Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
トマス・M・ディッシュ「降りる」(浅倉久志訳)より抜粋
キルハウスにピットさらにはシューティングレンジに保安部員のスタッフルームを兼ねたカルデアが誇る施設の一角。
そう隊員の動きなどを俯瞰できる監視ルームに書文、宗矩、アマネの三人が集まって各々にタブレットを見ていた。
其処に映し出されるのは達哉にオルガマリー、デミサーヴァントではなくなりペルソナ使いとしてマスターに覚醒したマシュの訓練記録と習熟状況が書かれていた。
「それで宗矩、達哉はどうだ?」
「十文字と合撃と居合は習得させました。あと柳生の全てを習得させるには4~5年掛かるでしょうし、我流の方が完成されているので最低限に止めております」
「実戦で通用する・・・は無粋か」
「はい、我流と言えどちゃんと理合いは確立されていますし下手に柳生に鞍替えさせるより十文字と合撃と居合だけを覚えさせ我流の歪な点のみを修正するだけで良いと判断しました」
達哉には才能はない。
これは何度も書いた通りだ。
故に我流から下手に柳生に乗り換えさせたら逆に不味いという事で。
こうなれば基本技を習得させ我流の歪さを矯正した方が現状に都合が良い。
因みに乗り換えさせる場合、宗矩の試算ではマンツーマンの特訓をして4年から5年くらいかかる。
今はそんな悠長なことを言っている場合ではないので鞍替えはなし。
故に柳生の奥義の内の二つにして基礎、合撃と十文字、遭遇戦も多いので役に立てばいいと居合だけを教え後は達哉の我流を矯正する方針だった。
「と言っても合撃と十文字、居合の三種は実戦レベルで運用可能。後は型稽古に止めておりまする」
「魔剣は教えていないのか?」
「アレは境地的問題ですからなぁ、一応教えてはおりますが・・・実戦で使えることになるのはいつのことやら」
魔剣。
一種の境地。空か零への切符。
つまるところ兜割各種と剣術無双・剣禅一如である。
一応の伝授は行ったが現状の達哉の完成度といえば側だけの完成度でしかない。
とても実戦投入できる代物ではないのだ。
こればかりは境地的問題だ。ふと何かが切っ掛けで突然と覚醒することもあれば、習得が老境に至る事さえある。
精神的素養と切っ掛けが物を言うのだ。
「それでアマネ殿の方は?」
「宗矩と変わらんよ、才能が有り過ぎる。もう教えることは殆どないあとは型稽古しつつ精度を高めていくしかない」
オルガマリーに武術を教えているアマネはそう言い切った。
CQCに銃器の各種扱いと応用を教えたのだが。殆ど習得済みだ。
後は型稽古と実戦をはみ、精度と即応性を高めていく段階である。
こればかり聞くと達哉も同じくらい才能があるのではと思う方も居ろうが。
達哉は此処に来た時には熟練度が9くらいありオルガマリーは0、マシュは3くらいが良いところ。
それを半年足らずで実戦投入可能段階まで漕ぎ着け、今となっては達哉と同じ数値になっている。
圧倒的才能の違いであった。我流とはいえ達哉が長年努力してきたそれをオルガマリーとマシュはこの短期間で並び立ち、超えつつあるのだから。
「ところで書文殿の方はどうですかな?」
「皆と変わらぬよ、ペルソナに目覚めたお陰で自分の殺意までコントロールしおったぞマシュは」
「才能に関しては三人組の中で一番か、マシュは・・・」
「あとは圏境を覚えるだけで儂と同レベルになる。いやはや恐ろしい才能よ」
それでも飛びぬけているのはマシュだ。
そう言う風に調整され生み出されたと言え才能という観点から見れば達哉とオルガマリーを凌駕しつつある。
加えてペルソナに目覚めてから感情のコントロールも覚えたのか気当てまで使い始めた。
もうここまでくれば書文としても教えるのは圏境位な物とウリエルを使い始めたので動きの最適化くらいな物だ。
「天は二物を与えずとはいうが・・・まさか寿命とはな」
「時代が時代であれば、あるいは寿命問題が無ければ儂の後継にしたかったのだがな」
