少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

46 / 56



――歪な色彩、不可思議な風景、静かなる風が吹く世界。
――佇むは2つの影、地に伏すのは無骨な残骸。
――そして夕焼けに背を向けながら近付く、空を翔る1人の少女。
――漸く終わったのだとという、実感が体の底から湧き上がってくる。
――全身の力を抜いて、その場に腰を下ろそうかと思い至った瞬間

「聖君!!」

――急降下しながら俺へと一直線に飛び込んでくる少女の姿が目に映った。
――その勢いは正しく、今の俺の状態を一分たりとも鑑みないレベル。
――彼女の表情に広がる安堵と喜色を見遣りながらも、急接近によって俺の不安は一気に増大して……

「のわっ!?」

――疲弊した体に緩く圧し掛かった。
――急激な減速とバリアジャケット解除によって、運動エネルギーをそのままぶつけられる事は無かったが、それでも疲れた状態に彼女の柔らかい感触は少しキツイ。
――2,3歩後ろに下がりながら受け止め、何とか転倒だけは免れる。

「無事で良かった……本当に良かったよぉ!!」

――彼女は泣いていた、そして笑っていた。
――力一杯に俺をきつく、キツク抱き締めながら……。
――まるで子供が大切な玩具を守るように、決して離さないようにしている。
――隣の小さな少女に目を向ければ、両手を挙げて「やれやれ」といった様子で助け舟を出そうともしない。

「聖君が居なくなったら私、私!!」
「あぁ、あぁ……」

――やはりと言うか何と言うか、コイツの心配性はそう簡単には治らないらしい。
――背中に回される腕の締め付けは更に強くなって、俺達の隙間は1ミリたりとも存在しない。
――だけどこうして、誰かの想いに守られている事を実感出来るのは、きっと何よりも大切な事なんだろう。
――今までは見向きもしようとしなかったその温かさ、彼女に倣うように両手でしっかりと抱き締める。

「大丈夫だ。俺は此処に居るから」

――震えるその肩を、華奢なその体を、決して離さないように……。
――大丈夫、大丈夫と繰り返して、静かに彼女の耳朶を打つ。
――きっと辛かったんだろう、友達を置いていってしまった事が。
――俺が言ったから俺の責任、とは簡単には考えられないコイツだから、きっと責任を感じていた筈だ。

――でも大丈夫、俺はお前の傍から勝手に居なくなるつもりは無い。
――誰が何と言おうと、己の意志で隣に居続ける。
――離れてなんかやるものか。

「お前の傍に、ずっと居るから」
「約束だよ? 絶対に約束だよ?」

――ポンポンと優しく背中を叩いて、彼女の請うような言葉に応える。
――そんな必死にならなくても、最初からそのつもりだって。
――全く、やっぱりコイツは子供だよ。
――その実感が全身を通して理解に至って、そこではたと気付いた。

「悪い、お前に食って貰おうと買った桃、無くしちまった」

――自分の両手ががら空きだった事、提げていた重みがいつの間にか無くなっていた事。
――気を紛らわせる意味で笑いながら言ったら、「もう……」と呆れたように呟かれた。
――少ない身銭を切った訳だから、本心では少々勿体無い気がする。

――だけど、今の彼女の表情には暗い影は微塵も無い。
――そう考えれば悪くはないし、寧ろお釣りが来るようなものだ。

「それじゃ代わりに、一つだけワガママを聞いてね……」
「あぁ、それでいいなら」

――互いに身動きの取れない密着状態。
――そんな中で彼女は、俺を間近で見詰めている。
――綺麗に澄んだ瞳が真っ直ぐに、一分の隙間すら逃さずに俺の双眸を射抜く。
――微かに上気し赤らんだ頬、艶やかさを孕んだ表情に心臓が高鳴る。
――そして彼女は

「なまえを、よんで」

――満面の笑顔で、たった一つのワガママを口にした。






――それは、少年と少女の誓い――

――どんな壁も越えると決めた、繋いだ手の証――









N№End「なのは~その笑顔は星の輝き~」

 

 

 

~Interlude side:Nanoha~

 

 

 その事実を知った時、私は驚愕せずにはいられなかった。

 サーチャーで確認した魔導師、その姿があまりにも想像と違っていたから。

 あれだけ高速で複数の転送魔法の使い手は、単純に才能だけでは済まされないスキル。

 だと言うのに、自分の目で確認したその相手は――――私と殆んど歳の変わらない女の子だった。

 肩口で切り揃えられた茶髪と、瞳に澄んだ青色を湛えたその子は、漆黒の法衣を纏っている。

 

 そして何よりも、彼女自身に単独戦闘のスキルが無かった事。

 私が接近した事に気付いた時も、10体程の傀儡兵を転送しただけ。

 攻性魔法の一つも使わないまま私に捕縛され、そのまま糸が切れたようにプツリと気を失ってしまった。

 結界の上書きと、聖君の安全を確認した後、ヴィータちゃんを通してはやてちゃんに連絡。

 聖君の誘拐事件に携わっている現在、今回の事を報告する必要があったから。

 

 そして後日、彼女から話を訊くと……

 

「あの女の子、何も憶えとらんみたいや」

 

 自分がどうしてあの場所に居たのか、そして間接的ではあるものの聖君を襲ったのか。

 何よりも自分が魔法を行使していた事が、一番分からないらしい。

 その少女、『ルミナ・カーマイン』は管理局の管理世界の出身ではあったけれど、魔法とは無縁の生活をしていた。

 それは彼女の家族からの証言も取れていて、真実である事は間違いない。

 でもある日突然、彼女が行方を眩ましてしまったらしい。

 

「ちょっと引っ掛かってな、フェイトちゃんに訊いたんよ。そしたらビンゴ」

 

