ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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つまらない→ツマラナイ、おもしろい→オモシロイに訂正しました。


舞台は図書館

 

 

 静寂な空間と言うのは存外悪くない。

 

 周りのことなど気にならず、自分のやりたいことに没頭出来るからだ。

 あなたにもそういう空間があるでしょう?

 例えば自分の部屋、基本的に人も来ないし、自分のありのままの状態でやりたい事をしてるのではないだろうか。

 

 この学校の生徒達は寮ぐらしなのでその感覚を大いに味わってるだろう。

 僕も寮にいる時はその感覚に支配されている。

 寮の中も悪くない。しかしオススメしたい場所がある。

 

 図書館だ。

 皆が活用する空間だが、基本的に人は喋らないので静かな空間だと言える。

 ここは本の貸し借りをしたりその場で本を読む場所だが、他の目的でここを利用している生徒もいる。

 特に勉強する場に活用する生徒は少なくないだろう。

 この学校の図書館はかなり広く、様々な場所に机が用意されているので、少し探せば勉強している生徒も簡単に見つかる。

 それほどこの場所は良い空間なのだ。リラックスしながら時間を使える。

 

 僕はこの静かな空間を椎名さんに教えて貰った。

 以前彼女が僕を強引に連れてった時は期待してなかったのですが、ここを見つけられたことによって一気に+の結果になった。

 このことに関して彼女にはある程度の感謝をしています。

 実際は感謝をすべきタイミングだったから感謝しただけなのですが、いずれはそういう感情も知れれば良いと思ってます。

 

 そう言えば椎名さんは本当に本が大好きな文学少女でした。もしかしたら彼女も超高校級の文学少女の才能を持っているのではと僕は推測します。

 というか彼女の方が相応しいのではと思うくらいです。

 以前資料で見た超高校級の文学少女も不相応という訳では無いのです。

 

 ただ彼女の二重人格に問題がある。

 まあ椎名さんもオンとオフの差が激しすぎて二重人格みたいなものですが……。

 

 どっちもどっちなのでどっちも超高校級の文学少女の才能を持っているで結論付けてしまいましょう。

 

 さて話を今に戻しましょうか。

 

 僕は現在図書館にいます。

 テスト期間なので普段来るより人が多いように感じます。

 なのでリラックスタイムが出来る状況は若干崩されています。

 尤も今回は1人でいる訳じゃないので、リラックスしに来た訳ではありません。

 

 さて、今の状況を説明する前に久しぶりにあなた達に聞きたいことがある。

 

 

 どうして僕は図書館で勉強会を開いているのでしょうか。

 

 

 まぁ、あなた達の答えなど予測できていますので、答える必要は無いですよ。

 

 知るかバカ。だいたいこんな感じでしょう。

 では説明をしましょうか。

 

 それを知るには少々、遡らなければなりませんので、時間は頂きますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日前、僕は龍園くんの軍門に下った。

 ツマラナイと思っていた学校生活も多少色鮮やかなものになるだろう。

 

 未知を期待している。彼は可能性を見せてくれた。

 

 そういえば彼をボコボコにしてしまいましたが、結構あっさり許してくれました。

 その代わり、これからのことで結果を残せと言ってました。

 よって僕のこれからの放課後は自分の時間がどんどん減っていくだろう。

 

 そして彼も軍門に下った者には遠慮なく命令するでしょう。

 果たして彼に僕を使いこなせるのか……彼の手腕に期待ですね。

 

 そんなことを考えているとチャイムが鳴る。

 どうやら誰かが僕の部屋に来たようだ。

 

 現在は放課後、学校が終わり、即帰宅して自分の時間を楽しんでいます。

 誰かが僕の部屋に直接来るなんて初めてですね。

 誰だか知りませんが、一体なんの用でしょう。

 

 僕は玄関に行き、扉を開ける。

 

 そこには見知った男とその仲間達が立っていた。

 

「……何の用ですか?龍園くん」

 

 玄関前にいたのはCクラスの王、龍園 翔とその愉快な仲間達、石崎くん、山田くん、伊吹さんだ。

 

「おいカムクラ、お前の部屋を貸せ。これは命令だ。拒否権はねえ」

 

 確かに僕は軍門に下った者には遠慮なく命令すると予測してました。

 ですが───それは遠慮無さすぎませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「Oh……no furniture」

 

「……まじで最初に置かれていた通りだな。ちょっとは変えてみようと思わなかったの?あと喉渇いた」

 

「おい石崎、お前は机を探せ。オレはベッドを探す」

 

「了解っす!」

 

 

 今僕の部屋には僕も含め、5人も人がいる。

 これで僕も友達いっぱいのリア充って奴なのでしょうか?

