少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

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――気にならなかったと言えば、嘘になる。
――彼女があそこまで『安全』という理念に固執する理由。
――そして、昨日のあの慟哭。

――レイジングハートが言うには、約2年前に起こったある事件が関わっているらしい。
――だがそれだけ、内容には全く触れようとはせず口を噤んだ。
――それは彼女のプライバシーを重んじての判断か、それとも……。
――誰かの過去を探るなんて事は、正直やりたくはない。
――それでも、過去を知る事で伝えられる言葉がある。
――過去を知ったアイツ等の言葉で、態度で、俺が変われたように……。

――だから高町の過去を知っているであろう人に、片っ端から連絡を取った。
――ハラオウンと八神は繋がらない、恐らく自分達の任務に従事しているんだろう。
――シャマルさんも本局の方に出向いてるらしく、家には居ない。
――だが運良く、連絡を取れた者も居た。

「ったく、急に連絡があったかと思えば、本局に連れてけってどういうつもりだよ」
「悪い。でも、少し話したい奴が居るんだ」

――埃一つ無い綺麗に整えられた通路を通りがなら、ぶつくさと悪態を吐く少女。
――俺の鳩尾に少し届かない程の身長、2つに結ばれた三つ編みを揺らしながら歩く、ヴィータ。
――地球に戻る途中だった彼女に頼み込む事で、何とか本局への移動手段を手にする事が出来たのだ。
――正直利用しているみたいで気分が悪かったが、今の現状を顧みて手段を選んでいられないと判断した。
――レイジングハートも行動を開始した俺を咎めようとはせず、静観するのみ。
――言外に俺の行動を促している節もある。
――だから進むと、たとえ高町に嫌われる事になったとしても、何も知らないままで居るのは嫌だから。

「で、何処行くんだ?」
「あぁ……無限書庫にな」

――この管理局を支える、無限の情報を擁する超巨大データベース。
――だが俺が用があるのは、そこのデータ群ではない。
――そこで司書として働く、1人の少年に用があった。

「何の用かは知らねぇけど、あんま変な事すんなよ?」
「忠告ありがとな」
「……フン!!」

――隣の少女、その乱雑な言葉遣いの中に潜む、彼女本来の優しさに苦笑する。
――どうにもコイツは、ぶっきらぼうに成り切れないらしい。
――俺の礼にそっぽを向く朱髪の彼女は、恥ずかしそうに頬を染めていた。
――ったく、管理局で仕事してても、こういう所は子供だな。
――その仕草が何とも言えぬ可愛さに溢れていて、俺は思わずその頭を撫でていた。

「って、何すんだよ!?」
「少しは素直になれってんだよ!!」
「うっせー!! 余計なお世話だ!!」

――頭を振って逃げようとするヴィータを離さないように、ガッシリ掴んで撫でてやる。

「これ撫でてないだろ!? 擦ってるだけだろ!!」

――ハハハと棒読み風な高笑いをかまして、彼女の喚きを無視する。
――ダイレクトに感情を伝えてくれるコイツは、いつだって相手にしていて楽しい。
――それはきっと、自分に本当の姿を見せてくれているからだと思う。
――嘘偽り無い、素の感情をぶつけてくれるから。

――なら、高町はどうなんだろうか?
――未だガァガァと牙を剥き出す少女を見ながら、今は眠りに就いている友人を想う。
――お前はどうして、『笑顔』のみに頼ったんだ?







N№Ⅴ「涙を見せて」

 

 

 

 

 

「どうぞ。そこのソファにでも、好きに腰掛けてくれて構わないよ」

 

 無限書庫、無重力による超三次元空間の片隅にある、重力を残した一室。

 司書と呼ばれる者の中でも、能力的に上位である者に与えられる『司書室』。

 貸し出した資料の行方や、分類出来ない書籍の確認、その他諸々の雑務をこなす専用の部屋。

 

 視線の先に居る少年、ユーノ・スクライアもまた、それを与えられた者の1人だった。

 本人は、専ら仮眠の為に使っているらしいが……。

 彼の言葉に従い、俺とヴィータは近くの大き目のソファ――俺が余裕で寝転がれる――に腰を下ろした。

 

「悪いな、仕事中に」

「気にしなくていいよ。この前と同じだから」

 

 アハハ、と苦笑いを浮かべるスクライアに、呆れを通り越して感心してしまう気持ちが芽生える。

 俺が初めて此処を訪れた時、コイツは休憩中にまで仕事を手伝うという所業を行っていた。

 高町も呆れていたが、やはり相当な本の虫だ。

 まぁ……そういう所、共感は出来るけどな。

 

「ヴィータも久し振りだね、元気にしてた?」

「いつも通りだよ、アタシも他の皆もな」

 

 スクライアの問いにソファの背もたれに身を委ねながら、頭の後ろで手を組んで気楽に答える。

 不遜な対応だが、それを笑って見ている様子からしてコイツも慣れているんだろう。

 高町と同じように数年来の付き合いなのかもしれない。

 この2人の様子を見れば、想像というよりも確信に近い訳だが……。

 

「それで急にどうしたんだい? なのはと一緒じゃないみたいだけど」

「その言い方、もしかして俺の状況を知ってるのか?」

「うん、簡単にだけどね」

 

 最初に会った時アイツと一緒だったが、それでも高町だけが知り合いだとは考えていないだろう。

 ハラオウンや八神の事も知ってるのだから、そちらの可能性だって充分にある。

 それでも俺と高町が一緒に居る事を当然のように言うのは、つまり高町が俺の護衛任務に就いている事を知っているからだ。

 事実、スクライアは首を縦に振って肯定を示した。

 

「謎の魔導師に狙われていて、その脅威から君を守るのがなのはの仕事だって……」

「簡単っつーか、概要は完璧だな」

「元々シンプルな内容だからな、そんくれー当然だろ」

 

 踏ん反り返りながら至極真っ当なヴィータの一言に、だろうな、と返しておく。

 ヴィータに関しても、八神やシャマルさんとかに聴いたんだろう。

 2人共、特にシャマルさんには検査を担当して貰ったから、当然その辺りも聴いているだろうし。

 と、現状把握を完了した所で、急に目の前の眼鏡君がソワソワし始めた。

 

「ちょっと、訊いてもいいかな?」

 

 先程までの余裕は形を潜め、落ち着きの無さが顕著に現れている状態。

 気まずそうな笑みを浮かべながらも、両手が虚空を彷徨うように動いているのは何故だろうか?

 思わず頷いて答えた俺に、彼は意を決すように表情を固めて――

 

「な、なのはとは、いつも一緒に居るのかな?」

 

 ――意外と普通な事を言い放った。

 あれだけの心の準備をしておいて、口から出たのは何ら代わり映えのしない言葉。

 そのスクライアは、口を真一文字に結んで俺の答えを待っている。

 何か、凄い鬼気迫る様相なんだが……。

 

「あ、あぁ。最近は特に一緒に居る事は多いけど、それが?」

 

 気圧されるように答えると、今度はその顔に暗い影を落とす。

 さっきから奇行が目立つんだが、一体どうしたというのだろうか?

