Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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未来のことはわからない。しかし、我々には過去が希望を与えてくれるはずである。


ウィンストン・チャーチル「イギリス国民の歴史」より抜粋。


二節 「過去から延びる手と聖女の刃」

自分たちに与えられた空き家の硬いベットの上で達哉は目を覚まし身を起こす。

 

カルデア一行がティエールにたどり着いたのは半日掛かっての後の事だった。

もっともティエールに到着したからと言って休む暇はない。

そこから二日が立つが。

カルデアとの通信普及作業の為にサークルの設営に、怪我人の治療にまで駆り出されていた。

達哉はペルソナ能力とカルデアから送られてきた医療キット(サトミタダシで購入した物)を使い

書文と共に医療行為に奔走していた。

医療指導にあたったロマニの指示は的確で迅速であった。

本人によると以前は紛争地域での緊急医療などに携わっていたらしい。

それをやったかいもあり。

マリーやアマデウス、ジャンヌの取り成しもあって。

カルデア一行は、フランス軍の客将として招かれることになった。

激動の二日である。

 

「はぁ・・・・」

 

ため息を吐く。

慣れぬ医療行為や前戦指揮官ということもあって慣れぬことばかりだ。

気疲れしない方が無理という物であろう。

この時代のベットは硬く

非常に寝ずらかった。

せめてスプリングベットが欲しいと思う、今日この頃であるが。

文句は言っていられないかと、沸騰殺菌して冷やしておいた。

グラスに入った水をコップに入れて飲み干しつつ思う。

机の上に乱雑に放り投げ置いたジャケットを着こんで

下のリビングへと降りる。

 

「おはようございます、先輩」

「ああ、おはよう、マシュ」

 

下ではサーヴァント着姿のマシュがリビングの大机に料理を並べていた。

 

「誰が料理を?」

「森さんと書文さんですよ。」

 

ハッキリ言って、達哉もマシュも料理スキルは低レベルである。

簡単な物こそ作れるが。マシュが配膳しているようなきちんとした物を作るのは無理だった。

 

「・・・森さん、大丈夫だろうな・・・」

「・・・生卵を食べようとしていましたからね」

 

先日の朝、時間が無い、ということで長可が出したのが、卵かけご飯である。

無論、達哉、マシュ、オルガマリーの顔は盛大に引きつり。

通信向こうのロマニは悲鳴を上げた。

長可の生きていた時代には無かった日本食であるが。

カルデアに居た頃に日本食特集の雑誌を見ていたらしく。

パッと出せるならこれだろと、本人は悪気無しに出したのだが。

特異点という過去の世界で、生食は死亡フラグ満載である。

現代においても生卵を食べるのは徹底した品質管理の上に成り立つ物であり。

そういう物がない現状で卵かけご飯なんぞ喰えば食中毒真っ逆さまであるのは明白の理であるからである。

それを説明された長可はしょんぼりしていた。

ということもあって先日の朝食はカルデアから送られてきた米を、おかずも無しにそのまま食べるという悲劇に見舞われたのである。

 

「今日は大丈夫です、簡単なサラダと、スープに焼魚とライスらしいですから」

「そうか・・・」

「? どうかしましたか? 先輩・・・」

「いや・・・、メニューを聞いていたら、味噌汁と醤油が欲しくなってな」

 

献立的に、日本の朝という感じのものだ。

そこまでくると。達哉も日本人だ。

味噌汁と醤油が欲しくなるという物であろうが。

如何にベルベットルームの車内販売があるとはいえ、仕入れの品はランダムで。

米を買えたこと自体が奇跡である。

無い物ねだりは出来ぬが欲しくなるものは欲しくなるという物だ。

 

「味噌汁に醤油ですか・・・、美味しいんですか?」

「・・・マシュは口にしたことがないのか?」

「はい、カルデアでは基本的にパンと洋食でしたもので、和食は口にしたことはありません、それで美味しいんですか?」

「うーん、文化の違いで味覚が違うからな・・・、両方とも発酵食品だし、受け付けない人は受け付けないだろう」

「食べてみないことにはわからないということですね?」

「そうだな」

 

マシュはカルデアでの主食は洋食がほとんどである。

無論、オルガマリー達もそうだ。

古今東西の人材が集まるとはいえ。日本人の割合は実に少ない。

 

