ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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Interlude5
思慕


 

 

 

 特別棟。

 本校舎とは別に用意された場所であり、人気や監視カメラが極端に少ない場所です。

 学校でも有数の場であり、秘密の話をするにはもってこいと言えるでしょう。

 ただ唯一の欠点があるのは冷房が起動してないこと。

 今でこそ10月終わりに近づいてきたので暑さはありませんが、これが8月初めとなれば非常に蒸し暑く、とても長居は出来ないでしょう。

 

「運命、そうとしかありえませんね」

 

 今日のことを振り返りながら独り言を呟いてしまいます。

 体育祭結果やその過程についてではありません。

 主にイズルくんとの出会いとその才能。

 同級生をものともしない彼の才能は本物だった。

 鮮明な動きを見れて、今日は幸運な日でした。

 しかし、運命が導いたのは彼だけではありませんでした。

 

「……本当に会いたかったんですよ、綾小路くん」

 

 あの光景を思い返すだけで私の鼓動は高鳴っていきます。

 私が認める天才と張り合うことのできた唯一の生徒。

 その横顔だけで私はすぐに彼だと判断できました。

 忘れるはずもありません。あの白い空間の最高傑作は私にとってとても大切な存在です。

 

「連れてきたわよ。もう帰ってもいい?」

 

 特別棟の廊下で待機していた私に真澄さんが声を掛けました。

 嫌な顔をしているが、ミスをした様子はありません。

 つまり、予定通り綾小路くんを連れて来てくれたということです。

 

「はい。ご苦労様でした真澄さん。またよろしくお願いします」

 

「……ん」

 

 静かに、そして軽く頷き、真澄さんは去っていきました。

 私はすぐに杖を突いて角の先にいる人物の元へ向かいます。

 歩きながら表情を整えます。

 おそらく、今の私は少々だらしない笑みを零しているでしょう。

 彼への第一印象を良くするために、淑女として慎ましい姿を見せなくてはなりません。

 

「あんたがオレを?」

 

 ガラス越しに何度も見た顔が目の前にあった。

 どんな声をしているか、何度会って話してみたいと思ったか。それらの願望が込み上げてくるさまざまな感情によって抑えられていく。

 ついつい緊張してしまい、彼からの質問に答えないというミスを犯してしまいます。

 2人きりの第一声、ちょっと詰まってしまいました。

 

「最後のリレー、お見事でしたね。綾小路清隆くん」

 

 最初はありきたりの話題を。

 少しでも長く彼と話したい気持ちが込み上げてきます。

 

「それはどうも」

 

 再び膠着状態が続いてしまいます。

 私と彼は見つめ合い、お互いの視線から心情を読み取ろうとします。

 しかし、やはりその瞳は8年と243日前と変わっていない。

 

「もう1度聞くが、あんたがオレを呼び出したのか?」

 

「はい」

 

「……できればその用を話してもらいたいんだが」

 

 ああ、そんなことを言わずにもっとお話をしましょう。

 そう、本音が出てしまいそうな口を私は必死に押さえ、会話を続けます。

 

「あなたの走り、そしてイズルくんとの激突を見て思い出したのです。

 その時の衝撃を共有したいと思ってつい呼び出してしましました。まるで告白の前触れみたいですよね」

 

「何のことだかさっぱりだ……」

 

 私は杖を突き、ゆっくりと彼との距離を縮めていきます。

 そして、

 

 

「お久しぶりです綾小路くん。8年と243日ぶりですね」

 

 

 彼に正しく挨拶することが出来ました。

 

「冗談だろ。オレはお前なんて知らない」

 

「フフ。そうでしょうね。私だけが一方的に知っていますから」

 

 私が回りくどく話していると、綾小路くんは背を向けて歩き出してしまいます。

 どうやら彼は無駄話が嫌いな人のようです。

 なので私は早速本題に切り出します。

 

 

「ホワイトルーム」

 

 

 綾小路くんはピタリと脚を止めました。

 

「嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるのは」

 

「……お前は」

 

 そう言って彼は顔だけをこちらに向けました。

 

「色々とDクラスの行動は不可解でしたが、あなたが裏にいたのですね。

 それならば無人島試験で最小限に被害を抑えたり、船上試験で3クラスが勝つ策を実行できたのに納得いきます」

 

