ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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今回は6500字くらい


波乱万丈の休み -②-

 

 

 

 

 坂柳有栖。Aクラスのリーダー格の1人。

 学校で見かける機会は多々あったが、こうして話すのは久しぶりだ。

 本当に良いタイミングで来てくれた。

 後方には、真澄さんと呼ばれていた生徒も見える。

 2人でここにいるということは占いに来たのだろう。

 

「それでイズルくん、そちらの方は?」

 

 笑顔が消え、冷たい瞳を先輩に向ける。

 視線を合わせる両者。対照の色を持つ瞳がせめぎ合う。

 にらみ合いはまだ続くと思った矢先、その均衡は崩れた。

 先輩が僕の手を放し、両手を挙げたからだ。

 

「そんな怖い目線を向けないでくれ」

 

 言葉の割にクールな表情は崩れていない。

 その堂々とした様子から全く怖がっていないことが分かる。

 彼女は僕に向き直す。

 

「まぁいい。後輩も嫌そうだったから今日はこれでおしまいだ」

 

「嫌そうなのが分かるならすぐに諦めてください」

 

「会話は人のことを知れる重要な機会だ。君がどんな人間なのかを探求する、その時間を減らすのは少々勿体ない」

 

 探求。僕で言うところの分析の事だろう。

 随分と大げさな言い方だ。

 

「また会う時がある。その時にもっと探求させてもらうよ、カムクラ」

 

「その時はお手柔らかにお願いします、鬼龍院先輩」

 

 鬼龍院先輩はゆっくりと立ち去っていく。

 やはり彼女は高円寺くんと同じような存在だった。

 女性版高円寺六助。僕は彼女のことをそう記憶した。

 そして僕は意識の先を変える。

 

「感謝します坂柳さん、あなたがいなければ捕まっていました」

 

 僕がお礼を言うと、坂柳さんは薄く笑う。

 小悪魔的な笑みから何かを考えていることは推測できる。

 

「気にしないでください……、と言いたいのですが貸し1でどうでしょう?」

 

「構いませんよ。僕としては本当に助かりましたので」

 

「それは良かったです。……では早速、その貸し1使っても良いでしょうか?」

 

 坂柳さんは左人差し指で1を表す。

 

「この後遊びませんか?」

 

 お誘いがまた来た。

 正直、1人で気ままに過ごそうと思っていた。

 だが、借りを作っておくのも癪なので、断らない方が良いだろう。

 もっとも、彼女は高円寺くんや鬼龍院先輩のような人間ではないので節度がある。

 ゆっくり過ごせるかは分からないが、気楽には過ごせるでしょう。

 しかし、

 

「僕は構いませんが、良いのですか? 占いをしに来たのでしょう?」

 

 僕は真澄さんの方を一瞬見て確認を取る。

 

「ええ。占いは夏休み中ならいくらでも来れますし」

 

「ちょっと、勝手に決めないでよ」

 

 即決する坂柳さんに真澄さんは表情を歪める。

 彼女は不機嫌さを隠さないまま会話に臨む。

 

「あら、ダメでしたか。ここに来るまで乗り気じゃありませんでしたよね?」

 

「折角ここまで来たから嫌なのよ。朝早くから付き合わされているこっちの身にもなってよ」

 

「そう言わないでくださいよ。特別試験の15日間、私は部屋で1人寂しくしていたのです。真澄さん、少しくらい我儘を許してください」

 

「……いつも我儘じゃない」

 

 ぼそりと早口で悪口を言う真澄さん。

 聞き逃さず、「何か言いました?」と問い詰める坂柳さん。

 仲がよさそうで何よりだ。

 

「占いしないなら私は帰っていいでしょう?」

 

「ダメですよ。あなたには役目がありますからね」

 

 坂柳さんは意図を読ませない言葉を言う。

 

「……化粧ちゃんとしてないんだけど」

 

「それは真澄さんがいけませんね。女性としていかなる時も身だしなみを整えなくては」

 

 坂柳さんは帽子をかぶり直してそう言う。

 白を基調にしたフレアカットワンピースに黒いリボンが巻かれた白いUVカット帽子。

 ミュールも白で色合いの一致したコーディネートだ。

 低身長ながらも着こなしていて可愛らしい雰囲気がある。

 

「すっぴんでその顔のあんたがおかしいのよ」

 

 かくいう真澄さんは白いTシャツに、カジュアルなデニムジーンズ。

 ベージュのサンダルに黒いショルダーバッグはシンプルで似合っている。

 高校生らしからぬ大人びた雰囲気は坂柳さんとはだいぶ違う。

 僕の着やすさ優先の服に比べれば、どちらも身だしなみは整っていると思った。

 