「そういえば」

「? どうした?」

「いえ、Aチームのペペロンチーノさんは何時も『やっぱ朝は、鮭の焼き身に味噌汁と、炊き立てのご飯よねぇ~』と言っていったので・・・何故かなと思いまして」

 

達哉は無論、ペペロンチーノの事は知らないが。

マシュの言いようと冗談のような名前から外国人であると推定し。

何故にそんな人物が日本人染みた思考をしているのかというマシュの疑問を察する

 

「・・・日本ファンだったんじゃないか? 俺のいた時代よりも。日本文化が海外に出て受け入れられているんだろう?」

 

 

彼のことも知らないので。そう片づけて置く。

というかそう評価するほかない。

Aチームはマシュ以外はコフィンの中で生命維持のために

負傷した他のチームと同じように凍結封印されているのだから。

 

「おはよ~」

 

そこに寝ぐせぼさぼさのオルガマリーが二階から降りてくる。

レイシフトしても書類仕事に忙殺されることになるとは思わなかったとは本人の弁である。

故に慣れぬ土地で悪戦苦闘しながら。書類処理及び軍議だ。

疲労もたまるものである。

 

「所長、外の桶に水を汲んでおきましたので。顔を洗った方がいいと思います」

「うぃー」

 

マシュのススメにオルガマリーは同意しつつ外に向かって歩いて行った。

不甲斐ない姿をオルガマリーは晒しているが、全員が、あえて見逃す優しさはあった。

その後朝職を済ませて己が役目を果たすべく諸々の場所へと向かった。

 

オルガマリーは責任者として今日も会議に出席するために、朝早くにクーフーリンを伴って会議に参加しに行った。

長可は前線への視察と教導。

マシュと書文は怪我人の治療と街の外壁修繕作業の手伝いだ。

宗矩は予備戦力への教導訓練と兵站や物資の確認。

達哉は街で資材を集めた後でマシュかオルガマリーと合流するということになった。

 

予定される時間まで達哉と宗矩は多少の余裕があり。

とりあえず、このセーフハウスで待機することにしたものの。

達哉は先日のことが気がかりになっており。

気分が落ち着かず、鍛錬でもして、気を晴らすべく。

木剣を手に取って庭へと出る。

 

 

「――――」

 

空に浮かぶ光の環。

ロマニ率いるカルデア科学班ですらスキャニング不可能な。

歴史上にはないソレ・・・

忙しさで認識できなかったそれを認識したのは昨夜の事。

気分転換がてらにオルガマリーとマシュと共に星を見に夜空を見上げた時のことだ。

ソレを認識した瞬間。

オルガマリーは夜食のすべてをその場で吐き出し。

達哉も吐きそうになった。

ペルソナ使いは命の事について敏感になるがゆえにだ。

光の帯が走り軋む音と光の中に浮かぶナニカ。

ペルソナ使いは例外なく視認出来てしまう。

それは・・・・人々の苦悶の声と顔であった。

その達哉とオルガマリーの認識をもとにカルデアは解析を試みているが。

成果を出す余裕はどこにもなかった。

 

「・・・考えすぎだな」

 

それは憶測を余計に予測していると言うことではなく。

思考が他所にズレすぎているという意味合いでのボヤキであった。

達哉は木剣を持って裏庭へと赴く。

ある種、先日診た。

ジークフリードの負っていた傷の方が達哉には衝撃的だったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どう見ても刺し傷にしか見えないなぁ、コレ・・・、ダヴィンチちゃん、スキャニングの結果は?』

『魔力よりも概念反応の方が高い・・・、不死殺しの類で刺されたかな?』

 

当初、ロマニとダヴィンチちゃんの診察の結果。

不死殺しで刺された物かと予測がたてられたが。

それは違うと言ったのは、話を聞いていた。

エリザベートである。

 

「彼を刺したのは、もう一人のジャンヌの方よ、とにかくシコタマ呪いを打ち込んで動けなくなったところを剣で手足の健を切って。

持っていた旗の穂先で腹部を貫いてから、首を跳ねようとしていたのよ」

 

すでに、もう一人の方のジャンヌとサーヴァントとして呼び出された。ジル・ド・レェが。

フランスの人理を荒らしていることは聞かされていた。

最もサーヴァント・ジル・ド・レェが指揮を執っているのは上層部とサーヴァントの判断によって握りつぶされているが。

 

