彼女はその一発で終わらせる【完結】   作:畑渚

3 / 3
後編 彼女たちの結末

「指揮官さん!状況は!?」

 

 Karは瓦礫に身を隠しながらそう叫ぶ。

 

「Karちゃん!無事!?」

 

「このくらいで死んだりしませんわ!」

 

 Karは急いで弾丸を取り出し、銃に込める。

 

「ダミーは3体……味方も行方不明ですか……」

 

「Karちゃん、いったい何があったの!?すごい音が聞こえたけど」

 

「ビルの崩壊ですわ。画像を送りましょうか?」

 

「いや、いいよ。すぐに支援部隊を送るからその場で待機していて」

 

「私もそうしたいのは山々なのですが……」

 

 音を立ててボルトを戻し、弾を装填する。

 

「わたくし今、敵に囲まれていますの」

 

 瓦礫から飛び出すと、ダミーを盾にしながら、確実に敵の頭を撃ち抜いていく。5発で5体を倒しきり、再び瓦礫へと身を隠す。

 

「……この通りに敵?ということは……さいあく」

 

「何がですか?」

 

「いや、Karちゃんは気にしないで。それより今は生き延びて」

 

「それはなかなかに難しいですわね」

 

 Karはポケットに手をつっこみ、残りの弾薬を取り出す。銃に詰め込んだ後、最後に残った一発を口に咥える。

 

 瓦礫に対する一斉斉射が鳴り止まぬうちに、飛び出す。弾が頭をかすめ、肩を貫き、足の関節を砕く。しかし、足を止めずに打ち返す。

 

 一発の弾丸は敵のMFの頭蓋を粉砕する。ダミーをも纏めて行動不能にする。

 

 一発の弾丸は敵の近くの車へと突き刺さる。ガソリンタンクを撃ち抜いたそれは、爆発を引き起こし、少ない数の鉄血兵が足止めをくらう。

 

 一発の弾丸は二体の頭を撃ち抜いた。柔らかい部分をしっかりと貫通し、中身にも大きなダメージを与える。

 

 一発は敵のコアを撃ち抜いた。コアを撃ち抜かれた人形は、引き金を引いたままの銃であたりの人形たちに損傷を与えながら、事切れた。

 

 一発はKarからまっすぐと飛んでいく。そしてその弾は、敵の撃つ弾とぶつかってその軌道をそらす。その軌道がそれたおかげで、Karは致命傷をくらわずに済んだ。

 

「Karちゃん!あと1分30秒で到着するよ!」

 

 Karは口に加えていたラスト一発を装填する。

 

「指揮官さん、いますぐその部隊を撤退させてくださいな」

 

「Karちゃん……?」

 

「この敵の数では無意味です。撤退させてください」

 

 一度、銃撃が止む。先程まで騒がしかった戦場がまるで嘘のようだ。

 

「それじゃKarちゃんが!」

 

「わたくしはここで死んでもそっちで生き返れますわ」

 

「でも!バックアップは完璧じゃないんだよ!」

 

「たった数日分くらい、すぐに取り戻せますわ」

 

 Karの足にコロンと何かがあたる。それが手榴弾であることがすぐにわかった。今はなき味方の置き土産だった。

 

「どうやら神様は私を見捨てていないみたいですね」

 

「待って!Karちゃん!」

 

「指揮官さん。明日の朝食、楽しみにしていますわ」

 

 ダミーが指示通りに動き始める。

 

「待って!待ちなさい!Kar!」

 

「それでは、おやすみなさい。指揮官さん」

 

 Karが前に踏み出すと同時に、敵の銃撃が再開する。ダミーに風穴を空けながら、Karは前へと進む。一体、また一体とダミーが倒れていく。残りの一体も盾としてすら使えないほど穴が開いても、Karは進み続ける。

 

「せめてこの一矢だけでも……!」

 

 手に持った手榴弾を空に投げ、サイトを覗き込む。

 

 ターンというKar98kの銃声は、手榴弾の爆発音がかき消してしまった。特注に強化されたそれは、勢いよく破片を撒き散らす。

 破片は周囲の人形につきささり、決して浅くはない傷をつくる。

 

 爆風でKarの帽子が後方へと吹き飛んだ。

 

「Karちゃん!いま爆発音が聞こえたけどどうしたの!」

 

「あら、指揮官さん。通信は切っておいたほうが良いと思いますよ」

 

「何を言って――」

 

 指揮官の声は、銃声でかき消された。通信機には、銃声の他になにか鈍い音が混じっている。

 

 それがKarの身体が弾丸に壊されていく音と気づいたのは、銃声が止んだ後だ。

 

「ねえ、Kar?返事をしてよ」

 

 その声が戦場に届くことはない。指揮官の見ているモニターには、切断という二文字が表示されているだけだった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「おはようございます、指揮官さん」

 

「おはよう、Karちゃん」

 

「はぁ、ちゃん付けはやめてくれませんか?」

 

「無理かなぁ」

 

 そういうと指揮官はおもむろにKarに抱きつく。

 

「どうかしましたか」

 

「おかえり、Karちゃん」

 

「ただいまです、指揮官さん」

 

 グリグリと頭を擦り付けてくる指揮官を、Karはそっと撫でる。

 

「どうやらわたくし、戦場で死んでしまったみたいですね。ご心配をおかけしました」

 

「心配どころじゃないよ……ごめん、私があのルートを指示しなかったら」

 

「それ以上は言わないでください。わたくしがもっと強ければよかっただけの話ですから」

 

「そんなことない!Karちゃんは……十分強かったよ。おかげで後方の部隊は無傷で帰れたんだよ?」

 

