スーパーに到着した。
時刻は16時頃とホームルーム終了からさほど経過していないため、利用者はまだ少なく品も豊富に揃っている。
僕は買い物カゴ片手に献立を考えながら、気の赴くままに食材売り場をウロウロと徘徊する。
龍園くんは豪勢なものと言っていたが、何にするか。
費用は彼が出してくれるが、数時間で豪勢となると選択肢は絞られてくる。
「……僕の気分は」
候補を絞るために自分の食べたいものを考えるが、これは愚策だった。
何せ、僕の食べたいものなんてない。
口に入り、身体に栄養が行くものなら何でもいいという極論まで浮かんでくる。
つくづく、僕は己の欲というものが欠けている。
才能以外に必要なものを取り除かれた弊害であり、才能によって必要な事以上を満たせるようになったがゆえの弊害とも言える。
ここが僕と高円寺くんの違いかと思えば、やはり彼はオモシロイ存在と言える。
しかし、そうやって思考が脱線し始めた頃、後方から集団の声が僕の耳に届くことで意識は割かれる。
視線を向けると、そこには見知った生徒を含めた6人の男女が談笑しながらスーパーを巡っていた。
「だからタコ焼きがいいって! 柴田、この前使ったやつあるでしょ!」
「この前タコパやったからピザパにしようぜ網倉〜。ピザをオンラインで頼んで、ジュースやらお菓子をここで買った方がいいって! 一之瀬もそう思うだろ?」
「うーん、私も柴田くんと同意見かな〜。ごめんね、網倉さん。たこ焼きもいいんだけど、今日は何かを作る気分じゃないんだよね。神崎くんは?」
「……俺は正直どっちでもいい。それよりも、誰の部屋でやるかを先に決めておいた方が良い」
彼らはBクラスの生徒達。
リーダー役の一之瀬さんと参謀役の神崎くん、ムードメーカー役の柴田くんの3名は知っているが、後は知らない。
だが全員Bクラスの生徒。大方、ペーパーシャッフルの打ち上げ的なものだろう。
今回BクラスはAクラスと戦い、見事勝利を収めている。
もっとも、Bクラスが学力でまともに戦っていれば、Aクラスには苦戦を強いられ、勝てる確率は5分以下だっただろう。
実際は坂柳さんとテスト問題の交渉を行ったことにより、多少のプライベートポイントを犠牲にAクラスの問題を入手して勝利している。
相変わらずこの学校はクラスの中に爆弾がいれば、特別試験で勝つことは厳しいことを教えてくれる。
Bクラスに限っては、一之瀬さんが退学しない限りその心配はなさそうだ。
「神崎くん、どっちでも良いは困るやつ〜。どっちかちゃんと選んでよ〜」
「なら……、ピザだ」
神崎くんがそう答えると集団の意見が纏まったようで、彼らは柴田くんの言った通り、ピザを注文してここでジュースやら菓子やらを買っていく。
それぞれ別れ、好きな物を買い始めた。
それを見終えた僕も行動に移す。
「僕もピザにしますか。……豪勢にするならあと二品くらいイタリアンで固めても良さそうですね」
何となくイタリアンに決めた僕はピザの他にパスタとミネストローネを作ることを決めた。
「あれ、カムクラくん。こんなところで会うなんて奇遇だね」
そしていざ買い物を再開すれば、同じように買い物をし始めた一之瀬さんと鉢合わせた。
人当たりの良い笑顔を向けながら彼女は買い物カゴを見ることで話題を見つける。
「さすが自炊のできる男だね、カムクラくん!」
「あなたの前で自炊をしたと言ったことはありませんが?」
「そりゃ、君から聞いたんじゃなくて坂柳さんから聞いた話だからね〜。
あの坂柳さんが世界トップクラスの腕前って絶賛してたよ! 私も食べてみたいな〜」
「そうですか。機会があれば構いません」
目的の食材を一つ一つ手に入れながら彼女と雑談する。
面倒だが、黙っていてもどうせ話題が振られるから仕方ない。
「やったね! ちなみに今日は何作る予定なの?」
「ピザとパスタとミネストローネを作る予定です」
「いっぱい食べるね! 育ち盛り?」
「いいえ、龍園くんと一緒に食べるので適量です」
「りゅ、龍園くんがイタリアンか。何か……あんまり似合わないかな〜」
それはそうだと心の中でツッコミを入れる。
「Aクラスに勝利したそうですね。おめでとうございます」
このまま無視しても良かったが、僕は話題を変えて雑談を続ける。
「どういたしまして。でも、今回の勝ちは実力で勝ったとは言えないんだよね〜」
「それは運で勝ったということですか? それともあなたの主義に反する方法で勝ったからですか?」