そして彼女と邂逅した本家ジャンヌ曰く。

暴れている方のジャンヌ・ダルクは本家ジャンヌ・ダルクの代替品であるらしいが。

今はどうしようもない。

問題は、この場合「ジャンヌ・オルタ」と呼称される存在が代替品だとしても。

「セイバー・ジークフリード」を傷つけられ尚且つ癒せない傷となると高ランクの不死殺しを持つことになる。

いくら代替品としてもそれはおかしい話であった。

エリザベートもドン引く位に。ジル・ド・レェはジャンヌを信望している。

代用品にオリジナリティを付けたし過ぎて、此れではもはや別物だ。

別のサーヴァントにジャンヌのガワを被せて仕立て上げた言う風でもないと。

ティエールを防衛する「ライダー・マルタ」の証言もあって。

かなりの高確率で後付けされた物であろうと推測はできる。

だがジル・ド・レェが、それをするかと思えばそうは思えず。

この時代の存命している、本人こと「ジル元帥」でさえ首をかしげているのだ

 

「現地調達も不可能よ、そんな代物」

 

ならば現地調達したかと、達哉は思うがオルガマリーはそれを否定した。

触媒としては使えるかも知れないが。

宝具レベルの機能を現在も最善を保つ物は実に少ない。

このフランスの年代でも早々にお目に掛れるものではないのだ。

 

つまり、どっから沸いて出たのか分からない代物である。

 

達哉はいったん、その武器の出所を思考の隅に追いやって。

傷口を見る。

ジークフリードの腹部の傷から血がとめどなく溢れては魔力として四散していく。

消滅していないのは。

ひとえに彼自身のサーヴァントとしての性能と気合と根性であろう。

 

「エリザベートさん、アナタがジークフリードさんを助けたんですよね?」

 

見た目的には年下に見えるが。

実際には年上でありサーヴァントのエリザベートに達哉は敬語を使いつつ問う。

 

「達哉だっけ? 敬語はいいわ、エリザーベートでもエリザでも好きに呼んで頂戴、その方が肩が凝らなくていいもの」

「・・・わかった。エリザ」

「それでいいわ、で? 私が彼を助けたことが気になるの? 私の逸話的に?」

 

確かにそれも気になる。

エリザベート・バートリーは領主の妻として、権力に物言わせて少女をなぶり殺しにした殺人鬼だ。

己が若さを保つためなどの定説はあるくらいに、冷酷な存在であるのは容易に理解できるものの。

目の前のエリザベートは、どこにでもいそうなJKのようにフランクである。

が今気になるのはそこではない。

彼女が言っていった旗の穂先だ。

 

「違う・・・、ジャンヌ・オルタの旗の穂先に付けられていた槍刃の形状を教えてほしいんだ」

「? いいけど・・・心あたりでもあるの? アンタ」

「・・・ああ」

 

傷口を見て達哉には思い当たる節がった。

嫌というほど覗き込み。脳裏に刻んだ傷だから。

心当たりがあると聞いて。

エリザベートは槍の刃の形状を説明する。

 

「槍にしては刃幅が広くて刃も大きかったわ。ちょっとしたショートソードくらいあるんじゃないかしら? 形はこんな感じよ」

 

そう説明しつつ、両手のジェスチャーでエリザが形状を示す。

達哉は一気にそれで顔の血の気が引き。

眩暈を起こしてふら付く。

 

「ちょっと!? 大丈夫?!」

 

オルガマリーが慌てて達哉を支える。

 

「・・・ああ大丈夫だ。気が動転した」

『達哉君、心当たりがあるって言ったけれど。向こう絡みかい?」

「ああ、その槍を突き刺された聖人の遺体から、止めどなく血が溢れ続けた・・・2000年の信仰と噂を持つ槍だ。」

 

オルガマリーもカルデアもここまでくると理解できる。

達哉は敬愛する舞耶がそれに刺されて死んでいる。

ペルソナの力でも癒せぬ物とくればまずそれで。

彼女の死を看取ったがゆえに刺し傷は脳裏に刻まれ。

ジークフリードに刻まれた傷と共通点を見出し。

エリザベートの説明で特定し切った。

達哉のいいように。カルデアの面々も達哉の過去を知っているため。

彼の言い回しを理解できたのである。

 

「まさか、ロンギヌスの槍っていうの!?」

 

この時期のロンギヌスの行方はトルコにあるとされている。

それを宝具として使用できる者たちは、ジャンヌ・オルタのように世を憎む物でもなければ女性でもない

第一にこの時期にはトルコにある、ロンギヌスを調達できるはずがないと、オルガマリーは驚愕し・・・

 

