Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
最上の救済法は、この現在の瞬間を精一杯生きる事だ。
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
間桐桜は間桐家に養子に出されてから虐待と凌辱を繰り替えし行われてきた。
これが一般家庭であればごく有り触れたというのは失礼ではあるが普通の犯罪の形である。
しかし、間桐臓硯は次世代への道が閉ざされ500年と言う生きた歳月の中で魂が腐り、
桜に魔術的教練を一切行わず、次世代への胎盤への加工と己が嗜虐性を満たすために蟲の群れに叩き落として虐待していた。
魔術師的にはまだそこまでだったらギリギリ、本当にギリギリ許されるかもしれないが。
人によっては許されぬボーダーラインである。
胎盤へと加工するよりも血筋的に長所を伸ばし次世代に託した方が人道的ではあるし効率が良いからだ。
つまり己の愉悦の為に胎盤加工なんてやっている時点で間桐臓硯はアウトに天秤を傾かせてしまった。
加えて彼は己が存在を維持する為に他者を虐めぬき首を挿げ替えることで生きながらえている。
特に若い女性なんかを狙って。
そう言う事も加味すると、魔術師的にも人喰らいの魔物として屠殺されるべき存在だ。
だが遠坂はその傲慢さ故に現実に桜に行われている事に気づかず、
雁夜もまた門外であるがゆえに上手く時臣に伝えられなかった。
というか雁夜が見ているのは桜を通して葵を見ているにすぎず、
本人に自覚は無いが自分自身がヒーローを演じることによって葵の気を引きたい間男思考なのである。
故に桜は絶望していた。
自分を真の意味で助けてくれるなんて存在はいないのだと。
そう今日までは、傍観のどこかで期待していた。
周防達哉と言う青年が助けてくれるのではないかと。
彼は言った一晩待ってくれと。
それが桜と達哉の取引だった。
信じれる根拠は一つである。達哉も何処か同じような目をしていたからだ。
自分の境遇を分かってくれるかもしれないと思った故にである。
故に一晩我慢すればと言う淡い期待とどうせ来ないという傍観の念が鬩ぎ合う。
それでも痛い物は痛い物だった。
蟲に嬲られ犯され、初めてだって好きな人に与えたかったのにそれすら奪われて。
凡そ女の尊厳という物を奪いつくされて。
辛くないはずが無いのだ。
だから―――――――――――
―辛いときは辛いって言って助けて欲しいときは助けてって言っていいと思うぞ俺は―
彼の言葉が心に亀裂を生み、ついに桜は耐えきれなくなって。
「お願い」
ここに来て初めて以来、涙を流しながら右腕を伸ばす。
達哉が来るのは明日の晩であっても今が苦しい、痛いよ、誰か助けてくださいと。
「だれかたすけてぇ――――――――!!」
「クカカカ、助けてなんぞ」
その涙と叫びに愉悦の言葉を投げかける臓硯。
そうここは魔術師の工房、一般人どころか一般的な魔術師すら助けにこれぬ地獄だ。
そうこの時までは。
ガァン!!と凄まじい音が響き渡り、蟲倉の扉が蹴破られる。
「なに?!」
臓硯の驚愕と共に現れたのは桜も見知る青年だった。
見知らぬ人たちを引き連れながら、彼は来た。
それと同時に間桐家に二重の結界が張られる。
外へと向けたものではなく内に向けたもの。
つまり内から外へと逃がさぬようにするものなのだ。
「聞いてはいたが、此処まで醜悪とはな・・・」
金髪をオールバックにした男が顔を顰め呟く。
そして達哉は鬼神的な形相で。
「もういいな」
「ああいいとも、この惨状を見れば時計塔も弁解の余地なくギルティだとも」
達哉の言葉に男が頷いた。
「あ、ああぁぁああああああああああああ!!」
一晩前倒しだけどちゃんと助けに来てくれたことに桜は叫びながら嬉し涙を流した。
さてここで時間を少し戻す。
ハイアットホテルは危険という事もあって工房を引き払いつつ。
レンタルハイエースで一行は間桐家に向かっていた。
「にわかには信じがたいな、これほどの凶行をセカンドオーナーが見逃しているとはね」
ケイネスはカルデアが制作した資料に目を通しつつ第五次の凄惨っぷりにため息吐きつつそう言った。
