少年の誓い~魔法少女リリカルなのはO's~   作:さっき~

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№Ⅷ「敵の名は『MVP』」

 

 

 それはある日の出来事。

 特に用事の無かった俺は、さっさと帰路に着いていた。

 瀬田や金月、遠藤、ハラオウンやバニングスといったクラスメイト達に挨拶を告げて教室を出ていくのが、最近の俺の日課みたいなものだ。

 廊下に出ると2人を待っているであろう高町、八神、月村の3人に出会うのも、よくある事。

 彼女達にも別れの挨拶を告げると、そのまま昇降口の下駄箱まで進んでいく。

 軽快な足取りは、今の俺の心境を表しているようだ。

 今日もこの後、いつものように家の手伝いに精を出すのだろう。

 いつもと変わらない下校風景。

 これからも変わらないであろう、俺の日常。

 

「…………ん?」

 

 しかしそのいつもは、1階に続く階段を下りきる寸前までだった。

 ソレによって、いやソレ等によって、俺のいつもの下校が崩されたのだから。

 

「貴様、瑞代聖だな?」

 

 視線の先、1組の下駄箱の前、そんな邪魔極まりない場所に十数人の男共が群れていた。

 それぞれが向けてくる視線に、言い知れぬ何かを感じずにはいられない。

 その中の先頭に立っている男が、今俺に問い掛けてきた。

 

「そうだけど、何か?」

 

 ……この光景、異様としか言えねぇ。

 何で下駄箱に複数人の男子が居て、俺を呼び止めてんだ?

 見ず知らずの相手に、しかもこれだけの人数の恨みを買うような憶えは無い、筈だけど……。

 冷静に状況を把握しようと試みるが、答えは一向に出てこない。

 押さえ気味の声で返す俺に、先頭の男はニヤリと嫌な笑みを浮かべて答える。

 

「あぁ、あるぞ。お前だけは……」

 

 背後に立つ男達の視線が、殺気を孕み始めた。

 途端、全身が総毛だったのが分かった。

 これは俺に対する危険信号、コイツ等が俺に対して面倒事を起こそうとしている予兆。

 長い間高杉に絡まれた事によって、自然と体が覚えてしまったスキル。

 それが今、体中から発せられている!?

 

『絶対に許せない!!』

 

 そこに居た全員が声を揃えて言い放つ。

 込められる感情は、俺に対する純粋な怒り。

 全く以って、これっぽっちも理由が分からないが……。

 

「何で俺が恨まれるんだ?」

「貴様、よくも抜け抜けとそのような事を言えたものだな」

 

 いや、今のお前程じゃねぇよ。

 少なくとも、そんな芝居がかった口調の奴に恨まれる謂われは無い。

 しかし、コイツの言う事が正しいのなら、一体俺の何に問題があるんだ?

 先頭に居る奴は心底どうでもいいが、その根幹にある『恨み』というものは気になる。

 こんな状況になってるんだから、気になって当然というか事情説明を要求するのが普通だ。

 

「回りくどいな、さっさと理由を話せって」

「まだ分からんか。自身が犯した大罪に……」

 

 おいおい、俺の知らぬ間にそこまで話は大きくなってるのかよ。

 大罪って……生まれてから今まで、一度も犯罪に手を染めてないけどな。

 そして何よりもこの男、無駄にリーダーぶっていてかなり目障りで鬱陶しい。

 身振り手振りを交える男の姿に、こめかみ辺りがピクッと反応しだしたが、何とか抑える。

 

「まぁ良い。知らぬ事もまた罪であり、貴様にそれを教える必要も無い」

 

 心底呆れたような表情を浮かべて奴は答える、必要な部分は全く答えてないが。

 取り敢えず――――全然納得出来ねぇ。

 俺が知らぬ間に何かしらの問題を起こしてるなら、納得は出来ずとも理解は出来る。

 きちんと説明してくれれば、此方としてもきちんと謝罪の意は述べられる。

 でもこんな本気なのか冗談なのか分からないエセ舞台役者が相手では、こっちだって恨まれる謂れは無いし、謝る気も更々起きない。

 そうしている間に、リーダーらしき奴の周りの奴等が動きを見せた。

 全員がいつでも動ける体勢に変わっている。

 マタドールに突撃をかます寸前の闘牛のように、荒い鼻息は離れたこっちにまで届く位だ。

 まさかとは思うが、アイツ等俺を――――

 

「諸君等、行くのだ!! 五大女神達と昼食を共にし、あまつさえあんなフレンドリーに話す男に、お前達の手で制裁を加えるのだ!!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!。

 先頭の奴の言葉で、漸く合点がいった。

 ――――聖祥五大女神――――

 高杉から非公式ファンクラブがあるとは聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。

 俺は一般的なファンクラブというものを知らないが、少なくともこいつ等が迷惑極まりない存在である事だけは確かだと理解した。

 あの時アイツ等に掛けた言葉は、正しく的を射ていた訳か。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 って、そんな事考えてる暇無いっての!!

 某騎馬隊のを髣髴とさせる進軍が迫る中で、冷静に思考していた脳の働きをカット。

 今は何よりも先に、コイツ等から逃げるのが先決!!

