少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

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――様変わりした海鳴の風景、それを視界の隅に置きながら私は地へ降り立った。
――抱えていた気を失っている少女を傍に降ろすと、人心地着いたように息を漏らす。
――そんな私の姿を見ているのは、半身とも呼べる家族と、ボロボロになりながらも私を奮い立たせてくれた少年。

「良かった、本当に良かったよぉ……」
「ゴメンね。こんなに心配させちゃって」

――突然居なくなった私を本気で心配する心と、こうして戻ってきた事による安堵。
――私達を繋ぐリンクを通して、いや……通さなくてもひしひしと伝わってくる。
――申し訳無く思うと同時に、その思い遣りが心の底から嬉しいと実感する。
――ありがとう、こんなにも想ってくれて。

「……」
「……聖」

――そして、動けなかった筈の体で抗い続けた少年、瑞代聖。
――その言葉で、その背中で、その想いで、私に立ち上がる力と前を向く強さをくれた優しい少年。
――間近で改めてその満身創痍な姿を見て、否応無く心が締め付けられる。
――でも彼は何も言わずに、唯、私を真っ直ぐに見ていた。
――だけど少しずつ、彼は口を開きだす。

結論(こたえ)は、見付かったか?」

――それは、とても優しい問い掛けだった。
――全てから逃げ出そうとした私に、飽く迄追及せず、歩み寄る為の手を差し伸べて……。
――私の答えを、静かに待っている。

――変化した筈の左目は、既にいつもの黒に戻っていた。
――あの現象が結局何だったのか分からないけど、今はそれを考える時じゃない。
――まずは

「聖が教えてくれた大切な事、きちんと届いたよ。ありがとう」

――君に感謝を。
――本当は伝え切れない程の想いが、この胸に沢山あるのだけど。
――何よりも伝えたいものを、君に聴いて欲しい。

「私は今までも、これからもフェイトなんだって。それ以外の何者でもない、この世でたった1人の人間なんだって」

――あの激しい戦いの様子が、鮮明に思い出される。
――その中で向けられた言葉の1つ1つが、私の心を沁み込むように包んでいた。
――聖の優しさに守られている、とても温かな想いの力を感じる。

「だから私は、これからも進んでいく。前を向いて、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとして、これからを歩いていく」

――その宣言と共に、聖の手を私の両手で握り締める。
――もう何の力も入っていない、少し硬いその感触を優しく……。

――私のこれからには、きっと様々な事が起こるだろう。
――1人じゃ躓いたり立ち止まってしまう事もあるかもしれない。
――でも私の傍には沢山の、フェイトという存在を支えてくれる人が居る。
――だから、きっと怖くない。

「だから、ね……」

――それでも、この胸に在る心の何処かで、切に訴えるものがある。
――それはとても自分勝手なもので、唯のワガママでしかない感情。
――今までの私なら胸の奥で抑え込んでしまうものだけど、今だけは、決して止めたくないと思った。

「その……」

――上手く言い出せずにいる私に、2人の視線が突き刺さる。
――それを避けるように視線を彷徨わせてしまうけど、これは仕方ない事。

――この胸に在る想いを声にするのは、形にするのは、ちょっと恥ずかしいもの。
――顔だけじゃなく、全身が熱くなっていくのが分かる。

「これからも……」

――今まで、こんなに恥ずかしい想いをした事があったかな?
――だけどこれも仕方ない事。
――何故なら目の前の彼が、それを私に自覚させてしまったから。
――途方も無い程、その姿を求めてしまったから。

「……一緒に、居てくれる?」

――たどたどしく、けれどしっかりと私の想いを伝えた。

――君の言葉が嬉しかった、君の誓いが嬉しかった。
――だからこれからも、私の傍に居て欲しい。
――誰よりも近くで、私を見ていて欲しい。

――そんな私のワガママを聴いた聖は、顔を赤らめて視線を逸らしながらも

「……当たり前だ」

――少し弱々しい、けれどあの時と同じ答えを返してくれた。
――たったそれだけの言葉が、私にはとても特別に思えて……。

――さっきとは違う理由で、一筋の涙を流した。





――それは、少年と少女の誓い――

――互いを想い合う、確かな絆の証――









F№End「フェイト~夢のその先へ~」

 

 

 

~Interlude side:Fate~

 

 

 海鳴自然公園で起きた、私達の戦いは終わりを迎えた。

 聖を捕えようとした少女、カリス・ハルベルトの身柄を此方が確保した事で、現状に於ける脅威が無くなったからだ。

 

 とは言え、まさか彼女があれだけの魔法戦を繰り広げるとは思いもしなかった。

 両刃斧のアームドデバイスによる必殺の一撃、堅牢で的確な防御と緩急をつけた高速移動。

 計算し尽くされた適切な戦術は最早、機械染みたソレに相違無いもの。

 執務官として調べた彼女の経歴の中には、武器を用いた特殊な戦技を習っているというものはあれど、魔法に類するものは何一つ存在しなかったというのに……。

 

 だけど何よりも無視出来ない点は、誘拐事件の被害者である彼女が、聖を狙う黒衣に手を貸していたという事。

 最初の邂逅で精神を取り乱してしまったが為に、そこを深く調べられずにいたけど、明らかにおかしな繋がりだった。

 私から事件の捜査を引き継いでくれたはやてに一連の流れを説明し、後日改めて話を訊くと『一時的な記憶喪失』という事実を伝えられた。

 

「事件の前日に何かに呼ばれた気がするゆうてたけど、その辺の事はサッパリや」

 

 自分が魔法を使っていた事実、それによって聖を狙っていた理由も何もかも……。

 彼女には攫われてからの記憶が何一つ残っていなかった。

 万が一の可能性として、彼女が落ち着いた頃に聖と面会をしてみたけれど、それも全くの空振り。

 聖は元より、彼女自身も『瑞代聖』と『ハギオス・アンドレイル』には聞き覚えは無いらしい。

 

 けれどその時の、カリスに微妙に距離を置きたがる聖と、彼女とフレンドリーに話し合っていたアポクリファの対比が少しおかしかったのを憶えている。

 

「物理的に痛い目に遭わされたからな……」

 

 カリスの病室を出た後の彼の言葉には、その反応も仕方ないと思わせるだけの中身が伴っていた。

 それでもカリス・ハルベルト本人に苛立ちをぶつける事も、邪険に扱う事もしなかったから、きっと根底では彼女を嫌ってはいないのだろうと理解出来る。

 

 話が少し逸れたけど、結局の所、収穫らしいものは何も無かった。

 しかも後に残りの2人も発見されたという結末によって、不明瞭ながらこの件は沈静化しつつある。

 全く別種の事件かと思われた2つが繋がり、少しずつ全容を見せ始めたというのに……。

 その中心たる黒衣の人物も、あの日以来、一度も姿を見せていない。

 

『魔導師としての差を縮めたのは、やはり(コード)の数か……』

『いや……しかし、見せて貰ったよハギオス。君とデバイスの繋がりと、身を委ねる事で確立された共鳴(ハーモニクス)を』

『完全な準備も、本来の戦力も用意し切れなかったのは此方の敗因だが、負けを認めるだけの収穫はあった』

 

 ――――いずれまた会おう、その一言が今でも耳に残っている。

 此方の言葉に耳を傾ける事無く、最後までその専心は自身の目的のみに向けられていた。

 一方的な会話はそこで切り捨てられ、様々な疑問と静寂だけがその場に残される。

 ……完全な消化不良と言って差し支えない状況だった。

 

 その後も、可能な限り聖の傍で事件の経過を見守っていたのだけれど……。

 未だそれらしい音沙汰も、此方へのアクションも無かった。

 あれだけ彼に執着していた様子から、簡単に諦めたとは思えない。

 だけど同時に、現れないままの時間が続いて欲しいとも願っていた。

 

 

 そうして幾つもの日々が流れていって……

 

 気付けば、3年もの時間が過ぎていった。

 

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 シンと静まり返った室内に、コンソールを操作する音だけが響く。

 目の前の画面には、数点の画像と無数の文章の羅列が広がり、敷き詰められた情報量を如何無く表していた。

 とある研究所の外観、そこで働いていた職員名簿、そして――――行われていた『違法研究』の全容。

 

 魔法生物をベースに様々な動植物の遺伝子を掛け合わせ、自然界には存在し得ない『合成生物(キメラ)』を作るという、生命を冒涜する研究。

 研究所付近の動植物に始まり、世界内での希少生物の密猟、果ては別次元世界の生物を闇ルートで買い集めて実験材料とした。

 最後の強制捜査の折に発見した資料には、人間をも材料として使用する案すら散見されていた。

 それも、まだ年端もいかない子供ばかりを……。

 その先にあるものが嗜好者や同業への売買による金銭の確保だという事実は、決して許される事ではなかった。

 

 違法である証拠を集め、関連ある被疑者を調べ上げ、該当世界の司法機関との折り合いの中、私が指揮を執る事でこの事件はそれ以上の拡大を防ぐ事が出来た。

 更にそこから芋づる式に闇ルートに連なる不正企業を幾つも発見し、この事件の解決は思い掛けないまでに効果を表していた。

 その為、この事件を解決に導いた私への周囲の賞賛は大きかった。

 

 この事件の始まりを掴んだのが、私ではなく()であったにも関わらず。

 当の本人に視線を向けると、彼もまた同じように真剣な表情で画面と向き合っていた。

 

