やはり俺の恋慕はまちがっている。 作:真園(しんえん)
梅雨時の天気は中々上方へは向かわず、今日は昨日より雨脚が強い水曜日だった。
小町から「お兄ちゃん、今日は流石に自転車はやめといたら?」と言われるくらいには強い雨脚に、仕方無しに時間早々に俺は家の門を出た。
傘を開いて、朝の微睡んだ身体を引きずって歩く。
バチバチと雨は打楽器のように傘を叩き付け弾ける。高校進学と同時に大き目の傘に新調したとは言え、雨は風に吹かれて時折俺のズボンやバックにシミを作る。
……自転車は使わなくて正解だったな。
もしいつも通りに通学してたらもっと悲惨だっただろう。カッパを着たとしてもサドルはグチャグチャに濡れるし、道路脇の鉄製の排水口でタイヤがスリップするかもしれない。これが八幡流リスクヘッジなのだ。
と、無理矢理ポジティブな思考に持っていこうとして、俺は自分でも嫌になるほど大きな溜息を吐いた。
歩きだと学校まで結構時間かかるんだよなコレ。行きは良いにしても帰りも同じ時間掛けて帰るとなると少しブルーになる。今なら蒼の力とか使えるまである。無限の闇に食われな。行くぜ、インフェルノディバイダー!
「……虚しい、やめやめ」
振り上げた腕を下ろした。
全く、良い年して何をしてるんだ俺は。
非常に鬱屈とした気分だ。何なら学校サボって千葉の街で時間潰したいほど怠い。
ただ、それはそれで雪ノ下先輩が怖いからやらないけど。あの先輩なにするか分かんないし。
この雨で高校が太平洋に流れれば良いのにな、とか本気で考えてしまう自分に嫌気が差しつつも普段の2倍の時間をかけて通学路を歩く。
漸くといった気持ちで学校に着くと、傘の水滴を落として中へと入る。
温暖湿潤気候な本日にやられて俺のYシャツの中はべっとりとインナーシャツが張り付いてとても気持ち悪い。着替えたいところではあるが生憎替えのシャツも無く、帰るまでずっとこの服装と思うと一日へのやる気が消えていくのが自分でもわかる。早く帰りてえ。
さっさと上履きに履き替えて読みかけの本を開くか。
そう思って俺は昇降口に入って、視線が無意識に一点へと集中する。
そこには何度も脳内で反芻した少女の姿があった。
雪ノ下雪乃。
姉とは違って入学式から変わらないピシリと着たブレザーに、清廉に整った黒い長髪、黒いストッキングのせいか雰囲気が引き締まっている。冷たい眼はさながらこの社会を悲観しているようにも見えた。
クラスメイトでもなく、知り合いでもない。
だから、俺に気付いた様子もなく雪ノ下は校則通りに整えられたスカートを揺らして廊下へと去っていく。
そんな様子を俺は靴を入れ替えながらも見ていた。
───やはり、俺は駄目らしい。
靴革に付いた冷たい水滴に手を濡らしつつ、下駄箱へと置く。
雪ノ下に惚れて、何のアプローチも無く2ヶ月経ってもも尚こんなに目で追ってしまうのか。容姿をつむじから上履きまで確認してしまうのか。
知ってはいたが、やはり俺は雪ノ下雪乃という少女にゾッコンであるようだ。
そんな確信と共に身を過る一縷の疑念。
一目惚れなんて、確定的に不確定な感情に囚われた俺の想いは果たしてホンモノなのだろうか?