幾ら御三家とは言え人食いに手を出している間桐なんぞ普通に粛清しておくべきだろうと。
そうごもっともな発言である。自分が管理している町の事も把握してないのはセカンドオーナーとしては片手落ち気味だ。
だが此度はバーサーカーランスロットを召喚しており踏み込むに値する証拠にはなっている。
あくまでもこれは踏み込む口実だ。
これから工房を制圧し聖杯が汚染されている証拠と臓硯の行いを糾弾するための証拠抑え、遠坂を糾弾し抑え込むための証拠集めが第一となる。
臓硯は腐っても老練だ。
下手に準備していると感づかれかねない。故に思い立ったが吉日とばかりに奇襲を仕掛けた方が良い。
普通、魔術師の工房に踏み込むのは危険なのだが。
ケイネスの工房を攻略したカルデア陣営が居るのだから其処は安心しても良い。
ケイネスもカルデアの戦力は聞いている。高位レベルのペルソナ使い三人に複数のサーヴァント。
もっともサーヴァントの方は袋叩きにされぬように、孔明だけで他は現状使えないとの事だったが。
如何に孔明を憑依させたとは言えウェイバー・ベルベットは成長した。
それ+ケイネスに本来は切嗣ボンバーで消失した礼装が十分手元に残っているのである。
これならばメディアの工房にすら攻め入られる戦力である。
臓硯の工房なんぞ一溜りも無い。
「問題はバーサーカーが出て来るか来ないかだ」
「此処ばかりは未知数ね。明日の顔合わせには出て来るみたいだけど」
明日の顔合わせ、ディルムッドとセイバーの激突を機にアサシンとキャスター以外の五騎が顔合わせする事になる。
だがしかしバーサーカーのマスターの情報については少なかった。
これは第四次で時臣が死亡したことによる報告不足と、生き残った綺礼が意図的に黙っていたことが起因すると現在は推測される。
故にバーサーカーの情報はカルデア側も把握しきっていない。
聖杯戦争解体時、桜の症例を解決すべく凛が怒りの焼き払いを敢行し手に入れた各種資料から、
漸く第四次のバーサーカーはランスロットでマスターは雁夜と判明したのだ。
なお行動の事は資料に記されていなかったので孔明も詳しいことは知らない。
それだけ各陣営からアウトオブ眼中喰らっていた訳だ雁夜は。
故に今回は違うどう動くか分からぬ遊兵当然なのだ。
割とこちらが最善回出すのに邪魔な駒だったりする。
「そちらにもアーサー王が居るのだろう?」
「正確にはなる前ね。だから腕が敵うかどうかは運しだいの悪い賭けになる」
ケイネスの問いにオルガマリーはハンドルを切って右折しつつ言う。
カルデアのアルトリア・リリィは最上の釣り餌になるのだが。
「もっともそれを大っぴらに使えばイレギュラー認定で全面戦争になるわ」
カルデアは複数のサーヴァントを有する。
だがそれをこの特異点で大っぴらに使えば全面戦争だ。
割に合っていない。
「兎に角、バーサーカーは行ってみないとこの時期に居るのかは分からない。居たらいたで、孔明に結界を展開させたうえでこっちで対処する」
「できるのかね?」
「ウチのマシュは八極拳の極みよ。かの書文から免許皆伝を受けている。下手したら本職アサシン+セイバーくらいの活躍は出来るわ」
マシュは既に書文からの免許皆伝を第五突入前に受け取っている。
奥義や園境なども収めたので技の深度を高めていく段階だった。
つまり今のマシュは、高位ペルソナ+書文の戦闘力を持つ怪物と言っても良い。
これならランスロットに引けを取らないだろう。
「ケイネスさんは兎に角、桜の心臓から臓硯と聖杯の欠片を摘出する準備整えておいて」
「分かったとも」
臓硯が桜の心臓に寄生した時期と聖杯の欠片を移植した時期は終ぞ不明だった。
万が一がある。
摘出となるとペルソナの回復魔術で大雑把と言うわけには行かない。
確かな腕の魔術師が必要なのだ。
最近オルガマリーは戦闘に特化、そう言うのは専門外という事もあって不可能。
ロマニはソロモンとばれると袋叩き確定なので今回はカルデアで前みたいにナビゲーションだ。
つまりケイネスしか頼れないのである。
「しかしケイネスさん、ソラウさんまで連れてきてよかのか?」
「それは愚問という物だよ達哉君。あの場に居たらまた爆破されかねん。後君らの言う対物ライフルやら対戦車ロケットランチャーを横合いから叩き込まれたら洒落にならんしな」