 ……正直、全く訳が分からない。

 だが隣の少女は、その忙しなく感情を揺り動かすスクライアを見ながら、必死に笑いを堪えていた。

 しかしすぐに耐え切れなくなったのか、堰を切ったように馬鹿笑いをかましやがった。

 

「どうしたんだよ、ヴィータ?」

「馬鹿かオメー、あんなの見て我慢出来るか!!」

 

 ダーハッハッハと一層大きくなる笑い声に、先程のスクライアの奇行を思い出す。

 いやしかし、俺にはそこまで笑う要素は無かったと思うんだが…………滅茶苦茶変だったけど。

 尚も高笑いを止めない彼女に、その元凶らしい少年は顔を真っ赤にしながら唸っている。

 

「ヴィータ、僕はこれでも本気で……」

「オメーが心配しても意味ねぇだろ。アイツの問題なんだから」

「それは、そうだけど……」

 

 どんな共通意識を持っているのか分からないけど、取り敢えずこれだけは分かる。

 

 ――――カオスだ、色んな意味で。

 目の前で勝手に話を進めている2人に、蚊帳の外である俺には最早追い着ける事なんて不可能。

 別にこんな会話をする為に来た訳じゃないんだけど、と思わずにはいられなかった。

 そんなある日の、司書室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が勿体無いという事で、先程の会話は早々に打ち切った。

 ヴィータの爆笑の意味も、スクライアの奇行の理由も大体把握した。

 確かに昔から好きな女の子が他の男と一緒に居ると知れば、気にならないのは嘘だろう。

 

 その気持ちも分かる気はする、実際に経験あるしな……。

 今となっては馬鹿みたいな想い出だけど、当時はそれはもう酷かった。

 と、自分の過去なんて今はどうでもよくて、早く本題に入らないと。

 

「お前の言いたい事も分かる。だけど今、そんな事を悠長に語ってる暇は無い」

「どういう事だ?」

「つーかお前等、俺がどうして此処に来たのかって疑問が流れてるんだが……」

「「……あ」」

 

 目を見開いてアホらしい声を漏らす2人に、正直頭を抱えたくなった。

 しかし現状で話を訊けるのはコイツ等だけ、高町と長い付き合いのある2人にしか頼めない事なのだ。

 故にその衝動には目を瞑って、早速本題に入る。

 

「今現在、高町は自宅で眠ってる。今朝、突然倒れてな……」

「倒れたって、どうして?」

 

 その時、驚く程2人の表情が一変した。

 辛うじて問いを返したスクライアも、呆然と口を開けたままのヴィータも。

 時が止まったかのように視線を固定させて俺を射抜く。

 肌をひりつかせる緊迫した空気が、この場を支配していた。

 口を開こうとする俺に、目に見えない重圧が掛かる。

 

「全部……俺の所為なんだ」

 

 それでも、この言葉だけは言わなくてはならなかった。

 自分の愚かさ、彼女の優しさ、そしてその結果が今の状況なのだと。

 2人に最初から、事細かに説明した。

 

 高町が俺に教導していた事、その為に毎日彼女と共に訓練を続けていた事。

 その中で俺達の間に生まれてしまったすれ違い、そして今まで無理をし続けた影響で今、彼女は眠りに就いている事。

 一つ一つを言葉にするだけ、それでもあの時の感情が再燃して俺を苦しめる。

 途中何度も途切れそうになったが、何とか全てを言い切る事が出来たのは幸いだった。

 2人の反応は、まだ無い。

 

「……」

 

 聴こえるのは息遣い、自分の心臓の鼓動だけ。

 息苦しい空間、逃げたい衝動が胸を衝くが、それだけは我慢した。

 どんな罵倒を浴びせられようとも、見放される言葉を吐かれようとも、それは今の俺が起こした事実。

 目を背ける事なんて出来ないし、してはならない。

 罪を犯したら罰を受ける、当然の報いだ。

 

「なのは、また無茶しやがったのか」

「でもそれは全部俺の為だった。睡眠時間を削ってまで、俺の事を考えてくれていたんだ」

 

 ヴィータの言葉に、そう返す事しか出来なかった。

 自分自身が情けなくて、膝に置かれていた拳を強く握り締めて痛みを感じる。

 そんな痛みさえ、彼女の辛さと比べれば些細なものでしかない。

 ――――それが酷く、胸を抉った。

 

「それで君は、何の為に此処に来たんだい?」

 

 淡々と、おかしい位冷静なスクライアの声。

 自分の好きな人を傷付けた張本人を前にして、どうしてそこまで落ち着いていられるのか?

 でもそれはヴィータも同じ、なのに2人共何も俺に文句を言わない。

 それが優しさからくるものなのか、怒りを通り越した先からくるものなのか。

 ……きっと後者だろう。

 だけど話を聴いてくれるのなら、今はそれに甘えさせて貰う。

 アイツの事を、もっと知りたいと想ったから。

 

「教えて欲しい。今から約2年前、アイツの身に起こった事件を……」

「「――――っ!?」」

 

 刹那、息を呑む音が聴こえた。

 スクライアに目を合わせれば、大きく揺れた瞳が露になっている。

 そしてヴィータは……

 

「テメェ!!」

「ヴィータ!?」

 

 俺が反応する間も無く、襟元を掴み掛かって来た。

 急に押し上げられる圧迫感に、一瞬だけ息が出来なくなる。

 歯を食い縛って耐え、何とか彼女の顔を見れば……その目に苛烈な怒りを湛えていた。

 

「いくら友達って言ってもな、お前みたいな無関係な奴が踏み込んでいいもんじゃねぇんだよ!!」

 

 まるで怒号、耳を劈く轟音が間近で鳴り響いた。

 握られる襟と圧迫される首筋に掛かる力は、本当にこの少女が出しているものなのかと疑問に思う位強い。

 憎々しく、荒々しく、力の限りを以って絞め殺そうとするような勢い。

 でも俺を射殺すような視線を向ける瞳には、怒りだけじゃなく、遣る瀬無い感情とが綯い交ぜになっている。

 此方に向けられている筈のその双眸が、その実、彼女自身にも向けられているような気がした。

 きっとそこは、俺のような他人が入り込むような場所じゃないのだろう。

 依然として首を締め上げる手が弱まる気配は無い。

 

 けど、俺は止まれないんだ。

 

「……でも、知らな……くちゃ」

「っ!?」

 

 そっと、掌を彼女の手に重ねる。

 その行動によってか、俺の言葉によってかは分からないけど、それで彼女の力が緩んだ。

 そのままゆっくりと、自分から離していく。

 意外にもその手は従順に引き離され、俺を縛るものは無くなった。

 真正面に立つヴィータの瞳には戸惑いが溢れ、俺の言葉の意味を図りかねている。

 

「そうでないと、何も言えない」

 

 だから、彼女に伝える。

 他人だから踏み込むなという彼女の意志に負けないように。

 俺の意志を、言葉によって示さないといけない。

 

「高町にきちんと謝罪の言葉を、ゴメンなさいって言えない」

 

 アイツの過去に何があって、あそこまで『安全』という意味に固執したのか分からない。

 だけど俺は、そのアイツの想いを踏み躙ってしまった。

 

 だからこそ知りたい。

 高町の『安全』という言葉が、一体彼女のどんな想いから生まれたのか。

 どんな経験を乗り越えて、その答えに行き着いたのか。

 それを知らなくちゃ、表面上の、上っ面だけの謝罪しか出来ない。

 彼女の本当の想いに謝罪が出来ない。

 高町自身にゴメンなさいって、言う事が出来ない。

 

「だから、教えてくれ」

 

 今まで彼女の想いに守られてきた俺だから、その本質を知るべきだ。

 守りたいと願ったから、守ってくれる彼女の事を知りたい。

 

「アイツに何があったのか、教えてくれ」

 

 真っ直ぐに向けた先にある、少女の瞳。

 揺れ動くそれは、一体どんな想いを胸中に抱えて彷徨うのか。

 俺には分からない、だから答えを待つだけが許された行動だった。

 決して逸らしたりせず、ヴィータの中に宿る怒りも戸惑いも全て受け止めて待つ。

 

「……」

 

 静寂に包まれ、物音一つしない空間。

 何秒、何十秒経っただろうか?