答えの分かりきった質問をする。
「後者だよ。まぁ、色々あってね」
にゃははと微笑む一之瀬さん。
どんな過程であれ、結果は勝ちだ。
反省点はあったとして悲観しすぎる必要は無い。
それにその反省点を彼女は理解している。
「坂柳さんと交渉をしたことを言っているなら、それはあなたが最善の選択を選んだから勝ち取れた結果であり、それもまた実力でしょう」
「……励まされちゃったね。でも次は私たちBクラスの力で勝つよ」
「Bクラスの力、ですか」
はにかむように笑う一之瀬さんを観察しながら、今のBクラスの力を分析する。
実際の所、Bクラスの総合力は他クラスと比べて平均こそ高いが、突出部分がない。
リーダーとしての素質はあれど、その性格上向いていない一之瀬さん。
参謀役として彼女を支えようとしている神崎くんも少々自主性が足りず、敵にいて脅威をあまり感じない。
その他クラスメイトも学力と運動能力は比較的高いだけで、ただそれだけ。
唯一の脅威と言えば、生徒の個性によって得手不得手があれど、それらを互いにカバーすることが出来る団結力。
しかしそれも、中途半端な団結なので、龍園くんや坂柳さんからすればもろい壁に過ぎない。
足の引っ張り合いを助長させる仲良しこよしの集団ではなく、1人1人が自分自身の行動を果たせたうえで1つの目的を果たすための集団へ。
変わる必要がある。そうでなくては退屈だ。
だが、今はまだ不可能だろう。
「どうかした?」
「いいえ何も。それよりも神崎くんがこちらに向かってきますよ」
僕は彼女の背後に視線を動かし、振り向くように誘導させる。
そしてその隙にこの場から離脱する。
一之瀬さんが例外なだけで、Bクラスの生徒は僕を酷く嫌っている。
折角の楽しい祝勝会前。余計ないざこざを作る必要はない。
「ありが……えっ、もういない」
喧しく聞こえる彼女の声を無視して食材の会計を済ませに行く。
会計を終えれば、後は寮に帰って仕込みをするだけ。
どうせ龍園くんは仕込みが終わる前に僕の部屋に訪れるが、ゆっくり作ればいい。
食べさせないと言えば彼も我慢する他ないからだ。
「……不可能ですね。なまじ力があることが原因で自分たちの反省点を見抜けないクラス。一度どん底を見てやっと気づく。それまでは本当の団結すらできない」
ツマラナイ未来予測。
たとえ一之瀬さんが強くなっても変われない。いや、一之瀬さんが強くなればなるほど、変わることはできない。
だからこそ、このツマラナイ結末を変えるために僕が起こすべき行動は決まっている。
少しの楽しみを見出した僕は足早に寮へと戻った。
────────
時刻は19時を経過する。
チーンと鳴ったオーブンレンジから僕はピザを取り出し、食卓に飾っていく。
続けてパスタ、ミネストローネも二人分持っていけば準備完了だ。
「ようやくか。待ちくたびれたぜ」
僕のベッドに寝転がりながら携帯を弄っていた龍園くんが起き上がり、食卓の方へと足を運ぶ。
予想通り、彼は予定の30分ほど早く来て、文句を言いながら待っていた。
もはや慣れた行動だ。
「で、今日は何の用ですか?」
食の礼儀すら言わず、お互いに食事にありつく僕たちの今日の目的は何かを問う。
クク、と笑った後龍園くんは携帯を操作した後、テーブルに置いた。
ディスプレイには証明写真、学籍番号、名前、誕生日、学校名、所持ポイントといった個人情報が映っている。
ここで重要な情報は所持ポイントだ。8桁ある数字を見て僕は内心感心する。
「それなりに集まりましたね」
「これを見てそれなりか。お前の金銭感覚はイカれてやがるな」
6月ごろから始めたCクラスのポイント税。
龍園くんは3万pp(プライベートポイント)を40人から徴収して毎月120万ppを得ている。
今月で12月の中盤に差し掛かり、既に7回の徴収を終えた。
単純計算で840万pp、それに加えて無人島試験でAクラスとの契約がある。
それは月に4万ppをAクラスのある4人を除いた36人が送らなければいけないという悪魔の取引だ。
結果として、Aクラスは無人島試験でcp(クラスポイント)を500ポイント以上得たが、それでも大きな枷はつく。
4万×36=144万pp。それが今月までで4回支給されているので、144万×4=576万pp。
合計して、1416万ppが彼の懐にあるはずだった。
「────1366万pp、それが徴収金額だ」
計算が合わない。だが、その疑問はすぐに払拭される。
