ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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一括投稿しようかなって思ったけど、これからは週一くらいに戻します。



Chapter7.5
イメージチェンジ


 

 

 

 

 

 ~カムクライズル、髪を切る~

 

 

 

 

 恋愛感情。

 三大欲求の一つ、性欲からから生じて相手に恋や愛を抱く感情。

 最近になって色々な感情を知ってきた僕だが、この感情を未だ体験したことはない。

 才能に必要のないものを取り除かれた僕は性欲も致命的に削られていて、相手を恋しいとか、愛しいという気持ちを感じない。

 ゆえに、知ろうと思っても困難でしょう。

 

(……日向創が七海千秋に抱いていたようなほのかな恋心、江ノ島盾子が松田に向けていたような重たい愛情。

 どちらもその感情に行くまでのプロセスは理解できますが、その実感がどのようなものかはわかりませんね)

 

 僕はそう結論付けて操作していた携帯を閉じてポケットにしまう。

 今日はまた一段と肌寒く、指先が冷える。

 手袋やマフラーの必需性をしみじみと感じた。

 

「……それにしても」

 

 現在、僕はケヤキモールに来ている。

 本日は12月23日午後。

 クリスマス二日前ともあって、店内は様々なイベントで賑わっていて、カップルと思われる集団がショッピングを楽しんでいる。

 正確には、5割カップル、4割男女グループ、1割その他でしょうか。

 この光景と時期のおかげで、僕はくだらない思考に耽っていたわけだ。

 

「恋の成就のために彼らは様々な努力をしている。主にコミュニケーションとお洒落ですね。

 お洒落のためにポイントを残し、相手と近づくために会話をする。行動力は評価に値します」

 

 僕にとってはくだらないことでも、彼らにとっては必死。

 懸命な行動は分かりやすくツマラナイが、何もしない人間よりかは視界に入れる価値がある。

 

「久しぶりにコーディネーターの才能を使いますか。

 冬服も一着しかありませんし、いくつか見繕っておきましょう」

 

 彼らの行動に触発されたわけではないが、折角の機会です。

 用事を済ませた後、ショッピングを楽しみましょうか。

 

「まぁ何であれ、さっさと面倒を済ませましょう」

 

 僕はポケットに手を入れて歩みを再開する。

 今朝は屋上の件の話し合いがあった。

 事件の流れや情報確認やら、石崎くん宥めやらで9時頃に終わった。

 その後一度寮に戻って休憩した後、僕はやらざるを得ないことがあったのでここに足を運んでいる。

 

「……流石にこれでは嘲笑の的ですね」

 

 僕はガラス張りのショーケースに反射して映る自分の容姿を見てため息をつく。

 ケヤキモールに場違いな制服、そしてアンバランスな長髪。

 僕は無傷だった部分の髪を撫でる。

 やらなければいけないこと。それは、

 

 ────散髪。

 

 昨日、綾小路くんとの戦闘において、左サイドはごっそりと持っていかれました。

 まぁ、切断したのは僕ですが。

 兎にも角にも、腰まで伸びていた髪は肩までちぎれたわけです。

 それも左サイドだけ。

 髪型に拘りのない僕ですが、流石にこれは見過ごせない。

 よって、人生初の大散髪です。

 

「……早めについておきましょう」

 

 僕は昨日の夜に予約した美容院へ足を運ぶ。

 ケヤキモール内にいくつか存在する美容院の中でも、施設を借りることが出来る場所を選び、僕は予約した。

 本来の使用用途は、散髪や頭髪に興味がある人間に対して現役職員と話を交えて経験するためのシステムだろう。

 料金は場所を貸すだけで、ただ髪を切るよりも安く済む。

 色々と僕には都合がよかった。

 

「……いらっしゃいませ」

 

 そうこうしている内に美容院に到着する。

 中に入れば、店員が顔を一瞬引きつかせた。

 今にも吹き出しそうな顔は超分析力を使うまでもなく分かる。

 やはり、この珍妙な髪形とは早い所おさらばする必要がありますね。

 僕は受付を済まし、担当の美容師と共に指定場所に進んでいく。

 そこには整髪するために必要なものが十分に揃っていて、僕から見てもよい環境だと感じ取れた。

 

「今日はどのような用件ですか」

 

 担当の美容師が愛想良く対応する。

 

