CHAPTER1を終わらせます。展開早いです。
試験の当日はどんな行動をするのが正しいか。
覚えられるものを直前まで脳内に詰め込むか。
普段通りに過ごし、緊張しないために心を落ち着かせ、試験本番に備えるか。
それとも諦めて、立ったまま気絶するか。
人によってとる行動は当然違うし、正解を述べる気はない。
だが、あえて正当を出すならば、「結果」が付いてくるものこそ正しいではないか。
つまり、テストで良い点を取れさえすれば、その日の行動なんて自分に合ったことをしていればいい。
長期記憶だろうと短期記憶だろうと、結果が良い方が全て正しい。
このようなプラグマティズム的な考えをすれば、君たちは「納得」できるのではないでしょうか。
もっとも、この考え方はテストに限った話ではない。
現代社会はこの考えが顕著に表れている。
しかし、これ以上の飛躍はツマラナイので止めておきましょう。
「ふむ、欠席者はいないようだね。良かった、もし欠席者がいるのならばそれなりのクラスポイントが引かれていたよ」
本日は中間試験当日。坂上先生は教壇前で説明を行う。
彼は試験のスケジュールをホワイトボードに書き終えると、生徒たちを1人1人見ていく。
「高校生になって初めてのテスト。それも背後に相当過酷な罰があるテスト、そんなテストを君たちは受ける。非常に緊張するし、のしかかる不安は一般の高校生の比じゃないと思う。だが私は君たちを信じているよ。この学校に入学出来た時点で素晴らしい生徒なのだから」
坂上先生の言葉に嘘偽りはない。緊張していた生徒も彼の言葉を聞き、少しずつ緊張がほぐれているようだ。
ウサギとクマの混ざりものの先生擬きとは大違いだ。
「そんな君達に朗報がある。中間、期末試験を乗りきったなら───」
おおおおおおおおおおおおおお!!!
突如、騒音が坂上先生のありがたい言葉を遮る。
この声に、龍園くんを含めてクラス中の全員が驚いた。
騒音の出処は隣の教室。方角から察するに、Dクラスだ。
叫び声というより雄叫び。中間試験を前にして喜ぶことがあった。
となれば、この後の坂上先生の言葉も関係している可能性が高い。
少し間の抜けた表情を浮かべた坂上先生だったが、すぐに普段通りの厳格な表情に戻し、わざとらしく咳を1度挟んでから続けた。
「……中間、期末試験を乗り越えたならば、君たちには夏休みにバカンスが待っている。その楽しみのためにも今回の試験全力で望んでくれ。私からは以上だ。君たちの健闘を祈る」
この通達を最後に、朝のHRは終了する。
終了後、あの雄叫びはバカンスに反応したDクラスの男子の魂の叫びだったんじゃね、と誰かが言っていた。
────それに賛成です。
────────────────────
オレの名前は
唐突だが、今のDクラスの状況を説明させて欲しい。
オレたちDクラスは学校側から最低の評価を付けられた「不良品」と呼ばれる生徒だ。
事実、オレたちはこの学校の評価の存在など気にせず、否、知ることもできず、5月になるまで自由で自堕落、まさに夢のような生活をしていた。
そしてとうとう突きつけられた現実を誰もが受け止められずにいた。
0cp、つまり評価0で、人によっては1ヶ月0円生活をしなければならない現状だ。
畳み掛けるように突きつけられたもう1つの現実がある。テストで赤点を取ったら即退学という事だ。
先日行った小テストでもDクラスでは赤点が7人、なんとも悲惨な結果だ。このまま行けば7人以上退学する可能性がある。
まさに絶望的な状況だった。
だがそんな状況でも活路へと向かいだしていた。
最低の評価を付けられた翌日からほとんどの生徒が真面目に授業を受け、ポイントを復活させようと必死に抵抗し始めた。
しかし集団というのは不思議なものだ。9割の人が団結しても残り1割は団結しない。それどころか目先の利益に囚われて己の欲望に負けてしまう。
すなわち後者のような人間とは勉強をしない生徒だ。
そして俺はそいつらを対象とした勉強会を開くことを
友達がいないオレにはなかなかの苦行だったが、
だが初めの勉強会は失敗だった。
真面目な性格をしている堀北は不真面目組の態度に怒り、罵倒する場面も多く、仲違いを起こしてしまったのだ。
しかしながらその後、堀北の中で変化が訪れた。
あるきっかけによって視野が広がった、つまり成長したのだ。
