Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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社会的憎悪は、宗教的憎悪と、同じく政治的憎悪よりも強烈かつ深刻である。


バクーニン「政治哲学」より抜粋。


五節 「冥府の聖女」

夢を見る。

酷く吐き気のする夢だ。

夢の中で影に疑似仮想体験した夢を見るというのは滑稽極まる物であろう。

だがそれが根なのだ。

 

即ち。ジャンヌ・ダルク・オルタの憎しみの源泉はそこにあるのである。

 

 

周防達哉の影との闘争。

 

結城理の死への行進。

 

鳴上悠の真実の探求。

 

雨宮蓮の統制からの脱却。

 

ショウの英雄譚。

 

アレフの英雄譚。

 

人修羅の黙示録。

 

フリンの神殺しへの物語。

 

仁成の文明の負荷への挑戦。

 

 

多くの悲劇を、夢と言う仮想空間で味あわされて。

そして多くの奇跡をみて。

 

ジャンヌ・オルタは絶望した。

 

 

多くの悲劇と奇跡を積み重ねても。

人は変わらず世界は平行線をたどる。

何時もは、危機感を認識せず。

そういった負荷を他者へと押し付けて。

いざ自分たちが危機に晒されると辛いことは、戦えるものに押し付けて。

祈ることしかしない上に、最後の奇跡だけを後押しして我が物顔で成果を奪っていく

 

 

それに失望し絶望し憎んだ。

 

 

こんな何もしない、なにもしようとしない連中の為に・・・皆、人柱になったのかと・・・・

 

 

誰も報われてなどいない。

 

 

達哉は孤独に堕ちた。

理は死を封じ込め永劫目覚めることはない。

悠は真実を見つけ出したが人の本質は変わらず。

蓮の境遇は変わらず。

 

ショウは不要だからとばかりに人に切り捨てられ。

アレフはその行いは大罪として永劫報われぬ輪廻を課せられて。

人修羅は悪魔の切り札がゆえに闘争を続けて。

フリンは神こそ殺したが。結局根源を断つに至るまでは行かなかった。

仁成は終わらぬ文明の過負荷に挑み続けている

 

何も終わらず、何も変わらない。

 

奇跡が起きたという事実と、とりあえずは安全圏に到達したという認識のもと。

人々は安堵し、また惰眠を貪りに戻る。

戦線が押し上げられただけで実際のところ何も終わっていないのに。

出来るんだったらお前らがやってろよと言わんばかりに。

未だ戦い続けている彼らを見捨てて起こった奇跡を享受し貪り食らう大衆を憎む

 

『許せるものか・・・』

 

仮想体験とはいえ彼らと戦ったジャンヌ・オルタは憎しみのままに現実に浮上し。

この世界も大して変わらないことを知る。

幾度となく綴られた英雄譚。だが文明は発展こそしたが。

人は変わらず、向こう側の住民同様。安楽に身をゆだねている。

 

一部が理想を掲げたところで変わりはしない。

 

ならば。

 

『一切合切、幕を引く。』

 

それがジャンヌ・オルタの至った結論だ。

 

歪んだパズルはリセットすればいい。

 

報われぬ者に慈悲の刃を、惰眠を貪る白痴の如き猿共には絶死の爪を突き立てよう。

何もかもを殺し尽し報復して、影をこの世界から追いだし、抑止を潰し、人理を食いちぎって。

獣を叩き殺し、その果ての殺戮の丘から生まれる、人の次の生命に期待するほかないと結論付ける。

それをここから始めるために。

ジャンヌ・オルタは殺戮の丘を進む。

 

 

 

 

 

そして今も夢を見る夢を見る夢を見る、

 

『ああ、憎い、憎い、憎い!!』

 

この世の理は功利的な物が大原則だ。

 

誰かの幸福は誰かの絶望で成り立っている。

 

先も述べた通り終わらず憎しみだけが増大し膨れ上がっていく。

 

ジャンヌ・オルタは憎み続ける。

だが同時にふと思うのだ。

 

 

何故に彼は復讐を望まなかったのか・・・

 

 

周防達哉の事である。

 

 

