少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

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 ――月光の映える夜空の下。
 ――頭上に広がる星々の天蓋と、無数に重なる蝉の鳴き声。
 ――夏特有の喧騒と海から吹く風を肌で受けながら、私の視線は前を向いていた。

「でやぁっ!!」
「っ、せいっ!!」

 ――少し離れたそこで繰り広げられているのは、力と力のぶつかり合い。
 ――必倒の一撃を間断無く繰り出し、迫る攻撃を鉄壁の防御で受け止めるザフィーラ。
 ――その攻撃の一つ一つを必死に避け、時にギリギリで受け流し、一瞬の隙を突いて反撃を打ち込む聖。
 ――退いては戻り、戻っては退き、全身に込めた魔力によるクロスレンジでの打撃魔法の応酬。
 ――猛々しく動き回る2人の間には、余波による強風が吹き荒び、眼前の戦場は極限の暴風域に達していた。

 ――数歩でも近付こうものなら、今の私じゃ紙みたいに簡単に吹き飛ばされそうやなー。

「リイン、大丈夫かー?」
「はいです。それにしても凄いですねー」
「そやねー。ギリギリやけど、あのザフィーラに喰らい付けるバイタリティは流石や」
「ド根性、ってやつですね!!」

 ――私の肩の上で片手をグッと握り締めるリイン、何や2人に影響されとるみたいやな。
 ――まぁその戦況も、ザフィーラが手心を加えてくれとるから可能な均衡なんやけど。
 ――それでも聖の実戦に於ける戦闘能力は、恐らく一般的な局員にも充分届くレベル。
 ――総魔力量はまだまだやけど、その欠点は素の身体能力や反射神経、動体視力で可能な限りカバーしとる。

 ――唯、戦い方があくまで喧嘩の延長やから、魔法戦と毛色が違うのは気になる所やな。
 ――せやけどザフィーラは、その点を無理に矯正するよりも、それをベースに魔法を組み込む言うとった。
 ――曰く

『頭で考え過ぎて反応速度を殺すよりも、それを武器に、最大限引き出せるよう合わせた方が適切だと判断しました』

 ――と、本人談。
 ――確かに魔法戦の定石が枷になるのなら、本人のやり方に合った方法を基準に擦り合わせていった方が飲み込みも早い。
 ――ザフィーラに足払いからの軸足を掴んで投げ飛ばす聖の姿を見て、改めて納得。
 ――私の知っとる魔導師や騎士との違いを思い返すと、どう考えても正攻法は性に合わんからなー。
 ――そんな感想を抱いてる間にも、追撃する聖と体勢を立て直したザフィーラが、真正面から拳を打ち合っている。
 ――ぶつかり合う度に衝撃が音となって響き、余波が風となって前髪を強かに煽っていた。

「うわぁ、激しいですよー」
「せやね。魔力制御も大分こなれてきた感じや」

 ――揺れる髪を押さえながらリインに答える。
 ――聖の魔法訓練はヴィータとザフィーラに任せっきりで、こうして見学する事も稀やったけど……。
 ――どうやら、きちんと実を結んどるようや。
 ――せやけどまだまだ完璧とは言えず、視線の先で行われる打撃の嵐に、聖が段々と押し込まれる。
 ――何とか切り返そうとするも時既に遅し、気付けば聖の眼前には握り込まれた剛拳が向けられていた。

「……此処までだ」
「あぁ、そうだな」

 ――勝負あり、やね。
 ――やっぱりザフィーラに勝つんは無理やったけど、聖も少しずつ魔法に慣れてきとるのは分かった。
 ――その片鱗が見れただけでも、こうして見学に来た甲斐があったなー。
 ――疲労からか、地面に腰を下ろしながら不服そうな顔をする聖。
 ――実力差なんて始めから分かっている筈やのに、ほんま負けず嫌いやね。
 ――でも聖のそんな所、私は嫌いやないよ。



 ――まだ見ぬ未来、いつか来るかもしれんその時の為に
 ――聖、頑張ってな
 ――私はずっと、応援しとるから







H№Ⅲ「受け入れるもの」

 

 

 

 

 夏休みが始まって、もう10日余りが過ぎただろうか。

 判然としない言い回しなのは、自分の周囲の急激な変化に付いていくのがやっとで、そんな当たり前の時間経過すら曖昧になっているからだ。

 まぁ初っ端から色々な事があり過ぎて、気付けば八神家の新しい家族として生活を共にしているだなんて、夏休み前の俺は予想だにしなかっただろう。

 偶然というか、運命というか、合縁奇縁というか、現実は小説よりも奇なりと改めて気付かされた訳だ。

 

 だがそんな生活に身を置いて尚、本来在るべき現実が俺を掴んで離さない。

 そう、俺達学生にとっての現実――――『夏休みの宿題』である。

 

「……」

「……」

 

 八神家に来てからも毎日続けてはいるが、やはり資料が必要だったり、気分を変えたい時もあったり……。

 そんな訳で、今日は朝早くから海鳴の図書館ではやてと2人で宿題を消化中である。

 

「……」

「……」

 

 大机で隣り合いながら、言葉も無く、現在は数学の問題集に取り組み中。

 少々の思考時間の後に答えを書き込む、そんな行為の繰り返し。

 普段から続けてきたお陰か、このペースなら今日中に数学の課題は終わりそうだ。

 

 その中で浮かび上がる一つの懸念事項、それは俺の置かれている状況だ。

 魔法という高次技術が絡んだ特殊な事例だけに、今後どのような事が起こるのか想像も出来ない。

 あの邂逅以来、此方にアクションを掛けてこない黒衣だが、いつまた俺の目の前に現れるのか……。

 その為にも俺は自分の身を守れる位、強くならなくてはいけない。

 こんな色んな人達に迷惑を掛ける事件は、さっさと解決するに限る。

 

 ……でもそうなると、俺が八神家に居る理由は無くなるんだよな。

 元々、正体不明の敵に狙われている俺の保護を名目で成り立っている現状だし。

 戸惑いがちだった俺を温かく迎えてくれたり、生活面で色々と良くして貰っているのは紛れも無い事実。

 けれどそういった個人的感情を抜きにすれば、事実としてそんな事務的な繋がりでしかなかった。

 はやてを支える、という俺の模索する道も、きっとその時点で無意味なものになるだろう。

 でもそれは、仕方の無い事で――――

 

「――聖?」

「ん、どうした?」

「手、止まっとるよ」

 

 呼ばれた声にふと顔を上げると、隣のはやてが不思議そうに此方を見ていた。

 その指摘に自分の手元を見れば、完全な空白。

 どうやら考えに耽り過ぎていたらしい、マルチタスクはそれなりに慣れてきたつもりなんだけどな……。

 

「難しい問題でもあったん?」

「そんなんじゃねぇよ。これが終わったら、次は何の教科をやるか考えてただけだ」

 

 何となしに呟いたその場凌ぎの理由だったが、はやては「そか」と短く答えて再び問題集に視線を落とした。

 こうして家族としての時間で居る時に、わざわざ口にするような事でもない。

 たとえ事実がどれだけ無味乾燥なものであっても、はやてを始めとした八神家の温かさは本物なのだから。

 胸の内の懸念事項にそう結論を下して、俺も隣の彼女に倣い、問題集を再度取り組む事にした。

 

 その後も、俺とはやては軽いやり取りをしながら宿題の消化を続けた。

 今日のこの後の予定は、昼前辺りに本局で俺の身体の再検査がある。

 図書館での勉強会は、学生の本分の全うすると同時に、それまでの時間潰しでもあったりする。

 ……いや、毎日の鍛錬に加えてヴィータ達との魔法訓練を行っている現状で、一体何を検査するというのかと言われると答えに窮するんだけどさ。

 とは言え1週間前から決まっていた事であり、それをシャマルさんが担当してくれる以上、サボって余計な迷惑を掛けるのだけは憚れた。

 本当、再検査とか時間の無駄だと思うんだけどなぁ。

 

「はぁ……」

「なんや、溜息なんて吐いて」

「いや、こうして勉強したまま時間が過ぎねぇかなってさ」

「ははは、聖はほんま病院とか検査とか苦手なんやねー」

 

 そう素直な気持ちを口にしたら、笑われた挙句えらく優しげな双眸で見詰められた。

 街角で母親が子供に向けるような、少し困ったような、そんな穏やかな瞳

 ……何故それを向けられているのか甚だ理解に苦しむが、敢えて此方から言及はしないでおこう。

 この視線が偶にヴィータやリインに向けるものによく似てるというのも、きっと気の所為だ。

 なので「まぁな」と適当に濁して流す事にした。

 

 そんな変わり映えの無い、俺達の間を緩やかに流れていく時間の中で、聞き覚えのある声が向けられたのはそのタイミングだった。

 

「はやてちゃん、聖君」

「あっ、すずかちゃん」

「月村か……」

 

 そこに居たのは、白のカチューシャと艶やかな紫の長髪が映える1人の少女。

 聖祥で新しく出来た俺の友人であり、隣の少女にとっては4年の付き合いがある――――月村すずかだ。

 

「おはよう、終業式以来だね」

 

 手提げ鞄を携えた彼女は小さく手を振り、笑みを湛えながら挨拶を口にする。

 人当たりの良さ、何処か気品を感じさせる佇まい、間違いなく終業式までよく見ていた姿だ。

 

「おはようさんや」

「おっす、月村」

 