出費があるからだ。
僕が知っている限りでは体育祭で木下さんに払った50万pp、櫛田さんに渡した50万pp。
櫛田さんからは既に10万ppが返ってきているはずだが、どうにも数字が合わない。
「−100万ppされているはずのポイントより僅かに多い。どこからの収入ですか?」
「船上試験でのひよりからだ。あいつが優待者を当てたことによって得た50万ポイント、その8割を徴収した」
これで40万ポイント。
1416−50−50+10+40=1366なので、貯蓄額と合致する。
「僕からは徴収しないのですか?」
僕が問えば、龍園くんはにやにやと笑い、携帯を出すように指示する。
指示に従って携帯を渡すと、彼は手慣れた動きで携帯を操作した。
「……ちっ、面白みに欠ける連絡しかしていないな。てっきり伊吹とはヤってると踏んでいたんだがな」
「物色してないでさっさとポイントの移動を行ってください」
「ロックしてないお前が悪いんだよ」
横暴な理論を振り回す龍園くん。
物申したいところだが、その前に携帯が返ってきた。
僕は自分の所持ポイントを確認する。
「試験の報酬だ。これでお前の所持ppは100万、万が一の時に使う分にしては申し分ない額だぜ。
ちなみに今日の食事代はこの30万に含まれている」
「……まぁ、良いでしょう」
実質的なただ飯にされたが、これ以上払う気を感じられなかったので面倒になった僕は追及を断念する。
しかしそれよりもだ。
ディスプレイに映される100万pp。
手持ちが70万pp、試験の報酬は30万ppなので、数字の間違いはない。
どうやら本当に報酬を払っている。
ついてくる人間には正当な対価を用意しているようだ。
「意外ですね」
「何がだ」
「対価のことですよ。あなたの事だからどこかで嘘を交えて対価を支払わない可能性があると思っていました」
「金の切れ目が縁の切れ目だからな。対価は支払う。
それに万が一の時にお前にポイントを分配しておく必要がある。俺のいないときに判断するのはお前だ。
まぁ、船上試験のように無駄遣いしやがったら容赦なく金田にこの役割を交代させるがな」
備えあれば憂いなし。
自分のいない時も想定しているところは良いことだ。
「それで、今日の用はこれだけじゃないでしょう?」
やるべきことを一つ終わらせたので次の議題に進む。
「ああ。まずはXについてだ」
「どう出るのですか?」
「とりあえずはこいつだ」
龍園くんは携帯画面をスライドさせ、1人の女子生徒の画像を見せつける。
その少女の名は軽井沢恵、Dクラス女子のカーストトップ女子だ。
「こいつはX、綾小路を誘き出す餌だ」
「真鍋さんたちが彼女をいじめていた件からの導きですか。たしかに、彼女はXの唯一の手掛かりと言えますね。具体的にどう使うのですか?」
「簡単だ。今学期終了の日にこいつを屋上に呼び出す。そして壊す。それをXに悟らせ、どんな行動を行うのか見る」
手段を選ばない龍園くんだからこそできる危険な一手。
軽井沢恵は今でこそ女子カーストのトップにいるが、真鍋さん曰くかつてはいじめられっ子だったそうだ。
そう見えないのは彼女の努力ゆえだろうが、真実ならばこの学校に来た理由は外部との接触が途絶えることが出来るから、これに尽きる。
みすぼらしい過去を断ち切り、新しい場所で新しい生活を行いたかった。そんな予測が簡単に思いつく。
「彼が軽井沢を救う選択をすれば、屋上に現れる。見捨てる選択をすれば……」
「綾小路は軽井沢という駒を1つ失うことになる」
戦力を削る策ならば十分すぎる成果になるだろう。
何せ軽井沢恵はDクラスの中でも地位が高い人間。消えれば、Dクラスに異常が伝播する。特に女子のまとまりは乱れるに違いない。
「これからは本格的にXを潰しに行く。そして同時進行で上のクラスに上がる準備も行う。
お前は後者の方で扱き使ってやるよ」
「お手柔らかにお願いします」
会話が一度切れたタイミングで僕たちは夕飯を完食する。
僕は使い終えた食器を水につけた後、無料飲料水のお代わりを持って再度席につく。
龍園くんは置かれた瞬間に水を飲み、喉を潤した。
「さて、本題に入るか」
コップを机に置き、足を組みなおす龍園くん。
先ほどより真剣な顔つきから見ても、ここからが本題のようだ。
「お前はさっき徴収金額を見ても足りないと言ったが……その通りだ。
足りねぇんだよ。全然な。俺の望むポイントに比べれば、雀の涙ほどしかねぇ」