切嗣の危険性は語り尽くした。
彼は魔術師を始末する為なら手段を選ばない。
ホテルの横合いからヘリに乗りつけてロケットランチャーやら対物ライフルで狙撃しかねない。
最悪サーヴァントの宝具も使うかもしれない。
さらに言えば爆弾の再設置もしかねないのだ。
此処は引き払う方が良いとケイネスも判断し、魔術師の残酷な一面もソラウに見せる事になるかもしれないが。
彼女が生きていなければ話は始まらない。
メリットとデメリットを秤にかけ彼は人間的に合理的に判断したのだ。
「ついでにマシュ嬢にはウチのランサーも付けておこう。万が一が在ってはいけないからな」
「それは助かるけど、仮にも御三家の工房よ? 大丈夫?」
「君たちの事は信頼している。仮にも私の工房を真正面から突破したのだから」
「と言っても孔明は今回使えないわよ、臓硯を逃がすわけには行かない」
そう臓硯は逃がして一つも良いことはない。
仮に逃がしたら追跡不可能だ、なんせ蟲一匹である。
山の中で目印や追跡用の雀蜂も無しに雀蜂の巣を探せという物である。
100%無理だ。故に逃がすことはできない。
だからこそ孔明を後衛に回す必要があった。
各陣営ももうそろそろ動き出す頃合いだろう。
故にオルガマリーがケイネスと同盟を組み、御三家に殴り込みを仕掛けるというのも間桐家以外は気づき始めているはずだ。
理由はある。臓硯は自分の代理である雁夜を立てている故に自分には関係ないと思い込むだろう。
理由としてそんな他人思考なのは遠坂とある種の不干渉協定を結んでいる事と、令呪システムを抑えているという事。あとは魂の腐敗による思考の鈍化だ。
三つめが一番大きい。不死性による自分は死なないという驕りが何処かにあるのだ。
故に攻め込まれるなんて考えもしない。
現実、この第四次聖杯戦争まで攻め込まれた事なんぞないのだから。
それが慢心を生む。
だからと言ってこっちも慢心してはいけない。完璧な布陣で挑む。
慢心ではない遊びも作った。後はどう転ぼうが仕留められる。
「着いたわよ」
オルガマリーがレンタルハイエースを止める。
深山町、間桐家に繋がる麓だ。
階段は100mも連なっている。そして山々に囲まれている天然の城塞+に魔術的結界なども敷かれている。
現代ならタンクローリーを突っ込ませることも不可能な高低差と木々の数々だが。
資金が潤沢なアインツベルンの後ろ盾を持つ切嗣当たりなら一般ヘリコプターあたりを買い取って、
ニトログリセリンを満載したドラム缶あたりで疑似爆撃しつつヘリも突っ込ませるだろう。
切嗣はそれだけ生粋のテロリストなのだ。
と言ってもハイアットホテルよりはマシなのでケイネスは新たな拠点として選択した。
ついでに上記の事をカルデアに説かれて間桐家を乗っ取った暁には防護陣形をより厳しく行くという事を決意したケイネスであった。
そして彼らは良し階段を上る。
「不気味なほどに静かだな」
「表向きは聖杯戦争に関与しないと言っていますからね。師よ」
「それで貫き通せるなら馬鹿としか言いようがないよ。遠坂以外にバーサーカーが討ち取られれば気づかれる可能性もあると言うのに」
そう、孔明の体験した第四次では間桐家は運がよかった。
雁夜をインスタントに仕上げバーサーカーを呼び出した以上、自滅の危険性があったし途中退場で捕まって情報を吐かされる危険性があったのだ。
一重にそうならなかったのは遠坂のうっかりか、雁夜の運が悪いか、臓硯の悪運が強いかのどれかだろう。
だがそれも今夜までだ。
完全にカルデアとケイネスたちに目を付けられたのが運の尽きだった。
「結界は張ってあるわね」
オルガマリーはそう言った。それと同時にクラッキング。
結界を解除するのではなく、警報機能と攻性機能を無効化したのだった。ついでに自分たちが入ってから移行。
10分後くらいに自分たち以外の物が入ったらそれらの機能が働くように設定する。
無論内側からも逃げようとした場合の同様の設定に変更する。
メディアやかつてブリュンヒルデから薫陶を受けた今のオルガマリーなら造作もない事だったのだ。
因みに簡単にクラッキング出来たのは時計塔こと、英国方式だったからである。
