ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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ケとハレ

 

 

 

 午前の授業が終わり、昼食の時間を迎えた教室内は騒がしい。

 食堂に足を運ぶ者と教室内で食べる者に分かれ、それぞれ仲の良い集団で談笑を始めている。

 見た所、教室に残っている生徒は15人程。

 クラスの半分以上が教室を去っているので、このクラスでは学食利用者の方が多い。

 僕は弁当を持参しているので少数派です。龍園くんと愉快な仲間たちは学食派です。

 

「相変わらず、あんたの弁当って凝ってるね」

 

 授業の後片付けを終えて弁当を広げた僕に、前の席に座る伊吹さんが声をかける。

 彼女は椅子を90度回転させ、僕の机を中心に向き合う形を作った。

 

「椎名どっか行っちゃったから今日はここで食べる」

 

「そうですか」

 

 僕が了承すると、彼女もまた弁当を広げる。

 タッパに入った飾り気のない弁当。センスの欠片もない弁当箱だが、それがどうにも伊吹さんらしさを感じさせる。

 

「いただきま〜す」

 

 持参した箸を持ち、食事を口に運ぶ伊吹さん。よく噛んでから飲み込むと、もう一口のために手を動かす。

 僕も彼女に続き、昼食の時間を満喫する。

 

「そう言えば、この前龍園と何話したの?」

 

 静かな食事は彼女に合わないようで、雑談を始めた。

 内容は数日前に龍園くんとの1対1の会話だ。

 

「Xについてですよ」

 

「へぇ〜、やっぱり」

 

 僕は伊吹さんに概要だけを伝える。

 そして、すぐに楽しかった放課後を思い返す。

 あれから数日経過したが特に変わったことはなく、当たり障りのない日常が広げられている。

 しかし、僕はこの普通に退屈を覚えていなかった。

 喜びの余韻が残っているからだ。

 この感覚はいつ以来だろうか。

 クラシック音楽演奏後のような一瞬の出来事にもかかわらずいつまでも続きそうな臨場感の高まり。

 演者の真剣な顔付きから汲み取れる先の可能性。もっと彼の未来を見てみたい、そんな欲求が現れていた。

 

「おい、石崎。昨日の連絡は伝わっているな?」

 

 昼食の時間を迎える現在、かの王様は自分の家来たちに指示を出していた。

 数人に同じような指示を出すと、彼は1人で携帯を持って教室を後にする。

 自炊のできない人間なので昼食を買いに行ったことは間違いない。

 

「あいつ、まだあんな感じでXを探しているんだ。馬鹿らしい」

 

 面白くなさそうに告げる伊吹さん。

 龍園くんは僕以外にXが綾小路くんだと告げていない。

 よって、他のCクラスの生徒には未だ彼が存在するかも分からないXの捜索に力を入れているように見えるだろう。

 

「Xを見つけ出した所で大して意味ない。ああ、あんただったのねで終わりでしょ。なんであんなに執着してんだか」

 

「それは龍園くんとXの手口が似ているからです。だから彼はXを懸命に追っています」

 

 犯人が分かっている相手を捜索するという無駄な行動にも一応意味がある。

 龍園くんは僕にこの意味を説明しなかったが、簡単に推察できた。

 

 それは自身の楽しみと綾小路くんへプレッシャーを与えるため。

 

 言わずもがな、龍園翔は他者を虐めて楽しめる人間だ。

 特に、自分に歯向かった人間を下準備から気を抜かない料理人のように計画的に追い詰める。そして、屈服させることに愉悦を見出している。

 これまでの特別試験で反抗してきたXは彼にとって絶好のご馳走。さらに、綾小路くんと龍園くんの手口は似ているときた。

 彼からすれば興味を抱くなというほうが難しい。

 だから彼は極上の獲物である綾小路くんを自分のやり方で調理している。

 それがプレッシャーを与えることに繋がる。

 日々の生活でもCクラスの人間はXを狙っている、これを綾小路くんに意識させたい。今まで正体を隠し続けていた綾小路くんに日々狙われているという恐怖を植え付け、精神的な攻撃を加える。