 私達の共通の友人である、フェイトちゃんが携わっていた事件。

 次元世界規模で起こった誘拐事件、行方不明中だった3人の内の1人が当の少女ルミナ・カーマインだったのだと。

 そして数日後、残りの2人も無事に発見されたらしい。

 フェイトちゃんは最後まで何が何だか分からないといった顔をしていたけど、まずは事件が無事に収まった事を喜んでいた。

 遂に聖君の関わる事件とその誘拐事件が繋がった訳だけど、その張本人たる黒衣の人物はあの時以来姿を現していない。

 

『やはり調整中の彼女ではこの程度が限界か』

『これでは『座』も不完全なまま、これより先のステップへは不可能』

『ハギオス、様々な問題があったとは言え、今回は私の負けのようだ。だが――』

 

 ――いつの日か、君の前に現れるだろう。

 調整、座、聖君をハギオスを呼ぶ理由。

 結局何一つ分からないまま、彼を巻き込んだ事件は終わりを迎えた。

 最初はいつまた襲われるか分からなかったから、現場復帰の傍らに警戒はしていたんだけど……。

 

 今でもその音沙汰は無い。

 本当に現れるのかな、という疑問……

 もしかしたら諦めたのかも、という安堵……

 綯い交ぜになったままだけど、時は正確に、そして確実に刻み続けていました。

 2年、それだけの時間が……。

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな涼風、程好く照り付ける朝日が視界に広がる。

 その中でリノリウムの床を打ち鳴らす、軽快な靴音が響いていた。

 目に映るのは、一定間隔で置かれたドアの列。

 

 エルウィン・ブルセック、シンシス・シェルビー、ガルゴ・ドラクオン……

 

 記されるネームプレートを心中で読み流しながら、その横を通り過ぎていく。

 そして……

 

『ヒジリ・ミズシロ』

 

 その一点に、視線が固定された。

 目的地であるその場所に着いた私は、懐から取り出したIDカードをセキュリティ用のリーダーに通す。

 間も無くランプが点滅して、ガチャと扉のロックが外れた。

 そのままノブを掴み開け、室内へとそそくさと入っていく。

 

《It only have to be lofty more(もっと堂々とすれば良いのでは)?》

 

 胸元で明滅しながらそう言う彼女に、指を立てて沈黙を促す。

 一応今は早い時間で、きっと家主である彼は睡眠中だから念の為。

 早起きが性分の彼でも、連日の仕事に体も参ってるみたい。

 

(確か、陸士108部隊に出向任務だったんだよね?)

《Yes, doing is done by being when it is finished at last in yesterday and it returns.(はい、昨日漸くそれを終えて戻ってきたらしいです)》

 

 音を立てないように、念話を用いて会話を進める。

 

(108部隊って事は、はやてちゃんも一緒の筈だよね……)

《Yes, to the way in the communication from the apocrypha.(はい、アポクリファからの通信ではそのように)》

(2人一緒の職場なんだよね……)

《Uh,master(あの、マスター)?》

 

 胸の内に広がる、黒々とした感情。

 確かに空と陸だから一緒になる事なんて殆んど無いけど、だからってこれはあんまりだと思うなぁ。

 私は戦技教導官で空戦魔導師、彼は色々な部隊を回っている陸戦魔導師という立場の違いもあるのは確かだけど……。

 どうしてはやてちゃんは一緒になれて、私は駄目なのかな?

 レイジングハートの戸惑いも気にせず、心中から不満の言葉がどんどん漏れていく。

 

「あ……」

 

 そうして気付いた頃には、目の前でその当人を発見した。

 静かに深く呼吸を繰り返して、健やかな眠りに就いているのがよく分かる。

 最近また伸びだした前髪を指で退かすと、そこには力無く閉じられた双眸。

 

 本当に、グッスリ眠っている。

 その姿が普段の彼よりもずっと幼く見えて、可愛いなぁなんて思ったり……。

 

(ねぇレイジングハート)

《What(何ですか)?》

 

 今の彼を見て、何となく思い付いた提案。

 こんな目の前で熟睡されちゃうと、こっちまでそれがうつってしまいそうで。

 だから……

 

(このまま一緒に寝ちゃおっか)

《......I must like it.(……お好きなように)》

 

 その返答を訊くまでも無く、薄い上掛けを少しだけ開いてその中に身を寄せる。

 彼の温もりに包まれたそこは、私の心を満たす楽園のような所で……。

 さっきまでの不満とかその他諸々が、一気に吹き飛んでしまう程の心地良さだった。

 あまりの幸福感にだらしなく笑みが零れて、同時に急激な睡魔が襲ってくる。

 

 ……そういえば今日、ちょっと早起きし過ぎちゃったから。

 ……時間まで、一緒に寝ようね。

 全身を包む彼の温もりに全てを委ねながら、私は普段しない二度寝という行為の深みに嵌まっていった。

 

 

~Interlude out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を中心としたあの事件は、結局何一つ分からないまま終わりを告げた。

 あの夕焼けの中で発された黒衣の言葉は、今も憶えている。

 いつか必ず俺の許に現れるという宣言。

 そして意味の分からない、あの呟き。

 

『君の力は、魔法によって開花するものではないと言うのに……』

 

 それ等が一体何を意味するのか、知る暇も無く時間は流れていた。

 最初は不安にも思っていたけど、俺としてはその方が全然助かるからいいけどさ。

 色々と面倒事が減ってくれて、学生らしい生活を続けられるというものだ。

 

 それでもやっぱり、あの夏に起こった事件は、俺にとって大きな衝撃を与えるものだった。

 今まで知る事の無かった新たな世界、魔法という高次の技術。

 そして自分にもちっぽけながらも、その才能があったという事実。

 更に友人達の戦う姿、その背中に惹かれたのは言うまでも無いだろう。

 

