やはり俺の恋慕はまちがっている。 作:真園(しんえん)
読み返したら以外に面白かったので未完ですが投稿してみる
設定が無茶苦茶錯綜したのとオリジナル展開の多さから途中で諦めた(あとがき参照)
「……す、好きよ──結婚を前提につ、付き合ってくれないかしら」
頬を赤らめてそう言い淀む彼女は可愛く、同時に俺は摩訶不思議な気分になった。何故なら俺は彼女を知ってるが、彼女は俺を全然知らないはずであって。
告白されたのは嬉しい。いや、嬉しいなんて言葉を使うのも陳腐に思えてしまう程には俺の心中では感情の氾濫が起きていた。当たり前だ──何せ俺はそういう風にこの一年生きてきたのだから。
しかし残った理性がその莫大な勢いを持った濁流に抗う。脳内に浮かんだ凝り、それは彼女は俺を知らないということ。まさか一目惚れ、なんてことはあるまい。自分でも自身の容姿は分かっているつもりだ、それに彼女の性格的にもそんな事はあり得ない。
彼女は冗談や酔狂で告白する人間性では無いのは何となく分かっていた。だが俺の矜持は快く応えようとする感情を阻む──本当にそれでいいのかと。
俺が彼女の気持ちを慮れる、なんて傲慢な思考は無いにしても。やはり告白される謂れが無いのに引っ掛かってしまうのは仕方のないことだろう。
──────だからこそ、俺がこの一年を振り返るのは至極自然な流れだった。
──────────────────────
それは桜散る暖かな入学式の事だった。
「そんじゃ小町、そろそろ行くから」
「いってらっしゃ~い」
気の抜けるような妹の声をバックに俺は自転車に跨る。新品の制服はぴっしりと張っていて、妙にこそばゆい。まあそれも新しい学校に通うということだろう、慣れ親しんだ自転車だけは俺に寄り添って前へ前へと進んでいく。
今日から通うことになる総武高校は県内でもかなり上位の学校である。特徴として普通科の他に国際教養科があることが上げられるが、普通科以上に難易度が高くなっておりクラスには秀才が集まっているらしい。まあ入学すら未だしていないので噂程度にしか知らないが。それ以前に普通科の俺には何一つ関係のない話だったりもする、と言ってもそれ以外に特徴を挙げる事が出来ないのでそういう話になると必然的に話題に上るのだからしょうがない。
優秀ながら平凡な公立高校、そんな詰まらない評価が世間一般な受験生の見解であるし、それは俺自身も思っている事なのである。
自転車を漕ぐと、高校には程なくして着いた。家から20分、チャリ通学として上々の距離だ。
校門を潜ると、予め予習していた通りに駐輪場の場所に自転車を止める。こんな詮無き行為でも新しい環環境となると新鮮味があるというのは不思議なものだ。
見慣れぬ人の波に乗って、教室へと向かう。既にクラスは事前ガイダンスで発表されているのでその足取りはスムーズだ。例えるならやり込んだ脱出ゲームみたいにスイスイ進む、答えを知ってれば5分で終わるまである。ただ楽しくないのが難点だったりする。
そうして自由席となっていた教室で一番隅っこの席を確保し、来ていたほぼ全員が無言という非常に億劫な時間を無味に潰していると教師が入ってきた。入学式らしい。……面倒だな。
入学式なんて学校側の自己満足の象徴である。学外の人間に「今年も云人の生徒が入って桜がその様子を祝福しました〜」みたいな詰まらん言葉を永遠と紡ぐだけだ。言わば対外に真面目にやってますよ〜とアピールする使い古された古典的な手法である。それならさっさと帰って昨日の深夜アニメを見ていた方がよっぽど有意義に過ごせるというものである。