「それはcp、ppどちらの話ですか?」
「両方だ」
そう呟く龍園くんの表情は依然として重い。
大量のppを手にして尚、彼は前を向き続けている。
その表情は夢を追い続けているような、野望を抱き続けているような。
欲望が満ち足りていない、僕にはそう捉えられた。
「カムクラ、俺はこれまでこの学校について様々なことを試してきた。
何百台とあるカメラの設置場所、実際にリアルタイムで起動してるカメラの数と位置、ペナルティの重さ、ppの利用方法、言い出したら切りがないほどこの学校を調べた」
いくつかの例を挙げただけでも監視体制とこの学校のルールは特に力を入れて調べていたことが伝わってくる。
入学当初、須藤くんを狙った暴力事件はこれらのような学校のシステムを推し量るためのものだったのだろう。
「この学校の『ルール』と『クリア方法』は入学当初から探っていたが、それももう十分なほど知れた。
よってこれからは────本格的に実行段階に入る」
「実行段階、ですか」
「そうだ。……クク、なぁカムクライズル。俺の導き出したこの学校の攻略方法が分かるか?」
龍園くんは挑発的であり、挑戦的な視線を僕に向ける。
「伊達にあなたの近くにいたわけではありません。既にあなたの趣味嗜好、思考回路は把握しています。
そして、先程の調査結果を込みすれば自ずと答えは導き出せます」
「その心は?」
「────ppによるクラス移動。それがあなたの見つけた『クリア方法』なのでしょう?」
「ククク、クハハハハハ! ああ、そうだ! 大正解だ!」
僕が答えを言い切れば、彼は心底楽しそうに笑いを吹き出した。
「そうだ。俺は大量のppを手に入れ、最終的にAクラスの座を手に入れる。
だから今のクラスの順位にそこまで強いこだわりはなかった」
現在はCクラス。卒業するまでにAクラスでないと自分の望む就職先、進学先には進めない。
しかし龍園くんはppを使って最終的にAクラスに移籍する計画を立てていた。
その際に必要なものが大量なpp。
「確か、2000万ppでしたか。一生徒がどのクラスにも好きに移籍できる権利というものは」
入学当初に流れた噂で聞き及んでいたが、最近になってそれが事実だと僕は知った。
2000万ppという膨大な量を集めてやっと、手に入れることができる権利。
しかし、そのポイントに手が届きそうな程ポイントを集めている龍園くんがまだ足りないという発言を思い返す。
そこでやっと、僕は彼の策の全てを理解した。
「……あなたはこの策を入学当初から考えていたのですね」
胸の内に少しだけ込み上げてくる何かを感じる。
入学してから誰よりも早く勝利のために動き、この作戦を導き出していた。
僕ならばこの龍園くんの策もいずれ導いていただろう。
でもそれは導くことが確定であって、ここまで早く求められたかどうかは不確定。
実際の所はどうであれ、彼が僕よりも早くppを上手く利用した攻略法を見つけたことは事実だ。
そしてそれは僕の怠慢であり、龍園くんの起こした未知に違いなかった。
「────あなたはまだ僕を退屈させない」
「……気味悪いな。お前の笑顔は」
吐き捨てた言葉に違和感を持った僕はすぐに自分の頬に触れる。
「今度は何を驚いてやがるんだ、未知オタク」
「……驚いている? この僕が?」
その発言を僕は理解できず、言われたことをそのまま聞き返した。
「クク、いい加減お前の仏頂面には飽きてんだ。それ以外の表情をしたら結構分かりやすいぜ」
感情の誤作動。その事実を受けれるのにコンマ何秒かかかってしまう。
だがすぐに理解し、受け入れた。
己が今、感情を表に出したこと、そして困惑して驚いたという事実を。
「……本当にツマラナイ変化ですね」
これが……今のカムクライズルか。
本当に、先生方が見れば廃棄処分されていたでしょうね。
「話を戻す。俺はppを使ってクラス移動をするという『クリア方法』を見つけた。
だが、この話はこれで終わりじゃねぇ。俺一人ならゲームが簡単に終わっちまって退屈だからだ」
彼は得意げな表情で話の流れを元に戻し、説明を続けていく。
僕の表情の変化を見てさぞや上機嫌なのでしょう。
このまま上機嫌にさせても良いが、分かり切った話を聞くのは退屈なので茶々を入れる。
「だから8億ppを貯める、でしょう?」
「……何だ、気付いていやがったのか」
「気づいたのは先程ですよ。何せその方法は思いついても実行できるとは言えない。