 今まで、こんなにも胸を打たれた事は一度も無かった。

 だからだろうか、その道を検討し始めたのは……。

 携わる者、それを見守る者、多くの人から聴いた話がこの想いを加速させた。

 自分にとっての最良の道だとは思っていないけれど、それでも進む価値があると思ったのも本心だ。

 師父にそれを告げた時は、心臓が破裂するのではと思う位緊張していたが……。

 

「此処を出ていく決心だけは、忘れるんじゃないぞ」

 

 たったそれだけ、だけど思い遣りに溢れた表情。

 その言葉はいつか現実となるもので、決して忘れていた訳じゃない。

 その頃にはひなた園の皆も、頼れる兄さん姉さんになれているだろう。

 少し心配はあったけど、それ以上に皆は頼もしかったから……。

 

 俺は、前に進むと決めた。

 彼女の隣に立つと、共に歩むと誓ったから。

 リンディさんやクロノさんの勧めで入校した『陸士訓練校』。

 聖祥と並行しての1年は大変だったけど、それでも何とかやっていけた。

 多くの友人の力添えと、何よりも俺を見続けてくれた1人の少女のお陰だろう。

 あれから2年、気付けばそれだけの時間が流れていた。

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の端へ流れていく風景、1秒毎に移り行くそれを何の気無しに見詰める。

 ぼ~っと、ぼ~っと、片肘を付きながら窓に映る明媚なその場所を……。

 レールウェイの特別席はその空席具合、そして時期的な問題からか、人がごった返すような事も無く静かだ。

 

「えっと、まだ怒ってるのかなぁ?」

 

 その中で、見えない冷や汗を掻きながら、俺と対面の席に1人の少女が座していた。

 ちょこんと申し訳無さそうに座る様子は可愛らしいが、同時に滲み出る情けなさに苦笑を漏らしそうになる。

 管理局内で『エース・オブ・エース』等の素晴らしい肩書きを与えられた者には、到底思えない姿だ。

 

「もう気にすんなっての、今更怒るのも飽きた」

「にゃはは……ゴメン」

 

 とても気まずそうな響きと困ったような笑顔を浮かべる彼女の姿に、脳内に残った微かな心労の種が払拭されていく。

 何故このようなやり取りを行っているのか。

 原因は今朝、起床時にあった出来事にある。

 

 ……まぁ簡単に言えば不法侵入だな、コイツの。

 昨夜遅くになって漸く我が仮宿に戻ってきた俺は、さっさと眠って今日に備えようとした……のだが、運悪く隣室の同僚に捕まってしまった。

 ガルゴ・ドラクオン、あの馬鹿野郎が……。

 同じ部隊から戻ってきたのに、何でアイツは元気良く食料とか飲み物とか持ってきてるんだよ。

 俺の「翌日に用事アリ」という主張は聴き入れられず、シェルビーを含めて半ば強引にお疲れ様会を敢行され、眠りに就いたのは深夜をかなり回った辺りだった。

 

「確かに好きにしていいとは言った」

 

 俺の部屋のロックは彼女のIDでも外せるように設定してるから、元々そのつもりだから入って来る事は問題無い。

 しかし、だからと言って、人の寝床にまで侵入するのは如何なものかと思わずにはいられない。

 あの時本当に慌ててしまって叫び声を上げてしまい、同フロアの同僚にまで押し掛けられる始末。

 更にそれは波紋を広げ……その後の事は思い出したくもない。

 「ヒジリが女を連れ込んだー!!」とか「高町教導官が、何故こんな所に、何故奴の傍にー!!」とか一々五月蝿かったのは憶えてるが、めんどくさいから早く忘れたい。

 まぁそんな喧騒の中、逃げ出したい気持ちと戦いながら事態を収拾しつつ、こうしている訳だ。

 

「アレは凄かったね」

「笑い事じゃ済まされねぇんだけどな、本当の所……」

 

 何だかんだで一部の陸の人間(特にウチの所)は、空の魔導師に憧れみたいなものを秘めているらしい。

 自分達のように地べたを這いずり回るのとは違う、広い大空を華麗に舞うその姿は誰もが見惚れるものだ。

 その中でもコイツは、方々での露出の機会の多さから、様々な羨望を一身に受けている身。

 それが俺みたいな唯の陸戦魔導師と一緒に、しかも同じ寝床に居たとなれば、色々と弊害とか誤解が起こる訳で……。

 まぁ、それも引っ括めて全部受け入れるとは、とうの昔に決めてた事だけどな。

 

《Fight.(頑張って下さい)》

「こうなった以上、腹は括るさ」

《The word who seeming is my master.(私のマスターらしい言葉です)》

 

 俺の決意を応援する声が、手元から響いてくる。

 右手首に着けられたシルバーバングル、それに収められた一点の金珠。

 以前は目にする事すら叶わなかった相棒、『アポクリファ』の現在の姿だ。

 

 正式に陸士訓練校に入るに当たって、一番の問題だった彼女の存在。

 起こり得るであろうトラブルを見越してか、クロノさんの伝で管理局とは繋がりの無い医療機関での外科手術を受けた。

 アポクリファの機能を一時的に停止させる事で、何の問題も無く体内から彼女の取り出しには成功。

 更に機能拡張の為にデバイスの余剰パーツによる改良で、本来のインテリジェントと同等の性能を手に入れる事が出来た。

 

 此処だけの話だが、アポクリファはレイジングハートのような瞬発力に優れたインターフェースよりも、安定性を重視した設定を好むようだ。

 その辺りで色々と四苦八苦したのも、俺達にとっては良い想い出だ。

 

 ――――そんな紆余曲折があった末に、今のアポクリファへ至った訳である。

 

「つーか、お前も気付いてたんならさっさと起こせよ」

《It heals, it is possible to say, and there might not be reason that obstructs young person's love affair.(いえいえ、若者の情事を邪魔する訳には参りませんから)》

 

 情事ってお前、ちょっとその誤解を招く発言はどうかと思うんだが……。

 見てみろ、対面の彼女は顔が滅茶苦茶真っ赤になってるぞ。

 だが言っておくが、アポクリファの言葉はお前がやった事と同じだって理解してるか?