「神への当てつけ目的なら、別段不思議じゃないんじゃない?」

 

エリザベートは神への当てつけ目的なら不思議ではないと述べる。

物も聖杯を使って、呼び寄せればいいだけの話だ。

サーヴァントを呼ぶよりは簡単であろう。

効力も聖杯を使って引き出せばいいのだから。

兎にも角にも聖杯の魔力を使って、駆動させる宝具の呪いを解除するのは不可能に近い。

ロンギヌス自体が神殺しと聖遺物の属性を含んでおり、ジャンヌとマルタの力では無理。

神殺しの特性によってペルソナスキルも弾かれる恐れがあるし。

聖属性のため魔物系ペルソナもアウトだ。

つまりどう足掻こうが解呪できないとのことである。

 

「元帥にオルガマリー、少しいいか?」

「はい? なんでしょうか? 達哉殿?」

「なんかあるの?」

 

 

とりあえず、オルガマリーがジークフリードに鎮静魔術を掛けて。

その場は解散することになり。

皆が部屋を出ていくことになる。

だが達哉は妙に引っ掛かることがあった。

故にジル元帥に話しかけて頼みごとをする。

 

「・・・比較的、治安の良い場所でがあるか?」

「?? まぁ近くにありますが・・・、それがなにか?」

「そこに”サトミタダシという腕のいい薬師が薬を売る店が出来た”という噂を流してほしい」

「・・・なぜ?」

 

達哉の頼み事は実に単純だった。

サトミタダシという腕のいい薬師が薬を売る店が出店したといううわさを流してほしいということであった。

そんな奇怪な頼みごとに、オルガマリーは達哉の懸念を理解し

事情をしらぬ、ジル元帥は怪訝そうな表情で達哉を見る。

何故そんなことをするのかということを説明してほしいという表情だ。

 

「俺の居たところでは”噂が実現する”という事件があった・・・。ロンギヌスも、その事件で使われたから特定できたんだ。

だからもしもの事があってはいけない。確かめたいんだ。」

「・・・わかりました・・・。なるほどそれはあってはいけない」

 

達哉の懸念はある種、極秘裏に確認しなければならないということはジル元帥にも理解できた。

噂というあやふやな情報が具現化するとなればパニックに陥ることは明確で。

情報漏れを防ぐために、あえて三人になれる時を狙って達哉は話を切り出した。

エリザベートたちを信用しないわけではないが。

なんの拍子で漏れるか分かったものではない。

此処は確認してからでも遅くはないと達哉は判断した。

気のせいであれば笑い話で済ませて。

真実であれば全員に説明すればいい。

確定するまで悪魔で私事に留めておいた方がいいと思っての判断であった。

 

 

 

 

現在

 

 

 

 

そういうやり取りからすでに一日が経過していた。

達哉は正宗ではなく鍛錬用の木剣をもって雑念を振り払うように型稽古に勤しんでいた。

 

「ブレておりますな」

 

それを眺めていた宗矩は。

達哉の剣をそう評する。

何時もよりブレが大きくなっていると。

もっとも宗矩も達哉が多くの事を抱えているのは聞き及んでいるし。

カルデアの雰囲気で察していた。

ロンギヌスの事はすでに聞いている。

 

 

「・・・ふむ、すこし稽古をつけて進ぜよう」

 

 

自分たちにも言えぬ何かがあると宗矩は確信して。

あえて問うようなことはしなかった。

達哉は誠実な人間であるし、言うべき時が来たら言うだろう。

だったら迷いが多少でも気が払えるように稽古をしないかと宗矩は提案する。

 

「え、良いんですか?」

 

まさか柳生新陰流の師範に教えてもらえるとは思ってはいなかった。

無論、これは達哉が一定以上にできる人間だからの提案だ。

普通の人間であれば加減が出来ず、けがをすることになるのは、明白の理であるが。

達哉はクーフーリンとも切り結べる猛者だ。

ペルソナの強化があるとはいえ、我流であれど人外を相手取った実戦で磨き上げたものは本物である。

だが所詮は我流だ。

創設から時間が立ち、多くの同門人々の手によって磨き上げられた柳生新陰流には及ばないのは道理であり。

故に教育者として宗矩は達哉に正しい武を学んでほしいと考えているのだ。

一次の迷いを振り切るには稽古がいいと思っての事でもある。

 

