前回の50話を記念して爆弾を持ってきた。
夏休み。
学生の特権。彼らが待望していた夢の時間だ。
たくさんの思い出を作れるこの時間。時間を自由に使い、日々の生活を楽しめる。
初めての生活環境に慣れてきた1年生の束の間の休息。
特別試験というイベントもあったが、豪華客船で羽を伸ばせたことの方が私たち普通の学生には記憶に新しいだろう。
そんな時間も残すところ1週間となった。
「……めっちゃくちゃ当たる占い師か」
夏休みの大半を1人で自由に過ごした私は偶然手に入れた情報を携帯を弄りながら思い返す。
この情報はいつものように映画ライフをしていた時に、道行く人から聞いたものだ。
曰く、夏休みの間だけ『ケヤキモール』に来ているらしい占い師は、凄腕の評判を得ているとのこと。
私は占いが好きだ。
確かにある程度は疑いこそするが、基本は信じているタチだ。
「昨日で映画もとりあえず制覇しちゃったし、行ってみるか」
夏映画はすべて見てしまった。ついでに言えば学校の課題も終わらせてしまった。
暇だ。
プライベートポイントは残り6万ほどだが、まだ遊べる余裕はある。
私はベッドから起き上がり、身支度を整える。
終えたら早速出発だ。
現在は10時ごろ。今日も今日とて、太陽は元気だ。
暑くてしんどいが、歩きながら占いのことを考える。
噂によるとここの占い師は天中殺を見ることが出来るそうだ。
天中殺。一言で言ってしまえば、占われた人の悪い時期のことだ。ここにいる占い師はそれを見ることが出来るらしい。
「あれかな?」
ケヤキモールに到着して捜索すること数分、私は人込みを見つける。
やや駆け足で近寄ると看板に占いの字が見えた。
どうやらここのようだ。
私は整列されている列の最後尾に向かう。
列を観察してみると、2人組がたくさん存在していた。
見るからに付き合っている男女が大半だが、中には同性同士で並んでいる人たちもいる。
居心地が悪い。私は会話をすることが得意ではないため、1人でいることが多い。
2人組、それもカップルが多いこの場所では場違い感が否めなかった。
だが、折角ここまで来たし、占いはしてもらいたい。
少しの間我慢するしかない。
「おはようございます。お連れの方は後で来られますか?」
列の最後尾に到着すると、列を管理している女性が辺りを見渡しながら声を掛けてきた。
「……いいえ、1人です」
私がそう言うと、女性は申し訳なさそうに続けた。
「大変申し訳ございませんが、先生の占いは二人一組である必要があります」
「……は? 1人じゃ受けられないわけ」
私はその理不尽な対応についつい本音が出てしまう。
本音が出ることで口調が悪くなる。悪い癖だ。
それにしても何で独り身が受けられないのか。
恋愛メインだからとさっきの列を見たときに察しがついていたのに、私の視野はだんだんと狭くなっていく。
むかつく。本当にどうなってんのよ。
文句を垂れていると、こちらを見る視線を感じた。
私は素早く視線を動かすと、私と同じ独り身の奴と目が合った。
「あ」
見知った人物だ。私は見なかったことにして立ち去ろうとしているその男を追いかけた。
そいつは少し歩くスピードを速める。
その態度に何となくイラついた私は同じように歩くスピードを上げた。
「ちょっと」
私は面識のあるこの男の肩を掴んだ。
男は嫌そうな顔をしてこちらを見た。
「何か用か?」
「あんたも1人なの?」
お互い同時に質問をする。
間の悪い。私は譲る気なんてないので、こちらの質問を答えるのを待った。
「…………オレは1人だ。そういうお前も1人みたいだな」
Dクラスの綾小路。だいぶ変わった奴だが、まぁ悪い奴じゃない。
いつもボケッとしてそうで何考えているか分からないけど無害そうな男だ。
服もザ・量産型みたいな夏服を着ている。顔は整っているのにもったいないことだ。
「普通占いは1対1でやるもんでしょ。全く以って想定外だった。あんたもそう思わない?」
「そうだな。そんなイメージは持ってた」
