僕がここに来てから、もう一週間は経っただろうか。
水上はどうあれ、この空間は実に平和だ。
平和ではあったが…僕は結局この部屋から出ようとはしなかった。
正直この殺風景な空間は僕の心を削っているけど、それ以上に外に出るのは怖かった。彼女以外の深海棲艦に会ったらどうなってしまうのか、それを考えるとどうしても外を見る気にはならなかったし――海峡夜棲姫も外に出そうとはしなかった。
その理由は僕にはわからない。
この一週間の間、しばしば海峡夜棲姫は部屋に来ては僕に色々と話をせがんできた。どうやら今までもほとんど引きこもりだったらしい。この一週間でも一度きり出ていっただけだった。姫級が出てこないのは鎮守府が苦戦している証左でもあるから少し気が重いけど、轟沈は出ていないみたい。僕にはどうしようもないから気にしない方がいいかもしれないね。
彼女は僕が似ている、と言った「山城」に対して興味を持ったらしく、どんな艦娘なのかをしきりに聞いてきた。僕の方も山城については幾らでも語れてしまうからね……少し話しすぎちゃったかもしれない。(……アレガ少シナラ……アカシックレコードモ…大シタ量ジャ……ナイワネ…)
……なお、山城について語るなかで「山城より小さいね」と評したことで海峡夜棲姫と喧嘩になったことは些細なことだよ。些細な、ね。
(バランスガ…大事ナノヨ……!)
(なんだい?大きい方が良いに決まってるよね?)
……三時間ほどでお互いに水に流したけど。
けれど、いつまでもこうしているわけにもいかない。僕は……どうすればいいのかな。
「そういえば…さ。」
唐突に呟いた時雨に海峡夜棲姫は手に持った彼岸花から目を離して、時雨に目をやった。
…あの彼岸花はどこから持ってきたんだろう。蒼いのは見たことがない。
「キミは山城に似ているけれど…他にも艦娘に似ている深海棲艦はいるよね。何か艦娘と関係があるの?」
「……サア…私ハ…知ラナイワネ……」
そうとだけ返すと彼女はまた手元の彼岸花を弄り始めた。いつも僕に構わせているのに珍しい。
「他の深海棲艦……特に姫級の知り合いとかはいないの?」
「一人……此処ヲ使ッテイル娘ガイルワ……ソウイエバ…時雨ハアッテナイ……?」
「そもそもこの部屋から出たことがないよ。」
「アラ……別ニ出歩イテモ良カッタノニ……」
「そんなこと言ってなかったよね…?」
「……覚エテナイワ」
そっぽを向いて誤魔化す様子は可愛かったが、外に出そうとしなかったのはその程度の理由だったらしい。
それは兎も角として、
「その……姫級の、はどうなの……?」
「ドウナノッテ……ドウイウコトヨ」
「ほら……あの……艦娘への敵意とか。」
「サア……?好キッテコトハ……無イワヨ……ネ?」
「ね?といわれても……」
やっぱりこの
「ねぇ……その……僕は戻った方がいいのかな……」
彼岸花に心が揺れたのか、僕は自然とそう呟いていた。
「―――、――――。」
「……?何か言った?」
「イエ……ソウネ……帰リタイ?」
「………………」
僕は帰りたいのだろうか。
正直未練はあまりない。激務続きの日々でお世辞にも扱いは良かったとは言えないし、仲のよい艦も……悲しいかな数えるほどだ。
それに、ここは景色を除けば居心地はいい。
ぐるぐる悩む僕を見てとったのか、突然海峡夜棲姫は僕の手を取って引っ張り出した。
「ナラ、アノコに会イ二行キマショウ?」
深海棲艦でも柔らかいんだ……
って、そうじゃなくて。
「い、今から…?」
僕の不安も困惑も顧みず、海峡夜棲姫はどこか楽しそうに、至極あっさりと僕をこの部屋から連れ出すのだった。
今度からちゃんと時間をとった方がいいなぁ……
1000文字越えたら投稿するようにしようか。
あ、秋イベは甲甲乙丙丙丙で完走、平戸以外は掘れました