「主殿はなかなかの使い手、教えるということに些かの不足も無し、寧ろ磨けば光る物を目にすると教えたくなるのは剣術家としての性ゆえでしてな」

「・・・なら、お願いします」

 

達哉としても我流では限界があることは痛感している。

正道を収めたサーヴァント相手には刀のみに限定すると、食らいついて行くので精いっぱいだから。

ここで柳生新陰流を学べるのであればそれに越したことはないし。

教師役は、あの柳生宗矩である。

これ以上に贅沢なことはないとして彼の提案に寧ろ頭を下げて頼み込む。

その様子に提案したのはこっちだと言いつつ苦笑しながら宗矩は木剣を握り。

何時もの、宗矩がたどり着いた極致である、無形の型ではなく教えるために、八相の構え型を取る。

対する達哉は何時もの下段の脇構えである。

 

「行きます」

「存分に来られよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗矩との朝の鍛錬を終えて朝食を取ったのち。

達哉は予定されていた通り、資源の買い付けに出ることにした。

そこにジャンヌがやってくる。

 

「達哉さん、街に出るんですか?」

「ああ、カルデアから送られてきたインゴットを換金して物資を購入して、転送しておけと所長に言われたからな」

 

タメ口で良いとジャンヌも含めた。

フランス組サーヴァントから言われたので。

タメ口でジャンヌの問いにそう返しつつ。

金塊の収まった。ジュラルミンケースの持ち手に手錠を付けて。

盗まれないように右手にジュラルミンケースの持ち手に付けた手錠を右手首に装着する。

 

「なら私が、案内しましょうか?」

「それはいいが・・・、ジャンヌは仕事があるんじゃないのか?」

 

如何に隠匿されているとはいえ。戦力としては申し分がない。

死んだ次期が重なったせいか。

サーヴァントとして本領を発揮できないとジャンヌ自身の自己申告はあるが。

それでも十分に戦力に数えられるくらいの戦闘能力はあるのだ。

故に達哉は仕事があるのではと思い聞いてみるが。

ジャンヌは露骨に目を反らした。

 

「・・・」

 

達哉はさらりと勉強したことを思い出す。

ジャンヌ・ダルクは聖女というイメージがあり。聡明な女性というイメージが世間体で強いが。

実際は内容は逆である。

元は田舎娘で文盲だったとされ。

100年戦争下で数々の脳筋戦法や暗黙ルール無視で勝ち進んだ存在だ。

脳筋戦法が通用しない現戦況下では全く役に立たない存在と化してしまい。

イコンとして使うにせよ、劇薬すぎて使えないという理由でハブられ現在に至るという分けである。

達哉はソレを察し。

 

「・・・案内頼めるか?」

「はい」

 

とりあえず、これ以上の指摘はやめて。

大人しく、達哉はジャンヌに案内を頼み込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティエールの街は戦時下というのに活気づいている。

それが現実逃避からくるものなのかは。

生れてこの方、戦争を体験したことのない達哉には分からなかった。

 

「活気づいているな」

「ええ、確かに難民は集まってきていますが・・・、物資の調達には苦がないようですよ」

「? どういうことだ?」

「それが分からないのです、隠匿された物資の備蓄庫が発見されたり、遠方から財産を抱え込んで逃げてきた商人さんたちが無事に到着したりなどで、物資自体は潤濁とジルが言っていました」

 

ティエール以外は陥落済み。

既に補給線も崩壊しているのに物資が潤濁。

だが決定打にはなり得ない。

達哉は内心、焦ってはいるが顔色を変えず、そうかとだけ返す。

 

「そう言えば気になっていたのですが、達哉さんは神の声を聴いたことはありますか?」

「? ないが・・・、なんでまた」

「いえ、達哉さんにオルガマリーさんは、神卸の御業を使うと皆が言っていったものでして、もしかしたら聞いているかなぁと」

 

無論、ジャンヌの言う通り、神の声は聴いたことはある。

神は神でも、邪神とかの類であるが。

それを馬鹿正直に大衆が居る中で言う分けには行かないので。

達哉は無いと返答し、なぜそんなことを聞くのかと思い聞き返す。

ジャンヌからすれば神卸という啓示の上位互換の様なスキル持ちの達哉やオルガマリーなら。

聞いていたかもしれないということが気になったらしく聞いてみただけらしい。

 