私は思ったことをそのまま口に出す。
愚痴になってしまったが、お互いに列からはじき出された者どうし。
考えることは一緒だからいいだろう。
「で、あんたは堀北でも誘って出直す気なの?」
私はこいつに相手がいるかどうかを確認する。
「出直さない。そういうお前は龍園でも誘って出直さないのか?」
「休みの日にまであいつの顔見るとか絶対に嫌」
「……本当に嫌いなんだな」
当然だ。試験でもないのに龍園と会わなければならないなんて何の罰ゲームだ。
「オレは元々、占いにそんな興味ないから未練があるわけじゃない。でも伊吹は違いそうだな」
「未練がないと言ったら噓になるけど……」
私は自分で誘える候補を思い返していく。
龍園、論外。石崎、論外。アルベルト、コミュニケーションが取れなさそうで不安。カムクラ、気まずい。
パッと男子を4人思いつくが全員無理だ。
となると残りはひよりしかいない。呼べば来てくれそうだが、出直すのも少しめんどくさい。
私は目の前にいる綾小路を見る。
無害。変な噂を流されるわけでもない。私は話すのが苦手だが、こいつはまだ話しやすい。
丁度良く理由は揃っていた。
「ねぇ、あんた。私と一緒に占い受ける気ある?」
「……オレは構わないが、良いのか? この占いは二人一組を強制するんだぞ。男女の関係とか聞かれたらどうする?」
「まぁ、その時はその時ね。正直に答えれば良いんじゃない。別に占いするだけの関係だし」
「分かった。オレも占いは体験してみたかったし、ありがたい」
「利害の一致ね」
2人納得したところで列に並ぶ。
さっき私に対応した店員とは違う店員が整理券を渡してくれる。
番号を見ると6。6組待ちということだ。
「しばらく待つことになりそうだな」
私は頷くことでその意見に同意した。
1組辺り10分と考えても1時間はここで待ちそうだ。
綾小路が何かを考えたそぶりを見せる。
状況から考えても待ち時間の使い方だろう。
「あんた、今この沈黙どうしようって考えてるでしょ? 別に気にしなくていいわよ。私会話苦手だし、沈黙は慣れてる」
「まぁ、そうだが。……お前が会話苦手だと信じられないんだが」
「私と話してると感じるでしょ、刺々しい感じ」
「まぁ多少な」
「好きでこんな風になったんじゃないけどさ、これのせいで会話は長く続かない。それに他人と話すのは緊張するのよ」
ひょんな表情でこちらを見る綾小路。
こいつはしっかりリアクションしてくれるし、嫌そうな顔しないから話しやすい。
まだどこか緊張するが、そこまで神経を尖らせる必要がない。
無害そうな雰囲気と見た目。私は綾小路のその部分に感謝する。
「意外だな。スパイの時は随分手馴れているように見えた」
「それとこれは別問題」
「演技をしていたからか?」
「まぁそんなとこね」
なんだかんだ初対面の人間でうまく話せたのはカムクラくらいだ。
インパクトのある見た目で話しづらそうな雰囲気があるのに。
でもいざ話してみると非常に話しやすい。
聞き取りやすい声やテンポ。他人へのリアクションはかなり薄いが真摯に人の話を聞いてくれる。
あいつなりに言うなら、会話に関係する才能くらい持っているかな。
私はそこまで考えた後に思考を休止させた。
「……またか」
そう独り言を呟く。
私とあいつは今喧嘩中だ。
無人島試験であいつのしたことを理解できているのに納得できず、以前の距離感で話せなくなってしまった。
なのに時々、無意識に近い形であいつのことを思い出してしまう。
時間があいつとの関係を修復してくれていると考えればいいだけなのに。どうしても納得が出来ない。
「どうしたんだ?」
綾小路はこちらを見ていた。
どうやら私の独り言が聞こえたらしい。
「気にしないで。ただの悩み事」
「そうなのか。オレで良ければ相談に乗るが」
「これは占いで聞くことだから必要ない」
そう言って私は話を切る。
そして切った後に気付く。またやった。
また他人の善意を簡単に跳ね除けてしまった。
重いため息をついてしまう。
