ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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短いよ


Interlude4
後悔先に立つ


 

 

 

 船上試験が終わりを告げてから翌日の朝が顔を出す。

 ベッドから起きあがり、カーテンを開けると、太陽は自己主張の激しいおもてなしをしてくる。

 洗顔、歯磨き、身支度を終わらせ、僕は朝食を食べに部屋を後にする。

 ルームメイトたちは起きない。試験が終わったことで、本来の予定はなくなり時間が余った。

 残った時間はというと、豪華客船内を自由に過ごしてよいことになった。

 各々好きに楽しんでいい。すなわち起きる時間も寝る時間も自由だ。

 現在の時刻は7時。夜まで起きていたルームメイトは現在睡眠に勤しんでいるという訳だ。

 場所は『ブルーオーシャン』というカフェ。僕は目的地へと直行する。

 

「いらっしゃいませ」

 

 昨日と同じ店員が同じように挨拶をする。

 一礼を返し、日差しを遮ることができ、かつ海が美しく見える景色の良い席へと座る。

 メニューを開き、昨日とは違う朝食をメニューから選び、注文する。

 任務を終えたら昨日学校側から届いたメールを確認する。

 試験の結果が書かれた通達。クラス間のポイント移動も書かれている。

 Cクラスは今回の試験によって、-100クラスポイントのダメージを受けた。

 夏休み明けのポイントは580cpとなる。

 無人島試験では100cpを増やせた。2回の試験の合計は0cp。Cクラスは他のクラスより一歩出遅れたことになる。

 

 

「よぉ」

 

 

 洒落た雰囲気があるこの店に猛獣がやってくる。

 気迫を隠さず、牙を見せる猛獣は僕の前の席に立つ。

 

「おはようございます、龍園くん」

 

 Cクラスの王、龍園翔。

 通常より低い位置にまかれたベルトから見ても意図的に下げられたズボン。そのベルトを隠すようにYシャツは垂れている。

 緩く締めているネクタイ。ボタンを全く付ける気がない全開のブレザー。

 不良。それ以外に付ける言葉が見当たらない。

 

「クク、朝っぱらからこの俺を呼ぶとはいい度胸だぜ。昨日のあの呼び出しメールを見たときは本当に殺してやろうかと思ったが、まぁ、良いだろう」

 

 龍園くんは椅子に腰かけ、足を組む。

 物騒なことを言う彼だが、今は存外機嫌が良さそうだ。しかし、昨日は非常に機嫌が悪かった。

 特に試験が終了した直後。3クラスが手を組み、絶望的な状況から一杯食わせてやろうと意気込んでいた彼だったが、結果試験は終了。

 不機嫌な状況で周りが見えていなかった昨日の彼と話しても時間の無駄だった。だから日にちを変え、試験の結末の話をしようと提案した。

 何とか受け入れた彼は時間通り、このカフェにやって来た。

 

「試験のことを一度考えてもらう時間が必要でしたから。起きたことはある程度纏めてから話した方が話は早いでしょう?」

 

 手渡したメニューを彼は受け取り、素早く注文を頼む。

 終えると、笑いながらこちらを見る。

 

「それで、あの試験結果は何だ? どう俺に説明する気だ?」

 

「堀北鈴音が頑張りました。彼女はあの試験を通じて素晴らしい成長を見せました」

 

「鈴音の成長は確かに目を見張るものがあった。それは認めようじゃねえか。

 だが、俺が本当に聞きたいことを分からないてめぇじゃねぇだろ?」

 

 龍園くんは独特な笑いをしながら次の言葉を待つ。

 机に組んだ手を置き、メンタリストのような構えをしている彼は学生服じゃなければ取り立て屋にしか見えない。

 

「1つ、誰が鈴音を成長させたかだ。確かに鈴音には完全に出し抜かれた。だが無人島試験でのあいつはただの雑魚だった。

 それが急にここまで厄介で良い女になりやがった。それはなぜだ?」

 

「極限状態は人を成長させます。あの試験は堀北鈴音にとって殻を破る試験だった。それじゃ納得できませんか?」

 

「その極限状態を作ったのは誰だ?」

 

「僕です」

 

「よし、これで1つ目の質問は終わりだ」

 

 極上のネタでも食べたかのように上機嫌な龍園くん。

 ニコニコと擬音が付きそうな彼の笑みは見る者が見れば不気味に感じるだろう。

 注文が届く。これにも龍園くんが笑顔のまま受け取り、僕の分の食器まで運ぶ。

 俗にいう神対応を見せた。

 僕たちは頼んだコーヒーを一口飲みこんでから話を再開する。

 

「2つ。お前は優待者の法則を知りながら、かつ一番身近に竜グループの状況が分かっていたはずだ。それなのになぜ怪しくなった雲行きを変えなかった?」

 

「変えようとしました。ただ手を打とうとしたが、堀北さんの策はそれまで読んでいたようで何も出来ませんでした」

 

「吐くならもっとましな嘘を吐け。試験中のてめぇの行動は筒抜けだ」

 

 あれだけ暴れたのだから学年で噂になっている。情報を得るのは簡単だろう。

 だが、彼が僕の行動を知っているのは竜グループの中に密告者がいたからだ。

 鈴木くん。彼は面と向かって密告すると言っていた。彼の勇気は賞賛すべきものだったので、放っておきました。

 

「自分でも予想できない未来のために、試験を滅茶苦茶にしやがったのは誰だ?」

 

「僕です」

 

「よし、これで2つ目の質問は終わりだ」

 

 変わらず笑顔のまま話す龍園くん。

 だんだんと嗜虐的な色が満ちていく笑顔は彼のチャームポイントになりそうだ。

 頼んだ食事を口に運びながら彼は続ける。

 