「それと私は神の声を聴きこそしましたが。姿を見たことはない物でしたから・・・、もしかしたら主と出会っているものかと気になりまして。」

「・・・生憎だが、便利な力じゃない、この能力は」

 

だがジャンヌの思い描くような力ではない。

これはあくまで試練に挑むための鎧であり剣だ。

万人を救うだとか導くためのものではないのである。

これ以上は暗い話になるなと、達哉は思い。

話題を変えるべく財布を見る。

頼まれた物資は購入済みで、金貨もまだ余っている。

余ったお金は多少は好きにしていいと言われているので。

 

「ジャンヌ、もう昼時だし、何か食べたいものとかない「え? 奢ってくれるんですか!!??」・・・ああ」

 

もう時は昼時だ。

奢るから、ジャンヌもどうかと問うと。

彼女は眼を輝かせて奢ってくれるのかと聞く。

ああそういえばジャンヌ・ダルグは健啖家だったなと達哉は思い出し。

首を縦に振って意思を肯定し。

適当な料理店へと入った。

対応はジャンヌに任せる。

カルデアの自動翻訳魔術は網膜に貼り付けたコンタクト型礼装と耳に付けた補聴器型の礼装で行われるのだが。

達哉の場合は先日の戦闘で不調気味であったがゆえである。

補聴器型は問題なく機能しているが、コンタクト型の方が機能していないゆえに、フランス語が読めなかったのだ。

書類仕事から外されたのもそれが理由だ。

ちなみにオルガマリーは魔術的教養の賜物でフランス語はペラペラであるし余裕で読めるから問題はなかった。

店に入り。メニューが読めないため。

ジャンヌの説明を受けつつ注文を行い。

それから10分ほどで料理が出てきた。

 

「あの・・・」

 

ジャンヌはチラチラと達哉の方を見ながら申し訳なさそうに問う。

達哉の他のだものはパン料理とサラダにデザートのガトーの三つであるが。

ジャンヌの頼んだものは三つでは利かなかった。

成人男性の摂取量を超える量である。

大食いファイターかと言われれば言葉の刃が刺さりかねない量だ。

気まずくなるのも当然と言えるだろう。

達哉自身はそういう人も世に入ると、金に余裕もあるので。

あえて突っ込みこそしなかったが。

それでも奢ってくれる当人が自分自身より遥かに少ない量で済ませるのは気まずい事だった。

 

「達哉さんは・・・、それだけで本当にいいんですか?」

「ああ、カルデアに来る前は、いろいろあって旅を・・・していた。だから食事とか最小限にする必要があってだな・・・、その胃が小さくなってな」

 

そういってごまかした。

下手に罪を言っても面倒くさいことになりかねないからである。

 

「旅をですか!? いいなぁ・・・、どういったところを見て回ったんですか?」

 

知らぬとは罪というべきか。

達哉がワザとはぐらかした事を言いようから察せず。

無邪気に問う。

達哉の顔が少し歪んだ。

精いっぱいに堪えてここまでに抑えたのだ。

 

「・・・色々、行く先々であり過ぎて・・・・覚えきれていないんだ」

「・・・すいません」

 

さしもの達哉の表情にジャンヌも流石に察する。

カルデアの面々が時折、達哉と一線を引く意味を。

達哉にとっては小さな箱庭なれど。あまりにも多くの事があり過ぎた。

一人の人間では潰れてしまいそうなものを背負っているからである。

行ってしまった過去は一度、正しい意味で自覚すれば血肉に食い込んで離れることはない鎖となる。

割り切るには多く、そして速すぎるのだ。

そこからは会話もなく、なかなか話をジャンヌは切り出せないでいた。

よしんば切り出しても。

大概が達哉の地雷へとたどり着く。

 

例えば。

 

「達哉さん・・・、ここのガトー、美味しくなかったでしょうか?」

「いや・・・現代の味に慣れていると余計にな・・・、うん」

「慣れている? どういうことです?」

 

大方を食べ終えてデザートに移行した時に達哉はガトーを口にして表情を歪めた。

現代とはそも技術や器具の違いで絶対的に味に差が出る。

だが良く、ケーキの類を口にしていた。

達哉はそれを理解していても不味いと表情に出せざるを得なかった。

ジャンヌは気遣って、美味しくなかったと問い。

達哉は現代の味に慣れ過ぎたという。

その言葉の意味を知らず。ジャンヌは問い返してしまった。

慣れてしまうということは日常的に口にしていたという事実と例を知らぬがゆえにだ。

 