故にブリュンヒルデとオルガマリーが解除に五時間はかかるといった松島の結界が可笑しいだけで。
元より結界に優れず全盛期より劣化した臓硯の結界なんぞ今のオルガマリーなら自由にこねくり回せる。
「凄まじいな、その腕」
ケイネスも他者の結界を自由にこねくり増せることに驚愕した。
居室や自分の工房の結界を解除していたから凄まじいのは分かっていったが、
まさかこれ程とは思わなかったのである。
「大した結界じゃないから、ケイネスさんもやろうと思えばできるわよ」
「そうかね?」
「そうよ」
そう言って一行は結界に探知されることなく素通りして間桐家の前に立つ。
「キャスターは一応ここで待機、ケイネスとフラウさんも・・・「私も行かせて」・・・後悔するわよ」
臓硯の桜への仕打ちはカルデアメンバー全員が顔を顰めるほどだったのだ。
実際に見れば般若の如き形相になるだろう。
「私も後ろ盾として見届けなければならぬ、第一、君たちは魔術の腕は優れているとはいえ・・・感性が一般的すぎる、暴走して資料事消し飛ばしたなんてのはさすがに洒落にならん故な」
カルデアは良くも悪くも感性が一般的すぎる。
これもペルソナの影響だと事前説明は受けていたのでケイネスが冷静に判断するため抑えに回る形となった。
「バーサーカーは居ない様子だが、ランサー、一応周辺警戒を頼む」
「御意」
そしてケイネスは周辺警戒をディルムッドに頼む。
無論、ディルムッドに断る理由もなく周辺警戒に出かけた。
「扉は開いてますね」
既にウリエルを展開し歩ける状態のマシュが静かに間桐家の正面玄関を開けつつ言う。
彼女の言う通り鍵は掛かっていなかった。
皆が足を忍ばせ素早く各部屋をクリアリングしていく。
その素早さと隠密行動の速さにケイネスとフラウは何も言えない。
そしてついに。間桐鶴野を見つけた。
一般人ではあるが一応間桐の蟲蔵を知っているという情報はあるというのは知っている。
達哉が兼定を収め、ナイフを引き抜きアポロを呼び出してのノヴァサイザーを起動。
時止めから瞬時に鶴野の背後に回り込み、CQCで地面に張り倒して拘束、ナイフを首筋の頸動脈に軽く当てて時止めを解除。
この間四秒弱、消耗も無い。
「答えろ、蟲蔵は何処だ?」
「あ、それは」
「答えなきゃ、頸動脈を裂く」
「分かったよ!! 言うよ!!」
鶴野的な思考では現在聖杯戦争中だ。
弟の雁夜がバーサーカーを呼び出したもんで乗り込んできた連中だと思ったのだ。
ついでに言えば、雁夜ではなく臓硯をマスターだと達哉達が思い込む要素もあった。
なにせ間桐家は断絶寸前なのだ。雁夜というイレギュラーさえなければ鶴野的には他のマスターは臓硯と思い込む要素しかない。
だから喋った。都合よくあの恐ろしい臓硯を排除してくれる存在が来たのだと。
故にぺらぺら喋った。
聞きたいことは聞けたので達哉はナイフの柄尻で鶴野の後頭部を強打して気絶させる。
「なんだね? この家は俗物しかいないのか?」
「間桐家は既に終わっている家だからね。無様で醜悪な爺が醜態を晒しているだけ、それは一般人にとっても魔術使いにとっても魔術師にとっても迷惑、違わないでしょ?」
「確かに」
臓硯の行いはどの区分にとっても害悪だというオルガマリーの言葉に、
ケイネスは苦笑を漏らしつつ言った。
もうこうなれば臓硯はいかなる救いも用意されていない。
最悪な死に方をするだろうと。
そして皆が、鶴野の情報を元に蟲倉の場所を突き止め。
その前に立つ、頑丈な扉を達哉が身を一回転させ蹴り破る。
そして現在に戻るのだ。
まさかここまで醜悪だったとは誰も思わなかった。
もっとも孔明は分かっていたが外で石兵八陣を間桐家一帯を覆うように張り巡らし、ついでにオルガマリーは間桐家の結界を反転させ、
意地でも臓硯を逃げれないようにする。
「貴様等、何奴「メタトロン、マハンマオン」
臓硯が即応する前に達哉はメタトロンを呼び出しマハンマオンを繰り出す。
元より日光にさえ弱い臓硯と蟲たちだ。
大天使の欠片たるペルソナのメタトロンのマハンマオンの直撃を喰らえば、
どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
顕現せし大天使の欠片の光の前に即座に臓硯以外の蟲が浄滅される。
