青い空母の悩みごと   作:魚鷹0822

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抱いていた悩み事を解決してくれたおかげで、
瑞鶴に気持ちを向けた加賀。
2人の仲は次第に深まっていく一方、そんな2人
を見つめる視線があった。


「青い空母の悩みごと」の次話になります。


赤い空母に欠けたもの

 地面を照り付ける太陽、雲の少ない晴れ渡った青空、草木をかすかに揺らす穏やかなそよ風。そんな穏やかな気候に恵まれた日、鎮守府の一室の縁側で艦娘が2人、静かに時を過ごしていた。

 体に異物が入ってくるのを、彼女は敏感に感じとり、不安で体をかすかにふるわせる。それは彼女の中に入ると、入った穴の壁を軽くかいた。

 少しずつ、少しずつ自分が内側から削られていくような錯覚を覚える一方で、その瞬間が心地よく、どこか快感のようにも感じていた。

 ふと、力を入れすぎたのか先端が壁に引っ掛かり、そこを起点にして痛みが走った。

「痛っ!」

 彼女は小さく悲鳴を上げる。

「あ、ごめんなさい、痛かった?」

 彼女を見下ろす女性は手をとめ、おろおろと困惑の表情を浮かべる。日頃の能面のような無表情さや氷のような冷静さが、そこには欠片もなかった。

「へ、平気……よ」

「そう…。気をつけるから、もう一度いくわ」

「はい……。ふ、ふああああ」

 日が高い内から、何をしているのかと誤解されそうなセリフが聞こえるが、決していかがわしいことはしていない。

「大きいのがとれたわ」

 そういって縁側で過ごす艦娘、空母加賀は、耳かきをティッシュでふき、瑞鶴の耳の穴からとれた垢をとった。

「右は終わり。さあ、反対向いて」

 瑞鶴は加賀の太ももの上で体を回し、お腹を見つめる向きになる。加賀は微笑みながら、もう片方の耳の掃除を始める。

 くすぐったさ、こそばゆさ、恥ずかしさをこらえるも、耳や頬を赤くそめる瑞鶴。

 そんな彼女を愛おしそうに慈愛を込めた視線で見つめながら頭を撫で、耳かきを持つ手を巧みに動かす加賀。静かで、微笑ましい空間がそこには出来上がっていた。

 

 

「……何なのかしら?」

 

 

 だが、そんな2人を呪い殺さんばかりに見つめる視線が、彼女たちが日ごろ使っている寮から1つ。

 

「……何なのかしら?」

 誰にでもなく、彼女は呟く。

「何なのかしら?この状況は……。そして湧き上がってくる、この気持ちは?」

 瑞鶴と加賀の様子を見下ろせる場所に陣取った一航戦の赤い方、空母赤城は、泥沼のように濁った瞳で2人を見下ろしながら、手にした堅焼きせんべいを粉々に握りつぶしていた。

 握りつぶされたせんべいを求め、無数のアリが長蛇の列をなして欠片を巣へと持ち帰っているが、今の赤城にそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

 

 

「ふああああ~」

 海に近い場所に設けられた休憩スペースで1人、赤城は大口を開けてあくびをする。

 彼女は、テーブルに用意された湯気を立てている緑茶やお饅頭には目もくれず、辺りを見渡す。

 遠くでは、波止場や波打ち際ではしゃぐ駆逐艦たちや、仲間と楽しい時間を過ごす艦娘たちの姿が伺える。

「……はあ」

 本日何度目かのため息を吐き出す。折角の非番の日だというのに、彼女はただ時間を無為に過ごしている。

「暇ねえ……」

 本を手にしても文章が頭に入ってこず、鳳翔さんからお菓子をもらったものの味気ない。ただ流れる時間をのんびり過ごすのも悪くないのだが、これまでの過ごし方との差か、周囲の風景がモノクロ画像に変わってしまったように味気ないものになってしまった。

 その原因を、彼女はわかっている。彼女は、誰も座っていない向かいの椅子をみやった。

「……加賀さん」

 彼女は呟く。いつも一緒にいた、必ずそこにいるはずの片割れ。一航戦の青い方の名を。

 今日は加賀も揃って非番だった、のだが…。

 

 

『申し訳ありません、赤城さん。今日は先約がありますので』

 

 

 といって朝からどこかへ行ってしまった。そして何気なくおせんべい片手に外を眺めていたら、誰もいない鎮守府の一角で耳掃除をしている加賀と、共に過ごす瑞鶴を見つけてしまったのだった。