 夏の陽気を意に介さない――図書館の中ではあるが――朗らかなはやてに続いて挨拶を返す。

 いやしかし、コイツの姿を見るのは本当に久し振りな気がする。

 確か終業式の日は丁度再検査で、はやてにも月村にも挨拶をする暇も無く学校を出たんだっけ。

 ……そういや、あの日も再検査だったんだな。

 何故だろうか、こうも苦手なものが立て続けに迫ってくるとか罰ゲームとしか思えない。

 無情なまでの人生の厳しさと煩わしさに、思わず引っ込んでいた筈の溜息がまた漏れてしまった。

 

「聖君、疲れてる?」

「そうやないよ。この後に控えとる検査に、ちょう憂鬱になっとるだけや」

 

 不思議そうに俺を見る月村に、はやてが答えを教える。

 だがそれを聞いた彼女の表情は、何故だか段々と陰っていった。

 

「検査って、あの時の……?」

 

 『あの時』――曖昧な言葉ではあるが、それだけでも彼女の言いたい事が分かった。

 同時にその曇り始めた表情の意味も、否が応にも理解出来てしまう。

 

「何言ってんだお前、そんなのとっくに治ってるっての」

 

 だから、俺は当たり前のようにそれを否定する。

 あの時……俺が初めて魔法に触れ、満身創痍の中で生き長らえる事が出来た事件。

 そして俺と共に巻き込まれた月村とバニングス。

 その後バニングスとの間には、アイツの切り替えの早さのお陰で何事も無かったけれど……。

 

「……本当?」

 

 目の前の少女の心には、あの時の罪悪感が未だ残っていたようだ。

 俺が囮になる提案を受け入れてしまった事、その末に死に掛ける程の重傷を負わせてしまった事。

 それが、月村の心に陰を落とし続けていた。

 

「本当だ。だからいつまでも気にすんな、もう半月以上前の話だろ」

 

 そう、もう既に終わった事だ。

 今更誰が悔やもうと過ぎた時間は戻らないのだから、これからの事に気を向けた方がずっと健全な在り方だ。

 何より中心に居た俺自身が気にしていないし、寧ろ無様ではあったけれど、2人の友人を無事に守り通せた事は本当に嬉しかった。

 だから、少し自分勝手な言い分かもしれないけど、俺のその想いを尊重して貰いたい。

 こうして気軽に話し合えている事を、これからも未来に向かって進める今を共に喜んでいたい。

 それだけあれば、俺には充分だから……。

 

「そやね。今日のは別件やから、すずかちゃんも心配せんでえーよ」

「……うん、分かった」

 

 はやてのフォローも入って、漸く月村も表情を和らげた。

 うん、折角の夏休みなんだから、いつまでも過去に引き摺られていたら時間が勿体無い。

 俺があの日守れた笑顔を、自分自身の所為で曇らせたくなかった。

 

「そういえば、すずかちゃんはいつものように本を借りにきたん?」

「それもあるけど、実はアリサちゃんと一緒に宿題を進めようって約束してて」

「バニングスと?」

 

 本好きの月村が図書館に居るのは珍しいとは感じなかったが、本命はバニングスとの約束の方にあったようだ。

 にしても宿題って、俺達と全く同じだな。

 

「もう少しで来ると思うから、一緒にやらない? アリサちゃんも2人に会いたがっていたから」

 

 勿論私もね、と懐っこい笑みで、そんな恥ずかしい台詞を当たり前のように付け加えやがりました。

 コイツ等と出会ってそれなりに時間は経ったが、未だにこの『恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無く言える所』に慣れない。

 いや、言葉を無駄に飾らないから本心ではあると思うんだが、それでも聴かされる側としては……なぁ?

 俺だって別に会いたくない訳じゃないし、終業式以来だから会えるなら会ってみたいが……

 

「ごめんなーすずかちゃん、もう少しで検査の時間なんよ」

「そうなんだ、それじゃ無理だよね」

「……悪いな」

 

 此処で俺が謝る必要なんて無い筈なのに、どうしてか胸中に居た堪れなさが埋め尽くしている。

 それは彼女の困ったような、そして少し落胆したような笑みを見てしまったからだろう。

 月村達は日常の側に、今の俺達は非日常の側に立っている。

 両者の間にある隔たりがこうして形になっている現状に、酷い息苦しさを感じて止まない。

 

「ううん、気にしないで。その代わり、話せる範囲で良いから、結果とか教えてくれないかな?」

「その位なら全然構へんよ。まぁ、そうは言うても……」

「今更だよなぁ、検査なんて」

 

 八神家に来てからの生活サイクルを思い返して、それを理解しているはやてと苦笑込みで頷き合う。

 結果なんて分かり切っているし、こうなったらさっさと終わらせて、目の前の友人の心配の種を払拭した方が良さそうだ。

 

「よし、時間もそれなりに潰せたし、本局に行ってパパッと済ませてくるか」

「そやね」

 

 そうと決まれば善は急げ。

 先人の残したありがたい言葉に倣って、俺達は帰り支度をすぐさま済ませる。

 バニングスに会えないというのは……まぁ少し残念な気がしなくもないが、同じ町に住んでいるのだからいずれ会えるだろう。

 出来ればその時には、俺の諸々の問題が解決していれば言う事無しだ。

 

「それじゃな月村、バニングスに宜しく言っておいてくれ」

「うん、分かった」

「すずかちゃん、またなー」

 

 交わす言葉は至って簡素に、軽く手を振り合って俺達は別れた。

 夏休みに入ってから久し振りの友人との再会に、隣のはやては先程までより少し気分が良さそうに見える。

 俺の主観ではあるが、恐らく間違いではないだろう。

 

「ん、どしたん?」

「いや、随分と嬉しそうだなと思ってさ」

「そやねぇ……。最近はメールのやり取りしかしとらんかったから、元気そうな顔を見れて少しホッとしとるよ」

 

 管理局の仕事や俺の巻き込まれた事件だったり、更には家での事だったりで色々と忙しそうだったしな。

 そういう意味では、偶然とはいえ心許せる親友に会えたのは、彼女にとって気分を変える良いものだったのかもしれない。

 

「せやけど、それは聖も同じやろ?」

「俺は…………まぁ、元気そうで何よりって所だな」

「ほんまかー? 久し振りに見たすずかちゃんの姿に、鼻の下伸ばしとったとか……」

「ねぇよ」

 

 図書館内、故に決して声は荒げず、そんなクダラナイやり取りを繰り広げる。

 小さく笑うはやてと、訳の分からない言葉に呆れ果てる俺。

 和気藹々というよりも淡泊で、けれど投げやりではなく歴とした会話で、何気無い言葉の応酬が続く。

 

「今日の夕飯は麻婆豆腐とかどやろ? 暑い日にこそ辛いものって感じで」

「俺は良いんだけど、ヴィータとリインは大丈夫か?」

「甘口も勿論準備するよー」

「なら問題は無いか」

 

 日差しは強く降り注ぎ、そよ風は優しく吹き抜ける。

 夏の海鳴の光景を双眸に映しながら、このいつか終わる日の来る(・・・・・・・・・・)特別な時間に想いを馳せる。

 ……願わくば、こんな気の安らぐ時間が、少しでも長く続いてくれますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これで再検査の方はお仕舞い。特に問題も無く、充分に完治と言っていいわね」

「ですよねぇ」

 

 本局の医務室で医師と向かい合う形で椅子に座る、勿論相対するのはシャマルさんだ。

 あれからすぐに此方へ直行したのだが、丁度良いタイミングでシャマルさんの手が空いた為、早速診て貰った。

 結果は聞いての通り、何の不具合も無い健康体である事が証明されましたとさ。

 

「本当なら過度な運動は控えて欲しかったんだけど、状況的に余裕は無いし、聖君はきっと言う事を聴いてくれないだろうし……」

 

 頬に手を当てながら、心底落胆したような呟きを漏らす目の前の女医さん。

 ……非常に申し訳ない気持ちで一杯だが、言っている事に何の間違いも無い為に口を挟み難い。

 

「ヴィータちゃんには程々にって伝えてアレだし、それでも結果的にはこうして何の問題も無いし……本当、聖君って医者泣かせよね」

 

 色々言われ放題な気がするけど、今は耐えるしか出来ない。

 いやしかし、ヴィータに関しては押さえ役の筈のザフィーラにも問題があると思わなくもない。

 まぁ、追及した所で「ヴィータなりの励ましだ、汲んでやれ」って言って有耶無耶にするだろうけどな。

 ……アイツ、立ち位置的に一番の安全圏に居るんじゃないか?

 盾の守護獣が自己保身に走るとは何事か!!