そして堀北と不真面目組はお互いにお互いの事を少しずつ認め始め、勉強会を再開することが出来たのだ。
ここからは早かった。堀北は勉強が他人に教えられる程できるのだ。
不真面目組の勉強を見始めると彼らの学力はみるみる成長した。
もう1人の手伝ってくれる生徒、櫛田もその手伝いをしてくれた。
そして今、俺たちは残り1週間となったテストの対策をしっかりと取り組めている。
堀北と櫛田のおかげだ。このまま行けば、Dクラスの退学者も0人で済むだろう。
現状を打破することができるだろう。
───誰もがそう思っていた。
「おい、ちょっとは静かにしろよ。ぎゃーぎゃーうるせぇんだよ」
近くで勉強していた生徒達の1人がこちらに注意を促す。
先程も言った通り、オレたちは残り1週間となったテストの対策をするために勉強している。
場所は図書館だ。テスト期間もあってオレたちと同じように勉強会を開いていると思われる集団がチラホラと見える。
現在の状況は不真面目組の1人が問題を解けたことに喜んだ。そして声が大きくなり、周りに迷惑を掛けてしまったところだ。
「悪い悪い。ちょっと騒ぎすぎた。問題が解けて嬉しくってさ〜。帰納法を考えた人物はフランシスコ・ベーコンだぜ? 覚えておいて損は無いからな〜」
不真面目組の1人、
こういう時、彼のコミュニケーション能力は真価を発揮する。
初対面の相手でも人当たり良く接することができる彼のこの能力は現代においても非常に重要な能力でありながら、できる人は少ない。
このようにいくら不真面目組だと言われても彼らにだって長所はある。それも誰もが身につけられるものではない長所だ。
「あ? ……お前らDクラスの生徒か?」
注意をしてきた男子生徒の表情がニヤニヤとした小馬鹿にするような表情へと変わっていく。
そしてその様子が気に食わなかったのか、不真面目組の1人、
「なんだお前ら。俺達がDクラスならなんだってんだよ。文句あんのか?」
彼も人とは違う長所を持っている。運動神経だ。それも破格の。
スポーツ、特にバスケには力を入れており、プロを目指しているほどであり、それを言うに相応しい実力もあるようだ。
だがかなり沸点が低く、勉強も得意ではない。それらこそ彼がDクラスに選ばれた理由だ。
「いやいや、別に文句はねえよ。オレはCクラスの
山脇と言った生徒はペラペラと話を続ける。
早い話、Dクラスへの侮辱だ。
正面切ってこうも悪口を言える所は尊敬するが、そんな喧嘩腰で会話をすれば須藤ももちろん黙っていない。
そして周囲にどんどん迷惑がかかっている。
しかしここから状況が変わる。冷静ではない須藤を抑えて我らが堀北先生が選手交代をしたのだ。
さすが堀北。正論の刃で山脇のプライドをズタズタにすると彼は机を叩き、立ち上がる。煽り合いを一気に優勢へと持っていった。
エスカレートして行くことでこの場にいる全ての者の視線はこの状況へと向かっている。
さすがにこの状況を不味いと思ったのか、近くにいるCクラスの生徒も山脇を止めようとしている。
だが2人だけだ。
残りの3人は何をしている? この学校で問題を起こしたらどうなるのか知らないのだろうか。
「俺たちは赤点を取らないために勉強してるんじゃねえ。より良い点数を取るために勉強してんだよ。お前らと一緒にするな! 大体、お前らはなんの勉強をしてんだよ? 退学がかかっているテストでテスト範囲外を勉強して何になるってんだよ!」
「え?」
珍しく堀北の疑問の声が出る。それもそうだ。今この男はテスト範囲外で勉強して何になると言ったのだ。
「まさかテストの範囲すら分からねえとはなぁ、これだから不良品はよぉ!」
「いい加減にしやがれ、テメェ」
とうとう須藤の堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
まぁ今までの彼の行動を見ていると堪忍袋と言うよりは爆発袋だが……そのことについては今は置いておこう。
須藤は山脇の胸倉を掴みあげる。
腕を引き、マジで殴り飛ばすつもりなので、さすがに止めようとオレはイスを引いた。
そしてその直後に────
「何をしているのですか」
黒く長い髪をした男子生徒が須藤の拳を止めていた。
身長はオレより少し高いくらいだろう。
しかしやたらと目立つ髪型などは些細な問題だ。
それよりも───いつからそこにいた?