「自分で髪を切ります」

 

「そ、そうですか。その……、申し上げにくいのですがお客様の毛量を自分だけでやるとなると……」

 

「心配は無用です。美容師の才能くらい持っていますから」

 

 僕が言い切れば、美容師はしどろもどろな様子を見せる。

 大方、失敗した時のことを考えているのだろう。

 しかし、それはあり得ない。

 超高校級の美容師の才能を用いればどんな髪型でも再現できる上にこの毛量。

 今ならば対応できない髪型などありません。

 

「わ、私は少し離れてみています。あっ、ケープはそこにかかっていますので、では……」

 

 散髪道具一式を受け取った後、美容師は一歩下がった位置につく。

 見られるのは慣れているので構わないが、これ以上口を挟まれることは面倒です。

 手早く終わらせましょう。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 ~堀北鈴音、お洒落するってよ~

 

 

 

「……寒い」

 

 午後の三時を回り、いよいよ夕方に差し掛かろうとしたこの時間帯に私、堀北鈴音はケヤキモールを訪れていた。

 今日は朝から先程まで冬休みの課題と自主学習。

 毎日のノルマを達成し終えて気分が良かったので、自分へのご褒美を兼ねて買い出しをしていた。

 しかし、それにしても寒い。

 外に出る以上、身だしなみに気を使った関係もあるが、もう少し着込んで来ればよかったと後悔している。

 

「……丁度良いわ。冬服を何着か買っておきましょう」

 

 自分へのご褒美を決めかねていた私は明日の予定も相まって冬服を奮発することを決意する。

 明日の予定とは、櫛田さんとお話をすること。

 目的はペーパーシャッフルの件でCクラスに負っている借金返済の協力を申し出ること、Dクラスの団結に向けて彼女との仲を縮めることの2つだ。

 

「さて……」

 

 今日はこの後に予定がないので余裕をもって時間を使える。

 ならば、お洒落の研究もかねていくつかの店を回った方が最終的に良い服を選べるわ。

 私はそう判断し、ケヤキモール内をぶらついていく。

 身嗜みには気を使っていたが、お洒落のためにお金をかけるということは私にとって初めての経験。

 Dクラスである以上、節約は必須で、今まで私服はセールで安くなった服を買っていた。

 そんな中でも櫛田さんは自分の容姿を最大限に生かし、そこにただでさえ少ないポイントを割いている。

 入学当初の私ならば、なんて愚かな行為と断言していたに違いない。

 しかし今は、己ではできなかったその行動、承認欲求を満たすためとはいえ、コミュニケーション能力に全力を掛けるその行動には尊敬すら抱いている。

 私は彼女に向き合うと決めた。

 ならば、彼女の辛さ、好感を少しでも気を引くためにこの行為は必要経費だ。

 

「……存外難しいものね」

 

 2、3店回ってみて気に入った服装は見つかったが、お洒落かどうかは判断しづらい。

 私は容姿に恵まれているので何を着ても大体似合うと思うが、それだけではお洒落ではないとプライドが言っている。

 しかし、どう選べばいいか。

 これまでの人生、勉強に費やしてきた私は一般的な女子高生よりもこの手の流行には疎い。

 正直、困ったものね。

 

 

 ────仕方ないわ。

 

 

「……すみません」

 

 私は女性店員に声を掛ける。

 

「最近の流行とか……、その、お洒落な服装というものはどのようなものなのでしょうか」

 

 解決策が見当たらなかった私は羞恥に堪えながら、最終手段、「店員に相談」を決行する。

 決して……、決して逃げたわけではないわ。

 そう、これは私の成長の証。

 入学当初の私ならば、意地を張って延々と一人で決めていたでしょうけど、今は、他人に頼る大切さを知っているわ。

 これこそ、合理的判断よ。

 

「そうですね。最近だと、こちらのお洋服などが流行りですね」

 

 心の中でほくそ笑んでいると、店員が流行のコーナーに案内してくれる。

 そこにはセーターやコートといった冬服、さらには手袋やマフラー、アクセサリーまで用意されていた。

 良いわね。

 私はお洒落に疎いだけで、興味がないわけではない。

 一つ一つ着てみたいという正直な気持ちはある。

 

「何かご要望はありますか?」

 