 そう告げると彼女は、手許をモジモジさせて俯きだした。

 

「その、ちょっと位なら良いかなぁって」

 

 チラチラと此方を伺うような視線、親に怒られた子供のような様子に、俺としても何だかなぁと曖昧な感情が渦巻く。

 別に俺は本気で怒ってる訳じゃないし、目の前の少女の行いを咎める気だって無い。

 

 単純に、その……滅茶苦茶恥ずかしかったってだけだ。

 いやだって、目を覚ましたら間近に女の子の顔があるとか、色々な意味で驚きだっての。

 取り敢えず、まずはそういった青少年に対しての精神的配慮をだな……

 

 いや、考えるような事でもなかったな。

 

「ったく、折角の『旅行』のスタートからこれじゃ、先が思い遣られるな」

 

 巡っていた思考を閉じて、窓から覗く風景に目を向け、その言葉の意味を改めて思い返す。

 旅行、たった2人きりの短い旅。

 もう今年で中学卒業という時期に合わせて、俺達はそんな事をしていた。

 実は以前、いつもの3人組の旅行に誘われていたのだが、流石に女子だけの旅行に男が入る訳にもいかず……。

 その対応に少しばかりご立腹だった彼女が、今度は俺の休暇に合わせてこんな企画を『独断』で立てたのだ。

 

 まぁ実際、アイツ等の旅行当日に結局は顔を合わせたけどな。

 『ミッドチルダ臨海第8空港』、今から数ヶ月前に火災事故が起こった場所。

 お使い場所がそこだったのは、何の因果かと思わずにはいられなかったが、気にする事でもない。

 

 ……そう言えばあの時見付かった女の子は今、どうしているだろうか?

 

「スバル・ナカジマだっけ。ちゃんと元気にやってるかな……」

「どうしたの突然?」

「いや、何となく思い出してさ」

 

 劫火に包まれた世界の中で見付けた、1人の少女。

 弱々しく泣く事しか出来なかった彼女は、俺達に助けられて今どうしているのだろうか?

 自分から事に関わった以上、気にならないといえば嘘になる。

 

「あの子なら大丈夫だって。ナカジマ三佐もそう言ってたしね」

「まぁ、大きな怪我もしていなかったからな」

 

 だが俺としては肉体的なものよりも、内面的な方が心配だった。

 あんな死が間近に迫る出来事を目の当たりにして、それがトラウマにならなければいいんだが……。

 でも今の言葉なら、その心配も無いようだ。

 

「むぅ~」

 

 ……って、何故だか目の前の女の子が膨れているんですけど。

 如何にも「私、憤慨しています」みたいな表情で唸って、更にはジト目まで追加されている。

 彼女が此方に向けるその意図が、俺にはどうにも掴めない。

 

「聖君が優しいのは分かってるよ。でもね、今は他の女の子の事、あんまり考えて欲しくないな」

 

 不満げに漏らす言葉は、何とも愛らしい理由だった。

 俺としてはふと思い出したから口にしただけなのに、そんな些細なものにさえ彼女は嫉妬していたらしい。

 相手は幾つも下の子なのに、本当に可愛いなコイツは……。

 このまま怒らせておくのも可哀想だし、きちんと謝らないといけないな。

 膨れっ面でワガママを呟く少女に笑い掛けて、一言――

 

「悪い悪い、機嫌直してくれよ…………なのは」

 

 ――――彼女の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ、良い湯だなぁ」

 

 全身を緩く覆う温水の感触に、思わず年寄り染みた言葉が漏れる。

 ミッドチルダ北部の温泉地、中でも奥地に存在する老舗と呼ばれる旅館。

 中央よりの場所にあるホテル等が軒を連ねる中にひっそりと建てられ、一部の温泉マニアに愛されている秘境。

 それが今回の宿泊場所だった。

 

「温泉なんて入った事、あったっけか?」

 

 いつもならば出る事も無い独り言さえ、あまりの気持ち良さに自然と吐き出されてしまう。

 弛緩する筋肉の隙間を縫うように温かさが染み渡って、体に淀んでいた疲れが抜け落ちていく感覚。

 これが幸せというものなんだろう。

 山展望の露天風呂、眼下に広がるのは漆黒に染まる木々の緑。

 空を見上げれば、黒地のカーテンに無数に点在する小さな光の粒が瞬いている。

 海鳴でも一部の場所でしか見れない風景が、目の前に広がっていた。

 心が洗われるようだ。

 

「星もあんなに綺麗で――」

 

 

「あっ、聖君見付けた」

「――のほわっ!?」

 

 弾むような明るい声色。

 突如として背後から掛けられたそれに、思わず石造りの縁に手を滑らした。

 そのまま吸い込まれるように浴槽へ身を落とし、頭の天辺から足の先まで全て浸水する。

 

 ――――ってヤバい!?

 あまりの急展開に湯船の中で昆布の如く揺れていた刹那、酸素を求めて頭を浮上。

 顔を包み込む熱を振り払って、外気へと難を逃れた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……」

「だ、大丈夫!?」

 

 だが少し湯水を飲んでしまったらしく、呼吸と同時にえずくように咳き込んでしまった。

 すぐ近くで水を蹴る音と、心配げな彼女の声が聴こえる。

 …………え?

