ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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明日もう1話出します。


Interlude1
龍園 翔の独白


 

 

 

 ────「恐怖」と「愉悦」は表裏一体。

 それらは対極に位置するように見えるが、実際は紙一重の存在だ。

 

 愉悦とは、人間であるならば必ず存在するものである。

 愉悦とは、快楽であり、人間によってそれぞれ違い、定形なんてものは存在しない。

 

 例えば享楽的な快楽。衝動的や肉体的な快楽に身を任せるなどがこれに当たる。

 例えば政治的な快楽。地位や名誉などを欲するなどがこれに当たる。

 

 この辺りが心に秘めている野望の中でも、最も多くの人間が欲するものの1つだとオレは思っている。

 だがさっきも言った通り、愉悦は人によって違う。

 分類する事が出来ないというもの、つまり例外もあるだろう。

 

 そしてそれは、俺……龍園翔の愉悦にも当てはまる。

 

 俺の愉悦は、他者に勝利すること。

 他者が俺に屈する瞬間、俺の脳内は初めて悦びを感じる。

 麻薬はやったことねえが、おそらくこの感覚と似たようなものだと思っている。

 

 俺は他人とは違う自分の愉悦を獲得するためにはどうしたら良いのか考えた。

 そして辿り着いた答えが「暴力」だった。

 

 この世界は、暴力によって支配されている。

 弱肉強食、敵の命を奪う……勝利するためには必要な力。

 あぁ、この世界の実力ってやつは、暴力の強さで決まっている。

 

 この真理に辿り着いたのは小学校に上がった頃だったが、その時初めて俺という個人が誕生した感覚を今でも覚えている。

 そして同時に、自分が異常者という事実もだ。

 

 異質な存在とは多数から敵意を向けられる。

 その時からだ。俺の周りにたくさんの敵ができたのは。

 今までつるんできた奴らからも異物として排除される時もあった。

 異物の噂を聞いた不特定多数からも暴力を受けることもあった。

 

 それでもオレは「恐怖」というものを感じなかった。

 

 抗えない力でねじ伏せられることが何度あっても、陰湿な嫌がらせを執拗に受けても、恐怖せずに俺は嗤っていた。

 考えていたことはどうやって復讐し、逆転させるか。

 今までの俺の人生はこれしか繰り返していなかった。

 これを繰り返すのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 

 そして最終的に────全てが俺の前に跪いた。

 

 本当の実力者とは、比類なき暴力を持つ者だ。

 そしてそんな人物は恐怖を克服した者、その体現者が自分だという自信もあった。

 この歪な愉悦こそが俺という存在を形作り、恐怖を克服させた。

 この歪みこそが俺の本質だ。

 だが、中学卒業が近付くにつれて、愉悦を得ることが難しくなったと同時に、退屈が俺を襲ってきた。

 結局、俺に勝てる者など存在しないという退屈。

 俺はその退屈を消すために、この実力至上主義の高校へと入学した。

 この退屈を紛らわせてくれる存在がいるかもしれないという期待を込めて。

 

 そして、この学校は期待に応えてくれた。

 

 新しいクラスメイトは、確かに一癖も二癖もありそうな奴が多かった上に、異質な学校のシステムからクラス間の抗争があることを予測できた。

 その時から俺はこのクラスを俺の国にしようと考えた。

 手始めは様子見だが、打てるであろう手段は全て打ち、先手を取れるようにしておく。

 まず初めに俺と同じように暴力に魅入られた人間を見つけ、手駒にしようと考えた。

 ……時間こそかかったが、忠実な手駒が2人出来た。

 片方の強面の男は大したことなく俺に屈した。

 もう片方は黒人の男だ。

 ガタイもよく、筋骨隆々、素晴らしい暴力を持つ男だった。

 ゆえに、俺は何度も敗北した。

 俺の暴力は黒人の暴力に完膚なきまでに叩き潰された。

 

 だが、久しぶりの敗北は心を踊らせてくれた。

 

 敗北を喫した日の翌日から、俺は黒人の男に勝てるまで何度も挑んだ。

 3度目までは同じ結果だった。地べたを何度も舐め、体中は何ヶ所も痣ができていた。

 だが、4度目からはそうそう簡単にくたばってやらなかった。

 それによって黒人の男は俺に対して恐怖を感じてきたのだろう。

 何度潰しても立ち向かう存在に言葉では説明できない何かを感じ始めたのだろう。

 

 そして、とうとう7度目で黒人の男を屈服させた。

 

 その時の脳内に溢れた大量のアドレナリンは生を実感させ、退屈を消してくれた。

 ちょうどその頃が、学校が始まり、一月経った頃だった。

 学校のシステムの1つが暴かれ、遂に俺はクラス闘争の準備、すなわち国作りを始めた。

 