仕方なく入学式の執り行われる体育館に向かうと、そこは人で溢れていた。当たり前だが。一応物珍しさから見回してはみたが、知ってる人間は一人もいない。まあ俺の中学校からは総武高受かったのは5人も居ないって話だしな、当然だ。そもそも同郷がいないのは分かりきっていたことで、それがここを受験した理由の一つだったりもする。
入学式が始まると、早速流れたのは吹奏楽部が演奏する校歌だ。……校歌、だと思う。全く知らんけど。
てか何これ、歌わなきゃならんの?入学初日で?思わず先程回ってきた歌詞カードを見てみる。これは至極普通のことなのだが、音楽に疎い俺には音の高低もリズムもさっぱり分からない。精々時間をかければ音符の階数が読めるぐらいだ。周囲の大部分もそうだろう、始まってみれば口パクの大合唱である。大部分の在校生のいない、ほぼ新入生のみのこの入学式で歌を牽引できる存在は吹奏楽部の合唱団のみ。俺含め他の生徒はそれに頼って歌ってるフリをして口を上下左右に開く。
意味の分からない校歌斉唱は三分ほどで終わりを告げる。徐ろに歌詞カードを見てみると、裏面には入学式のプログラムも書いてあった。次はどうやら在校生代表による祝辞らしい。雪ノ下陽乃なる人物が行うようだ……生徒会長なのだろうか?
なんて考えている間にも教師はその工程を宣言し、雪ノ下陽乃は壇上へと上る。俺はその様子を見やる。
──これは関わりたくない人種だな、と失礼な事を一瞥して俺は思った。
容姿の問題ではない。寧ろ容姿はとても優れている方だ。努めて柔和に保った端正な顔、服越しからでも分かる理想的な身体。学校一のマドンナ、などと言う表現は流石に一時代古い気もするが、そんな風に持て囃されているだろう事には容易に想像が付く容姿だ。
しかしどうにも解せないのはその表情。新入生へと笑顔で小さく手を振り、舞台袖にいる教師にそれを注意されているその様子からは一見天然なのか、飄々としているのかのどちらかに見える。だが実態は違う、不思議とそう感じた。それは俺が一般的とは自分でも言えない感性を持っているからだろうか。何だろうか、この拭い切れない違和感は。──そうだ、仮面。しかもそれは強固なオリハルコンで出来た鉄仮面。それを被って今この場で祝辞を送っているように見える。あれは八幡調べによれば間違いなく腹に一物持ってる、さながら狸の親分だ。うん、関わりたくない。俺は早速入学後の方針を一つ固めた。
にしてもまあ、彼女から贈られる言葉は無難であるし、特筆すべき内容も無い。所詮テンプレ祝辞だ。しかし最後の言葉は妙に頭に残った。
「新入生の皆さん、充実した良い三年間を送れることを改めて心より祈っております。──まあ頑張ってね〜」
それまで単調な言葉だったのが唐突にフランクに変わる瞬間。それは何故だか特定の人物に向かって言った気がした。……何だか無駄に謎が残った祝辞だったな。
気を取り直して次のプログラムを見れば新入生答辞。そりゃそうか、祝辞をしたら答辞をやるのが古今東西のトレンドである。
しかし俺は新入生代表の名前を見て、唖然とする。知ってる人間の名前ではないが、知った人間のそれではある。
──雪ノ下雪乃。雪ノ下、と言えば先程の祝辞を述べた先輩の名字だ。雪ノ下という名字はそこまでポピュラーなものではないはずである、ともすればまさか姉妹で祝辞と答辞を任されたのだろうか。特に、新入生答辞なんて任されるのは入試成績最優秀者だろうに……姉妹揃って完璧かよ。俺にもその遺伝子、一対くらい分けて欲しいまである。