 正体が分かっていることを悟らせないためのブラフも込めて、綾小路くんの神経をすり減らそうという魂胆だ。

 

「あなたも彼からの指示を受けているんじゃないですか?」

 

「今日はないだけ」

 

 食事に集中している伊吹さんは短く告げた。

 ツンツンとした雰囲気に似合わず、彼女は昼食を持参している。

 自作の弁当を作るように入学当初促したが、それが功を成したようだ。

 だらしない一面のある彼女だが、しっかり継続している。

 しかし、やはり自作弁当なので好きなものを好きなだけ入れられる。

 よって、当人の趣味が全開になるのは致し方なかった。

 

「随分と低脂肪高タンパクな料理ですね」

 

 鶏胸肉をメインに、ブロッコリーを中心としたニンジンやアスパラなどの栄養価の高いサラダ。

 米は少なく、カロリー計算が細かくできている料理だ。

 僕の追及に伊吹さんはビクリと体を揺らし、バツが悪い表情を見せる。

 どうやら悟られたくなかったようだ。

 僕と伊吹さんは入学当初こそ毎日一緒に昼食を過ごし、何なら下校もしていた仲だが、伊吹さんが椎名さんと絡みだした頃からその回数は減っている。

 しかし、椎名さんがいない時などは彼女が僕の元にやってきて一緒に食べている。

 本日は午前の授業終了後、椎名さんが図書館に最速で行ってしまったため、僕と彼女は食事をしているというわけです。

 久しぶりに一緒の昼食であったため、異性に弁当を見られるという可能性を考慮せず、ダイエット兼筋肉をつけやすい料理を持ってきたがためにこの表情。

 龍園くんなら盛大に弄っていたでしょう。

 

「別に良いでしょ」

 

「構いませんよ。ですが伊吹さん、あなたは全く同じものを作り置きにして毎日食べているんじゃありませんか?」

 

「……何で分かるのよ」

 

 不満げに言う彼女に僕は説明する。

 

「献立が整いすぎているからです。カロリーやPFCバランスまで管理されています。

 栄養士やトレーナーなどに就いている人がオススメしている料理を参考にしたのでは?」

 

「そうだけど、それだけじゃ毎日同じ中身とは推測できなくない?」

 

「その程度の量を一回で作る訳ありません。ならば一度多めに作り、作り置きできるように配分すると考えるのが妥当でしょう」

 

 分析力、料理人、栄養士。どの才能も揃っている僕が料理を見れば、作られた過程まで逆算することなど造作もない。

 

「ついでに言うなら、あなたは調味料を変えたくてもカロリー計算が合わなくなることを恐れていつも同じものを食べているのでしょう?」

 

「うわぁ……、気持ち悪ぅ」

 

 眉を顰め、半開きの口でそう言う伊吹さん。

 僕はどうでもいい評価を無視して、最後のおかずをご飯と一緒に口の中に掻き込んだ。

 

「……で、どうすればバランスの良い食事のまま味変できるの?」

 

「レシピを今教えます。必要ならメモをして下さい」

 

 彼女が携帯のメモ帳機能を開いたことを確認した後、僕はレシピを教えた。

 

「何のレシピですか?」

 

 メモの見直しをしている伊吹さんに教室に戻ってきた椎名さんが声をかける。

 伊吹さんのツンツンとした雰囲気とは対照的で、丸みを帯びたような穏やかな雰囲気は上機嫌を伝えていた。

 伊吹さんはその原因を追求するために話題を振る。

 

「何か良い本でも見つかったの?」

 

「ふふ、見つかりました。でも、本だけじゃなくてもっと良いものも見つかりました」

 

「もっと良いもの?」

 

「読書友達です。この学校にも私と同じようにミステリー小説がお好きな方がいらっしゃったのですよ」

 

 最高級の美酒を飲んだような幸せな雰囲気を身に纏う椎名さん。

 本の虫である彼女は入学当初から本について語り合える友人を欲していた。

 それが今日できたのだ。

 確かに、念願とも呼べることが叶ったのだからこの表情に誇張はない。

 