「書文殿・・・それでも問題はありまするぞ。三人とも奴に目を付けられた」
「各々が抱える問題が解決しても幸せは保証されないか・・・大人である私達もいつまでもという訳にもいかん。事件が収束すればカルデアは解体、保安部もここにはいられない。君らサーヴァント達もだ」
三人がぼやく様にいう。
マシュの武才はそれほどの物だった。
もし書文が生きていれば、あるいは今この時寿命問題さえなければ彼女を後継者にしたいくらいにはだ。
だがマシュには寿命問題、達哉には戸籍問題、オルガマリーには責任問題が付きまとう。
仮にその問題が解決したと仮定しても。
もう遅い。三人は奴に目を付けられた。
そうニャルラトホテプに。現にその証として達哉の右腕に刻まれたのと同じような入れ墨がオルガマリーには左腕、マシュには右目付近に与えられている。
きっとカルデアが解体されても魔術や神秘とかいう厄介事のあるこの世界で彼らは戦い続けなければならない。
「まぁ今やれることをするしかない。問題はこちらの手勢の数とアルトリアと織だ」
「ですな」
そしてまだ頭の痛い問題は存在する。
シグルドとブリュンヒルデは文字通り命を賭して達哉を止めた。
その結果、カルデアから完全退場する羽目になった。
再召喚しようにも、運絡みであるがゆえにあの二人を狙って召喚するなんて無理筋にもほどがある。
よって戦力の増強は急務なのだが。
「見事に爆死したからなぁ、ガチャ的意味で」
戦力増強を狙って召喚陣をリソースが許す限り回した。
されど誰も来ず、礼装のみと言う爆死具合である。
因みに200連である。それで一人も来ないとか圧倒的爆死。誰もが何も言えなくなった。
そしてアルトリア・リリィと織の実力だ。
実際、織は高校生時代に死んでいる。サーヴァントとなって身体能力が上がり直死の魔眼を得たとはいえ実力は未熟であった。
それに元々、刀術の振り方でナイフを振るっているためチグハグ感も否めない。
アルトリア・リリィは来た当初、それ以前の問題だった。今は柳生新陰流を収めんと日々努力している。
無論、二人とも所謂所の天才という奴での見込みは早い。
「まぁない物ねだりは出来ん。今は仕上がった三人よりもアルトリアと織を重点的に鍛える」
だが満足の行く仕上がりかと言われればそうでもない。
次の特異点座標もオガワハイムで得た聖杯に刻まれていた。
特異点の座標特定までもうすぐと言った感じで時間が無い。
「織殿はナイフより刀を持たせた方が良いかと、最悪エミヤ殿に兼定を投影してもらって複数本携帯するとか・・・」
「英霊相手には投影品では不安だ。結構持たんだろう? クー・フーリンとの打ち合いで結構パリンパリン行ってたじゃないか。それなら自前のナイフを使えるように矯正した方が良い」
投影品よりサーヴァントとして持っていたナイフの方が強度がある。
なら宝物庫から日本刀出せばいいという話であろうが。アレはダヴィンチが強化処置を施したうえで達哉がペルソナパワーを注入しているから打ち合えているだけで普通なら耐えられない。
「ならアマネ殿が適任ですな」
宗矩は右手で自身の顎髭を撫でつつ言った。
「本当にただの人間がサーヴァントの教導やるのはきついんだぞ、最近なんかはダヴィンチの奴に強化魔術もプラスしてもらわないと所長の相手もキツイんだ」
幾ら生まれる時代を間違えていると言われるアマネでも正直、ダヴィンチの強化術式があっても上位陣になりつつあるオルガマリーとかの教導はキツイものがあった。
と言うかいくらダヴィンチの強化術式があるとはいえ上位陣とまともに戦闘が成り立っている時点で可笑しいレベルである。
それは何度も書いたことなのでそれはさて置き。
「次の特異点はアメリカ大陸か」
「陸地を走破する方法は?」
「万が一に備えてダヴィンチが用意している」
次の特異点はアメリカ大陸と来ている。それも全域だ。
巨大な特異点だ。今の今までなぜ補足できなかったのか不思議なくらいである。