 突撃をかます軍勢から逃れる為に、俺は階段を大急ぎで上り始めた。

 

「何で俺がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 あまりに理不尽で釈然としない怨恨理由に、心の叫びが大音量で発された。

 こうでもしないと、今の自分の状況を受け入れられないと思ったのだから、仕方ない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てぇぃ!!」

「我等が敵ぃぃぃぃ!!」

 

 只今、廊下を疾走中。

 理由は明確、俺があの5人と気軽に接しているから。

 

「ハッ――――」

 

 くだらない、実にくだらな過ぎて鼻で笑ってしまう。

 別に下心を持って接している訳でも無いし、それによるファンクラブへの影響も皆無に等しい。

 それなのに何故俺はこうして逃亡している……いや、させられているのだろうか?

 現在、俺を追跡している人数は十人弱、少しだが数が減っている。

 恐らく他数人は途中で別れ、包囲網による挟撃を考えているんだろう。

 

「ったく、何でこんな目に」

 

 背後の群れを一瞥して、呆れたように悪態を吐く。

 全く、何だって学校内で命懸けの鬼ごっこをしなけりゃならないんだよ。

 こっちは今から帰宅して、家の手伝いをしなくちゃならない身なのにさ。

 その渦中に於いて幸いだったのは、相手の足が思いの外遅かった事だ。

 始めの時から、俺と奴等の間隔は一定を保ち続けている。

 だが追われている現状は、決して良い気分とは言えない。

 寧ろ時間を経る毎に、脳内を怒りが侵食していった。

 

「取り敢えず、コイツ等から逃げ切らないと」

 

 恐らく、校門は既に押さえられているだろう。

 蹴散らせれば良いがあそこは最後の砦、雑魚は使わないのが定石ってもんだろう。

 寧ろ、俺を追い駆けているコイツ等の方が雑魚である可能性が高い。

 逃げ出してから既に数分、少しずつだが追跡者達のスピードが落ちてきた。

 

「よし、今だ」

 

 状況を鑑みるにこの時が好機、即決するや否や、急加速を掛けて階段を踏み抜く。

 背後から慌てた声が乱立するが、そんなもんに気を向けてる暇は無いし義理も無い。

 お得意の3段飛ばしを実行し、上階まで一気に駆け抜けた。

 この階は1年生の教室がある階。

 廊下を走りながら1組の教室に目を向ける、と――――

 

「って、お前等まだ居たのか?」

 

 教室の前には、今回の騒動の大本とも言える5人が居た。

 いや、直接的には全く関係無いし、寧ろ俺とは別方面での被害者とも言えるが。

 確か帰り際に用事があると言っていた気がするけど、まだ残っていたのか。

 走ってきた事に少々驚いていた彼女達だが、俺の顔を見て何かに気付いたようだ。

 

「どうしたの? 何かあったみたいだけど」

「過去形じゃなく、今現在で起こってるんだよ」

 

 ハラオウンに早口でそう伝えると、俺は教室の中を見る。

 アイツが居てくれれば、この事態も早めに収まりそうだが……。

 一縷の望みを抱いて我がクラス内を一望する。

 だがそこには、数人の男女が残っているだけだった。

 

「チッ、居ないか」

「何かあったんか?」

 

 目的の者が居ない事が引き金となり、俺の中で焦りが生まれる。

 あぁどうする、このままじゃジリ貧だぞ……。

 奴等の対処法を脳内で巡らせる俺を見て、八神が心配したように声を掛けてきた。

 時間が惜しいから無視を決めたい所だが、流石にそんな無作法はしたくない。

 

「実は……」

『居たぞぉ!!』

 

 手早く用件だけ伝えようと口を開いた瞬間、俺が上ってきた階段から複数人の叫びが聞こえた。

 声の主は間違いなく、追跡者もとい馬鹿共だ。

 ったく、もう来やがったのかよ!!

 ダダダダッと地面を踏み砕く勢いで走ってくる男衆の登場に、目を丸くする5人。

 俺としても、この状況を説明する暇なんて今消え去ってしまった。

 

「悪いっ!」

「あっ、聖君」

 

 1組の教室は廊下端、迫り来る敵、背後に道は非ず逃走を阻む壁のみ。

 ならばと、一言謝罪だけを述べて俺は追跡者達と対峙する。

 背中に月村が呼び掛けるが、それに応えられる状況ではないのだ。

 逃走を再開する為、此方へ迫る軍勢へ無謀にも突貫開始。

 

「邪魔臭いっての……!!」

 

 無謀とは言っても無策な訳じゃない。

 奴等は目的は合致していても、統率の取れていない唯の群れ。

 足並みはバラバラで変な押し合い状態、突くべき隙なんて幾らでも見える。

 だったら――――

 

「よっと……」

 

 ソレは、障害足りえない!!

 接触まで数秒という場面で俺は、運良く開いていた窓枠へと飛び上がった。

 

『何ぃっ!?』

 

 

 驚嘆の合唱が耳を突くが無視、そのまま掛かった足で蹴る。

 そして俺は、宙へ浮き上がった。

 跳躍は高々と、接近する群れの頭上を越え、何て事無く奴等の背後へと俺の身を送り届けた。

 

『なぁにぃっ!?』

 

 あまりの驚きからか、間延びした声が響く。

 あの統率の無さからは想像も出来ないレベルのシンクロっぷりだが、そんな事実はどうでもよくて。

 振り返る暇も無く、俺は再び逃走を開始した。

 

『まっ、待てぇぇぇぇい!?』

 

 それで待たないのが俺で、待てないのが今の状況。

 背後から感じる無数の怨念に、この茶番はまだ終わりそうにないと、俺は悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Interlude~

 

 

 

 

 

「え、えぇっと……」

「これは一体どんな状況?」

 

