少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

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「ねぇ、大丈夫?」

――初めて向けた言葉は、そんな他愛無いものだった。
――中学校に上がって初めて見た、まだ名前すら知らなかった1人の少年。
――私の後ろの席で項垂れていた彼は、その言葉に酷くおかしな奇声を上げて答えた事を今でも憶えている。
――思い返すと、何だか変わった出会いだなぁなんて感じてしまう。

――でも、それは決して悪いものじゃなかった。
――その日から始まった私達と彼の繋がりは、学校生活を経る毎に確かな絆へと変わっていったのだから。
――少しぶっきらぼうで頑固者、なのはとアリサを足して割らないような性格。
――初めて出会った時、自然と声を掛けられたのはそのお陰かもしれない。

『アイツ等に出会った事を後悔するなんて、絶対にしない』
『それはきっと、お前達が居たからこそだったと思う。だから――――ありがとう』
『綺麗な髪してんだから、笑った方が得だぜ』

――そして、誰にも負けない位の『優しさ』を持っていた。
――それは誰もが手に出来る程、簡単なものじゃなくて……
――きっと大切なものを守り続ける彼だからこその、本当の『強さ』。
――魔法が無くたって、人は強く在れる。
――その背中に私は、憧れに近い感情を抱いていたのかもしれない。
――だから彼を守れなかったあの時は、凄く悔しかった。

『今こうしてお前と話せるのも、お前達が急いで来てくれたお陰だろ?』

――なのに何で、そんなにも優しい言葉を掛けてくれるの?
――あれだけの傷を抱えて、とても痛い思いをした筈なのに、どうして……。
――君は、私の心を自責から守ろうとするの?
――この身に宿る後悔を、乱暴に頭を撫でながら笑い飛ばして……。
――気付けばそれすらも無くなって、私はいつもの私で居られた。

――瑞代聖、君はとても不思議な人。
――君と居ると私もまた、不思議な想いに包まれる。
――この気持ちは、一体何だろう?








フェイト編(№ⅩⅩⅩより分岐)
F№Ⅰ「大切な友達」


 

 

 

 

 

 ……あぁ、暗い。

 目に映った風景に、単純にそんな呟きが漏れた。

 どこまでも黒いその場所は、自分と外界の境界線を完全に消し去っている。

 最早、自分がそこに居るのかすら理解出来ない。

 

「……」

 

 視線は動く、けれども全身の感覚が全く掴めない。

 地に足を着けて立っている訳でもない。

 まるで体が空気にでもなって、光の差さない暗闇を漂っているかのような……。

 だけど何も無い、五感の全てが閉ざされている。

 

「……違う」

 

 しかしその世界に立ちながら、俺は何の躊躇いも無く声を発する。

 残響すらしないその世界で、それでも歯牙に掛ける事は無い。

 

 何故なら、この世界を俺は知っているから。

 この何もかも存在する事を認めない漆黒を、俺は数度見た記憶がある。

 

「そうだ、これは……俺の内側」

 

 いつか聴いた彼女の言葉。

 それに倣って、ゆっくりと視界を閉ざす。

 

 心に浮かべるのは川のせせらぎ、小鳥の囀り。

 精神を静める全てのイメージを脳裏に、無機質な暗闇に想像の色彩を飾る。

 拍動する心臓、血液が全身を駆け巡る感覚。

 思考が白く染まり、涼風によって雑念が払われていく。

 

 そして――――暗闇は開けた。

 

 

 

 

 

《Welcome.(ようこそ)》

 

 広く放たれた世界に張られた、幾つもの光の筋。

 蜘蛛の巣を髣髴とさせる光景の先、収束するその場所には金色の珠玉が鎮座している。

 明滅を繰り返して発される声は、電子的な女声だった。

 

《There is not a lead and either even the attainment is a matter of time in the thing said that it came to this conduct oneself.(導きも無く此処まで来たと言う事は、到達まで時間の問題ですね)》

「どうした?」

《It is a talk by my side. It doesn't worry.(此方の話です。お気になさらず)》

 

 独り言のように呟く彼女は、俺の問いに素っ気無く返すだけ。

 何処か含みを持たせた声色だったが、追及を避けている様子に何も言えなくなる。

 一体今の彼女には、どんな考えが巡っているのだろうか?

 依然として目の前で浮遊する宝玉は、口を固く閉ざしている。

 音の無い世界で、たった2人、声も発せず佇むだけ。

 

 だが不意に、頭上から真っ白な光が差し込んできた。

 まるでこの空間を引き裂くように、一本の筋が世界を割った。

 

《Please return. To the place in which you should be.(戻って下さい。貴方の居るべき場所に)》

 

 その言葉にこの光の正体に見当が付いた。

 これは、きっと現実への回帰。

 今の俺は眠りに就いていて、これから目覚めようとしているに違いない。

 光は徐々に照らす範囲を広げていき、俺達を飲み込もうとしている。

 

「お前は……?」

《I am always beside of you.(私はいつだって、貴方の傍に居ます)》

「……そっか」

 

 白に塗り潰されていく世界で、彼女の声が胸に響く。

 その当然のように発される内容に、思わず笑みが浮かんだ。

 