 

「聖君、どうかした?」

「あ、いえ……シャマルさんの料理のお陰もあったんだろうなぁって」

「あら、本当!!」

 

 横道に逸れてた思考を誤魔化すように話題を変えたら、当の女性が素早く食い付いた。

 まぁ、本人的にも自分の料理を褒められたようで嬉しいのだろう。

 

 だがこの話、俺自身が見当外れではないと思っていたりもする。

 確かにこれまでシャマルさんから頂いた料理は、普通の見た目からは想像も出来ない個性豊か過ぎる味ばかりだ。

 味覚だけで物凄い未知の体験を味わってきたこの身は、かつての衝撃(あじ)を今でも克明に記憶している。

 だが同時に、その料理を食べた後は不可解な事に――――体の調子が良いのだ。

 シャマルさん曰く「健康志向の料理」らしいので、恐らく栄養面に突出した『特化型料理』なのだろう。

 味よりも栄養を優先、何よりも栄養を優先、そう考えれば体の調子が良いという不可思議な現象も理解出来る。

 そういった意味では、シャマルさんの医師としての能力は非常に高いと言えた。

 

「フフッ、だったらこれからも頑張っちゃおうかしら」

「……お手柔らかに」

 

 余程料理の腕を褒められたのが嬉しかったのか、彼女は未だ花開いたような笑みを浮かべている。

 だが待って欲しい、先程の流れの中で俺は一度たりとも『美味い』とは言っていない。

 まぁ、本人は真剣に取り組んでいるし、頑張っている姿を何度も見ているから、敢えてそれを口にするつもりは更々無いけどさ……。

 

「♪~♪~」

 

 上機嫌さに拍車が掛かったようで、鼻歌を披露しながら仕事を片付けている。

 奥ゆかしさの中にある無邪気さに微笑ましさを感じながらも、何というか非常に不安に駆られる絵面に見えた。

 ……頑張って下さいシャマルさん、そして頑張ろう俺。

 

「それじゃ、後の事はこっちに任せて。結果は私からアースラの方に伝えておくから」

「はい、何から何までありがとうございます」

「気にしないで。それが私の仕事だし、何より家族の事なんだから」

 

 管理局の規模がどの程度なのか、無関係の俺には全く知り得ない。

 しかし、毎日毎日夜まで勤務し続けている実態を知っていると、それを至極当然のように言い切ってしまうこの人には平伏するしかない。

 仕事であり、家族の事だから……か。

 

「はやてちゃんが待ってるんでしょ? 早く結果を教えてあげたら?」

「言う程のものじゃないと思いますけどね」

「普段通りに振る舞ってるけど、内心は貴方の事を心配してるのよ。助け出したあの日から、ずっとね……」

「……そうですか」

 

 外で待っている少女が一度として見せようとしなかった、心に引っ掛かり続けていた重り。

 それを聴いてしまったら、知ってしまったら、さっさとこの場から退散しなければと心が逸り出す。

 彼女が抱えるものを、少しでも軽く出来るように。

 

「はやてちゃんに、今日は早く帰れるからって伝えておいてね」

「分かりました」

 

 軽い会話の後に丸椅子から立ち上がる。

 これでもう此処での用事は終わり、恐らく来る事も無いだろう。

 目の前の女性に一礼した俺は、そのまま自動ドアを抜けて清潔感漂う一室から抜け出した。

 

「聖っ」

 

 漂う空気の違いを肌で感じていると、横から声を掛けられた。

 管理局の捜査官の制服に身を包み、此方にはんなりとした笑みを向ける八神はやてだ。

 

「おう、終わったぞ」

「その様子やと、何も問題無さそうやね」

 

 あぁ、と応えながら肩を回すと、はやてはほんの少しだけ笑みを深める。

 シャマルさんの言う通り、少しは肩の荷が下りているようだ。

 そうだ、余計な荷物も余計な心配も、今の彼女には必要無いもの。

 今まででさえ色々と抱えてきてるのだから、せめて俺が掛けた分だけは軽くしていかないと。

 

「そんじゃ、再検査も済んだ事だし帰るとするか」

「せやね。今日は他の用事もあらへんし、真っ直ぐ帰って宿題の続きでもやろか」

「だな」

 

 この後の予定を会話で埋めつつ、俺達は帰路へ付く。

 埃一つ見えない局の通路は、何度も人が行き交い、その度にはやては人当たりの良い挨拶を掛け、俺は静かに頭を下げた。

 その忙しさからか、時折此方に気付かぬまま通り過ぎる人も居るが、殆んどの人は笑みを向けて返してくれる。

 

 だがその中で極一部の人だけは、そのどちらともつかない反応を見せていた。

 曖昧な返事に何とも言えない反応、無礼でなくとも疑問を抱くには充分過ぎる態度だ。

 しかも通り過ぎても妙な視線を感じるし、本当何なのだろうか?

 もしかして全くの部外者である俺って、普通の局員の人達から見たら邪魔者だったりするのか?

 それを隣のはやてに訊くと、多少困惑したような様子で首を横に振った後

 

「管理局には色んな人がおるから、私みたいな子供に良い感情を持たない人もおるんよ」

 

 との事らしい。

 確かに何度か局内を見て回った記憶を思い返すと、此処で働いている人は殆んどが俺達より年上だ。

 でもそれに対して、あそこまで露骨な態度を取るだろうか?

 幾ら年下の子供とは言え、同じ職場で働く仲間なのだから、はやてがそのような対応をされる謂れは無い筈だ。

 何処か釈然としない感情が胸で渦巻くが、隣の彼女は全く気にした様子が無いので、俺もそれに倣う事にした。

 結局、俺が気にした所で変わるものでもないからな……。

 

「そういえば、はやてに訊きたかった事があるんだけど」

「ん、何?」

 

 内側のモヤモヤを払拭しようと別方面に思考を向けていた時、ふと脳内に浮かんだ一つの疑問。

 折角の暇な時間なのだからと、はやてに訊いてみる事にした。

 

「リインってさ――――」

 

 八神家に厄介になってから、今までよりずっと触れ合う機会が増えた空色の小さな妖精。

 最早、俺にとって日常の一部となっている彼女の、その生まれた経緯について全く知らない事を思い出した。

 ユニゾンデバイスというのはかなり稀少な存在だし、はやてがどうしてリインを生み出そうとしたのか、その理由が気になるといった所だ。

 簡単に言ってしまえば好奇心の類だが、勿論それだけではない。

 ――リインの正式名『リインフォース・(ツヴァイ)』。

 頭の片隅に引っ掛かり続けていたけれど、以前は友人でありながら他人という曖昧な距離感から言う事が出来なかった。

 その後も急激な状況変化に慣れるばかりで、肝心な内容が頭からスッポリと抜けていた。

 だけど今なら、その疑問をハッキリと口に出す事が出来る。

 あの子の兄貴分として、彼女の背負う『Ⅱ』の意味を知るべきだと、知りたいと思ったから……。

 

 しかし、その言葉がそれ以上続く事は無かった。

 視線の先に居るはやての、前方に向けられたまま固まってしまった瞳と表情に、二の句を告げられなくなったからだ。

 釣られるようにそちらへ視線を移すと、そこには1人の男性が此方に向かって歩を進めていた。

 非常に恰幅の良い体躯を包む紺の制服、口元や顎に蓄えられた髭や、細めた目元や顔の皺から見て壮年から中年辺りの年頃だろうか。

 だが何よりも、その身から滲み出る他者と一線を画す風格から、まず間違いなく要職に就く類の局員だと分かる。

 

「レジアス、中将……」

 

 先程よりは我を取り戻しているが、未だ驚きを隠せずにいるはやて。

 恐らく男性の名前であろうそれを躊躇いがちに呟いた声から、それが判別出来る。

 それにしても中将って、よりにもよって将官レベルの人と鉢合わせするなんて夢にも思わなかった。

 確かに普通の局員からすれば雲の上の人かもしれない…………でも、此処まで驚きを露わにするものだろうか?

 彼女のその反応が、俺にはいまいち理解出来ないでいた。

 

「ん、君は……」

 

 はやての視線に気付いたのか、男性は適度な距離を保った所で足を止めた。

 ささやか程度の疑問を顔に浮かべながら、彼は此方を、主にはやての表情を伺っている。

 どうやら顔見知りではなく、はやてが一方的に知っているという間柄らしい。

 まぁ入局4年目とはいえ、流石に中将なんて立場の人とは知り合いにはなれないよなぁ。

 

「あ、えと……八神はやて、です」

 

 緊張した面持ちを崩さない彼女は、口調まで硬いまま名乗りを上げた。

 いつものはんなりとした京風の方言は、イントネーション程度まで抑えられている。

 その対応は、何故のものなのか……。

 

(どうした、はやて)

(ちょ、ちょう驚いただけや。まさか地上本部のトップが本局におるとは思わんかったから)

 

 地上本部、確かミッドチルダにある管理局の地上部隊の本部というやつだったか。

 詳しい事は分からないけど、地上部隊を統括する所のトップとなると、正しくトンデモない人物だ。

 そんな相手とバッタリ出会ってしまった現状、彼女の驚きも分かるというものである。

 

「ふむ、八神……」

 

 当の人物は顎に手を当てながら、何かを探るように彼女の名を呟く。

 しかし数瞬後、その何かに思い当たったように視線をはやてへと戻した。

 その目元に、言い知れぬ力を込めて……。

 

 

 

「なるほど。君があの『闇の書』の元主という事か」

「……」

 

 突如、全身を刺すように空気が張り詰めた。

 決して荒げた語気ではない筈なのに、発される重みが体の内側まで圧し掛かってくる。

 浮かべる表情まで先程とは打って変わって、強まった眼力がはやてに容赦無く向けられていた。

 この豹変は、一体どういう事なのか……。

 それに先程この人が言った『闇の書』とは何だ?

