やはり俺の恋慕はまちがっている。 作:真園(しんえん)
この部屋に入った時と同じように教室を見渡してみれば、残ったのは俺含め4人。当たり前だが全員知らない。寧ろ知ってる人間戸塚以外いんの?と自分に尋ねたいレベルだがそれは置いとくとして。
「ここに残ってるって事は、少なくとも副委員長になってもいいかな?って程度は考えてるんだよね」
その言葉に全員がゆっくり頷く。
違うなれば先程手を挙げたはずだ、或いは挙手せずとも部屋を出たはずだ。
「おっけー。いやはや、予想より少なかったね。副委員長にはなりたくないけど手は上げたくない、みたいな子がもうちょっと多く残ってもおかしくなかったからね。僥倖僥倖!」
満足げに頷く雪ノ下先輩に、無言で立っていた平塚先生が呆れた顔でツカツカと歩み寄った。
「はぁ。こんな事になるだろうと思ってたから雪ノ下に委員長をさせたくなかったんだがな……」
「そんなこと言わないでよ、もう後は4人から選ぶだけなんだよ?絶対こっちの方が自己推薦より早いでしょ?」
平塚先生は、はぁ、と溜息を吐くと。
「分かったよ分かった。続けてくれ」
「了解、という訳で残った諸君には今からちょっと殺し合いをしてもらいます」
え?何?北野武なの?バトロワっちゃうの?
「と言うのはジョーダンだけど、近いことはしてもらうつもりだから」
そう言って雪ノ下先輩はバックを弄ると、取り出してペンで何か書き込み始めた。終えると、はいコレと丁寧にも一人一人に配り始める。
それはトランプサイズの長方形に切られた至って普通の再生紙。配布物をそのまま転用したものらしく、裏面は何時だかに配られた保健だよりがプリントされていた。
そして表面。そこにはキレイな字で「狂人」と書かれていた。
……え。待て待て、今から人狼でもしろと?
「さっき授業中に考えてたんだけど、消極的希望者から一人って一番選びにくいんだよね。だから委員長として仕事がしやすいように副委員長は有る程度頭が回って面白い人が良いかなーってさ……ん?」
ん?と雪ノ下先輩が疑問符を浮かべたのは俺と同じく残った人間の一人が手を挙げられたからだ。
「何かな。質問?」
「はい。どうして人狼ゲームなんですか?この中から副委員長を決めるだけですよね?」
「それは私が見てて面白いから」
「は?」
質問者が惚けたように、場を代表するように間抜けな声を出した。
斯く言う俺も理解出来ない。
どういう摂理なんだそれは。
「仮にはい、じゃあ君達で後は勝手に話し合って決めてねー、なんて言ったところで形式ばった会話繰り返すでしょ。しかも私が納得できる人材が来るかも微妙。不確実性が高いよね?それならエンターテイメント性を取り入れてかつ私が雇用裁量権を握れるようにした方が良いってこと、オーケー?」
「お、おーけー」
圧に押されるな!という俺の念力も虚しく質問者はギシリと着席してしまった。
「うん、理解も深まったかな。で、コレ。配ったカードにはそれぞれ人狼の役職が書かれてるよね。村人2人、人狼1人、狂人1人」
「あのー……私、人狼のルール分からないんですけど……」
「あ、それは大丈夫。やるのは正確には人狼じゃないから」
そう言って説明し始める。
「ルールは簡単。勝利条件は村人は人狼を見つけること、人狼は村人からバレないこと、狂人は人狼を守ること。まあ人狼と狂人は同じ勝利条件ってことだね」
「人狼なのに逃げるんですか?」
「真っ昼間って設定だからね。明るい内からザクザク噛む訳には行かないでしょ?言うなればワンデイ人狼って感じかな?続けるよ。村人の2人には分かってると思うけど役職の下には人狼の外見的特徴が書いて置いたから。例えば金髪で目が一重とか服が白いとかね。そこにあるのは私の独断私見、かつ偏見のある情報だから実際書かれてるのはもっとふわっとしてると思うけどそれを材料に推察すれば見つかるよ」
なるほど。
俺は狂人、即ち村人側に紛れて嘘の情報を吹きこめば良いと。人狼も同じようなムーブだろう。
ただ怖いのは誤爆だ。俺も人狼の正体を知らない、よって適当な情報を流すとそれが流れ弾となって結果的に人狼を突き止める結果になりかねない。
「話す時間は5分。人狼かどうかの投票権は村人は当然として、人狼と狂人の投票権はランダムに一票ね。偶数人狼とか普通やらないし、票が割れたら困るからごめんね?それと、1:1だと
パンッ!と雪ノ下先輩は手を打った。
5分間、人狼を守れれば俺の勝ち。単純明快だ。
しかし、何で俺はこんな事をしているのだろうか?