 私の大切な人であり、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの執務官補佐でもある――――瑞代聖。

 

 

 

 3年の月日の経過は、私を取り巻く環境を少なからず変化させていた。

 その最たる存在が彼だ。

 

 あの事件を機に、私達の距離は今までよりも近くなった。

 それは物理的にも、精神的にも……。

 聖祥での学校生活では、いつだって私を一番に迎えてくれて、いつもの何気無い言葉を交わしてくれた。

 魔導師としての任に就いている時は、ハラオウン(わたし)の家で帰宅を待っていてくれたり。

 そして同時に、彼は本格的に魔法を学び始めた。

 今までは自衛の為のものだったソレは、いつからか全く異なるものに変わっていた。

 私がこれから辿る道に、少しでも早く関われるように……。

 

 だけどまさか、私の帰宅を待っている間にもアルフや色々な人と秘密裏に勉強をしているなんて思いもしなかった。

 特にエイミィは以前クロノの補佐官をしていた実績から、その為に必要な知識を暇さえあれば聖に集中的に叩き込んでいたらしい。

 その努力は無事に実り、陸士訓練校の卒業からの翌年には執務官補佐の試験にも合格、無事に私付きの補佐官として様々な方面でサポートをしてくれている。

 

 それは、あの日に彼が誓ってくれた言葉の証明。

 私を守る、私の傍に居続けるという、聖の強さと優しさで培った今だった。

 

 

 

「――――どうした、ハラオウン?」

「えっ……」

 

 過去に思いを馳せていた私に、一つの声が掛かる。

 その主は、いつの間にかコンソールから手を離して、ジッと此方を見ている聖だった。

 

「あ、何でもないよ」

 

 どうやら自分で思っていた以上に呆けていたらしい。

 慌てないよう静かに言葉を返すと、彼は少し思案した後、徐に席から立ち上がった。

 

「さっきから働き詰めだったからな。少し休憩するか」

 

 さも当たり前のように、聖は私を労わりながら思い遣りを向ける。

 こういった何気無い優しさをくれる姿は、あの時から何も変わっていない。

 戸棚からカップを用意しているそんな背中を、私は静かに見ていた。

 

「さて、何飲むか――」

「――只今戻りました」

 

 と、そこに3人目の声が届いた。

 スライドしたドアの先には、ダークブラウンの長い髪にメガネを掛けた少女が立っている。

 ハツラツとした声によく似合う明るい表情、私のもう1人の補佐官である『シャリオ・フィニーノ』、通称シャーリーだ。

 

「フェイトさん、メンテ中のバルディッシュの受け取り完了です」

「うん、ありがとうシャーリー」

 

 どうぞ、と彼女から渡される相棒(パートナー)を受け取る。

 本当なら自分で行くつもりだったんだけど、「私が行ってきます」という彼女の言葉に甘えて、こうして今に至っている。

 

「お疲れ、フィニーノ。お前も何か飲むか?」

「あ、頂きます」

「了解。バルディッシュもメンテお疲れだ」

《Thank you.》

 

 えぇと、と再度棚からカップを探す聖。

 そこでバルディッシュにも声掛けを忘れない辺り、何処までも彼らしいと思う。

 

 けれど――――

 

「……あっ」

 

 不意に、陶器の割れる音が室内に響く。

 それは誰が発したものなのか言うまでもなく、私とシャーリーの視線が彼に向けられていた。

 そこには、足元を凝視しながら硬直している聖の姿があった。

 

「あぁもう、またですか聖さん」

「悪い、手が滑った。代わりのカップは……」

「予備がありますから大丈夫です。本当、意外な所で抜けてますよね」

「根を詰め過ぎたか。ちゃんと休憩しないと駄目だな、これは……」

 

 もう慣れたかのように困りながらも微笑むシャーリーと、バツの悪そうに答える聖。

 床に落ちた破片を拾い集め溜息を吐く姿は、本当に疲労が蓄積しているのかもしれない。

 確かに、普段ならば決してやらないであろう簡単なミスだ。

 

 だけど、それは違うのだと私は知っている。

 

 

 聖のこういったミスは今に始まった事じゃない。

 こうして一緒に居る事が増えてからというものの、1ヶ月に1度の頻度で今のような体が一瞬硬直(・・)する現象が起こっている。

 先程のシャーリーの反応も、それを見慣れたが故の気楽さだった。

 だけど何度も繰り返せば不審に思うのは当然で、私は聖に何度も検査を薦めた。

 

「まぁ気にするなって。慣れない仕事で疲れてるだけだっての」

 

 とても簡単に、何の気無しにそう答えるばかり。

 納得は出来なかったけど、局の定期検診の結果も異常が見受けられない為、結局強く言い出せないままにいる。

 原因不明の症状、完全に私の手に負えるものじゃない。

 

 でも、その理由だけは、何となく理解している……気がする。

 

 

『当たり前だ《All right.》』

 

 あの日に起きた彼の不思議な現象。

 アポクリファとシンクロする言葉、金色に輝く左目……。

 どう考えても普通では起こり得る筈の無い、不可解なものだった。

 だからだろう、私はあの現象が原因なんじゃないかと思っている。

 

 なら、何故それを本人に言わないのか。

 それはあの行動があったからこそ、立ち上がって抗い続けた聖が居たからこそ、今の私が在るという事実によるもの。

 だから私は、彼の内側の見えない傷を認めなければいけない。

 症状が出る度に胸を締め付けるソレを、私は呑み込まなければいけない。

 

 

 

「ほら、ハラオウンの分な」

「うん、ありがとう」

 

 目の前に差し出されるカップには、仄かにハーブが香る紅茶。

 一口飲むと、清涼な水分が喉を通る感触を覚える。

 少しモヤモヤしていた頭の中が、それでスッキリしてきた。

 

「あぁそうだ、聖」

「ん、どうした?」

 

 先程までの不安を振り切って、目の前でカップに口を付けている彼に声を掛ける。

 淹れてくれた紅茶の温かさを感じながら、私は言葉を続けた。

 

「確か明日オフだよね。丁度良いから、私と――」

「――言わなかったか? 明日はナカジマ三佐の所に行くって」

「あれ……そう、だったっけ?」

「少し前にも伝えた筈だけどな。以前携わった事件の経過報告だったり何だったり、直接行ってくるって」

 

 矢継ぎ早に放たれる聖の言葉に、記憶の隅に残っていたものが掘り起こされる。

 あぁ、うん……確かにその内容は聴いた記憶があった。

 執務官として恥ずかしいミスに、少し居た堪れない気持ちになる。

 

「だったら私の方で行きましょうか?」

「既に行くって伝えているし、直接関わった俺の方が手間じゃないだろ」

「そ、それじゃ私も――」

「――お前もオフならきちんと休め」

 

 にべも無く、私とシャーリーの提案は切り捨てられた。

 その非情なまでのキッパリとした返答に、私達は二の句を告げられない。

 シャーリーの方を見ると、申し訳無さそうな顔で手を合わせていた。

 そんな彼女に首を振って答えると、改めて今の聖の態度を考える。

 

 

 あの日を越えて私達の距離は近くなった、それは本当の事。

 だけどそれはある一定を保った、適度なものでしかなくて……。

 この心に在る想いが満たされる事は無かった。

 

 彼を、聖を強く想う――――私の恋心。

 3年前の出会いから始まった私達の絆は、流れていく時間の中で少しずつ、そして確かに積み重ねられていった。

 時を経る毎に形作られていくソレを初めて実感したのは、何年前だろう。

 

 私の為に戦ってくれたあの日から――――きっと違う。

 いつも家で私を待っていてくれた姿を見て――――それも違うと思う。

 

 そう、唯……聖が傍に居てくれて、私を見ていてくれたから。

 そんな当たり前の時間が、私には何よりも大切なもので、大切な(カレ)の事をもっと大切にしたいと願った結果だった。

 

 ――――つまり私は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは……瑞代聖という人を好きになった。

 親愛としての感情ではなく、恋愛としての感情が生み出した想いが私の心を占めている。

 この想いを胸に秘めながら、隣を歩いてくれる彼と共に今まで過ごしてきた。

 その途中でなのは達にも気付かれてしまったけれど、皆は純粋に私の想いを応援してくれた。

 

 それは今、私の補佐をしてくれているシャーリーも同じ。

 だからさっきも、聖に私の提案を受け入れて貰えるよう、彼女が代案を出してくれたんだけど……。

 ううん……さっきだけじゃなくて、今までに何度も彼女は私の想いをサポートしてくれた。

 

 けれど結果は殆んど同じ。

 一緒に居てくれる事はあっても、2人きりで何処かへ出掛けた事なんて仕事関係の遠征だけ。

 本当なら、でっ……デートみたいな事も、してみたいなぁとか思ったんだけど、私達の関係はそんな色の無いアッサリとしたものでしかなかった。

 

 そういった時間が続くと、流石に私としても色々と考え込んでしまう事もある訳で……。

 あの日に聖が誓ってくれた言葉は、一体どんな意味が込められたものなのか、分からなくなってしまう。

 この想いは私の一方通行で、彼には別に想う相手が居るのかもとか、あまり考えたくない事まで考えてしまう。

 もしかして、なのはとかはやて、すずかやアリサの事を……そんな答えの見えない迷路染みた問答が思考を占めていく。

 不安が想いを押し潰しそうになって、苦しくなってしまう。

 当たり前のように彼がくれる優しさを、真っ直ぐに見詰められなくなってしまいそうで……

 