だが問題はその広さだった。
海とは違い船なんて移動手段は使えない。なぜなら陸路を走破しなければならないからだ。
車の方はダヴィンチが趣味で用意している物の。カルデアの夜逃げ用としての用途が主で、
その巨体からいまだ完成にはいたっていない。
だがしかしバイクという手段が用意されていた。
アスモデウス。
規格外二輪装甲車両とも呼ばれるソレ。
ライダークラスでも満足の行くソレを今回の特異点では投入確定となった。
現状予備機も含めて五機が製造されており、達哉とクー・フーリン、マリー・アントワネットがテストに参加して完成し第五特異点には投入可能との事だった。
「現在、乗り慣れるために、オルガマリーが特訓中だ」
そしてバイクの操縦はしたことが無いオルガマリーが実戦レベルへの操縦会得の為に特訓中だった。
「現状を見てみるか」
タブレットを操作しシミュレータールームのシュミレーターを映し出す。
最近、シミュレーターもバージョンアップされたとの事で仮想訓練には申し分なし。
それでも実践訓練は生の方が良いから微小特異点かアマラ回廊を使っているが。
今回はバイクの研修である態々、その二つを使う必要はない。
故にタブレット操作でここからシミュレーターにアクセスして訓練風景を見れるのだが。
『ダヅヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
『所長!! 体勢をもっと前に倒せ、出ないと風圧でふっ飛ばされる!! と言うか一旦アクセルもどせぇ!!』
オルガマリーが顔芸しながら半泣きに達哉の名を叫びながら風圧に煽られて仰け反っていた。
これには同じバイクに乗って教えている達哉も悲鳴染みた叫び声を上げてアクセル抜いて減速しろと言うが。
生憎とこのアスモデウスと言うバイクはライダークラス及びそう言った乗り物に縁深いサーヴァントが納得する逸品である。
バイクとは形ばかりのモンスターマシンだ。
減速する際には通常ブレーキ、さらに展開式のエアブレーキに。前後に搭載されたパイルで強引に減速を行う。
故にアクセル戻しただけではそう簡単に減速はしない。
さらに質の悪いことに、オルガマリー初心者である。余計に力んだ結果アクセル全開でカッとんでいった。
「「「・・・」」」
その様子を見た三人は沈黙。
「慣れるまではしょうがない」
「「ですな」」
そして三人は今の映像を見なかったことにした。
達哉とかクー・フーリンとかマリー・アントワネットが何とかするだろうと信じて。
因みにマシュも当初は乗る予定だったが。ペルソナ展開していないと両足が動かないので。
車椅子をサイドカーに何時でも出来るようにダヴィンチが改造中である。
「そう言えばエミヤはどうした?」
そう言えばここ最近、エミヤの姿を見ていないなと書文が疑問を言う。
アマネは親指でくいっと武器庫の方を指した。
そして宗矩と書文は恐る恐る武器庫の扉を少し開ける。
「投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始投影開始」
そこには座り込んで死んだ目で只管、宝具を魔改造して作り上げたロケットランチャーや迫撃砲の弾頭を投影魔術で作っているエミヤが居た。
なおこれは余談であるが、ダヴィンチも自分の工房で只管神経弾量産中である。
「「そっとしておこう」」
エミヤを見た二人はそう言いつつ静かに武器庫の扉を閉めた。
「ランチャーの在庫や迫撃砲の在庫も底を突きそうだったからな。仕方が無かったってやつだ」
そんな様子を尻目にアマネは懐からピースインフィニティの箱を取り出し。
その箱から一本煙草を取り出して口に咥えて火をつける。
武器庫の扉から戻ってきた二人も元の席に戻り各々に煙草をくわえて火をつけた。
ロケットランチャーの弾薬も迫撃砲の弾薬もドアガンの弾薬も実際にはもう底を突きつつある。
と言うか過剰に作って置いたオルガマリーのリペアラーの弾薬以外は銃本体も保安部が持つ最低限の物以外なくなりつつあったのだ。
