――きっと、楽しい一日になる筈だった。
――聖君と一緒なら、いつまでも楽しいと思えた。
――いつまでも、普通で居られると思っていた。
「でもそれは、私の願望でしかなかったんだね……」
――心の何処かで望んでいた、その想い。
――普通の女の子で居たい、唯それだけなのに。
――それでもやっぱり、神様は私の存在を認めてはくれなかった。
「……ぁ」
「聖君?」
――ボロボロになりながら尚、私を守ろうとしてくれた人。
――私の膝の上で眠っていた彼が、漸く目を覚ました。
――穏やかな寝顔をもう少し見たかったけど、不謹慎だから蓋をする。
「大丈夫? 痛い所ある?」
「あぁ、問題無い。つーか、こんなの日常茶飯事だって」
――苦笑いしながら口ずさむ言葉に、ホッと安堵の息を吐いた。
――それが強がりだと分かっていても、笑い掛けてくれる彼に悪い気はしない。
――すると聖君は、キョロキョロと辺りをゆっくりと見回し始めて……ある一点を見詰めた。
「クレープ、駄目にしちまったな」
「えっ?」
――何か物悲しげな視線の先、食べ掛けたまま地面に落ち崩れたクレープがあった。
――その言葉の意味は、今の私には分からない。
「最後まで、楽しいままで居たかったのに……」
「っ!?」
――でも、その一言で気付いてしまった。
――彼は最初から最後まで私達の、私の願いを叶えようとしてくれた。
――それが故意であったとしても偶然であったとしても、聖君にとっては何も変わらない。
――家族や友達に向ける彼の想いに、嘘偽りなんて無いから。
――あのクレープはきっと、今日一日という日を表してるんだろう。
――
――聖君は最後まで、私と一緒に
「ったく、俺もお前もさ……」
――ツイてねぇよな。
――その弱々しい笑みは、儚げに映って
「そうだね」
――私はそう答えるしかなかった。
――見たくなかった、聖君の自虐的な顔は。
――見たくなかった、傷付いた聖君を。
――見たくなかった、私の所為で傷付いてしまった事実を。
「……」
――だから私は、心に決めてしまった。
――神様が、私を人として認めてくれないなら
――私の存在が、皆を傷付けてしまうなら
――私は…………人に愛されないと決めた。
――だって私は………………『
非常に不服ではあったが、ボロボロになった土曜日が明け、日曜を越え、そして今に至る。
少しばかり痕は残ったものの、他は全く問題無い状態にまで回復した。
昔から気にはなっていたが、俺の自然治癒力は異常なんじゃないかと疑ってしまう。
まぁ、都合が良いから構わないけどさ。
そんなこんなで月曜日、学校に来た訳だ。
「なるほど、かなり手酷くやられたようだな」
「別にいいだろ、そんな事」
目の前に立つ『地球上の異端分子』こと高杉信也は、何を悟ったのか上から目線の発言をかましやがった。
ニヒルに笑む姿を例えるなら、『心からムカつく物体A』以外の何物でもない。
「お前がここまでやられたのだ。人質を取られたか、滝川道場の師範にでもやられたのだろう」
「いや、後者は無いだろ」
鋭いのか何なのか分からないが前者は当たっているが……。
しかし言い訳をするつもりは無いが、あの状況ではあぁするしか無かった。
俺が傷付くのは構わないが、すずかが傷付くのだけは我慢ならない。
だから自分の行動に後悔は無いし、アイツに責任を押し付けるつもりも毛頭無い。
――ついでだがコイツの言っていた滝川道場とは、海鳴にある剣道場である。
地元の少年少女が日々鍛錬に勤しむ、とても神聖な場所。
そこの師範である滝川当真さんは、無類の強さを有す達人だ。
俺も数度、教えを請う事もあったりする。
「そうだな、あの人は不必要な手は下さない」
「フン……」
どうやら、コイツは相手の検討が付いてるようだ。
俺がとことんボロクソにやられた事を察知したようだし、事実を知るのも時間の問題か。
まぁ、余計な事はしないだろうから放っておいても問題は無い。
と、教室に入ってきたあの姿は……。
「ハラオウンとバニングスか」
ん? 何か様子が……。
「アイツ等、どうかしたのか?」
「何がだ?」
「いや、いつもと少し違うような……」
隣の高杉は気付いていないようだが、俺には何となくだが分かる。
表面上は普段通りを装っているが、どこか浮かない様子が垣間見えたのだ。
毎日顔を合わせてる俺からすれば、その事実に首を捻るしかない。
――今まで一度たりとも、そんな風景を見た事が無かったから。
「……」
否が応にも気になってしまう。
友人として訊くべきか、敢えて訊かざるべきか……。
と考えていると、ハラオウンが俺の前の席に着いた。
「おはよう、聖」
「おっす、ハラオウン」
近くで見るその笑顔は、やはり少し無理してるように見えた。
うむ、やっぱり訊かない選択肢は無しだ。
余計なお世話だろうが、こんな顔を見るのは俺が嫌だからな。
「何かあったか?」
「……やっぱり分かっちゃうかな?」
アハハ、と力無い笑みで答えるハラオウンに、心の中の心配が大きくなる。
こんな弱気な少女は、出会ってから初めて見たからだ。
「今日ね、すずかが休みなんだって」
「――――えっ?」
数瞬、その言葉を理解し咀嚼。
すずかが、休んだ?