無論臓硯も只では済まない。既に肉体どころか核となる蟲でさえ崩壊しかかっていた。
「あ、っがぁ・・・」
「そのまま死に絶えろ外道」
苦しむ臓硯になんの観念も達哉は浮かんでこなかった。
只目障りだから死ねという初めての感情が浮かんできたのだった。
そして完全浄滅させるためにメタトロンを再び起動させる。
今度は運よく生き残らせはしない。マハ系は運が絡む。コウガ系にシフトすべきかと達哉は考えたのが仇となった。
「かぁ!!」
「なぁに!?」
臓硯爆散、それと同時に体を構成していた蟲たちが群れとなって襲い来る。
カルデアとケイネスたちは驚愕しつつも迎撃態勢を整えていた。
仮にもペルソナ使いと色位の魔術師が身構えていたのである。故に一瞬で構成していた群れが消し飛ぶ。
「やったのかしら?」
「やったと思うが・・・」
オルガマリーの呟きにケイネスがそう答える。
誰も寄生なんかされていない。
ともなれば核の蟲も今の光系スキルとケイネスの魔術で消し飛んだと見た方が良いのかもしれない。
所謂、最後の悪あがきという奴である。
間桐臓硯は此処に死に絶え・・・
「はぁはぁ・・・まだ終わらぬぞ」
臓硯は飛行可能な蟲に自らの本体を抱えさせ離脱していた。
さっきの自爆は煙幕変わりだ。
抜けられるはずもないのにこれから結界を抜け若い女の首を挿げ替えて再度体を構成し、逆襲をと思った瞬間であった。
「やれやれですな、引き際は弁えなければ」
投擲される針、それは飛行蟲と臓硯の本体の蟲を地面に磔にした。
木々の間から現れたのは言峰綺礼その人だった。
もっともその表情は既に邪悪の愉悦に歪んでいる。
「貴様!!璃正の倅の!!行方不明になっていたはず!!」
「私も色々思うところがありましてな、世界中を見てきたのですよ、戻って来たのは今さっき、そして今夜の奇襲を師から聞いていたので丁度いいかなと思い立ちましてね」
そう、綺礼は主要時間軸と違いニャルラトホテプと接触している。
故に行方不明になり、今日に至るわけだがニャルラトホテプのゴーサインが出たので舞台に主要時間軸の様に登板した。
もっとも令呪は持っているが召喚するサーヴァントはアサシンではない。
なんせ今から召喚するのだから。
因みにアサシンは行方不明になった綺礼の代わりに璃正が召喚していたりする。
綺礼も親に今更、顔を合わせる気も無いし再会の予定もない、人生の師はニャルラトホテプ、信じるは聖四文字、妻として愛するのはクラウディアのみだ。
「では、最後の絶望を楽器の如く奏でてもらおうか」
そういって綺礼は愉悦に顔を染めて詠唱を始める。
今はまだ結界に接触していない。故にカルデアとケイネス陣営は気づけない。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には太極図の黒、信仰には偉大なるヤハウェ」
そう言いつつ綺礼は掌を切って出血する、蠢いて魔法陣を描く。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
魔法陣が完成し臓硯が苦悶の内に叫ぶ。そう彼こそが触媒にされていた。
いいや触媒と言う生温い物ではない。生きたまま生贄にされているのだ。
彼には途方もない悪性情報が流れ込み発狂する他ない。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。―――――Anfang ――――――告げる ――――告げる」
魔法陣から現れるのは混沌そのもの阿頼耶識の黒の化身がサーヴァントとして現れる。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に、我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
「がぁぁああああああああああああああ!?」
臓硯が絶叫する。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いと思ってもこの召喚術式が終わるまで解放されることはない。
正しく因果応報。桜に、雁夜にやってきたことが今になって帰って来た。