 

「……頭にきました」

 

 その瞬間、赤城の体の奥底から何かが湧き上がり、おせんべいを片手で粉々に粉砕してしまった。

 同時に、何か胸に風穴が空いたようにも感じた。

 それがなんなのか、彼女にはわからない。お腹が膨れれば満たされるかもと思い、昼食はカツカレー大盛りを食べたものの、いつも5皿は平らげるのに、今日は2皿目でスプーンは止まった。

 お腹でも痛いのかと、鳳翔さんに心配されてしまった。

「ホント、どうしたのかしら……」

 誇り高き一航戦、その片割れ。機動部隊の象徴。彼女を語る言葉は多いが、今の赤城にはどれも当てはまらない。

 赤城は頬をふくらませ、空を見つめる。

「私のこと、半身だと言ってくれたくせに……」

 ここに居ない相方に、赤城は文句を呟いた。無論、加賀のことだ。

 赤城と加賀は、鉄の船の当時から、ずっと共にあった。もっとも、瑞鶴と翔鶴のように実の姉妹というわけではない。赤城の本当の姉は、とっくの昔に失われている。

 かといって、蒼龍と飛龍のような関係でもない。それでも、赤城は加賀を大事なパートナーだと認めているし、共に戦い、鍛え、そしてかつては同じ海戦で、同じ海に沈んだ。2人で一航戦、唯一無二の相棒、半身、そうお互いに思ってきたし、疑うこともなかった。

 

 先日瑞鶴が、本心を加賀に打ち明けるまでは………。

 

 そのことで、加賀は瑞鶴に随分ご執心なようで、訓練、食事、休憩、非番まで一緒で、加賀は文字通り、部屋に寝に帰ってくるだけ。

 よもや、日頃から口論が絶えないケンカップルがこうなろうなど、赤城にとっては想定外だった。

 

 

―――私はあなたの半身じゃなかったの?唯一無二の相棒じゃなかたの?

 

 

 長い時間をかけて築き上げられた2人の関係の間に、まさかつけ入る隙があるなど、信じたくもなかった。

 周囲は一航戦だと持ち上げるし、尊敬や畏怖の念を抱かれ、羨望の眼差しを向けられる。でも、それはあくまで戦闘時だけの話。

 戦闘がなければ、赤城や加賀に近寄ってくる艦娘は少ない。加賀は口下手で不器用なので仕方がない部分もあるが、赤城は常に笑みを絶やさず、周囲に愛想よく接してきた。

 でも蓋を開けてみれば、加賀はただの同じ基地の艦娘、という一線を踏み越えた瑞鶴という存在を手に入れ、周囲と愛想よく接してきた自分はこの有様。

 所詮、波風を立てないような、当たり障りのない表面上の付き合いでは、何も得られない、ということだ。

「……風が冷たいわね」

 そよ風が、やけに冷たく感じられた。

 

 

「あ、ここにいらっしゃったんですね」

 

 

 背後から聞こえた声に、赤城は振り返る。視界に入ったのは瑞鶴と同じ紅白の服装。そよ風にふかれ、流れるように揺れる美しい銀色の髪。

 大人の色香と、少女のような可愛さが同居した見た目。触れば折れてしまいそうな、儚げな雰囲気。赤城は、彼女の名を口にした。

 

「翔鶴?」

 

 翔鶴型空母、一番艦「翔鶴」

 