「いつも・・・、兄さんが作ってくれたんだ。だから結構五月蠅いんだぞ。俺はケーキとか菓子については」

「まぁ、それは素敵な。お兄さんですね」

「・・・ああ、最高の兄さんだ」

 

―代わりはいないほどに―

 

という言葉を達哉は飲み込んだ。

正直、吐き出してしまいたいが。

それを吐き出すほどの達哉ではない。

 

「ということは。達哉さんの兄さんはパテシェですか!!」

 

がしかし菓子職人と言えばパテシェという概念が。

抑止の情報である以上。

そう邪推してしまうのも人間の性であろう。

 

―ククク、ここまでくると愚かだな。必死に他者を傷つけたくないと堪える子を打ち据える老婆の如くだ

 

「いいや違う」

 

影が嘲笑う。

だが堪える。

無知とは時に人をこれ以上、傷つけることのない刃となることを知らぬジャンヌに傷ついてほしくないがゆえにだ。

 

「兄さんは刑事だった。趣味がお菓子作りというだけの・・・」

「そっ、そうだったんですか・・・すいません早とちりを・・・」

「気にしなくていいさ、俺が言葉足らずだった。」

 

 

過去だから自分のことだから気にするなと達哉はジャンヌが地雷を踏み抜くたびにそういうが。

もうジャンヌは半泣き状態に移行しそうになっていった。

他人とのコミュニケーションがここまで難しいとは思っていなかったである。

 

―見たかね? 愚かだよ、自己の悲嘆の欠損故に他者と共感できない。

まったく無知とは罪とは言ったものだ。なぁ? 周防達哉?―

 

右手に走る入れ墨を通して、達哉をジャンヌを影が嘲笑する。

無論、その声は達哉のみに聞こえるものだからだ。

 

「・・・黙れ、これは俺の愚かさだ。」

 

達哉は雑踏の音にかき消されるような声で影の徴用を跳ね除けるように言う

 

―そう言って、そこに居る、痛みも絶望も知らない、聖女モドキに嬲られ続けるつもりか?

言っておくがな。その女は誰も救えない。

所詮は旗持ちの扇動家の無知蒙昧だ。行いは戦局的にも無意味だった。

彼女が居なくともルイ八世が何とかしただろうに。

挙句、幻聴を聞いて自分は聖女だと思い込み、ジルドレェを含め多くを狂わせた。

この女は、ただただ。戦乱をかき回したという自覚すらなく。

愚者という自覚すらなく、自分の行いが正しかったものだと思い込んでいる!!

笑わせる、所詮は大衆に利用された人形風情が。

よりにもよって世界を滅ぼし救った貴様が行った罪も痛みも重さも知らない癖に。

そこの女は選ばれた尊きものだからと自負し。

上から目線で、こういうだろう、『主は許されます』とな!!

貴様は自分自身の罪を受け入れているというのに、遠回しに他者が許しているから捨ててしまえと、この女は言うだろう

ククク、所詮は犯される痛みでさえ、”主に選ばれた”と言う”錯覚”で目を反らした小娘だ。―

 

「黙れと言っている、論点をすり替えるな。この話は俺が話し上手ではない。それで終わりだ。」

 

そう達哉の言う通り。

この話は、達哉のコミュニケーション能力の不足に尽きるのである。

だがそれは周りにも十分フォローできるものであった。

現にオルガマリーやマシュにカルデアの面々は踏みついても起爆をそして解体するという適切な対応が出来る者たちである。

宗矩や書文、長可だってそうだ。

だが、ジャンヌに限っては違うであろう。

まぁ今は述べることはない。

影はそれ以降語りかけてくることはなかった。

気まずい空気が流れる。

 

 

「あの・・・その・・・」

「・・・なんだ?」

「いいえ、なんでもありません」

 

 

ジャンヌは何も言えない。

どうすればいいのか分からなくなっていった。

ジャンヌから達哉に語り掛ける言葉の悉くが刃となって彼を襲うから。

何も言えなくなっていったからだ。

その時。達哉のバングルが鳴る。

文字チャット表示で手早く簡潔に指令が書かれていた。

 

―会議が長引きそう、タツヤはマシュたちと合流して 追伸、ジャンヌが居るなら指揮所に寄越すように―

 