ただでさえ肉体の腐敗の激痛に耐えていたところにこの激痛、最早耐えられない。故に発狂し続けるしかないのだ。
「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
そして原初の記憶も、今の願いも何だったのかさえ思い出せぬほどに発狂した臓硯は踏みつぶされる羽虫の如く悪性情報に踏みつぶされ無様に無意味に死んだ。
自分が何だったのかさえ思いだすことなく。
そして顕現するのは―――――――――――
「さんたまりあ、うらうらのーべす、さんただ―じんみびきし、うらうらのーべす」
魔法陣から聞こえてくるキリシタンの祝詞。
嘗て弾圧され切り捨てられた宗教の讃美歌。
「さんたびりごびりぜん、うらうらのーべす、まいてろきりすて、うらうらのーべす、まいてろににめがらっさ、うらうらのーべす」
だがしかし具現化するのは逆、切り捨てられ打ち捨てられ歪められた悪性情報の塊。
「まいてろぷりんしま、うらうらのーべす、まいてろかすてりんしま、うらうらのーべす」
濁り切った不協和音、具現化する悪魔とはそう言う物という共通認識。
ニャルラトホテプの一つの形、歪み切った悪魔像そのもの。
「あんめいぞぉ、ぐろぉぉろりああす!! クハ、キハハハハハハ!! 数ある貌の中でも僕を呼ぶなんて君相当歪んでるねぇ!!」
「まぁ自覚はありますんで、師よ」
「うーん、だけど今の僕はなんのけんげんもないよぉ。聖杯に権能の殆ど制限されちゃってさぁ、出来る事なら死なないくらい!! マジで役に立たないよ」
「それでも呼び出せということでしたので」
「ああ、君、本体気取りのお気にだったねぇ!! よし僕も本腰をいれて道化役に徹しようじゃあないか!!」
そう言って漆黒こと神野明影は嘲笑う。
「ああでも形式は済ませておくとしよう、僕は神野明影、クラスはキャスターだよ。後呼び名だけどじゅすへるでも蝿声厭魅でもチェルノボーグでも鬼天狗でも好きな呼び名でどうぞ」
神野はそう言って一礼する。
だが綺礼はどうでもよさげに、
「なら師と呼ばせてもらう。好きなように攪拌してかまいません師よ」
「君が言うならそうするねぇ・・・ええっとキハハハハ!! マジかよ、カルデア以外馬鹿ばっかりじゃん。こりゃ楽しく成りそうだ。ハハハハハハハ!!」
そう言って神野の身体は無数の虫に分解され消え去った。
綺礼もこの場を去ることを優先とした。
今の彼はペルソナを持っている上にニャルラトホテプの支援も受けている。
張り巡らされた結界を抜けるのは容易いと言えた。
そしてそんなことが起きてると知らぬカルデア一行は、
「そういえば今夜だったかアサシンの偽装死が起きるのは」
「はいそうです。相手は百貌のハサン、自らを百体に分裂する宝具持ちです」
「使い魔を飛ばして置こうか。一応そちらとの情報とのすり合わせがある」
ケイネスとそんな談笑をしていた。
今夜、カルデアが齎した情報通りならアサシンの偽装死亡案件が引き起るのである。
なまじ起きなくともアサシンの召喚はハサンに固定されているのが通例だ。
よほどのイレギュラーが無い限りケイネスクラスだったら対策を立てられる。
「それとウェイバー君・・・達哉君の事なのだが・・・」
「まぁ約束ですからね、一晩くらいは良いでしょう」
「ソラウが拗ねて怖いのだが??」
「それは男の甲斐性の見せどころです」
桜は無事救助された。
確かに魔術的に違う属性への適応のため酷い矯正が行われていたし。
達哉がペルソナでふっ飛ばした蟲以外は、一般住民掻っ攫って餌にしていた証拠も押さえた。
最もその住民は生きていなかった。生きたまま人体模型程度に形は保っているほうがまだマシというレベルだったのだ。
それに膨大な資料も手に入った。
ケイネスとオルガマリーは触りで読み流したがそれでも酷い物である。
魔術師としても完全アウトに天秤が傾いたのだった。
それで桜が胎盤加工予定だったのは資料で判明済み。
実際は加工がちょい行われている段階だった。髪色の変色もその影響だった。
肉体への凌辱も酷い物だった。内臓系が特に酷い、魔術回路もだ。
それは時間をかけて治していくことになるだろう。
もっとも魔術回路系はどうにもならぬが内臓系はペルソナの回復スキルでどうにかなりそうなので、