「へぇ~、椎名ほど小説好きな奴がこの学校にいたんだ」

 

「はい、ついつい話が弾んでしまい、私の本を貸してしまいました」

 

「そう、良かったじゃん」

 

 楽しそうに話す椎名さんを伊吹さんは母親視点で対応する。

 

「ちなみに、そいつの名前は?」

 

「綾小路くんです。1年Dクラスの」

 

 その名前に伊吹さんが僅かに固まる。

 

「……あいつか」

 

「お知り合いなのですか?」

 

「まぁね。何度か話したことがある。悪い奴じゃないと思うよ」

 

「はい、とても良い人です」

 

 伊吹さんはそこで話を切り、僕の方に顔を寄せる。

 そして、ひそひそと話し始める。

 

「……大丈夫だよな? 綾小路ってXの候補だろ?」

 

「悪い奴じゃないのでしょう? なら、趣味もあっているので友人関係は続くと思いますよ」

 

 余計な心配をしている伊吹さんを僕が説き伏せると、昼休み終了の予鈴が鳴った。

 次に鐘が鳴った時、午後の授業がスタートするので、僕たちは準備をするために解散した。

 

 

 

 ───────────

 

 

 

 午後の授業が終わり、放課後を迎えた。

 各生徒ごとに行動を始めた教室内はどこもかしこも忙しない。

 だが、僕は今日も今日とてやることはない。

 真っ直ぐ寮へ帰宅したら、それこそ課題をやった後、暇潰しの読書か、才能の無駄遣いしかないだろう。

 

「おい、お前ら。今日もケヤキモールだ。時間はいつも通りでいい」

 

「はい、わかりました」

 

 何人かの生徒に対して龍園くんが指示を出していた。

 その中の代表として小宮くんが返事をする。

 彼らは綾小路くんとその友達の見張りをしている龍園くんの取り巻きだ。

 

「龍園くん」

 

 僕は暇潰しがてら彼に話しかける。

 

「後にしろ。俺は今、コイツらに指示を出している」

 

 僕は暇潰しのために積極的に絡んでいく。

 

「その件についてです。僕も見張り役に参加していいですか?」

 

 僕の発言に龍園くんの取り巻きは目を皿にする。

 当然の反応だろう。滅多に動かない王の右腕が進んで見張りに参加すると言ったのだ。

 珍しすぎるこの行動に小宮くんは瞬きを繰り返していた。

 

「ダメだ。お前が動けば相手は警戒する。いい加減自分の存在感のでかさを認識しろ」

 

 龍園くんはワンテンポ置く間もなく否定した。

 

「気配を消す類の才能も持っています」

 

「ダメだ。Xは俺の獲物だ。お前に邪魔はさせねぇよ」

 

 2度目の否定は低い声で。確固たる意志を持って龍園くんは告げていた。

 どうやら、僕の介入によって綾小路くんに不信感を持たせたくないようだ。

 

「そうですか。なら、他に何かやる事はありませんか?」

 

「何だ、えらく積極的じゃねぇか。暇なのか?」

 

「暇です」

 

「伊吹はどうした?」

 

「椎名さんと帰っちゃいました」

 

 先程、2人は仲睦まじく教室を出ていきました。

 

「生憎だが、今お前に頼ることはない。Xを追い詰めるゲームの駒は揃っているんでな。

 お前は今後のためを考えて節約生活でもしてろ」

 

 龍園くんは棘のある言い方で僕に仕事を与えない事を言い渡した。

 これでは超高校級の希望ではなく、一般的な高校生です。

 より正確には、一人ぼっちな生活をしている一般以下な学生ですか。

 

「そうですか。では今日は散財してきます」

 

「はっ、節約大好きなお前が何に金使うってんだ」

 

「ナンパでもしてきますよ。丁度クリスマスも近いので」

 

「クク、そうかよ。精々頑張れよ」

 

