ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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理性の外にある考え

 

 

 自分が何をしたのか分かっていた。

 

 学校でも悪名高い龍園という男に、自クラスの参加票を渡した。

 それは体育祭での敗北を意味していて、今もなお懸命に競技に挑むクラスメイトの努力を嘲笑っているに等しい。

 結果も出始め、Dクラスは1年の中で最下位に位置している。

 

 無駄だ。

 

 Dクラスは体育祭で負ける。Cクラスに狙われ、一方的な敗北を味わう。

 私がそう仕組んだ。自分の目的のためにこの体育祭を利用した。

 負けが決まっているのに足搔くこと。無意味で無駄、見ているだけで気分が悪くなる。

 

 だから、私の横で決して消えることのない希望の光のような眩い瞳を浮かべる女が大嫌いだった。

 

「何を突っ立っているのかしら? 早く紐を結ぶわよ」

 

 私からの悪意ある視線に気づいているのに、この女は、堀北鈴音という良い子ちゃんは気にした様子もなく準備を促す。

 そのお高く気取った姿が私の悪意を助長させる。

 私の過去を知っているからイラつくのもある。

 だがそれよりも、決して折れない性格、整っている容姿、何事にも全力で挑む姿勢、それら全てが腹立たしい。

 

「……うん、わかったよ」

 

 周囲の目を気にする必要があるために、私は声色を整え、綺麗な口調で返した。

 しゃがみ込み、互いの足に紐を結ぶ準備を始める。

 

「堀北さん、足は大丈夫なの? ……さっき勢いよく転んだの見たよ」

 

「問題ないわ」

 

 笑いを我慢しながら、彼女に質問する。

 無様に転んでいたのはしっかりと記憶している。

 危険な橋だったが、龍園に手を回しておいたのは正解だった。

 私の目的もこれならば成功する可能性は高いだろう。

 

「……ッ!」

 

 紐を結び終えると言葉にならない声とともに彼女の顔が歪んだ。

 奥歯を噛み締めて我慢する彼女は弱気を見せないことに必死だった。

 

「本当に大丈夫なの?」

 

 声を僅かに震わせ、私は確認をする。

 このままこの女を欠場させるように話を持っていこうと試してみる。

 

「問題ないと言ったはずよ。それと、思ってもいない心配をするのはやめて」

 

 立ち上がってこちらを睨む堀北。

 足が紐でつながっているので、その鋭い視線とは数十㎝しか離れていない。

 

「折角心配しているんだからさ、その言い方はないんじゃないの?」

 

 鼻で笑った後、私は軽口で告げる。

 

「あなたの本当の性格を知っているのよ。嘘かどうかなんて見抜く必要すらない」

 

「私が嘘を吐いているって断定しているの、本当にイラつく」

 

 文句には文句を。むかつく相手で、かつ私の性格を知っているのだ。そんな相手には躊躇なく毒を吐く。

 

「まぁ、災難だったね。その足じゃ、これ以降の競技は得点を伸ばせそうにないね」

 

 もちろん、この怪我は故意なので偶然などではない。

 私と龍園の利害の一致によって引き起こされた必然的行為だ。

 

「まだ結果は出ていないわ。あなたの見立ては早計もいいところよ」

 

「……本当にうざい。諦めることくらい知ったらどうなの?」

 

「私は諦めないわ。体育祭で結果を出すまで絶対に。だからあなたもこの二人三脚ではベストを尽くしてもらうわ」

 

 以前より遥かに増した諦めない強い意志。今すぐ紐をほどき、この女から離れたい。

 

「それと櫛田さん、災難というのは少し違うわね」

 

「は? どういう意味?」

 

「偶然できたことじゃないと言っているのよ」

 

 真実を射抜いているような鋭い視線。

 身長の差はないために、同じ目線で睨み合う。

 

「あなたでしょう? Cクラスに参加表を漏らしたのは」

 

「何のこと? 冗談にしては随分つまらないんだけど」

 

「私があなたを警戒しないと思っているの? あなたが船上試験でCクラスと取引を行った可能性があるのは知っている。

 だから今回の体育祭では何人かに監視をしてもらったの」

 

 船上試験。嫌な記憶が思い返され、取り繕っている仮面に大きくヒビが入ってしまう。

 

「その怖い表情……どうやらすべて上手くいったわけではないようね」

 

 あれは取引と呼べる代物じゃなかった。

 だから龍園に交渉相手を変えたのだ。こいつも大概おかしかったが、あの男に比べたらまだマシだった。

 私は意識を現実に戻し、勘違いをしている堀北を睨む。

 