と言うか第一と第四で使い過ぎた。
これが人理焼却下でなければアマネ御用達の武器商人に連絡付けて補充できたが。
そんなこと出来る訳でもなく、特異点で回収したリソースやらエミヤの投影やらで武器のリソースは回復させる。
まぁ使えるのがいけないという奴だ。
そして三人は灰皿で煙草を揉み消し。
「私達は私達の仕事をするとしよう」
「そうですな」
「そうだな」
一服も此処までと切り上げ。プランも決まったという事で、アマネはロマニに強化術式を掛けてもらい織のトレーニングに。
宗矩はアルトリア・リリィの教練に。
書文はマシュの型稽古に付き合うために場を後にしたのだった。
それから約二時間後
「「ま、まえがみえねぇ・・・」」
織もアルトリア・リリィもこってり絞られたのか。ズタボロだった。
ロマニがデミサバ化し回復持ちとなった事と、
第五特異点への突入が早まったことによる詰め込み特訓のお陰だった。
そりゃもうボコボコにされた。
「まぁ私達もそうだったからねぇ」
織の机を挟んで向かい側の席に座るオルガマリーはそう言いつつもどこかげっそりした姿で杏仁豆腐を口に運ぶ。
あの後のバイク訓練で結局、ゲロッたので今は重い物を食べてる余裕は無い。
だからウォン特製の杏仁豆腐と洒落込みつつ自分たちもそうだったなぁと思いながらぼやいたのであった。
本当に実戦経験があり実力もあった達哉しかまともに稽古受けれていなかったと思う。
今は才能という名の暴力でマシュもオルガマリー仕上げており、
後は境地の問題だった。
其処からは切っ掛けか悟るかの違いだけで本人の問題である。
故に実戦で歪んだ型を修正するための型稽古に止められていた。
「だからって型稽古と実戦式の往復、何度したことやら・・・」
織はそう言いつつ東坡肉を口に運びながら言う。
なおそれもマシュもオルガマリーも通った道だ。
ボコボコにされ、さらにボコボコにされるこの短期間で強靭に仕上がったのは彼らの絶妙なボコボコ具合があったからだ。
「まぁそう言う訳ですから耐えてください」
マシュはそう言いつつ小籠包を口に運ぶ。
こればっかはしょうがないとしてだ。
「マスターたちもあの訓練を?」
「それ+座学ね、キッチリ詰めるなら座学も大事とかって色々教わったわ」
織達との違いは其処だ。
決して武に傾倒しすぎて修羅にならぬように徹底的に人道を三人は達哉、オルガマリー、マシュに叩き込んだ。
それに次いでとばかりに座学もだ。
それでもマシュは危うい場面まで来ていた。ジャンヌ・オルタに圧倒されニャルラトホテプに煽られ。
危うく殺意の化身と化すところだった。
それを友情であるいは親愛で乗り越え。オガワハイムで対面し受け入れたことでそれはなくなった。
それはさて置いてという奴である。
「そう言えばタツヤは?」
「ずっと訓練室で兜と向き合っているよ」
オルガマリーの疑問に織はそう答えた。
ずっと何時もの兼定ではなく名もなき打刀を手にして。
年代物の兜と向き合っていると。
兜割の訓練だ。
兜割とは本来、兜を真っ二つにするのではなく数cm切り込む事を兜割りと言う。
真っ二つにするなんてそれこそ幻想の領域。
只のなんてことのない刀でペルソナ補正やら強化魔術抜きにやれと言われたら不可能だ。
もしそれが出来るなら因果破断の領域である。
現に宗矩は素面でそれを成す。
肉体面では確かに若いころに劣るが技術という面においては若いころを凌ぐがゆえにだ。
「兜割ねぇ、エミヤが言っていたササキコジロウに最も近い存在が使っていたツバメガエシに近いならそりゃ幻想でしょう」
オルガマリーも訓練中にエミヤに聞かされていた。
燕返しを対人魔剣として使う佐々木小次郎に最も近い無名の剣士。
彼は燕返しを使えるという一点のみで佐々木小次郎の代替品として平行世界、即ちエミヤが経験した戦争に出ていたという。
原理は執念染みた努力で、多重次元屈折現象を引き起こすというものだという。