「……本当に大丈夫なんだよな」
綾小路がもう一度問い返してくれる。
私は時間も有り余っているので決意する。どうせ、同じ部屋で占いを受けるのだから聞かれる可能性もあることだ。
「……あんたカムクラって覚えてる?」
「覚えている。あの見た目は忘れる方が難しいな」
確かにそうだ。あの見た目はオンリーワン。納得して私は続ける
「今、そいつと喧嘩中……で良いのかな? とにかくすごい気まずいんだよ」
「……そうなのか。何があったんだ?」
「詳しくは言えないけど、まぁ、言い合いになった。……あいつが私のことを信じてくれなかった」
私が心中を告白すると、綾小路も真剣な表情で悩んでくれる。
意外だ。私はその態度を評価する。
「……浮気か?」
「……違うわよ」
綾小路の的外れの指摘に青筋が立ちかける。
賞賛を返せ。
「すごい真剣な顔してたからてっきり男女関係かと」
「……誰もそんなこと言ってない。そもそも私たちは付き合っていない」
「そうなのか……。良く一緒にいるからてっきり……」
「付き合ってたらあんたとここにいる訳ないでしょ」
「確かにそうだ」
綾小路は納得の意を見せる。
「それにカムクラは占いとか信じなさそうだしな」
「信じているかどうかは知らないけど、確かにここには来ないでしょうね」
「どうしてだ?」
私はスラスラとその続きを話していく。
ここが丁度悩みだと自覚していたのにだ。
「あいつ、自分で占い出来るんだよ」
「それは凄いな。占い師って何か資格とかいるのか?」
「さぁ。『占い師の才能くらい持っていますから』って言って、概要を説明してくれただけだから分からない」
あの時はタロット占いの説明をしてもらったな。
占い師はコールドリーディングの応用で簡単に出来る。カムクラはそう言っていたけど、それを極めた職業が簡単なわけない。
神や仏と同種の非科学をこちらに信じさせる時点で彼らの会話能力は非常に凄いものだ。マネできるものじゃない。
「……伊吹騙されてないか?」
「はっ、何言ってんのあんた」
「カムクラは確かに凄いが、実物を見ていないのに信じてしまうのは良くないぞ」
ぐうの音も出ない正論。
綾小路は間違っていない。だが、これはあいつの身近にいたかいないかの認識の違いだろう。
やることなすこと全て完璧にやるあいつだから、どうせ出来ると思ってしまった。
私だって初めは綾小路のように思っていた。しかしいつ頃かそう思うのが馬鹿らしくなってしまっていた。
「まぁ、そうね。あんたが正しいよ」
あいつの普通は目に毒すぎる。常識が通用しない。
「大丈夫か。カムクラに妄信的になってないか?」
「……さっきから何言ってんのあんた」
「いや、まるで大好きな彼氏の自慢話をしているみたいだったから」
「……あんた、ぶっ飛ばすよ」
私が握り拳を作ると、綾小路は両手を挙げた上に距離を取る。
そのビビりまくった対応にすぐ怒りも収まる。
「それで、伊吹の悩みはカムクラとの和解なのか?」
綾小路は話を戻す。
「まぁ、そう言うことになるのかな?」
「歯切れが悪いな」
「終着点はそこなんだけど、ちょっと言いづらいのよ。……やっぱこの話なし。ちょっと言葉纏めておく」
私はそう言って勝手気ままに話を切る。
後でこのことを占い師に相談するんだ。本番で言えるように言葉を纏める必要がる。
「お、おう、分かった」
タジタジした返事をする綾小路。
その後私たちは時間が来るまで話をしなかった。
──────────────
「では次の方どうぞ」
小さな佇まいの仮施設の中からそんな声が聞こえたのはお昼真っ只中。
「待たされたな」
綾小路は愚痴を零しながらも誘導に従って進む。
結局1組辺り15分程は使用していたので、相当立ちっぱなしを強いられた。
私は綾小路に続き、布をくぐって占い師の待つ部屋の中へ。
するとそこにはテレビでよく見かけるような光景が広がっていた。
光の入らない部屋に暗めの照明。辞書くらい厚い本にボウリングの玉くらいの水晶玉。