「何のことだか。うちには何人か参謀がいるからそいつらの事じゃないか?」

 

「あなたが出てきて他の誰かに注目するなんてこと出来るわけありませんよ」

 

 こちらを見る綾小路くんの目が鋭くなります。

 彼は私を分析してくれています。その事実が嬉しくてたまりません。

 

「安心してください。あなたのことは誰にも言いませんよ」

 

「言えば色々と有利になれるんじゃないか?」

 

「邪魔が増えるだけですよ。『偽り』の天才を葬るための邪魔が」

 

 彼の眼光が一際強くなる。

 全く変わっていないその瞳。嬉しくもあるが、やはり悲しみも生まれてしまう。

 相変わらず、人との温もりを知らない様子だった。

 

「1つ質問いいか」

 

「あなたから質問をいただけるなんて光栄です。どうぞ聞いてください。私があなたを知っている理由が知りたければお答えしてもいいですよ」

 

「いや、そんなことに興味はない。ただ一つだけ知りたい」

 

 そんな事と一蹴されると少し悲しいですね。

 しかし、彼の話の続きが気になりましたので、耳をしっかりと傾けます。

 

 

「お前にオレが葬れるのか?」

 

 

 彼はそう問いかけました。

 

「フフッ」

 

 私はつい嬉しくなって笑ってしまします。

 

「フフフ、すみません。笑ってしまって。でもあなたの発言を馬鹿にしたわけではありません。

 あなたがどれだけ凄い人かを私は知っていますから。あなたのお父様が作り上げた最高傑作であるあなたという存在を。

 そしてそんなあなたを破壊してこそ、私の悲願は達成されますから」

 

 私の悲願。それは天才とは生まれついたその瞬間から決まっているということの証明。

 ホワイトルームで育った彼は生まれてから一生懸命なんて言葉が生温い程の研鑽を重ねたことで素晴らしい能力を手に入れています。

 しかし、それは後天的。生まれ持った能力ではありません。

 壮絶なカリキュラムを実行できたのは彼が天才だったからか、それとも凡人でも努力で天才を超えられたのか。

 彼がどちらなのか、その判断をしなくてはなりません。

 

「差し支えないのならば、私からも1つ質問を良いでしょうか?」

 

 立ち去ろうとしていた彼はもう1度立ち止まり、こちらに顔だけを向けます。

 これは了承してくれたと見て良いでしょう。

 

「カムクライズルくんのことをあなたはどう思いましたか?」

 

 彼は冷たい瞳で私を見つめますが、すぐに言葉を返してくれました。

 

「お前の言葉を借りるのなら、『本物』の天才とでも呼ぶべき存在じゃないか?」

 

 彼は私と同じ感想を導いてくれました。

 嬉しい想いとイズルくんからの忠告が混じって複雑な感情が浮かんできます。

 

「どうかしたか?」

 

「いいえ。私もそう思います。実は彼が私の知らないホワイトルーム生でもない限り、正真正銘の『本物』なのでしょう」

 

「一応言っておくが、ホワイトルームでオレは奴を見たことがない。

 同期でない可能性もあるが、それでもあれほどの逸材がいるならばオレの父親が逃さないだろう」

 

「確かにそうですね」

 

 綾小路くんのお父様は非常に権威が強い方です。

 なぜ彼がここにいるのという理由は一旦置いておき、もしイズルくんがホワイトルーム出身ならば、そんな人がホワイトルームきっての存在である綾小路くんとイズルくんをこの学校に入れようとは考えません。

 必ず手元に置きたいはずです。

 

「もう用がないならばオレは帰らせてもらうぞ」

 

「はい。本日はお時間を取ってもらい、ありがとうございました」

 

 私は一礼し、彼を見送りました。

 何度も見たその後姿は記憶にあるどの光景よりも大きく、逞しくなっていました。

 

「私も帰りますか」

 

 杖を突き、私も帰路につきます。

 今日は本当に良い1日でした。

 夕飯は豪華にしましょう。イズルくんから分析した料理人の才能を練習する絶好の機会です。

 8年と243日ぶりの再会記念日。一方的で他の誰かには言えないが、今日はこの余韻に浸らせてもらいましょう。

 

 

 

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