 そうだ、コイツはいつだって俺の傍に居る。

 手を伸ばしても届かない、でも声を掛ければすぐに返してくれる場所に。

 だったらこの光は、俺達の繋がりを別つものにはなり得ない。

 

 この世界は夢幻の光景。

 この邂逅は夢幻の一つ。

 ……光が、この身を包んでいく。

 視界が真っ白に染められ、意識が浮上していく感覚。

 その中で――

 

《If you hope, this conduct oneself will be able to become not the dream but a reality.(貴方が望めば、此処は夢ではなく現実となり得るでしょう)》

 

 ――最早、姿すら見えない彼女の声を聴いた。

 何を意味するのか考える暇は与えてくれなかったけど、きっと忘れてはいけない言葉。

 霞みゆく意識の中、それを胸に抱いたまま、俺は瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 突然視界に飛び込んできた白光に、思わず息が漏れた。

 チリチリと網膜を焼くその刺激に、目蓋を閉じる事で防ぐ。

 そこではたと気付いた。

 自分を取り巻く環境が、薄暗いあの場所ではない事に……。

 誰も存在しない呼吸の途絶えた空間、冷たく張り詰めた空気が肌に纏わりつく感覚。

 自分の最後の記憶にあった、あの嫌悪感しか生み出さない場所。

 

 だけど今は違う。

 段々と光に慣れてきた視界に映ったのは、真っ白な空間。

 体に纏わりつくのは柔らかい布、そして何故だか右手には温かい感触。

 何度か目にしたその光景で、漸く置かれた立場というものが理解出来た。

 

「医務室、か」

 

 意味の無い呟きと同時に、横たわっていた体を起こす。

 少し気だるい感じが拭えないが、起き上がれない程の深刻なものじゃない。

 知らぬ間に着させられていた入院着も見慣れたもので、別段驚く要因にはなり得ない。

 

 ――だからこそ、その姿が目に入った瞬間、俺の内心の驚きは尋常ではなかった。

 

「あっ……」

 

 長くしなやかな金髪が最初に見えた。

 毛先辺りを黒のリボンで束ね、まるで金織物のような美しさを醸し出すそれは、俺にとって慣れ親しんだ少女のもの。

 椅子に腰掛けながらベッドに俯せる彼女は、小さく寝息を立てながらそこに鎮座していた。

 浮かべる表情は天使のような寝顔で、思わず笑みが零れてしまう程で……。

 

 先程から感じる右手の温かさは、コイツが優しくしっかりと握っていたからのようだ。

 そこを伝って柔らかい感触と温もりが流れ込んできて、少しくすぐったい気持ちが溢れてくる。

 でも目の前で安らかに眠る彼女を起こす気にもなれず、それを甘んじて受ける事しか俺には出来ない。

 

「そっか……」

 

 思い返す過去の記憶、その本当の最後の光景。

 死に絶えたような世界に現れた、一つの金と白の姿。

 それを靡かせながら俺へと駆け寄ってきた一つの影は、崩れ落ちたこの身を支えてくれた。

 

 ……そうだ。

 その人物は紛れも無く――――お前だった。

 

「ありがとな、ハラオウン」

 

 霞んでいく視界に残った彼女は、とても必死な顔で俺に呼び掛けていた。

 その声を聴く事は叶わなかったけれど、きっとコイツらしくない大声を張っていたんだろう。

 いつも静かなハラオウンだけど、友達の為なら躊躇いはしない筈だ。

 それだけコイツは……俺を救ってくれたハラオウンは、優しい女の子なのだから。

 

 本当に、その懸命な姿を愛しく感じてしまう位に……。

 

「ありがとう……」

 

 だから、俺は感謝を述べよう。

 たとえ声が届かなくても、お前に対する気持ちだけは、きちんと口にしたいから。

 俺とハラオウン以外、誰も居ないこの場所に響く声。

 人の息吹を絶やさないようにと、俺は只管それだけを呟いていた。

 

 

 そして数分後、近くで身動ぎによる衣擦れの音が耳に触れた。

 どうやら、目覚めの時が来たらしい。

 

「んっ……ひ、じり………?」

 

 まだ半分も開き切っていない双眸、寝起き特有の抜けた声。

 初めて見たこの素顔は、何だか可笑しい位に可愛らしくて……。

 心の底から安堵してしまった。

 

「おっす、ハラオウン」

 

 俺の軽い挨拶に、目の前の寝惚け眼が徐々に見開かれていく。

 緩さを露わにした表情も1秒毎に変化していき、仕舞いには花が咲いたような微笑みへと変わっていった。

 感情の全てをそこに凝縮した笑顔は、彼女の心根に存在する想いの具現。

 ささやかで、それでいて本当の『喜び』がそこにはあった。

 

「聖……」

 

 きゅっと強く握られる手はしかし、彼女の力による痛みは現れない。

 それは存在を確かめる術で、目の前の俺が幻で無い事を証明する為の行動だった。

 体を起こした彼女が向ける瞳は、薄っすらと雫を湛えて……。

 

「……良かった」

 

 呟く言葉は、途方も無い安堵に包まれていた。

 見てる俺の心まで温かくする、心からの笑顔。

 

「おぅ、ありがとな」

 

 それだけで、自分が戻って来れたという気持ちになれた。

 いつまでも居たいと望んだ、沢山の想いに溢れた『場所』に。

 たった数ヶ月で築き上げた、何物にも代え難い大切な世界。

 

