鈴木悟のちょこっとしたなろう   作:コトリュ-42

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ある日森の中闇妖精と出会ったさぁ踊りませう

 

 異世界転生した直後にヒロインと合流した。

 そう言葉にすれば何の問題も無いように見えるが、そのヒロインはどデカい巨大な斧頭を持つ武器(バルディッシュ)を振り回す、角と翼を備えた美しい悪魔であったのだ。しかも女淫魔(サキュバス)なので性的に襲ってくるわけで……。

 異世界転生ってこんな感じだったかな? とペロロンさんの秘伝書を読み返したくなる。

 

「モモンガ様、こちらの準備は完了いたしました」

 

「ああ、あのモンスターは大丈夫だったの?」

 

「はい、あの者はトロールなので首を落とされた程度では死にません。今は巣穴に戻らせております」

 

 ヒロインによる第一の被害者は、“グ”という名の妖巨人(トロール)であった。

 ユグドラシルでも登場した雑魚モンスターであり、この辺りを支配していた強者の一角でもあったという。

 となると、この森はひとまず安全だ。本でも読んでゆっくりしよう。

 

第三章「出会い」

 異世界で出会うのはヒロインだけじゃないぞ。

 別パターンとして子供が仲間になったりもする。

 もちろん、特別な力を持った可愛くて癒される素晴らしいロリだ。

 双子バージョンも至高!

 ただ、癒し枠が動物になる場合もあるので注意が必要だぞ。

 動物と出会ったなら人化が必須だ。『ロリもふ』を堪能するため、頑張って人型に変身させよう! 猫耳最高! 尻尾は癒し!

 

「……ペロロンさん、この秘伝書は“誰でも楽々異世界ハーレム術”が書かれているはずですよね。なのになんで子供の記載が? ああぁぁ、あの人マジで犯罪者になっちゃうんじゃ――」

 

 知り合いの犯罪者指数を気に掛けていたその時、森の中がざわめく。

 

『うわぁああああん、だれかたすけてぇ。まよっちゃったよぉ』

『あ、あの、たすけてくださーい。まいごに、えっと、なっちゃったみたいでーす』

 

 突如として降り注ぐ可愛らしい救難信号。それはどう聴いても、助けを求めている子供の声であった。

 ちょっと危機感が不足気味のようにも思えたが。

 

「アルベド! 今の聴こえたか?! 子供だよな? しかも二人!」

 

「はい、モモンガ様。ハッキリと耳にしましたが、それほどお気になさる必要はないかと。元気そうな子供なので、放っておいても大丈夫でしょう」

 

 え? ――と必要以上に密着してくるアルベドを二度見しながら、自分の良心に問いかける。

 子供が助けを求めていたら無条件で助けるべきだろ。

 誰だってそうする。俺だってそうする。

 

「ちょっ、アルベドは子供嫌いだったか? 流石に森の中で迷子になっている子供を無視するわけにはいかないだろ?」

 

「もちろん、モモンガ様の子供でしたら生みたいほど大好きです!」

 

「だぁー! そうじゃなくて! いや、そんなことより助けに行かないと」

 

 なんだか話題的に襲われそうな気配を感じたので、少しばかり強引に子供の捜索へ逃げようとするも、よく考えれば森の中の活動は苦手だ。

 迷子の子供はいったいどこにいる?

 

「アルベドも探索系じゃないしなぁ。魔法で探してみるか……」

 

 ダンジョン御用達の妖精さんに登場願うべきか? と思考していたところで、快活そうな少女の声が響き渡る。

 

『はいはーい! そこから右手側に二百メートルほど進んでくださーい!』

 

 あれ? ――と疑問に思えども、子供がモンスターに襲われる可能性を考えれば即座に走り出さねばならない。

 だが気になる。

 迷子の子供が、なぜ道案内などしているのかと。

 

『目の前に樹齢千年ぐらいのでっかい木が見えたら、次は左手側に八百メートルほど進んでくださーい!』

『えっと、そ、そこにある花畑に僕たちは居ますので、よろしくお願いしまーす』

 

 君たちは本当に迷っているのか? と言いたくなる誘導に、ちらりとアルベドへ疑惑の視線を向けるが、当の白い悪魔は森の邪魔な枝を軽くぶち折りながら笑顔で並走している。

 何か知っているのかもしれない。

 だけど話す気はなさそうだ。

 

「まぁ、アルベドがこの異世界に居る時点でおかしいよなぁ。これって俺がナザリックを要求した所為なのか?」

 

 神様っぽい白い光にナザリックを持っていきたいと頼んだのは自分だけど、NPCが自我を持って動き出すとは想定していなかった。

 異世界転生とはこんな感じでよかったのだろうか?