 答え→ありえない。

 こんなズケズケと他人の部屋に入って「お茶よこせ」と言ってくる方々とリア充?決してリアルに充実してはいません。

 

 というか何なんですか、蛮族か何かですか。他人の部屋入ってすぐにベッドの下を探す龍園くんは何なんですか。

 なんで舌打ちしてるんですか。

 石崎くん、何が「ありません!」ですか? なんでそんなに悔しそうなんだよ。

 そして伊吹さん何勝手に冷蔵庫漁ってるんですか。紙コップだせ?そんなのありませんよ。

 山田くん……あっキミは何もしてないですね。常識的な方で良かったです。というか偉いですね、しっかりと靴を揃えている。しかも石崎くんと龍園くんの分まで。

 どうやら彼は器も大きいようです。この非常識な方々の中にも常識を持った人はいる。

 やはり人は見た目で判断しては良くない。

 

 

「アルベルト、大至急紙コップを買ってこい。あと菓子と飲み物もだ」

 

「Hey boss!!」

 

 ああ、僕の唯一の良心が……。

 

「…………なんの説明もなしに何なんですか龍園くん。というか元に戻しといて下さいよ」

 

「なぁカムクラ、クッションないのか。座れないんだけど」

 

「……ならベッドに座ってください」

 

 カオス。まさにカオス。

 

「まぁ待てよ。話はアルベルトが戻ってきてからだ。それに予想は付いてんだろ?」

 

「まぁ……そうですね」

 

 話はおそらく、いや十中八九、今日の放課後のHRに発表していた中間試験のテスト範囲変更についてだろう。

 

 テスト3週間前に発表されたテスト範囲が2週間前になって突然の変更。

 理不尽だ。ですが勉学が苦手な人は正直大丈夫でしょう。どうせまだ勉強してないのでしょうから。

 一方で毎日コツコツとやっていた真面目な人からすれば堪ったものじゃないだろう。

 ボイコットが起こっても多少は納得が行く。

 

「ですが僕の部屋の必要がありましたか?」

 

「俺の部屋や石崎の部屋でも良かったんだが、散らかってそうだから嫌だという理由があってな」

 

 龍園くんが伊吹さんを見る。なるほど、サバサバした彼女ならば言ってる姿が容易に推測できる。

 

「ふん。汚いとこにわざわざ行きたいと思うか?アルベルトなら意外と片付いてそうだったけど拒否するし、だからといって私の部屋に男4人入れるのも嫌だ。だからあんたが適任なわけ、真面目だから部屋も片付いてそうだったし」

 

 彼女らしい答えだ。それに龍園くんと石崎くんは管理が苦手そうなのは納得します。

 

「クククッ、とまあそういう事だ。それにしても本当になんもねぇ部屋だぜ。エロ本すらねえとはな」

 

「そんなものポイントの無駄です」

 

「あ?じゃあお前その端末でエロ動画でも調べてんのか?ククッ、学校側から配られた端末を危険視しねえとはお前の予測も大したことねえんじゃねえか?」

 

「そういうあなたは本を買ったと?……いや買わせたのですか」

 

 僕は近くにいる石崎くんを見る。彼はなんとも微妙な顔をしていた。あまり知られたいことではなかったのでしょう。

 

「クククッ、俺はこの学校が始まってから娯楽の事を調べまくったからな。この学校は注意こそするが、生徒の風紀に関しては甘い。寮だって一緒なくらいだ。酒も売っていれば、ゴムもある。そしてエロ本もAVまである。まあ買える所は限られてるがな。……ホテルは今の所見つけてねぇ。だが監視カメラを設置していない場所はある程度抑えている。なんなら紹介してやろうか?」