 ――――私は、怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という、事なんだけど……」

 

 この3年で積み重なっていった想いや、心に引っ掛かり続ける諸々。

 本当なら自分だけで解決するものなんだろうけど、どうしても私だけじゃ持て余してしまう。

 だから、こういった問題に答えを出してくれそうな身近な人に相談していた。

 兄であるクロノ・ハラオウンと、遠くない内に義姉になるエイミィ・リミエッタに……。

 

「なるほど。うんうん、フェイトちゃんも青春してるねー」

「エイミィ、フェイトが真剣なのは分かっているだろう?」

「分かってるって」

 

 とても軽やかなエイミィを、冷静にたしなめるクロノ。

 あくまで笑顔を失くさない様子だけど、彼女が茶化しているつもりが無いのは充分に理解している。

 どんな些細な事でもきちんと笑顔で向き合ってくれる、それがエイミィという女性なのだから。

 

「それで、フェイトちゃんはつまり、聖君の気持ちがどういったものかが知りたいんだよね?」

「う、うん……」

 

 色々と遠回しな説明を伝えた筈なのに、彼女は至極シンプルに、私の想いの核心を突いてきた。

 胸中に秘めるだけならまだしも、改めて言葉にされると少し恥ずかしい。

 だけどエイミィの言葉通り、私は聖の本当の気持ちが知りたかった。

 あの誓いの日からこれまで傍に居てくれた、だけど私と適度な距離を置いている彼の真意が……。

 

「確かにちょっと分かり難いよね。傍に居るなら嫌いって事は無いんだろうけど」

「元々、自分の内側で考え込む性格だ。何かしら変化を促したものはあるとは思うが……」

 

 私よりも短い時間だけど、同じように聖を見守ってきた2人も、彼の隠れた想いを図りあぐねていた。

 誰より一緒に居る私でも分からない事だけど、この2人なら私には見えない何かを感じ取れるかもしれないと思っていたけど……。

 やっぱり世の中は、そう簡単に上手くいってはくれないみたい。

 やり切れない現状に思わず、溜息が零れてしまう。

 

「でも、確実に言える事もある」

 

 その時、静かな、けれど確かな強さを湛えた呟きが届いた。

 目の前で腕組みをする、クロノだ。

 

「フェイトはさっき、自分の想いが一方通行ではないかと言っていたが、それはまず間違いだ」

 

 聖の気持ちを理解し切れていないにも関わらず、その不安点を真っ先に否定した。

 まるで確信を持っているかのような力強さは、しかし確証に至っていない今では疑問を持たざるを得ない。

 

「でも……」

 

 これだけ一緒に居て、色んな時間を共有してきた筈なのに、聖は私の想いに気付いてくれない。

 それが現実として目の前にある以上、いくら家族の言葉とはいえ、信じきれるものじゃ――

 

「それじゃ、どうして聖君はフェイトちゃんの傍にずっと居ると思う?」

 

 心を埋め尽くす否定に、今度はエイミィが問い掛けた。

 この数年間、私の傍に居続けた理由を……。

 それは勿論分かっている、あの日彼が誓った言葉があったから。

 彼の持つ強さと優しさで、私を守ると誓ったからだ。

 

 だけどエイミィはその答えに、首を横に振っていた。

 

「確かに聖君は優しい子だよ。偶に素直じゃなかったり、恥ずかしがって否定したりもするけどね。でもね――」

 

 その顔に浮かぶのは、普段の彼女とは違う優しさに満ちた笑み。

 周りの人達が釣られてしまうような純粋な笑顔じゃなくて、大切なものを見守るような慈愛に満ちたもの。

 そんな彼女が、語り掛けるように私に伝えてくる。

 

「――それだけの理由で、何年も傍に居続けたり、これからも傍に居る為に大変な努力をすると思う?」

「それは……」

 

 エイミィの言葉に、改めて自分に問い掛けてみる。

 聖にとって『誓い』は凄く大切なもの、だからそれを貫く為ならどんな事もきっとやり遂げてしまう。

 だったら先程の問いは見当違いなもので、決して鵜呑みには出来ない。

 

 けれど……

 

 

 

「フェイト、君が勘違いしてしまっているのはそれだ。聖は誓いを守る為に君の傍に居るんじゃない、君を守る為(・・・・・)に誓いを立てたんだ。フェイトというこの世でたった1人の個人を守る、その為だけに……」

「あっ……」

 

 クロノの言葉に思わず息が詰まった。

 それはあの時を、満身創痍で戦い続けた聖の姿を思い返せば、当然のように出てくる筈の答え。

 だというのに、それからの時間経過と、心を巣食う不安感によって瞳を曇らせてしまった。

 

「それに、それ程までに守りたい存在に対して、何も思わないなんておかしいだろう?」

「そうそう、絶対に一方通行なんかじゃない。きっと聖君だって、フェイトちゃんの事を想ってる筈だよ」

 

 2人の言葉がエールとなって、この胸に沁み込んでくる。

 クロノの控えめな笑みが、エイミィの満面の笑みが、私の不安を少しずつ拭っていく。

 未だに聖の真意に気付けてはいないけど、それでも彼ときちんと向き合える気がする。

 本当、この2人に相談して良かった……。

 

「だが、ウチの妹を此処まで不安にさせるのは非常に許し難いな」

「えっ……」

「そうだね、この辺で一発ガツンといかないとね」

「あの、2人共……?」

 

 目の前で隣り合う2人から、よく分からないオーラを感じる。

 口から出る言葉も、何やら不審な響きが混じっているし。

 えっと、どうしたのかな?

 

「フェイトちゃん、ちょっといい?」

「う、うん……」

 

 まるで悪戯を思い付いたような表情の彼女に、さっきまでのとは違う不安が押し寄せてくる。

 こういう時に抑え役をするクロノも、何故か全く止めようとしない。

 体を前に乗り出して私に近付くエイミィは、言い表せない迫力に満ちていて……。

 私は唯、頷く事しか出来なかった。

 

「聖君の本音を暴く為に、一肌脱いで貰うからね」

 

 

「…………え?」

 

 何だろう、2人揃って面白がってない?

 

 

~Interlude out~ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、自然公園で繰り広げられた戦闘によって、俺達を取り巻く事件は収束した。

 黒衣が健在である以上、まだ何の解決も出来ていないというのに……。

 俺としてはハラオウンを傷付けたアイツを心底許す訳にはいかなかったが、結局出来る事なんて高が知れていた。

 

『君に宿るその力、磨いておく事だ』

 

 色々と口走っていたが、その言葉を最後にヤツは姿を消した。

 引き際は見事に、立つ鳥跡を濁さずとはこの事かと実感せずにはいられない。

 

 とはいえ、俺を狙う存在が消えた事は何よりも歓迎すべき事でもある。

 その目的の行方がどうなったのか分からないが、音沙汰が無くなって以降は、俺の生活も一応の平穏を取り戻したのだから。

 そしてその平穏の中で、俺は1つの決意をした。

 

 ――――フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、彼女の傍に居続け、彼女を守るという誓い。

 自分の想いと力の全てと共に、未来へ進み続けるアイツを誰よりも近くで守るのだと。

 それ故に、俺は『魔法』という技術を今まで以上に鍛える事が必要不可欠だった。

 時空管理局には陸士訓練校という場所があると知り、何よりもまずはそこを目標に設定。

 非才の身ではあったものの、それでも見捨てずに付き合い続けてくれた彼女には感謝してもし切れない。

 

 そんな生活が時間と共に流れていく中、ハラオウンの帰宅を待っていた俺にアルフが何気無く伝えた言葉。

 しかし、それが俺のその後を決める最大の転機となった。

 

「聖なら、フェイトの補佐官とか出来るんじゃないかい?」

 

 執務官として働く彼女を、誰よりもサポート出来る立場である『執務官補佐』。

 アルフは適正的に無理だったらしいが、俺ならばという希望的観測にも満ちた呟き。

 補佐――――それは俺の誓いを最も体現するものだったのは、言うまでもない。

 

 そこからの俺の行動は、自分でも驚く位に迅速だった。

 リミエッタさんがクロノさんの補佐官をやっていたとアルフから教えられ、何とかして連絡を取り、その事について深く訊いたり、必要な資料を送って貰った。

 あの人も忙しい身なのに、親身になって俺に対応してくれた姿は今でも心に残っている。

 並行して魔法の勉強にも一層の努力を要した。

 ハラオウンの魔法戦補助を得意とするアルフ、盾の守護獣として守る事に長けたザフィーラ、そして教導官として忙しい日々を送っている高町にも知恵を借りながら、自分なりに試行錯誤を繰り返して……。

 無理して倒れた回数なんて、数えるのも面倒になる程だ。

 

 その努力を、俺はハラオウンに1度も伝える事は無かった。

 唯でさえ聖祥での学校生活との両立が大変なのに、更にやる事が増えたとなれば、彼女が俺に対して負い目を感じるのは想像に難くない。

 そんな顔をさせない為にも、そして1日も早くアイツに追いつく為にも、俺は俺に出来る最大限を突っ走っていかなくちゃいけないのだから。

 

 そして月日は、変わらぬ誓いと共に3年が経過していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まず、色々と訊きたい事があるんですけど」