占い師の老婆はフードを被っていて表情を窺わせない。
雰囲気作りは完璧。テンションも上がってくる。
背もたれのない丸椅子が占い師の前にある。そこに座れということだろう。
2人で腰を下ろすと、占い師は薄く笑い右手を動かした。
「まずは────料金の支払いを」
そう言い、机の下から小型カードリーダーをテーブルに置いた。
突然場違いな文明の利器に驚いたが、私は支払う前に質問する。
「何を占ってもらえるの?」
「学業、仕事、恋愛、好きなものを」
常套句とともに笑う。不気味な雰囲気が出ていて満足感が少し増す。
私はテーブルに置いてある料金表を確認する。
たくさんのプランがあるが、やはりというか、恋愛に関するものが多い。
なので私は基本プランに即決する。
「にしても……高いな」
綾小路がそう呟く。
Dクラスである綾小路のプライベートポイントの手持ちは少ない。
これは学校の方針なので仕方ない。
「私は基本プランだけで。あんたはどうすんの?」
「……伊吹と同じプランで」
そう告げて私たちはお金を支払う。
これで準備完了だろう。
「ではまず、そっちのお嬢さんから。名前は?」
「伊吹。伊吹澪」
短く答え、返答を待つ。
「私の占いは相手の顔、手、そして心を見る。その中であなたが見られたくないものも見えることがあるが?」
「好きにして」
私が答えると占い師は両手を出すように指示したので言う通りにする。
皴だらけの皮膚もそれっぽさを感じてしまう。
「まずは手相。生命線は長く、長生きするだろう。大病も今のところ見えていない……」
何ともよく聞きそうな話で詐欺にも感じるが、雰囲気も相まって私は真剣に聞いてしまう。
「学業も問題なし。今の勉強ペースを続けなさい。金運も問題ない。しかし無駄遣いはしないように……」
ありきたりな言葉が続く。
「恋愛は……どうやら、お主は面倒な友人を持っているようだな」
急に核心を突くことを占い師が言ったため、私は身構えてしまう。
「ふむ。大方はその友人が引き起こした問題だが、お主も大概だな」
「……どういうことよ」
「何、もっと素直になれということだ。自分の気持ちを伝え、相手の非を認めさせる。許してやる器の広さも大事だ」
その言葉にチクリと心が反応する。
悪いのはあいつだ。だが、この占い師の言うことも一理ある。
人間関係は時間が解決してくれることもある。だが、私たちの状況は時間では直りそうにない。
どちらかが一歩前に進む必要がある。でもカムクラはこういうことに疎い。
天才。その言葉をほしいままにするあいつでも鈍いところはある。
「……わかりました」
私が素直に返事をすると、占い師は後ろにあった水晶玉を取り出した。
私は少々はしゃぎそうになる。テレビや漫画でしか聞かないそれを使う人がいるのか。
占い師は水晶玉の上に何かの力を与えるかのように両手を添える。
「────これは!」
占い師は目を見開き、声を荒げた。
しかし、すぐにせき込み声を調整する。
「……小娘」
「小娘って……」
急に変わった呼び方についつい言い返してしまう。
しかし、占い師の声色は真剣で、布越しで判断が難しいが、焦っているように感じる。
「……お前は近いうちに────この世界の神に会う」
「…………はっ?」
何を言っているんだこの占い師は。
急に胡散臭くなった。隣を見ると綾小路は怪しむ表情を見せている。私も似たような顔をしているに違いない。
しかし、そんな時間もつかの間。占い師は私の両肩を両手で掴んだ。
急に動き出したので私の反応は遅れた。
「
揺れるフードから鬼気迫る表情が見えた。
私はその様子に少々怯んでしまう。
「……すまない。取り乱した。これでおしまいだ」
「そ、そう。……ありがとうございました」
私は焦りながらも丁寧にお礼を言った。
占い師は水晶玉をもとの位置に戻した後、綾小路に向き合う。
「次は貴様だったな、小僧」
「……小僧って」
綾小路は張りのない声で突っ込む。
先ほどと似たようなやり取りをしている。
