ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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前回の話を加筆修正しました。
是非、お読みください。


龍園の選択

 

 

 

 

 

 

 

 冬休み初日。

 早朝8時を迎えた頃、龍園は私服姿で寮を出た。

 学校に入るためには冬休み中でも制服着用が義務付けられているが、今の龍園にはそんな校則を守るつもりはなかった。

 今日を最後にこの学校を去る。

 龍園はそう決めていた。

 

(我ながら無様な最後だ)

 

 龍園は独りでに鼻で笑う。

 退学する理由は己の責任を果たすため。

 決して、綾小路に負けて全てがどうでも良くなったからではない。

 身勝手な行動を繰り返していた龍園は自分で蒔いた種の後始末をしなくてはいけなかった。

 X探しはDクラスからの脅威を取り除くためと言えば聞こえはいいが、結局は欲望のままに動いていたにすぎない。

 クラスに無茶を強い、殆どのクラスメイトから約1月時間を奪ったにもかかわらず、成果もない上に返り討ちにあって自分自身がクラスの枷へ変わっていた。

 現状、龍園がCクラスに残ったままではDクラスが窮地に追い込まれた瞬間に首を切られかねない。

 綾小路にその意思がなくても、屋上の件を引き合いに出された瞬間、不利になる方はCクラスだった。

 だからこそ、龍園は全ての責任を負って退学する。

 そういう段取りで今回の件に片をつけるつもりで学校へ足を運んでいく。

 到着すれば、1度立ち止まって校舎を見た。

 

(短い間だったが、この学校に来たメリットはあったな)

 

 肌寒さを無視して龍園は高度育成高等学校における己の行動を振り返る。

 才能の怪物に出会い、恐怖の存在を知った。

 心の成長によって駒と部下の使い分けが出来るようになったこと、より広く、深く物事を考えられるようになった視野の広さと思考力。

 少し思い返しただけで利益が溢れている。

 思い出に浸るようなタイプではないが、この学校に来て成長した自分がいることに懐かしさすら覚えていた。

 

(……悔いはない)

 

 断言してみせるが、心の蟠りが晴れない。

 冬風が傷を撫でるように吹き抜ければ、龍園は寒さのことで思考を満たした後、校舎内へ入った。

 頬に湿布、口元に絆創膏が貼られている怪我人だが、向かう場所は保健室ではなく職員室。

 痛みは残っていて今すぐにでも体を休めたかったがそうも言っていられない事情がある。

 

「指定時間前に来るとはな」

 

 職員室の廊下に辿り着いた龍園は担任の坂上を呼ぼうとしたが、職員室の扉を仁王立ちするように待っている堀北学に行く手を防がれた。

 

「だが、私服は見逃せないな」

 

「今更どんな罰を受けようが関係ねぇよ。それより、坂上はどこだ」

 

「坂上先生は進路相談室で待っている。伊吹澪、橋本正義、茶柱先生の3名。そして石崎大地、山田アルベルト、カムクライズルも一緒にな」

 

「……なんだと?」

 

 事前に今日のことを堀北から連絡を受けていた龍園だったが、今の言葉の中に予定外の人物が3人いた。

 しかし、その追求をする前に堀北が付いてくるように目で合図する。

 舌打ちの後、龍園は続いた。

 進路相談室に到着すれば、龍園はすぐさま中を確認する。

 1つの机を囲うように4つのソファーが置かれている教室と大勢の人間。

 2人の先生と伊吹、橋本が机を挟んで向かい合うように、余ったソファーに足を組んだカムクラが座り、その後ろにボディーガードのように石崎とアルベルトが立っていた。

 

「……龍園さん」

 

 一斉に注目を浴びた龍園に石崎は不安そうに声をかける。

 龍園は当然のように無視してカムクラに向き合うように腰掛けた。

 目前にいるカムクラの容姿に突っ込みを入れたくなったが体裁を維持するために無視をした。

 長髪の左横側。腰まで伸びていた髪が今や肩にかかる程度に、しかも部分的に短くなっていた。

 

「……おい坂上、こいつらはなんだ」

 

「……お前が退学すると聞いて集まった野次馬らしい」

 

 坂上は目を瞑り、鼻で笑う。

 

「追い返せ」

 

「出来ない。今回この場を設けた元生徒会長が許可している」

 