 

 

 

 こいつは何を言っているのだ。

 おそらくだが学校が始まってからポイントについて調べる以外は全てこんなことにつぎ込んだのであろう。いくらなんでも詳しすぎる。

 ベッドに座っている伊吹さんはゴミでも見るかのような目をしてます。

 まったく色んな意味で期待を裏切ってくれる。

 

「……僕の部屋にエロ本があれば弱味にするつもりだったということですか」

 

「もうお前は俺の軍門だ。お前が裏切らねえ限りはそんなことしねえよ。まぁ流石のお前も性癖バラされたら堪ったもんじゃねえだろう?」

 

「僕に性癖なんてありませんよ」

 

「まあ……こればっかりは嘘を吐きたくなるもんだから仕方ねえ。だがそうやって隠すってことは、お前の性癖は案外やべぇかもな」

 

 どう言っても信じなさそうなのでもうどうでも良いです。

 

 まあそれはそうとして下ネタはある種最低な手段ですが、この手段を使えば、それなりに同性とは仲良くなれると知ったので今回は良い体験になったでしょう。

 

「確かにカムクラさんの性癖というか、女子に対しての好みとかって意外と気になりますね」

 

「石崎、お前にしてはなかなか良い意見だ。そいつは俺も気になる」

 

「好みですか?」

 

 あの日以来、石崎くんの僕に対する呼び方と喋り方が変わった。龍園くんと話す時と同じような話し方になってるので、同格の存在だと思っているのでしょう。

 

 それにしても女性の好みですか?あいにく考えたことがありません。

 ですが余計な感情や趣味、思考などを取り除かれたとは言え、性欲のような人間としての本能は完璧に取り除かれた訳では無い。

 ある程度の本能は残っているので考えることは可能ですが……

 

「漠然とし過ぎて判断しかねますね」

 

「なら俺が質問してやるよ……そうだな……」

 

 龍園くんが考えているとドアが開く音がする。

 

「Boss, bought it 」

 

「ああ、ご苦労。さてこの話はまた今度にしようか。真面目な話をしに来たわけだからな」

 

 龍園くんは石崎くんと山田くんに買ってきたお菓子や飲み物を準備をさせる。

 正直まだこのネタを引っ張ってくるかなと思ったが、存外切り替えは早いらしい。

 

 

「察しは付いてるだろうが中間試験の事だ。まず最初に言っておく、今回俺はCクラスから赤点を出すつもりはねえ」

 

「へぇ、意外ね。あんただったら、落ちた奴の自己責任だとか言いそうなのに」

 

 伊吹さんの言う通りだろう。彼は自分の駒を平然と切り捨てることができる人間だ。なので自分の駒にすらなり得ない人間の事などどうでもいいだろう。

 

「本来なら有象無象は切り捨てるが、切り捨てた後が問題だ。退学者が出たことによるcp(クラスポイント)の変動。おそらくそれなりのポイントが持っていかれると俺は見ている」

 

 退学者を出して実験しないとは、彼にしては根拠が薄い。

 おそらく個人的に坂上先生へ質問して何かしらの事を知った故の推測でしょう。

 そんな博打のような事を初手からやるようなアホではない。

 

「坂上の野郎は、全員が必ず乗り切れる方法はあると言っていた。おそらく正攻法以外に裏技があるはずだ」

 

「それが成功すればcpは上がるってわけ?」

 

「おそらくな。だが俺はcpをあげるつもりはねえ」

 

「は?なんでよ。ポイントを増やしたらなんかデメリットでもあるわけ?」

 

 伊吹さん以外の2人も同じような事を思ったのだろう。龍園くんを見ながら彼の次の言葉を待っている。

 

「一言で言えば様子見だな。いずれ全てのクラスを潰す予定だが、まだ早い。ここでヘイトを買って目をつけられるのは面倒くせぇ。まだ試したい事が残ってるんでな」

 

 試したい事、それに伊吹さんは突っかかろうとしたが、彼は教える気がないらしく適当にはぐらかす。

 