 目の前で唐突に行われた聖の危なげな逃亡に、少女達は場を支配する状況に頭を捻っていた。

 最初は彼が窓から落ちるのではないかとヒヤッとしたが、流石にそんな馬鹿はしなかったようで安堵。

 だが次に、彼を追って此処まで来たであろう10人程の男子生徒達の存在が気掛かりとなった。

 着ている制服から聖祥の生徒である事は間違いないが、彼女達の記憶に面識は存在しない。

 そんな彼等は、華麗に頭上を飛び越えた聖に動揺を隠せないまま、しかしすぐに追撃を開始した。

 

 ――――が

 何を思ったか突然、彼等はその足を止めた。

 このまま過ぎ去るであろうと思っていた少女達は、その行動に不可解さを感じ……

 

『皆様、本日も一日お疲れ様でした!!』

「……へ?」

 

 まるで家臣のような振る舞いと言動に、思考は更なる奈落へと叩き落された。

 彼等は一体何と言ったのか、ソレに対して間の抜けた返事をしたのは誰だったか、それすらも分からない程、状況は把握し辛いものとなっていた。

 そんな様相に気付く事無く、男達は聖の逃げた先へと駆け出していく。

 リノリウムの床を踏み鳴らす足音は、まるでマシンガンの如く。

 騒がしさを体現した暴風圏が、今この時、訳も分からぬまま去っていった。

 

『……』

 

 一部始終を目の当たりしていた5人に、言葉を紡げるだけの平静さは持ち合わせていない。

 唯々、移動していく台風という名の大群を見ているだけがやっとだった。

 

「えぇっと……」

 

 訪れた静寂にやっと口を開いたのは、甚く困惑した表情の高町なのはだった。

 しかし二の句が告げない様子から、取り敢えず声を出してみただけのようである。

 と言うよりも、目の前であんな光景を見せられて、即座に思考が正常に戻っているのなら大した人物だろう。

 それは他の4人も同じ。

 

『……』

 

 気を落ち着けようと、先程の様子を反芻するが……。

 寧ろ混乱は増すだけだった。

 

「おや、これは一体どうしたのですか?」

『えっ……』

 

 未だ余韻から抜け切らぬ彼女達を揺り起こしたのは、新たな波乱を感じさせる存在。

 歩く怪人、探究心とズレた思考を足して2乗したモノが制服を着た物体。

 高杉信也、その人である。

 動揺を隠せないでいる彼女達を、そして今はもう見えぬ追跡者達の行く先に目を向け、彼は新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべた。

 

「なるほど。非公式ファンクラブが瑞代を潰しに掛かった、という訳ですか……」

「それってどういう事!?」

 

 それに反応したなのはは、さも当たり前のように呟いた彼に詰め寄る。

 先程の男達、そして非公式ファンクラブというキーワードが、彼女達にある予想を導き出させたからだ。

 そして何より「潰す」等という不穏な単語が出てしまえば、反応せずにはいられない。

 信也はふぅ、と一呼吸置くと、彼女達にこの騒動の詳細を語った。

 

「先程の男達、あれは聖祥五大女神の非公式ファンクラブ『MVP』、通称『女(M)神様に近付くヴァ(V)カ野郎をプ(P)チッとやっちゃおうぜ』のメンバーなのです」

 

 ――――少女達は驚愕した。

 その存在以上に、ネーミングセンスの無さに。

 ヴァカ野郎なんて、Bにした方が良いんじゃないのか?

 最後のPなんて、無理矢理にも程があるだろう?

 考えるまでもなくツッコミ所が満載で、最早突っ込む気すら起きないレベル。

 そんなのが、自分達のファンクラブをやっていた事に、衝撃を隠せないでいる。

 

 ――――というのは冗談だが、それでも彼女達が衝撃を受けているのは真実である。

 自分達の与り知らぬ場所でファンクラブが設立されていた事は知っていたが、それが人に対して、このような凶行を行うとは思いも寄らなかったのだから。

 

「そ、それで、それが聖君を潰しに掛かった言うてたけど、どうしてそんな事するん!?」

「おおよそアイツが貴女達と優雅なランチタイムと洒落込んだり、フレンドリーに話したりしてる事が、彼等には目に余る行為だったのでしょう」

 

 最悪のケースを脳裏に浮かべたはやての問いに、信也は至って冷静に返す。

 だがその答えは、あまりにも理不尽で、どうあっても納得しかねるものでしかなかった。

 昼食を一緒にしたり、楽しく話したりするのは、彼女達にとっては日々の何気無い行動であり、そこに怨恨を向けられる謂れなんて存在しない。

 あのように追われる原因として認める事なんて、当然だが出来る訳が無いのだ。

 

「たったそれだけの事で、アイツが狙われるって言うの!?」

 

 半ば反射的に、アリサは目の前の少年に掴み掛かっていた。

 彼女自身、そんな事をしても意味が無いと理解している。

 しかし、そうしなければならない程、彼女の心は憤りを感じていたのだ。

 4人で押さえようとしても、アリサは掴む手を決して緩めない。

 

「確かにアイツは生意気だし、自分勝手だけど、それでも悪い奴じゃないのよ!!」

 

 彼と出会って1ヶ月が過ぎた。

 その中でアリサは、瑞代聖という少年の良い所や悪い所を何度も見てきた。

 最初はあまり好かなかったが、それでも今では少なからず好感が持てる少年だった。

 そんな彼が、自分達のファンクラブというよく分からない連中に狙われている。

 一緒に昼食を取って、一緒に話していた、たったそれだけの理由で。

 いつも真っ直ぐな彼女に、そんな馬鹿げた事を納得出来る筈が無いのだ。

 