どうして?
「体調を崩したって聞いたんだけど、今までこんな事無かったから」
「心配だって事か」
「……うん」
そりゃ確かに、コイツでなくとも心配になるだろう。
声には出ていないが、俺もその事実に動揺を隠せていない。
だって件の少女は、2日前に一緒に居たのだから。
「そっか……」
もう何年もの付き合いなんだ、俺以上に心配な筈だ。
それは、バニングスも同じだろう。
教室の端の席に目を向けると、少し神妙な顔付きで机を見つめてる。
きっと今まで無かった事態に、アイツも何か不安なんだろう。
そして、俺もまた……。
一昨日の事が脳裏を過ぎって、内心気が気でなかった。
~Interlude side:Suzuka~
窓の奥に見えるのは、季節に似合った晴天の空。
雲一つ無いその広がりは、今の私には眩し過ぎるもの。
いつもだったら何て事は無い、いつも通りの青空だった筈なのに……
それが今は、こんなにも
「眩しいなぁ」
あまり見過ぎると、気分が滅入ってしまいそう。
目の前に広がるこの世界は、私には綺麗過ぎる。
私のような、人間でない者には……。
「でも、あの人は……」
私の家族、姉である女性――――月村忍。
あの人は私と同じなのに、自分自身を偽らない。
自分の存在とこの世界を、きちんと見据えた上で生きている。
私には分からない、それがどういう意味を持つのか。
それでも思うのは――純粋に羨ましいという事。
何でお姉ちゃんは、あんなに真っ直ぐに生きられるんだろう。
数年前までは何に対しても冷めていたのに、何がそこまで変化させたのだろう。
きっと、恭也さんのお陰なんだろう。
「好きな人、か……」
誰かを好きになる、誰かに好きになってもらう。
それは友愛などではなく、相手を只管に想う強く尊い愛情。
純粋で綺麗な、人の持つ原初の感情。
……なら私も、好きな人が居れば変わるのだろうか?
「でもそれは、唯の真似事」
自分を変えたいから誰かに恋をする。
そんな下心で手に入れるモノに、本当の輝きはある筈が無い。
そしてその輝きは、私にはあまりにも不釣合い。
あぁ、どうすれば良いんだろう……。
いつまでも学校を休む訳にもいかないし、これからの対応を考えないといけない。
なのはちゃん達は今まで通りで大丈夫。
でも、彼だけは――――
「聖君……」
勉強机の上にある本を見詰める。
ハードカバーで装丁された数冊のそれは、彼から借り受けたもの。
様々なジャンルを網羅した彼の家には、私の心を揺さぶる作品が幾つも存在した。
……これも、もう返さなくちゃいけないよね。
『これ、約束の物だ』
「……」
『今回も、中々良い物を揃えてきたぞ』
「……」
『この前のヤツはどうだった? 個人的にはかなり良作だと思ってるんだが……』
「……」
『やっぱりなぁ。お前もそう思うよな!!』
「……」
『今度さ、お前の本も貸してくれよ』
色々、本当に色々な事を、色々な彼の姿を思い出す。
本が視界に入った、唯それだけの事なのに。
でもそれだけ『本』というものに、私と彼の繋がりがあった。
なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、4人とは違う繋がり。
特別でも何でもないそれが、私にはとても特別に思えた。
本を借りる度、彼の知る世界を見る度、私自身が聖君に近付く感じがした。
嫌いじゃなかった、その感情。
でも分からない、それが何なのか……。
――これは、一体何なの?
晴れ渡る空は、強い日差しは、流れる清風は、何も答えてはくれない。
~Interlude out~
「ちょっといい?」
そうバニングスが声を掛けてきたのは、4時間目の授業が終わって昼休みになった時だ。
瞳は真っ直ぐに俺を見据え、浮かべる表情は真剣そのもので……。
とても昼飯時の談笑をするとは程遠いと、彼女の顔が物語っていた。
「あぁ、別にいいが……」
「それじゃ中庭に行きましょ」
手に持った弁当箱を見せながら、俺を促す少女。
あまり急かしてはいないが、「モタモタしてないで早く来なさい」というプレッシャーをその背中から感じた。
「フェイト、そういうワケだから、アタシと瑞代はそっち行けないから」
「う、うん。なのは達に言っておくね」
鞄から弁当箱を取り出してる間に、バニングスは前に居るハラオウンに用件を伝えていた。
こっちの会話が聴こえていたらしく、それだけで納得して彼女は席を立った。
少しどもってたのは、バニングスの圧力に屈したからではないだろう…………多分。
ともあれ、俺とバニングスは揃って中庭へと向かった。
中庭にある木陰のベンチに、俺達は腰を下ろした。
最近は時期の所為でめっきりと暑くなり、木陰でなければ飯を食うのに支障が出る。
涼風が吹いてくれるのが唯一の救いだと感じながら、俺は隣の少女が口を開くのを待っていた。
元々此処に来たのは、バニングスが俺を呼んだからだ。
そしてコイツが、意味無く俺を呼ぶとは到底考えられない。
先程見せた表情が、何より物語っていたから。
故に俺が出した回答は、俺に聴きたい何かがあるという事。
しかも、ハラオウン達には聴かれたくないという条件付きの。
まぁ、大体予想出来るのだが……。
「単刀直入に聞くわ。……一昨日、何があったの?」
「まぁ、そうだよな」
あまりにもそのまま過ぎて、思わず声が漏れてしまう。
今まで休んだ事の無い月村が体調を崩し、学校に来なかった。
長年の付き合いがあるバニングスからすれば、それは疑う余地のある状況なのだろう。