「……この体育祭期間中、軽井沢さんたちが私の周りをうろちょろしていたのはあんたの指示ってこと?」

 

 龍園に参加票のデータを送るために写真を撮った。

 この行為はクラスで禁止されていた。当然だ。どこにデータが出回るかは分かったものじゃないからだ。

 その際、私は一度注意されている。失敗したのだ。

 バレなければ問題ないと判断していた。周囲を気にして撮ったのに、偶々、軽井沢が近くにいたせいでミスをした。

 しかしどうやら、この女からの刺客だったようだ。

 

「ええ。だからあなたは参加表の写真を撮ることに一回失敗した。

 あの時は咄嗟にごまかしたようだったけど、私は確信したわ。この体育祭であなたが裏切るということを」

 

 堀北に軽井沢とコミュニケーションを取れる能力なんてない。

 おそらく平田を利用したのだろう。

 私が船上試験でCクラスと接触した可能性をちらつかせて平田を動かしたに違いない。

 

「……でも私はそれで失敗した。それ以降、何もしていない」

 

「嘘ね。あなたはもう一度写真を撮った。誰にもばれないようにね。

 信頼に値する相手からの目撃情報があるのよ」

 

「あんたに信頼する相手なんている訳ないじゃん」

 

「そう思うならそう思いなさい」

 

 私は嘲笑しながらも一度思考をリセットする。

 なぜなら堀北の言っていることに一定の真実味があるからだ。

 私の知っている堀北は中学までの堀北。ボッチで一人で何もかもやって来たブラコンだ。

 しかし今は違う。この高校に入って堀北は変わりつつある。

 認めたくないが事実。信頼に値する人間はいないだろうが、ある程度信用できる人間がいるはずだ。

 そしてこいつと一番長くいる生徒を考えれば、綾小路あたりの目撃と推測できる。

 嘘と断定するには危険すぎた。

 

「でも、それだけ裏切り者の可能性を考慮していたのに結果は散々だね。見逃しちゃったんだ」

 

 視線を外し、私は周囲を見渡す。

 そろそろ二人三脚が始まる。準備のために移動しなければいけない。

 

「ええ、見逃したわ。────わざとね」

 

「……ふーん、わざと、ね~」

 

 強い声色で告げられる含みのある言葉。

 堀北は冗談を言っていない。

 

「本当はあなたを説得できればよかったんだけど、残念ながら今の私にはできなかった。

 だから結果はこの様。龍園くんが卑怯なことをする可能性は考慮していたけど、ここまで露骨なのはさすがに予想外だった」

 

「仮に私が裏切者だとしてさ、裏切られないために直前で参加票を変えればよかったんじゃないの? 

 そうすれば、あんたもここまでの怪我を負うことはなかったのに」

 

「参加票を提出した後に確認されてしまえば、元も子もないのよ。

 それに、あなたのクラスでの立ち位置は高い。参加票を秘密裏に話し合うとしてもいずれその情報はバレてしまう。また新しく写真を更新する未来は決まっていたわ」

 

 確かにそうだ。

 私の情報網は広い。秘密裏に重要な相談をしてもすぐに分かるだろう。

 そして参加票はクラスに一度伝えなければいけないもの。私にも最終的にはその情報が入る。

 それでも騙そうと直前で変えても、提出後の参加票を茶柱先生に見せてもらい、写真に残せばいい。

 つまり、今回のやり取りは圧倒的に私の有利だった。それも逆転するのが難しいほどに。

 

「だから見逃したのよ。今回は裏切り者を炙り出し、次に同じことをさせないように証拠を押さえる」

 

「へぇ~、ご立派な計画だこと。裏切者がいようといなかろうと、Cクラスには勝てないのにさ」

 

「いつまで余裕のつもりなのかしら、裏切者さん?」

 

「私は裏切り者じゃない。クラスメイトを疑うのやめたら?」

 

「なら茶柱先生に確認しましょう。参加票を提出した後にわざわざ確認しに来た生徒がいたかどうかを」

 

 お互いに黙り込む。

 先生に確認されてしまえばバレてしまう。これは時間の問題だ。

 しかし、それを覚悟のうえで私は動いた。

 

「その生徒が私だったとしても、私なら違うと泣いてでも主張できる。

 あんたと私、クラスでの信頼度が高いかなんて火を見るよりも明らかでしょ」

 

 力技だが、私には信頼と嘘がある。

 そして最悪、このクラスを壊す手段もあるのだ。

 いくらこのクラスが成長しても、あの絶望には勝てない。

 なら、本当の絶望に呑まれる前に、私の手でクラスを終わらせてあげた方が慈悲深いというものだ。

 