「その気持ちは分かります。しかし、既に奴等は動いているのです」

 

 掴み掛かられながらも、信也はアリサを真っ直ぐに見返している。

 その事実を、目の前の少女に認識させる為に。

 今更どうこう言おうと、もう彼等は動いてしまったのだ。

 聡明な彼女が、それを理解出来ていない訳が無い。

 改めて事実を認識したアリサは、悔しく歯噛みしながらも、震える腕の力を抜いて信也を解放した。

 

「もう止まりません。奴等は瑞代を潰す為に、それなりの戦力を出していますからね」

「だったら、どうすれば良いの?」

 

 確かに先程の様子を見れば、信也の言う事も間違い無いだろう。

 しかしだからといって、それを見過ごす事は彼女達には出来なかった。

 聖は、彼女達にとっては友達なのだ。

 友達のピンチに何か出来る事は無いのか?

 彼女達にとって、そう考えるのは当然だった。

 少年はふむ、と顎に手を添えて少々考えると、呟くように答えを返した。

 

「来て下さい」

 

 信也は踵を返すと、そのまま廊下を歩き出す。

 何かあるのだろう、そう悟った彼女達は数秒遅れて彼の後に続いていった。

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた先は、とある空き教室だった。

 クラス教室からかけ離れた、生徒が寄り付く事も無いであろう場所。

 位置的な問題もあるだろうが、それ以上にこの先から発せられる異様な気配が、近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 だが信也にとって、そんなものは在って無いようなものであり、寧ろ大変好ましいモノである事は言うまでもない。

 ポケットから鍵を取り出し鍵穴に差し込み、ガチャリと開錠音の後に、彼はそのままドアを開けて中に入っていった。

 後ろで待っていた5人もそれに倣い、気圧されながらも恐る恐る魔窟(きょうしつ)へと歩を進めた。

 

「うわぁ……」

 

 先頭に居たなのはは、目の前に広がる光景に感嘆の声を漏らした。

 それは後ろの4人も同様で、先程までの異様に気に掛ける事も無く、室内を物珍しそうに見回している。

 彼女達の目に飛び込んだ光景、それは十数台に及ぶディスプレイの塊。

 接続されているコードは蛇の如く、幾重にも床を這っている。

 何故空き教室にこのような状況が存在するのかという当たり前の理由よりも、この異界に思考の大半を奪われた。

 そんな中、信也は複数あるディスプレイから、1つの電源スイッチを入れる。

 反転する画面、そこに映されたのは……

 

「屋上?」

 

 彼女達がいつも昼食を取る場所である屋上だった。

 しかも画面には、屋上全体が映っている。

 まるで、屋上の端にある金網から見ているかのように。

 

「此処は俺の作戦室、学校にある監視カメラ+αを統括するスペースですよ」

「これ全部、監視カメラなの!?」

 

 なのはの驚きに「如何にも……」と答える少年。

 

「聖祥に何が起きても対処出来るよう、俺が独力で作り上げた産物」

「これ、1人でやったんか……」

 

 この全てが、目の前の少年が作り上げた異界。

 それをサラッと述べてしまう辺り、やはりこの男は尋常ではない。

 思わず呟いてしまったはやてのそれには、呆れと驚きの入り混じった微妙なモノが含まれていた。

 

「まぁ本当は別の目的があるのですが……。それよりも画面を見て下さい、そろそろ来ます」

「来ますって誰が……」

 

 映し出された屋上、それに視線を向けるよう促す信也。

 しかし、この状況に呆気に取られている彼女達は、もう何をすれば良いのやら状態。

 アリサが言葉を続けようとするが、ディスプレイに視線を向けた瞬間、二の句は続かなかった。

 乱暴に開けられた屋上のドア、そしてそれを行った張本人は――

 

「聖!!」

 

 現在進行形で追われている身の少年だった。

 フェイトが呼び掛けるように声を発するが、画面越しでは声は伝わる筈も無く。

 聖はそのまま、屋上の最奥であるカメラの手前までやってきていた。

 その行動は既に、逃げる事を諦めた姿。

 追跡者達への降伏を表していた。

 

「屋上に来たら、もう逃げられないんじゃ……」

「そ、そうよ。何で屋上に来ちゃうのよ!!」

 

 すずかとアリサだけでなく、他の3人も彼の行動の意図を図りかねている。

 相手が大人数である事は、此処に来る前に彼女達は目撃済みだ。

 そんな相手が閉鎖された空間に集まれば、あっと言う間に包囲されてしまう。

 絶体絶命、5人の頭にはそれだけが浮かんだ。

 

「……行かなくちゃ」

 

 友人の窮地を目撃してしまった以上、最早居ても立ってもいられない。

 弾かれたように、少女達は駆け出した。

 だが――

 

「何処へ行くんですか?」

 

 この部屋の製作者の声により、それは容易く阻まれる事となる。

 唯の呟き、それ以上でもそれ以下でもない筈の一言が、異様に重く感じた。

 しかし、此処で止まる訳にはいかない。

 

「聖君を助けないと!!」

「こんなの、放っておいたらアカン!!」

 

 友達を助けたい、その純粋な想いだけが彼女達を突き動かしている。

 この状況を黙って見ている事など出来ない、出来る何かで彼を助けたい。

 5人の心には、唯それだけが強く刻まれていた。

 それでも、その想いは届かない。

 そんなものに興味は無いとでも言うかのように、高杉信也は至って冷静に、ディスプレイを見詰めていた。

 

「なるほど。ですが、それは失策でしょう」

「どう言う事よ、アイツはアンタにとっても友達じゃないの!?」

 

 自分達を邪魔する者は、何処までも冷徹で、あまりにも非情だった。

 長い付き合いである筈のこの少年の態度に、アリサに言い様の無い怒りが灯る。

 彼は友人を見捨てようとしてるのだろうか?