焦がれるような強烈な情動に、自分の感情すら紛い物と断じることが出来なくなっている。断じる事を恐れているのか、それすらも判断不能に陥っていた。
恋は盲目なんて言葉がまさか自分にも当てはまるとは……。
振り切るように早足で、開け放たれた窓から漏れる雨音に急かされながら俺は教室へと入った。
見れば、既に隣の席の主である戸塚は座って下敷きで自身に風を煽っていた。
「八幡おはよう」
「ああ、おはよう」
朝練のある戸塚にしては早いな、と思って時間を見ればもう朝のHRが始まるまで10分ほど。思った以上に徒歩通学すると時間がかかるようだ。
すると、教室の一番前方窓際に座っていた茶髪の男がヤケにパチクリと瞬きをすると、こちらへと歩み寄ってきた。
「や、おはよう比企谷君」
「え。誰お前」
「やだなぁ!?僕だよ僕、真鶴冬樹さ。昨日一緒にゲームした仲でしょ?」
失礼だなあ、と目の前の真鶴はズボンのポッケに手を突っ込んだ。
そう言えばこんな奴もいたな。昨日は人狼でかなり対立したが、口ぶりからしてそれを気にしてる様子は微塵も無さそうだ。
つか、このクラスからは3人も委員がいたのか。普通1クラス2人だよな。多過ぎだろ。このクラスだけ人柱にでも選ばれたんじゃないですかね。
戸塚は少し困ったように視線を俺に送った。
「えっと……友達?」
「違う。委員会繋がりだ」
合点が行ったように戸塚は頷いた。どうやら戸塚も真鶴のことは認識してなかったみたいだ。
真鶴はそれに酷いなあ、と軽薄に笑った。
「一緒に文化祭盛上げる同士じゃん?ここは力合わせて頑張るべきでしょ」
「んなこと欠片も思ってないだろお前」
「ちっちっち。僕の総武愛を舐めちゃ困るよ比企谷君。僕は学校のためなら年70万円は払えるくらいには愛校精神が溢れてるんだからそこは評価して欲しいね」
「それ学費じゃねえか」
しかも払うのお前の親だろ。そんなので愛校精神が測れるなら私立高校に通う学生なんか俺らの2倍3倍は学校を愛してることになるからな?
真鶴は「そんなことはともかく」と話を切り替える。
「戸塚君……だったよね?今も名乗ったけど僕は真鶴、君も同じ文化祭実行委員でしょ?これから八幡共々ヨロシクね」
「戸塚彩加です、こっちこそ宜しく」
「俺をそっちサイドみたいに言うの止めてもらえますかね……」
まるで真鶴と俺が旧来の親友みたいだろその言い方だと。同じクラスメイトでも俺の心はこの場では常に戸塚に寄り添ってるからな。実際初めて会った気がしない程度には戸塚と馴染んでるし。
「にしても比企谷君にも戸塚君にも知られてなかってどういうことなのさ。昨日僕も委員決めの時に手上げたでしょ?」
「……俺は見てなかったな」
「ごめん……僕も」
「や、そこまで申し訳なさそうにされても困るけど。何せ僕だって比企谷君に関しては今日まで同じクラスとは思ってなかった訳だし。てかこの世に存在してるかどうかも感知してなかったよ、いやはや。こっちこそゴメンゴメン」
いや、今人狼してないからね。何でそんな煽り倒すの? 戸塚が居なかったら血の海が一つ広がるところだったぞ? つまり戸塚は平和の女神像なのかもしれない。アーメン。
「まあお互い頑張ろうよ。何となくだけど、波乱万丈になりそうだしね?」
「どういう意味だ……?」
断言する真鶴に問い返す。
因みにここでのリターンには「文化祭実行委員になってる時点で波乱万丈なのにまだもう一波乱あるのか、っていうかお前が起こすんだろ?」というニュアンスが満ち満ちと込められている。我ながらここまで何でこんな敵意があるのか、些か不思議である。
きっとその拍子で睨んでしまったのだろう、真鶴はやれやれとでも言いたげな素振りで首を振る。
「だってあの先輩が長なんでしょ。高校3年の癖に参加しちゃうとか、そんな快楽主義みたいな人間が先頭に立ったらろくな事にならないって絶対」
「真鶴君、少し言い過ぎだよ」
戸塚はムッと不機嫌っぽさを表す。
「うん、分かってる。副委員長様もいることだし、だからこれはオフレコね。んじゃ放課後」
言うだけ言って、真鶴は踵を返すと自分の席へと戻る。
真鶴の言いたい事もまあ分かる。
雪ノ下先輩はとことん気分で動く人だ。じゃなきゃあんな副委員長の決め方をするはずないし、平塚先生の胃に大穴を空けることも無かっただろう。
ただ待ってもらいたいのは今後のその雪ノ下先輩の気分の矛先である。
平塚先生……と言いたいところだが、平塚先生は教師であって実行委員会では中立を貫くのは火を見るより明らかだ。
然るに、次点で雪ノ下ハザードに巻き込まれるのは誰か?雪ノ下先輩に一番近い立ち位置に来る生徒は誰か?