 名前からわかるように、加賀と時間を過ごしている瑞鶴の姉。でも、勝気な瑞鶴と違い、翔鶴は姉ということもあってか、落ち着いた雰囲気で、おとなしめの印象を受ける。

「何か用かしら?」

 赤城は世渡りとして身に着けた、できるだけ温和な笑みを浮かべる。

「提督さんからお使いを頼まれまして」

 翔鶴は、赤城に薄い冊子を手渡してくる。

「これを、赤城さんにわたして欲しい、と」

 おそらく、次の作戦の資料だろう。赤城は礼を言いつつ、それを受け取った。

「赤城さんは、今日は非番ですよね?ここでお茶ですか?」

「……ええ」

 赤城は、すっかり冷めたお茶を口にする。苦味が増強され、彼女は顔をしかめた。

「元気がないようですが、何かあったんですか?」

 赤城は湯呑をテーブルにおくと、沈んだ表情を隠そうともせず、呟く。

「……わかる?」

「はい」

「……どうして?」

「お饅頭を前にして、赤城さんが笑顔を浮かべていないなんて、ありえないことだからです」

 お菓子1つでお手軽に幸せになれる安い女、みたいに言われているようだが、翔鶴におそらく悪気はないだろうと思い、赤城は特に反論をしない。

 ただ、謙虚なように見えて、仲間のことを随伴艦(・・・)と一括りにしてしまうあたり、この鶴、白く見えて実は中身は黒いのでは、などと思うことが時としてある。

「そうね……。折角のお茶もお菓子も、なんだか味気なくて」

 艦娘たちはほぼ例外なく、甘い物に目がない。戦いや訓練を生業とする彼女たちにとって、甘い物はその辛いときを僅かにでも忘れさせてくれる、日常に返してくれる一種の魔法の道具のようなもの。

 それに甘い物は、皆を笑顔にしてくれる。

 とくに大食らいと有名な赤城も例外ではなく、甘い物は大好きである。

「何か悩むことや、憂鬱なことでもあったのですか?」

 赤城がピクリ、と震えた。

「……あなたは」

 赤城はテーブルに並ぶものを見つめながら、翔鶴に問いかける。

 

「あなたは、なんで平然としていられるの?」

 

 翔鶴は一瞬驚いたような表情を浮かべるも、首を傾げ、本気でわからない、みたいな表情を浮かべる。

「なんで、ですか?私が平然としていたら、おかしいですか?」

 赤城は少し苛立った。なぜ、自分のように彼女はならないのか。

 そんな翔鶴に、赤城は次の言葉を言い放った。

 

「……瑞鶴」

 

 愛しい妹の名を口にすると、翔鶴は一瞬悲しみを顔ににじませた。その一瞬を、赤城は見逃さない。

 翔鶴はただ、表面上取り繕っているだけということを確信した赤城は、彼女の本性を明らかにしたくなり、揺さぶりをかけることにした。

「いいの?大事な、たった1人の妹なのでしょう?」

「ええ、瑞鶴は、私の大事な、たった1人の妹です」

「その妹を盗られて、悲しくないの?」

 赤城は問い続ける。その落ち着き払った仮面をはがしてやる、そう内心思いながら。

 

「……いいんです。瑞鶴が幸せなら」

 

 それでも悲しみを心の奥底に封じ込め、笑みを浮かべる翔鶴。彼女が、今の赤城にはまぶしかった。

 姉とは、このようなものなのだろうか?

 赤城には、姉というものがわからなかった。加賀は相方という関係。そして赤城は本来、妹だったからだ。

 彼女の姉になるはずだった船は、完成することなくこの世を去ってしまった。

 

 天城。

 

 赤城の心に楔のように撃ちこまれて取れない、姉の名。

 姉の後釜に加賀がなるといわれたとき、赤城は加賀に複雑な心情を抱いたものの、今では2人はお互いを認め合っている。

 加賀もある意味では、赤城と同じだったからだ。

 

 土佐。

 

 加賀の妹になるはずだった船の名。彼女は、妹を失っている。

 

 もしかしたら加賀は瑞鶴に、土佐の面影を重ねていたのかもしれない。瑞鶴と時を共に過ごすようになったきっかけは、そんな所かもしれない。

 本来あるはずだったのに、失われたつながりを求めて。

 欠けたものを、少しでも埋めるために。

 

―――じゃあ、私は?

 

 機動部隊の象徴、誇り高き一航戦、戦闘狂等、彼女を語る言葉は多い。結果としてそう呼ばれることもあった。ふと赤城は、翔鶴を真っすぐ見つめる。

「あの、赤城さん?」

「……翔鶴」

 赤城は休憩所の端の縁側を指さした。

「あそこに座って頂戴」

「え?は、はい……」

 戸惑いながらも、翔鶴は赤城の指示に従う。

「あの、赤城さん?」

 これから何が起こるのか、不安や戸惑う翔鶴。赤城は翔鶴の隣に腰かける。

 そして……。

「きゃっ!」

 赤城は、翔鶴の太ももへと頭を載せる。いわゆる、膝枕である。

「あ!あの、赤城、さん!?」

「あなたの足、柔らかいわね。細く見えて、意外にお肉がついているのね」

「へ?へ?」

 翔鶴の顔は耳まで赤さを増していく。

「でも、とっても温かいわね」

「そ、そうですか?」

 温かい翔鶴の太もも。細くても、しっかり鍛えられた堅さと弾力が共存しており、それに加賀と違い、ぬくもりが程よく温かい。ふと、胸に開いた穴に、温かさが流れ込んでくるような気がした。