 そう思わずには居られず、そしてそれを許す訳にもいかない。

 怒りの矛先である彼は、未だディスプレイから視線を外さず、依然として冷静な姿勢を崩さない。

 

「今回、巻き込まれたのは瑞代です。つまり、それを対処する権利を持つのも瑞代だけ。アイツはたった1人で、彼等を処さなければならない」

「そんな……。いくらなんでも、それは酷すぎや!!」

「それに、貴女達が行っても何一つ変わりません。アイツは、他人から助けを請う人間ではありませんからね」

 

 淡々と述べるその姿、それでもその口から出てくる言葉には言い知れぬ重みがあった。

 今まで7年間、瑞代聖という少年を見てきた彼だからこそ言える台詞。

 

「たとえ貴女達があの場に行っても、アイツは『邪魔だから出ていけ』と言うだけでしょう」

「それでも、1人であんな大人数を相手にするのは無理だよ」

 

 フェイトの言う事は最もだ。

 相手は10人はくだらない生徒に対して、聖はたった独り。

 どちらに分があるかなど、目に見えているし考えるまでも無い。

 なればこそ、少女達は動かなければならない。

 自分達で止められずとも、この学校に居る教師達ならば止められる筈だ。

 職員室に急いで行って事情を説明すれば、この騒動もすぐさま治まるだろう。

 だが信也の考えは、彼女達とは別の方向に向いていた。

 

「ふむ……もしかして貴女達は、とんでもない勘違いをしていませんか?」

「勘違いって、どういう意味よ?」

 

 突然の指摘、勘違いと言われアリサが問い返した。

 そこで漸く、信也はディスプレイから視線を外し、彼女達に目を向けた。

 その表情に焦りは微塵も感じられず、逆に余裕そのものを形成している。

 まるで、始めから心配するものは何も無い、とでも言うかのように。

 

「確かに常識的に考えれば、あれだけの人数をアイツが捌けるとは思えないでしょうね」

「そうでしょ、だったら!!」

「ですが常識的に考えなければいいだけの話です。今回のケースは、喧嘩のようなものですから」

 

 さも当前のように彼は言葉を紡ぐ。

 まるでこの先の結末を、既に知っているかのように。

 

「試合ではなく喧嘩なら、ルールなんてものは存在しない。ルール無用というフィールドは、『瑞代にとっての専売特許』と言っても過言ではありません」

 

 此処に居る誰よりも、瑞代聖という少年が正真正銘の『負けず嫌い』である事を知っている。

 負ける事を極端に嫌い、必要に迫られれば卑怯と呼ばれる事をも平気で行う。

 全ては家族を守る為に、あらゆる全てに負けないという、彼自身の誓いによるもの。

 体が動くのであれば痛みなど厭わない、片腕が折れようと逆の腕で勝利を掴む。

 13歳の身にしては余りにも重いその枷を、彼は当然のように背負っているのだ。

 

 今回のような、至極くだらない状況であってもそれは変わらない。

 否、そのくだらなさに自らの誓いを穢されぬ為にも、尚更負ける事は許されない。

 彼の過去や立場を知らない彼女達では知り得ないそれを、他の誰よりも理解している。

 故に、高杉信也はその結論は当然のように導き出せていた。

 

「瑞代が立ち向かうという事は、既に勝負は見えている。貴女達がすべき事は、助けに行く事ではなく、此処で全てを見届ける事だけですよ」

 

 誰も何も言えなかった。

 目の前の少年の告げた言葉が、迷いも淀みも無いその言葉が、あまりにも期待に満ちていたから。

 彼は友人を見捨てようとしているのではなく、その友人の意志を誰よりも尊重していた。

 なら、自分達に出来る事は1つ。

 ディスプレイ越しに映る少年の姿を、真っ直ぐに見守る事だけ。

 彼女達が留まる事を決めたのと、屋上のドアから男子達が傾れ込んで来たのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

~Interlude out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 対峙するのは、両手では足りない数の集団。

 その全員が『俺を潰す』という目的の下、決起し行動を起こしている。

 ハラオウン達の指示だというなら、幾らでも殴られて構わないし、納得と理解の下でアイツ等に2度と近付かないと決める。

 だがこの馬鹿共は自分達の独断で、自分達に都合の悪い芽を潰す為に行動を起こしている。

 ったく、コイツ等は学校に何しに来てんだよ……。

 最初はコイツ等をどうやり込めるかを逃走中に思考を巡らせていたが、今は既にその気も失せた。

 というか相手の事を考える必要性なんて、そもそも皆無なのだ。

 あまりに変な状況に放り込まれてしまい、気付くのがかなり遅くなってしまったが。

 

「漸く追い詰めたぞ、瑞代聖!!」

「うっさい、騒ぐな」

 