(…………俺だよなぁ。副委員長だもんなぁ)
溜息を吐くと、心無しか胸が少し軽くなった。
ジューンブライドならぬ、ジューンディプレッション。
5月病ならぬ、6月鬱。
6月の湿気と共に俺の心中では暗雲が漂う。
そういえば台風の目は中心が一番風が弱いそうだ。なら雪ノ下先輩の近くにいることになる俺は被害が軽減……されないですよねぇ。台風の目は常に雪ノ下先輩一人、その他の人間は全て暴風圏に晒されている訳で。
間々ならねえなぁ。
チクタクとガウス関数の如く進むアナログ時計の針をぼんやり見ながら、俺は朝のHRが始まるのを待った。
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授業というのは1限を超すとジェットコースターみたく時間が進むようで、気付けば昼休みすら終わりそうな時間。
依然と雨はザーザーと強く降っているためマイベストプレイスは営業休止、仕方無しに教室で耳にイヤホンを詰め込み買ったパンを咀嚼する。
隣にいた戸塚は昼休みが終わると慌てて昨日と同じく部活へと行ってしまった。然るに、俺の昼ぼっちは神によって定められた命運なのだろう。今まで校内ぼっちだったのを鑑みれば大いなる躍進なのは変わりないけどな。
ふと、思い付いて真鶴を探してみる。
俺や戸塚と同じく文化祭実行委員である真鶴はチャラそうな仲間とつるんでいた。なんの話してるんだろうな。比企谷って奴マジキモいから話すの止めろよ〜、みたいな話題だったら少し凹む。戸塚が居なかったら瀕死だった。
まあ、朝の言葉通り放課後まで接触する気はないんだろうな。そっちの方が互いの為だ。文化祭実行委員として関わらざるを得ない立場上、明々白々な境界線を引きつつ互いとしては一定の楔を打つ。それが最良の選択肢なのは疑いようもないだろう。
昼飯を食べ終えて、バッグから本を取り出す。
栞の挟まれたページを開いて俺は目で文字を追い始めた。
だが上手く本に入り込めない。
周りの喧騒感、実行委員会への不安、自分の歩いている道すら見失いそうで。
理由も無く色々な感情が頭で渦巻いて思考が息詰まる。
誰もが毎回会えば駄弁るのに、大した仲でも無い存在を希求する理由が分かった気がした。
こういう時どうでも良い与太話でもするだけで気分が解れて楽になるのだろう。それは現実逃避でしかないが、この痛みともいえる視野狭窄感から逃れるには最善の行動に他ならない。
生憎そんな便利な相手は居ない俺は本の栞を戻して机に突っ伏した。
あぁ、机冷てぇ。
10分くらい経っただろうか。
意識を残したままその状態を維持していると、チャイムが鳴った。
確か午後は昨日と同じく文化祭準備だった気がする。なら起きるのも億劫だ。
もう文化祭実行委員になってしまった以上クラスの催しに参加するのは難しいだろう。それこそ出来ても裏方、概ね小道具とか照明とか。クラスへの帰属意識とかBB弾より小さいからやる気なんてさらさら無いしな。起きているのも良いが───別に寝過しても構わないだろう?
ま、こちとら誰もがやりたがらない文化祭実行委員に名乗りを上げてるんだ。クラスメイトだって積極的な参画を求めてないでしょ。
寝たふりを継続しつつ、話し声をBGMに脳を休める。
どうやら昨日みたく学級委員が前に出て何かしているみたいだ。ただ言語野が働いてないので何を言っているかは分からない。耳から入ってくる音を言葉へとコンバートする変換器を通さずにそのまま脳へと送ってるせいで、今の俺にはどんな声も雑音にしか聞こえない。
一先ず、大事なのは実行委員会において雪ノ下とどう接点を持つかだった。
雪ノ下先輩との面識はゲットできたがその先が見えない。元々希望的観測から起こした行動だ、最終地点を雪ノ下先輩に面識を持ってもらうと設定していた以上これより上の結果は無い。だからその先の過程どころかゴールすらも考えてないというのは真実の一つで、それは明かり一つないトンネルで懐中電灯も持たず出口を探すような暗中模索が始まることを意味していた。
……考えているだけで疲れてくるな。
「絶対に嫌だ!」
一旦思考を放棄して、寝ようとした俺はそんな隣から発された大きな声に思わずピクリと体を震わせる。
声の発生源は戸塚だった。
嫌だ……って何がでせう?