 やった事は簡単だ。

 俺は王の宣言をし、それに賛同できない奴を片っ端から潰し、手駒にした。

 その中には潰しても尚、俺に従わない者もいた。そいつらを手駒にすることも愉悦を感じる楽しみの1つだ。

 しかし、俺の興味はその程度の愉悦よりも別にあった。

 王の宣言をした時に俺への興味を持たず、クラス闘争にすら興味を持たなかった人間に対してだ。

 

 1人は長髪の女。雰囲気から強者の感じはしなかったが、クラス闘争に興味をまったく持たないにもかかわらず、個人として確立しているあの女はなかなか興味深かった。

 

 1人は長髪の男。いろいろと奇妙な見た目だが、その男からの雰囲気は───何も感じなかった(・・・・・・・・)

 だから、ただカッコつけているだけの雑魚だと切り捨てた。

 

 しかし、これが間違いだった。

 

 クラスを1つに纏め終えた時、俺に敗北し、従っている女の1人から、長髪の男がこの学校のシステムに気づいていたという事実を聞かされた。

 ここで初めて長髪の男に興味を持った。

 そしてそいつを監視カメラのない場所に呼び出し、屈服させようと考えた。

 俺と同じかそれ以上にこの学校のシステムに気づいた男を屈服させた時の愉悦はどれ程のものか、それしか俺は考えていなかった。

 

 ────この日が龍園(りゅうえん) (かける)を変えるきっかけになる日などと考えもしていなかった。

 

 俺は長髪の男、カムクライズルに挑み、敗北した。

 ただの敗北じゃない。そんなものはもう慣れている。

 知ってしまったのだ。「恐怖」というものを。

 苦労して手に入れた手駒ですら、チリを払うかのごとく簡単に潰され、俺自身の暴力もまるで歯が立たなかった。

 なぜなら、この男は他者の追随を許さない暴力に加えて、全ての未来を分析し、予測してしまう知力を持っていたからだ。

 他にも、俺の知らない未知を持っていた。

 恐怖のさらにその先にある存在、すなわち「絶望」を。

 

 絶望の体現者とも言えるこの男と対峙した時、俺は目を逸らしたくなった。

 

 泣きたくなった。

 

 口から何かが漏れそうだった。

 

 身体中が震えて、まともに思考ができなかった。

 

 自暴自棄になりかけ、身代わりが欲しくなった。

 

 今すぐこの場から逃げ出し、二度と関わりたくもなかった。

 

 ───初めて「恐怖」を知った。こんなおぞましいものとは知らなかった。

 

 人間は追い詰められなければ本当の自分ってのを分からないってのは事実だった。

 結局、俺は恐怖を克服なんて出来ていなかった。勝つことこそが恐怖を克服することだと思っていた。

 しかしそんなものは、目の前にある恐怖を勝利という目標を見据えることで押し込み、目を逸らしているだけだったのだ。

 自信も、暴力も、他人とは違うと信じた歪な愉悦も破壊されていった。あの日、俺は俺じゃなくなるとなんとなく悟ってしまった。

 

 

 それでも、いやだからこそ、俺は抵抗した。

 

 

 この時、俺はこんな絶望の最中にいるのにもかかわらず、自分のあり方を決して間違いとは思わなかった。

 確かに自分の認識は間違っていた。思い上がりも甚だしかっただろう。

 しかし、俺の今まで生きた全てを破壊されたくなかった。

 勝利を望むことが間違いだと思わなかった。

 たとえ自分が異常者でも、自らの愉悦(きぼう)を目指すことを間違いとは思えなかった。

 つまりだ、結局はどんな汚い手段でも使うと豪語していた俺にも、プライドに似た何かがあったらしい。

 自分の望みを叶える邪魔をされたくない、そんなガキじみた一心で立ち向かった。

 

 そして俺は負けこそしたが、あの男の予測を僅かにだが超えてやった。

 

 その時、今までの愉悦は感じなかった。それなのになぜか、大きな物事を達成した時のような清々しい気分だった。

 最後の感覚は今でも分からないが、それが俺の求めるものに関係があるものと思っている。

 

 ……あの時から俺にはに2つの目標が出来た。

 1つ目は「恐怖」の克服。目を逸らさず、恐怖に立ち向かうことを決め、本当の実力を手に入れる為リスタートする。

 2つ目はカムクライズルへの復讐、こいつに未知を見せ、今度こそ本当の意味で俺を認めさせ、屈服させる。

 

 直感だが、この目標を達成した時、俺は実力者になれる。

 そしてその時、俺の愉悦は今まで感じたことのないほど大きくなるだろう。

 

 

 

 

「石崎、仕事だ。これからDクラスを潰すための作戦を伝える」

 

 前に進んでやる。

 それが俺の愉悦であり、生き方であり───希望だ。

 

 

 




台風対策はしっかりしてくださいね〜
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