あなたくらいですよ。そのリスク度外視の策に手を伸ばそうとするのは」
「生憎だが、それが俺だ」
龍園くんのドヤ顔は伊吹さんだったら非難を浴びせていただろう。
だが、未知を提供してくれたのだ。今日くらいは満足するまで見守ってあげましょう。
「この8億ポイントを貯める策だが、当然普通の方法じゃ集まらねぇ。
集めるには最低でも三学年すべてを支配し、毎月10万ポイント以上のポイントを全校生徒から吸い上げるくらいしなきゃいけねぇ」
「しかし、それでもやはり机上の空論のままですね」
1クラス40人×4クラスで160人。
全生徒の協力を得ていて、全てのクラスが10万ポイント以上の利益を得ていると仮定する。
そうであれば、毎月10万pp×12か月×160人=1億9200万ppを徴収することができるが、それでも8億には届かない。
仮に全校生徒の協力を得ることが出来たら毎月10万×12ヶ月×480人(3学年全てに退学者が出ていない状態と仮定)=5億7600万ppだ。
だが、これでも2億ポイント以上足りない上に、こう都合よくはいかない。
だからこそ、実現のためには他の方法を考える必要がある。
「だが、届き得る可能性はある」
戦略を既に見据えている彼はニヤニヤと笑みを浮かべて僕を観察している。
否、僕を試してくる。
「そうですね。なら僕も協力を惜しまないとしましょう」
未知のお礼を込めて僕は真剣に考えてみる。
純粋にppを貯めるだけでは上手くいかない。
全学年を支配するのは非現実的であり、出来ても1年維持できるかは不明。
だからこそ、特別試験での得れるppは価値が高い。
だが、それでも8億という目標の前では微々たるものだ。
注目するとしたら、
「他学年、学校を巻き込んだ契約。そして何より、クラスポイント。1cp=100ppの価値があり、毎月振り込まれるこのポイントの使い方次第ではより多くのポイントを得られる」
「ククク、やっぱりお前はそうでなきゃいけない」
僕の解答に満足げな笑みをこぼした龍園くん。
どうやら彼も同じ答えを導いていたようだ。
彼は置いてあった飲料水をぐびっと飲み干し、立ち上がる。
「綾小路の野郎は俺を楽しませてくれた。だが、それも今年中にけりをつける。
そして来年度からpp、cp、両方を積極的に取っていく」
「その心は?」
先程の趣旨返しで合いの手を入れる。
「まずは一之瀬、次に坂柳を叩き潰す。それで晴れてAクラスに行き、俺が支配してから全てのクラスのcpを上げていく」
自信たっぷりの王に慢心はない。
己の目的を見据え、本格的に実行へ移った。
まさに王道なツマラナイ展開だが、彼ならばこの僕に未知を見せてくれるだろう。
そう、期待してしまう。
「おい、カムクラ」
彼は普段通りの声色で僕を呼ぶ。
僕が見たことを確認するとまたニヤリと笑った。白い歯をむき出しにした、奥行きのない笑みだ。
そして肘を素早く外側に引き、握り拳を短く激しくスイングした。
体重がしっかりと乗った良いパンチが飛んでくるが、僕は座ったままその拳を平手で受け止め、握り締めた。
パンッと甲高い音が鳴り響けば、今度は心底嬉しそうに笑った。
「────最後はお前だ。俺の策が完遂した後、お前との決着をつけてやる」
クラスメイトのことを考え始めるようになってから視野が広くなった。
視野が広くなったから行動の幅が広まり、ついてくる仲間も増えた。
仲間が増えたから龍園翔は入学当初より貫禄が出てきた。
その代償のように仲間との距離感が近くなり、猛獣の牙は多少衰えていたと思った。
だが、峰が存在せず、触れるもの全てを傷つける両刃の刀を扱うような男は仲間という鞘を得ただけで、その刀身は決して錆びていない。
それどころか、むしろ研ぎ澄まされていた。
己の刃が最も効果的に振れる位置を見極めるための知恵を付け、結果を引き寄せるための未来ある行動をしている。
ただのチンピラ。才能と呼べるものなんて何もなかった高校生。
たかが知れている存在なのに、僕を喰らおうとするその姿勢に目を奪われる。
「────オモシロイ」
胸の奥から込み上げてくる熱い感情。それは軽い興奮状態時に発生する。
僕は骨が折れない程度にゆっくりと、徐々に握力を強めれば、彼は苦しそうで楽しそうに二重の笑みを見せる。
予想がつかない未来を、その可能性を持っている男との会話。
これを僕は少しだけ、そう少しだけ────
────『楽しい』と感じていた。
矛盾があったら即修正。