徐々に込み上げてくる眠気を殺しつつも俺は視線を上げた。雪ノ下陽乃の妹とはどんな人間だろうか、いやまあある程度の予測は付くけど。何なら金髪で遊び慣れた感じの人間がここで出てきたら驚嘆するが。
──そうして眠い眼を無理矢理こじ開けた俺の前に現れた雪ノ下雪乃に、俺は視線が釘付けになる。
壇上に上がった雪ノ下雪乃は雪ノ下陽乃と同じく端麗な顔付き。だがそれは姉とは違いどこか冷たさを感じる風貌で、受ける印象は全く異なる。そう、例えるなら名前と同じく雪。誰にも踏み荒らされず、深々と平らに積もった新雪の如き相貌。黒曜石のような長い髪は舞台背後にあるシーリングライトに照らされると星を思わせる煌めきを放ち、プロポーションこそ姉より乏しいものの俺はその慎ましやかな雰囲気に呑み込まれていた。
字句を読み上げる雪ノ下はまるで御伽の国の若いプリンセスのようで、浮かぶ言葉は全て小雪と化して天より降り注ぐ。それは正しく見るものを魅了する魔法の祝詞。……いや、言葉を濁すのは止めだ。
単刀直入に言えば、俺は雪ノ下雪乃に一目惚れしてしまった。それは俺自身思いもしなかった、二度と無いだろうと考えてたこの人生二度目の恋だ。
一度目は優しくされたところを俺が勘違いして、告白。何一つ良いこともなく振られ、霧散無消となった。全ては俺の人生経験の無さが原因だった。加えて異性との交友経験の足らなさも一つの要因だったのだろう。未だ思い返せば痛々しい記憶しか蘇らないが、裏を返せば反省点満載の最早フルコースだ。アプローチのどれもこれもが落第点、と言うかまず相手が俺のことを好きという前提で告白している時点でアプローチもクソもあったもんじゃない。まだ動物の方が賢い振舞いをしてるまである。
そして今日。想像し得なかった、自分でも未だ信じ切れず全身を駆け巡る電流のような衝動だけが残留している巡り合わせ。チリチリと思考回路を妨害するかのような抵抗力、……恋と断じても間違いではない。しかも俺の嫌っていた一目惚れってやつをしてしまったのだ。
かくして、それからは思うように手の動かない日々が始まる事となった。何かを考えようとしても、ふとしたタイミングで雪ノ下雪乃へと思考が移ろってしまう。目を閉じればあの答辞が勝手に夢想されてしまう。まるで洗脳のようだ──そう思ってしまうのも仕方のないことかもしれない。
5月下旬。
気が付けばそんな時季で、中間テスト直前だった。文高理低の俺の成績は高校に入って以降も変わらず、特に数学に関しては人並み以下の水準を保っていた。何ともまあ、中学時代は人より出来たのだが……進学校に入るとはこういうことなのだろう。進学校に入れるのは落ちこぼれになる覚悟のあるやつだけだ!
とまあそれはそれとして。その頃にもなれば雪ノ下雪乃について、俺は一種の決意を固めていた。
それは、まずは友達になることである。恋人云々以前に、知人でなければスタートダッシュすら行うことが出来ない。それに俺が雪ノ下雪乃に抱くこの感情は間違いなく彼女に俺が押し付けてる理想を根拠にしたものだ。感情が本物でも、ベクトルが歪んでいるのだ。その為にも等身大の雪ノ下雪乃という同級生を正しく理解する必要がある。恋愛にしてはどこか遠回りな気もするが、それが俺のやり方だろうからもう舵は戻せないのだ。
そんな訳で。
一ヶ月かけて俺は雪ノ下雪乃についての情報も地道に集めていた。万年友達のいない俺が人脈を作ってまで集めたのである……人脈といっても一人だけだけども。0から1はかなり進展してるし、ね?
