静寂な空間は悪くない。
周りのことなど気にならず、自分の世界に没頭出来るからだ。
誰にでもそういう空間があるはずだ。
例えば自分の部屋。基本的に人も来ないし、ありのままの状態でやりたい事をしてるのではないだろうか。
この学校の生徒達は寮ぐらしなのでその感覚を大いに味わってるだろう。
僕は寮にいる時、退屈でありながらも静寂に身を委ねている。
寮の中も悪くない。しかし、オススメしたい場所がある。
図書館だ。
皆が活用する空間だが、基本的に人は喋らないので静かな空間だと言える。
ここは本の貸し借りをしたり、その場で本を読む場所だが、他の目的でここを利用している生徒もいる。
特に、勉強する場に活用する生徒は多い。
この学校の図書館はかなり広く、様々な場所に机が用意されているので、少し探せば勉強している生徒も簡単に見つかる。
それほどこの場所は静寂が広がっている。リラックスしながら時間を使えている。
僕はこの空間を椎名さんに教えて貰った。
以前、彼女が僕を強引に連れてった時は期待していなかったのですが、ここを見つけられたことによって一気に+の結果になった。
このことに関して彼女には感謝しています。
彼女は本当に本が大好きな文学少女でした。もしかしたら彼女も超高校級の文学少女の才能を持っているのではと推測します。
……正直、彼女の方が相応しいのではと思うくらいです。
資料で見た超高校級の文学少女も不相応という訳ではない。
ただ、彼女の二重人格に問題がある。
……いや、椎名さんもオンとオフの差が激しすぎて二重人格みたいなものですがね。
どっちもどっちなので、どっちも超高校級の文学少女の才能を持っているで結論付けてしまいましょう。
さて、話を今に戻しましょうか。
僕は現在図書館にいます。
テスト期間なので普段来るより人が多いように感じます。
なので、リラックス出来る状況は若干崩されています。
今回は1人でいる訳じゃないので、リラックスしに来た訳ではありません。
今日は、勉強の面倒を見ることを依頼されたので、図書館に来ている。
先日、僕は龍園くんの軍門に下った。
ツマラナイと思っていた学校生活が色鮮やかなものになることに期待して。
何の才能もない人間が見せた希望に未知を見たから。
彼に僕を使いこなせるのかと言われれば、不可能でしょう。手に余り、自由にさせながらも一定の命令を飛ばす。
今回のこともその一環。
今日の放課後に、中間試験のテスト範囲変更が発表された。
テスト3週間前に発表されたテスト範囲が2週間前になるという突然の変更。
理不尽だ。勉学が苦手な人は2週間前では勉強を始めていない人が多いから関係ない。
一方で毎日コツコツとやっていた勤勉な生徒からすれば、頭を抱えるに違いない。
龍園くんはここで動きを見せた。
彼は有象無象の生徒を見捨てられる人間だが、退学者が出ることによって発生するcp(クラスポイント)を考慮して、対策を考えた
その対策が次の中間テストで退学の危機がある生徒に勉強を教えて救うこと。この成果によって、クラス内の自分の立場を上げる狙いがある。
立場をより強固なものとして、成果で反乱分子を抑える。
その成果を持ってくるに適しているのが、小テスト満点の僕。
適材適所と言えるので、今回の指示は予想通りでツマラナイが、不満はない。
ゆえに、僕は図書館でクラスメイトに勉強を教えていた。
「暗い顔をしていますよ、カムクラくん」
「この顔は元々です」
1人で教えるより、2人の方が効率が良いので、余裕がありそうな椎名さんを龍園くんが派遣してくれた。
クラス闘争に興味のない彼女でもクラスメイトが退学になるのは、なんとなく嫌だったようで手を貸してくれます。
昼休みと放課後に開くこの勉強会も既に6回目。僕と椎名さんを含めず5人が退学の危険性がある生徒だが、一人一人の弱点の把握し終えた。
ですが、この中に伊吹さんもなぜかいます。彼女は特に不安じゃない。となれば、龍園くんが監視役として送りつけたと判断している
よって、実質危ないのは4人です。
彼らは現在、椎名さんに任せて、僕は補助を行っている。
本来は僕がメインだったが、石崎くんや山脇くんという男子生徒たちが鼻の下を伸ばして椎名さんを希望したので任せました。
彼女は快く承諾。教えることで知識の整理ができるという模範解答のような理由に誠実な性格が垣間見える。
「カムクラ、ここ教えて」
「分かりました。ですがその前に、ここらで一旦休憩を取りましょうか」