 展開的にはペロロンさんの秘伝書通りではある。不気味なくらいに……。

 

「モモンガ様、もう少しで目標地点です」

 

「お~、慣れない森の中を走っているのに、転びもしなければ疲れもしない。レベル100の身体能力は異世界でも役に立ちそうだな」

 

 森の中の道なき道を、全力疾走で1キロも突き進む。

 異世界転生主人公のチート能力は、実感するとやはり素晴らしいモノである。

 いきなり白い悪魔に襲われそうになって怯えが先行していた異世界ではあるが、己の理不尽な能力さえ認識してしまえばどうということはない。

 これで存分にイキり倒せるというものだ。

 

「よし、ここが花畑か? 子供たちはどこ――ぶばっ」

「モモンガさまー! ありがとうございまーす!」

「ああぅ、お姉ちゃーん、ま、待ってよぉ」

 

 開けた空間に美しい花畑、そして何かの影を視認したかと思えば、小柄な人型が物凄いスピードで頭部へ抱き着いてきた。

 

「こ、こらっ、前が見えないから離れなさい。危ないからっ」

 

「え~、駄目ですかぁ? モモンガさま~」

「お、お姉ちゃん、一人だけズルいよ~。僕も抱っこしてほしいのに……」

 

 柔らかい感触を頭で感じながら、モモンガは迷い子たちの容姿を確認する。

『やはり』というべきか、ナザリックの関係者で子供と言えば最上位でヒットする存在。第六階層の守護者、ぶくぶく茶釜が作成したNPC、可愛らしさが溢れている闇妖精(ダークエルフ)の双子であった。

 

「ええ~っと、アウラにマーレ、だったかな?」ぴょんぴょん跳ねていたミニスカート姿の男の娘を空いていた片腕へ抱え乗せ、モモンガこと人間姿の鈴木悟は問いかける。

「どうして得意な森の中で迷っていたんだ?」と。

 

「はい、そういう設定だからです!」

「あの、えっと、シャルティアさんが『困っているところを助けてもらうのが王道』だって、その、言ってたんです」

 

 あ~、設定ね~。

 つーか、ペロロンさんのNPCであるシャルティアもこっちに来ているのか~。

 あ~、なんとなく嫌な予感がするなぁ。

 

 異世界転生でやりたい放題の人生を送るはずだったのに、最初から躓いているような気がする。こんな調子で異世界ハーレムを達成できるのだろうか? いやそれより、これは本当に王道なのだろうか?

 ちらりと、機嫌の悪そうな白い悪魔を窺う。

 

「モモンガ様、もうよろしいのではないですか? 二人を抱っこする必要はないでしょう。私ですら抱きしめてもらっていないのですから」

 

「あ、はい……」

 

「ちょっとアルベド! あたし達の行動には口を出さない約束だったでしょ?!」

「そ、そうですよ。アルベドさんはモモンガ様と最初に出会えたのですから、えっとその、僕たちは抱っこしてもらっていいと思います!」

 

「ぐぬぬぬぬ」

 

 どんな取り決めがあったのかは分からない。異世界へ来たばかりなのに準備万端っぽいのもよく分からない。というかここは何処なんだ?

 

第四章「人里」

 出会いイベントでヒロインと合流したら、街や村へ案内されよう!

 ヒロインは主人公に一目惚れ状態なので、無警戒で連れて行ってくれるぞ!

 のんびり好感度を上げつつ、何故か薄着のヒロインと共に街へ直行だ!

 街に着いたらお待ちかねの門番イベントが始まる。

 例の『お前は何者だ?』『身分証は?』『どこの田舎から来たんだ?』『ちょっとこれに手をかざしてみろ』『後で正式な身分証を発行してもらえ』『問題は起こすなよ』という台詞が聞けるぞ。

 ヒロインとイチャイチャしながら体験してみよう。

 

「……これでイイのか異世界? ヒロインも都合よすぎるだろ? 今日会ったばかりの相手を信頼しすぎだぞ。若い女性が自分の住んでいる場所とか教えちゃだめだと思う。茶釜さんとかも住所関係はしっかり管理していたし」

 

「ぶくぶく茶釜様がそうなら、そうなんだと思います!」

「は、はい! ぼ、僕もそう思います」

 

「あ、うん」

 