 

 

「なの――――はぁ!?」

 

 そして目に飛び込んできたのは、布一枚だけで身を包んでいる姿の少女。

 真っ白なタオルを体に巻いただけ、それ以外の首筋とか鎖骨とか胸元とか、妙に色っぽい部分が完全に露出している状態だった。

 その艶やかな風体は、内側の鼓動を否応無く拍車を掛けて暴れ回る。

 

「な、ななな、何で此処に!?」

「知らなかったの? 此処、混浴だよ」

「何ぃ!?」

 

 ほら、と指を差した先には、木造看板が一つ。

 そこには達筆な字で『男女混浴』と黒々と書かれていた。

 ま、マジかよ……。

 冷静な俺なら「どうして日本語なんだ!?」と突っ込んでいただろうが、今はそれすら叶わない程の衝撃が全身を駆け廻っていた。

 

「ほら、一緒に温まろうよ」

「あ、いやしかし……」

 

 突然こんな状況に陥って、しかも目の前にはあられもない姿の美少女。

 先程まで俺の居た場所に佇む彼女は、頬を上気させながらも何の躊躇いも無くそう発した。

 男の本能としてはその言葉に無条件降伏を致したい、だが自制という行為もまた必要であってだな……

 

「駄目?」

「あ、だからその……」

「私は一緒に入りたかったんだよ?」

「えと、あの……」

 

 だが懇願するような言葉の連続に、自制という感覚が無情にも削り落とされていく。

 単語一つまともに発せない状態で、正直何と言えば良いのか分からなくなる。

 思考回路が焼き切れて、何も考えられない。

 

「お願い……」

 

「――――っ、分かったよ」

 

 結局、俺が折れるしかなかった。

 あんな縋るような願いを拒める神経は、俺の何処にも持ち合わせていなかったらしい。

 仕方なく、本当に仕方なく、彼女に倣って岩肌に背を預ける。

 滑らかなそこは肌に心地良く当たり、ゴツゴツした感触は無い。

 

 唯、隣に居るなのはの存在は、俺の心臓の鼓動を否応無く高めていく。

 必死にその方向を見ないようにするのが、俺の精一杯の妥協点である。

 取り敢えず俺の精神、静まれよ、すぐに静まりたまえ……。

 

「よいしょ」

「ん?」

 

 不意に腕に掛かる、緩やかな重み。

 静まれ静まれと脳内で単語を回転させていた行為が、それに気付いた事でストップされた。

 自然に呟かれた彼女の声は、次の瞬間には耳元にまで近付いていたのだから。

 つまりは、肩を合わせる位の距離にまで縮められていたという事。

 

「おっ、おい!?」

「気にしない気にしない、今此処に居るのは私達だけだよ」

 

 にゃはは、と本当に気にも留めない彼女はピッタリと寄り添ってくる。

 浸かっている湯水を通して触れてくる肌の温もりが、心臓を更に拍動させ全身の血行を異常活性させる。

 今の彼女は正しく、甘えの極みに達していた。

 これ以上は俺の精神衛生上、非常に宜しくないのだけれど、それを振り払う事もまた憚れた。

 

「にゃはははは」

「ったく、好きにしろ」

 

 だから自制を最大限働かせて、それを受け入れる事にした。

 2年前まではその片鱗すら見せる事の無かった、無条件の甘え方。

 それはこの少女にとって、なのはにとって何よりの信頼の証でもある。

 そうで在りたいと願った自分の場所が、確かな形として目の前に存在していた。

 

「私は聖君の彼女(・・)さんなんだから、これ位は当然でしょ?」

「……前例が無いから知らねぇよ」

「うん、私も知らない。だから、私は私のしたい事をする」

 

 温泉の熱となのはの体温が合わさって、更に俺の理性を蝕む。

 唯一の救いだった清風すら霞んでしまう程の魅力は、しかし当の本人には自覚がまるで無い。

 どこまでも純粋で、だからこそ性質が悪い。

 その下心の無い無垢な双眸を向けられる度に、胸の奥底に抑え込んでいる本能が鎌首をもたげるように表層へ現れる。

 こんな大胆な行動は、きっと『彼女』という言葉を体現しているからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 自分でも気付いてなかった訳じゃない。

 あの日を境に、俺となのはの距離が一気に縮んだ事を。

 今までワガママの一つも言えなかった少女の想いを、少しでも受け止めると誓った。

 だから伝えた。

 

「俺に出来る事なら何でも構わない。自分のしたい事とか俺にして欲しい事、少しずつでいいから言って欲しい」

 

 ――――代わりに俺も、少しずつワガママを言うから。

 子供染みたその想いは、決して高尚なものじゃない。

 それでも、自分の中に在る精一杯の誓いを言葉にした。

 気付けばその時から、俺達の関係は変わっていたんだろう。

 彼女への呼び方が『高町』から『なのは』に変わったのもその一つだった。

 

 夏休みが終わって2学期が始まれば、昼食中は隣に座る事が増えた。

 つーか今思い返すと、あれから毎日だったかもしれない。

 それだけじゃなくて、彼女が無理をしない程度に教導が続けられた。

 一緒に足並みを揃えて桜台まで走って、最初は着いていくのがやっとだったなのはも、今では多少スピードが上がっても問題無い位の体力が付いたらしい。

 

「一緒に進むんだもんね」

 

 心底嬉しそうなその笑顔を、今でも鮮明に憶えている。

 更に一週間に一度、理由も無く『高町家』へ泊まる事が決まっていたり。

 それに疑問を感じなくなってきた自分に、何だかなぁと思ったりもした。

 まぁ、一緒に居られるのならそれで充分だけど……。

 

 