 

「どのような手品を使ったか分からんが、管理局に取り入って色々動いているようだな」

「……」

「しかも最近は、幾つもの地上部隊を回ってコソコソしているらしいではないか」

 

 口から放たれる一つ一つが、嫌悪を多分に含ませながら隣の少女へ吐き捨てられる。

 その双眸、そして刻まれた皺を深める表情は、威圧を通り越した脅迫にも似て、はやては完全に言葉を失っていた。

 

「本局もこんな魔導師を地上に送り込むなぞ、我々に対する挑発行為とでも言うつもりか……?」

 

 フンと鼻を鳴らす様相は、内側に孕んだ忌々しさが如何無く見て取れる。

 ……全く、目の前の状況が理解出来ない。

 地上本部のトップとも言うべき人が、どうしてこれ程までに彼女を嫌悪しているのか。

 俺の知っている八神はやてという少女は、今までの付き合いを鑑みれば、決してこのような扱いをされる人間ではないと言える。

 だとするなら、やはり先程の『闇の書』というヤツが原因とみて間違いないのだろう。

 

「フン。それで、君の隣に居る者は誰かね? 局員ではないようだが、民間人ならば何故此処に?」

「……え、あっ」

 

 状況を静観、というよりも口が出せなかった俺に、まさかのタイミングで視線が向けられた。

 先程まではやてに執拗なまでに悪感情をぶつけていた筈が、今度は俺を不審がるように双眸を向けている。

 その突然過ぎる切り換え、否応無くぶつけられる圧力は、俺の口の動きを滞らせるには充分過ぎて……。

 

「わ、私の世界の友人です。魔法事件に巻き込まれて、私が保護しているんです」

 

 情けなく、隣のはやてに慌ててフォローを入れられる始末だった。

 

「君が、保護だと……」

「はい。正体不明な魔法犯罪者に対して取れる、現状で最も妥当な判断がこれだったので」

 

 俺が巻き込まれた2つの事件、主犯である正体不明の魔導師、それ等に対する手段。

 もう何度目になるだろうかという、俺達の状況説明に耳を傾ける中将。

 すると再び此方に視線をずらし、そして――――

 

「相手の規模が分からぬ故に出し惜しみとは、主要地上世界(われわれ)から堂々と戦力を引き抜く次元世界(うみ)側にしては随分と悠長なものだ」

「動員出来る人材の問題がありますから」

「だとしても、被害者に対して本局の決定が静観では、現在の体制そのものに疑問を抱かざるを得ない。君もとんだ災難だったな」

「いえ、人手不足はどんな所にもある問題ですし。今は、はやて達が居てくれてますから」

 

 少なからずの憐憫が込められたそれに、レジアス中将の俺に対する申し訳無さを感じる。

 厳格な風貌ではあるけど、やはりこの人も平和を守る局員としての責務を一身に背負っているのだろう。

 だが現状に対する不満は無いし、こうしてはやて達と一緒に居られる時間は悪いものじゃない。

 なので問題は無い、その意を込めて言葉を返したのだが、この男性はそれで納得する事は無かった。

 

「だからこそだ。他の局員なら問題は無いが、この者達は別だ。何せ『元次元犯罪者』、その腹の内にどのような思惑を抱えているか分かったものではないのだからな」

「えっ?」

「……っ」

 

 はやて達が、元……次元犯罪者?

 彼から告げられたあまりに突然の事実に、今まで以上に思考と感情が揺さぶられた。

 耳朶を打つ単語の連なりの意味を、脳が理解し切れない。

 

「かつては様々な次元世界で悪事を働いていた連中だ。今更善人面をしようが、それは消す事は出来ん」

「これは、そんなつもりじゃ」

「どうだかな。自分の世界の友人を救うという名目で、自分の評価を上げようという魂胆でもあるのではないか?」

「……っ、それはっ!?」

 

 その時、はやての双眸が大きく見開かれた。

 口から出掛けた言葉を噛み締めて、まるで何かに耐えるかのように体を震わせている。

 

「所詮はその程度なのだよ。罪人は何処まで行っても罪人、誰を救おうがそれは変わらん」

 

 淀み無く紡がれる言葉は、断罪の如く苛烈だ。

 いや……これは断罪ではなく、無慈悲な裁定に他ならない。

 男性の矢継ぎ早に吐き出される言葉が、はやての心を砕こうとしている。

 はやてが俺に差し伸べてくれていた温かさを、否定しようとしている。

 

「だから君も、努々注意を怠らない事だ。現状、君の身を守れるのは君自身だけなのだからな」

 

 そんなの、ないだろう。

 俺に掛ける言葉に悪意は無い筈なのに、そこに秘められた彼女への当てつけがどうしようもなく引っ掛かる。

 だからその引っ掛かりから目を逸らさず、厳格で威圧的な佇まいを崩さない男性を真っ直ぐに見詰めた。

 睨み付けるその双眸から、はやてを守らないと……。

 知らず強く握り締めた震えるその手から、はやてを解放しないと……。

 

 俺は、彼女の前へ躍り出た。

 

「レジアス中将」

「むっ、何かね?」

「申し訳ありません。今から立場を弁えない発言をします」

「ひ、じり……?」

 

 自分の体で庇うように、真正面から対峙する。

 眼前に立つのは俺よりも大きな体躯、醸し出す雰囲気すら段違いの重みを感じさせる存在。

 けれど、それに圧されて気持ちを曲げる訳にはいかない。

 内から溢れ出た想いは、今此処で形にしなければいけないものだから。

 

「俺は信じています。彼女を、八神はやてを……」

「何を言うかと思えばそんな事か。君は知らないのか、この者が犯した罪の大きさを」

「知りません。知った所で何も変わりませんから」

 

 その瞬間、此方を射抜く視線に少なからずの力が込められた。

 恐らく俺の言い分が、この人にとって不可解なものとして映ったからだろう。

 だが今はそんな事は関係無い、まだ俺の言葉は終わっていない。

 

「確かに俺は、はやての過去の事は殆んど知りません。俺が知っているのは、出会ってからのはやてだけですから」

「ならば知るといい。よいか、今から4年前に――――」

「――――ですが、今の俺の傍に居るのは今のはやて(・・・・・)です。そこに、過去に何があったかなんて関係ありません」

 

 中将、悪いですが貴方に二の句は告げさせません。

 そもそも言い合いのつもりなんて端からない、俺は俺の言葉を口にするだけなのだ。

 故に、貴方の意見は必要無い。

 

「自分の命を預ける相手が何をしてきたか、どのような罪を犯してきたのか、目を向けないのは愚かかも知れません」

 

 先程までの2人のやり取りから、きっとはやてが犯したという『罪』は大きなものなのだろう。

 彼女がそんな事をする筈が無いと信じているが、中将の心の底からの嫌悪、決して否定せずに自身への言葉を受け止め続けたはやての姿に、何かしらの事情の下にその事実が存在するのが理解出来た。

 なら今は、それを前提に言葉を続けよう。

 

「でも、それでも俺ははやてを信じています」

「聖……」

「本気で言っているのかね?」

「その場凌ぎの嘘が貴方に届くと思っていません」

 

 たとえ彼女がどれだけの罪を犯したとしても、俺はきっと信じている。

 八神はやては、この人の言うような悪人ではないと。

 

 だって俺は、これまでに色んな彼女の姿を知っている。

 ハラオウン達と一緒に居る時の、とても朗らかな笑顔を――――

 大切な家族へ向ける、優しい思い遣りを――――

 時折顔を覗かせる、人を茶化すような悪戯心を――――

 

 ――――そしてあの日、俺を受け入れてくれた真摯な想いを。

 

「なので、先程までの御忠告はそのままお返しすると共に…………撤回して貰います」

「何っ?」

 

 此方の言葉に反応し、男性の視線が一層強まった。

 当然だろう、今のは中将という立場の人間に対して、唯の子供が言論の撤回を求めたのだから。

 一般人、しかも管理局と何の関係も無い立場、これが無礼極まる以外の何だというのか……。

 しかしそんなもの、最初に「立場を弁えない発言をする」と伝えたのだから、気に掛ける事も無い。

 

「先程から彼女の事を罪人、罪人と……嫌悪と憎しみをぶつけ過ぎです」

「当然の事実を言ったまでだ」

「事実ならば何を言っても許されるのは、子供の屁理屈です」

 

 人と人が言葉を交わす中で、言っていい事と悪い事は理性が抑え見極めるべきものの筈だ。

 自分の言葉が他人にどう聴こえるのか、それを考える事を止めたら、きっと誰とも分かり合えない。

 そんなもの、妥協以前のモラルの問題だ。

 

「はやてが罪人だったとしても、今は貴方と同じ管理局の一員なんですよ?」

「同じではない。正規の手順で実績を重ねた私と、偶然持っていた稀少技能(レアスキル)による恩恵では、雲泥の差が存在する」

「だとしても貴方の言う『正規の手順』も、はやての『稀少技能による恩恵』も、同じ管理局が認めた事実です」

 

 管理局(ここ)に属する人達は、きっと千差万別の理由や意志によって集まっているに違いない。

 けれどそこに優劣は付けられない、誰もが同じ、入局というスタートラインを通ってきたのだから。

 

「それに、はやての罪も管理局が既に認めているのなら、これ以上はやてに過去の罪を押し付けるのも違う筈です」

 

 全ては過ぎた事、法を司る管理局がその後を示したのなら、それ以上は唯の横槍と要らぬお世話だ。

 はやてだってそれを分かっているから、その罪滅ぼしとして頑張って仕事に従事している。

 先程の中将の言葉から目を背けず、手を握り締めながら耐え続けたのは、きっと自分の罪から逃げずに真正面から受け止めると決めていたからだろう。

 

「はやては自分の罪をきちんと認めています。だから、中将も彼女の今を認めて下さい!!」

「認められるものか!! 保身の為に下僕を使い、多くの者を傷付けた罪人の存在など、いつ裏切られるか分かったものではない!!」

「いい加減、過去じゃなくて今を見て下さいって言ってるんです!!」

 