 取り敢えず、目の前に居る鬱陶しいリーダー格に無意味に口撃をしてみる。

 つーか、この馬鹿共は俺を追い詰めたと思っているらしい。

 どう考えればそのような結論に至るか疑問だが、それが間違っている事だけは確かだ。

 まぁこんな事を平気でする輩だ、頭の中のお花畑に蛆が集っていても不思議じゃない。

 そんな奴等を視界に収めつつ、俺は次の行動の為の準備を始める。

 これから行われるのは、恐らくそれなりの大立ち回り。

 動き辛さを和らげる為にブレザーのボタンを、ネクタイを解いてワイシャツの第一ボタンを外す。

 

「今までの行いを振り返り、後悔するがいい」

 

 まるで判決を下す神にでもなったような口振りで、奴は俺に指を突きつける。

 明らかに人を見下したかのような行為、俺の理性の止め具を外すには充分だ。

 その態度が気に食わない、その言葉が癪に障る。

 ……もう、限界だった。

 

「悔い改めろ。そして、彼女達に2度と近付――」

「黙ってろド阿呆」

 

 これ以上コイツの言葉を聴くのも、その姿を見るのも精神衛生上宜しくない。

 それに自分の考えを、自分の行動を、アンタ如きに決められるなんて真っ平御免だ。

 そして何よりも……

 

「確かにアイツ等に出会ってから、色々と面倒な事が起きて、正直言ってウンザリだ」

 

 最近は特にソレが顕著だ。

 アイツ等の言動に振り回されたり、不必要に戸惑ったり……。

 どうしてそんな事になるのか、自分でも分からない。

 

「思い出したくも無い事を思い出す破目になるし……」

 

 4年経っても、色褪せない苦い想い出。

 ガキだった頃の俺が涙した、あの日。

 そして

 

『僕はもう信じないよ。――だけは、絶対に』

 

 とても幼く、とても拙い、そんな誓いを立てた事。

 何よりも忘れたかった筈なのに、現実は、アイツ等は否応無く俺に突きつける。

 ――――しかし、それでも

 

「それでも、俺は……」

 

 アイツ等の周りには、笑顔が絶え間無く溢れていた。

 時折、嫌になった事も確かにあったけれど……。

 それでもすぐに、その場所に落ち着く自分が居た。

 それは間違い無く、自分自身の意志で。

 彼女達の傍に居るのは自分で決めた事だった。

 だから第三者から何と言われようと、これだけは譲れない。

 

「アイツ等に出会った事を後悔するなんて、絶対にしない」

 

 自分がやってきた事は、過ごしてきた『今まで』は間違っていない。

 アイツ等との出会い、交わした言葉、共有してきた時間、それは決して後悔の種にはなり得ないと。

 俺の心からの言葉を、目の前に居る馬鹿共に言い放った。

 ……本人達には、絶対に言えない事だけどな!!

 

「ならば、減らず口を叩けなくしてやる!!」

『うおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 その合図と共にリーダー格を除く全員が、俺に向かって迫り来る。

 距離はおよそ20メートル、到達時間は約3、4秒。

 すぐさまブレザーを脱ぎ、視界を埋める群体と相対す。

 問答無用か、上等だ……。

 

「師父、我が愚行をお許し下さい」

 

 これから始まるものは歴とした正当防衛、故にあちら側は文句を言う立場に無い。

 だとしても、何でも力で捻じ伏せるなんて真似は善しとは言えない。

 師父とかつて、『何でも力に頼らない』と誓った。

 それを出来る限り破りたくないけど、この状況がそれを許してはくれない。

 この呟きは、この場に居ない男性に向けての謝罪。

 

 ――――よし、やってやる。

 覚悟を決め軽く腰を落とすと、最初に迫ってきた男子達が拳を振るってきた。

 

「遅過ぎだっての」

 

 しかし悲しいかな、その攻撃は素人故のノロマな打突。

 横へ一歩体をずらすと同時、過ぎ去る無防備な生徒に当身を喰らわす。

 真横から突然の質量に転げるように吹っ飛び、他数名を巻き込んで盛大に倒れた。

 

「……」

 

 みっともない惨状に目もくれず、俺は既に次の行動へ移っていた。

 集団の横位置を取った現状、最も有効な手段は……。

 

「片方か」

 

 疾走を開始した途端、更に迫る1人、接近に伴う減速に合わせて脇腹にカウンターの掌底を一撃。

 情けない呻き声を洩らすソイツを押し出して、更に前へ――――。

 

 とは言え、人数差から楽にはいかない。

 次の相手の視界をブレザーで塞ぎ、もう1人は体を沈めて掻い潜り、更にその次は足払い、ついでに近付いてきたヤツには腹にタックルをかましてやる。

 多数の敵に対して先手は打たせない、手早く潰して最小にて最大を得る。

 集団のサイドを取ったのは、『余計な相手を増やさない』という最も状況に適した戦法だ。

 

 そこまですれば、流石に見えた。

 一人動かず、余裕の見物を決め込んでいたリーダー格の馬鹿野郎への道が。

 俺の目の前に、一直線に出来上がっていた。

 

「さぁて――」

 

 そのレールを、俺は真っ直ぐに駆け抜ける。

 棒立ちのヤツは今になって、俺の接近に対し畏怖を見せている。

 一歩後退り――――させない!

 こんな面倒を吹っ掛け、コッチの神経を逆撫でし続け、あまつさえハラオウン達の存在を名目に使った途方も無い愚か者。

 その報いを今、此処で!!

 

「痛い目見ろよ」

 

 逃げ出す間も与えず、ヤツを間合いに収めた。

 狙うは一点、正中線を通る男の弱点。

 そこを一気に――――

 

「はぁっ!!」

 

 ――――蹴り上げる!!