「え、どうかした?」

 

 不意に口から洩れる不躾な疑問の声に、目の前で子供みたいに昂った様子の女性があっけらかんと答えた。

 此方を完全に無視した形でのテンションの高さに、俺の思考には更なる疑問が募る。

 

「それにしても聖君、折角こんな良い所に来てるのに、そんな仏頂面じゃ勿体無いよ?」

「無理矢理連れ出されたこんな状況で、俺に一体どうしろと……」

 

 女性、エイミィ・リミエッタさんの言葉に促され、改めて周囲へ目を配ってみる。

 

 眼前に広がるのは、まるでリゾート地を髣髴とさせる白亜の建物の群れ。

 藍色の屋根と青空のコントラストと、蛇行する形状のレンガ道を挟むように立てられた樹木の緑は、強い日差しを受けて尚、此方に不快感を与えない絶妙な色彩バランスを誇っている。

 また視線を下げると、水の都の運河を思わせる水路から清らかな流水が見え、その先には大きなプールに囲まれた水上ステージや、これまた大型の噴水が鎮座していた。

 一目見ても豪奢なそれ等は、しかし視界に収めると妙にマッチした1つの絵画のようで……。

 思わず溜息を洩らしそうになる程の、素晴らしい風景となっていた。

 

 とはいえ、そんな豪勢な場所に自分が居るという場違い感やら何やらで、正直気後れしているのが現状だ。

 そして何より此処に来た……のではなく、ほぼ強制で連れてこられたという点が、一番心の中で引っ掛かっていて素直に受け入れられずにいる。

 

「ゴメンね聖、折角の休暇に呼び出しちゃって……」

 

 隣を歩きながら申し訳なさそうに謝罪を口にするのは、俺の直属の上司で守るべき対象でもある、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

 この施設に隣接する海から流れる潮風に金髪を靡かせる様は、この場所に負けず劣らずの麗姿だ。

 ……だがコイツもまた、俺と同じくこの場に連れてこられた1人だったりする。

 

 俺達より数歩先を行く、クロノさんとリミエッタさんによって……。

 

「2人もいずれは通る道だ。ある程度の勉強だと思って、色々と見るといい」

「そうだよ。2人共、いつかは結婚(・・)するんだからね」

 

 これも社会勉強の一環だとばかりに正当性を押し出す姿に、釈然としない感情が渦巻く。

 

 現在俺達が居るのは、ミッドチルダに存在するリゾートウェディング施設である。

 少し離れた場所のプールの上に建てられた独立チャペルの存在感からも、此処がそういった場所である事を容易に想像させていた。

 何故そんな場所に居るのかというと――――今年中に式を挙げる予定でありながら、仕事ばかりしていた2人が何とか時間を作って参加したブライダルフェアの付き添いとして呼ばれた……らしい。

 

 うん、クロノさん達が結婚するのは良い、それはとても喜ばしい事で素直に祝福出来る事だ。

 だがしかし、そこで何で俺達が付き添わなければならないのか……。

 その点だけが、急に呼び出された時から今まで、全く解決していない疑問だった。

 社会勉強とは言っても、別に今の俺にそんなつもりは全く無いし、適正年齢でもないし、そもそも何よりも優先するべきは今の仕事だ。

 2人には悪いけど、到底そんな気にはなれない。

 

「そうだね、やっぱり気になるよね。こういう場所って……」

 

 と思っていたのだが、隣の彼女は違うようで、少し顔を赤らめながら答えていた。

 何か此方をチラチラと伺うような視線を感じるが、恥ずかしいので無視する。

 それにしても、やっぱり女子はこういったものが好きなのか。

 まぁ、リミエッタさんが言うように、ハラオウンだっていつかは結婚するだろうとは分かり切った事実だ。

 

 初めての出会いから数年の時間を経て、あの時の少女は少しずつ女性らしさを身に付けていった。

 可愛いから綺麗という印象の変化は、劇的ではなくとも確かなものとして彼女に表れている。

 だからきっと、そう遠くない内に彼女にも好きな相手が出来るだろうし、それが恋愛に発展して、いつかは1つのゴールへと向かうだろう。

 

 ――でもそれは、決して俺じゃないし、俺じゃ駄目なんだ。

 ――俺のような、いつか必ずコイツを悲しませてしまう存在では。

 

 

 

 それは、慌ただしい日常に身を置き始めてから少し時間が経った頃。

 自分の体の異常に気付いたのは、そんな誓いを挫くようなタイミングだった。

 

 定期的に、特に精神的に余裕のある日常生活の中で、上半身の左側が麻痺したように動かなくなる症状。

 たった一瞬の事ではあるけれど、まるで神経を切り離されたような感覚にこの体は蝕まれていた。

 不可解なその現象は、局の定期検診でも発覚する事の無い不可思議なもの。

 最初は慣れない仕事が続いた為に、知らず疲れが溜まっているだけだと思っていた。

 だが数年を通して慢性的に続くその症状が、それを是非も無く否定した。

 

 しかし原因を特定する事自体、俺にとっては容易いものだった。

 

 あの日、アポクリファと俺の意志が繋がった現象。

 俺の内側での3度目の邂逅、鎮座する彼女に触れた瞬間、まるで俺の意識がその全てを迎え入れ、デバイスである筈の彼女を受け入れたような感触が広がった。

 それはこの体に再び立ち上がる力を与え、奮い立つ意志と繋がる事で、もう一度抗う為の機会をくれたのだ。

 

 しかしその直前、アポクリファは俺の決意に問いを投げていた。

 

《As a result, do even if what painful road waits previously in the future(それによって、これから先にどのような辛い道が待っていても)?》

 

 そう、彼女の言葉は正しくその通り。

 俺は戦う為の力を手にした代わりに、その代償として体を蝕む症状を背負う事になったのだ。

 アポクリファが言うには『繋がった部分が引き込まれた』のかもしれないとの事。

 ……だが、今更それに対して後悔なんてものはない。

 背負うべきものは増えたが、それ以上に守れたものと大切なものが増えた。

 

 なら、それで良い。

 ハラオウンの傍に居続けて、彼女を守るという誓いだけでも貫けるのであれば俺にとっては充分だ。

 その為の覚悟も、その為の割り切りも、きちんと済ませてきたのだから……。

 

 

 

「――――り? 聖、大丈夫?」

「……あ、あぁ」

 

 気付けば隣には、俺を心配げに見詰めるハラオウンの顔が。

 どうやら彼女に反応を返せなかった程、内側に意識が篭っていたらしい。

 

「やっぱり疲れてる?」

 

 俺としては大した事じゃなかったのだが、どうやら随分と心配させる程の様相だったようだ。

 ハラオウンの表情の度合いを見れば、それが否応無く分かってしまう。

 そういう所は昔から変わっていないな、コイツは……。

 

「問題無いっての。全く疲れてないって訳じゃないが、そこまで心配されるようなものじゃない」

「でも……」

「ったく、バルディッシュからも言ってくれ。心配のし過ぎだって」

《On your responsibility(自業自得では)?》

「コイツ、中々言ってくれるじゃねぇか……」

 

 何だコノヤロウ、言うに事欠いて俺の所為ってのか?

 いや確かに、未熟な俺は今までにハラオウンに心配をさせるような事を、何度もしてきたかもしれない。

 それでも今では、彼女の仕事を補佐する立場として東奔西走している。

 きっと足を引っ張ってはいない、筈だ……。

 

「所でさ、聖は興味無いの?」

「何がだ?」

「その…………結婚、とか」

 

 とても恥ずかしげな顔で問い掛けたのは、先程の話題の続きだった。

 口にするのを躊躇うように言い淀む姿に、彼女の中に残る幼さを感じ、話の内容も相まって此方にまでそれが伝染してしまいそうだ。

 ……ったく、そんな顔をこっちに向けるなっての。

 

「ねぇよ。そんな事にうつつを抜かす暇なんて、今の俺には必要無い」

 

 胸中で愚痴を零しながらも、外面だけは無理矢理整えて答えた。

 至極当然に、飽く迄執務官補佐としての立場を優先させる。

 それがどれだけ冷たい返しであっても、その姿勢だけは崩す訳にはいかない。

 

「そう、なんだ……」

 

 途切れがちなその声と、晴天に似合わない曇り顔がこの胸を強かに突いた。

 それがどのような想いで生まれてしまったものなのか、俺には分からない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからも見学は続き、実に様々な施設を見て回った。

 緑に囲まれた広々とした芝生のガーデンや、空が近く開放感が抜群なテラス。

 他にも少人数向けの貸切邸宅といった、様々なニーズに応えた場所が幾つもあった。

 施設のプロデューサー直々の案内の中、それ等を終始楽しそうに見て回っていたリミエッタさんと、その姿を優しく見守っていたクロノさん。

 何故か途中から、急に忙しなく身形を気にし始めたハラオウン。

 そして、最後まで場違いな気持ちを抱き続けていた俺。

 

 そんな4人組の見学ツアーは、いつの間にか俺1人が孤立する形で終わりを迎えた。

 主役であるクロノさんとリミエッタさんは、案内役の人と本格的な式内容の相談。

 隣に居た筈のハラオウンは、いつの間にか姿を消していて……。

 俺は、遠目から見えていたチャペルの中で、所在無く突っ立っていた。

 

「…………はぁ」

 