「それと情報が足りてねえ。敵がどんな相手でどんな手段を持ってるか分からないのに顔を出すのは得策ではねえからな。まあ、そこから巻き返すのも楽しそうではあるがな」

 

 彼の言ってる事に僕も賛成だ。だが穴がある。それは裏技を見つけられる前提という事だ。

 仮にこの裏技が見つからないと考えると龍園くんは楽しいかもしれませんが、他の生徒は追い詰められた事に余裕がなくなり、反発が起きるでしょう。

 

「……キミは裏技を見つけられるのですか?」

 

「当然だ。そのためのお前だからな。俺が見つけ出せなくてもお前が見つければいい。逆もまた然りだ」

 

 なるほど。随分と僕の事を買ってるようですね。

 確かに僕と彼が協力して裏技を見つけられなければ、方法は真面目にテスト勉強して本番に備えるという正攻法しかないと言えるだろう。

 

 しかしそれではクラス変動が起きない。AクラスはAクラスのままで、DクラスはDクラスのままで終わってしまうだろう。

 

 そこから考えると裏技はある。それも複数あるだろう。

 龍園くんが言っていた坂上先生の含みを持った言い方とこの学校の方針を加味すれば、ほぼ確実と言っていい。

 

「これが今回のCクラスの方針ってわけだ。それにしてもまぁ……学校側も面倒なことをしてくれるぜ」

 

「本当に勘弁して欲しいっす……」

 

 嘆く堂々の小テスト最下位の男。

 

「石崎は小テスト最下位だったもんね。確かにCクラスではアンタが1番退学に近い」

 

「もうちょっとオブラートに包めねえのかよ伊吹……」

 

 確かにここにいる石崎くん以外の退学の可能性はほとんどないでしょう。

 伊吹さんと山田くんは前回の小テストでもそれなりの点数を取れていた。

 そこまで心配する必要はないでしょう。

 

 

「カムクラ、分かっていると思うが、お前には今回1番働いてもらう。明日赤点の危機があるやつをオレが集める。そしてお前のとこに送る。そいつらを退学にさせるな、勉強会でも開け」

 

「裏技を見つけるならばその必要はないのでは?」

 

「Cクラスは俺の国家だ。付いてくるやつならば見捨てねえ、そういう風にクラスのバカどもに見せ付ける必要がある」

 

 早い話、従順な駒を増やしたいという事ですか。面倒ですね。

 まあ僕に拒否権はないのですが。

 

「それで他の余裕がある時間に裏技と他クラスの情報を探してもらう。と言っても裏技の方はそこまで力を入れる必要はねえ、今回の件の攻略方法は1つ宛がある。だからお前は情報収集をしながら、バカどもの面倒を見てやれ」

 

「……分かりました。正直退屈ですね」

 

「まあそう言うな、まだ前哨戦だ。それまでは我慢だ」

 

「……キミに我慢というセリフは似合いませんね」

 

 伊吹さんと石崎くんもうんうんと頷いている。

 

「自覚はある。さてカムクラ以外の指示を出すか。伊吹、お前も情報収集を個人でやれ、だが優先はテストだ。そこまで力を入れる必要はねえ。石崎、お前はカムクラに勉強を教えて貰え。アルベルト、お前は俺に付いてこい。その方が効率が良い」

 

「……わかった」

 

「勉強嫌だ……」

 

「Hey, boss」

 

 

 

 

 

 

 

 とまあこんな感じの経緯で僕は勉強会をやらされています。退屈ですが、彼の指示なので仕方ないでしょう。

 

「暗い顔をしていますよカムクラくん」

 

「……気にしないで下さい椎名さん。僕の顔は元々こんな感じです」

 

 さすがに1人で教えるより、2人の方が効率が良かったので、余裕がありそうな椎名さんに手伝って貰いました。

 クラス闘争に興味のない彼女でもクラスメイトが退学になるのはなんとなく嫌だったようで手を貸してくれます。

 