 ……いや、もしかしたら一瞬しか経っていないかもしれない。

 そんな錯覚すら感じてしまう程、俺の意識は真っ直ぐに向けられていた。

 目の前で唇を震わせて、俯く事で瞳を隠す少女。

 それでも俺は逸らさない、全部受け止めると決めたから……。

 

「頼む、ヴィータ」

 

 彼女の小さな手を握り締める。

 優しく痛みが伴わないように、震える唇に見えるこの子の葛藤を和らげるように……。

 口で言葉を、この手で想いを、ヴィータに伝える。

 少し位の時間は構わない、待っているから俺の想いを知って欲しい。

 

「…………分かったよ」

 

 小さく、ほんの些細な呟き。

 でも確実にこの耳に届いた、彼女の出したその答えを……。

 紛れも無い、俺を認めてくれたという証だ。

 それが嬉しくて堪らなくて、心の底から嬉々とする感情が湧き上がる。

 誤魔化しついでに頭を撫でようかと思ったが、気分を悪くするのも憚れるから止めた。

 

「手……」

「ん、どうした?」

「手ぇ放せよ……」

 

 あぁそう言えば、とずっと握り締めていたその小さな手を放す。

 解放されると共にすぐに引っ込めて、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 いつもの彼女らしいその様子がとても可愛らしくて、忍び笑いを一つ。

 

「と言う訳なんだが、スクライアも構わないか?」

 

 完全にヴィータばかりに言葉を掛けていたが、彼もまた事情を知る者だ。

 その話を聴かせるに足るのか、俺を判断して欲しい。

 視線の先に居るスクライアは、ハハハと気まずそうに笑みを浮かべながら頷く。

 

「ヴィータが認めたのなら、君が知る事は必要なのかもしれないからね」

「……ありがとな」

「気にしないで」

 

 簡単に、唯それだけの言葉で、彼は躊躇い無く同意した。

 別に何年来の付き合いでもない、高町を傷付けてしまった俺に、彼は笑い掛けてくれた。

 

「君の言葉、信じさせて貰うよ」

 

 眼鏡越しの真摯な瞳は、俺の意志を見定める心眼。

 もしこれ以上高町を傷付けようものなら、コイツやヴィータ、彼女の友人知人全てから俺はあらゆる非難を浴びるだろう。

 

 でももう、この場所まで来てしまった。

 此処に来た事を後悔してないし、今更おめおめと逃げ帰るつもりも毛頭無い。

 一度でも決めた自分の道、そこから逃げたらそれこそ後悔する。

 アイツを、高町を守りたいと願った想いを、次に繋げる為に……。

 俺はこれから先、何があっても進むと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Interlude side:Nanoha~

 

 

 思い返すのは、縁側での彼の居住まい。

 新鮮な空気と陽光、時折吹き付ける風で靡く前髪にも心乱さず、正座をずっと続けていた。

 伸ばされた背筋、全身に無駄な力を感じさせないリラックスした状態は、正にその場と一体化していた。

 でもすぐに足を崩して溜息、それを何度も繰り返してはやり直す。

 

 それを私は、離れた場所で見続けていた。

 何分も見続けて、それでも彼の傍まで行けない。

 前日のあれからまともに話せない状態だったのもそうだし、私が子供みたいに感情を爆発させてしまったから、正直言って顔を合わせ辛かった。

 だけどいつまでもそんな様子で居たら、きっと聖君に迷惑を掛けてしまう。

 

 だから私はいつも通りの高町なのはで、聖君の知っている『高町』で接しようと思った。

 ……そして、あんな事になってしまって。

 気付けば私は、聖君の腕に抱えられて部屋へと連れて行かれ、それから……。

 

『――ぇ――――ぉ―――ぁ―――』

 

 その時、微かに声が聴こえた。

 耳朶を震わせるには弱い、けど確かに存在する音が。

 そしてそれを発する存在を、私は知っている。

 

(……聖君)

 

 そう、私が守ると決めた人。

 不器用で、でも優しくて、少し意地悪な友達。

 

 駄目、こんな所に居ちゃ駄目。

 私は彼の傍に行かなくちゃいけない。

 どんなに辛くても、守るって決めたんだから。

 

(聖君!!)

 

 叫ぶ、声にならない声で。

 目の前にあるのは黒い靄、雲のように形無く視界を覆う巨大な壁。

 でもそんなものは関係無い、その先に彼が居るのなら躊躇う必要は無いから。

 強くしっかりと、音の方へ手を伸ばした。

 そこに聖君が居ると信じて、目の前の霞に向かって……。

 

 

 

 ――――そして私は、赤い光を目の当たりにした。

 ――――昔見た、あの遠い夕焼けに似た、赤い光を……。

 

 

~Interlude out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あの場合はシールドでの防御の方が有効なのか」

《Yes, because the limited evasion route has left the possibility that is the trap.(はい、限定された回避ルートは、罠である可能性を残していますから)》

「だけどレイジングハート、辛うじてだが避ける事には成功した。それに限定されていても、このルートは考えられる3つの中で最も有用性のある奴だ」

《Hijiri, Is not the thing whose that is a pursuit bullet forgotten(聖、あの時は追尾弾によるものだった事を忘れていませんか)?》

「……そうだったな。確かに操作弾になると、確実に隙間を埋めてくるだろうし」

《For you from whom the avoided thing has become natural, it might be difficult to put the defense on the mind certainly.(避ける事が当然になってしまった貴方では、確かに防御を念頭に置くのは難しいでしょう)》

 

 窓から入り込む夕焼けの光、赤く眩いそれを背に受ける。

 手には1冊のノートとシャープペンシル、ノートのページには既に何度も書き込まれ消された跡が浮き上がっている。

 今現在は、それの上に更なる書き込みを加えている最中だ。

 傍らに、そして俺の内側に座すデバイス達と会話を繰り広げながら、彼女達の指摘や、俺が思い当たった事を書き留めていく。

 

「正直、今でも防御は苦手だ。今まで相手の攻撃の軌道を見切る癖を付けて来たから、敢えて受け止めるって行動には違和感を覚えるんだよなぁ」

《Still, you today try to change it little by little. If the note is seen, everyone will think so.(それでも、今の貴方は少しずつ変えていこうとしています。そのノートを見れば、誰だってそう思うでしょう)》

 

 あるページに書かれた赤い線、様々な曲線を描いているそれは、高町が放った操作弾と同じ軌道。

 レイジングハートやアポクリファからのデータを元に再現した、紙上のシュートイベーションである。

 発射地点や到達時間、此方の動きに合わせての不規則三次元機動等、事細かな情報はイメージがし易くとてもタメになる。

 ラウンドシールドの発動ラグから考えられる最終判断時間も、ゼロコンマ数秒単位で教えてくれるのが親切だ。

 