桜と達哉の間で交わされた取引、焼き肉を喰いに行くことに支障はなさそうだった。
と言っても今夜は達哉と寝ると桜がだだをこねたせいで桜を心配していたソラウが拗ねてしまったためどうしようかとケイネスは孔明に相談していた。
それは男の甲斐性の見せどころでしょうと孔明は言う他なかった。
なおこの場にオルガマリーが居ればホテルに滞在中の時ケイネスが喰らった説教を今度は孔明が喰らっていただろう。
それだけモテるのだ孔明ことウェイバー・ベルベットは。
なんせ時計塔一番に抱かれたいランク1の男ではないのだ。
それに弟子と評して幼な妻みたいに囲い込んだグレイがいるのだから説教喰らって当たり前である。
「だが不思議だな君とこうしてワインを飲み愚痴を言いあい魔術討論をする日が来るとはね」
ケイネスはグラスの中のワインを揺らしつつ嘆息した。
一番出来の悪いはずの弟子がこうやって一番大成していることに感嘆の意を表するしかない。
何よりこうやって討論や愚痴を言いあうなんて思っても居なかったのだ。
「私もそう思います」
「なに今の君ならアーチボルトを任せられる。胸を張り給え」
既に孔明が経験した聖杯戦争ではケイネスは死亡していると感づかれた。
当たり前だ。これは御前試合ではなく文字通りの戦争なのだ。
あらゆる策謀が渦巻くこの聖杯戦争、魔術一辺倒ではやっていけない。
現に、最初は見せ札として見せられた解体されたC4プラスチック爆薬に顔面の色を急降下させざるを得なかった。
アレはほんの一部でレンタルハイエースに乗せられた量とその量を一斉爆破した場合の画像を見せつけられ、さしものケイネスも冷や汗を掻かざるを得なかったという物だ。
因みに解体されたC4はカルデアに回収され装備庫行きとなった。
爆破されさえしなければC4は只の粘土であるがゆえにリサイクルが効く。
ありがとう切嗣。これでカルデアの装備は充実したとオルガマリー、嬉し泣きである。
「少し前までの私なら容易く負けていただろうな、君たちには感謝の念しかない」
「それは言い過ぎです私達もカンニングしているにすぎませんから・・・」
「イレギュラーが起きると?」
「起きます、必ず起きます。カルデアの戦いにおいて、ロマニと言う一度味わった先達が居るにも関わらず、予想の殆どが外されてきたので」
そうロマニの前の知識も多少のガイドにはなったが、大局は外れてきた。
主要時間軸では起きていないことが一杯起こった。
まずロマニから聞いた話なのだがジャンヌ・オルタは自分を確立し未だに驚異度一ジャンヌ・オルタとかいう指標にされていない存在ではなかったらしいし。
第二でネロがビースト化、聖杯までビースト化してなかったという話だ。
第三はあんなに海が荒れていなかったし、ハーモニープログラムの適応、そしてポセイドンやらメガロスとガチンコなんてしなかったとの事。
第四は霧に覆われ魔術師が幻想種やら悪魔に変換されて町中を徘徊してなかったし、
第五はAC軍団に狗兵、デヴァユガシステム、終いにはデスザウラーなんてものは出てこなかったのが主要時間軸の出来事だ。
主要時間軸の出来事だ。
そしてそれらイレギュラーが全て起きたのが今、達哉達が挑む人理焼却なのである。
故に今度の第四次聖杯戦も記録や後の証言に無い事が起きると断言する孔明だった。
「・・・一つ気になったのだが」
「なんですか?」
「その噂結界とやらこの冬木に張られていないかね?」
「あっ・・・しかし大丈夫だと思います」
「なぜにそう言い切れるのかね?」
「ネットワークが私の時代よりも発展していないからです」
そうこの時期、まだPCは高級品だ。誰それと手を出せる物ではないし、
第一、スマフォのよるSNSやらツィッターやらフェイスブックも流行っていない。強いて言うならネットの隅で某隠匿掲示板が流行っているくらいで。
それは結界外だ。
まず心配はないだろう。
「奴の結界発動条件は同情報が真実として人に共有される事だからです。ですから今はまだ大丈夫でしょう」
「今はまだという事は君の時代には情報網がもっと発展してると?」
「はい、今より迅速にです。真実も自分で選び、掴み取る時代になりました」
「それはまた難儀な」
はぁっとケイネスもため息を吐く。