そして原因となれば、一昨日のデート(もどき)を疑うのが一番だ。
つまりコイツは、俺がすずかに何かしたのだろうと踏んでいる。
だが俺には、アイツがそこまで避けるような事をした憶えも、された憶えも無い。
「それじゃあ、その薄っすら残ってる痣は何よ?」
「あぁ、これか」
言われて漸く気付く辺り、本人も殆んど気に掛けなかった
触っても痛みも全く無いし、正直あるだけ無駄だろうとしか言えない代物だ。
瀬田やハラオウン達に心配掛けるだけだし、刺青は趣味じゃないし……。
「ちょいとバイオレンスな場面に出くわし――」
「――本当の事言いなさい」
「……はい」
視線にナイフのような鋭さを込めて、俺の冗談を睨み斬るバニングス。
ったく、俺としてもすずかとしても、あまり言いたいものじゃないんだが……。
しかし目の前の少女が真剣なのもまた事実で、これ以上誤魔化すのも憚れた。
仕方ないか、そんなニュアンスの息を吐いてから口を開いた。
あまり語りたくない、2日前の事態を……。
…………
………
……
「と、こんな感じだ」
数分後、俺は話すべき事を話し終え、その一言で締め括った。
隣で一字一句漏らさずに聴き入っていた少女は、苦虫を噛み潰したような顔で俯いている
まぁ、流石に飯時に話すには、少々場違いな部分があったのは否定しない。
だがもう過ぎた話で、俺もこうしてピンピンしてるし、そこまで思い詰める必要も無い筈だ。
「瑞代……」
「ん、どうした?」
「もしアタシがすずかと同じ立場だったら、きっと同じ事をするかもしれない」
静かに、ゆっくりと語りだすバニングス。
その表情を見て、敢えて余計な相槌も横槍も入れるべきでないと判断した。
「折角の楽しい日にそんな事があって、正直な所、気が気じゃない」
組まれた手はギュッと握られていて、何かに耐えるような辛さが見て取れる。
「自分の所為でそこまで傷付いて、アタシじゃ顔を合わせるのも辛い」
歯を食い縛って言葉を紡ぐ姿は、あまりにも歯痒い。
そんな顔をして欲しくない、すずかにもコイツにも。
「でも俺は、こうしてピンピンしてる。自分が傷付いた事に対する責任だって、押し付けるつもりも無い」
「分かってる。アンタならきっとそうするって分かる」
「だったら、そこまで負い目を感じる必要は――――」
「――理解出来ても、納得出来ない事だってあるのよ」
その言葉に、口を紡ぐしかなくなる。
何故ならそれは、彼女が口にして当然で、当たり前の現実だったから。
「アンタなら絶対に他人じゃなく、自分に責任を負わせる。自分を傷付ける、自分だけの所為にする」
「それは……」
「そんなの嫌に決まってるじゃない。すずかだけじゃない、アタシだって、なのはだって、フェイトだって、はやてだって…………誰も、そんな事望んでない!!」
「……」
先程までの静かな言葉も、抑え切れなかったのか悲痛な叫びに変わる。
――――全く以って、その通りだ。
あの時、もっと自分に力があれば、すずかを守れる人間だったならと願った。
そして、どうして自分はこんなに弱いのだろうと、誰一人守れない人間なのだろうと呪った。
――あの事態に陥ったのは、全て自分の責任だ。
――この傷は、全て自分の弱さが招いた当然の結果だ。
「アンタがやってる事は、『心配するな、責任を感じるな』って自分の意見を無理矢理アタシ達に押し付けてるだけ。そんなもの、どうやって受け入れろって言うのよ……」
でもその想いは、向けられる相手にとっては身勝手なものでしかなかった。
呟いた彼女の苦々しい表情が、それを何よりも表している。
「アンタだって言ったじゃない。『心配掛けたっていい、心配させろ』って……」
「――――あっ」
「お願いだから、アタシ達にも瑞代を心配させてよ」
――――――――俺は大馬鹿だ。
コンクールの時、何も言わなかったすずかとバニングスに向けたその言葉。
友達の思い遣りを蔑ろにするその行動を糾弾したのは、俺だった筈なのに……。
心配させて貰えなかった悔しさと不甲斐無さ、胸を締め付ける緩やかな痛みを訴えたのは俺だった筈なのに……。
俺は自分勝手な理由で、コイツ等にそれを押し付けて、見ないフリをしていた。
何だよ、それ。
「アタシ達を信じてよ。責任を感じる事も心配する事も確かに辛いけど、無理矢理奪おうとしないで!!」
この耳に届いたのは、友人から向けられた切なる願いだった。
辛い事を自分だけで抱え込まないで欲しい。
楽しい事だけを、嬉しい事だけを渡さないで欲しい。
どんなに重いものでも、きっと皆なら支え切れる筈だから。
だから友達の思い遣りを、申し訳無く思わないでと……。
「……」
それは、あまりにも優しい想い。
受け取る事を躊躇ってしまう程の、果てしない思い遣りに溢れていた。
きっと今の俺は、幸せ者なんだろう。
こんなにも優しい想いに触れられたのだから。
しかしだからこそ、この心に同居する別の想いが、昔から宿っている意志が頑なに阻んでしまう。
「でも、それを急に変えるなんて……」
誰かに責任を押し付けて、誰かの所為にして、そんな事では自分はいつまでも前に進めない。
今までずっとそういう風に意識してきたから、今更すぐに変えられる程の器用さは持ち合わせていないのだ。
言われた位で変われる程、俺が今まで貫いてきた意志は弱くない。
だったら、どうすればいいのだろう……。
どうすれば、彼女達の優しさを受け入れる事が出来るんだろうか?