 腹の底に沈んだ疲れを吐き出すように、溜息が出る。

 目の前で伸びる大理石のバージンロードには、天窓から降り注ぐ陽光と共に青空が映り込んでいる。

 左右には横長の木製椅子が列を成し、形式上のものなのだろう、造花を添えて雰囲気を出しているようだ。

 奥には自然光の差し込むガラス張りの祭壇が鎮座していて、その先には開放的な海の景色が広がっていた。

 

 どれも息を呑む程の、美しい一枚絵のような空間だった。

 

「何だって、こんな所に……」

 

 誰も居ない空間に木霊する、呆れたような声色。

 それは今日という日に振り回された挙句、あまりにもくだらない結末を迎えた自分自身に向けられていた。

 別にこの場所に来たくなかった、という程の事じゃない。

 唯、こんな所に連れてこられても、自分には何もかもが他人事でしかなかった。

 視界にある新たな人生を進む為の道は、生涯踏み締める事は無いだろうと分かっていたからだ。

 

「全く、これなら残りの事務仕事をやってた方が良かったな」

《Isn't it so much pleasing here(そんなに此処は気に入りませんか)?》

「別に場所に文句は無いけどさ。唯、めんどくさい位に虚しくなるってだけだ」

 

 左手首に着けられた銀のバングル、そこに収められた金珠が明滅と共に言葉を発した。

 ――――それは俺の相棒であるアポクリファの、今の姿。

 

 あの事件の後、正式に魔法と関わると決めた時に最も厄介だと思われた彼女の存在。

 万が一を危惧したクロノさんが手を回して、俺は管理局とは別口の医療機関にて外科手術を受けた。

 それから幾つかの手順を踏み、デバイスとして不足していた性能を外付けで付加しながら、アポクリファは新しい形として生まれ変わった。

 

 その相棒は今、俺の言葉にどんな想いを抱いているだろうか?

 機械の体にプログラムされた知能という人工的な存在、それを理解した上で俺はアポクリファを、他のデバイス達を自分と対等の存在として見続けてきた。

 相手がどのような形をしていようと、生まれ方が圧倒的に違っていたとしても、言葉を交わせるのならきっと心を通い合わせられる。

 あの日に抱いた想いは今も尚、この胸に在り続けていた。

 

《After all,does you repent(やはり、後悔しているのですか)?》

「それだけはねぇよ。あの日の誓いは、お前に伝えた覚悟は、今に続く為の大切なものだった」

《Why is it(では何故)?》

 

 続けてアポクリファは問う。

 それに対して俺は、眼前に真っ直ぐに伸びるバージンロードを見据えながら沈黙。

 彼女から投げられた言葉を咀嚼し、今の自分、あの日から続く自分の意志を確かめて……。

 1つの決意のように、しっかりと言葉を返した。

 

「俺には、未来が見えないんだ」

 

 それは、この体を蝕む見えない病に侵された事を自覚した時に考えた、漠然とした未来だった。

 日常生活でなら多少の不便は仕方ない、何とか慣れれば済む話だ。

 でも俺が今関わっているものは、その刹那の不便があらゆる結果に直結する類のもの。

 幸いな事に集中力を要する魔法戦等の仕事中で起こる事は無いが、それもいつまで保っていられるかは分からない。

 この事をハラオウンには伝えず騙し騙しで今まで来たが、勘の良い彼女には既に気付かれている可能性だってある。

 ――――ある意味、俺の未来は半ば閉ざされていた。

 

「だから……」

 

 目の前に広がる未来(これから)に続く道を、俺は……俺だけは歩く事が出来ない。

 ハラオウンや高町達が邁進するその背中を見守る事しか、この身には許されない。

 皆と一緒に、アイツと一緒に、未来を見る事が出来ない。

 

「駄目なんだっ……」

 

 苦々しく吐き出されたそれに繋がる想いによって、気付けば拳を強く握りしめていた。

 自分の中に在る確かなソレが、外に飛び出したくて堪らないと訴えている。

 誰かに吐き出したくて、アイツにその全てを告げたくて、内側で渦巻いてる感情が奔流となって暴れ回っている。

 

 本当は知っていた。

 アイツが、ハラオウンが、俺の事を少なからず想っていてくれている事を。

 というよりも、あれだけ此方を気に掛けたり、色々とアプローチを掛けてくれば嫌でも分かる事だ。

 …………でも、俺はそれを受け入れる訳にはいかなかった。

 

 何故ならこの体は、いずれ未来を閉ざされる事が約束されていたから。

 今は無事に此処まで来れたけれど、これから先もそうである保証は何処にも無いのだ。

 もしかしたら、あの症状が重大な場面で起こらないとも限らない。

 万が一そうなってしまえば、アイツは必ず悲しんでしまう。

 俺が大切な存在であればある程、彼女に刻まれる傷は深くなってしまう。

 だから俺は、彼女の傍に居ながら一定の距離を保ち続ける事でそれを防いでいた。

 

 それが、誰よりも自分が望んでいない事だと知っていながら。

 

「そんなの、嫌だけど……」

 

 凄く嬉しかった。

 彼女が、フェイトという少女が、こんな自分を想っていてくれる事実が。

 

 本当ならすぐにでもその気持ちを受け入れたかった、受け入れてアイツの大切な人間になりたかった。

 恥ずかしそうに微笑む優しい顔を間近で見たかった、その華奢な体を強く抱き締めたかった。

 アイツにこの胸に在る想いを――――――お前が大好きだって事を伝えたかった。

 

 そんなの当たり前じゃないか。

 アイツの傍に居たいと思ったのも、守りたいと思ったのも、その気持ちがあったからこそなんだ。

 俺の誓いは何よりも、彼女が居て初めて意味のある、彼女の為だけに掲げた決意だった。

 アイツの事が好きだからこそ、誰よりも大切だからこそ、俺はこれまでその誓いを貫いてこれたんだ。

 

 だから何とかしてこの症状を解決、ないし改善する方法を模索した。

 唯一この事を打ち明けたシャマルさんに相談して何度も検診を受けたり、無限書庫にある神経に関する医療本を読み込んでみたり……実に様々な手法で呆れる程のアプローチを繰り返した。

 けれどその末が今、何一つ良い結果に結びつかないまま時間だけが経過して、繰り返した失敗の度に心が閉ざされてしまった。

 俺の足掻きはそうして、次第に諦観と割り切りへと変化して、1つの結論へと至らせた。

 

「仕方ないって、思うしかないじゃないか……!!」

《Hijiri......(聖)》

「嫌だけど、本当はすげぇ嫌だけど、そう思う事しか――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――聖」

 

 激しく暴れ回る自分の感情を押し殺していた時、ふと声が掛かった。

 俺とアポクリファしか存在しなかった筈のこの場に、第三者が現れたのだ。

 そしてその声は、自分にとってとても聴き慣れたもので……。

 振り返るまでもなく、背後の扉を開いた誰かを理解していた。

 

「ハラオウン、どうし――」

 

 だから俺は、さっきまでの喚き散らしそうになった感情に蓋をした。

 いつも通りの聖になって、彼女と適度な距離を保つ執務官補佐で居ようと決めた。

 まずは彼女に振り返って、今日について適当に駄弁る事から始めよう。

 そう決意した俺の心は……

 

「――――――――たん、だ?」

 

 視線の先の光景に、その何もかもが吹き飛ばされてしまった。

 

「その……どう、かな?」

 

 遠慮がちに、とても恥ずかしそうに向けられる言葉が耳朶を打つ。

 でも今の俺には、その声に反応する事なんて出来なくて……。

 唯、目の前の女の子の姿だけに双眸が釘付けになっていた。

 

 ――――そこに居たのは、純白の衣に包まれたハラオウンだった。

 

 大胆に両肩を露出し、上半身のラインを強調するビスチェタイプ。

 スカートにはふんだんにフリルがあしらわれ、まるで花弁のように足元まで覆っている。

 ウェストは同色のリボンで結ばれ、大人っぽさの中に可愛らしさも兼ね備えていて……。

 彼女の特徴的な金の髪は小花をアクセントとしたベールで結いながら、首元には革紐のストラップに着いた…………バルディッシュ?