三つの斬撃が囲むように炸裂する故に神秘を持ち出さなければ回避不能と言う奥義。
だが宗矩から言わせれば「それは燕返しではなく燕斬りでしょうや」との事。
あくまでも燕を切る為に作られた魔剣なのだから燕の軌道をなぞる返しとは違うという。
まぁそんなことはどうでも良いのだが。
今達哉は、生身で名もない打刀を持ってそんなレベルの幻想に挑もうとしていた。
「彼此第二からそれやっていましたよね、先輩は」
「その都度失敗、本来の語義での兜割は成功していたけれど幻想の領域に入っていなかったわね」
一応兜割やら剣禅一如やら宗矩が考案した魔剣やらの訓練はしている。
だが絶望的に才能が足りない。
未だ形にはなっておらず、使うに値しないのだ。
「そう言えばマシュさんは八極拳の奥義を収めたとか。書文さんが次回に免許皆伝と言っていましたよ」
「私、まだまだのつもりなんですが・・・」
アルトリア・リリィの言葉にため息吐きつつ烏龍茶を飲みながら答えるマシュ。
実際、奥手なのは変わらず自分はまだまだと思っている。
「まぁそれは置いて置きましょう。織、覚悟はした方が良いわよ。アマネ曰く詰め込みに詰め込むそうだから」
「勘弁してくれよ」
オルガマリーの言いように織は勘弁してくれよと言う。
本格的に覚えることが多い。
最先端技術として磨かれ続けているCQCは覚えることが本当に多い。
ナイフだけではなく体術まで覚えなければならないのだから当たり前だ。
回復スキルやら魔術があるためか容赦がない。即死以外の攻撃は平然とやってくるのがカルデア式だ。
負傷すれば即座に回復スキルで回復してたし。
ロマニがソロモンのスキルを取り戻したことによってより苛烈になっていたりする。
所謂、痛くなければ覚えないという奴だった。
故にカルデアの技術キチ共は容赦がないのはすでに達哉、オルガマリー、マシュは経験済みという奴である。
「勘弁してくれよは、こっちの言葉よ。新しく覚えなきゃならない事一つ増えたし」
そう覚えることが一つ出来た。
それはアスモデウスの操縦である。
バイクの操縦をした事も無いオルガマリーにはキツイものがあった。
いくらLv補正&ペルソナ補正があってもキツイ。
何故ならライダークラスが納得できる一品なのだから当たり前である。
素人がそんな超大型規格外バイクなんて初日から扱いきれるはずもなく、
教習は続行だ。
因みに今回の初乗りはどうなったかと言うと言わずもがな。
最初の乗りが終わった後、風圧で髪の毛はボサボサ、盛大にバケツに嘔吐する羽目になった。
そりゃもう胃がひっくり返る程に吐いたのだ。
「クー・フーリンは兎も角なんで達哉やマリーは平気なのよ・・・ほんと・・・」
クー・フーリンはアレだ。色々規格外だ。
アルスターサイクル最強の大英雄の称号は伊達ではない。
なんせあのメイヴでさえ正面戦闘は避け、卑怯に卑劣を重ねて軍勢で袋叩きにしてやっとこそさ相打ちにより勝利をつかんだのである。
閑話休題。
そんな彼だが実はアスモデウスの開発に関わっていた。
生前は戦車乗り回していたという事も有名だから達哉と一緒に開発メンバーに加わっていていたのである。
バイクがどういう物かも興味があったからだ。
其処から元々バイクに興味のあった長可にライダークラスの意見も欲しいとマリー・アントワネットも加わり。
ようやく完成を見たのが、どこの国でも車検を通らぬ人間が乗るのを想定していないモンスターマシンである。
達哉はバイクに日常的に乗っていたしアスモデウスの開発初期から関わっていたのだから乗りこなせて当然である。
「私も実験に付き合わされましたからね」
マシュはそう言ってため息を吐いた。彼女も実験に付き合わされたのである。
マシュの両足はペルソナを展開しないと動かない。
かと言って常時展開しているとまた体やら精神に負荷がかかり損傷が広がらないとも限らない。
故に車椅子生活を余儀なくされているのだが。
その車椅子を横付けしてサイドカーにできないかと言うシミュレーションでオルガマリーが盛大に吐いている間に達哉のアスモデウスに試作一号を横付けして実験という事になった。