 会場は図書館、昼休みと放課後に開くこの勉強会ももう5,6回目です。

 僕と椎名さんを含めて7人の人達が勉強しています。

 ここに集まっている彼らは退学の危険性がある生徒です。

 ですが伊吹さんもなぜかいます。あなたは特に不安じゃないでしょうと思いましたが、監視役と言ってましたので納得するしかない。

 なので実質危ないのは4人です。

 

 というか何回も開いて薄々気づいてきたのですが、これ僕必要ないです。

 椎名さんが人気すぎて、僕が教えてるの伊吹さんだけという現状。

 特に石崎くん、何が教えてもらうならば女子が良いですか。龍園くんに言いつけますよ。

 

 そして山脇くんとその仲間達も同様です、鼻の下伸ばしすぎです。

 確かに彼女の教え方が非常に上手い上に美少女という存在なので仕方ないのでしょうが、僕だって人間ですよ。申し訳ないとか思わないのですか。

 

「カムクラ?大丈夫か?」

 

「……ええ大丈夫です。ですがここらで一旦休憩を取りましょうか」

 

 僕はその趣旨を伊吹さんに伝え、椎名さんにも伝えると休憩の時間に入った。

 

 それを伝え終えると僕は1度図書館から出る。

 どこへ行くんだ?お花を摘みに行くだけですよ。

 

 

 勉強をする時、適度な休憩は必須だ。

 勉強において必要なのは量ではない。質だ。ではその質を上げるためにはどうすれば良いか、その答えの1つが休憩なのです。

 3時間ずっと机に向かっているよりも1,2回休憩を挟んで3時間勉強する方が最終的な効率は良くなります。

 かつてどこかの大学でこのような論文を出していた記憶があります。

 

 まあ勉強については人それぞれやり方があるので、どうこう言うつもりはありません。

 

 しかし勉強会を開くのだから、僕のやり方で教えます。

 だから付いてきてくれる伊吹さんの点数は満点にする予定です。

 彼女はバカじゃない上に要領もなかなか良いので、教え甲斐があります。まあ性格に難はありますが……。

 

 

 ───ではお花を摘みに行きましょうか。

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 トイレ───お花摘みから戻ってきたら、山脇くんが見るからに不良そうなガタイの良い赤髪の男子生徒に胸倉を掴まれていた。

 

 僕のいない間に何があったんだと言いたい。

 石崎くん辺りが止めればいいものを何をゆっくりと座ってんですか。

 

 周囲の態度と雰囲気からある程度の状況を予測する、不良少年こと、赤髪くんは右拳を振り切ろうとしている。

 

 最優先は彼を止めること。

 

 超高校級の暗殺者の才能を使い、気配、足音を消しながらも、できる限り最速で近づく。

 

 

 

 ────間に合った。あと数秒遅ければ、山脇くんの顔は見るに堪えない面相へと変わっていたでしょう。

 さて、この場を収めますか。

 

 

「何をしているのですか」

 

 

 ───周りの視線が痛いので早く答えてくれませんか、山脇くん。

 

 山脇くんは何も答えようとしない。それよりも怯えた目でこちらを見てくる。

 ツマラ……!

 

 突如赤髪くんが動き出した事に、少し驚く。

 彼は山脇くんを離すとすぐに、僕の手を払い除け、後ろに下がる。

 

 なかなか良い動きをしますね。ですがどうでもいい。今僕が話しかけているのは山脇くんだ。

 君の相手をしている暇はない。

 

「何をしているのか聞いているのですよ山脇くん。まあ言わなくても凡その推測はできますが……」

 

「す、すまねえ。ちょっと悪ノリが過ぎちまっただけなんだ。なぁ?だ、だからよ、龍園さんに言うのは勘弁してくれよ……」

 

 悪ノリ、おそらくそこにいる生徒達に迷惑をかけたのでしょう。彼女達はおそらくDクラスの生徒だろう。

 彼らの中にいる金髪の彼女は最近行っている情報収集で聞いた、Dクラスの中心人物の1人である女子生徒の特徴と一致する部分が多く見受けられる。

 櫛田 桔梗という珍しい名前をしていたはずだ。

 