 

「…………」

 

 正直、声を出すどころか、呼吸すら忘れてしまっていた。

 その姿が今まで見てきた彼女とは思えない位に大人らしくて、汚れない無垢な白を纏う少女が、1人の女性に変わっていたのだ。

 何よりも、着飾った彼女が美しかった。

 余計な言葉なんて必要無い、俺を真っ直ぐに見てくる少女が綺麗だった。

 心の底から、全てを抱き締めたくなる程に……

 

「――――っ」

 

 そこで呆けていた意識を無理矢理引き戻した。

 何を馬鹿な事を言っている、そんな事はしないと、それだけはしないと心に決めた筈だ。

 未来の無い自分なりの覚悟と割り切りを、心に刻んだのだ。

 目の前の少女に見惚れる訳にはいかない。

 

「や、やっぱり、似合わない……かな?」

「……いや、突然そんな恰好するから驚いただけだ。まぁ、似合ってると思うぞ」

 

 声を返さない俺に不安を覚えたのか、恐る恐る此方の反応を伺う彼女に何とかフォローを入れた。

 今言った事は確かなもので、この突然のサプライズに反応し切れなかっただけであり、決して彼女のドレス姿が似合わないなんて感想は抱いていない。

 寧ろ逆だ、似合い過ぎてて正直困る。

 俺の肯定的な意見に気を良くしたハラオウンは、微笑みながら1歩近付いた。

 

「良かった。折角着替えたのに、聖に似合わないって言われたらどうしようかと思ってたから」

「心配のし過ぎだっての。つーか何で着替えたんだよ?」

「えっと、エイミィがね……着てみればって言ってきて」

「あぁうん、大体分かった」

 

 告げられた真実の断片に、粗方の話の流れを理解した。

 まぁそもそも、こんな事を勧めてくるのはあの人だけだろう。

 全くリミエッタさんは…………良い仕事である事は否定しないけど、恨みますからね。

 内心でそうぼやいてる間に、引き裾(トレーン)を擦りながらハラオウンは更に俺に近付いてきた。

 

「でも凄い嬉しい。ウェディングドレスを着るのは、やっぱり女の子にとって夢だから」

「別に、お前なら今じゃなくてもその機会はあるだろ……」

 

 純白に着飾った少女と間近で相対するのは、割と精神的にキツい。

 叶わぬものだとしても、それが自分の想い人であるのなら尚の事、目の前でその姿を見せ付けられるのは、自分が抑えているものを呼び起こしかねない行為そのものだ。

 自分の視線が無意識に横に逸れていってしまうのも、仕方の無い事である。

 

「聖、どうして目を逸らすの?」

「お前こそ何言ってんだ。その姿を見せる相手は、俺じゃないだろ」

 

 そう、彼女のドレス姿を見せるべきは俺なんかじゃない。

 いつの日か出会うであろう、彼女と生涯を共にする伴侶(オトコ)だ。

 だからこれ以上、俺自身がそれを見るのはどうしても憚れる。

 故に軽く、呆れたような声色を混ぜて何の気無しにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、見てくれないんだね」

 

 しかしこの耳に触れた音色は、酷く沈んでいた。

 目で見ずとも理解出来てしまう程の落胆は、此方の心を強かに穿つようで……。

 否応無く不安に引き込まれる。

 

「聖は、あの日からずっと私の傍に居てくれている。なのにいつからか、私の事を見てくれなくなった」

「何言ってんだよ、そんな事は――――」

 

「――――だったら何で、今も私から目を逸らすの?」

「それは……」

 

 戻した視線の先には、此方を見上げる不安げな双眸。

 何かを強く訴えるような、それでいて縋り付くような弱さを秘めたそれが、俺を射抜いていた。

 

「どうして私を見てくれないの? どうして、私の気持ちと向き合ってくれないの?」

「それ、は……」

 

 自分でも気付いている、彼女の想いの先の存在。

 それを敢えて避けているのは、閉ざされかけている未来への予防線だった。

 今も少しずつ迫ってきている最悪のソレから、目の前の少女が傷付いてしまわないように……。

 

「あの日に君が誓ってくれた言葉は、私を安心させる為のその場限りの嘘だったの!?」

「なっ……違う!! それだけは絶対に無い!!」

 

 静かだった筈のチャペルに響く切ない叫びに、俺は声を荒げて否定していた。

 そうだ、あの時ハラオウンに告げた誓いは、今も尚この胸に刻まれている大切なものだ。

 絶対に嘘なんかじゃなくて、口にするまでもなく貫くと決めた俺の在り方だ。

 

「だったら、私を真っ直ぐ見て。きちんと向き合って、私の言葉を聴いて」

「違う、そうじゃなくて……」

 

 いつものハラオウンらしくない感情を吐露する姿勢に、俺の理性が付いていけない。

 次から次へと発されていく言葉がまるで奔流のようで、此方の意志を押し流そうとする。

 

 だけど駄目なんだ、彼女の想いに負けてはいけない。

 その意地だけが心を奮い立たせて、挫けそうになる意志を前面に押し出した。

 

「俺は、俺には……」

 

 徐に持ちあがった左手、それは俺が最も忌むべき未来を作る根源。

 最悪な想像を打ち消すように、目の前で握り締める、が――――

 

「…………っ」

 

 刹那、まるで神経が切り離された感覚に陥った。

 肉体の左側にポッカリと穴が開いたような空虚さに、何とも言えない気色悪さを感じる。

 目の前にあった筈の手は、そのまま力無く急速に落ちていって……

 

 しかし、それは違った。

 

「えっ……」

 

 不意に、崩れ落ちた左手が何かに支えられた。

 いや、何かなどと言うまでもない。

 この場に居るのは、俺と――ハラオウンだけだ。

 

「聖……」

 

 その彼女が、肘まで覆うシルクのドレスグローブに包まれた手で、俺の左手を支えている。

 まるで最初から分かっていたかのように、一歩近付いて、しっかりとその手を掴んでいた。

 感覚の戻ってきたそこには、シルク生地の肌触りと、優しく包み込むような温もりを感じる。

 もしかして、コイツはもう既に……

 

「知ってるよ。君の体の事は、ずっと前から気付いてた」

「どうして……」

「聖が私の傍に居たように、私も聖の傍に居た。だから当たり前だよ」

 

 何という事は無い当たり前な、それでいて確かな回答。

 隠し続けていた筈の事実は、少女が見つめる視線には何一つ意味は無かった。

 ……でも心の何処かで、きっとそうである事を望んでいたのかもしれない。

 

「なら分かるだろ? この体は既に不安定なんだ。今は小さくても、いつ悪化してもおかしくない状態なんだ」

 

 ずっと隠してきた事実(モノ)を、淀み無く彼女に語り掛ける。

 心の奥底に留めていた事に罪悪感を覚えなかった訳じゃない、本当は伝えたくて堪らなくなる時だってあった。

 それを抑えていたのは、彼女に心配させたくなかった、その重荷になりたくなかったというもの。

 だがもう遅い、気付かれてしまったのなら全てを吐き出さざるを得ない。

 言葉は止まらない。

 

「今みたいな症状が、もし事件の最中に起きてしまったら……。今のお前にすら、深く消えない程の傷を押し付ける」

 

 それでも傍に居続けたのは、どうしようもない意地と途方も無い想いだった。

 自分が決めた事を違えたくなくて、この不便さに嘆く己を無理矢理奮い立たせて……。

 想いを打ち明けられなくとも、それでも好きな女の子の傍に居たくて……。

 そんな子供染みた感情が、俺の誓いに込められていた。

 

「だからこれ以上、お前に近付いちゃいけないんだ。未来の無い俺には、お前を――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――決め付けないで」

 

 

「えっ……」

 

 それは、俺の言を断じるものだった。

 普段の彼女からは想像出来ない程の力強い声色に、一瞬だが言葉を失ってしまう。

 未だ俺の左手を握っている彼女の手に、一層の力が込められた。

 

「自分の中に仕舞い込んで、自分だけで考えて全部決めて……。しかもそれで納得して、何もかも解決したみたいに終わらせるなんて……卑怯だよ」

「でも、それは……」

「これは決して聖だけの問題じゃない。私にだって、充分に関係のある事なんだよ」

 

 故に、何もかもを1人で抱え込んだ俺を許せないのだと……。

 そのまま勝手に決めた結論に従って距離を置いた俺に、彼女は怒りを露わにしていた。

 しかしその強さは同時に、懸命に縋り付くような必死さにも見える。

 

「だから自分だけで決めないで、未来が無いなんて言わないで」

 

 目の前に、目映い純白に身を包む綺麗な少女が居る。

 だというのにその表情は悲しみに沈み、この胸を否応無く締め付けていた。

 そんな顔をさせたくなかった筈なのに、気付けばその原因は自分自身だった。

 目の当たりにしたその光景に、この身の無力さに、歯痒い想いを抱かずにはいられない。

 

 けれど、俺の左手を包む温かさだけは揺らがなかった。

 

「だって、私は私だけのものだから。私の感情も、私の想いも、その行方は誰にも押し付けられる謂れは無い」

 

 少しずつ語られるその言葉を、俺は知っている。

 

「それに私と聖にとって、此処は人生(みち)の途中で、結末(おわり)なんかじゃない。これからも私達は、真っ直ぐに歩いていける」

 

 それも俺は、よく知っている。

 

 いつの間にか忘れていた……俺が今しているのは、何よりも自分が嫌っていた行為そのものだった事を。

 『未来の無い自分』という最悪な未来を選ぶという、自身を裏切る最低な行い。

 確かにこの体を巣食う異常は楽観視出来るものじゃなく、重大な何かに直結する重過ぎる枷だ。

 けれど、俺はそれで足を止めてしまう程の腰抜けだったのか?

 この胸に誓いを立てたあの日の出来事は、もっと辛く苦しい現実の連続だった筈じゃなかったのか?