 皮肉がたっぷり乗った応援を無視して僕は教室を後にする。

 正直、放課後のプランなんて全くない。

 きっと、寮で適当に時間を潰すことになるだろう。

 放課後の時間をどう過ごそうが経過する時間は変わらない。よって、適当に過ごす。

 椎名さんが勧めてきた本を読むか、新しい料理を作るか、惰眠を貪るか。

 ツマラナイが、今日もまたそんな一日だ。

 

「おーい、カムクラくん」

 

 廊下を早歩きで移動して昇降口に到着すると、聞き取りやすい女性の声が僕を呼ぶ。

 振り返ると、Dクラスの生徒、松下千秋が近づいてきていた。

 退屈を取り除こうと考えた矢先、新しい出来事がやってくる。

 相変わらず、幸運の才能は分かりやすくてツマラナイ。

 

「何か大事な用事でもありましたか?」

 

 その発言に松下さんはきょとんとした表情を見せる。

 真意を掴ませるために、曲がり角でこちらを見ているDクラスの生徒たちに視線をずらす。

 その中には軽井沢さん、佐藤さんなどの見知った姿が確認できた。

 松下さんが視線移動にした後、補足説明を行う。

 

「あなたの友達でしょう? 彼女たちを待たせてまでここに来たからには何か理由があると思いました」

 

「ああ、そういうことね。確かに、大事な用事と言えば大事な用事かもしれない」

 

 薄く笑う彼女の目的は未だ分からず、興味が向く。

 

「分かる? 前にあった時約束したんだけどなぁ~」

 

 揶揄うように松下さんはそう告げる。

 僕は軽く記憶を遡る。

 彼女と話した日は、ペーパーシャッフル開始の一週間前。

 既にペーパーシャッフルが終了してから約一週間経過したので、だいたい二週間前の出来事だ。

 

「連絡先の交換ですか?」

 

 僕と彼女で約束したことがあれば、テスト終了後に連絡先を交換するということくらいだった。

 あの時は平田くんの仲介によって、ペーパーシャッフルにおける裏切り行為の可能性を消すために後日交換することになった。

 正直、社交辞令のように話を進めただけだと思っていた。

 そのため、交換するためにわざわざ訪ねてくることは僕としても意外だ。

 

「そう。大正解」

 

 松下さんはやや茶目っ気ある言い方で答えた。

 それが作られた嘘っぱちな態度だと僕は知っているが、気分を害することではないので何も言わない。

 

「わざわざ友達を待たせてまでやる用事とは思えませんが?」

 

「待たせたんじゃなくて、勝手に待っているだけなんだけどね。

 ほら、この時期に異性に声かけると皆気になるでしょ?」

 

 この時期というのはクリスマスのことだ。

 12月も折り返しているので、駆け込み恋愛となれば話題の種には十分すぎる。

 思春期真っ最中の高校生であれば、気にするなというほうが無理な話だ。

 

「そうですね。しかし、こうなることが分かっていて僕に声を掛けるのは合理性に欠く判断だと思いますが」

 

「いやいや、むしろ今日しかなかったよ。何せ、学校内でカムクラくんに声を掛けるのって結構大変なんだから」

 

「声を掛けづらい容姿であることは理解しています」

 

「理解しているならその髪切ればいいのに……じゃなくて! 

 龍園くんだよ。君は龍園くんやその友達と行動することが多いから近づきづらいんだよね」

 

 ペーパーシャッフルの期間は龍園くんと行動することが多かった。

 それに学校生活では石崎くんやアルベルトと話すことも多い。

 他クラスからすれば龍園一派というだけで噂はあまり良くないため、確かに女子一人で話しかけることは度胸がいる。

 また、彼女は僕に会うことを優先していないので、学校中で意図的に接触を図ることはなく、偶然見かけたらこの話題で声を掛けようくらいの認識のはずだ。

 

「今日カムクラくんは1人だったから、丁度良くてさ」

 

 僕が1人で、偶然見かけたとくれば、良い機会と言える。

 