「……分かったわよ」

 

 真澄さんは観念したかのように溜息をついた。

 心底面倒。そんな表情と声だった。

 だが意見はまとまった。僕たちは歩き始め、ショッピングを開始する。

 

「イズルくんも占いに興味があるのですか?」

 

 坂柳さんは先ほど僕があの場にいた理由を聞いてくる。

 

「あそこには立ち寄っただけです。占いに興味はありませんよ」

 

「なるほど、非科学はお嫌いですか?」

 

「好きでも嫌いでも。むしろあなたの方が非科学は好まなそうですが」

 

「……フフ、私も乙女ですから。ロマンチックな占いには喜びますし、天中殺などのオカルトには怖がりますよ」

 

「純情ですね」

 

 バレバレな嘘をつく坂柳さん。

 指摘するのも面倒なので、触れないようにした。

 似たような雑談を続けたまま、僕たちは1件目に立ち寄る。

 家具を見る。大きいものから小さいものまでゆっくりと見ていく。

 30分程で2人は満足したので、その後休憩スペースに寄った。

 そこで次の場所を決める。

 現在の並びは坂柳さんを中心に、右側に真澄さん、左側に僕で座っている。

 坂柳さんは疾患があるためこまめな休憩が必要だ。

 歩くスピードも坂柳さんに合わせているため移動は普段よりも遅いが、それでも彼女は疲れてしまう。

 だが、歩きながら店を1つ1つ細かく観察できるためデメリットはなく、不満もない。

 

「それにしても、イズルくんは占い師の才能も持っているのですね」

 

「先ほども言いましたが、そんな難しいことではありません。その目と会話技術を持つあなたなら、僕程の精度はなくても出来ますよ」

 

「……かもしれません。結局、コールドリーディングの応用ですからね。……他には何の才能が有りますか?」

 

 退屈そうに鼻で笑った後、坂柳さんは話題を変える。

 才能が大好きな彼女は新しいものを見た時の子供のように目を輝かかせている。

 

「リクエストがあれば見せますよ」

 

「……そうですね。では、噂の詐欺師の才能を見せてもらいましょう」

 

 笑顔は一変、余裕を持った表情で、こちらを試すように超分析力を見せつける。

 現在彼女のクラスでの立ち位置は危うい。葛城派が台頭しているため、肩身が狭いだろう。

 だからといって情報不足ではない。それは今はっきりわかった。

 僕は情報を送ったであろう真澄さんを見る。

 

「なるほど。危うい立場の中でも良く情報を集めたものです。優秀ですね、真澄さん(・・・・)

 

 両者の目が見開いた。

 坂柳さんは時間が止まったかのように表情が固まり、真澄さんは驚いた表情を浮かべた。

 

「……びっくりしたんだけど。急に名前で呼ばないで」

 

「名前? ……ああ、失礼しました。てっきりあなたの苗字かと」

 

「私の苗字は神室。神室真澄よ」

 

「神室真澄、しっかり覚えました。そして申し訳ありません。

 親しくない異性に名前を呼ばれることに抵抗を持つ女性は多いですから」

 

「呼び方ひとつで気にしないわよ。呼びやすいならそのままでいい」

 

 僕たちは坂柳さんを挟む形で会話を続けていく。

 

「では、真澄さんで」

 

「────待ってください」

 

 先ほどから様子がおかしかった坂柳さんが口を開く。

 彼女は折れてしまいそうなくらい強く杖を握っていた。

 

「真澄さん、それは少しずるいです。なぜあなただけ名前呼びなのですか。

 私は初めて話した時に名前呼びを頼んで断られたのに」

 

「……基本的に僕は他人を名字+くん、さんで呼びます。あなたもそれに準じただけです」

 

「じゃあ、なんで真澄さんだけ名前で呼んでいるんですか? カムクラくんの好みは真澄さんのような女性なんですか?」

 

 坂柳さんは不貞腐れた声を出し、急に不機嫌になった。

 黒目ではなく青い目が寄った三白眼でじっとりと僕を眺つつ、反応を待つ。

 真澄さんは心底面倒な表情を浮かべ、やや距離を取る。

 

「一度記憶したことを変えるのは面倒なので」

 

「いいえ、イズルくんは天才です。その程度のことは簡単にできるはずです。

 だから────私を名前呼びにして下さい。不平等です」

 

 暴走気味な坂柳さん。

 というか真澄さんの方を名字呼びにすれば良いだけなのに、なんで彼女は自分の名前を。

 

「……ねぇ、やっぱり私のことは神室にして。抵抗あった」

 

 事態の面倒さに気付いた神室さんが助け舟を出してくれる。

 