 龍園は殺気を込めて堀北を睨むが、堀北は気にせず司会進行。

 茶柱先生から報告書が挟まったクリップボードを受け取り、話し合いを始める。

 

「今回の議題は2点、特別棟にて伊吹澪と橋本の間にあった件と屋上にて、()()()()()()()()()だ」

 

「……ちょっと待て。監視カメラの破壊だと? どういう事だ」

 

「質問は最後に聞いてやる」

 

 場を支配する強い圧力とそれを操る言葉。

 この異質な学校の生徒会長を務めていた貫禄は肌を通じて龍園に伝わる。

 これから退学する以上何をやったって龍園は気にしない。

 つまり、今この場でこの強敵を潰してみたいという気持ちを押える必要はない。

 だが、元生徒会長の腕っぷしは龍園も理解している。

 返り討ちになることは目に見えているため、今回は大人しく従った。

 

「1点目に関しては和解したため深くは追及しないが、確認させてもらう。

 昨日、橋本正義から伊吹澪を特別棟に呼び出し、そこでトラブルがあった。間違いないな?」

 

 堀北が確認をすれば、2人は小さく頷く。

 

「伊吹、お前は橋本の要求を断った後、言い争ったと報告されているが、その時に暴力は振るわれたか?」

 

「いいえ。言い争っただけで暴力は振るわれてません。

 ただ、ヒートアップしてしまったため、橋本くんに行き過ぎた発言をしてしまったことを反省しています」

 

 誰だお前は。

 龍園はそうツッコミを入れそうになる。

 

「僕も自分の未熟さを反省しています。自分の気持ちが報われなかったことで我を忘れ、罵声を吐いてしまったことをもう一度深く謝罪します」

 

 橋本は座りながら伊吹に向けて頭を下げた。

 2人の先生がそれを見届ければ、堀北は話を進めようとクリップボードに視線を落とす。

 龍園はこの事態を既に理解していた。

 綺麗な言葉使いをする伊吹に普段なら笑い転げていただろうが、その不気味な出来事に違和感を感じとっていた。

 

 ─────この話し合いは既にでっち上げられたものだと。

 

「次に屋上の監視カメラ破壊の件だが……まず龍園、お前がスプレーで監視カメラを汚損した事に間違いはあるか?」

 

「ねぇよ。俺が一人でやった」

 

「もう1つ。石崎と山田、カムクラと揉めたと聞いているが、これも事実か?」

 

「……揉めただと?」

 

 誰がそんなことを言った。

 龍園はそう続けそうになるが、その前に発言が被せられる。

 

「事実です。彼が僕たちを呼び出して一方的に襲いかかってきました」

 

 発言者はカムクラ。

 龍園は意図を理解する。

 屋上の監視カメラを塗り潰した龍園が部下を呼び出して制裁を加えた、そんな筋書きにカムクラは導こうとしていると。

 

「カムクラ曰く、お前はある目的を果たせない部下を粛清しようとした。

 そして石崎、山田と怪我をさせたが、カムクラによって返り討ちにあった」

 

 怪我をした2人と無傷のカムクラ。

 嘘に聞こえるが、事実とカムクラの実力から本当に聞こえてもおかしくはない。

 加えて、カムクラの成績は学校1であり、龍園がゲームを面白くするために問題行動に起用していなかったため完璧な優等生としてのレッテルがある。

 信憑性という点では力があった。

 

「……ああ、事実だ。全部俺の責任だ。

 こいつらに俺は暴力を振るったが、返り討ちにあった」

 

 ここで否定すれば、屋上の件で彼らを巻き込んでしまう可能性がある。

 それは全ての責任を取るつもりでいる龍園にとって愚策。

 乗るしかない。

 

「罰は受けるぜ堀北。俺は退学する。

 これだけ1人で暴れたんだ、妥当だろ?」

 

「いいや、妥当ではない。お前の発言には矛盾が発見された」

 

「矛盾だと?」

 

 本題を切り出した龍園だったが、その提案は堀北によって一刀両断される。

 

「お前は1人で行ったと言ったが、こちらの聞いている情報では、監視カメラの破壊にはDクラスの生徒も関わっていると聞いている」

 

「……何?」

 