きっと雪ノ下先輩除くこの場に居る人間全員が共有する気持ちだろう。状況に理解が追いつかない。誰も彼もが困惑した様子で口を開こうとして、言葉を紡ぐ前に噤んでしまう。
「じゃ、じゃあ話し合いましょうか!」
まず音頭を取ったのは隣に座っていた女子生徒だ。長い黒髪をポニーテールに結んだ一見運動部っぽい女子生徒だった。暑いのかブレザーを着ず、学校指定のリボンも付けずにYシャツ一枚で、下敷きをペラペラと仰いでいる。人狼自体は分からないながらも会話を進めようとする姿勢が見えた。
「うーん、取り敢えず自己紹介からした方が良いね。僕は
チャラそうな見た目をした、茶髪の男子生徒は言った。
爽やかな青のカーディガンを羽織り、割としっかり整った髪をポリポリと掻いている。
「僕は
黒髪を眉上で整えた如何にも優等生な男子生徒は同時に頭を下げた。生真面目にブレザーはボタンを全て留め、姿勢良く座っている。この中では身長は低めで、控えめに言っても真面目で教師の好きそうな優等生だ。自己紹介でお辞儀って営業マンかよ、という感想は心の中で留めとく。偉いぞ八幡。
「私は
先程の女子生徒は言う。
さて、これは乗らなきゃ損でしょ。このビックウェーブに!
「比企谷ひゃ、八幡です……」
……あの、その「噛んだな」「噛みましたね…」「この人大丈夫でしょうか…」みたいな目付きで見るの止めてくんない?あと雪ノ下先輩も笑うの止めてください、何なのこのアウェイ感。もしかして俺が人狼なの?これ人狼虐めるゲームなの?人狼カミングアウトしちゃうよ?
優等生の……確か清川だったか、清川が冷着とした表情で口を開く。
「じゃあまずは全員、村人情報を出し合いましょうか」
「全員?」
「はい。このゲーム、人狼と狂人は勝つために村人を騙る必要があります。先程雪ノ下先輩は1人2つ情報を持っていると言っていました。つまり合計8つの情報が開示されて、半分が嘘ということになるでしょう」
「あー、なるほど!」
箱根は頭の上で電灯をピコーンと光らせた。
きっと先程のルール説明は人狼側へのバランス調整的な意味もあったのだろう。情報数が各々2つとか、外見的特徴とか、予め人狼側がブラフで出す情報の質が村人陣営と違わないように作られている。
「ではまず僕が。人狼は右利きで、身体能力は高いようです」
全員が互いの姿を確認する。
右利きなんてポピュラー過ぎて、判断が付かない。にしても、身体能力が高いってどういう事だ?