グルグルグルグル、まるで出口の見えない迷路だ。
「別に変えろってワケじゃないの」
「えっ……?」
だがバニングスの言葉は、俺の迷路をものの見事にぶち壊した。
まるで悩んでる事自体が馬鹿げてるかのような、見事な破壊魔っぷりである。
先程までの優しい想いに溢れた言葉は、ちゃぶ台返しの如く空高く放り投げられている。
何じゃ、そりゃ……。
その答えに呆けている俺を見ながら、彼女は言葉を続ける。
「分かって欲しいのよ。アンタにとって当然の考えが、アタシ達にとっては許容出来るものじゃないって事」
「……」
「人の考えなんて簡単には変わらない。だからアンタには、そう思う人も居るって事を心に留めておけって言いたいの」
「…………そう、だな」
全く以ってその通りだった。
自分は自分、他人は他人なんて言っても、俺達はお互いに不干渉なままで生きてはいけない。
俺達は色んな人達と関わりながら、前に進んでいくのだ。
そこに自分勝手な意見を押し通すだけの行動は、あってはならない。
自分の行動が、相手にも強弱関係無く影響する事を常に理解する。
それが、自分勝手な俺が何よりも気に掛ける事柄なのだ。
「ほら、だったら早くすずかに電話しなさいよ」
「あ、あぁ。分かった」
バニングスに促され、俺はポケットから携帯を取り出した。
アドレス帳を開いて特定の相手を探す。
すずか、すずかはと……。
最近はめっきりと手馴れた手付きで携帯を操作し、彼女へと発信する。
「すずかのヤツ、出ないか……」
数回のコールの後、聴こえたのは『留守番電話サービスセンターへ接続します』という、馬鹿丁寧な声だけだった。
というか、今気付いたんだが……
「繋がったとして、俺は何を言えばいいんだよ」
バニングスの言いたい事は分かったつもりだけど、だからと言ってすずかに向ける言葉はすぐには出てこない。
彼女の言葉に促されて行動したが、正直その場の勢いみたいなもんだ。
「知らないわよ、アンタが決める事じゃない」
だが隣の少女は、さも当然のようにその言葉を突きつける。
何だろう……凄く理不尽な気がしてならない。
しかし、コイツには色々と教えられたのもまた事実。
あまり口答えを出来る立場じゃないのは確かだ。
「それも、そうだな……」
それに、自分自身も言葉を届ける必要性を感じている。
顔を合わせられないなら、せめて彼女の声だけでも聴きたい。
一昨日、あんな顔をさせてしまったからな……。
俺の心情的にも、気が気じゃないのが正直な所だ。
「まぁ、折を見て掛け直すさ」
それだけ告げて、膝に乗せたままの弁当箱を広げる。
昼休みは有限だし、これ以上時間を掛ける訳にもいかない。
「そんじゃ、さっさと飯食おうぜ」
「それもそうね」
バニングスも納得した顔で答えて、俺と同じく弁当箱を開く。
少しばかり強い夏の陽気は、木陰に遮られて丁度良い光源となっていた。
髪を靡かせる涼風は心地良く、静かな時間を刻んでいる。
その穏やかな時間の中で、俺は――――たった1人の少女の事を想っていた。
この時間のような安らぎをくれる、優しい微笑みを絶やさない少女を……。
「ありがとな、バニングス」
「フン、礼ならすずかとちゃんと仲直りしてから受け取ってあげるわ」
~Interlude side:Suzuka~
「ぅ……ぅん…」
緩いまどろみの中、意識が現実に浮上した。
赤い景色が視界に飛び込み、開きかけた瞳を思わず閉じてしまう。
「そっか、もう夕方だったんだ……」
窓から差し込む光の色に、時間の経過を否応無く理解する。
時計を見れば、『PM5:33』と表示されていた。
横になったのがお昼だったから、かなりの時間眠っていたみたい。
流石にこれ以上は生活リズムが崩れてしまうから、柔らかな感触のベッドから立ち上がる。
気怠い体に鞭を打って、両脚に力を込めた。
「う~ん、よく寝たなぁ」
寝不足だった訳じゃないけど、こんなに睡眠を取ったのは初めてかもしれない。
今まで学校を休まなかったし、休日も規則的な生活を心掛けてる。
それを不便に感じる事も無かったから、自分自身で気にしてなかったんだと思う。
――――つまり、今の状態がそれだけ異例だと言う事。
昨日、一昨日と、まともな睡眠も取れず、疲れやネガティブな思考だけが蓄積していった。
だからこそ、今日はこんな時間からグッスリと眠れたんだと思う。
「何か、不謹慎だな。私って……」
2日間の時間を掛けて、考えに考え抜いて出した結論。
不思議なもので、出てしまえば気分が幾分か楽になった気がする。
苦しかった胸のつかえが取れたような、そんな感じ。
一眠りしたから、もう普段通りの自分になれる。
家族の皆に心配掛けちゃったし、もう大丈夫だって姿を見せなくちゃ。
……と、不意に時計の隣にあった携帯に目が留まった。
「あれ、着信がある」
ランプの点灯が、それを教えてくれた。
着信を聴いた記憶は無いから、多分寝ている間に来たのだろう。