「おかえり」

 

 少女の一筋の涙と心優しき言葉、そして握り締めた小さな手と共に……。

 

「ただいま」

 

 俺はあの暗闇から抜け出し、無事に少女と再会を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、感動の再会も済んだ所で……

 

「この状況は、一体何でしょうか?」

 

 ベッド上で体を起こしたまま、目の前の男性に問い掛けた。

 

「自分の胸に聞くといい」

 

 俺と同じ黒髪、双眸に秘める怜悧な光。

 漆黒のバリアジャケットに身を包み、手には槍のような形をした白杖を手にしている。

 

 つーか、俺の顔面に突きつけているんですが……。

 吐き捨てた言葉はどこまでも冷静で、温情のカケラも感じない。

 唯、底知れぬ怒りのようなものだけは見て取れた。

 理由だけは分からないが、とても重要な事なのだろうか?

 

「いや、思い付くような事柄は何も……」

「なるほど、自分は潔白であると言うのか?」

 

 向けられる言葉はあまりに静か、それ故に異様なプレッシャーが圧し掛かる。

 まるで蛇に睨まれた蛙の発する二の句を、彼は言外に拒んでいた。

 医務室の空気が張り詰めたソレに変わり、呼吸すらも最低限に押し止められている。

 交錯する視線は、明らかに此方が力負けしていた。

 

「ならそれは間違いだ。何故なら君は――」

 

 喉がカラカラに渇いて、唾液を嚥下する。

 緊張感は今正に最高潮にまで達し、男性は裁判長のように宣告する。

 

 

 

「――フェイトを泣かせた!!」

「わっ、私!?」

「そっち!? そっちなんですか!?」

 

 完全な私怨による発言を、躊躇いも無くハッキリと口にした。

 男性、クロノさんによって離れた場所に立たされている少女も、自分の兄の言葉に当然ながら驚いている。

 だがそれ以上に、杖を握る力が増した上に、先端が現在進行形で近付いてる俺の方が圧倒的に驚いている訳で……。

 

 泣かしたって、広義的に考えれば確かに間違いじゃない。

 いやしかしアレは、悲しさと言うよりも喜びの方が勝っていた訳で……。

 

「クロノ、あれは私が勝手に……!!」

「だとしても原因は彼にある。その辺りの責任については、彼本人に言及するのが筋だろう」

「そっ、その、だから……」

 

 拙い言葉で必死に諌めようとしてるが、その程度では目の前の城砦はピクリともしない。

 全身から怒りオーラを滲ませる姿に、反射的に見えない汗が背筋を流れた。

 原因については一応の理解はしたつもりだが、何故か釈然としない気持ちになるのはどうしてだろうか?

 

「たとえどのような理由があろうとも、人の家族を泣かせた罪は重い」

「それは……」

 

 だがそれを言われてしまうと、俺には抗う術は無い。

 

 『家族』――――その言葉は俺にとって、何よりも重要な意味を持つ。

 己の行動原理の中枢たる存在、そして掛け替えの無い宝物。

 だから、クロノさんの言いたい事も痛い程よく分かる。

 大切な家族に涙を流させようものなら、俺だって張本人に対して本気で怒る。

 そう分かっているから、反論なんて出来る訳も無く……

 

「スミマセンでした」

 

 唯、平謝りをする事しか出来なかった。

 結局の所、俺が原因でハラオウンを泣かせてしまった事には変わりない。

 そこにどんな想いがあって、どのような経緯があったとしても、結果で現れてしまった以上は言い訳なんて出来ない。

 体裁を繕うだけの行為は、惨め以外の何物でもないのだから。

 だから頭を下げる事だけが俺に出来る行動だった。

 

「……」

 

 シンと静まり返った室内は、息が詰まる程に空気が重くなっていた。

 口を真一文字に噤むクロノさんは、依然として此方を見据え続けるだけ。

 双眸に映る光は強く、只管に強く……。

 いつまでも、この睨み合う対峙を続けていくかと思われた。

 

 だがそれは、予期せぬ人物の登場によって阻まれる事になる。

 

「クロノ君、いい加減彼で遊ぶの止めたら~?」

 

 突如スライドしたドアから入室してきたのは、紺色の制服に身を包んだ女性だった。

 濃茶色のセミロング、つむじ辺りにひょこっと跳ねている髪型と、弾むような声が特徴的な姿。

 カツカツと靴音を鳴らしながら近付くその人は、クロノさんの隣に足を止め、懐っこそうな笑みで俺を見ていた。

 

「初めましてだね。私はエイミィ・リミエッタ、時空管理局の管制司令をやってるの。気軽にエイミィさんって呼んでね」

「此方こそ初めまして、瑞代聖です。えっと……リミエッタさん」

 

 突然の乱入に突然の自己紹介。

 初対面の相手に対して、何の迷いも無く笑顔を向けるその姿。

 1人の女性が行ったそれは、先程までの張り詰めた空気を軽く一変させてしまった。

 いつの間にか目先にまで詰め寄っていた魔法杖も退かれていて、クロノさんの発していたプレッシャーは完全に霧散していた。

 

「ありゃりゃ、堅っ苦しいなぁ聖君は……」

「君が軽過ぎるんだ。もう少し大人らしく振る舞えないのか?」

「私からすれば、クロノ君が堅いだけだと思うけどなぁ」

 