勉強をする時、適度な休憩は必須だ。
勉強において必要なのは量ではない。質だ。ではその質を上げるためにはどうすれば良いか、その答えの1つが休憩。
3時間ずっと机に向かっているよりも1,2回休憩を挟んで、3時間勉強する方が大抵の人間は最終的な効率が良くなります。
僕はその趣旨を伊吹さんと椎名さんに伝え、休憩の時間に入った。
そのまま図書館を出て、トイレに向かう。
まぁ、勉強については人それぞれやり方があるので、基本どうこう言うつもりはありません。
しかし、今回は勉強会を開いたのだから、僕のやり方で教えます。
だから、付いてきてくれる伊吹さんの点数は満点にする。
彼女は馬鹿だが、要領は良い。何よりも、懸命に行っているので教え甲斐はあります。
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トイレから戻ると、山脇くんが見るからに不良そうなガタイの良い赤髪の男子生徒に胸倉を掴まれていた。
僕のいない数分に何があったか。
石崎くんや伊吹さん、椎名さんは止めずに、事態を見守っている。
周囲の態度と雰囲気からある程度の状況を予測するが、赤髪の男子生徒は今にも右拳を振り切ろうとしている。
最優先は彼を止めること。
超高校級の暗殺者の才能を使い、気配、足音を消しながらも、できる限り最速で近づき、彼の手を掴む。
これで事態は解決。あと数秒遅ければ、山脇くんの顔は見るに堪えない面相へと変わっていたでしょう。
「何をしているのですか」
僕の登場に、山脇くんは何も答えようとしない。怯えが震えとして現れ、それ所では無い。この問題を起こした事が僕に露呈し、震えている。僕を恐れている、というよりはその裏にいる龍園くんを恐れているようだ。
そう推測していると、赤髪くんが僕の手を払い除け、後ろに下がる。
その一連の動作だけで、彼の身体能力が優れていることが分かる。だが、今はどうでもいい。
「山脇くん、僕は何をしているのか聞いています」
「……す、すまねえ。ちょっと悪ノリが過ぎちまっただけなんだ。なぁ? だ、だからよ、龍園さんに言うのは勘弁してくれよ……」
悪ノリ。そう言うが、暴力沙汰に発展する可能性があるほどの揉め事をおこした事に変わりない。
そして何より、僕が聞きたいのは謝罪や言い訳ではない。
迷惑をかけてしまったクラスは……おそらくDクラス。
彼らの中にいる金髪の彼女は最近行っている情報収集で聞いたDクラスの中心人物の1人である女子生徒の特徴と一致する部分が多く見受けられる。
櫛田 桔梗という珍しい名前をしていたはずだ。
大方の推測だが、今回はこちらが悪いだろう。山脇くんは自分より立場の弱い人間には強く出て、龍園くんのような強い人間には下手に出る。
良く言えば世渡り上手、悪く言えばクズ。Dクラスだからと煽ってのこの現状なのでしょう。挙句の果てに返り討ちにされかけて、僕が助けて今に至るのでしょう。
「ツマラナイ」
「え?」
「……彼らに謝罪した後、あなたは教室に戻ってください」
「あ、ああ、わかった。なら、龍園さんには……」
「しませんよ」
僕から言質が取れたこと、この場から離れられることが嬉しいのか、震えが止まって安堵の表情に変わっていく。
彼は立ち上がり、適当な謝罪を赤髪の男子生徒にした後、勉強道具を持って図書館の出口へ向かっていった。
石崎くんが緊張した様子でこちらを見ている中、伊吹さんが椎名さんと石崎くんに声をかけ、行動を起こす。
さっさとこの場から離れ、面倒事を避けたいのでしょう。
「後は任せた」
あなた、監視役ですよね。
僕は心の中でそう思いながらも、会釈を返す。まったく、無責任な人だ。
「さて、どうやらCクラスの生徒が迷惑をかけたようですね」
さっさと終わらせるために、僕はDクラスの生徒達を見渡す。なかなか個性的で、侮れない人達のようだ。
黒髪の見るからに優等生そうな少女は多少怯んでいるがこちらを真っ直ぐ見据えている。
赤髪の不良くんは警戒している。
金髪の少女、櫛田さんは怯えているような仕草をしている。ただし上辺だけ。彼女の目には明らかな警戒が含まれている。
彼女もなかなかの才能を持っているようだ。
他にも3人いるが。彼らはそこら辺にいる一般生徒だろう。
だが……黒髪の少女の後ろにいる、一見これと言った特徴がなく地味な雰囲気をしている彼は、こちらを興味深そうに見ている。
もちろん彼も警戒している。だが、それよりもおもちゃ箱を開けた時の子供のようなわくわくしている視線が大きいように感じる。