「……特にないわ。ただ、その、お洒落をしなくちゃいけない理由があるの。

 だから、最近の流行でとりあえず固めたいわ」

 

「……ふふ、もしかしてデートですか?」

 

「……違います。そういうのじゃありません」

 

 ついつい低い声が出てしまうが、すぐに抑えた。

 この店員、微笑ましいものでも見るかのように笑っていて癇に障るわ。

 世間の常識だか何だか知らないけど、クリスマスが近いからといってすぐにそういう思考に持っていかれるのは不愉快よ。

 そもそも学生の本分は勉強。

 娯楽に走りすぎるのは本末転倒と言って差し支えない。

 

「店員の一押しコーデがあるのですが、どうでしょう? 

 お客様は綺麗で上品な雰囲気がありますから、とてもお似合いになると思います」

 

「……それを着れば流行は満たせるの?」

 

 女性店員は愛想よく笑い、頷いた。

 見え透いた世辞に揺れはしないが、今の私にとって重要なのはお洒落をすること。

 私より洋服に詳しい人の意見は聞かなくてはならない。

 

「じゃあ────」

 

 

「────その聞き方では、いずれカモにされますよ」

 

 

 店員の話を承諾しようとした瞬間、背後から聞き覚えのある声がした。

 中性的な男子の声だ。感情が乗っていないこの声の主を私は知っている。

 私は振り返り、答え合わせをするようにその名を呼ぼうとした。

 

「余計なお世話よ、カムッ……!?」

 

 しかし、その名を呼ぼうとした途端、口が開いたまま固まってしまった。

 何度も瞬きを行い、目の前にいる人物が偽物でないかを確認する。

 だが、情報処理が追い付かない。

 

「彼女、借りますね」

 

 来訪者は店員に告げ、距離を取らせた。

 この声のトーン、聞き間違いではない。

 でも、

 

「だ、誰かしら?」

 

「カムクライズルです。久しぶりですね、堀北さん」

 

 来訪者は龍園くんの右腕、カムクライズルくん。

 そう名乗っている。

 が、私の知る彼とはその様相が全く違う。

 だからこそ、私は今も尚困惑していた。

 何せ、

 

「……あなた、その髪型どうしたの?」

 

 ────あの特徴的な長髪がなくなっていた。

 もう一つの特徴である血のように赤い目を向けてくる彼に、私は当然の疑問を投げかける。

 

「切りました。イメチェンですよ」

 

 イメチェン。

 まさに、イメージチェンジだ。

 皆が知るあのおどろおどろしい長髪は、肩までに整髪されていた。

 所謂、ミディアムロングヘアー。それも女性風ではなく、独特だ。

 服装も黒と白をイメージカラーとしたコーディネートをしていて、素人の私でも非常にお洒落だということが分かる格好だ。

 学校で見る彼と違いすぎる。

 

「本当に……、カムクラくんなのよね?」

 

 カムクラくんは軽く頷く。

 

「……フェルマーの最終定理は?」

 

「nが3以上の自然数のとき、Xⁿ+Yⁿ=Zⁿを満たす自然数X、Y、Zは存在しないという定理です。その証明をする必要はありますか?」

 

 ほ、本物だわ。

 この学校でフェルマーの最終定理を答えられる人なんて限られているもの。

 私は一度咳払いをした後、もう一度彼との対話を望む。

 

「……久しぶりね、カムクラくん。私に何か用?」

 

「別に用はありませんよ。偶然、店員にカモられそうだったあなたを見つけたので助けただけです」

 

「別にカモられてなんかいなわいよ。あの店員はちょっとイラついたけど、対応に嘘はないと感じたわ」

 

「嘘はないでしょうね。ですが彼女は店員、利益を上げなくてはいけません。

 あなたに似合うと言ってあなたの出費ギリギリまで買わせるつもりだったでしょう」

 

 痛い所をついてくるカムクラくん。

 納得のいく理由なので反論できない。

 

「……あなたもお洒落をするのね、意外だわ」

 

 会話の主導権を握られるのが気に入らない私は話題を変える。

 

「暇潰しですよ。普段はしません」

 

「それにしては、手慣れているように感じるけど」

 

 黒の大きめなジャケットと薄い白のニットセーター、濃い白のコーデュロイパンツに黒の革靴。

 メンズパンツの種類はあまりよく知らないが、多分流行なのだろう。

 