「3つ。竜グループ終了後に行われたあの放送、あれはお前だな?」

 

「僕です」

 

「よし、どう落とし前付ける気だ?」

 

 顔を抑えるように左手の甲で頬杖を突く龍園くん。

 笑顔は消え、普段の表情に戻っていた。

 

 船上試験でCクラスが大敗したのは、堀北鈴音が原因で……それは出鱈目にかき混ぜられた試験の中で成長したから。

 つまり、優待者を知っていたのに即座に当てなかったせい。

 

 ────もちろん、全部僕のせいです。

 

「もっと怒られることを覚悟していたのですが?」

 

「元々この試験はお前を自由にしていた。こうなったのはこの結果を見越せなかったオレの責任でもある」

 

 この義理人情の厚さ。僕はそんな彼を見て超高校級の極道の才能を持った青年、というより子供が頭に浮かぶ。

 新世界プログラムの彼は見た目に反して、漢気に満ちていたなと記憶を思い返した。

 

「それにだ、今回の失敗を理由にてめえを縛れると考えれば安いもんだぜ」

 

「そうですか。元々次の試験ではあなたの言うことを聞く予定でしたよ」

 

「あ? どういう風の吹き回しだ? 責任でも感じてんのか?」

 

「責任? 堀北さんの予想外の成長、あんな素晴らしいことが起きたのに責任なんて感じる訳ないじゃないですか」

 

「迷惑極まりねえ、と言いてえが……クク、鈴音を成長させた点は褒めてやるよ」

 

 で、なんでだ? そう続ける彼は自分で脱線させた話を自分で元に戻す。

 

「単純な話です。クラス統制は必要でしょう?」

 

「ますます意味が分からねえな」

 

「現状Cクラスはあなたがリーダーですが、僕の立場はそんなあなたに対して意見できる対等な補佐と言った所です」

 

「それがどうした。対等であっても、俺が上でお前が下。そんなことは馬鹿どもも分かっているはずだ」

 

 正解が見えない問答に対し、龍園くんは片眉を顰める。

 自分が絶対に負けることのない存在と信じている彼からすれば気づかないのも無理はない。

 

「暴力と恐怖で支配したこのクラスにとって、あまりに活躍しすぎる人物が現れれば、彼らの目にはその人物が希望に見える。

 民は重い税を取り、権力と暴力で支配する王よりも、民のために働く英雄を頭に据えたがるものです。

 その後の凡人共が考えることなんて簡単にわかるでしょう?」

 

「……はっ! そういうことか。いずれお前に信奉し始めて、俺達はAクラスみたいに派閥が分かれるってことか」

 

 内容を理解した龍園くんは口を大きく開けて笑う。

 Cクラスは龍園くんが支配しているクラスだが、個性的で我の強いクラス。

 いまだ龍園くんに素直に従わない生徒も少なくない。

 例えば伊吹さん、彼女は自分が嫌だと思うことは真っ向から否定する。

 例えば園田くん、彼は龍園くんよりも僕に可能性を見出している節がある。

 そこにやたらと実力が高く、暴力も恐怖も使わない新たなリーダー格が現れたら? 

 龍園派とカムクラ派で分かれることは言うまでもない。

 意見が纏まらず、クラスの実力の半分も出せなくなる。今後起きる特別試験で後れを取ることは間違いないだろう。

 

「だから僕は今回の失敗を利用します。そして次の特別試験で完全に君の下になったと彼らに錯覚させます。まぁ、時間稼ぎにしかならないでしょうが」

 

「失敗したカムクライズルはとうとうオレの配下に加わった、そういうシナリオか。

 悪くねえ。バカみたいな才能を持つお前ですら俺の部下になったという事実は余計な面倒を省けそうだ」

 

 Bクラスに後れを取っていた統率力の問題は変わらなくなる。

 だからといって僕のスタンスは変わらない。

 民たちからはそう見えるだけで、結局僕は傍観者。やることは今までと変わらない。

 僕が予想の出来ない未来を探すために。

 

「クク、だがその状況も面白そうだな。お前との再戦の機会には絶好のチャンスと言える」

 

「その時が、正しく再戦できる機会であるならば、僕は期待して待っていますよ」

 

「言いやがる。なら、メインディッシュまでに他のコース料理を食べておかなければならねぇ」

 

 龍園くんは立ち上がり、この場から去ろうとする。

 僕はもう少しここでくつろいでから出るために、もう一杯飲み物を注文しようと店員を呼ぼうとする。

 しかし、ある重要なこと思い出す。

 

「龍園くん、言い忘れていたことがありました」

 

 柄にもなく、僕は真剣な表情と声色で彼を引き留める。とはいっても表情も声色もいつも通りだが。

 そんなことよりもだ。死活問題だ。

 彼に頼らなければ、僕は人生最大のピンチに陥るかもしれない。

 龍園くんはこちらに向き直り、言葉を待っていた。

 

 

 

「龍園くん、ポイントを貸してください」

 

 

 

 間抜けな表情を浮かべる龍園くん。どうやら全く予想外の事らしい。

 僕は一文無しになった理由を彼に説明する。

 そして、彼は僕の提案を断った。

 

「お前の散財が原因なんだ、もっと計画的に金を使え。これは戒めだ」

 

 正論までぶつけてきた。

 

 デッキから見える雲一つない青空を見ることで、僕はとりあえずポイントのことを忘れた。

 

 

 

 龍園とカムクラの親密度が上がった!! 

 

 

 




はっ!全部私のせいだ!
ハハハハハッ!
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