誰だろう、アリサちゃん達は朝の内に掛けてくれたけど……。
携帯を開いて履歴を見ると、3件の着信。
そしてその全てが――
「――――聖君」
たった1人の少年によるものだった。
12時辺り、3時過ぎ、そして1時間前。
それぞれに彼からの連絡があったと、画面に記されていた。
そして最後の1件には……
「留守録、入ってる」
時間を見ると、3分弱。
録音時間の制限は無いけど、こんなに使う人は今までに居なかった。
どんなメッセージを残しているのだろうと気になる反面、怖くて聴く事を躊躇ってしまう。
聖君が私に向ける言葉なんて、好意的なものであってはいけない。
彼を傷付けたのは間違いなく自分で、そんな言葉を向けられる資格なんてある筈が無い。
例え聖君が何一つ、そんな事を思っていなくても。
私自身は、そう思わずにはいられないのだから。
「でも……」
彼の言葉を聴く事で、漸く最後の決心が付くと思う。
最後の最後まで迷っていた、彼との今後の付き合い方。
聖君の言葉を知れば、本当の意味で決められると思うから。
私は、ボタンを押して、メッセージを再生した。
『あぁ……えっと、聖だけど…………』
第一声は、何処か遠慮したような控えめな様子。
普段の堂々としたものでは無く、何処か緊張して萎縮したような声だった。
受話器越しの彼の姿を容易に想像出来てしまい、少しだけ頬が緩んでしまう。
『本当は面と向かって話したいんだけど、きっとお前は……俺に会いたくないだろうから、我慢する』
それもすぐに消えてしまった。
『一昨日の事、改めて謝る。…………ゴメン』
~Interlude out~
~before an hour~
ひなた園にある自室で、俺は1人で言葉を紡ぐ。
向けるべき相手は、受話器の先に……。
「言っておくけど、ゴメンってのはお前の思ってる事じゃないぞ」
これから聴くであろう相手は、どのような想いでいるのだろう。
反応を知る術の無い以上、俺は自ら思うままに言葉を発するしかない。
「俺の力不足でお前を守りきれなかったってのは事実だけど、それだけじゃ駄目なんだって……教えられた」
自分自身だけの都合で物事を完結してしまってはいけない。
自分の意志や行動が他人に影響を及ぼす事を、俺は理解しなければならない。
例えそれが実行出来なくとも、知っているという事と知らないという事では大きく違う。
これも、バニングスのお陰か……。
「バニングスが言ってた。自分の意志が、周りに影響する事を理解しろって」
その上で、自分の行動に責任を持つ。
行動による自分への反動だけでなく、他人への影響も含めて……。
それが本当の責任を取るという事なのだと思う。
だとするなら俺は、誰から見ても無責任な奴だった。
「俺は今まで、自分の尻拭いだけで充分だと思っていた。だからこんな事態を招いた」
思えば此処でも、俺の未熟さが露呈するようだ。
他人に迷惑を掛けなければ……そんな言葉が既に身勝手だったのだから。
「だから気付かなかった、いつの間にかお前を傷付けていた事に」
そんな事、本当はしたくなかった。
心の底から笑っていて欲しかった、悲しまないで欲しかった。
俺はすずかを、優しい少女を守りたかっただけなのに。
「でも時間は戻らないし、後悔しても意味は無い。だから……決めたんだ」
意を決すると共に、緊張で喉がカラカラになってきた。
でも、言わなければいけない。
俺は間違ったとしても、それを受け入れて、自分の意志で正していこうと決めたのだから。
あの日――――夜の校舎で誓った。
「俺はそう簡単には自分の考えを変えられない。だから必ずしも、変われるかは分からない」
これはきっと、誰にも分からない問題だ。
知らない内に多くの人に迷惑を掛け続けてきた俺が、受け入れるべき事実なのは理解している。
だからその事実から目を逸らさず、進んでいくと言った。
それでもやっぱり、感情に根付いたモノを簡単には取り除けはしない。
「だからさ……」
でも、きっと大丈夫だと思う。
これは1人の問題じゃないのだから。
俺が受け入れる日を、待っていてくれる人達が居るのだから。
そして何よりも、俺は――
「お前も少しだけでいい。俺の事を理解して欲しい、知って欲しい」
――1人じゃないから。
~out~
~Interlude side:Suzuka~
『お前も少しだけでいい。俺の事を理解して欲しい、知って欲しい』
耳に入ったその言葉は、あまりにも意外なものだった。
傍から聴けば当然と言わんばかりの、あまりにも自分勝手な言葉かもしれない。
でもそれは、この声の主を知らない人だからそう思うだけ。
――――彼が、瑞代聖という少年が、自分の存在を誰かに訴えている。
その変化は、私の心を揺さぶるには申し分無いものだった。
『押し付けるつもりは無い。お前に唯、俺を見て欲しいと思うだけだから』
何で……?