案の定ひどい目にあったのは言うまでもない。
「それよか、アルは大丈夫なの? 訓練後に食堂の手伝いやら管制室の手伝いやらしてるじゃない」
バイクの話は一旦横に置いて置くとして。オルガマリーは心配そうにアルを見た。
彼女は訓練後、食堂の手伝いやら管制室の手伝いやらも行っていた。
幾ら肉体的疲労は発生しないサーヴァントと言えど精神的疲労は発生する。
現状酷使されているダヴィンチ、エミヤ、孔明が良い例だ。
流石に酷使され過ぎてぶっ倒れている事が数度あるのだから。
「いいえ大丈夫です、これも修行の一環です。それに皆よくしてくれてますし」
何かを抱きしめるようにアルトリア・リリィは自身の両肩を抱く。
「皆いい人です、それに楽しくて素敵な所です、カルデアは本当に・・・本当に・・・」
「おい、やっぱ疲れてるんじゃねぇのか、眼が逝っちまってるぞ・・・」
アルトリア・リリィのぼそぼそと呟くように言っている上に瞳が酷く淀んでいる事に絶対疲れてるよと織が指摘する。
「え? あ?」
「自分で気づいてなかったの?」
「あの、アルさん、デスマーチ中のダヴィンチちゃんみたいな形相でしたよ?」
アルトリア・リリィの様相に織と同様の反応を見せるオルガマリーとマシュ。
やっぱ疲れているんじゃないかと心配にもなる。
なおダヴィンチたちは例外扱いであった。
「この後も訓練あるみたいだけど、結構キてるみたいだから休みなさい」
そういってアルトリア・リリィは強制的に自室に叩き込まれるのだった。
達哉は上半身裸で練習場で兜と睨み合っていた。
ペルソナによる身体補正は切ってある。
今の達哉はただの人と変わりはない。持っている得物とて何時もの兼定とかではなく、
無名の打刀だ。
これで兜を叩き切れなんて言われたらサーヴァント補正を抜いた場合誰でも匙を投げる。
近代系や中世系の英霊は得物がそもそも通らんとして。
神話勢の場合、そんな無銘の打刀より素手でぶん殴った方が壊せるとしてだ。
つまり誰も出来ない。柳生新陰流を極めた宗矩にしか。
そして宗矩曰く、コツは兎にも角にも集中すること。
その果ての白き世界を見るという事であるとしている。
だが現状、それとはほぼ遠い。
雑念が混じる、切れるヴィジョンが故に浮かばぬ、手汗で持ち手が蒸れて。
達哉の肌を汗が滴る。
彼此、二時間近くは同じ姿勢を保持しながら思考を研ぎ澄まさんと集中している。
当然全身は汗だくだ。
思考を戦闘思考に持っていくことは達哉にとっては朝飯前。
当たり前である。多くの実戦を潜り抜けてきたのだから。
だがそれだけで兜割りが出来るなら誰だって魔剣使いだ。
兜割りはその先の集中、無我の境地、あるいは空の領域に踏み込む行為なのだから。
こればっかりは修練でどうこう言う問題ではない。切っ掛けがどうしても必要だ。
宗矩とて沢庵宗彭との出会いと会話が無ければ至れぬ境地であった。
まこと剣とは複雑な道のりである。
「達哉殿、一度集中を解かれなされ」
「今日は此処までか?」
「否、達哉殿は過去に雁字搦めにされている節がある。また一度、集中し斬るのではなく、過去に思いを馳せてみてはどうか?」
「・・・そうか」
「それに一度、汗は拭った方が良いかと。後水分と糖分補給もですな」
そして宗矩の言う通り数分休憩。
かなり脱水していた。まるで真夏の炎天下の中フルマラソンをしていた様相である。
このまま集中を続けていたら脱水症状でアウトだ。
全身の汗をぬぐい掌の汗は入念に拭って。スポーツウェアを予備の物に着替え。
チョコレートを齧り、スポーツドリンクで胃に流し込む。
極度の集中はカロリーや糖分を損なう。
例えて言うならそう将棋やチェスのプロ同士の極まった対局ならKg単位で体重が減るほどにだ。
達哉はソレと同等の集中を続けていた。
故に脳が糖分やらカロリーを要求してくる。
(思った以上に消耗しているな・・・俺自身が焦っているからか?)