気配も足音も感じなかった。そこにオレは驚いている。
驚いているのはオレだけではない。須藤は自分の手が掴まれたことでやっとその生徒の存在に気付く。
これは運動神経が非常に高く、野生児のような直感能力をもつ須藤の反応が遅れているという事を意味している。
須藤はすぐに山脇の胸倉を離すと、掴まれていた右手を弾き、本能的に後ろに飛び退く。
そしてその男子生徒から視線を離さない、まるで肉食動物が獲物を狙ってる時のような視線だ。それほどあいつを警戒しているのだろう。
そんな須藤とは対照的というか、長い黒髪の男子生徒は須藤から視線を外し、山脇の方へ向く。
何の混じり気もなく、警告してくるような真っ赤な眼に山脇は恐怖を抱いている。
「山脇くん。僕は何をしているのか聞いています」
「す、すまねえ。ちょっと悪ノリが過ぎちまっただけなんだ。なぁ? だ、だからよ、龍園さんに言うのは勘弁してくれよ……」
悪ノリで人を見下すなんてロクな奴じゃないな……。それに龍園さん? 誰のことだ。
「ツマラナイ」
「え?」
つまらない? 山脇の発言は確かに面白いものではないが、その返しは適切か?
もしかしてこいつもあまり会話が得意じゃないのでは……と謎めいた淡い期待をオレは持ってしまう。
「……彼らに謝罪した後、あなたは教室に戻ってください」
「あ、ああ、わかった。なら、龍園さんには……」
「しませんよ」
話が終われば、山脇とその他のCクラスの生徒は勉強道具を片付けるとすぐに図書館から去っていく。
こちらに突っかかってきた3人は怯えるように出ていき、我関せずの態度でこちらを眺めていた残りの3人はゆっくりと歩いていく。
途中、残り3人の内の女子生徒の1人が黒髪の男子に「任せた」と言っていた。なかなかに無責任だと思う。
「さて、どうやらCクラスの生徒が迷惑をかけたようですね」
長い黒髪の男子生徒はこちらへと振り返る。
なんて冷たい声だ。だからといって威圧的という訳ではない。鋭いトゲがある訳でもない。
むしろ声自体は至って普通であり、中性的な声質が特徴とも言えるだろう。
しかし、その平坦な響きからまるで感情が篭ってないように感じる。
聞く人によっては恐怖を抱いてしまう声色だ。
「……ええ、今後このような事が無いように言ってもらえるかしら? あなたはまともそうだからお願いしたいわ」
堀北は彼の雰囲気に気圧されたことで少し躊躇ったが、すぐに普段の調子を取り戻し、堂々と彼に言い切る。
「はい。僕の方から伝えておきます」
何故だろう。直感的にだが、こいつとは他人な気がしない。
堀北にこの事を伝えたら、「あなたそういう趣味だったのね」と言われそうだが、そういう意味じゃない。
何故だろう。本当に初めての感覚だ。やっぱりこの世の中はわからないことって意外とあるものだ。
だが、はっきりと分かる事が1つある。
────この男は危険だ。
確かに、オレは油断していた。あの場所から出て1年と少し経ったことにより、気が抜けていたのだろう。
しかしそれでも、普通の高校生が気配を消して近づくくらいなら簡単に分かるはず。
しかし、オレはこいつの気配に気付かなかった。
オレも気配を消すことはできるが、あそこまでのクオリティでできるかと言われたら肯定できない。
まるで熟練の暗殺者のようだった。あんなことは普通の高校生にできるわけがない。
こいつは一体何者だ。
「にゃはは、どうやら私の出る必要は無かったみたいだね!」
オレの中で黒髪の男子生徒の警戒度が上がっていると、桃色の髪と豊満な身体付きが特徴な女子生徒がこちらに向かってくる。
彼女は見たことがある。Dクラスの担任、茶柱先生に呼び出された時に、Bクラスの担任、星之宮先生に相談を持ちかけていた生徒だ。