「ねえ、清川君。身体能力が高いって?」
「えっと……そうとしか書かれてないんですよね」
「これはアレかな、雪ノ下先輩が第一印象でそう見えたってことかな?」
「考察より、まずフルオープンにする方が大事なんじゃないか?」
思わず言及してしまう。こんな事してたらキリが無い。
真鶴は「それもそうだね」と頷き、次を促すように箱根へ顎で示した。
「次に私ですね!えっと、髪は黒髪、ブレザー着てる」
今度はえらく具体的だな。
条件を満たすのはこの場では俺と清川のみだ。
「これってさ、比企谷君か清川君ってことですよね?」
「箱根さんが真の村人ならですけど」
「ふぇ……!?ほ、本物ですよ!」
箱根は明らかに狼狽えて、自身が白と主張する。仮に箱根が人狼だろうとルールでCO禁止である以上その探りはあまり有効打にならないんだけど何で取り乱したんですかね。人狼自体初心者なのは分かるけどもっと頑張って、これ多分箱根が人狼だから。
次に名乗り出たのは真鶴だ。枝毛を弄りながらニコリとする。
「んじゃ僕ね。これもう答えになっちゃけど人狼は女で、肌は白め」
……ちょっと待て、女って箱根しかいないだろ。
何この展開。雪ノ下先輩何してんの?公式大会にサンダーボルト3枚重ねてくるようなもんだからね?
「え!私ですか!?」
「うん。まあ僕視点からだと決定だね」
「幾ら何でも範囲指定が狭過ぎます。その辺りが少し怪しいですけど……比企谷さん、お願いします」
清川の言葉に俺は頷いた。
手札はもう考えてある。
「ああ。俺のカードに書かれてたのは長袖の服を着ていて、そして人狼は男」
「は、反対ですか!?」
箱根が目を見開いた。
これが最初のブラフだ。
向こう側からすればこの場に男は3人、発言主である俺は除かれるから実質2人。また俺の情報は真鶴以外とはかち合わない為嘘と断じる事もできない。
「……取り敢えず出揃ったみたいだね」
真鶴は整理するように羅列した。
清川は、右利きで身体能力が高いと。
箱根は、黒髪でブレザー着用中。
真鶴が、女で肌が白い
俺が、男で長袖を着用中。
この中の2人が嘘つきで、2人が真実をついているらしい。まあ嘘つきの片割れが俺なんだけども。
この時、村人側と人狼側の組み合わせは6通りある。その中で両方村人として確定的に成立不可能なのは俺と真鶴、真鶴と箱根。その他は可能性が残されている。
「全然分からないんです!えこれ、どうなってるんですか!?」
「分からない中申し訳ないけど残り3分だよ〜頑張って〜」
やる気の無い雪ノ下先輩の声援に嫌でもタイムリミットを意識させられる……のだろう。少なくとも、村人側は。
「もう2分経ったんだね。グレランも無いし、さっさと話を進めようじゃないか」
髪を弄っていた真鶴は手を止めると、机に腕を置いた。
「端的に、僕は比企谷君と箱根ちゃんが怪しいと思ってる」
「真鶴さんの情報、完全に私が人狼って記述らしいですもんね……」
「うん。まあ明らかに動揺していたからね。書かれている内容もそうだし。あと食い違ってる比企谷君もそうでしょ?どっちかが狂人なんだろうけど……そこまで分からないな」
ピシャリと言い放つ。
これで真鶴が人狼なら大したもんだと思う、ただその線は薄い。何せこのゲーム、性質を考えれば人狼の定石はとにかく目立たないことだ。それを考えれば清川のような気がしなくも無いが、如何せんそうすると平民として残るのは箱根と真鶴。絶対に有り得ない2人だ。
「わ、私はやはり村人の私に擦り付けようとする真鶴君が怪しいです!それに清川君の情報はどれも薄くてそこも少し怪しいと思います!」
「僕ですか……」
箱根がこのような結論に至るのは当然だろう。
何せもし箱根が人狼なら、俺が狂人であることは理解しているはずなのだから。
真鶴が明確に女が人狼だと発言したあとに俺は男が人狼と対抗した。現実的に、真鶴が狂人なら誤爆になってしまうのだ。可能性が無いわけでもないが、論理的に俺を狂人と考えるだろう。
従って真鶴と清川を疑っている姿勢を見せるということはやはり人狼である可能性が高い。
「それを言うならば僕も箱根さんは相当怪しいと思いますよ。僕の情報は確かに薄いですが箱根さんは少なくともこの条件に当てはまると見れます。それに真鶴さん、比企谷さんは当然ですがどちらかが狂人か人狼です。あ、順接的にやはり箱根さんは確定で狂人か人狼ですね」
清川は俺と真鶴がグルで人狼と狂人という可能性は早々に無いと論点から消した。
人狼と狂人が真っ向から反対意見を主張するケースは人狼ではあるが、それは人狼が狂人を切り捨てて自分を白に見せる為に行われる。つまり次の日への布石であり、ワンデイ人狼ではこの戦略は当然成立しない。
「むぅ!違います!私は村人です!」
「なら証拠を見せなよ。役職カミングアウトとかさ、って占い師も霊媒師も狩人もいないんだったね」
ははっ、と真鶴は大型犬と戯れるように笑った。それを見た箱根はリスみたいに頬を更に膨らませるが何も言えない。
「比企谷さんはどう考えてます?」
「……え?俺?」
「ええ。何でそんな意外そうな表情してるんですか?」
「いや、人から意見を聞かれることとか人生で極稀にしか無いからな。スマン」
だから「コイツぼっちだ、ふ〜ん」みたいに目を細めてくるの止めてくんない?傷付くからな?