身体を起こして見てみると、戸塚は今までに見たことがないくらい不服な表情で目を見開いていた。
ここまで感情を露わにした戸塚を俺はこの2ヶ月で見たことがない。
只事では無いのかもしれない、目を擦りながら俺は観察する。
「冗談だって、そうカッカしないでよ戸塚君」
次に離れた席に座る真鶴がそう言う。
一体全体なんの話だこれは?
「僕はただ仮に、演劇のヒロイン役をやるなら戸塚君が最適だと思っただけたからさ。だから推薦した。小柄で中性的で、正に役に相応しいミステリアスなオーラとか出せると思うんだ」
「申し訳無いけど、他を当たって欲しいな……!」
「けど他の皆だってそう思うよね?この演劇のヒロインのムーブは序盤は身分を隠して主人公の手助けをする。つまり、どこか俗世から離れたモノが緊要なんだ。でもこの条件に当てはまる人は君、ただ一人なんだよ戸塚君」
ええと。
要するに、これは演劇の役者決め……ってことか?
真鶴は演劇のヒロイン役を戸塚に当てがおうとして、それを戸塚は嫌がっていると。
確かに戸塚にはクラスへの参画をする時間なんて俺なんかより少ない。実行委員会に加えてテニス部での活動もあるのだ。流石に更に演劇のメインキャラなんて演じてる余裕はないだろう。
…………にしても、腑に落ちない。
違和感がヒシヒシと頭の中で突き刺してくる。
戸塚はここまで明確な拒否をしない性格だ。何時もならばやんわりと、自身の持ち時間不足から冷静に身を引いただろう。
だからこんなに絶対的拒絶をするのは俺には不可解だった。
いや、そんなことより戸塚に助け舟を出したい。
そう思って俺は注意を引こうと口を開こうとして、更に大きな声が教室に響いた。
「真鶴。お前な、嫌がる奴に強制するのは良くないぞ。それこそクラスの総意じゃない」
教室の背後で立っていたらしい須賀先生だった。
だらし無い風貌に面倒事は全て生徒に投げ付ける性格からあまりこういう生徒間のいざこざには介入しないと思っていたが、この人も最低でも教師ということだろう。
真鶴は鶴の一声に肩をすくめた。
「嫌ですねぇ。僕は別に強制してませんよ、強制は」
「戸塚から他の選択肢を奪おうとしてただろうが。紛れもなくお前のそれはアジテーションだよ、アジテーション。全く。ともかく双方が円満じゃない限りその決定は担任として認められない。分かったか?」
「分かってますよ須賀先生、ええ」
この会話怖すぎない?介入してない俺まで冷気が伝わってくるんだけど。
「ええと、じゃあ他に推薦したい人はいますか」
前で困惑しながらも学級委員が言った。分かる、俺でもこんなんやられたら混乱する。
真鶴はそれ以上追求しないようで、平然とした面持ちで前へと座り直した。
気になって、それとなく戸塚の様子を見る。
戸塚は何も言わず、銀色の髪を下に垂らして俯いていた。
何かフォローの言葉を掛けたい、純真にそう思うも俺の口は開かず喉の奥でもごもごと動くだけ。
どう声を掛けるべきか、何を言うべきか。
戸塚の事情を知らない俺は幾ら悩んでも望む言葉が出てこない。戸塚なら何を言っても多分曖昧に笑って感情を隠しながら感謝の言葉を返してくるだろう……でもそれに何の意味がある?そのお世辞は本当に戸塚に作用したと言えるのか?ああ、俺が思い付くようなありきたりで降って湧いてくるような言葉なんて鉄を消しゴムで叩いたように何も響かない。
ついぞ俺は話しかけることは出来ず、沈黙したまま授業は終わりを迎えた。
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「じゃ、第2回文化祭実行委員会を始めたいと思いま〜す」
水を打ったように静かな教室に雪ノ下先輩の間が抜けた声が響いた。