「瑞鶴は、このぬくもりを独り占めしていたのかしら?」

「え、ええ。時々瑞鶴の耳掃除をしていましたから……」

 赤城は次第に腹が立ってきた。この姉の膝枕を堪能するだけでは飽き足らず、相方だった加賀の膝枕(耳かき付)まで堪能するなど……。

 

「……頭にきました」

 

「寝心地悪い膝で申し訳ありません!」

 

「あ、いえ、そうじゃないの」

 謝る翔鶴に赤城は手を振って否定する。

「ただ……、この温もりや柔らかさを瑞鶴が独り占めしていたと思うと、無性に腹が立ってね……」

 そんな赤城を見ていた翔鶴は、くすっと笑った。

「どうしたの?」

「あ、いえ。赤城さん、瑞鶴が羨ましいんですか?」

「……そうね」

 こんな膝枕を堪能できる上に、いつも自分の身を案じてくれる姉がいる。それが羨ましくないなんて、誰が思うだろうか。

「赤城さんでも、そんな感情抱くのですね」

 人によっては、赤城の凛とした姿に尊敬の念を抱くものもいるが、だからといって四六時中そんな状態ではいない。戦闘機械みたいに思う者もいるが、赤城にだって無論感情はある。

 戦闘時に見せる機動部隊の象徴としての赤城、食事時のお腹一杯食べる赤城。彼女にだっていくつも顔がある。

 赤城は転がって翔鶴のお腹とは反対側をむいた。

「……失望した?」

 いつもに比べ弱々しい声に、翔鶴は首をかしげる。

「なぜ、ですか?」

 赤城はぼそぼそと話し始めた。

「みんな、戦闘中は私たち一航戦を頼りにしてくれる。周囲の期待は重かったけど、頼られるっていうのは悪い気分じゃなかったわ。だから、一航戦っていうのは、私の誇りだった」

「私も頼りにしていますよ」

 赤城や加賀を頼りにしない艦娘はいない。そう言い切れるほど強く、頼れるのは確かだし、そんな赤城の背中を翔鶴たちはいつも見つめ続けてきた。

 2人みたいになりたいと、その後を日々追いかけている。

「でも、みんな一航戦に抱く印象は、強さだけじゃない。私たちは、いつでも一航戦らしくする必要があった」

「一航戦、らしく?」

 翔鶴は首をかしげる。

「みんな、私たちに完璧を求めた。強くて、頼りがいがあって、どんな敵にも引かない無敵のような存在。そして、いつも訓練にあけくれ、そんなことを全くにおわせず、涼しい顔をして過ごす様子。誰に対しても等しく接し、感情を表に出さず、みんなの目標や憧れでなければならなかった……」

 上にたつ、それなりの地位にいる、憧れや尊敬を集める者は、それ相応のふるまいが求められる。

 特に生死がかかる戦闘において、旗艦や主力になる艦娘にも同様のものが求められる。強ければいい、というわけではない。艦隊の皆を引っ張る心の支え、気配り、周囲をよく見る目だって必要になる。

 それがもし、日常にも求められ始めたらどうなるか。

 唯一帰る場所でも、気が抜ける憩いの場でも、戦闘時と同じふるまいをしなければならない。

「そんなものを求められたら、弱音の1つも吐けない。でも周囲が求めているのは、艦娘の空母赤城そのままではなく、無敵の一航戦としての赤城だったから、そうあろうとするしかなかった」

 艦娘は皆、戦船の記憶をもつ。その記憶に苦しむものは、少なくない。

 鉄の船だった当時、一航戦の強さは皆が知っていた。そのイメージが、今の赤城にも当てはめられている。

「初めは誇りだったその名も、いつの間にか重荷になってきて……。でも加賀さんがいたから。彼女とは、弱音を言い合える唯一の仲だった。でも……」

 その相方も、今はいない。赤城以外に、加賀の気持ちは向いてしまった。

 加賀の不安を取り除いた、気持ちを打ち明けた瑞鶴に。

「そしたら、なんだか疲れてきちゃって……」

 赤城は翔鶴の膝枕に顔をうずめる。ふと、頭にやさしく手が乗せられるのを感じた。

 

「いいじゃないですか?弱音くらい」

 