 しまった――。思わず現実逃避気味にペロロンさんの秘伝書を読んでしまったが、子供が傍に居る状態で開くものではなかった。というかこれは十八禁だろう。子供の教育によろしくない。

 

「そ、そういえば、ここってどんな場所か知っているか、アルベド?」

 

「はっ、姉からの情報によりますと、現在地は“トブの大森林”と呼ばれている危険地帯であるとのことです。魔獣などが多く生息しており、原住民でも足を踏み入れることはほとんどないそうです」

 

 ふ~ん、姉ってニグレドも普通に居るのね――と別のことに感心するモモンガは、異世界転生における定番行動へと思考を繋げる。

 

「では、近くの街へ行くとしよう。いつまでも森の中では異世界へ来た実感が沸かない」

 

「かしこまりました、モモンガ様。それでは――姉さん聴こえる? ええ、街の座標をオーレオールに……。そうよ、エ・ランテルの、あとは打ち合わせ通りに」

 

 ネックレス型のマジックアイテムで誰かと連絡を取っているらしいが、アルベドの言葉には不穏さしか感じない。ってか打ち合わせっていつの間にしたんだよ!?

 

「あの~、モモンガ様。近くにあるのは人間の街なんですけど、嫌じゃないですか?」

「に、人間は街に入ろうとするモモンガ様を、あの、攻撃したんですよね? 僕、許せないです!」

 

 あぁ、確かに異形種は人間の街へ入れない。それがユグドラシルにおける設定の一つなんだけど、今は人間の姿になっているから問題はないだろう。ここ異世界だし。

 むしろ角や翼のあるアルベドの方が……。

 あれ? ちょっと待て。

 

「すっかり忘れていたけど、アウラとマーレは人間の姿である俺がモモンガだって判るのか? 自然にバレていてアルベドにも聴き忘れていたけど……」

 

「はい、もちろんです! どんな格好でもモモンガ様を判らないなんてことはありません」

「ぼ、僕も判ります。モモンガ様の気配を見逃したりしません」

 

 どのような仕組みなのかは不明だが、当然であるかのように頷くアルベドの様子からすると、本当に見破れるのだろう。

 だが人間姿の時にモモンガと呼ばれるのは、なんだかむず痒い。

 

「ふ~ん、そういうものなんだなぁ。まぁそれはそうとして、姿が人間の時は“鈴木悟”――、悟と呼んでくれないかな?」

 

「「はい、モモンガ様!」」

 

「――んんっ? (あれぇ? 俺、今ハッキリと言ったよね。悟と呼ぶように言ったよね。確実に聴こえた音量のはずだけど……。ううん? どうなってんだこれ?!)」

 

「どうかなさいましたか? モモンガ様」

 

「――っむんんんんん? (アルベドまで?! いや、必要以上に密着していたから聴こえてないわけがないよな!? なんだこれ?! なんなんだ?! 呼び方を変えたくないのか?!)」

 

 ナザリックのNPCであったからか、普通に当時の上下関係を踏襲していた。自分の命令に従ってくれる配下であると勝手に認識していたのだ。

 しかし相手が自立意思に目覚めた一個人であるならば、好き嫌いや主義主張を当然ながら所持しているだろう。それを否定するわけにはいかない。

 とはいえ、異世界転生主人公に纏わりつくヒロインたちは、NPC以上にプログラムされたような行動しかとらないはずでは? ペロロンさんの秘伝書には、そう書いてあったような……。

 

「モモンガ様、何か問題があるのであれば御命令を。万難を排除して御覧にいれます」

「はいはーい! あたしにも任せてくださーい!」

「ぼ、僕も、あの、がんばります」

 

「あぁ、いやその、まぁ、とりあえず近くの街まで行くとしようか」

 

 ちょっとビクビクしながらも、次のイベントへ向けて動き出す。

 異世界転生には必須となる、“最初の街”到着イベント。

 異世界から来た主人公は奇妙な服装をジロジロ見られたり、ファンタジー感満載の街並みに驚いたり、胸を強調する痴女みたいなお姉さんと出会ったり、都合よく襲われている女の子を悪漢から救ったりするのだ。

 だけど――、移動手段はこれでイイのだろうか?