つまり彼女はBクラスの生徒という事だ。
「あっ! 一之瀬さん!」
「おっ! 櫛田さん! 久しぶり〜!! 今はテスト勉強中かな〜?」
どうやら櫛田は一之瀬という生徒と面識があるようだ。
彼女のコミュニケーション能力は池とは比べ物にならないほど高い。
学校が始まった日から学校中の全員と友達になると目標にする程の明るい生徒だ。
もっともそれは彼女の表の性格だ。裏の彼女は───怖い。すごく。
「キミが
だが、そんな怖い櫛田よりもこいつだ。
この男の名前は初めて聞く。カムクライズル、珍しい名前だ。漢字はどう書くのだろうか。
「櫛田さん、彼女は?」
堀北は彼女の事を知らないようだ。俺同様、いや俺より友達が少ないので、当然の反応だ。
うわっ、なんか一瞬こっちを睨んで来た。
「彼女は一之瀬 帆波さん! Bクラスの生徒ですごく良い人!」
「やだな〜櫛田さんの方が良い人だよ〜!」
須藤以外の不真面目組は鼻の下を伸ばしている。視線は彼女の胸にしか行ってない。
まあ確かにあれ程のものを見せられたら男として見てしまうのは仕方ないが、そこまで露骨に凝視するのはダメだろう。
「ちょっと待って、一之瀬さん、それに神座くんでいいのかしら? あなた達に聞きたいことがあるの。あなた達が教えて貰った中間試験の範囲についてよ」
「キミは堀北 鈴音さんだよね? よろしく! それで中間試験の範囲だっけ? う〜ん、ちょっと教科書貸してもらえる? …………ほらここからここまでだよ! いや〜学校側もなかなか酷い事するよね! 1週間前かな? テスト範囲を急に変更するなんて!」
テスト範囲の変更だと? そんなものDクラスは聞いていない。
「1週間前に……テスト範囲の変更!?」
堀北も絶句している。なぜこんなことが起きている。まさかテストが違うのか? いやそんなはずは無い。
「……やっぱり、私たちの知っているテスト範囲と違う。それにテストの変更って……」
「あれ? Dクラスには伝わってなかったの? それって結構不味くない? ……もしかしてクラス毎にテストの範囲が違うとか……ねえ神座くん、Cクラスで聞いた範囲はどこだった?」
「あなたが教えた範囲と一緒ですよ」
相変わらず冷たい声だ。
だがCクラスにも連絡は行き届いているようだ。
「じゃあ全てのクラスは多分一緒のテストを受けるんだと思う。なんでDクラスだけこんなことが……もしかして連絡ミス?」
Dクラスだけ違うなんてことはありえないだろう。それでは基準が無くなり、cpに影響が出てくるからだ。
基準が無くなれば、正確な評価は付けられない。
評価を数値化するには正確な評価が必要なので、学校側がそんな面倒なことをするとは到底思えない。
「ありがとう一之瀬さん、神座くん。私達はここで失礼させてもらうわ」
「行く所は職員室かな? 昼休みもあと10分ちょっとしかないから少し急いだ方が良いよ!」
オレたちは一之瀬の言葉を聞くとすぐに荷物を纏め、やや駆け足で職員室へと向かった。
その後オレたちは連絡ミスという衝撃の事実を聞くことになり、またもや状況は絶望的になる。
そしてオレはこの瞬間に、1つの可能性を見出し、行動をすることを決意した。
───────────────────
中間試験が終わり、1週間が経った。本日はお待ちかねと言っていい試験返却日だ。
そのせいか、クラスメイト達の間にはどこかソワソワとした居心地の悪さを感じ取れる。
たとえ彼らにとって1ヶ月と少ししか過ごしていないクラスメイトでも、退学になるということには何か思う所があるのでしょう。
「皆、ご苦労だったな。今この瞬間にテスト返却を行う」
答案が入っていると思われる5つの封筒と、丸めた6枚の白い方眼紙を持ってきている坂上先生がそう告げる。