 ――――さて、そして俺の方だが。

 彼女に言った通り、俺自身もどんなワガママを秘めているのか思考を巡らせていた。

 でもそこには何一つ存在しない、深い暗闇だった。

 なのはのようにワガママを我慢していた訳じゃなく、ワガママを思い浮かべる事すら拒んでいたが故の弊害。

 だけど今の俺はそれを拒絶してるつもりはなく、本当にそれ自体が無かった。

 

 それによる結論は――――俺が、今の状態に満足しているという事。

 なのはの隣に居る事、一緒に話したり笑い合ったり、それが既に心を充分に満たしていた。

 他は要らない、だから欲しいと望むものがあるのなら……

 

「これからも、ずっと一緒に居て欲しい」

 

 たった一言で済ましてしまう、そんなものでしかない。

 でもそれは紛れも無く俺の本心であり、心の底からのワガママでもあった。

 それから変わり始めた俺達の関係。

 祝福する者、何を今更と言う者、怒り狂う不特定多数(言わずもがなMVPな訳だが)……。

 

「なのはの事、大切にしてあげてね」

 

 そしてスクライアは、そのどれとも違う反応だった。

 好きな女の子が離れていってしまう寂しさ、自分の居たい場所が無くなってしまった悲しさ。

 様々な感情が綯い交ぜになった彼は、力無い笑顔で応えていた。

 

 だからと言って俺やなのはと疎遠になってしまう訳ではなく、今でも友人関係は続いている。

 本局勤めの2人が会うのは珍しい話じゃないし、俺も暇な時は通信越しで他愛無い会話をする。

 近い内に彼が陣頭指揮を執って遺跡発掘を行うらしく、俺にもスクライアの護衛という名目で同行しないかと誘われている。

 勿論、都合が合えば宜しくと答えは返している。

 今から楽しみにしているのは、ちょっとした秘密だ。

 

 

 

 

 まぁそれからも色々あったけど、こうして2人一緒に居られるのは決して悪い事じゃない。

 階級違いだの何だのと言われようと構わない。

 大切な人が隣で笑っていてくれるなら、それだけで俺には充分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を埋め尽くす星々の下、夜の道を歩く。

 先程の旅館から少し離れた岬に野外展望台があると聞いて、露天もそこそこに俺達はそこに向かった。

 

「聖君、ほら早く!!」

 

 前を行くなのはは、夜空に広がる星空に興奮してるのか、小走りで此方を急かしてくる。

 旅館で用意された浴衣と羽織で身を包み、いつもと違って髪を下ろした姿は、今までの彼女よりも大人に見えて少し見惚れてしまう。

 さっきの露天風呂での事もあって、俺の心臓は全く静まってくれない。

 あぁいや駄目だ、俺が呆けてしまうと彼女が――――

 

「あっ……とと」

 

 やはりと言うか足を縺れさせる彼女、すぐに支える為に傍へ寄るが……意外にも彼女は、その場で上手く体勢を戻して事無きを得た。

 いつものようにコケるかと思っていただけに、この変化には驚かずにはいられない。

 当の彼女はと言うと、にゃははと恥ずかしそうに笑って、俺を真っ直ぐに見ている。

 

「大丈夫だよ、私もちゃんと進んでるから」

「……そっか」

 

 誇らしげに伝えてくるなのはに、嬉しさとほんの少しの寂しさを感じてしまう。

 この少女は今この瞬間にも、少しずつ成長している。

 それは当然だ、なのははいつだって真っ直ぐに前を向いて頑張っているのだから。

 だからもし、このまま彼女が俺の支えを必要としなくなったとしたら……。

 

 それはきっと、何よりも喜ぶべき事なんだろうけれど……

 

「もう聖君、早くこっちだよ!!」

 

 不意に腕を引っ張られた。

 隣を見るとなのはが、眩しい程の笑顔を俺に向けている。

 夜空に瞬く星に負けない、彼女らしい笑顔だった。

 

「あ、あぁ分かった……」

 

 沈みかけた俺の意識を引き上げるように、俺の腕を抱き抱えるなのは。

 あまりに急なものだったが為に、此方は曖昧な反応しか返せない。

 

 いやしかし、ちょっと待ってくれませんか、なのはさん。

 さっきから俺の腕にですね、あなたの柔らかいものがですね、当たってるんですけどね。

 いくら羽織があると言っても、ふよふよとした感触があるのでマジで止めてくれません?

 

「ん? どうかしたの?」

「あっ、いや、あのな……」

 

 視線で訴えても、彼女は何処吹く風といった様相で、全く気付いてない。

 いや前から知ってたけどさ、お前ちょっと天然過ぎやしないか?

 露天風呂の時もそうだが、当たり前のように俺の理性にバスターを撃つのは勘弁してくれ。

 耐えてるこっちは本気でキツいんだぞ……。

 

 赤に染まった顔を俯かせながらなのはに引かれ、俺達は野外展望台まで辿り着いた。

 近くには木製のベンチが2つ、奥には落下防止の柵が敷かれ、その先には――――

 

「うわぁ、凄いねー」

「あぁ、これは中々……」

 

 ライトアップされた街並みが、眼下に広がっていた。

 人工的な灯りが連なりを拡げながら、形作られていく。

 それはまるで、漆黒のキャンパスに描かれた1つのアートのようで、俺達は感嘆の声を漏らす事しか出来なかった。

 

「でも、夜空もかなり綺麗だぞ」

「本当だ」

 

 空を見上げれば漆黒の天蓋に、数多の光の粒が散りばめられている。

 視界を覆う星々の瞬き、地球では見られない2つの月を双眸に収めて……。

 ふと、なのはが口を開いた。

 

「聖君と来れて、良かった」

「……えっ?」

「こうやって一緒に居るだけで、同じ星空を見上げるだけで、凄く心が満たされる」

 