「……わかりました。神室さん、坂柳さん。そろそろ休憩も終わりにして次に行きましょう」

 

 僕はそこに飛び込むことで緊急回避を終える。その流れのまま話を切った。

 神室さんもすぐに察し、立ち上がる。

 しかし、坂柳さんは立ち上がらない。不服そうに唇を尖らせている。

 

「……あんた、そんな面倒な女だったのね」

 

 僕と神室さんは子供のようにすねた彼女を宥める。

 その後、何とか彼女を移動させることに成功する。

 結局、苗字呼びは変えなかったが、昼食を奢ることで彼女の機嫌は元に戻った。

 

 

 ──────────────

 

 

 

 時刻は午後1時を回る。

 人だかりも増えてきて、飲食店としては今が稼ぎだろう。

 そんな中、早めの昼食を終えた僕たちは現在進行形で衣服を見ている。

 2件目に突入しているが、彼女たちは試着ばかりで未だ1着も買っていない。

 

「カムクラ、この服のサイズ違うの持ってきてくんない?」

 

 神室さんは試着室から片手を出す。その手には黒のブラウスがある。

 僕は受け取り、サイズを確認した。

 

「ついでに他の色も試しますか? もう少し色を出してみたほうが、あなたの髪色には合いそうですが」

 

「……私はカラフル系よりモノトーン系の方が好きなんだよね。似合わないし」

 

「物は試しです。それにあなたの場合、もう少し陽気な雰囲気を出せれば似合います。とりあえず試着してみましょう」

 

「……わかった。派手すぎないやつにしてね」

 

 そう言って彼女はカーテンを閉める。

 僕はすぐに彼女の要望通り派手過ぎない服を持ってくる。

 

「……派手」

 

「気のせいです。着てみてください」

 

 僕はコーディネーターの才能を使いながら彼女たちにアドバイスをしていた。

 薄紫の髪を持つ神室さんは目や鼻といった1つ1つのパーツが整っていてクールな顔立ちをしている。

 そのため髪と顔だけでも十分にインパクトがある。服まで印象の強いものを着ると陽気な雰囲気がより出るが、どこか落ち着きがないようにも見えてしまう。

 彼女の性格は物静かだ。この印象を与えたいなら暗めの服の方が良いだろう。

 しかし、それは少々勿体ない。彼女のプロポーションはかなり良い。

 高い身長と長い脚を生かし、笑顔を見せれば雰囲気も見違えると言っていい。

 本当に似合うかどうかは措いておき、着れる服の種類も増えるだろう。

 

「……どう?」

 

 試着室のカーテンを開け、全身を見せる。

 やや濃い目紫のブラウスにライトブルーのデニムパンツ。

 悪くありません。

 

「似合っていますよ。もう少し表情を緩めてください」

 

「……無理。明るく見せることは私にはしんどい」

 

「そうですか。ならば王道ですが、紫とモノトーン系で固めていくのが良さそうですね」

 

 僕としては紫のロングスカートがオススメだが、これ以上は彼女の好みもあるので口出ししない。

 

「あら、とてもお似合いじゃないですか真澄さん」

 

 隣の試着室からもともと着ていた服に着替え終えた坂柳さんが出てくる。

 彼女に言うことは殆どなかった。超分析力を持つ彼女なら、自分を良く見せる服装を理解してる。

 事実、低身長を生かした服は良く似合っていた。

 

「イズルくんに手伝ってもらえることに感謝したほうが良いですよ」

 

「……まぁ、感謝はする」

 

 はじめこそ異性に服を選ばせることに躊躇していた神室さんだったが、異性からの目線を取り入れる機会として受け入れていた。

 彼女は不器用ながらも礼を言う。僕が真剣に考えていたことには気付いていたのだろう。

 

「あなたは着せがいがあり、僕も退屈しませんでした。つい、アクセサリーまで真剣に考えてしまいましたよ」

 

 僕は一緒に持ってきていた黒いキャップを真澄さんに渡す。

 彼女は値札を内部に隠すように被る。

 悪くない。

 鍔が前でも後でもよく似合いそうだ。

 

「……揃ってじろじろ見ないで。2人とも目力強いんだからさ」

 

 真澄さんは嫌そうに距離を取る。

 超分析力を持つ2人から見られるのは確かにあまり良い気分ではないのかもしれない。

 

「まだ見ますか?」

 

 僕が確認を取ると、彼女たちは首を横に振る。

 

「……では会計を済ませましょう」

 

「え? 会計はまだですよ。次はイズルくんの番です」

 

 坂柳さんはさも当然のように言う。

 

「僕はコーディネーターの才能を持っているので1人で選べます。なので今度1人で買いに来ますよ」

 