何でそんな事を……?
発される言葉の一つ一つが、私の心にストレートに届く。
曲がらず、捻れず、折れず、砕けず、只管に真っ直ぐな想い。
『でもさ、俺……思うんだ。きっとこのままじゃ、俺達は妥協し合いながら生きていくんじゃないかって……』
そんなのは、嫌だ――
言外にその意味を持たせた声は、決して凛々しさには満ちていない。
でも、それを伝えたいという気持ちだけは充分に分かった。
『そんなの嫌なんだよ。相手の事ばかり考えて、自分の意見を蔑ろにするのは……妥協なんじゃないかと思う』
相手の意見を尊重するあまり、自分の意見を封じ込める。
相手への遠慮した気遣いは、行き過ぎれば拒絶に等しい。
確かにそれは――妥協と言えるんじゃないかと思う。
でも、それは……仕方のない事。
それが私達にとっての、最良の立ち位置なんだから。
『それだけは嫌だ。俺はお前と、きちんと理解し合いたい』
それでも彼の声は、私の想いを否定する。
私が何度も考えて、苦しみ抜いて考えた末の答えを、認めてくれない。
私はこれ以上、聖君を傷付けたくないのに……。
『言いたい事を言い合える、一切の妥協も必要無い関係になりたい。お前がどう思ってるか分からないけど、少なくとも俺はそう思ってる』
やめて、ヤメテ、止めて…………。
それ以上、想いをぶつけてこないで。
それ以上、私にそんな言葉を掛けないで。
私の心に触れないで、優しく包み込もうとしないで。
『――って、何か言ってて恥ずかしいぞ俺。べ、別に深い意味がある訳じゃないぞ!? 唯、その、あれだ……俺はだな………』
恥ずかしそうな声で、一生懸命に話さないで。
貴方の優しさが、私に一縷の望みを与えようとする。
あり得ない、そんな筈は無い。
貴方が――――私を受け入れてくれるなんて、ある筈が無い!!
『いつも居る奴が居ないのってさ、結構寂しいもんなんだよ。俺だけじゃなくて、ハラオウン達も……』
『だから、無理する必要は無いから、気持ちが落ち着いたら学校に来てくれよ。――――待ってるから、俺』
「っ――――何、で……」
どうして貴方はそこまで、私の意志を簡単に崩してしまうの?
持つべきではない希望を、無自覚の内に私に与えてくれるの?
この内から込み上げてくる想いは何なの?
私はソレを持ってはいけない、その筈なのに……。
どうして――――
「ひっ……じり、くん………」
――――貴方を信じたいと、思ってしまうの?
「っう…うぅ、ぁぁぁ……な……んで」
決壊する、胸の内で押し殺していた想いが……。
溢れ出す、瞼から流れ出る透明の雫が……。
決めたのに……。
自分の生き方、誰も傷付けない方法を。
決めた、のに……。
――どうしてまた私は、迷っているの?
~Interlude out~
「兄ちゃん兄ちゃん」
「んぁ……どうした?」
ひなた園の庭で繰り広げられる、子供達の遊び姿。
和気藹々としたその空間は、見るだけで心を和ませる不思議な力がある。
その中で俺は、夕焼けに染まる空をボンヤリと見上げているだけだった。
子供達の中心に立っていた平太に声を掛けられたのはそんな時だ。
「さっきからぼぉ~っとして、どうかした?」
「いや、別に何もねぇぞ」
「ふ~ん……」
何やら納得出来ていない様子の弟の視線が、何故か痛い。
訝しげな瞳は真っ直ぐに俺を射抜き、逃がすまいと訴える。
うぅむ、本当に何も無いのだが……。
「……まぁいいや。具合悪かったら、師父の所行かなきゃ駄目だぜ」
「分かってる。だから気にせず遊んで来い」
「おう!!」
そう元気の良い声を発して、皆の輪に戻っていった。
元気が有り余ってるようで何より、流石遊び盛りだな。
――――さて
「どうしたもんかな………」
隠してたつもりだったが、平太には勘付かれてしまった。
俺が考えに耽っていた事に……。
掌の上で弄んでる携帯がその証拠。
あれから一時間が経過したのだが、すずかは聴いてくれただろうか?