オモシロイ。初めて見るタイプの
彼は僕の敵となり得ると直感的に判断するが、それはただの第一印象。今は放っておいてもいいだろう。
彼ほどの実力があればいずれ目立つ存在になる。その時に対処すれば良い。
「……ええ、今後このような事が無いように言ってもらえるかしら?」
無理をしている。黒髪の少女は明らかに無理をしている。
僕の雰囲気に耐えられないからではない。これは何かに縋っているような───まぁ良いでしょう。わざわざそこまで考える必要は無い。
「はい。僕の方から伝えておきます」
この言葉をきっかけにDクラスの生徒達の警戒がなくなっていく。
運が良い。図書館で勉強を教えるはずが情報収集になるとは、まさに一石二鳥。しかし、ツマラナイ。
「にゃはは、どうやら私の出る必要は無かったみたいだね!」
後方から、薄桃色の髪をした明るそうな女子生徒がこちらに向かいながら、話しかけてきた。
彼女の特徴を言うならば、非常に良いスタイルだろう。身長は160cm程だが、豊満な肉体はとても高校生には見えない。
事実、Dクラスの男子達の目を釘付けにしている。
そして何より、見るものを笑顔にする美少女という題名の絵が書かれてもおかしくないほど整った顔立ちをしている。
「あっ! 一之瀬さん!」
「おっ! 櫛田さん! 久しぶり〜!! 今はテスト勉強中かな〜?」
一之瀬、なるほど。彼女がBクラスの実質的なリーダー。
団結力があるというBクラスの中心人物、さぞかし人気があるのでしょう。
ですが、ツマラナイ。
一之瀬さんが噂通りの人ならば、龍園くんは彼女にとって天敵だ。
この様子なら、Bクラスを落とすのは時間こそかかるがそう難しいことではないだろう。
「キミは神座出流くんでしょう? キミが勉強会を開いてるなんて正直意外だったよ」
確か、僕は根暗そうな男ランキング堂々の1位なので、その感覚は不思議ではない。
ちなみに、この不名誉なランキングは女子が秘密裏にやっているものだ。
伊吹さんに確認を取ったら「私も入れた」という報告を受けたので真実でしょう。
「櫛田さん、彼女は?」
黒髪の少女が櫛田 桔梗に尋ねる。
「彼女は一之瀬 帆波さん! Bクラスの生徒ですごく良い人!」
「やだな〜櫛田さんの方が良い人だよ〜!」
うっとうしい社交辞令だが、一方は悪感情が潜んでいて、もう一方は純粋な感情が見えている。
人間らしさあるコミュニケーションは教科書で覚えられるものではなく、少しだけ見る価値があった。
「説明ありがとう櫛田さん。一之瀬さん、それと神座くんでいいのかしら? あなた達に聞きたいことがあるの。あなた達が教えて貰った中間試験の範囲についてよ」
「キミは堀北 鈴音さんだよね? よろしく! それで中間試験の範囲だっけ? う〜ん、ちょっと教科書貸してもらえる? ……ほらここからここまでだよ! いや〜学校側もなかなか酷い事するよね! 1週間前かな? テスト範囲を急に変更するなんて!」
「1週間前に……テスト範囲の変更!?」
黒髪の少女、堀北さんは驚愕の表情をしている。
彼女の言動と表情から見て、今初めて知った情報なのだろう。
一之瀬さんは嘘を言っていない。
すなわち、Dクラスの連絡に何らかのミスがあったという事だ。
これは不幸。だが好都合。それでいてツマラナイ。厄介そうなDクラスが勝手に自爆することは龍園くんにとって楽だが、予想通りの未来となってしまい退屈だ。
しかし、まだ確定した未来ではない。彼らもこの試験の裏技の存在を知れば、この状況を打破できる可能性は十分にある。
「……やっぱり、私たちの知っているテスト範囲と違う。それにテストの変更って……」
「あれ? Dクラスには伝わってなかったの? それって結構不味くない? ……もしかしてクラス毎にテスト範囲が違うとか……ねえ神座くん、Cクラスで聞いた範囲はどこだった?」
「あなたが教えた範囲と一緒ですよ」
伝達ミス……Dクラスの担任は余程の間抜けなのだろうか。実力を測る以前の問題だ。
「じゃあ全てのクラスは多分一緒のテストを受けるんだと思う。なんでDクラスだけこんなことが……もしかして伝達ミス?」
彼女の推測は合っているでしょう。Dクラスだけテストが違うなんてことはありえない。
明白な基準が無くなってしまえば、価値のある評価は取れませんから。
「ありがとう一之瀬さん、神座くん。私達はここで失礼させてもらうわ」