「まあ、そうだな。俺からすりゃ全員怪しい訳だが人狼は明々白々と真鶴で決まりだな。んでもって箱根が狂人、清川が村人と見ている」
「矛盾は無いですね」
と、流そうとした清川に真鶴は首を降った。
「いやおかしいでしょ。どうして僕を人狼って確定できた訳?そんな情報あった?」
「はあ。そんなの見てりゃ分かる。メタ推理になるが、雪ノ下先輩との会話を聞く限り箱根は人狼を知らない。それでも何故か、この会話を最初に先導しようとしたのは箱根だ」
「確かにそうですね……」
上手く清川は釣れたようだ。箱根は微妙そうな顔で神妙に聞いている。
「だが初心者が仮に人狼を引いて、最初に発言しようと思うか?無いだろ、ゲームのルールすら理解が浅いはずだ。しかも目的は本家の村人殲滅とは違って村人から隠れること。なら最初は保身を考えるだろ?」
「だから狂人、ね。一応納得してあげるよ。でも、なら僕が人狼である事はどう説明する気?まさか消去法とか言わないよね?」
「そっちは簡単だ、お前結構ルール知ってるだろ?役職もそうだが、何よりグレランって単語なんてやってる奴しか知らないからな」
「それが?」
「人狼の定石は狂人が場をかき乱して、自分は潜伏だ。そうすれば基本的に見つからないからな。だがお前は会話を聞いていち早く狂人が箱根だと気付いた、だからフォローの為にあんな目を引く条件をでっち上げたんだろ?」
もし狂人が露骨にあんな反応をしなければ真鶴はあそこまでの、人狼は女であるなんて発言をしなかった───そういう方向に俺は舌を回らせる。
真鶴はこれみよがしに溜息を吐いた。
「妄想だね。確かに僕は人狼は何度が身内で回したことはあるよ。箱根ちゃんも怪しいとは最初から思ってた。でも人狼側を確定させる材料としては足りないね。箱根ちゃんはともかく僕を人狼と確定させるには不足が過ぎるよ」
「あの!私はともかくってなんですか!」
箱根は不服そうに吠えるが、ぶっちゃけ他3人では共通認識になってるからそれ。どう考えてもグレー(狂人)かブラック(人狼)だから。そして俺がグレーなので確定人狼。うわ、ここに関して考える必要ゼロとか楽すぎでは。
「はいはい箱根ちゃんは可愛いよ。それで僕的には村人の清川君は今の話どう思う?」
「ちょっと無視が雑過ぎませんか!?」
「そうですねぇ……僕も比企谷さんと同意見になります。比企谷さんを疑ってない訳じゃないですけど、その推測は筋が通ってますしね」
「でもさ、こじつけっぽくない?何より情報を見なよ、清川君。君の手札によれば人狼は運動神経が良くて右利き、だったね。でも僕にはどうもその条件、箱根ちゃんに見えるよ?」
釣られて俺も箱根を見てみる。
服こそ普通だが、結ったポニーテールが陸上部っぽいと言えば否定もできてない。
「箱根ちゃん、正直にさ、運動部でしょ?」
「違います。運動部なら副委員長なんて絶対に拒否してましたよ」
「一理あるな」
思わず納得してしまった。
それ以前にホント、何で俺たち人狼なんかやってるんだろうな?何かまた実行意義が希薄化してきたんだけだ。
「真鶴さん、箱根さんの言う事は最もです」
「そっか。じゃあやっぱり狂人かぁ」
2人の意見に何か反論しようと口を開けて、そのまま箱根は口を閉じた。何も言えないと思ったんだろう。良くコイツが人狼で俺たち戦えてるな。
「───とでも言うと思った?比企谷君。君が狂人に他ならないでしょ」