 俺の言葉を全く意に介さず、飽く迄自身の意見を貫くその姿勢。

 組織の上に立つ人間はブレてはならない、揺らぐ信念は部下に悪影響を与えると聴いた事があるが、この人も例に漏れず相当な人物らしい。

 このままでは平行線のまま、きっと何も変わらないし変えられない。

 でもそれじゃはやては生涯、重荷(つみ)を課したまま生きる事を自分自身に強いてしまう。

 そんな姿、黙って見ている訳にはいかない。

 

 ――あの子の肩の荷が少しでも軽くなるよう、傍で支えてあげて欲しいんです――

 

 無力な俺が決めた、俺らしいやり方を貫く。

 それが間違っているかどうかなんて、後で考えるべき事だ。

 

「君は分かっていない。隣に居る者がどれ程の大罪を犯したのか、それによって傷付けられた者達の苦しみが……」

「その全てを認めて、はやては此処に立っている筈です」

 

 そもそも、あれだけ責任感の強いコイツが、それ等一切を無視して生活出来るなんて到底思えない。

 きっと今だって心の奥に秘めながら、それでも前を向いている。

 俺の知っている八神はやてとはそういう少女だ。

 

「だから中将、そして貴方を含めた局員の人達がするべきは、彼女に憎しみをぶつける事ではなく、その行く末を見届ける事じゃないんですか?」

「……」

「はやては自分の罪をきちんと受け止めている。なら彼女は罪人じゃなくて、今を正しく生きようとしている1人の人間です」

 

 俺は八神はやてを信じる。

 未だに彼女の事は知らないものばかりだけど、知っているものだって確かにあるのだ。

 だからきっと、この想いは間違いなんかじゃない。

 

「……」

 

 その言葉を最後に、俺達の周囲は静寂に包まれた。

 俺の視線の先のレジアス中将も、その彼の視線の先の俺も、隣に立つはやても、誰も口を開かずにいる。

 

「……」

 

 熱を増していた口論も、終えてしまえば徐々に頭が覚めていくもので、次第に冷静さを取り戻していった。

 ……はやてを守る、その衝動に突き動かされた結果が今の状況だが、きっとこの周りでは俺と中将のやり取りを見ている人も居ただろう。

 というか、局の廊下で堂々と言い争っていたのだから、どう考えても注目度は高かったと言わざるを得ない。

 目撃者の中には、この異様な事態を不審に思って誰かを呼びに行ってるかもしれない。

 ――――それは言うなれば、非常にマズいのではなかろうか?

 

「……」

 

 後悔は無い、元よりその為に前に出たのだから。

 だがしかし、これはこれで色々と問題が発生しそうで否応無く不安を誘う。

 先程まで微塵も感じなかった焦りが募る……が、今はまだ退けない状態でもある。

 故にそれ等は全て腹の内に飲み下して、中将からの視線を真っ直ぐに受け止めるだけに専心を向けた。

 

 そして、それがどれだけ続いた頃だろうか。

 それまで微動だにしなかった厳粛な顔色が、不意に、ほんの少しだけ緩んだのは……。

 

「なるほどな」

 

 まるで何かを悟ったようにフッと一つ息を吐いた中将は、幾分か和らいだ双眸を以って俺を見詰めていた。

 そこに込められた意味は分からない、けれど今までの敵意のようなものは殆んど感じられない。

 その突然の変化に着いていけず、戸惑いながら見返していた俺に、彼は言葉を続けた。

 

「少年、名前は何という?」

「な、名前ですか?」

 

 あれだけの言い争いを繰り広げたばかりだというのに、突然その相手に名を尋ねられた。

 まさしく『鳩が豆鉄砲を食った』状態であるが、流石にその問いは沈黙で返せない。

 

「聖、瑞代聖です」

「ミズシロ、ヒジリ……。魔法資質の方は?」

「一応は、ありますけど」

「……宜しい、その名と顔を憶えておこう」

 

 此方が未だ戸惑いから抜け出せないまま、対する中将は当然のように俺達の横をすり抜けていった。

 はっ? えっ? 一体何? どうなってるのコレ? 何で俺に名前を訊いたんだ? 魔法資質の有無を尋ねた意味は?

 脳内で疑問符が溢れかえるが、当の本人はというと、既に此方に背を向けている。

 流石にこんな訳の分からないまま帰られては此方が困ると、離れていくその大柄な背へすぐさま声を掛けた。

 

「あ、あの――」

「――私は、君の言葉を認めた訳ではない」

 

 だが、それは廊下に響き渡る程の声色に阻まれた。

 

「その程度で変わる程、私の歩んできた道は楽なものではない」

 

 発される声に込められるのは、今までとこれからを繋ぐ不断の意志。

 絶対に折れも曲がりもしない決意の表れだった。

 

「それはこれからも変わらない。故に……今度は君が来るのだな」

「えっ?」

「君が私と同じく、自分の意志を曲げずにいられるのならばの話だが」

 

 中将の言葉に込められた、その真意を理解出来ない。

 唯、背中越しに聴こえるその声は、俺の何かを試しているかのように思えた。

 

「その意志をこれからも変わらずに持ち続けられるのなら、地上部隊へ、私の元へ来たまえ」

「それは……」

「君の正しさを、その時に改めて証明してみせるのだな」

 

 たった一度だけ、此方を振り返って紡いだその言葉を最後に、中将は今度こそこの場を後にした。

 淀みの無い一定速度の歩行、離れていく背中。

 その物言わぬ背中が語っていた、自分を貫いてみせろと、そして此処まで来てみせろと……。

 俺を試し、それでいて見守るように、1人の男性は無言のエールを送っていた。

 

「……」

 

 たった1人この場から居なくなっただけで、嵐の過ぎ去った後の感覚に見舞われる。

 恐らくあの人に、それだけの存在感が備わっていたからだろう。

 流石、中将と呼ばれる地位に立つ人だけの事はある。

 

「――――はぁ」

 

 漸く緩みだした周囲の空気も相まって、全身に溜まっていた緊張感とかその他諸々を溜息と共に吐き出した。

 殆んど勢いで前に出てしまったけど、何とか場を収められたのはこれ幸いというヤツだ。

 中将のあの様子から、この後はやてを面倒な状況に追い込む事も無いだろう。

 その代わり俺が目を付けられた気がするけど、今は敢えて言及はしない方向でいく。

 でないと嫌な予感しか残らないから、しないったらしない。

 

 ……って、そういえばはやては?

 さっきから――正確には俺が中将と言い合い始めてから――一言も発していないが、どうしたんだろうか?

 と、隣に目を遣ってみると

 

「はやて?」

「…………へっ?」

 

 半ば呆然とした様子で、何処かいつもと違った瞳を俺に向けていた。

 しかも俺の声に対する反応まで相当な遅れがある辺り、本気で呆然としていたらしい。

 だが何でそんな、と考えた所で、次に自分の体に少し重みが掛かっている事に気が付いた。

 視線を下げればそこには俺の服の裾を、弱々しく縋り付くように指で摘んでいる彼女の手が……。

 

「あっ、ご、ごご、ごめんなっ!?」

「いや、別にいいけどさ……」

 

 俺の視線に気付いたのか、酷く慌てた様子で彼女は手を離した。

 どうやら今の今まで全く意識すらしていなかったらしく、不意打ちを食らったような顔をしている。

 

「は、ははは……。何やろ、手持ち無沙汰やったんかな?」

「あの空気で手持ち無沙汰って……」

 

 微妙な誤魔化し笑いが自分を無理矢理取り繕おうとしているようにしか見えず、何というか全くサマになっていない。

 普段のしっかり者のはやてにしては、非常に珍しい姿だ。

 いやまぁ、レジアス中将と真正面からあんなやり取りをすれば、挙動不審というか困惑するのも当然だろう。

 だったら今は、比較的冷静な俺が先導するべきか。

 

「そんじゃ帰ろうぜ、もう用事も無いんだしさ」

「そ、そやね……」

 

 未だ戸惑いから抜け切れていないようだが、此方の促しに答えて歩を進め始める。

 さて、こうして管理局での用事も無事に終わった事だし、この後はどうするかな。

 家に戻ったら宿題の続きでも……そういえばヴィータが午前勤とか言ってたから、そろそろ戻ってる頃か。

 「腹へったー、飯ー!!」とか愚痴ってそうだから、早めに戻った方が良さそうだ。

 その様子を自然に想像出来る辺り、俺も八神家の一員として慣れてきたのかもしれない。

 

 で

 

「どうしたんだ、はやて」

「えっ……あ、いや、何でもあらへんよ?」

 

 いや、そんな事を言われても、さっきからチラチラ見てくるから気になるんだが……。

 まぁこうして誤魔化すって事は、あまり詮索されたくない事なんだろう。

 自分の内側に溜め込む性格ではあるけど、何かさっきまでとは違う感じがするから、無理に訊くものでもないな。

 なので俺も気にしない方向で行こう……はやての顔が少し赤らんでるのも、取り敢えず気にしないで行こう。

 

「なぁ、聖」

「ん、どうした?」

 

 とか考えていたら、今度はあっちから声が掛かった。

 

「今日の夜、時間あるか?」

「構わないけど、どうした? 何かあるのか?」

「うん、話したい事があるんやけど」

 

 その言葉だけで彼女の言いたい事、そして『話したい事』の内容が何となく察せた。

 俺だって馬鹿じゃない、先程までの流れを鑑みれば理解出来る。

 それが彼女、ひいては八神家にとって非常に重要なものである事も、充分に……。

 