 

「ひぎっ!?」

 

 あまりの突然の襲撃に避ける事もままならず、ソレは俺の蹴りを難なく受け入れた。

 耳を劈く程の悲鳴は、激痛が走った証。

 まぁ、象徴にして弱点である『金』を蹴り上げられたのだから仕方ない。

 堪らず股間を押さえて蹲るその様子は、しかしとても滑稽だった。

 

「自業自得だ」

 

 痛みに打ち震え這いずり回る男に、慈悲の欠片も無く吐き捨てる。

 そもそもの発端がコイツなのだから、此方としては正当防衛に他ならない。

 恨むのは筋違いってものだ…………と、今は思っておく。

 

「この位でいいか」

 

 それなりの痛手を受けた後続の足取りは重い。

 まぁ、目の前で容赦無い金的を見れば日和りもするか。

 軟弱である事には変わりないけどさ。

 そんな弱腰の奴等を振り切り、俺は更に前へと進む。

 

「に、逃げるのかっ!?」

「誰が……」

 

 背後からの戯言が耳に入る。

 この状況を鑑みての発言としては意味不明だが、律儀に返すのも面倒だ。

 その言葉を無視して、屋上の出入り口、その上へと駆け上がる。

 学校に必ずある給水タンクが設置されているそこは、数人は座れるスペースを確保していた。

 俺はそこに立つと、眼下に居る奴等へと視線を向ける。

 

「まぁ、大事には至っていないか」

 

 そもそも単に捌いただけなんだから、大した怪我をしてる方がおかしい。

 当然と言えば当然だ。

 ……男としての重傷者は居るけど、知った事ではない。

 残る彼等の表情には先程とは打って変わって、恐怖と憎悪らしきものが混じり合った微妙なものが張り付けられていた。

 ったく、今更怯える位なら最初からやるなっての……。

 対追撃用に上ったが、この様子じゃ意味は無かったな。

 上ってきたら手を全力で踏んずけてやろうと思ったが、今は胸中に秘めておこう。

 今日だけで溜まりに溜まった鬱憤を晴らせなかった俺は、一息吐いて眼下の集団に声を掛けた。

 

「おい、お前等」

「は、はひ!?」

 

 何故に声がそこまで上擦る?

 しかも変な返事だし、かなり取り乱してるみたいだ。

 まぁいいや、戦意を失っている間に言う事言わないと。

 

「まだ抵抗する気なら、お前等全員そこで蹲ってる奴と同じ目に遭うぞ」

 

 と、先程股間を蹴り上げられ、ピクピクと震えている男を指差す。

 全員がソイツを見ると、すぐさまこっちに向かって首を横に振ってきた。

 それはもう、首が飛んでいくのではと思うレベルでだ。

 だが、この様子ならもう脅威足り得ないだろう。

 

「だったら、お前等のファンクラブの活動を全面的に停止。そしてすぐに解散しろ」

『えぇ!?』

 

 此方の提案は今言った通り。

 俺はこれまで通り、5人と同じように接していくつもりだ。

 だから、その存在が問題となるコイツ等をさっさと止める必要がある。

 何より本人達に迷惑を掛けるファンクラブなんて、存在する価値も無い。

 だがこの提案には、どうも歯切れが悪い。

 奴等にも、一応の矜持というものがあるのだろう。

 まぁそんなの知った事じゃないので、未だに蹲る奴を再度指差す。

 

『う、うぅ……』

 

 当然のように全員が呻く、そして更に一押し。

 

「解体しろ、そして2度と俺達に関わるな!!」

『は、はいっ!!』

 

 少し凄みを利かせようと声を張り上げたら、どもりながらも了承した。

 敬礼までオマケで付いてきたが、それは流石に要らんだろ。

 取り敢えず、これでアイツ等のファンクラブも消え去った訳だ。

 俺に対する報復行為を行う連中も現れないだろうし、これにて決着って所か。

 うん、終わり良ければ全て良しだな。

 でも、何か忘れてるような……

 

「あっ、アレかぁ……」

 

 そこでやっと忘れていた事柄を思い出した。

 俺が郊外に逃げた時用に待ち伏せしてる奴等、その存在を……。

 どうする、相手をするのも面倒だからさっさとご退場願いたいんだが。

 そもそも居るのかどうかも確かめてないが、居そうだよなぁ。

 仕方ない、こういう時はアイツの情報力を頼るか。

 ポケットに入っている、とあるブツを手に取る。

 掌サイズの携帯端末、少し前の型番だが勿論タッチパネル対応。

 中学校に入学したお祝い、そして緊急用の連絡手段として師父から貰った物だ。

 片手で軽く操作しながら、アドレス帳からとある奴の番号を掛ける。

 

『どうした?』

「高杉、悪いんだが校門前と校舎周りに居る変人共を探してくれ」

 

 何度目かの発信音の末、高杉信也は此方の応答に対応した。

 そう、この状況ではコイツの情報収集力が非常に重要となる。

 何せその実力は、ハッキリ言って尋常ではないという言葉だけでは伝え切れない。

 昔、たった1日でクラスメイト10人の1日のタイムスケジュールを、分単位でメモ帳に記す程の奴だったからな。

 子供心ながら、一体どうやったのだろうと考え込んだのを憶えている。

 まぁそんな事はどうでもよくて、問題はコイツがそれを把握出来るかどうかだが……。

 

『ほぼ把握した。校門前には5人、昇降口には3人が潜んでるな。他にも、グラウンドから監視してる奴が合計で10人だ』

「18人か……」

『他の奴等は、部活に参加していて今回の作戦には合流していない』

 