 そして所々に書かれている、1場面に於けるラウンドシールドが必要な回数。

 最初は自分で必要だと思われる数から、彼女達の指摘によってその都度数を増やしていく。

 より安全に、確実に相手の攻撃を耐えられるようにする為に……。

 

「俺のカウントが6、アポクリファ達の指摘で増えた分を合わせて10か」

《Are you dissatisfied(ご不満ですか)?》

「いいや、未熟な俺には充分な数だよ。反映出来るかはまたべ――」

「――聖、君?」

 

 尽きない言葉の応酬に、突如待ったを掛ける声が耳を打った。

 発生源の方を振り返れば、自分の視線よりも少し上に、体をゆっくりと起き上がらせる少女の姿がある。

 

 赤い夕焼けを半身に背負う彼女は、栗色の髪と合わさってとても綺麗で……。

 結わずに髪を伸ばした彼女は何処か、桃子さんのような容姿をしていて……。

 やはり親子なんだなと思うと同時に、思わず見惚れてしまった。

 

「聖君?」

「あっ、いや……。体調の方はどうだ?」

 

 数瞬呆けてしまった自分に喝を入れつつ、高町の状態を確かめる。

 瞳に宿る光は幾分か戻っていた。

 顔色の方も熟睡のお陰で、血色も大分良くなっている。

 万全とは言えないが、俺が朝見た時の姿よりずっと良い顔をしていた。

 

「うん、ゴメンね。聖君の護衛役を自分で買って出たのに、こんな状態で……」

 

 でも、浮かべる表情は決して良いものじゃなかった。

 情けないと自分を卑下する彼女は、今の状態を心苦しく思っている。

 しかしそれは俺の身勝手な行動の所為であって、コイツ自身の所為では決してない。

 

「気にすんなって。きちんと休んでくれた方が、俺も助かる」

 

 人間は体が資本、生きている以上は健康でいるのが望ましい。

 だから過度の無理はせずに、いつだって万全な体調で居て欲しい。

 疲れた時はきちんと休むのも仕事の内だ。

 手元の筆記具を床に下ろしてそう言うが、やはり彼女の表情は晴れない。

 

「駄目だよ、こんなのじゃ……」

 

 ギュっと上掛けを握り締める高町の手が、唇が微かに震えている。

 呟かれる言葉は果たして俺に向けられたものなのか、それとも……。

 苦悶する表情、それを作ってしまった原因が自分にある事が酷く悔しい。

 

「だから気にすんなよ。俺はこの通りピンピンしてるし、お前の顔色も良くなったし」

 

 だから俺は気にしない。

 彼女の顔を見据えて、今此処にある事実を述べるだけだ。

 横たわるベッドに背と腕をもたれ掛けて、宙に上げた手をブラブラ振り乱す。

 実際に彼女の傍を離れてから、大して何かあった訳でも無いのだから。

 

『あれは、武装隊の演習の時だった』

『正体不明の敵、でも普段のアタシ達なら何の問題も無かった』

『その……筈だった』

 

 ――――あぁそうだ、何も無かった。

 自分の中に渦巻く感情は、決して異常なものじゃない。

 俺が感じただけの、純粋な想いだ。

 

「もう過ぎた事を一々ぶり返すのも、面倒だろ?」

 

 だから軽く、只管軽くそれを口にする。

 どちらにしろ戻れない時間なんだし、何を思おうとも今が変わる事はない。

 だったらこれからを考えた方が良いってものだ。

 

「――何で、そんな事が言えるの?」

 

 でも、彼女の考えは違う。

 

「何でそんな簡単に考えられるの? 自分が狙われているのに、どうして気軽にそんな事が言えるの?」

 

 手に込められる力が一層強くなる。

 歯を食い縛りながら、微々と体を震わせながら、一つ一つの言葉を漏らした。

 まるで必死に自分を抑え込んでいるよう、俺にはそう見える。

 でもその姿は、本当に正しいものなんだろうか……?

 何もかも押し殺して、我慢して、それがコイツに必要なものなのか?

 

「気軽も何も、お前が倒れたのに――」

「――私の事は関係無い!!」

 

 こうやって自分を顧みないで、他人の事ばかり考えて……。

 凄く身近に居るヤツにそっくりで、いつか後悔ばかりに身を落とすかもしれないその小さな体。

 

『いつもみたいに笑っていたから気付かなかった』

『一緒に居たアタシが、誰よりも気付かなくちゃいけなかったのに』

 

 そう、目の前に居るんだ。

 いつもみたいに笑って、その意味を俺が一番気付かなくちゃいけなかったのに……。

 

 だから許せない――自分自身が。

 だから許せない――――彼女の言葉が。

 

「今一番大切なのは、聖君なんだよ!!」

 

 それだけ友達を大切にする癖に、自分の事は完全に度外視している。

 余計な心配を掛けたくないのは分かってる。

 だからと言って、誰の力も借りずに自分を支えるなんて無茶にも程がある。

 何よりもその姿が、皆を心配させる一番の要因だと言うのに……。

 

「だから――」

 

 

 

「――ふざけるな」

 

 心の赴くままに、気付けばこの体は立ち上がっていた。

 先程までの視線の高さが逆転し、俺が見下ろす体勢になる。

 

 もう、爆発しそうだ。

 2人から話を聴いた時から、この胸でグルグルと巡り巡る感情。

 コイツの姿が、一つ一つの言葉が、自分の一番嫌いなヤツにそっくりで……。

 不意に漏れた言葉によって、怒りが脳内を埋め尽くした。

 

「お前はそうやって、ずっと自分の事を考えないで」

 

 それは、いつか何処かで聴いた言葉だった。

 数年前、数ヶ月前、いや……今まで何度も聴いてきた胸を穿つ言葉。

 目の前の少女に向けたのはきっと、それを向けられたヤツと彼女がそっくりだからだ。

 

「他人の事ばかりで、誰にも本気で頼ろうとしない」

 

 コイツの場合はなまじ力がある分、多少の無茶を平気でやってしまう。

 自分にはそれをするだけの力があるから、頑張らないとと思い込んでいるからだろう。

 

「どうして誰にも頼らない? どうして全部自分で解決しようとするんだ?」

「だって、皆に余計な心配掛けたくない。皆には笑っていて欲しいから!!」

「友達の思い遣りを余計なんて言うな!!」

 

 突然張り上げた声に、高町が思わず身を竦ませた。

 目を見開いて俺を凝視するその姿は、先程までの気概を完全に失っている。

 そして俺もまた、自分自身の言葉に胸が苦しくなる。

 何故ならそれは、俺が一番嫌いな自分(ヤツ)に向けられた言葉だったから。

 

「傷付いてでも守りたい大切な人が居るのは分かる。でもお前が傷付く事で悲しむのも、その大切な人なんだぞ」

 

 今まで目を背けてきた。

 ボロボロになって帰ってきた俺を、涙を浮かべて迎えてくれたシスターの瞳を。

 大丈夫だと言う度に苦い顔をする、師父の表情を。

 口には出さなくても、俺を認めてくれていた高町の想いを。

 

 自分が何も出来ない事を認めたくなくて、ムキになって見ないようにしていた。

 

「凄く辛いんだぞ。お前が傷付いてる姿を見るのは……」

 