その言葉の後に、封筒から五教科のテストが、英語、数学、国語、社会、理科の順に次々と返されていく。
全てのテストを受け取った時、生徒全員を見渡して見ると喜んでいたり、微妙な顔をしている人が多く見られ、絶望したような生徒は見当たらない。
この様子から退学者はいないようだ。
そしてテストが全て返却し終わると、坂上先生は持ってきた白い方眼紙6枚を全て広げる。
そこには小テスト同様、クラス全員の各教科毎の成績と合計点が書かれていた。
「ふむ。全ての教科の平均点は70点くらいだろう。なかなかの好成績で感心している。みなよく頑張ってくれた。この調子で期末テストも頑張ってくれ」
それにしても成績表を公開する制度とは珍しい。こういった個人情報は他人に見せるものではない。全ての点数を細かく貼り出すということもよりいっそう珍しいと思います。
嫌がる生徒もいるでしょうが、仕方ない。これが学校の方針なのだ。変えるとなるとそれなりに苦労するでしょう。
もっともこの方針はクラスという「社会」を向上させるためには最適な手段ですから、変える必要はないでしょうが。
「ああ、肝心なことを言い忘れていた。退学者は0だ。今回のテストで落第する者はいない」
その言葉を聞くとクラスの大半から安堵の表情が見られた。
当然と言えば当然だ。せっかくの学校生活の危機から離れられたのだから。
「今日の話すことは特にないので、もう自由にしてくれて構わないよ」
坂上先生が話し終えるとクラスのざわめきが大きくなる。友達同士でどの程度の点数が取れたかを話題にして盛り上がっている。
そんな中で龍園くんも石崎くんや山田くんと話している姿が見える。どうやらデモンストレーションの準備をしているようだ。
「カムクラくん」
聞き覚えのある声が聞こえる。声のした方を向くと椎名さんがいた。
優しそうな笑顔をしている彼女だが、友達が少ないため、教室内では基本的に他人に話しかけない。なので少々珍しく感じる。
「何の用ですか?」
「聞きたいことがあるのです」
「なぜ龍園くんや石崎くんがクラスの上位になるほどの高得点を取れたか、そんな所でしょうか」
「ええ。カムクラくんならば何か知ってると思いまして」
龍園くんはともかく、勉強を教えていた感覚的に石崎くんの点数に彼女が違和感を覚えるのは仕方がないでしょう。
彼女は裏技の可能性に気づいていない。そもそも裏技に頼る必要がない。
真面目にコツコツと勉強してテストに挑むのも答えの1つなのだから、それをどうこう言うつもりはない。
「それに関しては、いずれ龍園くんから話されるので僕の口から言う必要は無いですね」
「そうなのですか」
聞くだけ聞くと彼女は素っ気なく返事をする。どうやら興味が失せてしまったようだ。本の虫である彼女にとって裏技の存在など些細なことなのでしょう。
「それにしても、カムクラくんは全教科満点ですか」
「金田くんや伊吹さんも満点です。別に大したことではありません」
「……それでは満点を取れなかった私は大したことないのでしょうか」
僕の言葉を聞いた彼女は嘆息を漏らす。
彼女は500点満点中、483点と非常に高水準な点数を取っている。裏技を使わずに自力でここまでの点数を取れたのは見事と言って良い。
わざわざ他人と比べる必要などない。
そもそもテストは他人と比べるものではなく、自分の実力を試すものだ。
「そんなことはないよ、椎名。私や金田が満点なのはちょっとズルをしたからだし、自力であんな高得点を出せる椎名が大したことない訳がない」
話を聞いていたのか、前の席の伊吹さんも話に入り、椎名さんを励ます。
珍しい行いに驚きたかったが、点数が高かったことの余裕とそれによる精神的優位から来る気まぐれだとすぐに察した。