 体から滲み出る陽気な雰囲気は、彼女の人当たりの良さを余す事無く表している。

 諌めるクロノさんの言葉を歯牙に掛ける事も無く、リミエッタさんはアハハと屈託無い笑みを浮かべていた。

 

 何だろうか、失礼だけど本当に局員なのか疑問に思ってしまった。

 こういう人も居るってのは分からなくも無いけど、目の前の2人の温度差があまりにも違う事に驚かずにはいられない。

 

「まぁいいだろう。聖をこれ以上弄っても、意味は無さそうだからな」

「――え、それマジだったんですか!?」

 

 呆れたように呟いたその言葉に、先程まで胸中を占めていた思考その他諸々を気にせず突っ込んでしまった。

 あの言葉はリミエッタさんの冗談ではなく、本気でこの人は俺をおちょくっていたのというのか……。

 

「いや、ちょっとした冗談のつもりだったんだが、やってる間に型に嵌まってしまってね」

「意外とノリ良いんですね……」

「毒された、と言えば分かるだろう?」

 

 はぁ、と溜息を吐く姿には、どこか哀愁のようなものを感じる。

 その姿に、以前出会った時と同じ感覚が思い起こされた。

 気付けば周囲に流されて、自分自身にまでそれがうつってしまう現象。

 初めての邂逅で感じた、この人を『赤の他人とは思えない』という気持ち。

 隣の女性を見て、改めてクロノさんの苦労性が分かった気がする。

 

 個性が強そうだもんなぁ、リミエッタさんって……。

 つーか俺の周りの女性は、基本的に個性の強い人ばかりのような気が……。

 

「「はぁ……」」

 

 ――――堪らず溜息。

 図らずとも同時に吐き出されたソレは、間違いなく同じ意味を伴ったモノ。

 何とも世知辛い世の中、というか現状に対するささやかな反抗。

 別に意図的な行為ではなく、悪意を持ったものでもなく……

 自分を取り巻く『運命(めぐり)』を、自分自身で拒絶していない事実に対する呆れ。

 悪いもの以上に良いものがあるという、最も性質の悪い幸福な現実。

 振り払えば済む問題の筈が、それだけで心が受け入れてしまう。

 

「な~に2人して溜息吐いてるの?」

 

 不思議そうに俺達を見るリミエッタさんの呟き。

 耳朶を打つそれに返答をする訳でもなく、またしても……

 

「「はぁ……」」

 

 揃って溜息を吐いていた。

 うん、きっと俺達はいつだってこんな感じなんだろう。

 今も昔も、そしてこれからも……。

 そんな諦観にも似た想い、だが己にとって不快になるものでは決して無くて……

 

 心躍る日々を待ち遠しく感じる、明日への希望に酷似していた。

 そしてそれを俺に与えてくれたのは、紛う事無く――

 

「2人共、疲れてるのかな?」

 

 ――そんな見当違いな答えを堂々と呟いた、1人の少女だったなぁと思い返す今日この頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ本題に入ろうと思うんだが、いいかい?」

「寧ろ早めにそうして欲しかったです」

 

 全くだ、と俺に同意する呟きは横に流す。

 こうもしれっと言われてしまうと、最早「貴方の所為です」なんて言い返す気力は出て来ない。

 と言うか面倒この上ないので、そのままベッド上で居住まいを正す。

 

「まず君の今後についてだが、護衛としてフェイトを就ける事が本格的に決まった」

「…………は?」

 

 刹那、清流のように淀みの無かった思考がプツッと途切れた。

 フェイト……つまりハラオウンが、俺の、護衛…………?

 相対する男性はそんな初耳極まりない事を、さも当然のような顔で言い放った。

 だが俺のロード中のような顔を見た為か、それは徐々に微妙な変化を起こしていく。

 

「……聴いてないのか?」

「いえ全くこれっぽっちも」

 

 流麗に吐き出すその答えに、先程と同じ溜息を一つ。

 

「フェイト?」

「あぅ、その……ゴメンなさい」

 

 ジト目の視線に、居た堪れない様子で俯く少女。

 あぁコイツか、話が齟齬をきたした原因は……。

 本当に申し訳無さそうに、ついでに恥ずかしそうに、縮こまりながら彼女は謝罪を述べた。

 その仕草があまりに可愛らしくて、全く怒る気になれないのはどうしてだろう?

 

「はぁ……聖が意識を取り戻した事を喜ぶなとは言わない。しかし、自分の仕事を疎かにするのもどうかと思うぞ?」

 

 そんな以前聴いた事のあるような台詞を呟くクロノさんも、別段表情を歪ませる事も無く、半ば仕方ないような対応。

 何だかんだでこの人も、家族に対して甘いのかもしれない。

 先程の脅しに近い行為の意味も、それなら理解出来る気がする。

 

 ――――もしかして、ヤバくないか?

 もし今後ハラオウンを泣かせようものなら、俺の人生は間違いなくジ・エンドするのでは?

