サマポケしろはルートクリア後のお話しになります。

1 / 1
鷹は空を舞う-しろはの誕生日-

 六月八日。

 今日は私の誕生日だ。

 あの夏の死の運命を乗り越えて、私は年齢を一つ重ねることが出来た。

 来るとは思っていなかった誕生日。

 来てしまった誕生日。

 とは言っても、何も変わらない日常を過ごすものだとばかり思っていた。

 そう、つい先週までは。

 のみきに、ある報告を受けるまでは。

 

 

* * * * *

 

「え、羽依里がくるの?」

「あぁ、しろはの誕生日を祝いたいそうだ」

 スイカバーを買いに駄菓子屋を訪れた際に、偶然出くわした。

 のみきはとても重要なことをさらりと言ってのけた。

 羽依里がくる。

 なんでくるの。

 祝う? 私の誕生日を?

「誕生日の日にち、教えたのか」

「うん。手紙で。羽依里の誕生日のお祝いをするときに」

「あれから、ちゃんと文通してたんだな。良い事だ」

「………うん」

「まったく。鷹原も、しろはに直接電話すればいいものを、島の役場にかけてくるんだからな、困ったものだ」

 あの人は、何をやっているんだか…。

 そう、私と彼との関係は、遠距離ながらも便箋によって繋がっていた。

 お互いに想いを伝えただけの、くすぐったい関係。

 そもそも、付き合う、とかよく分かんないし。

 どうしたいか、なんて言われたって分かんないし。

 でも、最初に贈った言葉。

 それ自体は、書いていない心に秘めた言葉だけど。

 その気持ちだけは今も持っている。

「ちょうど、次の土曜日だろう。私もプレゼント用意するぞ」

「う、うん…。ありがとう」

 

* * * * *

 

 そして、当日。

 島の食堂に皆で集まる。

 蒼にのみき、良一君に天善君。

 私と、そして羽依里。

 彼とは、恥ずかしくて殆ど、顔を合わせられていない。

 立ち位置は、皆が気を使ったのか。何なのか。隣合わせた位置にいる。そして、妙に距離が近いのが落ち着かない。

 羽依里も同じ気持ちで居るのだろうか。

 『好きになりました』というあの言葉以降、それらしい会話(文通だけど)はしていない。

 自分の気持ちがよく分かっていないのに、人の気持ちなんて分かるわけがない。

 彼はどうしたいんだろう。

「じゃ、みんないいー? スイカバーは持ったかしら?」

 蒼の掛け声に一斉に、アイスを構える不思議な光景。

 島の駄菓子屋には、毎回一本しか入荷しないスイカバー。

 今回は、私の誕生日ということで、特別に人数分を仕入れてくれたらしい。

 どうせなら、いつもこれぐらい仕入れてくれればいいんだけれど。

「ではではー! 水平に向けて円を作るように合わせる!」

 六人六本のスイカバーが、程よく隙間は開けつつも、見様によっては円形に。綺麗な西瓜が描かれる。

「良一! シャッターお願い!」

「任せろ!」

 良一君の片手に握られていたインスタントカメラが、上からその光景を、その瞬間を切り取っていく。

 パシャりと軽い音が一瞬。

「「「「「しろは、お誕生日おめでとう!」」」」」

「あ、ありがとうございます」

 お祝いの言葉が降り注いだ。

 こうして、沢山の人にお祝いをしてもらったのは初めて。

 一年前までは考えられなかったことだ。

 変化を与えてくれたのは、隣に居る彼。鷹原羽依里。

 不思議な人。

 私の世界をどんどん変えていってしまう人。

 夏休みに現れて、終わりとともに帰っていった。

 短い間だったのに、一緒に居た時間はあまりにも濃くて。

 忘れていた夏休みの過ごし方を、思い出させてくれた。

「ありがとう…ございます…」

 色々と考えていたら、何だか涙が出てきてしまった。

「ちょ、ちょっと、しろは!? 羽依里…あんた、また何かしたんじゃないでしょうね?」

 私を心配した蒼は、ジト目で羽依里を睨む。

「ええ…誕生日を祝いにきただけなんですけど」

「ほんとかしら…」

「別に、何もされてないよ。私が勝手に昔のこと思い出してただけだから」

「? それなら、いい…のかしら? まぁ、とにかく食べるわよ! この後ちゃんとケーキも用意してるんだから!」

 楽しい誕生日パーティーはさらに盛り上がった。

 