 だから、今になって気付いてしまった。

 今まで自分がやってきた事が、どれだけの人を悲しませてきたのか。

 高町の姿を見て、この身を以って痛い程分かってしまった。

 幾千の後悔を以ってしても足らない、その苦しみと痛み。

 分かってしまったから、コイツにはそんな辛さを独りで抱えて欲しくない。

 

『僕には、先を見続けるなのはを止める事は出来ない。その場所を教えたのは、紛れも無く僕自身なんだから。見守って、帰ってくる姿を待つって決めたんだ』

『アイツの事は絶対守る。もう2度と、あんな想いはしたくねぇ』

 

 そんなものを抱えてまで、無理して笑って欲しくない。

 きっとこれも、身勝手な考えなのだろうけど……。

 スクライアやヴィータのように、コイツの無茶を黙認する事なんて、とてもじゃないが出来ない。

 

「だって私は戦技教導官で、Sランクの魔導師なんだよ。だから……」

「そんな肩書きよりずっと前から、お前は何処にでも居る女の子だろうが!!」

 

 戸惑いながら、それでも言葉を続けようとする彼女を止める。

 これ以上続けさせてしまえば、コイツは絶対に肩書きを盾に全責任を負おうとする。

 そして今まで以上に辛い想いを抱えて、誤魔化す為に笑っていくだろう。

 

「嬉しいから笑って、ムカつくから怒って、悲しいから泣いて、それが出来る普通の女の子だろ!!」

 

 どんなに強くたって、コイツは明菜や沙耶と同じなんだ。

 日頃から感情の赴くままに生きていい、無理に我慢なんてする必要なんか無い。

 視線の先に居る少女は、そんな当然の事すら我慢している。

 俺よりも小さい体で、ずっと重いものを抱え込んできたんだ。

 

「無理して笑うなよ。泣けよ、涙を流せよ……」

 

 ――――悔しかった。

 自分はそんなにも、彼女に頼られていないのかと思って。

 でもそれはハラオウン達も同じの筈だ。

 バニングスと月村のあの顔が、それを物語っていたから。

 

「心配させろ。お前は俺にとって、大切な女の子なんだから……」

「駄目だよ!! 私が泣いたら、弱い所を見せたら、きっと皆が凄く悲しんじゃう!!」

 

 髪を振り乱して、首を抜かんばかりに横に振る。

 泣きそうな声でありながら、それでも声を張り上げる事で我慢して……。

 これだけ言っても、コイツは意見を折らない。

 士郎さんの言う通り、自分の決めた事は納得出来なければ聞き入れようとしない。

 きっとこれじゃ平行線のまま、何一つ解決しない不毛な言い合いになるだろう。

 

 でも、あの人は言った。

 『俺と高町は似ている』って……。

 そう、俺だって納得しない限りは、コイツの言葉を聞き入れてやるつもりは無い。

 平行線だろうが構わない、コイツが折れるまで傍を離れたりするものか。

 

「笑っていればその分だけ辛さが和らいだ。どんなに辛くても、痛い思いをしても、私が笑って、皆が笑ってくれれば我慢出来た」

 

 それは俺も知っている、笑顔の『力』というもの……。

 今までどんなに辛くても、家族が笑っていてくれれば、それだけで頑張れたから。

 それがあったから、今までどんな時でも頑張れた。

 平気な顔をして大丈夫だと言い続けた。

 

『リハビリは半年にも及んだ。一時は歩く事すら危ぶまれたけど、なのはは頑張って現場に復帰したんだ』

 

 想像を絶する壁を越えるには、きっとそうする事が必要だったのかもしれない。

 でも、それでも、いつまでもそれしか出来ないままではいけない。

 いつかそれに慣れてしまって、笑う事以外の何もかもが出来なくなったら……。

 後悔するのは、きっと高町自身だ。

 

 だったらどうすればいい?

 どうすればコイツは、悲しい時に泣けるような女の子になれる?

 

 いや、その答えはもう決まっていた。

 

「笑う事って凄いんだよ。本当に幸せな気分になれるし、それに――」

「――――もういい」

 

 高町が、また無理に笑顔を浮かべている。

 あの話を聴いてから、此処に戻るまでずっと考えていた。

 高町なのはの『笑顔の理由』。

 こうやって面と向かって、お互いの気持ちをぶつけ合って、漸く分かった気がする。

 

 やっぱり、俺と同じだ。

 大切な人を守りたい、大切な人に笑顔で居て欲しいという、その純粋で尊い想い。

 それを真っ直ぐに進み続けた、唯それだけなんだ。

 決してこの少女が悪い訳ではない。

 

「お前の言いたい事は分かったから――――」

 

 なればこそ俺には、彼女の笑顔の全てを否定する事は出来ない。

 コイツが今まで笑顔によって救われてきたのは、紛れも無い事実なんだから。

 そして、それによって助けられた(ヤツ)が居たのもまた、紛れも無い事実。

 

 これからもコイツには笑っていて欲しい。

 でも、だからこそ高町には、同じように泣いて欲しいし怒って欲しい。

 その先にこそ本当の笑顔が、この世でたった一つの尊い輝きがあるのだと信じている。

 上半身だけ起こした彼女に寄り添うように、俺は隣に無音で腰を下ろした。

 

「これからは、お前の辛い時とか、悲しい時は――――」

 

 瞳の距離が、先程よりずっと近くなる。

 戸惑い、不安、色んな感情が綯い交ぜになって揺れる双眸。

 そこに隠された重みを少しでも軽くするには、高町と同じ場所に立たないと。

 この瞳に向けて言える事なんて、この女の子に出来る事なんて、俺には最初からその1つだけで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――俺が、笑うから」

 

 誰でも出来る、似合わない笑顔(おもいやり)しか出来ない。

 他の人と違うとしたらそれは、多少やり方が強引な所だろう。

 

 俺達は意地っ張りだから、そう簡単に自分の考えを変える事は出来ない。

 そうして今までは、1人だったから沢山の人を悲しませてきた。

 でもこれからは2人だから、少しずつだけど変えていけると思う。

 

 最初はまだ難しいかもしれないけど、いつか本当に、心の底から笑い合えるように……。

 2人で一緒に強くなろう。

 その為にも―――

 

「だから無理しないで、泣いていいんだ」

 

 高町を正面から捉えて、その小さな肩に手を乗せる。

 瞳を真っ直ぐに見詰めて、俺の想いの一字一句を聞き漏らさせないように。

 揺れる双眸に映る、俺自身を知って貰う為に。

 

「それで泣き止んだらさ…………目一杯笑ってくれ」

 

 今の彼女に、俺はどんな風に映っているんだろう?

 きちんと笑えているだろうか? 笑顔になっているだろうか?