 あぁ……頭が痛くなってきた。

 

「えっとね、こうなったのには理由が――――って、聖どうしたの?」

「何でもないから続けてくれ」

 

 だが悩みの種たる少女は、何事も無くマイペースに話を運んでいる。

 お前の存在が俺の人生を握ってると言う事実は、敢えて言うまい。

 兎も角今は、その考えを追いやって自分の現状を把握する事に専念したい。

 俺の促しに一つ頷いて、彼女は表情を引き締めた。

 

「今回の誘拐事件、そして聖が以前関わった魔法生物による襲撃事件。その両事件には共通点があったんだ」

「共通点?」

 

 俺が魔法に関わる切っ掛けとなった事件、俺本人を狙った誘拐事件。

 そこには、共通する『魔法』が存在した。

 それが結界魔法。

 アースラが検出した魔力波長が、その両事件で発生した結界と一致した事。

 一見無関係のように思えた出来事は、実は繋がっていたのだのだと言う。

 

「管理局に登録されているデータベースでは引っ掛からなかった。きっと魔法技術の発達した別の次元世界の魔導師が関与しているんじゃないかって言うのが、私達の結論」

 

 つまり、今現在ではまだ犯人の特定は出来ていないって事か。

 管理局の魔導師って様々な次元世界出身らしいし、魔法技術が発達している世界で登録されていない魔導師ってのはどの位の割合なんだろうか?

 まぁ、話の腰を折るのも気が引けるから、その辺りは胸に留めておこう。

 

「でもそれ以外は全く分からない。相手が個人なのか、組織なのか、何一つ見えないから対応のしようも無い」

 

 相手がどれだけの戦力を有しているのか分からない以上、管理局としてもどの程度の対応を取るのか判断しかねているらしい。

 確かに万年人手不足と言われているのだから、その辺りの事情も理解出来る。

 事件なり何なり、人手を必要とする場所は今この時だって無数に存在するのだ。

 たった1人のガキの為に割ける人員なんて、それこそ限りなく少ないのだろう。

 

「その事に関しては、管理局の1人として申し訳無いと思う」

「別に気にしませんよ。現実なんてそんなものです」

 

 組織だって慈善事業じゃないのだから、そういった対応なのも当然。

 その事に文句を言い連ねたって何も変わらないし、より良い案が浮かぶ訳でもない。

 目の前で言葉通りの意で瞑目するクロノさんだって、きっと遣る瀬無い気持ちで居る筈だ。

 発される声と向けられる態度から、その様子は痛い位に窺える。

 

 そしてそれは、ハラオウンも同じで……。

 

「だから、私が君を守る事になった」

 

 決意を秘めた双眸と握られた手は、とても強く……。

 それでいて、何処か焦っているようにも見えた。

 

「戦力を投入出来ない現状、この対応が最善なんだ」

「フェイトはSランクの魔導師だ。相手が少数なら問題なく退けられ、多数ならばそれこそ戦力投入の正当な理由となる」

「……」

 

 2人の言葉は、そこで終わった。

 確かに言っている事は間違っていない。

 ハラオウンの実力は目の当たりにしていないけど、ランドロウさんから聴いた話で理解はしている。

 眉唾物だなんて思わない、きっと誰が考えても正しい結論なんだろう。

 先程教えてくれた『護衛が本格的に決まった』という所から鑑みて、今更俺の出す意見に意味は無いだろうし。

 

 ――――それでも、やっぱりハラオウンに全て任せるなんて事はしたくない。

 自分が無力だって分かってるし、どう背伸びしたって目の前の人達の足元に及ばない事も、否応無く知っている。

 

「でも……」

 

 理解出来たって、納得なんて出来ない。

 ハラオウン1人で守るなんて、相手を把握し切れていない現状じゃあまりに危うい。

 それで、もし彼女が傷付くような事があったら……

 

「ハラオウンだけに荷物を背負わせるなんて、納得出来ません」

 

 ……きっと俺は、例えようもない後悔に苛まれる。

 自分を守る為に戦おうとする少女に、何一つ出来ないなんて嫌だ。

 そんなの認めたくないし、認めちゃいけない。

 今まで守る事しか出来なかった自分、それすら出来なくなったら俺は……。

 

 

「フフフッ」

「な、何笑ってんだよハラオウン!?」

 

 こっちは色々と悩んで、それでも自分を貫こうと必死になってるってのに……。

 彼女はその姿を、思い切り愉快そうに笑いやがった。

 何だ? 俺が何か可笑しい事でも言ったのか!?

 

「フッ、なるほど」

「アハハ、いやはや男の子だねぇ」

 

 ――――って、貴方達もですか!?

 不意に耳を掠めたその声に目を向ければ、得心がいった顔のクロノさんと、面白いものを見たような顔のリミエッタさん。

 全く方向性の違うその表情、だが共通して、それは俺へと向けられていた。

 何だって言うんだ、これは……。

 こうも笑い種にされると、俺としても不愉快なんだけど……。

 

「気分を悪くしてしまったのなら謝るよ。いやしかし、こうも寸分違わない発言をするとはね」

「うんうん、フェイトちゃんの言う通り」

 

 依然として感情の切れ端を抱えながら一応の謝罪を述べてはいるが、何故だか釈然としない。

 いや、リミエッタさんに関しては未だに満面の笑顔を浮かべている。

 邪気が無い分余計に性質が悪いと言うか、またお前かハラオウン……。

 

「おい、ハラオウン」

 

 

 

 

「だって、聖は優しいから」

「っ!?」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――何だよ、それ。

 耳に入った瞬間、理性が彼女の言葉の意味を悟ったその刹那に、頭から熱湯をぶっ掛けられたような感覚に襲われた。

 そんな事を恥ずかしさも臆面も無く真っ直ぐに向けられて、常態で居られる筈が無い。

 金髪の少女の言葉は本人からすれば何気無く、俺からすれば途方も無い破壊力を伴ってそれは発された。

 

 何だよ、何でそんな事を当然のように言うんだよお前は!?