「分かった」

「そか、それじゃ夜にな」

「おう」

 

 だから俺は、たったそれだけの言葉を返して応えた。

 一体どのような話を訊かされるのかは分からないが、先程までの中将とのやり取りで既に覚悟は決まっているようなものだ。

 今更誤魔化したり逃げる気は毛頭無い。

 彼女の話す全てを受け止める、それだけだ。

 

 予想外の騒がしさと、一つの覚悟に至った、とある昼時。

 此処での長かった俺の用事が、今度こそ、漸く終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管理局からの帰還後、案の定既に飯待ちモードだったヴィータと共に昼飯を取り、その後はそれぞれが思い思いの時間を過ごしていた。

 他の皆が戻ってくる頃にはすっかり夜で、図書館での宣言通り、晩飯は皆で麻婆豆腐を頂いて……。

 

「皆、揃っとるな」

 

 八神家のリビングには、家主を始めとした家族全員が揃っていた。

 ソファに腰を下ろしているはやて、その膝にはリインがちょこんと座り、はやての隣にはヴィータ。

 もう一方のソファには俺が座り、隣にはシャマルさん。

 ザフィーラははやての傍に伏すように佇み、シグナムさんは腕組みをしながら壁に寄り掛かっている。

 

「はやて、本当に話すのか?」

 

 ヴィータの言葉に、静かに頷くはやて。

 その瞳は優しげながらも、とても強い何かを秘めているのが見て取れた。

 

「ずっと引っ掛かっとったんよ。家族になった聖に、言わんでもえぇ事は伝えないのが本当に正しいのか」

「ですが主はやて、決して伝えなければならない事でもない筈ですが……」

「そやね。もう過ぎた事で、聖には何も関係無い事や」

 

 水を打ったように鎮まり返る室内に、はやての声が響き渡る。

 真剣な眼差しが射抜くのは唯一人、瑞代聖だ。

 

「でもな、聖は言ってくれた。過去を知らなくても、今の私等を信じてるって……」

「あのレジアス中将にビシッと、ですね」

「……聖、オメー無謀にも程があんだろ」

 

 リインの補足した事実に、その場に居た俺とはやて以外が目を剥いて此方を凝視する。

 殺到する視線に居心地の悪さを感じながら、そういえばその事について全く話してなかったなぁと思い出した。

 まぁいい、それは過ぎた事だから今は関係無い。

 はやてに視線を遣り、頷いて次を促した。

 

「せやから今度はこっちの番。聖の知らなかった過去、犯してしもた罪をきちんと伝えな」

 

 意を決したような強い意志が、その声に込められていた。

 あの時、俺と共に中将と対峙した時から、この事は何度も考えていたんだろう。

 そして彼女は、話すという選択をした。

 隠してきた過去を話す重みは俺も知っている、だから余計な事を口走って想いを揺らがせる事はしてはいけない。

 

「長くなるけど、最後まで聴いてな」

「分かった」

 

 俺の返答に、そか……と満足げな顔を浮かべた。

 周りの皆も主の決意を汲み取って、彼女に全てを委ねている。

 準備は万端、という事だろう。

 

 それじゃ、長い話を始めよう。

 八神家が刻んできた今まで、そこに秘められた真実を知る為に……。

 

 

 

 

 

 

 それは今から4年前、はやての9歳の誕生日に『闇の書』の主に選ばれた事が始まりだった。

 

「闇の書? 夜天の魔導書じゃ……」

「その辺の事は後で分かるから、このまま続けるな」

「あぁ」

 

 主に選ばれたはやての前に現れたのは、4人の騎士達。

 それまで独りぼっちだった彼女に、新しい家族が出来た瞬間だった。

 

「そこまでは前に話した内容そのままやね」

「少し前だな、俺も憶えてる」

 

 それからは、はやてと騎士達の穏やかな生活があったと聴いている。

 書を完成させる為の魔力蒐集は行わず、唯、新しい家族達との平穏を望んだ少女。

 だからこそ、彼女達が犯した罪というものが分からないのだ。

 一体それは、何処を端に発するものなのか……。

 

「それまで私は車椅子で生活しとったんやけど、ある日から下半身の麻痺が酷くなる事があってな」

 

 あまりに突然の病状の悪化に、シグナムさん達は主治医から衝撃の事実を告げられた。

 その麻痺が、身体機能そのものに悪影響を及ぼす可能性が極めて高いと。

 このままでは麻痺が内臓機能にまで発展し、はやては……。

 そして、その原因というのが――――

 

「『闇の書』という訳だ。書は主が幼い頃から、肉体や魔力に絶えず負担を与え内側を蝕んでいた」

 

 加えて闇の書の封印が解かれ、ヴォルケンリッターが顕現し魔力の消耗が増えた事が決定打となった。

 自分達の存在が主を苦しめているという事実に、心優しい騎士達は遂に主との約束を破り、蒐集を開始した。

 はやてには何一つ告げず、自分達の意志で……。

 

「そっからはアタシ等の方が詳しいな。なのは達の事も含めて」

 

 はやてからの話を繋げたのはヴィータだ。

 闇の書の完成を目指し行動を開始した騎士達は、12月のある日に、運命的な出会いを果たす。

 それが、ハラオウン達だった。

 

「当時ははやての事ばかり気掛かりで、全然相手にしなかった。なのに、アイツ等は何度も言うんだ……『話を聴かせて』ってさ」

「だが我々は魔力蒐集の為に、既に数多くの者を傷付けていた。今更、管理局の者達に話せる状況ではなかった」

「はやてちゃんの身柄を拘束されるのは、目に見えていたものね」

 

 苦々しく語る皆を見て、聴いているだけの筈の俺の胸に、少しの重みが掛かった。

 過ぎてしまった事ではあるけど、その状況には歯痒さともどかしさばかりが募ってしまう。

 単純な悪行であるなら躊躇いなど有り得ない。

 でも真実は、お互いに大切なものの為に必死だっただけで、それを単純に悪と定義する事は出来なかった。

 

「その最中、管理局の無限書庫で闇の書について調べていたユーノが、闇の書の真実を見付けたんだ」

 

 闇の書とは、本来は『夜天の魔導書』と呼ばれるものだった。

 だが時を流れる中で、歴代の主の数人が書そのものを改変してしまい、破壊の力を使う『闇の書』に変貌したのだと。

 その機能は凄まじく、通常では破壊も封印も出来ないというとんでもない代物になっていたという。

 それはつまり、はやてが闇の書から解放されるには、書の完成以外に在り得ない。

 しかし完成したとしても、闇の書として存在する以上はあらゆるものを破壊する事しか出来ないのだ。

 ……まさに、最悪のケースと言っていい。

 

「でもな、そんな状況を打破してくれたんが、なのはちゃん達やったんよ」

「アイツ等が……?」

「そや。夜天の主となった私と騎士達と一緒に、闇の書の闇である防衛プログラムを破壊した。それで、その時に私を支えてくれたんが――」

「――初代リインフォースですね!!」

 

 書に内包された守護騎士プログラム、それと同様の存在であり、書の主と融合する事で絶大な力を発揮する管制人格(マスタープログラム)

 はやてによって防衛プログラムの暴走から切り離され、本来あるべき姿を取り戻した夜天の最後の騎士。

 そして今、はやての膝の上に佇んでいる小さな妖精が二番目(ツヴァイ)と呼ばれる所以の『祝福の風(リインフォース)』なのだと……。

 

「でも、どうして今は?」

「管制人格が残っている限り、防衛プログラムは無限に再生するの。だからあの子は自身の消滅を望んだのよ」

 

 シャマルさんが言うには、夜天の書としての基盤が既に残っていない事から、改変以前の形に戻す事は出来ない。

 故に再び暴走を引き起こす事が確定している為、自らその結論を下した。

 途方も無い長い時の中で、漸く自らに課せられた呪いに立ち向かえたというのに、そのような結末しか迎える事しか叶わなかった。

 

 雪の降る中、皆に見守られながらリインフォースは逝ったと、はやては静かに語る。

 この手に今も在る、剣十字の破片を残して……。

 

「それが、私等が行ってきた事の全容や。その後は保護観察や嘱託の件とかあるけど、そこはまぁ、特に何かあった訳でもないから、省略やな」

 

 

 

 

 

 

 

 はやてを始めとする『闇の書』に関する事実。

 全て聴き終えて、その内容を反芻しながら自分の内側で気持ちを整理していく。

 呪われた魔導書と選ばれた少女の、定められた運命を乗り越えた物語。

 色々と言おうと思っている事はあるけれど、差し当たってまずは……。

 

「はやて」

「ん、何か分かり辛かったとことかあった?」

「分かり辛いというか……結局さ、『お前自身が犯した罪』ってのは何処にあったんだ?」

 

 そう、何より一番疑問に思っていたのがその点。

 教えて貰った全容から、決して拭えない罪がある事は分かったが、それは自ら行動を起こしたヴォルケンリッター(・・・・・・・・・)の皆だ。

 はやて自身は最後の最後まで、自分の命に危険が迫って尚、誰かに迷惑を掛ける事を善しとはしなかった。

 そんな彼女の罪なんて、今の話には全く出て来なかった気がするんだが……。

 

「闇の書や騎士の皆が色んな人に迷惑を掛けたんなら、主である私が、家族である私が一緒に背負ってかなあかん事やから」

 