 でもそればかりを気にしては、今までの高町と同じになってしまう。

 

 ――――たとえ出来損ないの笑顔だとしても、この女の子の心を少しでも守る事が出来るなら構わない。

 そうすればきっと俺は、これを笑顔として認めて生涯誇れる筈だから。

 

「今まで俺は、お前の笑顔に守られた。だから今度は、俺の笑顔でお前を守る」

「ひ、じり……くん…………」

「心配させたくないから笑うんじゃなくて、笑いたいから笑って欲しい」

 

 夏の暑さも、冬の寒さも、現実の辛さも、非情な悲しみも……

 全部吹き飛ばせる、高町の心からの笑顔を見たい。

 我が儘だと言われても構わない。

 自分(ワガママ)を通せない人間に、誰かを守る事は出来ないのだから。

 

「俺の大好きな、お前の笑顔を……」

「ひ……じっ、り…………く……」

 

 か細い声が聴こえる。

 それは少女の震えから来る、途切れ途切れの想いの切れ端。

 我慢していたツケが今になって、彼女の心に襲い掛かっている。

 

 辛いだろうし、苦しいだろう。

 何年も抱えてきた全てを今、この場で吐き出そうとしているんだから。

 だからその身をゆっくりと引き寄せる。

 羽毛を髣髴とさせる儚げな少女の、支え切れない苦しみに耐えてきた体をしっかりと……。

 抵抗は無く、高町は俺に全てを委ねている。

 

「ひじり………くん!!」

 

 そのまま静かに、彼女はスッポリと俺の胸に収まった。

 

「今度からは少しでもいいから、俺を頼ってくれ。辛かったら、いつでもこの場所は貸すから」

「う、ん。……うん」

 

 もぞもぞと服に栗色の髪が擦れる。

 その感触と、そこから溢れる芳しい匂い。

 胸を濡らす熱を抱き締めながら、俺は彼女にずっと言いたかった言葉を紡ぐ。

 

「ゴメンなさい。お前の心を踏み躙って、こんな辛い想いをさせて」

 

 胸に居る少女は、いつだって俺の事を考えてくれていた。

 自分の事すら顧みず、俺が身を守る力を持てるようにする為に。

 自分の二の舞にならないように、無理をして大怪我を負わないように。

 傷付いて欲しくないという、それだけの真っ直ぐな想いを胸に……。

 

「俺は唯、お前に認めて欲しかっただけなのに……」

 

 意地を張って、身に余る行為に手を出した。

 それが高町の意に反し、彼女の心を酷く傷付けた事も知らずに。

 小さな手を掴みたくて我武者羅になって、そして後悔した。

 

「最低な奴だって思われても構わない。それでも……」

 

 衣擦れの音が聴こえる。

 俺の言葉を首を横に振って、少女は声無き精一杯の否定をその身で表していた。

 その健気な姿は、途方も無い愛おしさに溢れている。

 俺を許してくれるその優しさが嬉しくて、だからその続きを言う事に躊躇いが無くなる。

 

「言わせてくれ。ゴメンなさいって」

 

 今度は首を縦に振っている。

 少しくすぐったいけど、自分の顔が綻んでいくのが分かるから嫌いじゃない。

 柔らかい彼女の髪の感触で、服越しに感じる体温で、俺の心が温かいものに包まれる。

 この温かさが、高町の優しさ。

 彼女の生まれながらに持っている、笑顔の力の源。

 

「そして…………ありがとう」

 

 ――俺を守ってくれて、ありがとう。

 ――俺を認めてくれて、ありがとう。

 ――俺の為に頑張ってくれて、ありがとう。

 

 1つの想いが生まれれば、そこから無限に湧き上がる『ありがとう』という心。

 止め処無く溢れて、出し切れない程の感謝が心を埋めていく。

 口では吐き出し切れず、それは瞳に、それは頬を伝って……

 そしてそれが、『笑顔』になる。

 ずっと忘れていたと思ったモノ、裏打ちの必要無い本当の笑顔。

 ――――俺にソレを教えてくれて、ありがとう。

 

「お前の優しさも想いも、しっかり受け取った」

 

 胸に刻んだ『高町(つよさ)』はきっと、何物にも代え難い大切なものだ。

 俺の心を支えてくれる力となって、これからも在り続けるだろう。

 

 だから今度は俺の番。

 今まで独りで支え続けた体を、俺の心の(ただ)しさを以って、その手伝いをしよう。

 その想いは我が儘かもしれない、自分勝手なものかもしれない。

 それでも……

 

「俺の想い(ワガママ)を、受け取ってくれるか?」

 

 少女は一度だけ、小さく首を縦に振ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い陽光は深い色味を持たせて、時間の移り変わりを視覚情報として表す。

 強く肌に突き刺さるそれは、今が夏だという事実を改めて気付かせてくる。

 激しく耳を打つ蝉の合唱は轟々と、その音量を時間と共に増していって。

 周囲にはそれに負けない位の喧騒が、人々の声が行き交っていた。

 

 その眩しさの中を、その騒がしさの中を、一歩一歩を踏み締めるように歩く。

 歩調は決して早過ぎず、だが決して遅くもなく、前を向いていた。

 心にあるものは一つ、それは……

 

「アイツ、ちゃんと食べられるかな」

 

 右手にぶら下がった、スーパーの袋にある球体。

 ゆっくらと綺麗な丸みに、紅く色付く全体に白い点々を映す。

 その姿は正しく夏の果物の代名詞の一つ、『桃』だ。

 

《Will it be unquestionable for the selection(選別は問題無いのでしょう)?》

(当然。香りが強いもの、全体に産毛があるものから選んだんだからな)

 

 我が相棒の言葉に、応と言葉を返す。

 自分の持っているなけなしの知識を以って、出来るだけ甘く美味しいものを選んだのだ。

 彼女の言う通り、選別に問題は無い。

 

(いや、その…………大丈夫かなって)

 

 唯、アイツの身が心配だった。

 まだ起きてから時間も経ってないし、それに……

 

『そんじゃ行ってくるから、もう一眠りしてろ』

『あ……』

『……って、どうした?』

『う、ううん。あまり遅くならないでね。凄く心配しちゃうから』

『大丈夫だっての。何かあったら、絶対に念話は入れる』

 

 俺があの場を離れる瞬間の、向けられたあの瞳がとても寂しそうだったから。

 今は大丈夫かどうか、否が応にも気になってしまう。

 

《It was an appearance like the child to grip the sleeve of your clothes.(貴方の服の袖を掴んだ時は、子供みたいな姿でしたね)》

(子供なんだよ。アイツも、俺もな)

 

 きっと周りを気にし過ぎたから、我慢する事を覚えてしまったんだ。

 誰にも迷惑を掛けたくない、皆にとって良い子で居たい。

 そんな心遣いが、自分の全てを独りで抱え込む考えに至ってしまった。

 

 俺も高町も背伸びをして、無理をしながら生きてきたんだ。

 子供である自分が周囲に迷惑を掛けると思ってしまったから、大人である自分を演じようと必死になった。

 誰かに甘えていい筈なのに、そうする切っ掛けを自分自身で切り捨ててしまったんだ。

 

(いくら背伸びしたって、今の自分以上になれる筈は無いのに……)

 

 馬鹿みたいだ、と呟く。

 それこそ無茶だと言うのに、俺達はそれに目もくれず進み続けた。

 人に出来るのは、今の自分という中の最大限でしかない。

 それを少しでも越えるには、やはり誰かの力が必要なんだ。

 だから友達が居る、共に助け合って今以上の自分を目指す為に。

 俺は、高町にとってのそんな友達でありたい。

 

《Though the friend or the event got over has already been generated. A young man and woman embraces each other.(既に友達とか乗り越えたようなイベントが発生しましたけどね。若い男女が抱き合っちゃって)》

(お前、その発言は如何なものかと……)

《It is a surprise that there was a resourcefullness that does such a thing in a dignified manner in our presence though the youthful passion arrives.(若気の至りというのでしょうけど、私達の目の前で堂々とあんな事をする甲斐性があったとは驚きです)》

 

 我が相棒は何故か、オバサンみたいな口煩さでつらつらと言葉を並べている。

 確かに男女の友人関係としては、行き過ぎた行為に思えなくもないけどさ。

 

 …………思い出すと、滅茶苦茶恥ずかしい事してたんだよな、俺って。

 後悔は微塵も無いけど、女の子にするには少々不躾な行動だったかもしれない。

 自重しよう、ちょっとだけ惜しいけど……。

 それよりも甲斐性ってなんだ、俺ってそんなに頼りないか?