 全身を流れる血液が顔面を流動するように錯覚して、あり得ない程の熱を発散している。

 あぁマズい、今絶対に顔が真っ赤に染まりきってるに違いない。

 何か反論しようにも、こんな顔じゃ抗いもへったくれも無い。

 

「君が素直に聞き入れない事は、既にフェイトは予見していた。だからと言って強制も出来ない」

「無理に縛り付けて癇癪起こされたら、事態が悪化するだろうしね」

 

 そして隣は、此方の変調を歯牙にも掛けず話を進めている。

 一応耳を傾けているが、正直顔を合わせるのは無理だ。

 色々と勝手な事を言われてる気もするが、こんなんじゃ反論は出来ない。

 

「故に、此方としても最善の策を取らせて貰う事にした」

「その辺りは後で教えるとして……聖く~ん?」

「~~~~っ」

「ありゃりゃ、これは重症だね」

 

 医務室は元々、患者の体調に差し支えないように適切な室温に保たれている。

 暑くも無く、それでいて冷える事も無く……。

 だと言うのに今の俺は、そんな常識すら軽く吹き飛ばす熱気を体内に感じている。

 それもこれも全部、アイツの一言の所為だ。

 

 

『だって……聖は優しいから』

 

 ――――っ!?

 これはヤバい、思い出すと熱がぶり返す。

 あぁ、何だってこんな目に遭うんだ俺は!?

 今までにも、ハラオウンは恥ずかしげも無くこんな事を平気で言ってたろ?

 なのに何で、今日に限ってこんなに取り乱すんだよ!!

 落ち着け、落ち着けよ俺!!

 

「聖、どうしたの?」

「フェイトちゃん、青少年の悩みは女には分からない領域なんだよ」

「……?」

「エイミィ、人の妹に変な事を教えないでくれ」

「いいじゃない。初々しくて見てて面白いし」

「……はぁ。聖、君はもう彼女の魔手から逃れられないようだ」

 

 何だか周囲が微妙に騒がしいが、それでも俺は自分を静める事だけに集中していた。

 幾度も強く拍動する心臓を治めながら、彼女の言葉を反芻しては掻き消して……。

 

「俺は、そんなんじゃ――」

 

 口から出るのは、音として成すかどうかも分からない弱々しい否定。

 心では受け入れたくて、でも素直にそうする事が出来ない。

 

「――ないのに」

 

 そう言ってくれた少女のような、誰かに誇れる力も何も無い自分。

 受け入れるだけの器じゃない事を分かっているから、その悔しさを表に出さない為に……。

 握り締めた拳の痛みを以って、自らを律する。

 唯、掛けてくれた言葉だけを胸に刻み付けて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Interlude side:Chrono~

 

 

「それにしても面白い子だったね、聖君って」

 

 コンソールを弄りながら陽気に彼女が口を滑らせた時、不意に何とも言えない感覚に襲われた。

 あぁ、これはきっとデジャヴというヤツだ。

 何年も共に仕事をしている自分だからこそ分かる、彼女の陽気さの中にある悪戯心。

 恐らくは『面白い子=面白い玩具』みたいな図式が、その脳内で既に完成しているのであろう。

 全く以って同情する事を禁じえないな、彼に対して……。

 

「程々にしてやってくれ。あれで彼は繊細だからね」

 

 諌める言葉に「分かってるって」と気楽に答える姿に、更に遣り切れない気持ちになる。

 どうやら彼は、昔の自分と同じ道を辿るようだ。

 いや、既に辿っているのかもしれない。

 まぁ彼には胸の内で合掌をするとして、今は本来の仕事に従事しなければ……。

 

「解析の方は進んだのか?」

「ううん、全然」

 

 光るモニターに映る、情報の羅列。

 それはアポクリファに格納されているデータ群だ。

 いつの間にか増えていた魔法プログラムが目立つ中、たった一つだけ目に留まる物。

 一体何なのか分からない、開く事が出来ず解析にも着手出来ない『異物(ブラックボックス)』がそこにはあった。

 

「どうやってロックを掛けてるのか分かれば、対処のしようはあるんだけど……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で画面に目を向けては、可能な手法でトライアンドエラーを繰り返している。

 だが何度試しても、結果は御覧の有様だ。

 アポクリファ自身からも答えを得られなかった所からして、そう簡単に解決出来る問題でも無いだろう。

 やはりまた、ランドロウ主任に頼るのが最善か……。

 プログラムの解析に関してはあちらの方が数段上、上手くいけば閉ざされたそれを開けるかもしれない。

 

「でも個人が所有するデバイスだし、それに関わる情報だったら色々マズいよね」

「確かに、個人情報の開示は人道的にも遠慮したいところだ」

 

 ――――瑞代聖。

 

 彼に関わり始めてから、色々と不可解な出来事が続いてる。

 そして今もまた、その不可解な問題を先送りにして現状を維持している。

 『Xenogloss』という単語についての情報も、ユーノから連絡が来ていないから不明。

 ……全く、彼は一体何者なんだ?