前回、副委員長をあんな方法で決めたからか妙に初回より静かである。誰も私語をせず、粛々と各自で座って次の言葉を待つ姿はまるで置かれた石像っぽさがある。あの、騒がれても困るけど静かすぎてももっと困る。八幡的には隣に座る先輩怖いしもうちょっと賑やかな雰囲気を演出して欲しいんですけど……無理ですか、そうですか。
昨日と同じく平塚先生は雪ノ下先輩の事をジロリと後ろで見守っている。見守っているっていうかこれはアレだ、完全に見張ってる。目付きがビリリダマ並みに鋭いもん。
だが雪ノ下先輩は平塚先生に一切見向きもせずふー、と息を吐いた。
「ではまず連絡事項について、一年生の比企谷八幡君が就任しました〜。みんな拍手〜」
え、やめて。
俺が何かを言うよりも早く疎らに握手の乾いた音が空中で霧散する。
最前列窓側に座る真鶴はニヤニヤと鬱陶しい笑みを浮かべてるのが見えた。コイツ、ホントに良い性格してるな。
拍手が止むと雪ノ下先輩はんんっ、と間を置いて話し始める。
「と言うわけで、私と比企谷君のポストは確定したわけだけどまだこれじゃ本題に入れないのよね〜。重役でもう2つ、会計と書記を決めた後に部門毎に委員を4つに振り分けて……今日はそれで終わりかな?静ちゃんどう思う?」
静ちゃん……って平塚先生のことね。名前じゃ分からんからね?
てか何で昨今のJKは先生のことを名前で呼びたがるのだろうか。親しみを込めて〜とか、耳障りの良いフレーズを良く聞くが絶対ウソだ。
彼ら彼女らが名前で呼ぶ先生というのは常に若輩の教師か年行ったハゲの二択であり、決して体育教師には逆らわないし強面の教師にも同様。心の底で「コイツなら大丈夫やろ」と思った格下の教師にのみ彼らの親しみという名の薄暗い嘲りを含んだその感情は向けられるのではないだろうか。
そして静ちゃんと呼ばれる平塚先生も容姿を見れば、十分に若い。俺も静ちゃんって呼んでみようかな。うん、割とマジで殴られる未来しか見えない。
その辺の頭の緩そうな教師と違って締めるところは締めているからこそ実行委員会の担当にも選出されているんだろう、つまりやっぱり雪ノ下先輩が凄いってことだな。ま、戸塚には劣るけどな!
「ん、ああ。そうだな。各員の分担よりその2個を決めるのが先決だろう」
「おーけ、なら……どうしよっか、比企谷君?」
あざとくウインクを此方へと送る雪ノ下先輩に思わず渋い顔を作ってしまう。
いや、どうしろと?
俺一年生だからね?そんな唐突に投げられてもボール受け取れんわ。
「そ、そうですね……取り敢えず自己推薦したい人は挙手で行くのが無難ですかね」
我ながら酷く声が上擦って吃るが何とか言い切る。
自己推薦、魔法のコトバだ。これで終わればなんと素晴らしい事だろうか。
雪ノ下先輩はつまらなそうにに口を尖らせて、でもまあ最初はそうした方がいいよねと頷いた。
「書記か会計、どれかなりたい人いる〜?」
間延びした言葉の中には冷たく芯の硬い声音が聞き取れる。
それじゃつまらないよね、と。
言外にそう伝えている。
雪ノ下先輩は究極的にそういう人なのだ。
隣にいる魔王の事は一度置いておいて、首を動かさず目だけキョロキョロと教室中を見回してみる。
誰もが真剣な面持ちで、ついでに自発的にはあまりやりたがってないのは副委員長選出の時と同じだ。
溜息を吐く平塚先生とは対照的に、雪ノ下先輩は蝶を追う幼気な少女みたいにニコニコとする。
「だよねぇ。でも昨日みたいにお遊びをする訳にもいかないし……」
何か小声でブツブツと呟いている間に俺はこの空間からの早期の開放を願う。
衆人環境で、しかも隣には雪ノ下先輩。
将棋だったら尻金で詰み一手前と言った頃合いだろう。助けてロリコン竜王。得意の後手一手損角換わりで俺のピンチを救ってくれ……!
願いは虚しく雪ノ下先輩がふっと顔を上げたことで朽ち果てた。
「じゃ、昨日の4人……じゃなかったね。3人のうち、2人から選んじゃおうか。比企谷君が」
「……え?」