「どうかしら。私一人ならまだしも、軽井沢さんや平田くんが協力してくれたらあなたの築いてきた地位なんて何の意味も持たないと思うわ」

 

 目線を合わせずに私たちは話し続けている。

 お互いに対極の方を向いて。まるで見据えているものやその先の結末の違いを示しているように。

 そんな中、二人三脚の順番が回って来る。

 

「……あなたには協力してもらいたい。だから、もう裏切らないでほしい」

 

 視線を感じる。あぁ、ウザイ。

 ……本当に、鬱陶しい。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 二人三脚が終わり、10分間の休憩に入る。

 次の種目は騎馬戦であり、女子の部から先に始まるので時間に余裕はあった。

 といっても、特にやることなんてないので僕は行く宛てもなくぶらつく。

 それなりに時間が過ぎたら、待機場所に向かう予定だった。

 

「退屈そうですね」

 

 カンッと杖を突く高い音。その音が目の前にいる少女の印象を強くする。

 宛先もなく歩いていると、坂柳さんと遭遇した。

 ここはBCクラスの陣内のはずだ。

 用がない限り、Aクラスの彼女がここに来る理由はない。

 

「どうしてここにいるのか、それはあなたに会いに来たからですよ」

 

 僕の疑問を先に答える坂柳さん。

 普通の学生ならば、心を躍らすような言葉とともにニコリと笑う。

 神室さんは競技の準備をしているであろうから、彼女は今護衛もなしに歩いている。

 別段珍しいことではないが、1人で敵陣に入ってくることに違和感を覚えた。

 

「本当に会いに来ただけですよ」

 

「何か聞きたいことでもあるのですか?」

 

「ええ。とっても、重要なことを」

 

 頬をやや紅潮させ、艶のある声で告げる。

 

「ここは少し人目があります。なので移動しましょう」

 

 僕は頷き、彼女の横に並び移動した。

 やや歩き、コテージ裏にまで移動した僕たち。周りには誰もおらず、秘密の話をするには持って来いな場所だった。

 彼女はまるで告白の前兆のような雰囲気とともに話し出す。

 

「……本当はお昼の休憩の時まで待つつもりだったんですけど、もう我慢できませんでした。

 あの棒倒しを見て、私の心は期待と喜びにときめいていました」

 

「棒倒し?」

 

 1人楽しそうな彼女を傍目に、僕は彼女の質問を予測する。

 棒倒しの印象深かったこと。それはやはり、綾小路清隆の存在だ。

 他には特に思い当たることはない。

 

「イズルくん、彼を……綾小路清隆くんのことをどう思いましたか?」

 

 彼女の口から彼の名前が告げられる。

 予想していたことだが、実際に彼の名前が出てきたことは少しだけ予想外に感じた。

 

「どう? それは実力ということですか? それとも、彼の人間性や性格のことですか?」

 

「どちらもです」

 

 微笑みながら彼女は告げる。

 僕は彼のことを思い返しながら応じた。

 

「実力は素晴らしい。僕と相対できた、その事実だけでどんな資格よりも価値を示せるでしょう」

 

「では、人間性は?」

 

「オモシロイ。初めて見るタイプの人間でした。

 人間なんてたいてい矛盾を抱えて生きているものですが、あれはその中でも格別です」

 

「なるほど。……ちなみに、どんな矛盾か聞いてもよろしいですか?」

 

「自分が勝ちたいという想いと目立ちたくない……すなわち、自分の存在がなくても良いという気持ちの矛盾。

 はっきり言って破綻しています。そこに彼の目的があるのでしょう。まぁ、彼が表に出てくれない以上、これ以上の推測はできませんが」

 

「……本当に素晴らしい分析力ですね」

 

 坂柳さんの雰囲気が少し変わる。

 僕の分析結果に不満があるわけではないが、どこか悲しそうな表情を浮かべている。

 

「彼とは知り合いなのですか?」

 

「ええ。幼馴染というのが一番近いものだと判断しています」

 

 坂柳さんと幼馴染。

 今の今まで彼女にそういった話は聞いていなかったので、この学校で出会ったのは偶然の出来事なのだろう。

 運命的な出会いという訳だ。

 

「それで、彼のことを聞くためだけに僕の元へ訪れたのですか?」

 

「ええ。この衝撃を共有したかったのもありますが、あなたからの彼への評価を私は聞きたかった。

 私以上の天才であるあなたから、彼がどう映っているのかを知りたかったのです」

 