些事は置いておいて、まずクラスについて。雪ノ下雪乃は我が総武高校が誇る国際教養科所属だった。絶望案件だ。何せ普通科と国際教養科が混じることは基本的に無い、交じるとしても精々部活動くらいで。聞くとこによれば部活動にも入ってないらしい。──いやホント、どうすりゃいいんだよ。窓口一つもないじゃん。ちょっと矢倉固め過ぎでしょ。攻め入る隙が無いんだけど。
雪ノ下雪乃個人としてはクラスでもかなり浮いた存在のようだ。あの毅然とした雰囲気を纏っていたらしょうがないかもしれない。だが孤立とは違うようで、仲良く……とまではいかないもののクラスメイトと会話をする場面はあるっぽいな。ぽいと言うのは俺が偶然確認しただけで、恣意的な見解だからだ。確実性はここには無い。
俺が集められたのは以上の情報である。少ない?馬鹿言え。幾ら校内の有名人とはいえ完全にクラス外の人間なんだ、情報ソースも限られている。
「八幡、ここ教えて欲しいんだけど」
「おう、ここはだな──」
と、聞かれたので俺は教科書を開いてその箇所を解説する。銀髪ショートヘアの天使のような天使──クラスメイトである戸塚彩加──は真剣な眼差しでノートと睨めっこを始める。
そう、戸塚だ。俺はクラスでも隣の席となった戸塚に色々とこの学校の噂を集めながらそれとなく雪ノ下についても聞き及んでいた。戸塚はテニス部に所属しているので、割と多方面から情報を知ることが出来るのだ。まあ言わば唯一の情報網である。俺の情報網細すぎ……?でも可愛いからOKです!
しかしそれじゃフェアじゃない。何せ俺が一方的に受け取る関係になってしまうのだ。それは何となく、心地が悪い。
そんなこともあって、あと本人の要望もあり俺は戸塚に勉強を教えることになったのだ。戸塚は運動部ながら学業を疎かにしてないタイプの高校生であるとは言え、苦手教科はやはり心許ないらしい。そんな戸塚の苦手分野は社会科目、国語には劣るがそれも俺のテリトリーである。中学生の時に神話図鑑やら日本の神一覧本等を読みこんだ俺の本気を舐めないでもらいたい。……完全に怪我の功名と化しているのは遺憾ではあるが。
と言う訳でテストを直近に控えた放課後、俺はこうして戸塚と共にサイゼで勉強しているのだった。
教えていて感じるが戸塚はやはり総武高校に受かるだけあって地頭は優秀だ。教えたことがスラスラと身に付いて行っているのが対面に座っているだけでも分かる。対して俺は数学をやっているのだが一向に進む余地が無い。基礎が壊滅している訳じゃないはずなのだが……定理をもう一度見直すべきか?
「八幡、ここは?」
再び戸塚の依頼により俺の手はストップ、そしてノートを見る。四択問題のようだ、ただ嫌らしい事に他の選択肢も正答の選択肢と似た内容が書かれている。しかも解釈次第では坩堝に嵌る文章で、言ってしまえば悪問とカテゴライズされる問題だろう。戸塚を困らすとかこの問題の作成者誰だよ。ネットに晒し上げて匿名で叩くまである。
問題の作者に文句を言いつつも、どうにかこうにか戸塚への解説を終える。思い返すとこうしたやり取りも高校に入る前は一度もやったことが無くて新鮮である。それと同時にこれで理解されているのかと言う不安も込み上げてくる。
「ありがとう!八幡の解説分かりやすいから勉強が捗るよ!」
──まあ、戸塚がこう言ってるなら良いか。どうやら俺の思考回路はかなり単純であるらしい。
原作との相違点
・入学式の日に事故に巻き込まれていないので入院は無し
・雪ノ下陽乃の年齢が1つ下にズレている為にまだ高校在学中
・雪ノ下陽乃が生徒会長になってます(本編では面倒だから立候補しなかった)
後々に無茶苦茶言ったりやりますこの人。
・文化祭が6月になりました(高校って秋に文化祭やらなくない?と考えてしまった作者のミス)
・原作より若干ポジティブなのは恋の力。プラス戸塚の力。
・戸塚も色々と違う(この中で一番違う)
多いです、これでも読もうと思う方本当にありがとうございます。