「……ズルですか? でもそれも含めて実力ですし……そもそもカムクラくんは自力で満点ですし」
「こいつは異常だから気にする必要はないよ。もっと自信持ちなって」
龍園くんや僕と話している時からは考えられないほど優しそうな顔をしながら、他人を罵倒するという高度な話術を用いる。
「酷い言い方ですね」
「あんたはいろいろおかしいから当然でしょ」
「満点を取れるのに疎かな分析力。ツマラナイ」
僕の言葉を聞いた伊吹さんの表情が変わっていく。相変わらず沸点が低い。
「はっ、テストでは満点なのにつまらない、つまらないってもしかしてあんたボキャ貧なの!?」
「ツマラナイ。あなたの煽りは予測通りですね。煽り合いではまだ彼の方に軍配が上がりますよ」
「……はい、またつまらないって言った!!」
彼とは勿論龍園くんの事だ。伊吹さんも一瞬で理解したようだ。
そして彼女は龍園くんが嫌いだ。負けず嫌いでプライドの高い彼女にはこういった比較を用いた言葉に必ず反発を見せてくる。
「伊吹さん、そうやって怒ることはカムクラくんの思うツボじゃ……」
「わかってるわよ! けどムカつくものはムカつくのよ! だいたいこいつは───」
今にも飛びかかってきそうな勢いの伊吹さんだが、椎名さんに止められているので、その心配はなさそうだ。
しかし、お巫山戯は終わりだ。
なぜなら、と龍園くんが教壇へ歩き始めたからだ。
伊吹さんと椎名さんもそれに気付き、じゃれ合うのを止める。
他の生徒も龍園くんが動き始めたのに気付き、騒々しかった教室から徐々に言葉が減っていく。
このクラスは少しずつ、だが確実に彼のものになっている。
彼に反対の意志を持つ者はまだ一定数いるが、彼の今回のテストの結果に興味を持っているためか、随分と温厚のようだ。
教壇の前にいつものように部下2人を護衛に附けた王が到着する。
「さて、まずは退学者が出なかったことを良くやったと言ってやるよ」
王の第一声、相変わらずの上から目線は個性的な生徒が多いCクラスの生徒たちの神経をやや逆撫でする。
その証拠に彼が前に出るとまだ悪感情というものが現れている。
「クク、まあコツコツと勉強して退学を逃れたバカ共には悪いが、俺はこの試験の裏に気付いていた」
彼の言葉にクラスがざわつき始める。
この様子だと誰も過去問の存在に気付いてないようだ。
「この成績が答えだ。俺は“結果”を残したぞ? まさかお前らこの程度の事に気付かなかったのかぁ?」
実際どの成績表の中にも龍園くんの名前はベスト7には入っている。合計点も上から数えた方が早いのだ。
そして彼の煽りによって、反龍園派のボルテージがどんどん上がっていく。今この状況は、手に取るように分かり、彼の掌の上で起こっている。
「まあ落ち着けよ。今日のメインはここからさ」
彼はゆったりと溜めて言う。彼の次の言葉にクラス全員が耳を傾けている。
「俺は退学者が出なかったことの祝勝会を今日の18.30からやろうと思ってな。それの告知だ。もし来てくれるならば、今回の裏技と今後のお前達の待遇について考えてやる」
何に勝ったのか知りませんが、祝勝会をやるらしい。そしてそこで全てのネタばらしをするようだ。
「場所はグループ内チャットにて報告する。俺のグループに入ってないが来たいと言うやつがいるならばそいつから教えて貰え。安心しろ、今回は“暴力”の持ち込みはなしだ。そこは忘れるなよ。じゃあ俺からは以上だ」
ツマラナイ。彼は娯楽に飢えすぎている。
自分の欲求に正直すぎる。
彼の良い点でもあるのでしょうが、同時に悪い点であり、弱点でもある。
だが、それにしても他の生徒が甘すぎます。
どんな愚か者でも、そろそろ彼の本質に気付くはずだ。
にもかかわらず、疑っている人間は見渡した所、片手で数える程だ。
……暴力を持ち込まない?