 

《Can do the answer of my word by looking back on the current of you(自分の今までを顧みて、私の言葉を返せますか)?》

(滅相もありません)

 

 過ぎた言葉だと思い返し、人生で数少ない脳内土下座を敢行。

 自分の今までを顧みた結果、まぁ甲斐性ある人間にはとてもじゃないが思えなかった。

 だがこれからは、そうやって自虐している暇は無くなる。

 彼女が支える彼女自身、重責に耐えようと必死になるその体が、いつ力を抜いても良いように……。

 

 支えると決めた。

 それが――――俺の誓い。

 

《俺が、笑うから》

「再生すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! つか録音してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 脳内に響く俺の声。

 それは先程、たった1人の少女の為だけに紡いだ想いの表れ。

 似合わない気障ったらしい台詞が、アポクリファの手によって2度目の現界を果たした。

 脊髄反射レベルでそれに声を上げてしまったのは、きっと胸に溢れる恥ずかしさが身を焦がそうとしているから。

 周囲を気に留める事もせず、俺は心のままに叫んでいた。

 奇異の目で見られようと、それは仕方ないのだろう。

 

「……って」

 

 しかし、そんな恥辱に塗れた拷問が行われる事は無かった。

 それを向ける者が、誰1人として居なかったのだから。

 先程まで聞こえていた人々の喧騒も、蝉の鳴き声も、何一つ消え去って……。

 

 ――――世界が歪な形に変わっていた。

 

「おいおい、冗談じゃねぇぞ」

 

 虫食いの空、地面、街路樹、建物、その他諸々。

 何もかもが抜け落ちた色に侵食された風景。

 

 俺はソレを知っている。

 結界――特定の空間を切り取って、時間信号をずらす魔法。

 それが発動したという事は、俺の知り得る状況の中ではたった一つ。

 

 ――――ヤツが居る。

 俺を狙う、黒衣の魔導師が……。

 

「幾らなんでも突然過ぎるっての」

 

 狙われている事を忘れていた訳じゃない、その為に今まで高町の教導を受けていたのだから。

 だがこんなタイミングで来るなんて、明らかに普通じゃない。

 俺が1人になる状況は、今までに何度だってあったのだ。

 それじゃ、このタイミングでの襲撃は一体―――

 

『やぁ、ハギオス。2週間振りかな?』

「テメェ……」

 

 目の前に突然開かれる魔法陣、その中に現れた黒い人影。

 その身全てを黒に染め、何一つ生きている証拠を見せないその姿。

 そして、耳障りな合成音による発声。

 あの時と寸分違わない存在感を以って、ソイツは目の前のモニター先に佇んでいた。

 

『ご機嫌如何かな?』

「アンタの姿を見るまでは、素晴らしい位にハッピーだったかもな」

 

 褐色の光弾、光の柱、自身を襲った魔法が脳裏に蘇る。

 自分よりも圧倒的なその存在、腹の底からあの時の絶対的実力差が想起される。

 でもこの状況で大事なのは、事態を把握するという点のみ。

 心を無理矢理奮い立たせて奴の一言に不遜な態度で返しながら、俺の全神経は周囲の様子を窺おうと敏感に空気を感じ取る。

 視線は動かせない、気配と音、そして相棒の探知で歪んだ世界を把握する。

 

(アポクリファ、背後には?)

《There is nothing within the range in which it becomes the sphere of the range, too. However, ......(射程圏となる範囲には何もありません。しかし……)》

(居るな、絶対に)

《Yes.(はい)》

 

 脳内で交わされる会話の中、魔法という技術を挟んで対峙する俺と黒衣。

 コイツが結界を張り、そして俺を孤立させたって事には必ず意味がある。

 俺を力尽くで捕らえるか、それとも以前と同じように誘惑を差し出すか。

 だが既にその手は払っているのだから、前者である方が確実に高い。

 

『気分を害したのなら謝ろう。――――それで、気は変わったかね?』

 

 だが意外にも、目の前の奴は2度目の手を差し伸べてきた。

 まるで以前の対峙の事などスッカリ忘れてしまったかのように、何の躊躇いも無く……。

 きっと健気な姿として映るのだろうが、声が電子音である以上、そんな気は微塵も起きない。

 しかしコイツは、何でこんなにも俺という存在を執拗に狙う?

 あの時言った『才能』というのが、コイツにとってそれだけ必要なのか?

 

 ……だとしても、そんな事関係無い。

 

「残念だけど、あの時より『大切なもの(みれん)』が増えてな」

 

 たとえそれが、自分に素晴らしい力を与えるものだとしても、きっと俺は掴まない。

 自分の中に在る『才能』という不確定なものよりも、強くなる為の確かな『想い』を手にしている。

 だったら必要無い、大切なモノはもう既に揃っているのだから。

 

「それに、高町(アイツ)の傍を離れるのだけは、絶対に嫌だから」

 

 今まで強がり続けた少女が、素直に我が儘を言えるように……。

 共に笑い合って、そして支え合える関係になりたいから……。

 心に宿ったその想い、心に決めたその誓い。

 シガラミだらけの世界で、自分が出来る最大限を貫く。

 目の前の奴の許に行くなんて選択は、馬鹿馬鹿しくて反吐が出てしまう。

 

 

『私は世界で唯一、君の才能を熟知し、それを活かし切る術を持っている』

 

『う、ううん。あまり遅くならないでね。凄く心配しちゃうから』

 

 

 あぁ、そうだ。

 得体の知れない顔も体も真っ黒に埋め尽くされた奴なんかより、縋り付くように俺の服を掴んだ少女の瞳の方がずっと魅力的だ。

 こうやって頭の片隅で天秤に掛ける事すら、そもそも必要無かった。

 遠くにある赤い斜陽の力強さが、そしてこの身に宿る彼女への想いが、俺の体を奮い立たせてくれる。

 底冷えしていた筈の精神は気付けば解凍していて、震えなんて微塵も存在しない。

 

「ってな訳だ。俺を奪いたけりゃ、アンタがこっち来いよ」

『……決裂という事か』

 

 心底落胆したような声を上げる黒衣に、不適に愉快に顔を歪ませる。

 今更決裂も何も、コイツの持ち出す交渉は殆んど一方に偏り過ぎていた。

 対等な条件だからこそ本気で悩むのであり、メリットしか提示しない黒衣の発言は正直胡散臭いものでしかない。

 まぁ今更急に掌を反した所で、高町に匹敵する判断材料なんて持ち出せる筈も無い。

 ――――そんなもの、きっとこの世に存在しないんだから。

 

 だから最後に、本当の決裂の言葉を吐き出す。

 

「邪魔なんだよ、お前は。目障りだから二度と現れるな」

 