 そりゃそうか、100人以上って言ってたし。

 だからと言って、全員来た所で屈するつもりは毛頭無いけどな。

 

「ありがとな、助かった」

『フッ、気にするな』

 

 簡単に礼を言うと、高杉も簡単に返す。

 長ったらしいやり取りなんて俺達には不要、これだけで充分だ。

 用事を終えた俺は携帯を切り、ポケットに再び仕舞う。

 と、いつまでも高い場所に居るのも何か変な気分だ。

 

「ほっ、と……」

 

 そこから軽く飛び降りて、未だに畏怖の視線で俺を見る奴等に向く。

 視線がぶつかった瞬間、そこに居た全員がビクついたのが分かる。

 何か、悪名高い不良になった気分だ。

 

「それとお前等に言っておく」

『はい!?』

 

 だからビクつくの止めろ、話が上手く進まないだろうが。

 目の前の肝っ玉の小さい男衆に呆れ、はぁ……と溜息を吐いてしまう。

 

「お前等がどう思おうと、あの5人は特別な人間でもなんでもない」

 

 コイツ等が彼女達を神格化する理由が、分からない訳ではない。

 確かにあの5人は、他の女子と比べても飛び抜けて可愛い容姿をしている。

 性格は様々だが、それでも嫌いになれる奴なんて1人も居なかった。

 普通なら学園のアイドルと崇められてもおかしくないだろう。

 それでも一緒に居ると……いや、一緒に居るからこそ分かる事もある。

 

「アイツ等は何処にでも居る、普通の女の子なんだよ」

 

 彼女達に特別な所なんて無い。

 話す内容も、普段の仕種も、着飾ったモノは一切無い。

 だから、俺だって普通に接する事が出来るのだ。

 目の前に居る男衆は、遠くから見る事しかしなかったから気付けなかった。

 それに、何よりも……

 

「そして、俺の友人だ」

 

 前に士郎さんには『知り合い』とだけ伝えた。

 まだ付き合いが浅かったのが第一だけど、きっとそれだけじゃなかった。

 本人達が隣に居た事による、無意識的な恥ずかしさ。

 それを知られたくなくて、気付かれたくなくて、あぁ言って誤魔化した。

 バニングスの言う通り、俺もまだまだ子供なんだと思い知らされる。

 しかし今は誰も居ない。

 そんな今だからこそ、飾らず偽らない本心を。

 自分の口から、それを言いたかった。

 

「それだけだ」

 

 伝えるべき事は伝えた。

 口を噤んで、俺は屋上から立ち去る。

 本当にアイツ等が居なくて良かった。

 居たら多分、恥ずかしさで焼け死ぬに決まってる。

 割と間違っていないであろうそんな想像が、俺の脳裏を過ぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

~Interlude~

 

 

 事の全てを見終えた6人は、何も発せずに居た。

 いや……発せなかったのはその中の5人で、1人だけはただ黙っているだけだ。

 しかし、その静寂の中で、黙っていた少年が口を開いた。

 

「さて、俺は事後処理に行くので」

 

 彼は徐に立ち上がると、そのまま部屋から出ていった。

 残された5人の少女に目を向ける事無く、彼は自らの仕事へ向かったのだ。

 先程の電話越しの会話から、その内容は大体察せる。

 そして残されたのは、重苦しい沈黙の空間。

 だが彼女達の表情は、その空気にはとても似合わないものだった。

 詰まる所、薄っすらとだが笑みが浮かんでいたのだ。

 

「友人だって……」

「うん、言ってたね」

 

 先程の画面越しの言葉を思い出し、反芻するなのは。

 それに答えるフェイトの声には、その事実に対する嬉しさが見え隠れしている。

 自分達を友人と言ってくれた。

 今までは『知り合い』で通していた彼が、ハッキリ『友人』と言い放ったのだ。

 

「うーん、なんやくすぐったいなぁ」

「不意打ちだよね」

「全く、何考えてんのよアイツ」

 

 似たような反応をするはやてとすずか。

 ただ1人悪態を吐いているアリサも、表情から恥ずかしさは抜けていない。

 何とも言えない場の空気に、彼女達は困ったような笑いをするしかなかった。

 薄っすらと、それでいて恥ずかしげなそれは、この無機質に溢れた教室の中で活き活きとしていた。

 花壇に咲く、可憐な花達のように……。

 

 

 

 




~キレてはいけない聖祥大付属中24時~
(宇宙人の格好をした高杉登場)
「ミズシロ マイ ホビー」
「誰がテメェの玩具だぁぁぁ!!」
デデーン 瑞代 OUT
\スパーン!!/\ウボアァァァ!!/

どうも、おはこんばんちはです( ・ω・)ノシ
№Ⅷをお読み下さってありがとうございます。
忘れてました、この回がMVPの話だった事を。
聖祥は良い学校です、共学の所為でハッチャケる生徒が多いだけだと補完して下さい。
それと聖は基本的に喧嘩では『金的目潰し何でもアリ』が信条なので、卑怯だとか知った事ではありません。

今回の話はとてもハイだったので、次話は落ち着いた話となります。
いやだって、あんなのが毎日来たら聖も精根尽き果てますから(;・ω・)
ついでに言うと、初登場となる原作キャラが出ます。

今回は以上となります。
感想や意見、上記のタグ関連やその他諸々は遠慮無くドシドシ書き込んで下さい。
直接メッセージでも、作者的にウェルカムです。
では、失礼します( ・ω・)ノシ
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