「いや何故そうなる」
「だって君、少し箱根ちゃんを庇う言葉が多いよ?最初に清川君のカードに書いてあった身体能力についての話を反らしたのは他ならない君だ。多分君、最初に箱根ちゃんが喋り始めた時点で薄々気づいていたんじゃないの?」
訝しげに真鶴は問い掛けるのを、俺は粛々と聞く。
展開が不味い方向に転がり始めたように見えるが、真鶴相手だとそりゃこうなる。何せ相手は箱根が人狼だという確実なソースを所有しているのだ。
だからこの場における重要人物は俺でも舞鶴でも箱根でもない。1人、中立に立つ清川だ。
「偶然だろ。箱根が人狼側と分かったのはレスポンスが下手過ぎるからだ、最初から判断するだなんてテレパシーを持ってる訳でもない俺が出来るはずないだろ?」
「そうかな?比企谷君、かなり察しが良いみたいだし頭も回るじゃん。分かってたんじゃない?」
「あ、面白いところ悪いけど残り1分だからそろそろ結論出してね〜」
雪ノ下先輩の声に緊張感が走る。
もう4分経ってしまったのか。残り1分で清川を説得しなければ。
「無いっての。それにもし俺が狂人なら箱根を人狼だなんて言わんだろう。だって人狼を切ってどうすんの、負けちゃうだろそれ」
「そうやって白を装っても無駄だよ、ネタは上がってんだからね」
「ネタってそれお前しか見れないソースだろ。なんたって人狼の下にゃ何も書かれてないんだからな」
「そればこっちの台詞なんだから盗まないでくれるかな?まぁ狂人には何を行っても無駄かな?」
「清川君、あの2人怖いんですけど……!」
「ヒートアップして着いてけませんね……」
ここまで来たらもう細工は流々仕掛けをご覧じろなんて言ってられない。ここからは真鶴とのチキンレースだ、清川が真鶴に投票したら勝ち確定。俺も真鶴に投票し箱根も真鶴に投票するからルールによりどちらかが無効票となって2:1だ。逆に清川が箱根に投票したら負けだ。確実に真鶴は箱根に入れる以上、ここが勝敗の天王山となるのは間違いない。
「真鶴、そもそもお前の情報は少し強すぎる。なんたって他がそれとなく特定できるような情報だったにも関わらずお前だけ個人を特定出来るなんて普通にゲームバランス崩壊するだろ」
「それを言われると弱いけどじゃあ比企谷君のはどうなの?僕が女って言ったからインコみたいに男つったんじゃないの?確かに困るよね、僕の情報じゃ箱根ちゃん黒確定になっちゃうんだから」
「ああ困るな。嘘はいつも真実を曇らせるからな。即ち嘘は何時も真実より強いってことになるだろ?」
「誤魔化そうたって無駄だよ。今この場においては真実も嘘も等価値なんだから」
「はい!そこまで〜!」
パチッ!と始めた時と同じように雪ノ下先輩は手を鳴らした。
……あ〜疲れた。疲れたわ。一週間は有給欲しいレベル。癒やされたい戸塚に。
「早速投票行ってみよ〜という訳でその紙にペンで投票対象の名前書いて私に頂戴」
ペンか。
最早何も考えることもせず言われるがまま俺はバックから筆箱を取り出してボールペンを見つけると紙に自分の名前を書く。
4人全員が渡し終えると「ふむふむ、……んん?」と雪ノ下先輩は不思議そうに唸った。
「まず人狼側からランダムに1人投票を無効にするって言ったよね?という訳で狂人だった比企谷君の票を無効化しま〜す」
雪ノ下先輩はそう言ってビリっと容易に破り捨てた。
無効化は良いけど態々破る必要無くない?もしかして嫌われてる俺?