「そういう印象を与えていますから」

 

 自分に似合えさえすればいいと思っていたが、人の印象を操作するレベルまでお洒落はあるらしい。

 櫛田さんもそのレベルに達しているからこそ、お洒落が楽しいのかもしれない。

 

「見た所、服選びに苦戦しているようですね。そんなにお洒落をしたいのですか?」

 

「……そうよ、悪い?」

 

 先程の話は聞かれている。

 ならば、彼は私がお洒落をしようとしていることに気が付いていると思っていい。

 恥ずかしいが、下手に意地を張るより、もう開き直る。

 

「別に。ただ、何故お洒落をしたいと思ったのかは気になります。

 好きな異性や彼氏でもできましたか?」

 

「……違うわよ。あなたまでそんな俗世間にまみれたことを言うのね。

 自分のためにお洒落をすることがそんなに変かしら?」

 

「いいえ、それも一つの理由だと判断します。

 ですが、時期的にも先程のあなたの反応的にも誰かに見せようとしているように感じたので、先の質問に至りました」

 

 相変わらず鋭い。

 そんな態度をしたつもりはなかったが、彼には違和感があったようね。

 

「……一部始終を見られた以上、あなたに言い訳したところで意味はないわね。

 そうよ、私は誰かに見せるためにお洒落を考えているわ。何か文句でも?」

 

「文句はありませんよ」

 

 私の開き直りに対して、彼は無表情ながらも呆れた様子を見せる。

 以前よりも分かりやすい雰囲気の変化。

 何もない日の彼は意外に気が抜ける人なのかもしれない。

 

「見せる相手は堀北学ですか?」

 

「……なぜ兄さんに私服を見せなきゃいけないのよ」

 

「好きな異性、彼氏が条件ではない以上、肉親か友人の二択では?」

 

「……見せるのは友人よ」

 

「そうですか。それは少しだけ予想外です」

 

 自分の予測が外れたのに満足したような発言。

 やはり、彼は変わっている。

 

「それでは、僕はこの辺で失礼します」

 

 話に区切りがついたので、彼はこの場を去ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

「まだ何か用でもあるのですか?」

 

「ええ。1つ聞きたいことがあるのよ」

 

 私は彼を引き留める。

 聞きたいこと、それは櫛田さんについてだ。

 彼女はCクラスに借金をしている。

 その現状を知りたい。

 

「それは、この往来の間で出来る話なのですか?」

 

 私は首を横に振る。

 他人のプライベートに関係する話だからだ。

 

「ならば、連絡先を交換しましょう。その話を個別チャットで送ってください」

 

 彼はポケットから携帯を取り出す。

 私も取り出し、手早く連絡先を交換した。

 

「大方、櫛田桔梗についてでしょう。ある程度のことなら融通を利かせてあげますよ」

 

「……やけに協力的ね。何が目的?」

 

 カムクラくんがこちらの話に見当をつけていることは今更驚かない。

 それよりも、協力的な態度に私は気になった

 

「未知のお礼ですよ」

 

 そう言えば彼は背を向け、今度こそここを立ち去ろうとする。

 しかし歩みだす直前、

 

「お洒落をしたいなら、今買うのではなく櫛田さんに相談して買った方がいいですよ。その方が失敗しません」

 

 忠告するように告げた。

 彼はそのまま足早に去っていき、私は目新しい彼の後姿を見送った。

 ヒトの第一印象は髪型で決まると聞いたことはあったが、確かにそうなのかもしれない。

 今日の彼は、どこか穏やかな雰囲気があった気がした。

 

「……彼の思い通りになるのは癪だけど、まぁ、櫛田さんに相談してみるのも一つの手ね」

 

 忠告に悪態をついてしまう性格は直す気なんてないし、正直なのはむしろ美徳でしょう。

 しかし、これを機に櫛田さんと交友を図ってみるのは絶好のチャンスだ。

 

 

 私は、自分のご褒美だけ買って、明日の分のポイントを貯蓄した。

 

 

 

 2人の親密度が上がった!!

 

 

 

 

 




実はこの話、少し前からできていました。
投稿していなかった理由はミディアムロングのカムクライズルの挿絵を描きたかったから!
でも、絶望的なまでにセンスがないために無理でした。
一生懸命書いてみたんだけど、超下手でした。
無念……。
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