「では、さっさと済ませてしまいましょう」

 

 無駄に時間を使わせる必要はないので、僕はポケットから携帯を取り出そうとする。

 しかし、松下さんはその動作を止めた。

 

「待ってよ。ただ連絡先を交換するだけってのもつまらなくない?」

 

「というと?」

 

「この後遊ばない? カムクラくんとは、少しお話(・・)してみたかったんだ」

 

 声のトーンを落として松下さんはそう言った。

 

「それは、他のDクラスの生徒を交えてですか?」

 

 時期はクリスマス。

 異性からの二人きりで遊ぼうという誘い。

 すなわち、デートの誘い。と、言えれば僕も幾分か気が楽だった。

 

「まさか。Dクラスはペーパーシャッフルの試験でCクラスに負けているんだよ。

 それなのにCクラスの生徒を交えて急に遊ぶのはさすがに変でしょ?」

 

 目が笑っていない。

 僕の才能に酔い知れた人間が見せる据わった目付きとは違い、力強いひた向きな眼差しで僕を見ている。

 

「一対一だよ。言ったでしょ、お話ししたいって」

 

「特別試験終了後に一対一で話そうとするのも変だと思いますが?」

 

「変じゃないって。もう、カムクラくんって案外鈍いんだね」

 

 松下さんは恥じらいを声色に乗せて告げる。

 無論、僕はそれが演技であることはすぐに見抜けた。

 何かを企んでいることは明白。

 しかし、全容が見えないために少し興味が湧いてきた。

 

「分かりました。あなたのお誘いを受けましょう。

 場所はケヤキモールで構いませんね?」

 

「うん。じゃ、一緒に行こ」

 

 大げさな一歩を踏み出してから180度反転。

 対峙していた状態から僕の横につく。

 

「構いませんが、その前にやるべきことがありますね」

 

 松下さんは僕の発言に疑問符を浮かべるように首を傾げる。

 しかし、僕が彼女のクラスメイトの方へ視線を向けると、すぐに理解して嘆息をついた。

 先程から感じている強烈な視線、それは軽井沢さんを筆頭としたDクラスの女子生徒たちのものだ。

 心配、不安、嫉妬、そして好奇の視線。

 野次馬と言わざるを得ない彼らは今にもこちらに滲み寄ってきそうな雰囲気があった。

 否、すぐに行動へと移してきた。

 

「ちょっと松下さん〜、抜けがけ〜?」

 

 赤みを含んだ茶髪セミロングの女子生徒、佐藤 麻耶が陽気に告げる。

 彼女は周囲との温度差に気付いておらず、楽しそうに笑って声をかける。

 以前会った時とは、まるで表情が違う。苦手意識を隠そうとせず、愛想笑いを浮かべていた人間の表情とは思えない屈託のない笑みだ。

 

「ねぇねぇ、前会った時から脈アリだったの? 松下さんのタイプってカムクラくんみたいな人なの?」

 

 佐藤さんはグイグイと松下さんに追求していく。

 困った表情で対応する松下さん。

 この2人以外は僕を警戒しているため、場の雰囲気が二面化している。

 

「……ねぇ、松下さん。本当に大丈夫なの?」

 

 軽井沢さんに隠れる形でこちらを覗く女子生徒が心配と警戒を抱きながら問う。

 

「大丈夫だよ篠原さん。約束を果たすだけだからさ」

 

「そ、そっか。なら、その……頑張ってね? ……でいいのかな?」

 

「うん! ありがとう!」

 

 松下さんは優しそうに手を振って答えた。

 その回答に軽井沢さんも篠原さんと呼ばれた生徒も何か言いたげな様子だったが、お互いに顔を合わせ、その身を引いていく。

 追求は野暮と考えたようだ。

 

「お待たせ、それじゃ────行こっか」

 

 上目遣いと柔和な表情。

 男心を惑わせるその演技に僕は退屈さを覚えながらもついて行く。

 僕たちは靴を履き替えた後、約束通りケヤキモールへと進んだ。

 

 

 

 

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