 これはほとんどこちらが悪いでしょう。山脇くんは自分より立場の弱い人間には強く出て、龍園くんのような強い人間には下手に出るという、良く言えば世渡り上手で悪く言えばクズのツマラナイ人間だ。

 

 Dクラスだからと煽ってのこの現状なのでしょう。挙句の果てに返り討ちにされかけて、僕に助けてもらった。助けてくれてありがとうもなしです。

 

「ツマラナイ」

 

「え?」

 

「……もう良いです。君たちは教室に戻ってください。目障りです」

 

「あ、ああ、わかった」

 

 この場から離れられることが嬉しいのか、謝りながら安堵の声に変わっていく。

 

 彼は立ち上がり、筆記用具を持つと愉快な仲間たちを連れてすぐに出口へと向かっていった。

 

 気付くと椎名さん達も帰る準備をしている。

 さっさとこの場から離れ、面倒事を避けたいのでしょう。

 

「目障りなんでしょ?後は任せた」

 

 伊吹さん。あなた監視役ですよね?どこへ行くのですか。

 ……まったくなんて無責任な人だ。

 

 そう言えばこんな無責任な彼女にも同性の友達が出来たそうだ。

 まあ椎名さんなんですけどね。

 

 伊吹さん、あなたがこの場に残ってくれそうだった椎名さんを連れていったのを僕は見逃してませんからね。

 

 Dクラスの生徒の視線は僕に集まっている。

 仕方がありません、面倒ですがこの場を丸く収めますか。

 

「さて、どうやらCクラスの生徒が迷惑をかけたようですね」

 

 僕はDクラスの生徒達を見渡す。なかなか個性的で、侮れない人達のようだ。

 黒髪の見るからに優等生そうな少女は多少怯んでいるがこちらを真っ直ぐ見据えている。

 赤髪の不良くんは敵視、いや最警戒の目付きですね。

 金髪の少女、櫛田さんは怯えているような仕草をしている。ただし上辺だけだ。彼女の目には明らかな警戒が含まれている。

 彼女もなかなかの才能を持っているようだ。

 

 他にも3人いるが彼らはそこら辺にいる一般生徒だろう。

 

 だが黒髪の少女の後ろにいる、一見これと言った特徴がなく地味な雰囲気をしている彼は、こちらを興味深そうに見ている。

 もちろん彼も警戒している。だがそれよりもおもちゃ箱を開けた時の子供のようなわくわくしている視線が大きいように感じる。

 

 彼はオモシロイ。初めて見るタイプの壊れた(・・・)人間だ。

 彼は警戒するに値する。だがそれはただの第一印象。今は放っておいてもいいだろう。

 彼ほどの実力があればいずれ目立つ存在になる。その時に対処すれば良い。

 

「……ええ、今後このような事が無いように言ってもらえるかしら?あなたはまともそうだからお願いしたいわ」

 

 ……無理をしている。黒髪の少女は明らかに無理をしている。僕の雰囲気に耐えられないとかではない。これは何かに縋っているような───まぁ良いでしょう。わざわざそこまで考える必要は無い。

 

「安心してください。それは後で言っておきますよ」

 

 この言葉をきっかけにDクラスの生徒達の警戒がなくなっていく。

 しかし運が良い。図書館で勉強を教えるはずが情報収集になるとは、まさに一石二鳥ですね。

 

 さて、そろそろここから立ち去りますか。

 

「にゃはは、どうやら私の出る必要は無かったみたいだね!」

 

 後方から、薄桃色の髪をした明るそうな女子生徒がこちらに向かいながら、話しかけてきた。

 彼女の特徴を言うならば、非常に良いスタイルだろう。身長は160cm程だが、豊満な胸はとても高校生には見えない。

 事実、Dクラスの男子達の目を釘付けにしている。

 

 そして、見るものを笑顔にする美少女という題名の絵が書かれてもおかしくないと思えるほど整った顔立ちをしている。

 

「あっ!一之瀬さん!」

 

「おっ!櫛田さん!久しぶり〜!!今はテスト勉強中かな〜?」

 

 一之瀬、なるほど。彼女がBクラスの実質的なリーダーですか。

 団結力があるというBクラスの中心人物、さぞかし人気があるのでしょう。

 