「良いじゃないですか。選んでくれたお礼もしたかったですし」

 

 楽しそうに笑う坂柳さん。

 神室さんも脱いだ帽子を手で叩きながら続く。

 

「少なくとも今の服よりましなのは選んであげるわよ」

 

「そうですね。大方着やすさ優先で選んだのでしょう? 折角ですし、今日はオシャレをしましょう」

 

 断りづらい。乗り気な女子2人の提案を断るのはどこか気が引けるし、断った後が面倒だ。

 

「……分かりました。折角なので選んでもらいましょう」

 

 その後僕はマネキンに変わった。

 2人は服を選び始める。各々服を探しに行った。

 僕は試着室確保のためにカーテンを全開にして中に入っている。

 この試着室のカーテンは全体を覆っているため足元は見えない。

 中に人がいるかの判断は閉まっているかいないかで判断するしかないため、面倒なトラブルを避けるために僕は開ける判断をした。

 午後2時を回り、だんだんと込み始めた店内では少々迷惑だが、使う予定があるために仕方ない。

 そうこうしているとこちらに寄ってくる人の気配がした。

 確認すると、先に戻ってきたのは神室さんだ。しかし手には服がない、何かがあったのだろうか。

 

「……とりあえずその髪切ったら?」

 

「必要ありません」

 

 彼女は僕をじっと見た後そう言う。

 僕は必要性を感じなかったので断った。

 

「あっそ。なら今日はこれあげる」

 

 神室さんは自分のポーチから何かを取りだし、こちらに投げる。

 

「……ヘアゴムですか」

 

「これ1個でその怪しさと不気味さは消えるでしょ」

 

 僕はキャッチし、言う通りに髪を結ぶ。

 首筋が見えるくらいに髪を纏め、ポニーテールを作った。

 

「うん、そっちの方が良い」

 

 髪を纏めたことでいつものようなおどろおどろしさは消えただろう。

 ついでにいえば、首筋に冷房が届き涼しく感じる。

 

「それで、なぜ何も持たずにこちらへ戻ってきたのでですか?」

 

「……そうだった。あんたの身長と胸囲、あとウエストを教えて」

 

 彼女は腕を組みながら告げた。

 先ほどこちらを見ていたのはそれらを推測するためだろう。

 サイズの指標を知るためであり、邪な気持ちなどないため気軽に教える。

 

「身長は179㎝、胸囲は91㎝、ウエストは……73㎝から74㎝くらいです」

 

 僕がそう答えると神室さんは目を細める。

 

「……何その数値。あんた、モデルでもやってんの?」

 

「その才能は持っていますよ」

 

 ある程度指標が取れたのか彼女はもう一度服を探しに行く。

 坂柳さんは杖での移動なのでもう少し時間がかかるだろう。

 僕はゆっくりと待つことを決めた。が、それは杞憂になった。

 僕のいる試着室前に人の気配が再び向かってきたからだ。

 

 

「ねえ、君。そこの試着室って使っているのかな?」

 

 

 僕は声の方を振り向く。

 陽気な雰囲気を持った女子。薄いオレンジの髪にひまわりのヘアピンは特徴的で記憶に残りやすい。

 彼女は屈託のない笑顔を向ける。僕は彼女の目を見て目的を一瞬で分析完了する。

 

「申し訳ありません。連れが服を選んでいるのを待っています」

 

「そっか。なら他も空いてないし、少し待つしかないか」

 

 彼女は周りを確認した後、そう言った。

 僕の知らない女子生徒。おそらく上級生だろう。

 

「君、1年Cクラスのカムクラくんだよね? 君の友達が帰るまで少しお話しない? 私も友達がまだ選んでそうだから暇なんだよね」

 

 効率的な時間の使い方。自然な会話の入り方。

 違和感を感じさせない辺り、コミュニケーション能力は高い。

 

「構いません」

 

 僕は了承する。しかし警戒は怠らない。

 なぜなら彼女の僕を見る目は何故か一挙一動を分析するような観察者の目をしているからだ。

 鬼龍院先輩とは違い、初めから分析するつもりの姿勢。僕を見定めるのが目的なのは簡単に分かった。

 個人的な目的か誰かの命令か。どちらかは知らないが超分析力を持たない分析など御座なりにすぎない。

 いい度胸です。逆に分析してあげましょう。

 

「私は朝比奈 なずな。2年生です!よろしく!」

 

 左手を腰に添え、右手を横に持っていきピースをする。

 

 ────今日は癖のある女性に良く誘われる日のようだ。

 

 

 




超高校級のギャルゲー主人公。
あとこっそりタイトル変えました。前編後編で終わると思ったら終わらなそうだったので。

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