌悪を示しながらも、女子生徒は言葉を返す。

 

「言いたいことは山ほどあるけど、まず最初にあんたを呼んだ理由を話してあげる」

 

「聞きましょう」

 

 L字になっている4人用椅子の端と端に位置していた2人は、文字の直角点まで距離を詰めて、腰を下ろした。

 そして────櫛田桔梗は見る人見る人を幸せにするような優しい笑みで告げる。

 

 

 

「カムクラくん、堀北さんを潰すために私と協力してほしいな!」

 

 

 

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