 

「私にそう教えてくれたのは、聖……君だった。そんな確証も何もない夢みたいな未来を、私に信じさせてくれたのも、君だったんだよ」

 

 ハラオウンを大切に想えば想う程、自分への重圧が増していって……。

 気付けばその恐怖がこの意志を締め付けて、そんな当たり前の事でさえ霞ませていってしまった。

 

 本当の本当に、いつまで経っても俺は馬鹿だった。

 

「だからお願い。私の未来を信じてくれたように、自分自身の未来も信じてあげて」

「ハラオウン、お前……」

「確かに君の抱えるものは軽視出来る問題じゃない。だけどそれに負けないで」

 

 まだ握り続ける俺の左手を、目線の高さまで掲げた。

 俺を縛る恐怖の根源を手にしながら、それでも彼女は微笑みを浮かべている。

 その姿は純粋な強さに溢れていて、見えない恐怖に目を眩ませてしまった俺とは大違いだった。

 

「私も信じてるから。聖はまだ終わったりしない。これからもずっと一緒に、肩を並べて未来へ歩いていけるって」

「……俺は、そんな強くなれるのか?」

「うん。だって聖はずっと前から強かった。それに――――」

 

 こんな惨めな姿を晒している俺を、それでも認めてくれる少女の心はあの頃から何も変わっていない。

 なら俺は、俺を信じてくれるその想いに応えなければならない。

 自分の弱さも無能さも何もかもを振り切って、大切な人を守れる自分になる。

 それが、かつての俺が見付けた1つの結論(こたえ)で、何よりも信じるに足る聖義(みち)だったのだから。

 

 

 

「――――聖は、優しいから」

 

 あぁ、その言葉も知っている。

 お前が何度も何度も、恥ずかしげも無く俺に向けてきた言葉だ。

 

「……そっか」

 

 まるで数年前の焼き直しのような光景に、思わず苦笑を漏らした。

 でも何故だろうか、その一言を聴いただけなのに、重い鉄鎖(きょうふ)によって雁字搦めにされていた筈の心に温かさが流れ込んでくる。

 気付けば俺の左手を握る彼女の手に、自分の右手を優しく重ねていた。

 

「お前を悲しませてしまう事が怖かった。けどそれ以上に、お前の傍に居られなくなる事が怖かった」

「うん」

 

 だから、近付く事を躊躇ってしまった。

 この胸に宿る想いを閉じ込めて、何でもない振りをして……。

 現状に甘んじる事で、何よりも自分の傷を浅くしようとした。

 

「でも本当はずっと言いたかった。あの日からずっと抱いてきたものを、お前に聴いて欲しかった」

「うん」

 

 目の前で微笑む少女は、俺の言葉に頷くだけ。

 けれどそれは、俺の背中を押してくれる声援のようにも聴こえた。

 

 ならば進もう、あの時から踏み出せずにいた自分の道を。

 

「俺は、ずっと前から――」

 

 そして伝えよう、俺の傍に居続けてくれた彼女に。

 

「お前の事が、ハラオウンの事が……いや――」

 

 この心の奥に仕舞い込んでいた、本当の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――大好きだ、フェイト」

 

 万感募る想いを携えて、目の前の少女にぶつけた。

 何度も伝えたくて、けれどその度に諦めていた心の内を、漸く形にする事が出来た。

 

「うん…………私も大好きだよ、聖」

 

 はにかみながら、けれど数え切れない程の沢山の想いを詰め込んだ彼女の声が胸に響く。

 発されたその全てを噛み締めるように、全身で抱き締めるように受け止めて、やっと……やっと此処まで来れたのだと実感する。

 

 俺達はこうして、数年の時を経て想いを通じ合わせる事が出来た。

 

 

「本当に、良かった」

 

 自分の胸を満たす充足感に浸っていると、徐に彼女が――――フェイトが呟く。

 その顔を見れば、双眸から一筋の涙が流れ落ちていた。

 晴れやかな表情の中から零れ出たそれは、きっと安堵によるものなのだろう。

 

「聖を信じて、良かった……」

「ゴメンな、こんな遠回りになって」

 

 コイツはずっと前から俺を想っていてくれたのに、その先へ進む事を恐れた俺の所為で、何度も嫌な思いをさせてしまった。

 自分の体の異常にばかりに気を取られて、何よりも大切にするべき人を蔑ろにしてしまった。

 あれから何年経とうとも、やっぱり俺は駄目なんだと思い知らされる。

 

「ううん、いいんだ」

 

 だと言うのに、この女の子は簡単に許してしまう。

 そんな途方も無い優しさに、思わず全てを委ねてしまいたくなる。

 それ程までに、俺の手を通して伝わる彼女の温かさが心地良かった。

 

 だが突然、フェイトはその場から歩き出した。

 その方向に沿って、手を繋いでいた俺は引っ張られてしまう。

 向かう先はバージンロードの奥、ガラス張りによって海を一望出来る祭壇だった。

 

「おっ、おい!?」

「確かに過去(いままで)は辛い事もあったけど、未来(これから)はそれ以上に嬉しい事が待ってる」

 

 彼女に手を引かれる形で、俺達は大理石で形作られた道を通っていく。

 

 バージンロードとは、今まで歩んできた道を表すと言われている。

 なら今こうして進んでいるこの道も、俺達が今まで歩んできた道となるのだろう。

 

 

 

『それじゃこれから宜しくな、ハラオウン』

『あっ、うん。こちらこそ宜しく、聖』

 

 あの日、聖祥での出会いから始まった俺達の関係は、様々な出来事を経て……

 

『やっぱり、優しいんだね』

『君には、2人を助けられる両手がある』

『聖のせいじゃないよ』

『大切なんだね、ひなた園の皆が……』

『さっきの言葉、ちょっと嬉しかった』

『――――――――助けて』

 

『……一緒に、居てくれる?』

 

 お互いを何よりも大切な人として想い、結ばれた。

 

 

 

 思い返せば、こんなにも彼女との想い出は積み上がっていた。

 その1つ1つが時を経ても色褪せる事無く、この胸に宿る意志を支えてくれる力となって……。

 心も体も、充分に満たしていく。

 

 気付けば終着点、祭壇の手前まで来ていた。

 隣には俺の手を離さぬよう、しっかりと握り締めている純白の衣に包まれた少女。

 天窓から降り注ぐ陽光が祝福するように、その姿を神々しく輝かせていた。

 呼吸を忘れてしまう程の麗姿、今まで近付く事を躊躇っていたそれが、もう簡単に手の届く所まで……。

 

「だから、私は怖くない。先が見えなくても、聖と一緒なら大丈夫だから」

 

 ふわりとベールを靡かせて、彼女は此方へ向き直る。

 祭壇の前で、俺達は自然と向かい合う形となった。

 それからの言葉は無く、自分が伝えたかったものは今のが全てなのだと、沈黙が答えていた。

 だったら次は俺が、彼女に伝えたかったものの全てを紡ぐ番だ。

 

「この体は未だに不安の種で、未来を閉ざしかねないものだけど……それでも、お前と一緒に居たい」

 

 きっと生涯治らないであろう病だと半ば理解していた。

 けれどその事実に負ける訳にはいかない、守りたい人が居るのだから諦める事だけは出来ない。

 難しい事かもしれない……でも、まだ全ての結論(こたえ)を出すには早過ぎたのだ。

 俺には、この体には、まだ未来を信じて進める可能性が残っている筈だから。

 

「これからもフェイトと一緒に居たい。お前の隣で、一緒に未来を見ていきたい」

 

 俺達が今立っている場所はバージンロードの先、つまり未来へと続く道の出発点だ。

 それじゃ始めよう、此処からスタートする俺達の新しい日々の為に……。

 

「俺は誓う。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンをずっと守り続ける。絶対にこの手を離したりしない」

「うん……」

 

 俺の誓いに頷き、少女は双眸を閉じた。

 それは彼女が俺を受け入れてくれるという合図であり、最初の1歩を踏み出す為に待ち続ける姿勢。

 こんな状況で何をするかなんて、言われるまでもなく分かっている。

 それが途轍もなく恥ずかしい事で、容易く躊躇いが心を支配してしまう事も分かっている。

 でも、もう何年も彼女を待たせてしまったのだから、たとえ羞恥心が身を焦がしても止まる訳にはいかない。

 

「……」

 

 互いの隙間を埋めるように近付いて、整った彼女の表情に目を向ける。

 微かに震えている睫毛は、この静寂に対する緊張からか、それとも……。

 だがそれを無視して、そのまま彼女へ顔を近付けていく。

 

 

 

「――――」

 

 

 

 そして――――誓いの証明(キス)は、此処に成った。

 数秒、たったそれだけの唇の触れ合い。

 しかし俺には、その時間が永遠のようにも感じられて……。

 同時に、心の内側をじんわりと嬉しさと恥ずかしさが満たしていく。

 

「……キス、しちゃったね」

「お、おぅ……」

 

 いつの間にか瞳を開けていた彼女は、ほんのりと頬を染めている。

 いや、それは彼女が見ている俺にも言える事だろう。

 けれど互いに共通しているのは、この1つの結末を誰よりも強く望んでいたという想い。

 彼女の言葉でそれをより強く実感し、同時に自分のした事の意味に身を捩りたくなる感情に支配された。

 

 だって仕方ないじゃないか、目の前で可愛らしくそんな事を言われてしまっては、男として平静で居られる筈が無い。

 好きな女の子の、今この時しか見せない姿に、心臓が音速で拍動してしまっても仕方ないのだ。

 

 でも、その感情に振り回されている場合じゃない。

 こうして転機を迎えた俺達にとって、まず何よりも自覚すべきは……。

 此処から、俺達の人生(みち)が始まるという事だ。

 

「フェイト、これでやっと始まるんだ」

 