「それに何の意味があるのですか?」

 

 坂柳さんは少し間を空けた後に、薄く笑う。

 

「あなたからの質問ならなんでも答えたいのですが、これ以上は綾小路くんのプライバシーに関わってしまいます。

 だから申し訳ありません。その質問には答えられません」

 

 彼女はそう言って、顎を引く程度に頭を下げた。

 この学校に来る前の彼に多少の興味が生じたが、プライバシーなら仕方ない。

 

「すみません。貴重な休憩時間を奪ってしまうような真似をしてしまいました」

 

 時間を確認した彼女がそう告げる。

 

「構いません」

 

 僕は彼女に背を向ける。

 休憩時間は終わり、女子の騎馬戦がそろそろ始まるだろう。

 

「イズルくん」

 

 コテージ裏の影から出ようとしたその時、声がかかる。

 僕はもう一度彼女に身体を向ける。

 

「これは私の持論ですが、人は生まれた瞬間、生を受けた瞬間にそのポテンシャルが……才能が決まっていると考えています。

 たとえどれだけ環境に恵まれていても、その環境を生かす才能ある人間でなくては意味がありません。刻まれたDNA以上のことは出来ません」

 

 自信あふれる表情で彼女は告げる。

 それは自分自身への見解であり、坂柳有栖という少女がこれまで生きてきた中で導き出した1つの解答なのだろう。

 

「私は優秀な遺伝子を持った両親から生まれた人間で、環境にも恵まれたなるべくしてなった天才です。

 イズルくん、あなたもそれなりの過去を経て、なるべくしてなった天才なのでしょう?」

 

 言葉が詰まる。

 その質問に対する答えはイエスではない。

 加えて、それなりではなく、壮絶なの方が正しい。

 

「だから、もし人工的に天才を創り出すならば、人間をDNAから作るしかないのです。

 イズルくん────」

 

 

 ────あなたはこの見解を間違っていると思いますか? 

 

 

「……あなたの見解は間違っていない。

 あなたの言う通り、もし人工的に天才を作るならば人間をDNAから作る他ないでしょう」

 

 頭の中にある本心を隠し、抑え、僕は肯定する。

 坂柳さんはこれ以上ないほど嬉しそうに笑った。

 自分の見解が認めている人間、それも『本物』の天才と称する人間に肯定されたからだ。

 

 

「────しかし、『本物』の天才はその方法では作れませんよ」

 

 

「…‥え?」

 

 坂柳さんは呆けた表情を浮かべる。

 賢い彼女の脳ならば、今の意味は既に理解できたはずだ。

 

「環境が良くても、DNAが良くても、それを生かせる者でも、あなたの言う『本物』にはなれないということです」

 

「それは一体……いや、ならばどうしてあなたはその才能を……」

 

 言葉の真意を素早く見破った坂柳さんは問いを投げる。

 らしくない僕の言葉を聞いたからか、彼女は切ない表情を向けていた。

 

「坂柳有栖。あなたは優秀だ。疑う余地もない天才でしょう。

 ですが────大きすぎる好奇心は、理不尽で知りたくない真実に辿りつくかもしれませんよ」

 

 僕は素早く立ち去る。

 コテージ裏を抜けると、女子の騎馬戦が今にも始まりそうだ。

 僕は男子の部のために待機所へと向かった。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 騎馬戦女子の部。

 その第一試合が始まった。

 私は騎馬の上として相手の鉢巻きを奪うことが仕事だ。

 

「頼みましたよ伊吹さん」

 

 騎馬の椎名からの声援に私は頷いて返した。

 喧嘩に近いこの競技は個人的にワクワクしていたので任せてほしい。

 

「やりすぎには注意ですよ」

 

「それは相手次第だね」

 

 私は軽く笑って応えた。

 騎馬戦のルールは男女ともに同じで時間形式だ。三分間に倒した敵の騎馬と残った味方の騎馬の数に応じて点数が入る。

 それぞれのクラスから4馬選出され、8VS8の戦い。一騎馬につき50点。大将騎馬なら100点得ることが出来るため、圧勝すればポイント変動も大きい。

 残すことと守ること、どちらも両立しなくてはならないこの競技は限りなく実戦に近く、戦略がものをいう。

 それでいて自分の実力を戦いで競い合える素晴らしい競技だ。

 

「皆行くよ!」

 