「そう……ですか。お役に立てたようで何よりですわ」

 

「……バカ」

 

 弱々しく、Karの胸をたたいた。

 

「そうですね、よかったら朝食でも一緒にしませんか?スプリングフィールドさんのカフェに行きましょう」

 

 Karはそう言ってなぐさめる。なぐさめようとした。指揮官がよくカフェに行っていることは覚えていたから、自然とそういう言葉が出た。

 

「そうか、覚えてないんだ……」

 

「ちょっと、指揮官さん!?」

 

 指揮官はKarから離れると、そっとベッドへと戻る。その姿はどこか、病人のように見えた。

 

「いや、なんでもないよ。春田さんのカフェね。支度をしたらすぐに行くから先に行っててくれる?」

 

「わ、わかりましたわ。それではまたあとで」

 

 そう言ってKarは指揮官の部屋から出る。しばらく扉の前に立っていれば、すすり泣く声が聞こえてきた。

 

「いったい何がありましたの……」

 

 それを確かめる術を、Karは持っていない。バックアップをとっていない間の出来事を記憶することは、不可能だった。

 

=*=*=*=*=

 

 

「Karちゃんはいつも通りなんだね」

 

「戦術人形たるもの、時間は有意義に使いませんと」

 

 そういいながら、Karはいつもどおりの少ない食事を済ませる。

 

「それではお先に失礼いたしますわ」

 

「まあ待ってよKarちゃん」

 

 指揮官の制止に、今回は動きを止める。

 

「何か?」

 

「まさか、あの約束は忘れてないよね?」

 

「あの約束?」

 

「……私の部屋に来るんでしょう?」

 

「そ、そうでしたわ」

 

 コーヒーカップで口元の隠れた指揮官に、Karはそう慌てて返す。

 

「いつ伺えばよろしいですか?」

 

「そうだな……じゃあ今夜で」

 

「わかりましたわ」

 

 それだけ言うと、Karはカフェを出ていってしまった。指揮官はコーヒーカップを置き、席を立ち上がる。

 

「ごめん春田さん。残りは他の子に自由に食べさせておいて」

 

 そのままカフェを出ようとする指揮官に、スプリングフィールドが慌てて近づき一束の花を渡す。

 

「これは……カモミール?ありがとう、春田さん」

 

 少し指揮官の表情が和らいだのを見て、スプリングフィールドはほっとため息をついた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ようこそKarちゃん、私の部屋へ」

 

「指揮官さん、わたくし毎日起こしにここにきていますよ」

 

「あはは、そうだったね。まあまあ、さあ帽子とマントは脱いでさ、くつろいでよ」

 

 といいつつも、狭い室内で座れるところなどベッドの上しかない。帽子とマントをハンガーにかけて、指揮官の隣へと座る。

 

「ねえ、緊張してる?」

 

「あの……?指揮官さん?」

 

「……じゃあまずは上から脱いで?」

 

 そう言って指揮官はKarの腰に手をやる。抵抗をする間もなく、ベルトを取られた。

 

「し、指揮官さん?これが約束ですの?」

 

「……そうだよ?Karちゃんから言い出したんじゃん」

 

 指揮官は少しムスっと怒るフリをしながら、ボタンに手をかける。

 

 ここまでしても、Karは抵抗という抵抗を見せなかった。

 

「ねえ……どうして?」

 

「何がですの?」

 

「どうして、怒ってくれないの?どうして止めてくれないの?違う!って言ってくれないの?ねえ、戻ってよ……昨日のKarちゃんに戻ってよ……」

 

「指揮官さん……」

 

 そのまま腰にしがみつくように、指揮官はKarに抱きつく。その目元が濡れていることは、見るまでもなく分かった。

 

「ごめんなさい。わたくしのせいですね」

 

 指揮官はポコポコとKarの胸をたたく。そして嗚咽を隠すように、Karのおなかに顔をうずめる。

 

「昨日のわたくしが何を約束したか、教えてはくれませんか?」

 

 指揮官は顔を隠したまま首を横にふる。

 

「まったく、手間のかかる人ですね」

 

 Karはそっと頭を撫でる。いつもは手入れされている髪の毛も、元気がないように思えた。

 

 しばらく、そのまま時間が流れた。

 

 

 

 

 しばらく時が経つと、寝息が聞こえ始める。Karは指揮官をベッドに寝かせなおすと、ぐるりと部屋を見回す。本棚とベッドと、それからベッド横に小さい棚があるだけだった。

 

 Karは本棚へと歩く。そこにはたくさんの種類の本が整頓されて並んでいた。その中でも、コーヒーについての本はKarの目を引いた。

 

「ん……Karちゃん……」

 

 指揮官がそう寝言を漏らした。Karはベッドの方へと戻る。戻って気がつく。指揮官の側にいくと、その手になにかを握りしめてる。

 

 それはボロボロになったKarの帽子だった。

 

 ふと入り口へと振り返る。そこには、先程まで被っていた帽子がかかっている。つまりは、この帽子は昨日のKarが戦場で落としてきたもののはずだ。

 

 枕元に座り込んで、その帽子に手を触れる。十字の飾りが、キラリと光った。

 

「ああ、そういうことですか」

 

 Karは立ち上がって、指揮官の端末に手を伸ばす。

 

「おやすみなさい、指揮官さん。明日の朝食、楽しみにしていますわ」

 

 立ち上がったカメラのアプリは、帽子を握りしめて寝る指揮官の寝顔をバッチリと捉えた。

 




後日談は、これを読んでくださったあなた自身でお考え下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。