 これで1つの結末(おわり)を迎え、そして同時に新しい未来(これから)が始まる。

 俺とフェイトが寄り添い合って、共に歩んでいく未来が……。

 きっと大変な事もあるだろうけど、儘ならない事もあるだろうけど、彼女と一緒なら大丈夫だと信じている。

 この胸に宿る想いがある限り、俺を信じてくれる彼女が居る限り、この身はどんな現実にも負ける事はない。

 (ハンデ)なんて知った事か、そんなものは意地で何とかしてみせる。

 それを示す為に、目の前の少女を精一杯引き寄せて抱き締めた。

 

「うん、始めよう。これからの私達を……」

 

 突然の事に驚きながらも、フェイトはしっかりと俺の背中に腕を回す。

 ずっとこうしたかった願望が形となって、この心を満たしていく。

 正直、今日のこの時間で色々満たされ過ぎて爆発しそうだが、そんな事に気を取られるつもりは無い。

 彼女を抱き締める力を少しだけ強める。

 全身で感じているこの温かさを守っていきたいと、自らの誓いに刻み込むように、強く。

 

「それじゃ、最後にもう一度訊かせて。……私と一緒に、これからも居てくれる?」

 

 腕の中から聴こえる、俺に甘えるような声色。

 それは彼女の純粋な願いにして、俺の立てた誓いに対する確認でもあった。

 別に此方を疑っている訳じゃなく、唯、それを(かたち)にして向けて欲しいというワガママから出た言葉。

 

 だから、そのささやかで大切なワガママをきちんと受け止める。

 俺を待ち続けてくれた、たった1人の少女の為に、きちんと言葉(かたち)にするのだ。

 

 

 

 

 

「――――当たり前だ」

 

 世界で唯一の、永久(とわ)の誓いを……。

 

 

 

 

 

 

少年の誓い。

 

それは、儚くも強い1つの意志だった。

 

何度立ち止まろうとも、決して潰える事の無い純粋な願い。

 

彼は、永久に揺らがず誓うだろう。

 

まだ見ぬ未来を、少女と共に歩む為に。

 

 

 

 

 

「一緒に、終わらない未来(ユメ)を見に行こう」

 

 

 

 

 

少年の誓い フェイト編 Fin.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




~その後~
「折角だから、聖も正装して写真を撮って貰おうよ」
「まぁ、それ位なら……」
後日その写真を手に入れたリンディさんの『既成事実』作戦により、逃げ道を失った瑞代聖であった……。
StrikerSの時間軸では、既に入籍してるかもね!!(;・ω・)


しかしぶっちゃけてしまうと、聖とフェイトが付き合ったとして、何か劇的な変化があるのだろうか?
割と自然体で落ち着いてしまう気がする作者です。
リリカルなのはのEDは田村さんが定石でしょうが、今回ばかりは奈々さんの『7COLORS』を聴いてみてはいかがでしょうか!?

どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
フェイト編№Endをお読み下さり、ありがとうございます。

なのは編と同じく、不完全なまま終わりを迎えた事件。
少し見えた真実と、更に深まる謎と共に、時間は流れていきました。
そして3年の月日が経ち、聖は執務官補佐としてフェイトは支える事の出来る立場に。
だがしかし、そうは問屋が卸しません!(`・ω・)
何の不自由無くエンディングを迎えたなのは編と違い、このフェイト編では聖が代償を払ってしまいましたので、都合良くラブラブなんて出来ませんのです!
故に、このような事態になってしまいました。
この問題は聖1人に止まらず、フェイトにまで波及する大きな問題であるが故に彼は悩み、その時間が更なる重圧を背負わせてしまいました。
かつて自身が刻んだ誓いの、本当の意味さえ霞ませてしまう程……。
いやでも仕方ないですって、本当ならフェイトとの輝かしい未来が待っている筈だったのに、まさかの展開ですからね。
代償を払った事に対する後悔は無いでしょうが、それでも簡単に割り切れるものでもなかったのです。
しかし今度は、そんな苦悩する聖をフェイトが救いました。
きっと彼女は強くなった自分を、聖に見て欲しかったのかもしれません。

それにしてもウェディング姿のフェイトとかエイミィさんマジグッジョブです!(`・∀・)b
まぁ実は、この最終話のネタは以前の読者さんから頂いたものを参考にしたんですが……。
読者さん「フェイトに姫アルク(月姫)の格好をお願いします!!」
さっき~「シチュエーション的に不可能ですから!!」
( -ω-)。o〇(いやまてよ、あのドレスが無理でも、ウェディングドレスならイケる。場所も教会っぽい所にすれば……)
という流れの末に、この最終回の構想が出来上がりました(5年前に)
何か最後の締めが凄いグランドエンディングっぽいですけど、これキャラ別エンディングの1つですから!
今回のギャルゲー的ED絵は、言うまでもなくドレス姿のフェイトでしょう!(`・ω・´)
何にしても、聖の4つ目の誓いの物語は、此処で幕を降ろさせて頂きます。

それと今回、聖の視点で『家族の話』が全く出て来なかった事に違和感を覚えた読者さんも居るかもしれません。
この点は意図的なものなのですが、あの事件を経て、聖にとって家族よりも大切なものが出来てしまったという理由です。
にしても今回長いなぁ、全文併せて2万6000文字弱ですよ……。
流石、くどい描写でお馴染みの作品である(´・∀・)
しかも次の『はやて編』に関しては、今まで以上にヤバい予感がひしひしと……。
まず物語の大枠しか決めていないので、間に挟む日常話とか全然考えていなかったり。
更になのは編では『聖の優しさ』、フェイト編では『聖の意地』と、ある種のテーマがありましたが、はやて編では『聖の脆さ』という今までとは全く異なるものだったり。
リアルの仕事だったり、個人的な用事だったり、時間は掛かりそうですが、何とか5つ目の誓いの物語を完結まで持っていきたいものです( ・ω・)

今回はこれにて以上となります。
感想や意見、タグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
皆さんからのお声が原動力なので、是非、是非、是非宜しくお願いします!!( ;Д;)
では、失礼します( ・ω・)ノシ





( ∵)感想、本当にプリーズです。
( ∵)それと今後は本当に1話の更新が遅くなりますので、その点に関してはご了承いただければと思います(恐らく1ヵ月に1,2回更新かと)
( ∵)ユーザーのお気に入り登録とかをして頂けると、合間合間に此方の動きが分かるかと思いますので、宜しくお願いします。
( ∵)本当、よくプロットを1度も書かずに53話まで続けられたなぁと思います。






Next Story -Hayate-

 まさか、このタイミングでこのような裏切りに遭うなんて……!?
 だがその元凶が誰かは、言わずとも分かっている。

「くっ、このタヌキが……」
「タヌキでえぇよ。タヌキらしいやり方で、家族になって貰うから」



 そうだ、きっと最初はそんな優しい想いから始まった筈なんだ。
 だからこの本が、夜天の書自身が犯した罪なんて何一つ無い。

「夜天の主としてお前が受け継ぐものは、過去の罪なんかじゃなくて……」

 今の八神はやてが、何よりも抱くべきものは……。







今回のオマケ、フェイト編での聖の魔法についてです。
なのは編で記載した魔法は省略します。

ジオ・インパクト-フォルテ-《Geo Impact -Forte-》

バリアブレイクを付加した、ジオ・インパクトの上位魔法。
本編では戦闘中に急造した為にバリア破壊にのみ特化した仕様となっている。
更に威力を向上させる事で、この魔法は完成に至る。


ディス・インテグレイション《Dis-integration》

ジオ・インパクトから派生する魔法、別名『流動破壊』。
集束・圧縮した魔力を解放する事で、瞬間的な流動爆発を起こす。
使用上の注意として、爆発に指向性は無いので術者も影響を受けるという点である。


ジオ・ヴォルテックス《Geo Vortex》

掌に圧縮した斥力を解放し、鋭い衝撃波を発生させる近・中距離魔法。
地上に3本の爪痕を刻むように、遠隔的な斬撃魔法とも呼べる。
F№Ⅵに於いてはジオ・インパクトとの併用によるフェイク、射出位置を地中に設定しての迎撃等、相手の不意を突く運用法により戦闘を優位に導いていた。


ソニックライド《Sonic Ride》

フェイトが聖の資質に合わせてアレンジした高速移動魔法。
彼が瞬間的な加速と相性が良い為、長距離ではなく短距離移動での最高速に重きを置いている。
フェイト曰く「将来的に、瞬間加速のみなら私よりも速くなるかも」との事。


※本編未使用

フォース・エクステンド《Force Extend》

魔力で巨大な槍を形成し、相手に向けて投げ放つ長距離用魔法。
着弾時に圧縮していた流動が解放される為、対象の一定範囲に強力な魔力爆風を発生させる。
消費魔力が大きい為、使用頻度は少ない。


チェーンバインド-G-《Chain Bind -Gravity-》

魔力の鎖を生成して対象を縛り付け拘束する魔法。
聖の場合は変換資質の影響により、縛り付けた相手に重みを加えて拘束力を高めている。
執務官補佐として活動する上で必要だという事で、アルフから教えて貰った魔法。


ストームブリンガー《Storm Bringer》

聖の竜巻状の砲撃魔法で対象を拘束し、渦の中心にフェイトが直射魔法を放つ事でトドメを刺すコンビネーション魔法。
竜巻内部には電撃を加速させる磁場が発生しており、直射速度と威力を増幅させている。
所謂『超〇磁タ〇マキ』と『〇電磁ス〇ン』的な関係?











To Chord of ... 『Xenoglossi』




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