密かに戦々恐々としていると、清川は言葉にならない声を出しながら項垂れた。
「あぁ……やってしまいました」
「清川君、もしかして僕に入れた?」
「ええ……すみません」
「良いよ良いよ、楽しかったし」
落ち込む清川の肩を舞鶴はポンと叩いた。
何だか完全に目的を見失ってる気がするが、多分気のせいじゃないだろう。
雪ノ下先輩は気を負うでもなく、笑顔で言った。
「結論から言うと勝ったのは村人だね〜、おめでと〜!」
「……え?」
待て待て。人狼側の勝利のはずだろ。
清川は真鶴に投票した。真鶴は箱根に投票した。俺のは真鶴に入れたが無効になった。
必然的に残りは1人。
「箱根。お前どこに投票したの?」
「え?比企谷君ですけど」
───は?
埒外の答えに絶句してしまう自分に俺は驚いた。そこまで真剣にやる気はなかったのに気付けば熱中してしまっていたようだ。
「……どうして俺なんだ?」
「だって狂人が真鶴君だと思ったんですからしょうがないじゃないですか!」
「いやいやいや、僕のどこに狂人要素あったの」
「だって多弁でしたし、良く分かりませんけど頭凄い使ってるなぁって思いましたし」
「でもそしたら比企谷君が村人になるよ?彼、人狼は男って言ってたから矛盾しちゃうよ?」
「………………あっ」
間違いない。確信した。
コイツ、今まで見た中だと空前絶後のバカだ。
「感想戦は終わった?」
雪ノ下先輩は少し退屈そうに聞いてきた。全て種が割れてる観客側からすればこんな会話面白くないんだろうな。俺もこの結果は面白くないが。上手い、八幡に10ポイント!
真鶴は呆れた顔を戻すと、バックを肩に担いだ。
「はい。んで、結局副委員長は誰なんです?」
「あ、言ってなかったっけ。比企谷君にしたから、って事で皆お疲れ〜」
言うと手をフラフラと振った。解散ということだろうか。
いや、そんなことより。
何で俺なんだろうか。別に勝ってないんですけど……。
疲れた頭では答えが出るわけもなく、俺は諦めて身体を解すように伸びをした。
「あ、比企谷君ちょっと来て」
「……はい?何ですか雪ノ下先輩」
俺もバックを背負ってさあ帰ってプリキュア見るか〜、という矢先に雪ノ下先輩に教室の端へと手招きされた。
副委員長への連絡事項だか、注意事項だろうか。
近づくと薄く甘い香りが鼻を揺さぶる。心地良く、どこか安心していた俺は、
「───比企谷君さ、ただこの委員会に参加してる訳じゃないよね?」
一瞬で床が抜け落ちて地獄に落ちたかのような気分になった。
ヤダこの先輩。やっぱ怖い。
「なんのことでしょう」
「深くは聞かないよ。でも、もし私か雪乃ちゃんに何かしたら───それなりの報いはあるからね〜。ってそれだけ!じゃあ明日からヨロシクね」
手をヒラヒラと振ってきた。今度こそ返してくれるらしい。
雪ノ下陽乃。
入学式以来に見たその姿は、一癖二癖じゃ収まりそうにないくらい腹に一物を抱えていて。
達成感と若干の鬱が程良くミックスされた重い足取りで、俺は戸塚の待つ校門へと足を運んだ。