 

「本人は、至って普通の少年なんだけどねぇ」

 

 エイミィの言葉に、あぁと相槌を打つ。

 そう、彼自身は何処にでも居る学生だ。

 普通の人生を送り、魔法も知らずに今までを過ごしていた筈の少年。

 なのにどうしてか、気付けばこの異常事態の最前線に立っている。

 打開出来る力を持たず、確固たる意志だけを携えた彼の身はあまりにも危険だ。

 

「君だけが頼りだぞ――――フェイト」

 

 この複雑怪奇な事件が、無事解決出来るように……。

 僕は此処に居ない家族の1人に、届く事の無いエールを向けた。

 2人の道を阻むものにならないようにと、願いを一つ胸に秘めて……。

 

 

~Interlude out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は終わったと言って、2人は医務室を出ていった。

 今は体を休めておけと言うクロノさんの言葉に従い、現在はベッドの上で養生中の身だ。

 此処に残されているのは俺と、隣で椅子に腰掛けているハラオウンだけ……。

 前も思ったんだが、此処の責任者たる先生は何処に居るのだろうか?

 

 

 

 ――と言うか、今何時だ?

 ――つーかひなた園は!?

 ――師父や園の皆は!?

 

 今まで突然の場面の連続で忘れていた事実が、頭からどんどん蘇ってくる。

 

「ハラオウン!!」

「ふぇっ!?」

 

 急に大声を上げた所為か、近くに居た彼女はビクッと体を震わせて素っ頓狂な返事を……。

 その言葉にちょっとしたデジャヴを感じる間も無く、俺は彼女の肩に掴み掛かっていた。

 瞳には未だ戸惑いが強く映っているが、それを気に掛けるよりもずっと、俺は自身の問いに対する答えを欲していた。

 

「あれからどんだけ時間が経った!? 師父は無事なのか!? 園の皆は大丈夫なのか!?」

 

 黒衣のヤツが襲って来たのは、それなりに深い時間だった。

 その後よく分からない場所に連れ去られて、壁の隙間から見えた空はかなり暗かったし……。

 それにヤツに襲われた師父の身と、俺が負けた後のひなた園の皆が心配だ。

 もし俺以外の皆が傷付いてしまったら、二度と消えない傷痕を残すような惨劇になってしまったら……。

 

 俺は、俺は――

 

「教えてくれ、教えてくれよ!!」

「おっ、落ち着いて」

 

 諌めるように俺の手を掴むハラオウンだが、それでも内で加速する感情は抑え切れない。

 どうして忘れていた、どうして家族の安否を気に掛けなかった……

 自分の大切な人達が危険な目に遭っているかもしれないって時に、何でこんな場所で体を休めているんだ?

 何よりも忘れてはいけない存在を忘れて、ベッドの上で安穏としているなんて言語道断。

 早く教えてくれ、そうじゃないと俺……

 

「大丈夫!!」

「っ!?」

 

 だけど、それ以上は告げられなかった。

 自分の中に在る想いの全てが、彼女の叫びによって霧散してしまったから。

 今まで聞いた事無い位の大きな声と、強く輝く双眸。

 凛と佇むハラオウンが、目の前に居た。

 

「大丈夫だよ。皆、大丈夫だから……」

「そう、なのか?」

 

 言葉無く頷く彼女の顔は、優しく穏やかに微笑んでいて……。

 安らぎを与えてくれるような表情で、俺のゴチャゴチャした気持ちを包み込んでくれる。

 逸り焦っていた心が徐々に落ち着いてくのが、他人事のように認識出来る程に。

 

 そして彼女は、少しずつ語ってくれた。

 俺が攫われたその後を、一つずつ丁寧に……。

 

 

 ひなた園からアイツに攫われた後、既に俺は別次元の世界へ運ばれていたらしい。

 途中経過は分からないが、あの廃屋のような場所が正にそれだろう。

 アースラからの通信を受けたハラオウンは、すぐさま現場へ急行。

 そのまま救出と相成った。

 

 そして師父の方は極度の疲労があったのだが、目立った外傷も無く問題は無いようだ。

 俺と師父以外で犠牲になった者は居らず、ひなた園は今日も一日いつも通りの生活を続けているとの事。

 

 

「そっか、皆無事だったのか……」

「うん。だから、心配しないで」

 

 その言葉に漸く、心を落ち着けられるようになった。

 ハラオウンは俺が眠っている間に、ひなた園を気に掛けてくれた。

 師父の事も、俺が居なくなった時の事も、クロノさん達と共に便宜を図ってくれたらしい。

 

 本当に良いヤツだよ、お前は……。

 それに良かった、皆が無事で……。

 

「本当に、良かった」

 

 守りたい皆を守れないなんて、絶対に嫌だから。

 たとえどんな危険が身に降り掛かろうと、この手で出来る事をしたかった。

 結果は無残なものだったけど、それでもこうして安堵出来る、喜べるモノが確かにあるのなら……。

 辛くても、前に進もうって思える。

 進む為の糧になる。

 