 その声は本当に、心の底から紡がれる彼女の本心。

 一緒に居たいというささやかな、高町なのはにとって最も大切なワガママから生まれたものだった。

 

 ――――そうだ、俺達はそれを求めていただけだった。

 もし互いに支えが必要無くなったとしても、それは変わらない。

 強くなる為に傍に居るのではなくて、唯、相手の傍に居たいという想い(ワガママ)があるから……。

 内心に渦巻いていた俺の不安なんてものは、そもそも考えるまでもない、問題外の代物だったのだ。

 

「俺も、同じだ」

 

 なのはのその言葉で、曇りかけていた心が澄み渡っていく。

 気付けば俺は、隣の彼女に笑い掛けて答えを返した。

 

「うん、やっぱり聖君は笑っている方がずっといいよ」

「……そっか」

 

 さっきと同じ言葉で返したのに、そこに込められた想いはあまりにも真逆。

 煌びやかな彼女の笑顔は本当に眩しくて、でも同時に、とても愛おしいものだった。

 そうしてそのまま、2人で寄り添いながら星空を見上げていた。

 世界を越えても変わらない夜空の在り方、最低限の色彩で飾られた風景。

 

 それは不意に、遠い日の記憶を思い起こした。

 まだ幼く、星の本当の姿も知らなかったあの頃の事だ。

 

「昔さ、星は掴めるものだと思ってたんだ」

 

 徐に右手を空に伸ばして、自身の昔話を呟く。

 

 風呂上りに見上げた夜空があまりに綺麗で、両手を伸ばして掴もうと必死になっていた自分。

 距離が遠過ぎると分かるや否や、今度は別の方法を考えて希望を目指していたあの時。

 

「いつか空を飛んで、あの星を取りに行こうって」

 

 遠いなら自分から近付けばいいじゃないか。

 幼過ぎて事実の壮大さに気付かぬまま、目を輝かせながら過ごしていた。

 今思えば馬鹿だと一笑して終わるその言葉は、しかし誰もが一度は思い描くであろう夢想そのものだ。

 隣のなのはも頷いて同意し、彼女は左手を空に伸ばした。

 

「私もそうだった。目に映る星が宝物みたいに思えて、聖君と同じように考えてた」

「それが、お前の『飛ぶ事』が好きな理由か?」

「もしかしたらそうかも」

 

 彼女の胸に秘められた、空という舞台への強い想い。

 そのルーツはなんて事無い、幼き日の純粋な願いだったのかもしれない。

 でもだからこそ彼女は、こんなにも清らかに力強く空へ羽ばたけるのだろう。

 屈託の無い少女の笑みに、俺も自然と同じものを零していた。

 

「でも星は空だけじゃなくて、地上にもあるんだって、最近は思うようになった」

「えっ?」

 

 夜景を彩る光の粒から一転、下々に鬱蒼と生い茂る草木へ目を向ける。

 決して煌びやかではないそこは、確かに空とは雲泥の差がある事だろう。

 

 でもそれだけじゃない、『星』とは光り輝くものの象徴でもある。

 だとしたら隣の少女もまた、俺にとっては無二の宝物(ほし)だった。

 たとえこの手の届かない空へ飛び立とうとも、必ず地上(となり)へ戻ってくる唯一の星。

 

 空に伸ばしていた俺の右手で、同じく伸ばしていた彼女の左手を優しく握る。

 それを手元に引き寄せて、俺は大切な想いを口にした。

 

「俺の大切な貴女(ほし)は、いつだって(ひか)っている」

 

 地上で煌めく星は、隣に佇む少女の笑顔に他ならない。

 他の誰も手にする事の出来ない、最上最強で至高の輝き。

 たとえどんな壁が立ち塞がろうと、絶対にこの宝物だけは手放したりしない。

 

(ちじょう)で、な」

「聖君……」

 

 見詰め合うと、瞳の奥には自分が映っていた。

 お互いの呼吸が混じり合う程の距離、でも不思議な事に恥ずかしさは生まれてこなかった。

 この輝きを見ていたいという欲求が、今はあまりにも大き過ぎるが故なんだろう。

 切なげに潤む彼女の瞳が、艶やかさ以上に神々しさを湛えている。

 

 もっと、もっと、彼女の傍に居たい。

 ――――隣でずっと、この少女の輝きを守っていきたい。

 ――――隣でずっと、お前の光で俺を照らして欲しい。

 

「なのは……」

 

 その誓いと願いを込めて、彼女の名を告げる。

 

 約束する。

 俺はこれからも、ずっとお前の傍に居るから……。

 それはちっぽけな誓い(ワガママ)だけど、最後まで貫き続けると決めた純粋な想い。

 それを、その身で受け取って欲しい。

 誓いの表明、願いの告白、それは――

 

「…………」

 

 ――俺達の影が一つに交わる事で、形となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の誓い。

 

それは、誰もが持ち得るワガママそのものだった。

 

しかしワガママこそが、決意を形に変える大切な想いに他ならない。

 

彼は、生涯を掛けて誓うだろう。

 

光に満ちた、少女との明日を信じて。

 

 

 

 

 

「高町なのはは、貴方の笑顔が大好きです!」

 

 

 

 

 

少年の誓い なのは編 Fin.

 

 

 

 

 




なのはが彼女になったら、5人の中で一番相手に甘えるタイプだと思ってます。
公私はきちんと分けてても私になった途端、デレが振り切れるような女の子じゃないかなと。
こんな状態でStSの時間軸に辿り着いたら、どうなってしまうんだろうか?(´・∀・)
兎も角読み終わったら、田村さんの『Tiny Rainbow』を聴きましょう!

どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
なのは編№Endをお読み下さり、ありがとうございます。

聖を取り巻く事件は思わぬ形で収束し、不完全なまま終わりを迎えました。
黒衣の狙いも、残していった言葉の意味も分からぬまま……。
どうしてこのような不完全なまま終わったのかは、一応理由はあったりします。
ですが取り敢えず、それは置いといて( ・ω・)ノ
そして2年が経ち、より親密な関係を築いた聖となのは。
高町夫婦から伝授されたであろうなのはのイチャイチャっぷりに、青少年はタジタジです。
でも聖も割と恥ずかしい台詞とか言っちゃってるので、そこは五分五分ですね。
あ、エンディング後の2人がどうしたかは皆さんのご想像でお任せします。
この作品は至って健全な内容でありますから、僕の口からは何とも言えないので……( -ω-)
聖自身も魔導師として努力し、少しずつですが力を付けていってます。
なのはと同じ職場は無理ですが、その辺りはあまり気にしてない様子。
漸く日の目を見たアポクリファと共に、彼はこれからも前へ進んでいくでしょう。
彼の3つ目の誓いの物語は、こうして幕を閉じさせて貰います。
皆さんの持っているなのはという少女のイメージを崩していなければ良いなぁ、と思っております。
今回のギャルゲー的ED絵は、星空の下でなのはが笑顔を浮かべてる感じで想像して下さい。

実はこの他に『翠屋店長候補END』もあったのですが、なのはの隣に居続けるという彼の意志を尊重して、その選択肢は早々に消しました。
皆さんの妄想力で補完して頂けると助かります。
美由希が良い人を連れて来れば解決する問題なので、まぁ大丈夫でしょう。
ちょっと美由希救済の為に、元軍人で翠屋にパティシエ修業をしに来たキャラで物語を作ってみようかとも思ったりもしました。
あれ、でもそれって…………殆んどブラーボだ!!(;゚Д゚)ミスター デンジャラース!!

今回はこれにて以上となります。
感想や意見、タグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
皆さんからのお声が原動力なので、是非、是非、是非宜しくお願いします!!( ;Д;)
では、失礼します( ・ω・)ノシ








Next Story ~Fate~

 落ち着け、落ち着けよ俺!!

「聖、どうしたの?」
「フェイトちゃん、青少年の悩みは女には分からない領域なんだよ」
「……?」
「エイミィ、人の妹に変な事を教えないでくれ」



「エリオか、良い名前だな。俺は聖、瑞代聖だ」
「ひじ、り……さん?」
「そうそう、宜しくな」









オマケとして、エピローグまでで聖が使える魔法について簡単な解説をば。

ジオ・インパクト《Geo Impact》

言わずもがな、聖の代表的打撃魔法。
掌に収束させた魔力を圧縮する、至極単純な魔法である。
本編で重力が起こっているのは聖の資質『流動』によるもの。
単純ではあるが故に、練度を上げれば『起動時間の短縮』『威力の向上』が見込める為、主力としては申し分無い性能を有している。


バースト・ヴェール《Burst Veil》

本編中の聖の魔法戦に於ける要、というよりも必要不可欠な強化魔法。
簡易的な防御フィールドを全身に纏う事で、バリアジャケットに似た効果を得られる。
とは言え性能は劣る為、強力な一撃を喰らってしまえば貫かれる可能性は大。


リパルサー・シフト《Repulser Shift》

術者が選択した踏み込みに『反発力』を起こし、一瞬だけ急加速する移動魔法。
あまり使い道の無い魔法だが、聖にとっては「真正面から奇襲出来る」という理由から使用頻度は少なくない。


リペル・アトモスフィア《Repel Atmosphere》

主に射撃魔法等に対して使われる、対遠隔・運動阻害魔法。
斥力の波を発生させる事で、魔法の威力や速度を減衰させる効果を持つ。
減衰効果は術者から離れる程効果も弱まるが、効果範囲は広い。


リペル・イグジスト《Repel Exist》

リペル・アトモスフィアの対を成す、対近接・運動阻害魔法。
アトモスフィアよりも効果範囲を狭める事でより強固な波を発生させ、物理攻撃の威力を減衰させる。
唯あくまで減衰である為、完全に攻撃を封じる事は出来ない。


ディバイン・ストーム《Devine Storm》

なのは直伝の砲撃魔法、彼女曰く「お揃いの魔法」。
射程が短いのがネックだが、聖の変換資質に合わせて最適化された為、消費魔力に比べて威力は高い。
彼にとって一番変換し易い『重力』を使用するので、高所から撃ち下ろすのが基本的な使い方。


※本編未使用

ギア・スラッシャー《Gear Slasher》

常に高速回転している歯車の形をした誘導弾。
聖では2発までしか制御は出来ていないが、弾体そのものが硬いので簡単には砕かれない。
この魔法の真骨頂は相手の防御を『噛む』という特性で、防御魔法の上から弾体を回転させ魔力を削るという効果を持っている。


アクセル・バレル《Accel Barrel》

特定の術者の射撃・砲撃魔法を加速させて、射程を伸ばす補助魔法。
聖本人は、専らなのはの為の魔法としているので、使う機会は殆んど無い。


ディバインストーム・ライジング《Devine Storm Rising》

ディバインストームのバリエーション。
本来の撃ち下ろしの砲撃の反対、『浮力』に変換して撃ち上げる砲撃魔法。
聖の資質に合わせている為、射程が短いのは変わらない。


ダブル・ディバイン・デストラクター《Double Devine Destructer》
聖のディバイン・ストームと、なのはのディバイン・バスターによる挟み撃ち魔法。
2人と対象の位置によってはディバインストーム・ライジングに変更する場合もある。

ポジショニングの時に「コンビネーションDDD」と合図を送って発動するようだが、正直2人が同じ戦場に出る事はあるのだろうか?
スパロボ的な『合体攻撃』だと思って下さい( -ω-)ノ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。