そして綾小路の占いが始まる。
「……お主、相当過酷な過去を通っているようだな」
水晶玉以外の私にしたことと全く同じやり取りをした後、占い師はそう告げる。
どんどん占い師は言葉を続けていく。
どうやら綾小路は宿命天中殺を持っているようだ。
宿命天中殺を一言で言うと、生まれてからずっと不運の人生を続けている人間が持つ稀な個性らしい。
しかし、一生不幸ではなく、運が悪い中でも自分の意志で何をするかは決められるそうだ。
「小娘、お告げはノイズが入っているかもしれないが、しかと聞くのだぞ」
「あっ、……は、はい」
占いが終わって立ち上がると、占い師が私に告げる。
私は生返事をしてこの場から出ていった。
「どうだった。初めての占い」
仮部屋を出て少し歩いてから私は質問する。
「そっちは?」
「概ね満足。……最後のあの予言以外は」
「……あれはな。急に世界の神と言われても驚くことしかできない」
「あの占い師は世間の評価高いし、的中率高いらしいけど、なんか急に嘘っぽく感じたわ」
「同意見だな。でも、たかが占いと軽視しないくらいの感覚にはなったかな」
「なら、いいじゃん」
どうやら綾小路は少しの不満があるが、占い自体には満足したようだ。
「じゃ、ここらへんで私は帰らせてもらうわ」
「ああ、今日はありがとう。楽しかった」
別れの挨拶をした後、私たちはそれぞれ別方向に分かれた。
先ほどは不満を零してしまったが、全体的には今日の占いには満足している。
学校が始まったらカムクラと話し合う覚悟も出来そうだし、良いアドバイスをもらった。
しかし、信じられないこともある。
真剣な表情で言っていた「この世界の神」という言葉。
神様の存在は信じているが、会えるとなると途端に嘘くさくなる。
戦後の天皇じゃないんだ。あれは気迫を見せることで信じさせようとする一種の方法だろう。
私はそう納得して、寮の自室に戻った。
この日以降私は誰とも話さず、夏休み最終日を迎えることになる。
占い師の予言は結局あてにならなかった。占いをした次の日くらいまでは頭に引っかかっていたが、神様みたいな男は現れなかった。
だから夏休み最終日の朝になるまでその予言は完全に忘れていた。
夏休み最終日前日の夜、私の携帯が珍しくなる。椎名からプールに行かないかという連絡によって。
どうやら龍園に誘われたが、行くか迷っていたらしく、私が行くなら行きたいそうだ。
運動が苦手な椎名にしては珍しいと思い、龍園の事なんて気にせず、気軽に了承した。
明日の朝は早い。だから就寝前に全ての準備をして私は眠りについた。
────────────────
朝を伝えるアラームが鳴ることで目が覚めた。
寝ぼけまなこのまま上半身を起こす。
ベッド横の時計を止めるために手を伸ばすが、そこにはあるべきものがない。
しかしアラームは何故か消えた。
ルーティンとなっていたこの行動を失敗したために周囲を見回す。
────何もなかった。
いや、何もないは正確じゃない。
白一色の空間に所々にある宙を浮く長い英数字。
上下左右が分からない中、この英数字のおかげで平衡感覚が保てた。
しかしそれ以上は何もない。
見知った部屋も、普段使っている携帯も、寝ていたはずのベッドも。
意識が覚醒し始めてやっと、自分が制服姿になっていることにも気づいた。
「……どこ?」
反響することもなく、独りでに消えていく言葉。
夢にしては感覚もしっかりある。
もう一度辺りを見渡すが、目立ったものは見当たらない。
もしかすると、これが噂に聞く明晰夢かもしれない。
「リアルな夢ね」
「────夢とは少し違うんだけどな」
背後から声が聞こえた。それもあいつによく似た声で。
予想外の出来事に、私は素早く声のする方向に振り替える。
そこには1人の男が立っていた。
白一色の髪に真紅の瞳。
加えて、全身から溢れ出ている金のオーラとアンテナのようなアホ毛は特徴的だった。
連投したいけど、明日そんなに時間ないから多分無理だと思う。
でもなるだけ早く頑張る。