 至極冷静に、当然のように言い放った彼女の答え。

 時間を掛けて、共に背負った罪を償っていくのは、言い分としては間違っていない。

 間違っていない……筈だけど、どうにも釈然としない。

 どれだけ間違いでなくとも、それが本当に正しいのかという疑問が脳内を埋めていく。

 

「夜天の魔導書がおかしくなったのは、以前の主達の問題だろ。つまり、はやては何も悪くない」

「せやけど今の主として、これまで犯してきた書の罪は、私が背負っていかんと……」

「責任を感じ過ぎなんだよ。以前の主達がもう居ないからって、今の主であるお前が全責任を背負うなんておかしいだろうが」

 

 全ては過去に、最早存在しない魔導師(にんげん)の残してきた爪痕だ。

 それを主に選ばれたからって背負わなくちゃいけない道理は、そもそも前提がおかしい。

 かつての何人かの主が書を改変した、それによって幾度も悲しみが生まれてきたのは事実。

 だけど、そんな事はやてには関係無い。

 遥か昔の人間の所業(ツケ)を今の人間に払わせるなんて、理不尽の極みでしかない。

 そんな理不尽(バカみたい)な事、法を司る管理局ならば認めはしないだろう。

 事実はやてが申し付けられた点は、騎士達に対する『監督不行届き』という部分に終始されていたらしいし。

 

「詰まる所、はやては罪を犯した訳じゃなくて、自分自身で闇の書と騎士達の罪を背負う事を決意しただけだ」

 

 たとえ自分の意志が何一つ無関係にあったとしても、起きてしまった事から目を背けられなかった。

 直接であろうと間接であろうと、関わっているのなら自分にも責任の一端はある。

 はやてが下した結論というのはそういう事で、何より家族が自ら起こした事だから余計に責任を感じてしまっていたのだろう。

 律義というか何というか、本当に優し過ぎて損な性格だと心底思う。

 しかしまぁ、それまでの出来事を完全に無視して普通に生活していたら、それはそれで『はやてらしくない』から反応に困るけどさ……。

 

「何だ、お前を信じて全然問題無かったじゃないか」

 

 はやての優しさが、存在しない罪を自身に押し付けた。

 俺が出した結論はそんなもので、自分の信じたものは何も間違っていなかったという事をきちんと認識出来た。

 

「色々考えていた事はあるけど、余計な心配だったな」

 

 はやてを信じていると強く思っていても、レジアス中将のあの態度には少なからず不安を覚えていた。

 もしかしてコイツは、俺には想像すら出来ない大事をやらかしたのかも知れないと……。

 まぁ、結末としてはそこまでのものではなかったけどな。

 霞がかった事実が白日の下に晒され、俺は漸く安堵の息を吐いた。

 

「せやけど――――」

「ストップだ、はやて。もう必要な事は分かったから、これ以上グダグダ論じるつもりは無いぞ」

 

 はやて自身には罪は無い、その結論に納得しかねる様子で未だ釈然としない顔の少女。

 グラシアさんとアコースさんの言う通り、何でも自分で抱え込む癖はこれ程までに極まっているようだ。

 だが、家族が犯した罪によって生き長らえる事が出来た、という事実に対する後ろめたさを感じていると思えば、こういった生き方をしてしまうのも分からなくもない。

 正直、申し訳無さで胸が張り裂けそうになるだろうから……。

 だが俺はこれ以上の言い合いはしない、必要なのは伝えるべき言葉を口にするという事だけなのだ。

 

「それに騎士達(みんな)と一緒に罪を償うって言うけどさ、犯した罪の所在と、それを償うかどうかの判断は、本人だけに許されたものだと思う」

「それは……」

 

 シグナムさん達は真面目な人だから、自分の罪から逃げたりせずに真っ直ぐ受け止める筈だ。

 騎士としての清廉さと、何よりも大切な主であるはやての為にも、懸命に償いを果たすと信じている。

 自らの意志で……。

 

「心配なのは分かるし、自分の為に家族がしてくれた事だからって理由も分かる。でもやっぱり、お前まで罪を被るのは違うんじゃないか?」

 

 だからこそ彼女がするべきは一緒に背負う事じゃなくて、皆の姿を見守る事なんだと思う。

 犯した罪から目を逸らさずに、背負った重みに負けず胸を張って前を向く、その皆の強い姿を。

 

「此処に居る皆は、お前が居ないと何も出来ない人達じゃない。自分のしてしまった事の重さも、その為にどう償うべきかきちんと分かっている人達なんだからさ」

「……」

「心配しなくても大丈夫だって。その先に何があったって、皆がお前の傍に居る事は変わらない」

 

 はやては皆がこの世界の右も左も分からない頃から、衣食住の全てを世話してきた。

 だから無意識に、子を想う親心のような当然の心配してしまうのだろう。

 けど皆だって、いつまでもはやてに心配されてばかりの子供じゃない。

 

「だから……この八神家の家主らしく、もっとドッシリと構えていいと思うぞ」

 

 人が様々なものを見て、聴いて、感じる事で成長していくように……。

 たとえプログラムで構成されたとしても、今此処に居る誰もが、自己の意志の下で生きて成長している。

 その成長を少し離れた場所から見守るのも、親の役目なんだと思う。

 

「そうよ、はやてちゃん。私達を心配してくれるのは嬉しいけど、それではやてちゃん自身を蔑ろにしたら、何の意味も無いの」

 

 俺達のやり取りを静観していたシャマルさんがやんわりと、それでいて確かな想いを宿した言葉を放った。

 優しい音色は、はやてに言い聞かせるように、そして内に秘めたものを吐露するように……。

 きっと、その言葉はずっと胸の中にあったものなんだと、その姿で確信した。

 

「昔から言ってたわよね、『皆の幸せが私の幸せ、皆の笑顔が私の宝物』だって……。でもそれは私も、シグナムも、ヴィータちゃんも、ザフィーラも同じなの」

「リインもですよー!!」

「そうね。はやてちゃんが幸せになってくれる事、いつまでも笑顔でいてくれる事が、私達の幸せで宝物」

 

 チラと横目でシグナムさん達に目配せをしながら、彼女の言葉は続く。

 自分達を幸せにしてくれている人に、自分よりも家族ばかりを優先してしまう心優しい少女への想いを。

 なら今の俺に出来るのは、余計な口を挟まずに、それを静かに聴く事だけだろう。

 

「だからこそ、はやてちゃんにはもっと自分を大切にして欲しいの。ちゃんと自分の幸せを探して、掴んでいって欲しい」

「主自身は現状の幸せで充分と仰るでしょう。ですがそれでは、我々が納得出来ないのです」

「確かに今も充分幸せだし楽しい……。けどきっとはやてには、他にも楽しい事や幸せな事がある筈だって、アタシは思うんだ」

「我等ヴォルケンリッターは主の御身だけでなく、幸せを得る為の道程を守護する者。主により多くの幸せを手にして頂く事こそが、我等共通の願いであり幸せなのです」

「皆……」

 

 それはシャマルさんだけでなかった。

 シグナムさんも、ヴィータも、ザフィーラも、その胸に同じような想いと願いを抱いていた。

 はやての幸せを誰よりも、何よりも、強く欲していたのだと。

 

「せやけど、私がこれ以上の幸せを望むなんて罰当たりや」

「そんな筈は無いわ。私達ははやてちゃんがこれまで、どれだけ頑張ってきたか知っているもの」

「主はやて……貴女がこれまで築き上げてきた努力と結果は、自分が幸せになる事が罰当たりだと思う程度のものだったのですか?」

「そーだよはやて。はやてが罰当たりなんて、ある訳ないだろ」

「みん、な……」

 

 次から次へと向けられる家族からの言葉は、はやてから否定の言葉を奪っていく。

 自分を許せずにいる少女を、その優しさで包み込みながら……。

 

 これならきっと、もう大丈夫だろう。

 はやては途轍もない律儀で、それ故に難儀な性格ではあるけれど、きちんと分かっている家族が傍に居る。

 そしてその家族は、彼女の幸せを誰よりも強く願ってくれている。

 今の彼女の、これからの彼女の為に必要なものは、何をせずとも最初から揃っていた。

 先程まで俺が指摘した諸々は、ある意味、余計なお世話のようなものだ。

 

 そう簡単な問題じゃないから、すぐには無理かもしれない。

 けれどいつの日か必ず、目の前で家族に囲まれている女の子に、掛け替えの無い『彼女の為だけの幸せ』がやって来ると信じている。

 一つの家族が寄り添い合う光景を目の当たりにして、理由も根拠も無く、そう思えた。

 だから俺は、即座に腰を下ろしていたソファから立ち上がった。

 

「それじゃ、俺は日課に行ってくるかな」

「え、ちょう待って……」

「俺との話はもう終わりだ。お前が話すべきは、そこに居る皆だろ?」

 

 伝えるべき言葉は伝えた、聴きたかった言葉も聴けた。

 その中で見付けた、一つの答えが此処にある。

 ならばこれ以上のやり取りは不毛で、きっと余計な時間にしかならない。

 そこまでの結論は早く、俺はそそくさとその場から退散する。

 俺の言った通り、話し合うのならシグナムさん達とだ。

 

「風呂の順番なら少し位遅くなってもいいからさ。時間を掛けて、お互い言いたかった事をきちんと伝えないと」

 

 それだけ口にして、腕を広げて固まった全身の筋肉を解すように伸ばす。

 全身を走るむず痒さに、思っていたより時間掛かってたんだなぁ、とか思ってみたり。

 さぁて、いつもより遅くなったから、ランニングコースを少し変更して、後は……

 

