お師匠さんが女体化してから誘惑してくる件について 作:キサラギ職員
「おかえりなさい、あなた! ご飯食べながらする? お風呂入りながらする? それとも玄関でする!?」
「………」
おお………誰かこいつを殺してくれ。
帰宅して早々、俺を待っていたのは裸エプロンのお師匠さんだった。
黒髪を腰まで伸ばした妙齢の美女が、肌の殆どが隠れていないエプロン一丁で出迎えてくれるというのは、男ならば誰もが一回は妄想するのではないだろうか。
これでお師匠さんじゃなければ押し倒していたかもしれん。お師匠さんじゃなければなああああああ!
いかんいかん。落ち着け、落ち着け。この頭に虫でも湧いてるようなセリフのせいで正気を失うところだった。
俺は、買い物袋を下ろすために室内に入っていった。
お師匠さんはって? 持ち前のスルースキルで何事もなかったかのように目も合わせなかったよ!
「んっ、無視なんて酷いぞお弟子君。放置プレイをご所望かね?」
「服を着てください」
「質問しないのかね。どうしてそんなに女の仕草が様になるのか! とか。ふふん。こう見えても女装も趣味だったものでね」
その情報はいらなかった。
「服を! 着てください!」
「裸エプロンで嫁が出迎えてくれるシチュはなかなかそそ」
「服を!!!! 着ろ!!!!」
頭の血管がブチ切れそうだよわたしゃ。
俺は視界にるんるん気分で入り込んでくる異物をよそにお師匠さんの書斎に直行すると、椅子にかかっていたコートを引っつかんで戻ってきた。
「ご開帳―――」
「やらせねぇよ!?」
あやうく半裸から全裸という完全に犯罪な行為をし始めるお師匠さんにコートをかぶせて取り押さえる。
「あん♪ 強引♪」
「ちゃうわい! あんたが脱ごうとするからだわい!」
くそ! もぞもぞ動きやがってからに、着せにくいわ!
ふと気がつくと、顔を真っ赤にしたお師匠さんが俺に力ずくで押し倒されているという状況になっていた。お師匠さんは、ついこの前まで男だったとは思えぬ妖艶な仕草で赤い唇の上に舌を滑らせると、伏目がちに呟いた。
「………強引。やさしく、ね?」
「………うばああああああ!」
床を殴った。いってえ。
◇ ◇ ◇
「もーへそ曲げないでくれよー弟子君~」
「………へそなんて曲げてませんよ」
「さて、そろそろお仕事開始の時間だからね、張り切っていこうねぇ」
「あの」
「ん~」
なぜかはわからないが、お師匠さんは“女魔術師の格好をしている”。
おかしい。今まで男だったということは、男物の服しかなかったはずだ。女装が趣味といっても、背丈までは変えられんのだから、男物の尺のはずである。というのに、薄手のセーターの上から由緒正しいマントを纏っている姿は、袖が余ってるだとか、そういうことが見受けられない。
俺がじーっと見つめていると、お師匠さんは頼んでもいないのにくるりんと一回転して会釈してきた。
「この服をどうやって手に入れたかと聞きたいかね? このカラダになってすぐに、服やらなんやらを買いにいっていたのだよ。女として生きるためにはいろいろと用品も必要だしね!」
行動が早すぎる。なるほど、だから昨日は外出していたのか。
「その、元の体に戻ろうとかそういうことは考えないんですか」
「君が男の体も愛せるなら考えるけどねえ。どうだい? ボクの太い腕に抱かれるというのは」
「いや……それは……」
太い腕ね。ひょろひょろだった癖に生意気な。
元の体に戻るつもりはどうやらないようである。今更感はあるが。
何度も師匠には伝えているのだが、俺は女性しか愛せないのである。だから男の体の師匠に迫られても(師匠はどっちかと言うとウケらしい。知らんがな)ピンとこない。性愛対象としてみろと言われてもお断りである。だが今の師匠は女性の体である。性愛対象になるかといえば、正直いける。むしろお願いしたい。中身が元男じゃないならな!
「だろ? なぁ、正直になりたまえよ。生徒よ。いつでも僕の部屋の鍵は開いているからね?」
「めんどくさくていつもかけてないだけじゃねぇか」
「ふふん。じゃ、そろそろお客さんくることだし、診断開始しようか」
「ちょっと待ってください。男から女になりましたとか、そんなん誰が信じるんですか」
それだ。今まで男性医だったのに急に女医になりました☆ミ とか通用するはずがない。俺だってまだ信じきれてない部分があるのに、他人からすれば男性医がクビになって女医がやってきたと思われても不思議じゃない。
お師匠さんはふむと得意げに息を漏らすと、赤いルージュの引かれた唇を開いた。
「元ボクの方は長い旅に出ました。従姉妹が代役を勤めることになりましたとさめでたしめでたし」
「はー………似てはいますけど、妹とかのほうがいいんじゃ」
「妹なんていないから嘘をついちゃうことになるからねぇ。従姉妹ならいるから、嘘は嘘でも軽い嘘さ」
まあいい。仕事は仕事なんだきっちり済まさないとな。あれこれ言っていても話は進まん。
魔術師は魔術師でも人を治すことに長けているお師匠さんは、まずは相手の話を聞くことから始める。
「最初の方―――」
俺は年老いたおじさんを中に招き入れた。カルテを書くのは俺の仕事だ。お師匠さんを見るや、明らかにおじさんの鼻息が荒くなった。
「あれぇ? いつもの先生は……」
「長い旅に出てしまったので、代わりに私が勤めさせていただいてます」
にこっと笑いながら、足を組みかえるお師匠さん。
狙ってやがる。狙ってるだろ。絶対にそうだ。
おじさんの目線が足に釘付けになったところで、お師匠さんはさっそく診断に入った。
「今日はどうされました?」
「ちょっと息切れがひどくて……心臓がドキドキいってその場で蹲ってしまうことがありましてねえ」
「なるほど。最近変わったことは?」
一番変化があったのはお前だけどな。
なんてことを思いながらカルテを取る。おじさんの脈を取って、それから手を翳して診断していく。お師匠さんの魔術はとても地味だ。火炎を引き起こしたり、目に見える形で何かを起こすということはない。相手の生命の波動のわずかな歪みを検知して、魔術薬を処方するというものだ。唯一派手さがあるとすれば、診断のため手をかざして光を放つくらいである。
お師匠さんがおじさんの胸元に手を翳して光を発すること数十秒。光がスッと引いた。
「はい結構ですよ~。お薬処方しておきますので、係のものから受け取って御代をお支払いくださいね~。お大事に」
「ありがとうございます。また来ますわ」
「はっはっは。医者にじゃなかった、魔術師にかからないほうがよっぽど平和でいいことですよ」
診断終了。俺は、おじさんをカウンターに連れて行って席に座らせる。そして、指定の薬品をって、ここまで言えばわかるがこの診療所もとい魔術師の店は二人でやっている。これが案外忙しいのだ。
「あの美人さんいいねぇ、あんたもそう思うだろ」
「ハハハ……」
おじさんにそう言われたので愛想笑いしておいた。
中身を知ったら仰天するだろうな。
中身が男だからな。男じゃなければなあ。
TSものは
-
順応早くてもいいよね
-
苦悩しろ
-
徐々にメス墜ちしろ
-
そんなことより毎秒投稿しろ