だがいつも以上に消耗が激しいことに達哉は疑問を抱いていた。
それは自分が焦っているからだと結論付ける。
理由は単純にオルガマリーやマシュが自分を追い抜きつつあるからだった。
所謂所、男の意地という奴で焦っているのだ。
(過去を見ろか・・・)
宗矩のアドバイス通り過去を見詰めるべくベンチから立ち上がり。
脇に置いて置いた打刀を鞘から抜き放ち。
兜の元に歩む。
そして打刀を正眼に構えて思考を切り替える。
過去を掘り起こす。
渇いた家庭。多少ぎこちなくある家庭。不器用な父、不器用な母、不器用な自分。
だが今なら分かる、全員不器用なだけでどこにでもある普通の家庭だったと。決して孤独ではなかったと今は思う。
そしてあの日の夏祭り。
仮面をつけた同世代の仲間での友達グループ「仮面党」。
あの時は本当に楽しかった。そこに合流するお姉ちゃん。
何もかもがあった。友情も平穏もそこにはあった。
だが・・・・
呆気なく崩壊した。
お姉ちゃんは引っ越すと言いグループから抜けることになった。
達哉は仕方がない事だと思った。
だから止めに入ったのだ。仲間がお姉ちゃんをと神社に閉じ込めるという事を。
それでも達哉は最後まで反対した。
当たり前のことであった。
そして二人は閉じ込められた。
どうにか出ようとしたが出れなくて夜まで話し込んでいた。
そして偶々、抜け穴を見つける、幼き日の達哉くらいしか通れぬ道穴だったが。
それでも出れると二人で喜んだものだった。
だが・・・
―ヒィヤァハハハハハ!!―
達哉は須藤に刺され神社が放火される。
だがお姉ちゃんは必死に達哉の身を案じて叫んでいた。
その時になってペルソナを覚醒させる。
そう思いを馳せたところで。
思い出す。
ここは戦場。
人理焼却下と言う未曽有の大災害の中。
あの時と同じように失うかもしれない。
罪と罰の物語、ここに来た時の情景。
第一から第四、そして奴との対峙。
色々なことがあった、得た物も失った物も等価ではあるけれど。
そして、そして、そして。
脳裏に移るのはこんな自分を愛していると言った二人の女性の笑顔。
すなわち――――――――――――――
オルガマリー・アニムスフィアとマシュ・キリエライトの笑顔を思い浮かべ。
それが穢されることを容認できなかった。
「―――――――カッ」
喉から空気が出る。刀身を振るう際の気吹きのようで。鬼の吐息の様な声。
それに宗矩は両眼を見開き。
達哉は無想にもほぼ遠い精神状況でありながらその領域に踏み込む。
本当にそれでそれが成せるのなら。
在るのならば。
どれほどに強き対手であれ。
どれほどに硬き防壁であれ。
どれほどに重き劣勢であれ。
その一刀を阻むには不足が過ぎる。
故にその一刀は何物をも断たずにはおかぬであろう。
そんな幻想が在るのならば!!
「ゲェァァァァアアアアアアア!!」
打刀が振り下ろされる。
まるで水面を切るかのように。
するりと兜が両断された。
「夢想剣――――いや―――――」
無我の領域にはほぼ遠い。
ただの一念で達哉はソレを成した。
感覚的には一刀流の奥義、夢想剣に近い。
されどその領域とは真反対ゆえに。
「一想剣とでも言いましょうか」
一つを思い空の領域に至る。
嘗ての剣豪たちが志した自身を無にするという思想とは物とは真逆極まる物。
されど一度放たれればあらゆるものを両断する幻想であった。
「斬れたぞ。宗矩さん」
構えを解き息を深く吐きながら天井を仰ぎ見つつ達哉は言う。
達哉がこうもあっさりと一想剣事兜割りを会得出来たのは理由がある。
実戦経験もある。だがそれ以上に舐めた苦渋の数と質が違う。地べたを這いずり回った質と数が違う。
そう言った過去と今ある。愛しい物があるがゆえに開眼に至ったのだ。
無論、宗矩の助言も大きい。もしあそこで彼が過去を思い返せと言っていなかったら至れなかったことは確かであろうから。
「御見事。ですがまだまだですな」
「宗矩さんレベルでは行使できないよ」
宗矩は一呼吸で兜割りができる。
故にタメの大きい達哉はまだまだという事だ。
と言っても戦闘では一呼吸でも致命傷になりえるから、今の今まで天覧剣技と思われていた訳で。
宗矩も実用的ではないと切って捨てていた。
それでも死後呼び出されまさかこうまで使う羽目になるとは本人も思っていなかったのである。
それはさて置きと宗矩は、
「今日は此処まで一想剣、いや・・・兜割りの習得、御見事でした」
「まだまだこれからだけどな」
「よろしい、その向上心を忘れぬように」
そこで解散と相成った。