 

「ではモモンガ様、〈転移門(ゲート)〉で近くにある人間の街“エ・ランテル”へ向かいます。どうぞこちらへ」

 

(……いきなり最高位の転移魔法って、異世界へ来て一日目なのに大丈夫かなぁ。いやでも、転移者は最初から高位階魔法を使ってイキるからいいのか? ん~、神様から貰った力を自分のモノのように振るうのは抵抗があるなぁ)

 

 魔界への門であるかのように開いた闇の中へ一歩を踏み入れ、モモンガは大森林を後にする。途中、赤と白の巫女衣装を纏った長い黒髪の女性へ軽く挨拶を放ち、更に転移し、広大な大地へとその身を置いた。

 足下には未完成を思わせる歪な石畳。目線を上げれば巨大な城壁が見える。

 どうやらここは街の外、入り口付近であるようだ。

 

「ああ、これから検問所を通るわけか。うんうん、異世界転生らしくていいと思うけど……。コレなに?」

 

 ファンタジーの城壁に感動したいところだったのに、それを許してくれない集団が目に入ってしまう。

 街の門へと続く街道の両脇に、額を地面につけて平伏している現地民の方々。

 旅の商人やその護衛、兵士らしき人たち。近くの村から何かを売りに来ている農民っぽい男衆。出稼ぎ目的かと思われる若者の群れ。

 皆が皆、土下座状態で王様の通り道を作るかのように並んでいる。

 今からこの街道を、身分の高い誰かが通りかかるとでも言うのだろうか? だから頭を下げて脇に寄っているのだろうか? ならば自分たちも、道を空けないといけない気もするが……。

 

「えっと、どうしたら?」

 

「モモンガ様、愚民どもの準備は整っております。どうぞお進みください」

「頭を上げるようなおバカはあたしがぶっ飛ばしますから、任せてください!」

「あ、あの、御不快でしたら全員地中に埋めちゃいますから、その、いつでも仰ってください」

 

「ああ、うん、そうだね……」

 

 なんか怖い。

 何でこんなに好戦的なんだ?

 いや、確かにそういう設定だったけども! アルベドだけじゃなく、アウラやマーレも目が本気なんですけどっ!

 異世界転生での最初の街訪問は、こんな感じじゃないはずだが?!

 

「こほん、ああ、聴いてほしいんだが……」慎重に言葉を選びながら、存在を否定しないように語り掛ける。

「今後の方針として、誰かを傷つけたり殺したりするのは無しでお願い。血がドバーっと噴き出すスプラッタも禁止で。まぁつまり、みんな仲良く――ね」

 

 ハッキリ言って心臓バクバクである。

 超強力なNPC三体を前にして急な方針変更は、反感を買う可能性がある。悪の組織であったナザリックに平和主義を持ち込もうというのだ。異世界に来たからと言っても無理があろう。

 だけど、やらねばならない。

 せっかくの異世界転生で殺し合いの日々を送るなんて、もったいないにもほどがある。ペロロンさんも殺伐とした日常には反対のはずだ。

 ハーレム形成に人死にや流血は要らない。

 必要なのは、ゆるい設定とお約束の展開。化け物じみた実力を無自覚に披露して、『流石は○○様!』と褒められる異世界王道シチュエーションなのである。

 

「……かしこまりました、モモンガ様。今後は『生命の奪取』を厳禁とし、血液が体外へ流出するような事態の発生も抑えるよう、ナザリックの全(しもべ)たちへ通達いたします」

「弱い人間なんか殺す価値もないってことですね! はいっ、わかりました!」

「モモンガ様、ぼ、僕も殺さないよう気を付けます」

 

「うん、よ、よろしく……」

 

 ちょっと勘違いされているような気もするけど、とりあえずは良かった。これで殺伐とした異世界生活からは距離を置くことができただろう。

 

「んじゃ、街へ行くとしようか」

 

 ようやく最初の街へ到着である。

 異世界転生モノならば第一話で消化できそうな簡易イベントのはずなのに、何だか酷く疲れてしまった。

 ヒロイン(?)や子供たちと出会っただけなのに何故だろう?

 いや、気が重いのは土下座している現地民の前を、王様みたいに歩いているからに違いない。まるでこっちがさらし者になっている気分である。

 “死の支配者”になっていれば少しはマシなのだろうか?

 ほんともぉ、転生主人公ってこんなんじゃないよねっ。

 

「モモンガ様、ようこそ“エ・ランテル”へ!」

 

「はぃ?」

 

 通常の異世界モノであるならば、検問所の兵士に槍でも突き付けられ、『貴様、何者だ? 身分証を見せろ!』と凄まれるパターンのはずだ。

 それなのに出迎えてくれた眼鏡の門番は、仕立ての良い高級スーツをビシっと着込み、神前であるかのように跪いてくる。

 

「デ、デミウルゴス? な、何してんの? こんなところで」

 

「はっ、モモンガ様をお迎えすべく、門番をしておりました。さぁ、お入りください」

 

「いやいや、ちょっと待った!」あっさり中へ入れるのは有難いけど、そうじゃない。街へ入る時はひと悶着あるべきなのだ。それが異世界なのだ。ペロロンさんの秘伝書にもそう書いてあるのだ!