繋がらなかったのは故意によるものか、はたまた偶然か……。
そんな事はこの際どうでもいい。
留守録には俺の言葉を吹き込んでおいた、すずかがいつでも聴けるように。
それだけが重要なのだ。
「最悪、聴く前に消されるってのもあるよな」
フッ、と自嘲気味に笑みを吐き捨てる。
あれから考えた、休み時間も、授業中もずっと……。
本当なら一晩中考えた方が良いのでは、とも思った。
でも、時間を掛ければ良いものでもなかった。
今の俺が出来る事、伝えたい言葉を出すしかないんだから……。
だから
――それでも、やっぱり不安は拭えない。
相手の気持ちを重んじたって、それは分からないなりの行動でしかない。
上手くいくならいいが、もし彼女の求める言葉がそこになければ……。
もう二度と彼女に近付く事は出来なくなるだろう。
物理的にも、精神的にも……。
「拙いなぁ。うっわ~、何か自信無くなってきたぞ」
自虐が高じて馬鹿みたいに不安になる。
頭を軽く抱えてる姿は、さぞ滑稽な事だろう。
最早過ぎてしまった事なのに、見えない未来は暗闇のようで。
間違っても後悔はしないと決めたのに、未だ心は認め切れていない。
やっぱり、言い知れぬモノが邪魔をする。
今までだったら、きっとこんなにも悩まない。
――――つまり『月村すずか』という少女が、俺にとって特別だと言う事だ。
その事実が、俺自身の感情を揺さぶる。
「聖、どうしたんだ?」
「あっ……師父」
視界に差す赤い光を遮る影。
見上げればそこには、俺より一回り大きな体躯を持つ男性。
優しい笑みが良く似合う、俺の最も尊敬出来る人だった。
「珍しく難しい事を考えてるみたいじゃないか」
「珍しいって、何気に傷付くんですけど…………本当の事でも」
「ハッハッハッハッ、そんなに落ち込むな。良い事じゃないか」
俺の落ち込み具合を、一笑で吹き飛ばす師父。
あまりに爽快過ぎて、こっちまでそれがうつってしまいそうになるから不思議だ。
――本当に不思議な人だな、この人は。
「少しだけ、いいですか?」
だから、勝手に口が動いていた。
自分が持て余すこの感情を、師父ならば知っている筈だと思ったから。
師父が答えを教えないのは知ってるけど、それでもヒントはくれる。
ゆっくり頷く姿を見て、俺は話し始めた。
「自分がどんなに傷付いても、笑顔で居て欲しかった人が居た。でもその考えは、相手に対して自分勝手なものなんだって教えられて……」
ポツポツと語り始める横で、師父は一つ一つの言葉にゆっくりと頷く。
どんな表情をしてるか分からないが、それでも安心して話せるのは、この人の人柄のお陰か。
「自分でも心の何処かで分かっていたんです。師父やシスターに心配を掛ける度、それは自分の弱さが原因だって言い訳を作って誤魔化してただけで……」
そうすれば誰かの所為にしない。
自分だけの問題なら、何も深く考える必要は無い。
俺がもっと強くなればいい、唯それだけだから……。
自身にのみ向けられたソレは、しかし他人への影響は確かにあったのだ。
「アイツから教わった……変えなくちゃいけないじゃなくて、自分の意志で変えたいと思ったんです。簡単には出来ない、もしかしたら不可能かもしれない」
それでも、やれる事だけはやってみせる。
どんな困難だろうと、やる事に意味があるのだと知ったから。
それが――――前に進む力。
「それでも、俺はすずかに笑って欲しい」
そう、唯それだけが欲しいんだ。
アイツの笑顔をもっと見ていたい。
穏やかで、それでいて華やかな微笑みを、もっと傍で……。
「そして、俺も笑いたい」
アイツと一緒に笑い合えれば、きっと楽しい。
そこにはハラオウンもバニングスも、高町も八神も。
瀬田や遠藤、金月…………オマケとして高杉も。
皆が揃えば、どんな時だって楽しいのだと信じてる。
「……でも俺はまだ、自分の行動に自信が持てないんです」
自分の行動は、果たして正しかったのか?
俺の言葉は、すずかに届いたのだろうか?
内心、ビクビクしてる情けない自分が今の姿だ。
「そうか……」
その声に振り向けば、そこには穏やかな笑みを湛えた師父。
いつも俺に向ける、親としての優しさがあった。
「そこまで見付けていれば充分だ」
「師父?」
「お前は充分変わったさ。だから、そこまで不安に思う事は無い」
その言葉は、一体どういう意味だろうか……。
俺は変わったのか? 変われたのか?
「お前の想いは彼女に届くと、私は信じている」
「……どうして」
何故この人は、これ程までに自信を持って言えるのだろう?
どうして、こんなに俺を信じてくれるんだろう?