 混乱する龍園。

 この話し合いに綾小路がどう関わっているか気がかりだったが、思わぬ登場で真意を見抜けない。

 ただ1つ分かることは、綾小路に龍園を退学させる気は本当にないということ。

 この手回しは屋上から解散した後、綾小路が堀北とカムクラを巻き込んで行ったものだと龍園は気づいていたからこそ、そう断定した。

 不利益の方が多いにもかかわらず残す理由は今でも分からないが、今日の話し合いを仕組んだ人物が綾小路だということは腑に落ちた。

 

「今回の議題は監視カメラの破壊だが、議論点は破壊された監視カメラの修理費が均等で良いかという点だ。

 龍園、お前は全ての責任があるように言っていたが、俺は屋上にDクラスの生徒がいることも目撃している。

 その上でお前が他クラスの人間を庇うような性格でないことを踏まえれば、どうにもお前一人の責任とは思えない」

 

 龍園は舌打ちする。

 元生徒会長が目撃したという証言からDクラスと何かしらあったことは明言された。

 ここを深堀されて、あまつさえ軽井沢の件にまで辿り着いてしまえば、龍園にとって最も望まない結果が導かれてしまう。

 考える龍園に今度は坂上が発言する。

 

「乱闘については、お前の怪我具合からカムクラの防衛に行き過ぎた点があることがわかるため、お前にこれ以上の罰はない。

 これらを踏まえた上で学校側からの判断はクラス内のトラブルということで双方に厳重注意という措置を下すそうだ」

 

 厳重注意、すなわち次は停学が待っている。

 これが分かりやすいクラス間の争いだったら1発アウトだったが、今回は状況操作もあってやや行き過ぎた喧嘩として処理されただろう。

 

「龍園、お前がそれでも退学するならば私は止めないが……どうする?」

 

「退学するさ。俺はこれ以上この学校にいる気はない」

 

 龍園は固い意思を持って告げた。

 

「そうか。ならこれに氏名、学籍番号、退学理由を書きなさい」

 

「少し待て」

 

 坂上は退学届と書かれた紙とボールペンを龍園に渡す。

 そしてすぐにもう2枚プリントを取り出す。

 

「お前の退学処理が終わった後、この2枚を石崎と山田にも書いてもらう」

 

「なんだと? こいつらは無関係だろうが」

 

「確かに無関係だ。だが、2人はそれを望んでいる。もし龍園が退学するなら自分たちも退学するとな」

 

「……どこまでも俺を退学させる気はないらしいな」

 

 深く息をつく龍園。

 己の行動が無駄であることは既に理解している。

 ここで龍園が退学しても共倒れになり、退学する意味自体もう無くなっていた。

 

「ちなみに、僕は退学しませんよ。

 僕が退学してしまったらこの世界が終わってしまうかもしれませんので」

 

「……聞いてねぇし、1ミリも理解できねぇよ」

 

 理解不能な発言に龍園は完全に毒気が抜かれた。

 肩の力が抜け、坂上にペンを突き返した。

 

 

「退学は止めだ」

 

 

 未だ綾小路に何のメリットがあるか想像つかない龍園だったが、それでももう行動を起こす気はなくなっていた。

 今更リーダーに返り咲く気も起きておらず、これからは椎名や金田、そしてカムクラに任せるつもりでいる。

 何も描かれていない未来が前にあった。

 リーダーではない自分、クラス内で最も低い位置に降ろされた自分。

 龍園はそこから自分がどう動くか知っている。

 

 だが、今までのままで良いのかと迷いが生まれていた。

 完膚なきまでの敗北を喫した龍園は考える。

 ────このままで綾小路に勝てるのかと。

 

 目線を変える必要がある。

 龍園はとりあえず、そう結論づけた。

 

 

 

 そして、退学せずに済んだことを心の中だけで感情を吐き出した。

 

 

 




Chapter7、終わりです。
本当にお待たせしました。
やりたかったところがまた一つ終わり、やりきった感が凄いです。
いくつか修正点があることは分かっています。0巻と照らし合わせればさらに矛盾がでるかもしれません。
特に、綾小路とカムクラの戦闘シーンですね。あそこは加筆修正しようかなと思っています。
やはり、0巻を読んでから投稿すべきでした。そこは反省点。
とりあえず、よう実0巻を誰かから借りるか貰うかしてきます。
それと並行して、Chapter7.5の作成に集中します。
ちなみに、Chapter7.5は4話構成の予定です。
ここまで読んでくださってありがとうございました!

【追記】
12/30 綾小路とカムクラの戦闘シーン修正しました。

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