「大切なんだね、ひなた園の皆が……」

「当たり前だろ」

 

 正確には『ひなた園という場所』じゃなくて、『皆が住んでいるひなた園』なんだけどな。

 ……いや、ひなた園自体が嫌いって訳じゃない。

 唯、あの場所は皆が居るからこその価値がある。

 今までに何人もの子供達があの場所で過ごし、そして離れていった。

 出会いと別れの交差する場所、嬉しくもあり悲しくもある場所。

 そんな沢山の想いに溢れているひなた園だから、俺の中に無二のものとして在り続けるんだ。

 

「守りたいって、強くなりたいって思うんだ」

 

 目の前で強く拳を握り締める。

 そう、この拳が携えるのは守る為にある力だ。

 望む高みは果てしなく遠い場所、だけど守りたいって思える存在が居るのなら絶対に挫けない。

 

「皆の傍に居続けたい。だから、あんなヤツに負ける訳にはいかない」

 

 脳裏を過ぎるのは黒衣の魔導師、俺を狙う圧倒的な存在。

 きっと今のままでは、今回の二の舞にしかならない。

 もしかしたら、後には引けない場所まで行ってしまうかもしれない。

 

 それは――――最悪のシナリオ。

 

「ハラオウンに守られるだけじゃ駄目だ。俺自身が強くならないと……」

 

 それが俺の決意だった。

 ハラオウンの実力を疑ってる訳じゃなく、守られるだけの自分ではこの状況を乗り越えられないと思ったから。

 何より、隣に佇む少女の足を引っ張るような事だけはしたくない。

 

 クロノさんが言った『最善の策』。

 それが何か分からないけど、状況を打開するのは俺だけじゃ不可能だろう。

 

「お前には遠く及ばないし、一生届かないのは分かってる」

 

 未熟者にも劣る瑞代聖、だったらどうすれば良いのか?

 

 ――――答えは決まってる。

 

「だけど、俺はお前の力になりたい」

 

 これから告げるのは、俺が自分勝手に胸に抱いたエゴだ。

 今の俺には身に余る言葉だろう、相手の意志を無視した言葉だろう。

 否定されても、拒絶されても、文句の言えない心の吐露でしかない。

 

 相対する少女はそれを聴いて、何を思うだろう?

 だけど顔色を窺うなんて、今更している暇は無い。

 最後まで言い切れない意志なら、ゴミ箱に投げ捨てる程度の価値しかないだろうから……。

 

「手伝って、くれるか?」

 

 どれだけの期間を共に過ごすかは分からない。

 でもコイツと一緒に居られるのだから、その時間を無為なものにしたくない。

 それに1人じゃ進めない道でも、ハラオウンさえ居てくれれば変わるかもしれない。

 

「頼む……」

 

 正直、こんな事を言いたくはなかった。

 結局はハラオウンの存在を利用して、自分のエゴを貫こうとしているだけなんだから。

 友達を利用する最低のやり方に、反吐が出る程の自責の念に囚われる。

 

 だけど俺は、それでも進むのだ。

 守りたい家族が居る、力になりたい少女が居る、その意志を貫きたいから……。

 

 

 

 

「――――ありがとう、聖」

 

 だから、お前がその言葉で受け入れてくれた事だけが、俺にとって唯一の救いだ。

 俺はお前を利用する。

 そしてお前にとって、足枷にならない存在になってみせる。

 俺を守ってくれるというお前の想いには、それでしか答えられない。

 

 だから強くなる。

 隣で支えてくれている綺麗な髪をした女の子、大切な友達の力になると……。

 

 

 

 ――――フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、お前の力に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
フェイト編№Ⅰをお読み下さり、ありがとうございます。

運命編2人目のヒロインは、聖のクラスメイトにして前の席の女の子『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』です。
心優しく、拭えぬ過去を持つ少女と聖の物語は、どのようなものとなるのか。
お楽しみにして下さると、とてもありがたいです(´・∀・)

なのは編と違い、今回は救出後すぐの話となっています。
フェイトとの感動の再会からクロノの(弄り程度の)追及、そして初対面であるエイミィとの出会い。
そして今回は聖自身が強くなる事を誓い、フェイトに助力を求めました。
友達を利用する事になろうとも、彼が進む為にはこれしか出来ません。
フェイトがそれを分かった上で受け入れたかは定かではありませんが、取り敢えず言えるのはフェイト編に関しては訓練描写は多くないという事です。
このルートの本質は、聖が『魔法戦で強くなる』という事とは少し違うので……。

そういえばこの辺りで『瑞代聖』という人間に必要な人物は誰か、という質問とかしてみたいですね。
『StrikerS』までのキャラで男女問わず、聖の性格とか生き方とかを考慮して、「聖の性格を考えるとこのキャラが良いんじゃない?」とか「聖はこういう性格だから、このキャラが居ないと駄目」みたいな感じで。
以前この質問をした時は、性格が似てるという点から『なのは』、凡人タイプ故に『ティアナ』とか意見を貰った記憶があります。
ネタでも真面目でも何でもオーケーなので、気軽に意見を貰えるとありがたいです。

今回はこれにて以上となります。
感想や意見、タグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
皆さんからのお声が原動力なので、是非、是非、是非宜しくお願いします!!( ;Д;)
では、失礼します( ・ω・)ノシ





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