お師匠さんが女体化してから誘惑してくる件について 作:キサラギ職員
オチ無しの日常系四コマ漫画みたいになってるけど気にしない
「弟子くーん! やっぱり料理するときの正装は裸エプロンだと思うんだけど青とピンクのエプロンどっちがいい?」
「今日はお肉を焼いたのと、山菜を煮たやつにしようと思ってるんで時間来たら下りてきてくださいねー」
「料理をする嫁の姿こそ男のロマン! とはいうものの、やっぱり旦那が料理を作っている姿もまた乙なものだねえ!」
「あ、部屋の掃除ならやっておきましたから。次からはちゃんと自分で掃除してくださいね」
「冷たいなァ。あっそうだ男性のエプロン姿はいいんだけど、キミも裸エプロンしてみないかい!?」
「………」
「………」
おかしいのは毎度のことだが、今日はまた序盤から飛ばしてんな。
「ダーリン。実はね、生理がね、こなくなったの」
「ふぁっ!?」
お師匠さんがモソモソっと何かを言った。
俺は思わず包丁を取り落とすところだった。
なんだって? なんだって??
俺は包丁を震える手でまな板に置くと、机でくつろいでいるお師匠さんの傍に寄った。
「というか生理とかあんの!? いや、あるだろうなとは思ったけど冗談抜きで!?」
「………プッ。アハハハハハハ! アハハっ、………ぶっ! ぶひひゃひひひひひ! はーっ、ひぃーっ! 真剣な顔、頂きました☆」
お師匠さんが手で「」を作ってウィンクしてくる。爆笑も爆笑、口が上下に裂けてしまいそうな豪快な笑いである。
生理がこない。その言葉をまさかこのタイミングで聞かされるとは思ってもいなかった俺は、ぜいぜいと呼吸しながらお師匠さんを睨み付けた。
「冗談でもやめてくださいよ心臓に悪い」
「いやはや。生理は来てるとも。ウム。つらいねぇ、女性ってのは。お腹が痛むのがこんなにつらいとは思わなかったよ」
お師匠さんは自分のお腹を撫でながらそんなこと言った。
やはり体が形状だけ変わったのではなく、完全に女性としての機能を持っているということらしい。
俺はお師匠さんと向かい合う形で椅子に腰掛けた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ………そっすか。俺、死ぬのかなって思いましたけど」
「残念なことにキミがパパになるにはチト施行回数が足りんようだねぇ。一緒に回数重ねようね♡ いつでもボクの横は空いてるからね♡」
「するか!」
「えーでもこの前はボクがクタクタになるまで一緒にしてくれたじゃあーん?」
「アンタが終始リードして俺からあらゆるものを吸い取ったんだろ! サキュバスかアンタは!」
「もっかいしよ♡ というかしろ。お前がパパになるんだよ!」
「す・る・か!」
なんてことがあり。
「やっぱり料理の出来る嫁が欲しいんだね!?」
とかなんとかいいながら料理を手伝おうとする師匠から逆手持ちの包丁をぶんどって、本でも読んでろと書斎に叩き込んだり。
「一緒にお風呂入ろー!」
って全裸で駆け寄ってくるお師匠さんを床に投げつけたりして今日は終わった。
そして翌日。
「ということでキミと旅行に行くことになったよ」
とっても綺麗な声で。しかし、ギラギラと欲望を感じる表情でお師匠さんがそんなことを言い始めた。
俺は帳簿をつけている真っ最中だった。危うくインクをポタリと羊皮紙の上に落とすところだった。
「はぁ」
「気の無い返事だねえ。満月草について知ってるかい」
満月草。曰く、満月の時のみ海辺に咲くという花だ。満月の夜、雲が出ていない時のみに咲くと言われていて、薬草の効力を高める効果があるという。普通に購入しようとすると、べらぼうに高い値段を付けられるのだ。
まさか。まさかとは思うが、いや多分そうなんだろうが。
「旅行して摘みに行くとか?」
「その通り! 実はさるお方から満月草がひっそりと咲くビーチについての情報を得てね。普段はだーれもいない無人島なんだけど、そこにいって毟ってこようと思うんだ。同行してくれるね?」
「疑問系ですけど、もう船を取り付けてあるとかなんでしょ」
「お、話がわかるねえ。じゃあ一緒に新婚旅行に行こうね♡」
「新婚かどうかは知らないですけど、お師匠さんの方向音痴に任せたら北極にでもついてそうなんで、行きますよ。いつです?」
「えっとね―――」
◇ ◇ ◇
かくして俺は、お師匠さんと一緒に初夏の無人島へと旅立ったのだった。
ちなみに魔術師の家の診療所は一時的にお休みになった。こりゃ、満月草を樽一杯毟ってこないとな。
「………」
青い空。透き通った海。白い砂浜。誰一人いないそこに、テントが構えられている。俺はその横に設置されたビーチチェアに寝転がっていた。
服装? 水着だよ。え? この時代にそんな普通の水着なんてあるはずがない? あるんだよこの宇宙では。
「暑い……」
一応は満月草を摘みに来たということになっているが、なんでこんなに装備がいいのだろう。
テント、三日は過ごせそうな量の水、食料、酒やらの嗜好品もあるのだ。まさか数日間この無人島でお師匠さんと二人っきりということになるのか。この島に連れて来てくれた船乗りは数日経ったら迎えにくるとかなんとか言ってたしそういうことなんだろうが。
男女二人、無人島。何も起こらないはずもなく。なんてことをお師匠様が期待しているのが透けて見える。
サキュバス呼ばわりしていてアレだが、お師匠さんは天使みたいにかわいい。そこは認める。認めるが、誘惑に負けてはならぬという謎の義務感を感じるのだ。ナカミはオトコだし。
「おまたせ~」
俺が声に我に帰って振り返ってみると、白い肌に相反する漆黒のビキニを身に着けたお師匠さんがいた。黒レースのパレオで腰周りを隠していて、瑞々しい腿が眩いばかりだった。俺と視線が合うと、へたくそなウィンクをしてぺろりと赤い舌を覗かせて来る。
髪型は――活動的なポニーテールにしていた。
「……」
「どうかな? 似合ってる?」
「……に、似合ってますけど、なんで元オトコの癖にそんな着こなしがうまいんですか?」
「女装をね」
「あーはいはい、聞きたくないからパスで」
オトコのお師匠さんが女性水着を着ているシーンを想像してしまったので、俺は頭を振った。
お師匠さんが俺の横にビーチチェアを持ってくると、ごろんと寝転がった。
「満月まではあと一日あるから今日はのんびりとすごそうか」
「やけに装備がいい理由を聞きたいんですけど」
「え? 新婚旅行だからだよ?」
「いや結婚してねーし!」
「えぇ~しよーよー結婚。一緒のお墓にはいろうよー」
「どんな勧誘文句だよ」
「ねー弟子くーん。これ」
お師匠さんがなにやら瓶を渡してきた。コルクの蓋を取ってみると、なにやら粘性の高い液体が入っていることがわかった。これは……オイル?
「塗って」
「自分でやってください」
「………肌カッサカサのボッロボロになって皮剥けまくって」
「わかりましたよ! やればいいんでしょやれば!」
お師匠さんがニコニコしながらチェアの横に敷いてあった布の上にうつ伏せで寝転がると、ビキニの上の金具を取る。丁度、胸に布地がかかっているだけの状態になった。
「やりますよ」
「ちゃんと手で温めてね」
俺はオイルを手に塗ると、お師匠さんに手を伸ばしたのだった。
いいところですが次回に続く!!!!!