「行く所は職員室かな? 昼休みもあと10分ちょっとしかないから少し急いだ方が良いよ!」
一之瀬さんがそう言うとDクラスの生徒達は忘れ物がないかをチェックし、早歩きで出口へと向かった。
今度こそ、僕もこの場から立ち去る。さっさと教室に戻って、監視役なのにいの一番で去っていった伊吹さんに文句を言わなければならない。
しかし、
「カムクラくん! 改めて、彼らの喧嘩を止めてくれてありがとう」
先程の薄い桃色の髪をした少女、一之瀬 帆波がこちらに話しかけてきた。
「そうですか。では、さようなら」
特に用はないので、さっさと話を切り上げる。
「……へっ? ちょちょちょ、待った! なんでそんなすぐに行っちゃうの!?」
「教室に戻りたいからです」
「だからと言って今の対応は塩すぎだよ!!」
「……一体何の用ですか?」
僕に話を聞く意思があることを見せると彼女はほっとした表情を見せる。
そしてすぐに、ふっふっふっと笑いこちらを見てくる。
「ずばり、お話をしに来ました!」
「午後の授業の準備をさせてください」
彼女を巻くように早歩きで退散する。
しかし、彼女は僕の腕を掴んで引き留める。
「すとぉぉぉぉっぷ!! だから早いって!!」
「騒々しいですねあなた、ここは図書館ですよ」
「誰のせいだと思ってるのかなぁ!?」
しつこい。このまま無視しても延々と話しかけてきそうな勢いをしている。
面倒ですが、情報収集も兼ねて彼女と少し話しておきましょうか。
それに、いくら龍園くんとの相性が悪いとは言え、彼女もなかなかの逸材である事に違いはない。
「そろそろ休み時間が終わるので手短にお願いします」
「ふぅ、キミはかなり独特な人だね〜。噂とは少し違う感じで困っちゃったよ」
「噂? ランキングのことですか?」
「ううん、ランキングの事じゃなくて……というか本人まで知ってちゃダメじゃん」
「気にしてないので構いません」
他者の評価など僕にとってはどうでもいい。
「あっそうなの……でもごめんね。女子を代表して謝るよ」
「話は終わりですか?」
「どんだけ帰りたいの君。……まぁ、時間も時間だから本題に入っちゃうね。龍園くんについてなんだけど、君は彼側の人間なのかな?」
侮れないという評価は正しかった。ただの天然という訳では無さそうだ。
自らのコミュニケーション能力を生かした正面からの情報収集を行えることは1つの武器だ。相手からより情報を引き抜くための話し方も上手い。
なかなかの逸材。才能もある。だからこそ惜しい。
「僕は龍園くんと友達です。放課後は仲良く2人並んで帰るほど仲が良いですよ」
これで彼女にも僕が龍園くん側の人間だと言うことが分かったでしょう。
しかし、それ以外は何も分からない。あなたが知りたかったであろう僕の立場やそこから推測できるCクラスの現在の状況を教える程、僕は気前が良い訳では無い。
「……にゃはは。龍園くんがそんなことをするようには見えないけどな」
彼女について分かった事が1つある。
彼女は性格が良すぎるという事だ。
故に初対面の人間に明らかな嘘を吐かれても、その人の友達をバカにするなんて事は彼女にはできない。
龍園くんのように何も気にしないなら話は別だが、彼女は学校中の人気者。
ここは図書館、周りに人はいる。下手な発言はすぐに噂になるので、彼女が追求するのにはそれなりのリスクがある。
「人は見た目では判断できないそうですよ。彼の情報が知りたいなら彼から直接聞けば良い」
僕と龍園くんが仲良く並んで歩くなんて未来はありえない。我ながら酷い嘘だ。
「手強いね。まぁ、キミが油断ならない相手という事を知れてよかったかな。ねえねえ、良かったら連絡先を教えてよ」
「構いません」
「おぉ、ありがとう!」
手早く連絡先を交換し、時計を確認すると授業開始5分前だった。
「……そろそろ5分前だ! 今日は時間取ってくれてありがとう!! じゃあまた今度会った時もお話しようね!」
彼女とのつてを有しておくことにデメリットなどない。
むしろメリットがたくさんある。多くの情報を持っている彼女は利用する価値がある。
だが、彼女と龍園くんは合わない。いずれ2人は潰し合う。
それを上から見物するとして、予想の出来ない何かは現れるか。
いや、きっと現れない。だからこそ、変わってほしい未来だ。
一之瀬 帆波との親密度が上がった!!
謎理論があるので後々、修正する予定。
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