 

* * * * *

 

 夕暮れの空。

 楽しかった時間はあっという間に過ぎて、会はお開きとなった。

 港の桟橋まで、本土へと帰る羽依里を見送りにきた。

 結局、彼とそれらしい会話は一切しなかった。

 そういう意味では、ちょっと寂しい。

 あれ…? 寂しい…? よく分からない気持ちがまた溢れてくる。

 この気持ちは何とかしてもらいたい。

 隣ではなく、前を歩く羽依里の背中をじーっと見つめる。

 じーっと見つめる背中が、何故か急に大きく見えてきて…反転した。

「あっ」

「おっと…」

 急に立ち止まった羽依里の腕の中に、そのまま吸い込まれていく私。

 なんでそこで立ち止まるの。意味分かんないし。

 なんで抱きしめられちゃってるの。凄い意味分かんないし。

「ああああ……」

「うわっ…ご、ごめん」

 少しだけ、少しだけ、離れる。

「う、うん…平気」

 全然平気じゃない。間違いなく、顔は真っ赤だ。

 まともに前を向けない。

 でも、もしかしたら彼もそっぽを向いているかも。

 謎の賭けに出た私は、顔を羽依里の方に向ける。

「!?」

 ちょうど、目があった。なんで同じタイミングで顔を向けるの。

「……ぁ…そ、その…」

 夕日と同じか、それ以上に真っ赤な羽依里の顔。

「誕生日おめでとう、しろは」

「え、うん。ありがとう」

「楽しかった?」

「うん。楽しかった」

「そか、それはよかった」

「うん」

 会話は続かない。

 本当はもっと喋りたいけれど続かない。

「あと……」

「?」

「また夏休みに来るから」

「え、また来るの」

「来ちゃだめ?」

「別にいいけど」

 それだけの会話。

 互いに不器用すぎて、笑みがこみ上げてくる。

「じゃあ、もう船が出発するみたいだから!」

「あ、うん。じゃあね」

 別れの言葉を交わし、羽依里は船に乗り込んでいく。

 それを待っていたかのように、連絡船は動き出した。

 また夏休みか…。

 来年も彼は遊びに来るという。

 少しの間の別れ。

 桟橋を船が離れてい…?

「あーーー!!!」

 羽依里が大声で叫ぶ。

 船の上を全速力でダッシュ。

 そのまま、柵を乗り越えて、空に飛び上がった。

 黒い上着が、空気の抵抗を受け、翼のように広がる。

 『傷ついた渡り鳥』だったか。もはやそんな名前は感じさせない力強い羽ばたき。

 鷹は空を舞う。

 時間にして、一瞬。

 私の瞳には永遠とも思える光景が映る。

「よっ、と…」

「なんで戻ってくるの…」

「…忘れてたものがあって」

「忘れ物?」

 スポーツバッグを漁り、お目当てのものが見つかったのか。

 取り出されたのは、小さいながらも、上質な素材と見て取れる箱。

「あの…しろはに…誕生日のプレゼント、渡してなかった…というか渡せてなかったというか…」

 頬をかきながら、ひょい、と差し出されたプレゼント。

「ありがとう…普通に渡してくれればいいのに」

「ぅ……だって…」

「だって?」

「好きな女の子…だし」

 それっきり真下を向いてしまう羽依里。

「………ぁ……」

 その言葉を受けて私も前を向いていられなくなる。

 互いに、コンクリートとにらめっこして数分。

「…これ、いま開けていいの?」

「…俺が帰ってから、こっそり開けて…」

「…船、出発しちゃったばっかりだけど…?」

「あああああーーーー! どうしよう…」

 羽依里って面白い。

 照れたり。笑ったり。泣いたり。驚いたり。突拍子も無いことしたり。

 心に隠れた、この気持ちの正体は、まだよく分からないけれど。

 お父さん。お母さん。

 私、素敵な人に出会いました。

 まだ、どうなるかも分からないけれど、少しだけ前を向いて歩き続けられそうです。

 最高の誕生日をありがとう。羽依里。

 

 

 

【鷹は空を舞う-しろはの誕生日- 終わり】


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。