 ですが正直ツマラナイ。

 一之瀬さんが噂通りの人ならば、龍園くんは彼女にとって天敵だ。

 先が見えた。とまでは言いませんが、Bクラスを落とすのは時間こそかかりそうですがそう難しいことではないと思えますね。

 

「キミは神座出流くんでしょう?キミが勉強会を開いてるなんて正直意外だったよ」

 

 確かに僕は根暗そうな男ランキング堂々の1位ですからね、そう思っても不思議ではない。

 あとこの不名誉なランキングは女子が秘密裏にやっているものらしい。

 伊吹さんに確認を取ったら「私も入れた」という報告を受けたので正しいのでしょう。

 

「櫛田さん、彼女は?」

 

 黒髪の少女が櫛田 桔梗に尋ねる。

 

「彼女は一之瀬 帆波さん!Bクラスの生徒ですごく良い人!」

 

「やだな〜櫛田さんの方が良い人だよ〜!」

 

 うっとうしい社交辞令ですね。

 

「説明ありがとう櫛田さん。一之瀬さん、それと神座くんでいいのかしら?あなた達に聞きたいことがあるの。あなた達が教えて貰った中間試験の範囲についてよ」

 

 中間試験の範囲?なぜそんなことを。

 

「キミは堀北 鈴音さんだよね?よろしく!それで中間試験の範囲だっけ?う〜ん、ちょっと教科書貸してもらえる? ………………ほらここからここまでだよ!いや〜学校側もなかなか酷い事するよね!1週間前かな?テスト範囲を急に変更するなんて!」

 

「1週間前に……テスト範囲の変更!?」

 

 黒髪の少女、堀北さんは驚愕の表情をしている。

 彼女の言動と表情から見ても今初めて知った情報なのだろう。

 一之瀬さんは嘘を言っていない。

 すなわち、Dクラスの連絡に何らかのミスがあったという事だ。

 

 これは不幸ですね。だが好都合だ。厄介そうなDクラスが勝手に自爆してくれるとは。

 まあまだ確定ではない。彼らも裏技の存在を知れば、この状況を打破できる可能性は十分にある。

 

「……やっぱり、私たちの知っているテスト範囲と違う。それにテストの変更って……」

 

「あれ?Dクラスには伝わってなかったの?それって結構不味くない?……もしかしてクラス毎にテスト範囲が違うとか……ねえ神座くん、Cクラスで聞いた範囲はどこだった?」

 

「あなたが教えた範囲と一緒ですよ」

 

 伝達ミス……Dクラスの担任は余程の間抜けなのでしょうか。実力を測る以前の問題ですね。

 

「じゃあ全てのクラスは多分一緒のテストを受けるんだと思う。なんでDクラスだけこんなことが……もしかして伝達ミス?」

 

 彼女の推測は合っているでしょう。Dクラスだけテストが違うなんてことはありえない。

 明白な基準が無くなってしまえば、価値のある評価は取れませんから。

 

「ありがとう一之瀬さん、神座くん。私達はここで失礼させてもらうわ」

 

「行く所は職員室かな?昼休みもあと10分ちょっとしかないから少し急いだ方が良いよ!」

 

 一之瀬さんがそう言うとDクラスの生徒達は忘れ物がないかをチェックし、早歩きで出口へと向かった。

 

 今度こそ、僕もこの場から立ち去りましょう。僕はさっさと教室に戻って伊吹さんに文句を言わなければならない。

 

 行動に移そうとすると、先程の薄い桃色の髪をした少女、一之瀬 帆波がこちらに話しかけてきた。

 

「神座くん!改めて、彼らの喧嘩を止めてくれてありがとう」

 

「そうですか。ではさようなら」

 

 特に用はないので、さっさと話を切り上げる。教室に戻って次の授業の準備をしないと行けませんし。

 

「……へっ?ちょちょちょ、待った!なんでそんなすぐに行っちゃうの!?」

 

「?僕も早く教室に戻りたいからですが」

 

「だからと言って今の対応は塩すぎだよ!!」

 

「……一体何の用ですか?」

 