「えぇ~っと、そう、身分証とか持ってないけどいいの? それに通行料とか税金とか……」

 

「なんとっ、モモンガ様に身分証など必要でしょうか?! いえ、至高の御方々の頂点に君臨する絶対支配者のモモンガ様は、神をも砕く究極の存在! 他の誰かに身分を証明せねばならないなど有り得ません! もしそんなことを言ってくる輩が居れば、ナザリック全軍をもって壊滅して御覧にいれましょう!」

 

「あ、うん。そうだね」

 

「加えまして、通行料や税金などはモモンガ様へ捧げるのであればまだしも、受け取るなど不敬の極み! もしそのような者が――」

「うん、解った! すごく理解した! うんうん」

 

 こんなん門番じゃない、と思いつつも、修正しようもないから先へ進む。訳の分からないイベントはスキップするしかないのだ。

 

「んん~、っとそうだ! アレ! 街へ入る時に水晶玉とか石板を触って、犯罪歴がないか調べるヤツ! アレやろう!」

 

「犯罪歴を調べる、水晶でございますか? 何やら特殊な魔法具(マジックアイテム)のようですね」

 

「あ、あれ? ここは無いパターン?」門近くの検問所へ入っても、目当てのモノは見つからなかった。このエ・ランテルという街には用意してないのか、そもそもこの異世界には存在しないのか。現時点では判るわけもない。

 

「なるほど、そういうことですか」

 

(えっ? なに?)

 

「魔法具による人民情報の管理……。犯罪歴すら記録する完全な個体照合。この世界に生きるどんな矮小な生命体であろうとも、利用価値はあると。流石はモモンガ様、魔法具を用いて完璧な戸籍を作成するおつもりなのですね」キラリと光ったのは眼鏡か眼球か? 頭の良さそうなキャラは色々察しすぎて手に負えない。

「統括殿から通達のあった件も加味すれば、モモンガ様は世界を生かしたまま支配し、管理なされるということ。ふふふ、これはパンドラと相談しなくてはなりませんねぇ」

 

(ああ、やっぱりパンドラも奴もこっちに来てんのね。いや、別にいいんだけど)

 

 とりあえず聞こえなかったフリをして、モモンガは軽くせき込む。

 

「こほっ、んん、っとそれじゃあ、入っていいかな?」

 

「これは失礼いたしました。御案内いたします」

 

 姿勢の良い眼鏡悪魔に先導されて、門を潜った先に待っていたのは――空を舞うたくさんの花びらと高級そうな赤絨毯、そして四十一人の綺麗なメイドさんでした。

 

「「「ようこそモモンガ様!!」」」

 

「はひっ?!」

 

 ファンタジーな街の景観を堪能する前に、ハプニング発生である。

 モモンガの足下には巨大な赤絨毯が敷かれており、その左右に立ち並んだメイドさんから色鮮やかな花びらが舞い飛んでくる。

 メイドの一人一人にはハッキリとした個性が見て取れ、そのどれもが美しく可愛らしい。

 一見同じように見えるメイド服も、実際は別物の仕上がりだ。レースの一つを見ても、全てが異なる模様である。

 どこかのホワイドブリムが、魂を込めてデザインした戦闘服らしい。素晴らしく変態的な職人の仕事であると言えよう。

 

「あ、ああ、ナザリックの一般メイドたちか……。なんでここに?」

 

「至高なる御身が訪れてくださるのですから、これぐらいの出迎えは当然ですわ。私もメイド服を着てお待ちしようと思っていたぐらいで」

「アルベド、一般メイドの素晴らしい御役目を奪うのはどうかと思いますよ。それに貴女は、モモンガ様と最初に出会うという最高の栄誉を獲得しているでしょう」

「だよね~。まぁ興奮してモモンガ様に避けられちゃったけど」

「や、やっぱり、その、僕が最初に御出迎えしたかったなぁ」

 

「ぬぐぐぐ……」

 

 ナザリック内部では様々な話し合いがあったらしい。聴きたくはないが。

 それより、どうしたらいいのか。

 大通りに敷かれた赤絨毯の上を歩いて進む、なんて恥ずかし過ぎる。街の住人が一人も居ないから大丈夫、って問題じゃないぞ! ってか何で誰も居ないんだ?!

 

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