 ぐっと体と心が引き締まる声援のような一之瀬の号令でBクラスの攻撃陣が相手のリーダーめがけて向かっていった。

 続くように、Cクラスは第二陣として攻めていく。

 Bクラスを囮にするように前進する騎馬もいれば、フォローに入れるように向かう騎馬もいる。

 中にはいの一番に飛び出し、相手の弱い騎馬を片っ端から叩きのめそうと考えている騎馬もいる。

 まとまりのないCクラス、そう見えるかもしれない。

 だが、たとえ行動がバラバラでも、彼らの共通意識は勝つこと。

 龍園の命令を遂行するために、各々が勝つために最善の行動をしている。

 

「陣形を整えなさい! 来るわよ!」

 

 凛と通る声を出すのは堀北。同性でも感じる透き通るように美しい声でいて、かつ力強い声だ。

 AD連合の大将騎馬ではないものの、彼女は一流の軍師のように声を出していた。

 そんな中、いくつかの衝突が起き、本格的に騎馬戦が始まった。

 観客のボルテージも上がり、野郎の声が大きくなった。

 私はそんなむさい声を無視して分析する。

 AD連合は守りを重視した立ち回りをしつつ、隙を見つけたら攻撃に移行するスタイル。

 BC連合は守りを捨て、侵略すること火の如き怒涛の攻めのスタイル。

 矛と盾、どちらが強いかの競い合いのようだった。

 

「……みんな行くよ」

 

 矢島がやや低い声で号令をかけた。

 一之瀬とは対極とも呼べる号令。

 到底士気が高まる声ではないが、Cクラスの騎馬たちは目的を理解して行動を始める。

 真鍋の騎馬以外の騎馬が一斉に動き始める。

 私も矢島の騎馬に続き、一気に相手のある騎馬の元まで突撃していく。

 真鍋たちは雑魚騎馬の処理だ。

 役割分担を終え、私たちは王命を執行する。

 

「……あいつの指示に従うのも癪だけど、折角なら1対1で戦いたかったな」

 

 そう独り言を零し、私たちは堀北鈴音を取り囲んでいく。

 

「させないよ!」

 

 一方的に狙われていることを気付いた他のDクラスの騎馬が邪魔をしてくる。

 だが、CクラスとDクラスでは練度が違い過ぎた。

 立ちはだかるDクラスの騎馬へ矢島の騎馬が立ち向かう。

 正面からぶつかり合う騎馬。その衝突はCクラスが大差を見せて制した。

 一度の力比べで、Dクラスの騎馬は崩れかけていた。

 なので後は鉢巻を取る簡単な作業だった。

 

「……恨みはないけどこれも勝負だ。悪く思うなよ」

 

「もう勝ったつもりかしら伊吹さん? 3対1でも私は諦めないわ」

 

 3つの騎馬に囲まれ絶体絶命な状況にもかかわらず、堀北の目は死んでいなかった。

 

「はっ、良い度胸してんじゃん」

 

 その言葉に獰猛とも言われることのある笑みで返し、容赦なく攻め入った。

 それに続くように他の騎馬も攻撃に加わる。

 はっきり言って1対1でも負けないと思った。

 Cクラスはカムクラによって身体能力が全体的に向上している。

 単純な力比べなら練習の成果もあって相手にならないのだ。

 だが、それでも手を抜かない。

 

「……くっ!」

 

 辛い声を上げながらも伸びてくる複数の手を懸命に避け、弾いて何とか救援を待つ。

 援護頼みの時間稼ぎだが、最善の判断だった。

 しかし、いくら堀北の運動神経が高いとは言っても、能力upした私たち相手では持って10秒だった。

 私は堀北のわずかな隙を突き、鉢巻を奪う。

 そして龍園の指示を実行するために矢島が進路を塞ぎ、審判の目を遮る。そして、もう一つのCクラスの騎馬が堀北の騎馬と衝突した。

 騎馬は崩れ、堀北は派手に落馬した。

 

「……本当、良い気分じゃないわよこれ」

 

 小さく吐き捨てる本音。

 クラスメイトは私の声に微動する。

 矢島を筆頭としたクラスメイトもここまで徹底的にやるのはどこか思うところがあった。そういう反応だ。

 しかし、龍園には逆らえない。

 ここまでやる必要はないにしても、相手の大将を潰すことに誰も反対がないのも実行した理由の1つだった。

 決して、被害者面できない。加害者としての自覚がふつふつと心の中で込み上げてくる。

 

「……他もさっさと潰すか」

 

 Cクラスは残った時間もBクラスと協力する気はない。

 各々勝つために動く。

 堀北を徹底的につぶしている中、真鍋の騎馬が2つも鉢巻を奪っていた。

 そのため残り時間は数的有利を作りながら各個撃破していき、完勝した。

 

 




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