「……でも」

「だって、強くて凛としている一航戦としての赤城さんも、弱音を吐きつつ、人に膝枕を求めるあなたも、どちらも同じ赤城さんです」

 頭の上を翔鶴の細長い指、柔らかい手の平が優しく滑る。赤城が感じたことのないぬくもり。

「赤城さん、私たちはもう、鉄の船じゃないんですよ。人の姿を得た艦娘です。嬉しいや悲しい、色んな感情を抱ける体が、今はあるんです」

 この体を得たことで、彼女たちは感情を手に入れた。

 それにより、悲しさや寂しさを感じることになってしまった。

「私も、最初は強い赤城さんの姿にあこがれました。あなたみたいになりたい、そう思いました。ですけど、赤城さんは戦闘にしか興味がないのかなって、いつしか思うようになりました」

「あなたも、そう思っていたの?」

「はい。ですけど、さっきの様子を見て、安心しました。あなたも、私たちと同じなんだって」

 赤城はそれが弱くなることだと思っていた。だから加賀にだけ打ち明けていた。

「大丈夫です。私は、弱音を吐くあなたを見ても、失望なんてしません。むしろ、私たちと同じなんだって、安心できました。これなら、いつか気持ちを、共有できるときがくるかもしれないって」

 赤城は戸惑っていた。翔鶴は、どちらの自分も受け入れてくれている。これが、姉である彼女の寛容さなのだろうか。

 赤城は、胸のあたりの着物をぎゅっと握った。

 加賀が自分の方をあまり向いてくれなくなって、穴が開いたような寒い彼女の心。

 大事な妹が離れようとしている翔鶴。

 もしかしたら、この寒さを、翔鶴なら埋めてくれるのではないか。

 今、似た境遇にある同志として。

 そう思ってしまう。

「……翔鶴」

「なんですか?」

 微笑む翔鶴。

 

 

「……責任、とってくれない?」

 

 

「……へ!?」

 一瞬にして顔が引きつった。

「せ、責任?」

 コロコロ表情が変わるのを見ていると、やはり瑞鶴の姉なのだと妙に納得してしまう。

 瑞鶴は感情豊かで表情も色々変わる。それは、姉も同じだったようだ。

「こうやって、私の戦闘時の姿から人に見せない弱い部分まで、余すことなくさらしたんだもの」

 赤城は翔鶴の頬に手を伸ばす。太ももに負けないほど、温かく、柔らかい。

 食べたくなってしまうほどに。

「瑞鶴の代わりといってはなんだけど、これからは、私があなたの隣にいてもいいかしら?」

「赤城さんが、私の、隣に……」

 翔鶴は耳まで、真っ赤になっていた。肌が白めなだけに赤さが一層際立って見える。

「無論、すぐにとはいわないわ」

 赤城は膝枕から起き上がり、翔鶴の左に腰を下ろす。

「まずはお互いのことを知りましょう。そのために……」

 彼女は翔鶴の耳元で囁くようにいった。

「空いている時間を、一緒に過ごさない?」

 耳のそばでささやかれた声に、翔鶴は体がぞくぞく震えるのを感じる。

 瑞鶴が一緒にいてくれたが、最近加賀さんに彼女の心が向いていることを知り、翔鶴も寂しさを募らせていた。

 でも、姉だから妹の成長を祝福しなければならない。そうやって誤魔化してきたが、やっぱり寂しさは癒えなくて。

 そんな翔鶴に、赤城のささやきは効果絶大だった。

「私でよければ、お願いします」

 微笑む翔鶴を、赤城は腕の中に抱いた。

 これは似た者同士の傷のなめ合いだろうか。たとえそうであっても、赤城は構わなかった。

 傷のなめあいなのか、それとも翔鶴のことが気になるのか、これから自分の気持ちをはっきりさせればいい。

 焦る必要はない。

 まずは、お互いのことを、色んな部分を、ゆっくり知っていこう。

 そうやって、まずは翔鶴を、赤城色に染めあげていこう。

 赤城は口角を上げ、わずかに笑った。

 これから彼女とどう過ごそうか、何をしようか想像し、楽しくて笑みがこぼれた。

 

 

 こうして、赤城による空母翔鶴攻略作戦が、始まった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

気まぐれで思いついた次話なので荒削り、未熟な表現の文章ですが、
楽しんでいただけたら幸いです。

また投稿の機会がありましたらよろしくお願いします。
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