何を言っている。最優の手段を自ら捨てる訳がない。
あぁ、ツマラナイ。
今日の放課後に何が起きるのか予測できてしまった以上、強制召集されない限り、僕が祝勝会に行くことはなくなった。
「カムクラくんは行くのですか?」
龍園くんの話が終わるとすぐに、先程と同じように椎名さんが話しかけてくる。
「いいえ。あなたも行かないのでしょう?」
「はい、そのつもりです。大人数のいる所は苦手ですので……。それにテスト期間が終わったので、貯めていた本を読まなくてはなりません」
もはや義務となりつつある彼女の趣味について追及するのは止めておく。
本について興味があると言えば、活きのいい魚のように食い付いてくるので、その対応は面倒だ。
彼女のマイペースは何度かこなしてデータを取らなければ、僕でも振り回される。
「気分転換の食事も嫌なのですか?」
「一理あるのですが、やっぱり大勢の方とは……」
自室や図書館といった静かな室内を好む彼女にとって、騒音がおおくなる大勢はかなり躊躇している。
「誰かと一緒にご飯を食べてみたい気持ちはありますが、人を誘う勇気は出せませんし」
「では、伊吹さんとは? 彼女はどうせ祝勝会に行かないでしょうから」
「……えっ?」
「……なるほど、確かに伊吹さんとは勉強会で話す機会がありましたので、お誘いできそうです」
心なしか、彼女の声色はいつもより高くなっているように感じる。
「伊吹さん、一緒にご飯食べに行きませんか?」
「……まぁ、良いけど」
早速、椎名さんは行動に移す。
伊吹さんもまんざらでもない様子で了承した。
人との交流が少ない彼女には良い機会だ。僕以外の友人を作ってもらいましょう。
「カムクラくんも一緒にどうですか?」
少しの予想外に、目元が動きそうになった。
「……ダメでしょうか? 2人より3人で食べた方が食事は楽しいと思いますし」
椎名さんは僕の方を向き、改めて誘ってくれる。
さて、これから起こるであろう僕の放課後の選択肢は3つだ。
⇒誘いを断り、祝勝会に行く。
⇒祝勝会に行かず、誘いに乗る。
⇒どっちも行かないで帰る。
正直、どれを選んでも過ごす時間は変わらない。しかし、わざわざツマラナイ祝勝会に行くくらいならば、彼女達といるか1人の方が楽だ。
そして、ツマラナイ人間達よりかは「友達」と過ごした方がまだ未知の可能性はある。
その感情は未だ味わえないもの。しかし、それが未知の手がかりでもある。
select→祝勝会に行かず、誘いに乗る。
「構いません。何をやっても時間は変わりませんから」
「何よそのイヤイヤ付いていきますよって言い方、本当は嫌なの?」
伊吹さんが言ったその言葉に不安を感じたのか、椎名さんが悲しそうにする。
特に何かを意識して言った訳ではないが、誤解を解くために仕方なく適当な嘘で誤魔化す。
「いいえ、他者の料理を食べるのに少し抵抗があっただけです」
「そう言えばあんた、お弁当をいつも作ってたわね。まさか料理の才能くらい持ってますよ、とか言うつもり?」
「ええ」
「……ふーん、そう。そんなに自信があるんなら、あんたの料理食べさせなさいよ」
何をどう考えたらその思考が生まれるのは不明だ。
「あなたの知的好奇心は下振れが激しいですね。少しだけ未知でしたので、了承しましょう」
顔を引きつらせる伊吹さんを無視し、椎名さんに確認すれば、彼女も頷いてくれた。
やると決めたからには使える才能は全て使って臨みましょう。
彼女たちとの会話が終わるとすぐに授業5分前のチャイムが鳴った。
テストが終わってもポイントが関わっている以上、授業に遅れるのは厳禁だ。
クラスメイト達は授業の準備をし始め、いつも通りの生活に戻っていった。
この日の放課後は3人で過ごした!
超高校級の料理人の才能を使って、彼女達の舌を満足させることが出来た!
伊吹 澪、椎名 ひよりとの親密度が上がった!
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