 服装の通り、一生引き篭もって暗闇と同化していろ。

 何故か私怨染みた呟きも追加されたが、それは仕方ない。

 本当なら今はアイツが家で待っている筈だったのに、その為に良い桃を手に入れたってのに……。

 変な横槍入れやがって、絶対許せねぇ。

 

『あぁそうか。だったらお望み通り、力尽くで君を捕らえようか』

 

 だが相対する黒衣は飽く迄冷静だった。

 1が駄目なら2に行けばいい、すぐに策をスライドさせて目的を達成する。

 俺の言葉を受け流し、皮肉の一つも言わぬまま結論に至った。

 

『君の誕生日には早いが、ささやかながらプレゼントを贈ろう』

《It reacts forwarding, and it comes(転送反応、来ます)!!》

「―――っ!?」

 

 まるで祝福するような言葉の後、アポクリファから突然のエマージェンシーコール。

 刹那、俺を中心とする半径十数メートルに複数の薄紫の魔法陣が展開。

 

 そこから現れるのは、俺より頭一つ大きな鎧だった。

 黄土色のそれは見た限りで3種類、剣と盾の奴、マントを羽織ったスパイクハンマーの奴、同じくマントに斧槍を、それぞれが禍々しい得物を携えている。

 一目見て全身が、危険信号を警鐘のように盛大に掻き鳴らした。

 

『気に入って頂けたかな?』

「……あぁ、嬉し過ぎて涙が出そうだ」

 

 前後左右、俺を取り囲むように奴等は点在する。

 今はピクリとも動かないが、きっと号令が掛かれば一瞬で俺へと集うだろう。

 不動のその姿が、嵐の前の静けさのようで酷く恐怖心を煽っていた。

 先程まで消えていた震えが再発しそうだ。

 だと言うのに、目の前のモニターには不適な声が響いている。

 

『昔とある筋で知り合った知人から拝借したものなんだが、喜んでくれて嬉しいよ』

 

 耳障りな笑い声が響くが、正直そんなものどうだっていい。

 今俺に必要なのは、この場を切り抜けるという一点のみ。

 

「でも俺ってさ、自分が泣いてる姿を見られるのが大っ嫌いなんだよ。だから――」

 

 地面を擦りながら、俺を包囲する陣形を組むのが見て取れる。

 鈍重で、それでいて圧倒的なプレッシャーを内包する足取り。

 ジリジリと命を刈り取ろうとする死神の鎌が近付く。

 心臓が高鳴る、自分に身の危険が迫っている事による緊張感だろう。

 

 だが、それでも心は奮い立たせる。

 俺は『高町』から大切なものを受け取ったんだから、その事実を胸に強く刻め。

 恐怖心は忘れるな、身の危険を常に感じ取れ。

 だけど表に出すな、それは自分の集中を分散させる愚行だ。

 俺がすべきは殲滅じゃない。

 

「――失せろよ」

 

 目の前の黒衣に一瞥を投げて、その存在を思考の外へ追いやる。

 鎧の群れは俺を捕らえる為の物だろうから、きっと極上の殺傷性は持たされていないだろう。

 だが気を抜ける相手じゃない。

 こういう奴を差し向けたってのは、俺の肉体が損傷する事を覚悟での行動だ。

 その為にこの鎧共を調整はしてるだろうが、それでも油断する暇など微塵も無い。

 油断すれば、確実に俺はやられる。

 

『フフフ、精々頑張ってくれ』

 

 俺が相手をしない事を悟ったか、モニターは最後の言葉と共にプツリと消えた。

 どうせ何処かで監視でもしてるだろうが、そんなものどうだっていい。

 これで目障りな厄介者に意識を向ける必要は無くなり、目の前の状況に専心を向けられる。

 気付けば俺を中心とした包囲網は、先程よりも幾分か狭まれていた。

 

 ……そろそろ、来るか。

 

《The evasion route......(回避ルートは……)》

「――――もう見えてる!!」

 

 ガシャンという音を響かせながら、中央に集いて俺を圧殺せんと迫り来る鎧の群れ。

 だが接触するその直前に強化魔法を行使、そのまま加速を付けて人1人分程度の隙間を突破する。

 鎧は反応し切れていない、難なく追い詰められる恐怖を取り除いた俺は、そのまま地面を擦りながら停止。

 振り返りと同時に視線を元に戻し、一塊になったソイツ等に目を向ける。

 

(念話は出来るか?)

《It is obstructed. However, if it is an area like this......(阻害されています。ですが、これだけの結界ならば……)》

 

 当然、高町とレイジングハートも気付いてるだろう。

 すぐにでも此方へ飛んでくるだろうし、その点に関しては問題無い。

 体調が少し心配の種ではあるが、それでも来て貰うしかない。

 何故なら、俺が為すべき事は――

 

「さぁて、いつまで逃げ切れるか」

《How long is the goal(目標はどの位ですか)?》

「当然、狙うは『無血(かんぜん)勝利』だけだ」

 

 勝つ事ではなく、負けない事。

 敵を倒す事ではなく、己が身を守り抜く事。

 ギシギシと軋むような音を発しながら、その脅威達は此方へにじり寄る。

 およそ20メートル先、数は6体。

 各々の得物を構え、既に奴等の臨戦態勢は整っていた。

 正面から浴びせられる無言のプレッシャー、それでも脳裏に浮かぶのは今後の展開予想と対処法。

 

「いくぞアポクリファ。高町が来るまでの間、そして戦いが終わるまでの間、一撃たりとも貰ってやらない!!」

《You bet(当然です)!!》

 

 赤い空は燃えるように、雲を纏って炎と成る。

 肌に吸い付く熱気すら霞む、灼熱の光景。

 紅蓮の天に見下ろされながら、俺は誓いを胸に、眼前の敵に立ち向かうと決めた。

 敵全てを視界に収め、一挙手一投足に目を遣る。

 一歩、地面が揺れた。

 

 ――――来るっ!!

 

「さぁ、此処が正念場だ!!」

《You are guarded by my best(私の全力を以って、貴方をお守りします)!!》

 

 ――――――絶対に負けない!!

 ――――――It's never defeated!!

 

 

 

 

 

 

 




どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
なのは編№Ⅴをお読み下さり、ありがとうございます。

少女の過去を知り、その想いを知り、少年は1つの決意を形にしました。
それは決して根本的な解決には至らない答え、それでも彼は貫き続けるでしょう。
聖が遂に見付けた、自分の『聖しい』と信じた誓いを……。
このまま大団円と行きたい所ですが、残念これは運命編なので、まだまだ終わらないんですねー( ・ω・)ネー
このクライマックスに於いて登場した敵、それもリリなの1期に登場した『傀儡兵』達です。
アニメではクロノに瞬殺されてましたけど、実はそれぞれがランクAとかヤバい奴等だったりします。
そんな敵を相手に、聖は自身を守り抜く事が出来るのか……。
そして今話の中にあった、『おかしな部分』とは一体なんなのか?
それは、次話でご確認下さい。

今回はこれにて以上となります。
感想や意見、タグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
皆さんからのお声が原動力なので、是非、是非、是非宜しくお願いします!!( ;Д;)
では、失礼します( ・ω・)ノシ




( ∵)カンソウ……アリガトウゴザイマス
_(∵_ )_コレカラモ……カンタンデモイイノデ……カイテクダサルトウレシイデス
(/∵)/ヨロシク……オネガイシマス

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