情報網の即効性の発達は魔術師にとっても痛い問題だ。
なんせそれだけ広めれば隠匿の効力も薄くなるがゆえにだ。
「おおっとそれよりもアサシンが遠坂邸に殴り込むみたいだぞ」
「皆を集めますか」
そう言って皆を集める。
尚桜も一緒だ。達哉お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ眠れないと言ってきかない。
皆しょうがないかとため息を吐いた。
今のうちに魔術業界を知っておくこと自体は桜にとって悪い事じゃない。
ケイネスから言わせても突出しすぎているとの事だったからだ。
どう足掻いても一般人には戻れないとの事。
遠坂がアレなのでケイネスがソラウの懇願もあってかこのイザコザが終わってから養子に引き取ることにした。
向うも名誉として拒まないだろうし、拒んできたら間桐家にある資料で論破するまでとの事だ。
「ねぇケイネスおじちゃん」
「おじちゃん!?」
桜におじちゃんと言われケイネス驚愕に目を見開く。
私はまだそんな年ではないと一括しようとして、ソラウに睨まれ断念した。
ソラウはお姉ちゃん呼びなのになぜ私だけとしょぼくれるケイネス。
そして二人以外の皆はケイネス、ソラウの尻に敷かれるなぁと思ったのだった。
ただし達哉だけは他人ごとじゃないと内心冷や汗を掻いている訳だが。
それはそれとして・・・
「この人、父さんを殺すために侵入したんだよね?」
「そうだが・・・」
子供には残酷な事実だと誰もが思った時である。
「ならこんなへんなダンスなんかしないで結界を突破して寝首を掻けばいいんじゃないとおもうんですが」
『『『リアリストだこの子!?』』』
桜は以外なことにリアリストだった。
なんで態々、こんなイライラ棒を攻略するときの様に変な体勢を取ってこのアサシンは結界の起点を破壊しているのだろうという当然の疑問だ。
結界は城壁でもある。壊されたら誰だって感づく訳で。
それはアサシンとしてどうなのかと言う桜の痛い突っ込みが入った。
「ま、まぁ100体に分裂できるアサシンだからな、ここでアサシンを脱落したと偽装しておきたかったのだよ」
「でも金色の人、強そうだったよ。それな父さんの寝首を掻いたほうが早いよ・・・」
「ま、まぁそうだな・・・」
流石に先ほど救助したばかりの桜に時臣とアサシンのマスターが同盟関係の茶番劇とは伝えていないから当然の疑問っちゃ疑問である。
それはしょうがない。
そんな茶番劇が終わり、
「さぁ寝ようか桜、明日は焼き肉だからな」
「うん・・・」
達哉と桜は寝るために退出。
一方の残った人々はホテルからケイネスの礼装やら魔力炉を取る為に朝付近まで間桐家とハイアットホテルを往復する有様となったのだった。
コトミー「蟲爺をリリースしてニャルを特殊召喚!!」
蟲爺「ぎぃぃやぁぁあああああああ!?」
ニャル「ニャルニャルーwwwwwwww」
という訳で蟲爺生贄にされて発狂の中の痛みでなにも思い出せず死にました。
原作でやった死に際に志思い出して死ぬとか本作では許されません。
という訳で大人しくたっちゃんに浄滅された方がマシな死に方しました。
そして最悪の道化師が召喚されるというオチ。
なおこの神野明影は死なないというだけで原作の様なベルゼブブモード持ってません。
道化師としては最悪ですけども。
なおコトミーは第四次以前からニャルの手引きで行方不明となっており百貌のハサンのマスターは璃正になっております。
で、父に告げずひっそりと帰還した綺礼はニャルの手引きに従いニャルの貌の一つである正規キャスターの神野明影のマスターとなっています。
明影「僕ただ死なないキャスターですよー、あと色々名を持ってるから東洋鯖じゃないですよー」
聖杯君「良し通れ!!」
てな具合に召喚されますた。
無論、登場人物をニャルりにですね~
次回顔合わせ回&焼き肉回。
因みに桜がまだ遠坂だった時、テレビみて某うざい食レポ芸人をリスペクトしているのでこと焼き肉に関しては非常に面倒臭い子です。
孔明とウェイバーが対峙するときです。
というか最近酒飲んでいるとテンション上がちゃって書ききっちゃうんですよねー
あと次回こそ遅れますんでそこの所よろしくお願いします。
ではまた次回~