という概略であった。

達哉は手早く投影されたキーボードを叩いて了承の意を伝える。

マシュたちの居場所はマップデータに表示されているから、その場所に向かうだけであった。

 

「ジャンヌ、すまないが用事が出来た。あと、ジル元帥がアナタを呼んでいるみたいだから。指揮所に行った方がいい」

「あ、そうですか、すいませんお昼ご飯をおごってもらった上に何もできなくて・・・」

「気にしないでくれ・・・、こっちの問題だからな、それじゃ」

「はい・・・」

 

達哉は紙袋を抱えて場を後にした。

ジャンヌは彼の救いにはなれなかった。

なれる筈もない・・・

 

 

 

 

―さぁ、断罪の時間までもう少しもう少しだ―

 

 

 

影は笑う嘲笑う。

 

彼女が生きていた頃。

 

ジャンヌは経験した事の無い人生での試練がそこまで迫っていった。

 

 

 

 

 




投稿完了ゥ!!

死ぬぅ・・・仕事が忙しすぎて死ぬゥ・・・

まぁそれは置いて置いて。ぶっちゃけ、ジャンヌって神とも分からんなんかに踊らされていた小娘ですよねぇって話。

第一に悪魔は天使の如き声やら姿で人々を惑わすという教えがある上に既に神代は終わって神々は去った世界で。

ジャンヌの聞いた”主の嘆き”とやらは本当に”主”だったのかという疑問があるんですよねぇ・・・

立証されないことは如何様にも歪めやすく真実になりやすい。

現代に置いてジャンヌの主の声は彼女自身の精神疾患だったとされることがある様に。

本人ですら立証できないそれは本物だったのかと言えば・・・どうなんでしょうねぇ・・・


事この世界においては、ニャルが居るわけですしねぇ(暗黒星人笑顔)



やったね!! ジャンヌ!! 君は神の声を聴いていたかもしれない!!




みんなの現状


たっちゃん、西に東に奔走中、翻訳機が故障して悪戦苦闘中

所長、何故に人理修復に過去まで来て書類仕事やってるのか・・・、あと人理光体の本質みちゃってSAN値ロール失敗、しめやかにリバース。

マシュ、達哉以上に書文と一緒に大忙し。

森くん、最前線で小競り合いの指揮中、ワイバーン相手に無双

書文、マシュと一緒に大忙し

兄貴、何故に槍ではなくペンやら口を動かしているのか・・・と兄貴は疑問に思った。

宗矩、たっちゃんに柳生流を教える。

ジャンヌ、たっちゃんとコミュの結果、ゲームで普通のコミュ相手ならリバースしかねないようなコミュ内容、たっちゃんのメンタルの地雷を踏む抜いていくスタイル。

フランス組み、大忙し

ニャル、意図的にたっちゃんが気づけるようにロンギヌスなどを見せ突けて挑戦状をたたきつけつつ。軽くたっちゃん虐めをしながらジャンヌ、ディスリ
さらにジャンヌの人間性と信仰の否定という試練を準備。

的な感じ。

特にニャル様はジャンヌの地雷の踏み抜きっぷりに大爆笑中。


ニャル『なに、この小娘wwwwwwww、自分から地雷原に突っ込んで起爆してるんですけどwwww、まじ聖女モドキだわwwwww、此れには罰が必要だよなぁ(ニチャァ) 他人の痛みを本当の意味で理解するには、現実突き付けて、へし折るのが一番だからなぁ』


次回はマシュ&書文とのコミュにマルタ姉やエリちゃんなどのコミュ回を予定。

次の次くらいには邪ンヌ陣営との第一次決戦で行きたいと思います。



あと感想であった。パリスくんちゃんですが・・・

他のギリシャ神話英霊より三割増しくらいにニャルにフルボッコされ座で引きこもっているため。たっちゃんカルデアにはイベント時空であろうと来ることはありません。

というかWikiで彼の原作の逸話見て。作者でさえナイワーとなったんですが・・・アレ。

考え足りてないってレベルじゃないんですが・・・


更新時期については三週間ぐらいかかるかも知れません、ご了承ください。


あと、Fateファンの皆様方については申し訳ないですが。ニャル様は平等にアンチヘイトを容赦なくやっていきます。例外はありません。

命の答えを見出そうが、英霊だろうが、神霊だろうが、獣だろうが、目を背れば容赦がないです。


ご了承ください。

ではまた次回に会いましょう。

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