根拠の無い自信は、唯の虚言でしかないのに……。
この人の言葉は、何の打算も無く信じたくなってしまう。
「俺はそんなに誇れる人間じゃ……」
「――私は唯、お前の意志を尊重しただけだ。彼女と共に笑いたいという、お前の想いを、な」
本当に、この人は――
「誰かと笑い合いたい、お前がそんな想いを持つ事が出来たんだ。これからだって、真っ直ぐ進める筈だ」
どんな時だって――
「お前は『
俺の迷いを払ってくれる。
『聖』の意味――――自分の想いに
自分の聖しささえ見失わなければ、きっと恐れる事は無い。
何故ならそれは自分にとっての正義であり、何の疑いも無い
「お前は私の自慢の息子だ。だから、大丈夫だ」
ポン、と頭に手を置かれる。
師父の優しさが、触れた場所を通して伝わってくる気がした。
心に、全身に、ソレが染み渡ってきて……思わず目頭が熱くなる。
俺はこんなにも、優しい人達に守られてるのだと改めて理解した。
「――――はい」
だから、その言葉に迷いは無かった。
どれだけ難しい道でも前へ進もう。
足許だけ見るのは、もうこれで終わりだ。
これからは聖しさを胸に真っ直ぐに、顔を上げて前を見据えていく。
「うむ、これならもう心配無いな」
「ありがとうございます、師父」
いつだって俺の力になってくれる師父には、全く頭が上がらない。
自分の未熟を痛感すると共に、この人の凄さを改めて感じる。
心の底からの感謝を込め、一礼。
だが師父は、どうしてかニヤついた顔で俺を見ていた。
「気にする事は無い。息子の色恋事情には、親として首を突っ込みたくなるものなんだよ」
新しい玩具を見つけた子供のような顔で、そう言い放つ。
予想だにしないその言葉に、俺の脳内が思考を急加速させた。
「い、色恋って……!?」
「何だ、違うのか?」
至極当然のように訊いてくる姿は、まるで此方の方が間違っているのではと錯覚する。
だが――――
「いえ、多分……そうだと思います」
自分でも知らずにいた感情。
けど、完全に忘れ去った訳じゃなかった。
すずかと一緒に居て気付いた。
――アイツと居ると、楽しくなる。
――アイツと居ると、心が穏やかになる。
――アイツと居ると、ドキッとする。
――アイツと居ると、もっと近付きたくなる。
その感情はきっと、間違いなくたった1つだ。
「俺はアイツが……すずかが好き、なんだと思います」
「誰かと笑い合いたい、その感情は間違いなく『好き』というものだ。曖昧に答えてはいけないぞ」
俺の間違いを指摘するような、厳しい一言が向けられる。
そうだ、そんな答えは相手に失礼だ。
曖昧な言葉は、そこに込められる想いすらも曖昧にしてしまう。
俺の想いは曖昧…………そんな筈は無い。
すずかへの気持ちは、誰にも負けない自信がある。
ハラオウン達がどれだけの時間を掛けて絆を育んできたとしても、それ以上の絆をこれから育んでみせる。
その意志は、誰に何を言われようと曲がりはしない。
ならばそれは――――
「俺は――――アイツが好きです」
隣の師父に、真っ直ぐの瞳で言い放つ。
相対する師父はそれを逸らす事無く、同じく真っ直ぐに見返してくる。
だがその瞳には、どこか嬉しそうな色が見えた、気がした。
「良い答えだ」
握り拳を俺の胸にコツンと当て、満面の笑みを見せてくれる。
これだけで、自分の選択が間違ってなかったと自信を持てる。
「それじゃ、あの子達の事は頼んだぞ」
「はい、分かりました」
それだけ言うと師父は、踵を返して家に戻っていく。
もう言う事は無い、その背中が如実に語っていた。
それは颯爽と現れた正義の味方のように、当然の如く誰かを救う姿。
今はまだ遠い、願いの先。
「いつか、必ず……」
その先へ届いてみせると、幼い頃より決めていた。
胸にジンワリと残る、あの人の温もりを握り締めて思う。
だからその為にも、すずかの事から解決していかないと。
「すずか……」
彼女は今、何をしてるだろう?
本当に体調を悪くしてないだろうか?
きちんと静養してるだろうか?
留守録は聴いてくれただろうか?
学校に来たら、すぐにでも声を掛けないといけないな。
だから早く、逢える事を祈ろう。
最早この胸に過ぎるのは、彼女へ向けられるものだけだった。
きっと、この想いが……
――好きって事なんだろう――
だがその想いも虚しく、今週の学校で俺がすずかに逢う事は…………無かった。
今まで目を逸らしてきた自身の歪み、それに直面した時、少年は新たな覚悟を胸に刻む。
その行く末を決めるのは、いつの日か……。
どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
すずか編№Ⅱをお読み下さり、ありがとうございます。
今回は聖の覚悟とすずかの苦悩、その2つが交錯する話となっています。
アリサから指摘された聖の持つ歪み、それを自覚し理解した時、彼はまた一歩前へ進む。
一方すずかは、聖の言葉に自分の覚悟が揺らいでしまい、更なる苦悩に苛まれる。
完全に対極する2人の物語は、次話で急加速します。
それにしても、途中のアリサが聖に指摘するシーンですが、実はもっとアッサリ流す予定でした。
なのに気付けばこんな結果だよ、アリサが黙ってくれなかったよ!!(;゚Д゚)
アリサ編を引き摺ってる訳ではないんですが、どうしても彼女には此処でキツく言って欲しかったというのがあったが故です。
そしてお気付きの方も居ると思いますが、最後の方の聖が『会う』ではなく『逢う』と言っています。
この意味を分かっている人なら、聖の変化を理解出来るかと思います。
最近は少しずつですが色々な方に読んで貰っているようで、作者として非常に嬉しく思います。
今後も地道に頑張って、いつの日かランキングにでも載れればいいなぁ……( ´ω`)
その為にも、皆さんに良い評価を貰えるよう頑張りたいと思います!(`・ω・´)ゝ
今回はこれにて以上となります。
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直接メッセージでも、作者的にウェルカムです。
では、失礼します( ・ω・)ノシ
またまたアリサ編でのネタ。
デート中で聖が言ってた着信に設定している曲ですが、refioさんの『little love』だったりします。
良い曲ですよねぇ、『monochrome』も結構好きなゲームでした。