どこかのコーンウォール。
其処に一人の鎧姿の女性が立っていった。
ソードランスを突き立て穴を掘る。
只管に穴を掘る。
右手で持ったソードランスを地面に突き立て、左手の親指をガジガジ齧りながら穴を掘る。
まるで墓穴を掘るかのように。
「スゥ――ハァ――」
汗を流しながら只管に穴を掘る、ついに左手の親指の先端が千切れ血が噴き出す。
だが彼女は気にしない。
カルデアに送り込んだ分霊から送られてくる情報は只管にカルデアの人々が良い人たちという事。
そしてカルデアの人々にぶつけられた試練という名の悪夢の数々。
それを見るたびに呼吸が荒くなり慟哭が耐えきれなくなる。
「スゥ―――ハァ――――」
動悸もだ酷く酷く酷く自分を抑えられぬ。
彼らはなぜ耐えられるとでさえ思ってしまう、こんな醜い世界。
ちょっとした過ち、極端すぎる答え、極論すぎる正解を人が行えばパージする世界に対して。
そんな世界を弄ぶ影と蝶に対して。
どうして挑んでいけるのだと。
皆辛い顔をしているそれでもなぜ諦めないのだと。
世界は優しくも美しくもなんかないのにと。
顔面右側を血塗れの左手親指でなぞる。親指から出血した血でなぞられ右目から血涙を流しているかのように見えた。
同時に涙も流れて来る。あまりの理不尽さにだ。
自分を救ってくれたあの人たちが何をしたのかと。
そしてコツンとソードランスことロンゴカリバーの切っ先に何かが当たる。
女性は急いで土を退けるかのように掘り広げた。
其処にあったのは黄金の鞘だった。
「ようやく見つけた」
この身は最果ての女神と化し、さらに四大天使と融合し、最果ての神の戦車と言うべき肉体になっていると言えど。
それでもあのニャルラトホテプと言う絶望を超えた彼らを相手にするのは不足とも思えた。
故にこの鞘を探していたのだ。
鞘の名を「
嘗て彼女が所持していた最高の宝具の一つである。
それを手に取りロンゴカリバーと融合させる。
千切れた左手親指の先が即座に再生し血を止める。
絶対防護と再生能力を付与する最強の結界宝具を融合した。
「アハハハハハ!!! 待っていてください・・・、マシュ、達哉、オルガマリー、カルデアの皆」
女性は狂笑する。
ただひたすらに月夜の月に向かって。
本来はこんな筈じゃなかった。
だがあんな
だから聖四文字の提案に乗りあえてニャルラトホテプの誘導に乗りつつ自分の計画を進める。
「私が優しい世界を、夢の千年王国を、天国を創りますから!!」
もう止まれない、止まる気もない。
カルデアとの衝突は必須だ。
その上で”座標”を兼ねた”コトワリ”、そして打ち上げ場としての”第六特異点”の確保が必須だ。
だが負ける気はない、今度こそあの優しい人たちを救うのだと自分の狂気と歪みを自覚しながら。
最果ての神の戦車となった女性は、”噂”で予定通り天使が降臨するという状況になり道が開けた第六特異点に足を踏み入れるのであった。
書文「是非に儂の後継にマシュを・・・」
と書文が思うくらいにはマシュ極まってます。まぁ先達から習っているしマシュの才能も極上ですから。
つまり世紀末覇者後輩爆誕。
第六で書文にも認められるマシュの拳がアッくんに炸裂するのが確定した回ですた。
そんくらい戦闘センスはマシュがずば抜けてます。
今の今まで感情制御できなかったことやペルソナと霊基の融合が不完全だったのが。
完全に覚醒して制御可能になったため一気に経験値が最適化されて一気に心体技の三つが揃ったので極まった感じですね。
防御ラウンドテーブル、中遠距離ウリエルの核熱スキル、近距離八極拳&ウリエルの物理スキル
所長はエア走り屋シリーズ見たいになってます、下手に力んでアクセル入れたからねそりゃもう髪の毛ボサボサよ。
後、たっちゃんも一想剣という名の兜割りを習得、ただし現状特殊な集中が必要になるし大振りかつ連発出来ないのでそこまでチートではない。
あとアルトリアはまだ発展途上、織もくたばった経緯から未熟、さらに200連第爆死で現在カルデアの戦力絶賛低下中とかいう悪夢。
本当にシグルド夫妻の脱落は痛かった。
ニャル「まぁこれもそれもたっちゃんが暴走したせいなんだけどな!! 私はたっちゃんの願いを叶えて力供給しただけだしぃwwwwww」
そして最果ての神の戦車、一体何トリア獅子王なんだ・・・
ニャル「そんでwwww何トリア獅子王も無事現地入りしたことだし、呼び出しておくか彼女の前にな!!(円卓召喚スイッチポチー)」
あと職活始めようかなぁと思っているので次回も遅れます。