 僕に話を聞く意思があることを見せると彼女はほっとした表情を見せる。

 そしてすぐに、ふっふっふっと笑いこちらを見てくる。

 うっとうしい……。

 

「ずばり、お話をしに来たのだ!」

 

「話し相手なら間に合ってるんで良いです」

 

 スタスタと彼女を巻くように早歩きで退散する。

 

「すとぉぉぉぉっぷ!!だから早いって!!」

 

「……騒々しいですねあなた、ここは図書館ですよ」

 

「誰のせいだと思ってるのかなぁ!?」

 

 ……しつこいですね。このまま無視しても延々と話しかけてきそうな勢いをしている。

 面倒ですが、情報収集も兼ねて彼女と少し話しておきましょうか。

 それにいくら龍園くんとの相性が悪いとは言え、彼女もなかなかの逸材である事に違いはない。

 

「……そろそろ休み時間が終わるので手短にお願いします」

 

「ふぅ、キミはかなり独特な人だね〜。噂とは少し違う感じで少し困っちゃったよ」

 

「噂?ランキングのことですか?」

 

「ううん、ランキングの事じゃなくて……というか本人まで知ってちゃダメじゃん」

 

「気にしてないので構いません」

 

 気にしてないのは本当です。ただこれを作った人達は、自分がやられた時に、どういった対応をするのかを考えてからやって欲しいですね。

 

「あっそうなの……でもごめんね。女子を代表して謝るよ」

 

「それで話は終わりですか?」

 

「どんだけ帰りたいのキミ……はぁ……時間も時間だから本題に入っちゃうね、聞きたいことがあるの。龍園くんについてなんだけど、キミは彼側の人間なのかな?」

 

 ……なるほど。やはり意外と侮れない。ただの天然女という訳では無さそうだ。

 自らのコミュニケーション能力を生かした正面からの情報収集を行えることは1つの武器だ。相手からより情報を引き抜くための上手い話し方を学べば、彼女はなかなかの逸材になる。

 その才能もある。だからこそ惜しいですね。

 

「僕は龍園くんと親友です。放課後は仲良く2人並んで帰るほど仲が良いですよ」

 

 これで彼女にも僕が龍園くん側の人間だと言うことが分かったでしょう。

 ですがそれ以外は何も分からない。キミが知りたかったであろう僕の立場やそこから推測できるCクラスの現在の状況を教える程僕は気前が良い訳では無い。

 

「……にゃはは。龍園くんがそんなことをするようには見えないけどな」

 

 彼女について分かった事が1つある。

 彼女は性格が良すぎるという事だ。

 故に初対面の人間に明らかな嘘を吐かれても、その人の友達をバカにするなんて事は彼女にはできない。

 龍園くんのように何も気にしないなら話は別です。

 しかしここは図書館、周りに人はいる。下手な発言はすぐに噂になるので「人気」な彼女には追求するのにはそれなりのリスクがある。

 

「人は見た目では判断できないのですよ。彼の情報が知りたいなら彼から直接聞けば良い」

 

 まあ僕と龍園くんが仲良く並んで歩くなんて絶対にありえない。我ながら酷い嘘だ。

 

「……手強いね〜。まあでもキミが油断ならない相手という事を知れてよかったかな。ねえねえ、良かったら連絡先を教えてよ」

 

「……構いませんよ」

 

「おお!ありがとう!」

 

 手早く連絡先を交換し、時計を確認すると授業開始5分前だった。

 

「……ムムっ!そろそろ5分前だ!時間取ってくれてありがとう神座くん!それじゃあまた今度会った時もお話しようね!」

 

 

 彼女とのレールを引いておくことにデメリットなどない。むしろメリットがたくさんある。

 多くの情報を持っている彼女は利用する価値がある。

 

 だが彼女と龍園くんは合わない。いずれ2人は潰し合う。

 それを上から見物するのはなかなか楽しみですね。

 

 さて、さっさと教室に戻って準備をしなければ……あと伊吹さんに文句を言わなければ。

 

 

 

 

 一之瀬 帆波との親密度が上がった!!

 

 




謎理論があるので後々、修正する予定。

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