「なぁ、聖」

「はやて、だから俺との話はもう――」

 

 まだ納得出来ないのかと、半ば呆れ気味に振り返る。

 

「――私はもっと、自分の幸せを求めてもえぇんかな?」

 

 不安げな色を滲ませる双眸が此方を射抜く。

 それは口にした言葉にも伝染し、普段の毅然とした姿とは違う弱さを見せていた。

 …………予感的中、やっぱりコイツがすぐに受け入れるのは難しいらしい。

 これじゃ堂々巡り、さっきまでの話をぶり返すだけだ。

 

 

 

「そんなの、当たり前だ」

 

 だから自分の本心を、決定的な一つの答えを伝えた。

 今日一日で脳内を巡るゴチャゴチャした考え、その一切合財を投げ捨てた言葉。

 俺が何よりも(ただ)しいと信じた、ありのままの想いを。

 

「じゃ、俺は行くから」

 

 そうしてこの場を後にした。

 もう俺に出来る事は終わっているのだから、長居は無用というものだ。

 惜しむものは何もなし、その通りにリビングを抜けて、八神家から躊躇いなく飛び出した。

 

 肌に纏わりつく熱気、それを冷ますような夜風。

 見上げた夜天(ソラ)には雲が掛かりながら、けれど寄り添い合う幾つもの星々で煌いていた。

 さて、明日の天気はどうなるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なので、後は皆次第だと思います」

『そうか。自分に出来る事が何なのか、見付かったようだな』

「まだ明確じゃないですけど、切っ掛けにはなりました」

 

 そして今日もまた、就寝前の師父との電話越しの会話。

 内容は勿論、今日の出来事についてだ。

 個人的な問題故に大体の内容は伏せざるを得ないが、それでも師父は何一つ疑問を挟む事無く聴き手に徹している。

 その対応が、今は非常にありがたい。

 

「これが本当に正しかったのか、それは分かりませんけど……」

『間違ってしまったのならそれを正す。一度が無理なら二度、何度も繰り返しながら答えを見付ければいい。お前達には、それだけの長い時間と道程が待っているのだからな』

「はい、最初からそのつもりです」

 

 今回のような精神的な問題に真に正しいと言える答えは無いし、出す事も出来ない。

 もしかしたら俺の出した答えが、いつの日か何かしらの問題を引き起こしてしまうかもしれない。

 でも仮に本当にそうなったとしても、関わった者としての責任、そして支えると決めた者としての覚悟を果たすつもりだ。

 数ヶ月前、俺に大切な事を教えてくれた少女と、あの夜空に誓った想いに偽りは無い。

 

「でもまさか、本当に昨日の今日でこんな事になるなんて、思いもしませんでした」

『だから言っただろう、人生はそんなものだ。重大な選択すら、道端に幾らでも転がっているなんてザラだからな』

 

 呟かれる言葉はまるで自身の体験談のように軽く、しかし腹の底にまで響く声はとても重かった。

 きっとそこには、俺には与り知らぬ意味が込められているのだと思う。

 

「まだまだ未熟者ですが、その言葉の意味、少しは理解出来ました」

『あぁ、今回は良い機会だったようだな』

 

 それでもいつか、この受話器の先に居る人に近付く事が出来れば……。

 今日実感出来たものも、未だ理解の及ばないものも、確かな意味を持って心に刻み付ける事が出来ると信じている。

 その為にも今はまず、目の前の事を一つずつ乗り越えていこう。

 はやての力になれる自分になる為に……。

 

 

 

『なぁ、聖』

「何ですか?」

 

 決して簡単な道ではないと分かっていた。

 それでも進むと決めた、この胸に宿った意志は、しかし――――

 

 

『もう、連絡を取り合うのは止めないか?』

 

 

 ――――その宣告によって、酷く揺さぶられてしまった。

 

 

 

 

 




少年の想い、少年の決意。
それは終わりへ向かう、崩壊への序曲。

どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
はやて編№Ⅲをお読み下さり、ありがとうございます。


はい、まずは謝罪の方から。
更新にこれ程の時間を要し、読者の方々をお待たせしてしまい、申し訳ありませんでしたぁ!!!!
言い訳になりますが、ぶっちゃけるとプライベートで本当色々あったんです。
積みゲー消化とか、プレイしているPBW(オンラインのTRPGのようなもの)で運営から無茶振りをやられた事とか、他にも私生活で大きな事があったりで手を付けられませんでした。
……いや、一番は感想が1つも無くてショックだったというのですが(´・∀・)メンタル弱いっすね
それで気分転換にオリジナル小説の設定周りを構築したりで、気付けばこんなにも時間が……。
本当、申し訳ありませんでした。
これ以上、長々と言い訳を並べても滑稽なだけなので、以上とさせて頂きます。

では改めて、今話について。
序盤のすずかの登場は、運命編での彼女自身に残った聖に対する罪悪感を解消するイベントです。
アリサはその辺りを何とか飲み下していましたが、すずかはその機会も無いまま夏休みへと至ってしまいましたので、燻ったままの気持ちは放っておけないという作者の判断でした。
そして今回のメインである『レジアス・ゲイズ』の登場、そしてはやてを巡る一連のやり取り。
はやて編の名を冠する以上、この話は避けて通る事の出来ない中核です。
この作品ではレジアスは嫌味の強いキャラ(公式で口が悪い設定)になっていますが、僕は割と好きなキャラですよ。
スカリエッティ側に与していた事はありますが、それを含めて、苦しい体制の中でも正義を体現しようとしていた人ですから。
何処ぞのグレアム提督よりは、ずっと一本気で誠実な人だと思います。
グレアム提督なんて、はやてに束の間の幸せを与えた所で「そして殺す」を実行しようとした人ですからね。
しかもあれだけ事件をややこしくした癖に、希望辞職で罪から逃れるとか、色々アレな人ですし。
閑話休題。
はやての過去を知り、その末に見付けた聖の答え。
それが本当に正しいものかは、作中で彼が言っているように、誰にも分からない事です。
それでも見て見ぬ振りはしてはいけない、だからこそ聖はその問題を直視し、自分なりの答えを見付けました。
というか書いてて思ったんですけど、はやてって途轍もなくめんどくさい性格してるなぁと思いました。
聖だけでは罪の意識を払拭し切れなかったのは、そのめんどくささ故です。
ですがこれからなら、このまま良い感じに物語が進む…………なんて、そう上手くはいかないものです。
不穏なラストを迎え、はやて編はこれから一気に佳境へ向かいます。
聖が主人公らしい活躍をするのは終わり、此処からは俺(作者)のステージだ!!
運命編のヒロイン別ストーリーの№Ⅳがどんな内容だったか、そしてはやて編が『聖の脆さ』をテーマにしている、それで大体把握して貰えると思います。
兎も角、次話をお待ち下さい。


今回はこれにて以上となります。
感想や意見、タグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
皆さんからのお声が原動力なので、是非、是非、是非宜しくお願いします!!( ;Д;)
では、失礼します( ・ω・)ノシ







更なるあとがき(長いです
余談ですが、以前とある方からこの作品の感想を頂きました。
その内容の一部を掻い摘むと「聖の行動が押し付けがましい、独善的だ」というものでした。
この指摘は、まぁ普通に考えたらダメ出しに思えるのでしょうけど、作者である僕自身は割と好意的に受け止めています。
正直な事を言いますと、その点は作者が一番理解していて、尚且つ何よりも比重を置いている部分だからです。

僕は作品を書く時に『キャラは作者の代弁者になってはいけない(作者=主人公なんて言語道断)』という点を何よりも心掛けています。
そもそもこの物語で聖が見付けた答えなんてものは、作者側から言わせれば『穴だらけの不完全なもの』ばかりですし、付け入る隙なんて幾らでも存在します。
もし聖が作者の代弁者という立ち位置なら、作中の様々な問題に対してもっとスマートに、無理の無い答えを出して解決出来ると思います。
でもそれではキャラが死にます、文字通り作者の操り人形でしかなく、作品世界の中で生きていないのです。
だから聖には作者の代弁者ではなく、飽く迄海鳴で過ごしてきた少年という、バックボーンを持った1人の人間として表現しています。
なので自分の考えが不完全だからという理由で足踏みし、毒にも薬にもならない答えしか出せない、無難な行動しか起こせないという事だけはやってはいけない。
目の前で苛めがあるのなら止める、独りぼっちの子供を見付けたら傍に居る。
たとえその行動原理が、読者の方々や作中のキャラ達に理解されない独善的なものであっても、自分が信じた行動が出来る未熟で無謀で優しさを持った主人公であって欲しい。
それが、瑞代聖です。

要約すると、読者の方々の中には聖の考えや行動を理解出来ない、もしくは聖というキャラが好きになれないという人も居ると思います。
でもそれは悪い事ではなく、至極当然の事です。
作者的には「聖は嫌い」という意見は大いにアリだと思っていますし、寧ろそう思ってくれるのは聖という存在が1つの人格として認められていると実感出来るので嬉しくもあります(勿論、好きと言って貰える場合も同様
誰にだって気に食わない、考えが合わなかったり理解出来ない相手は居るものですから。
作者にとって聖は、読者の方々に様々な感情を抱いて貰える、そんな少年であって欲しいと思っています。
なので、これからも瑞代聖という主人公を宜しくお願いしますm(_ _)m


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