彼こそ人間の獣性の被害者の代表格であろうに・・・

終わることも許されず一人孤独を歩み、影にこの世界に叩き落されて。

そして始まった。人理焼却という事象に挑んでいる。

 

ジル・ド・レェの使い魔を通し彼を見て確信する。

 

強い意思に隠されてこそ居るが

また世界を憎んでいる同類の瞳。

それと同時に、それに匹敵・・・。否、それ以上の憎悪を抱えているのを見て確信した。

 

『だから教えて。アナタが世界以上に憎む物を』

 

分からぬがゆえにジャンヌ・オルタは夢の幻影と知りながらも手を伸ばして問う。

自分のオリジナルとは違って青年は周防達哉はこの世を憎んでいるだろう。

それも自覚しているのも理解している。

出なくば、影に対しあれほど迄の殺意は抱いていないはずだ。

だがそれを、表に出すことはなく。

彼は世界の為に必死に戦っていった。

 

なぜそこまで憎みながら。まだ世界の為に戦えるのか。

憎悪の化身と化したジャンヌ・オルタには分らない。

手を伸ばして答えを掴もうとして・・・夢から現実に浮上した。

 

 

「ジャンヌ」

「-----」

「ジャンヌ!!」

 

 

薄紫色の髪の毛がジャンヌ・オルタの頬に触れた。

彼女の目の前には露出度の高い獣皮の戦闘服を身にまとい。

頭に獣の耳を生やした絶世の美女こと「アタランテ・オルタ・アヴェンジャー」の顔がジャンヌの視界に迫る勢いで飛び込んできた。

衣類も宝具を使用したがために民族衣装から際どい今のそれに代わっていた。

が、アタランテの体の所々は焼けただれ、斬り抉られている。

ジャンヌ・オルタはそれが自分自身がやったことであることは理解している。

 

「ああ、またやっちゃった?」

「ああ、全く、抑えるのに手間だったぞ・・・」

「御免なさいね、アタランテ・・・一度夢を見るとどうもね・・・」

 

余りの憎悪に下手をすれば夢を見ている時の方のジャンヌの方が一番ヤバい。

ためにため込んだ力が。夢の中で枷の外れた憎悪に呼応し噴出するのだ。

起きている時は理性での制御が効くが、夢を見て本性が露になると暴走する。

そう言った時はアタランテかランスロットに叩き起こしてもらうのが通例となっていった。

ため息を吐きつつ、アタランテの頬にジャンヌの右手が触れて。

アタランテに刻まれた傷がジャンヌ・オルタへと移り鮮血を噴出させる。

もっとも引き受けた傷は即再生され。ジャンヌ・オルタの力へとなる。

 

「・・・汝は引き受けすぎだ」

「いいのよ、性分だもの、というかアンタと私はビジネスライクな関係でしょうに」

 

アタランテも報復心を抱きジャンヌ・オルタの計画に加担している。

ビジネスライクな関係だとしても。

それでも彼女が使役するサーヴァントに邪龍の傷を引き受けてもらっているのは気の良い話ではなかった。

ジャンヌ・オルタ陣営が一方的にフランス勢を押し込めたのはジャンヌ・オルタが聖杯やら怨霊やらを取り込んだことによる疑不死と高出力。

それを利用して、サーヴァントと邪龍ファフニールの傷を引き受けているからである。

ジャンヌ・オルタ自身も聖杯と言う強力な楔と「死んだはずのジャンヌ・ダルクが蘇って復讐に来ている」という噂の効力もあって蘇生と疑似不死能力を手に入れているため。

彼女の指揮下にあるサーヴァントは致命傷を受けようが即座に復活するという不死性を持っていった。

最も流石に祝福属性のペルソナスキルやら聖人系スキルでデバブを掛けられて殺されれば呪詛に近い能力であるため。

即座に蘇生と再召喚という分けには行かない。

現にランスロットはマリーとマルタと交戦し敗北。

ジャンヌの中に回収され蘇生処置が済んだのがここ最近なのである。

 

「・・・私はそうは思わない。」

 

 

アタランテにとって初めての共感者だ。

自分の憎悪を理解し共感してくる存在であった。

だがまぁ、皆殺しにしてすべてをリセットする、というジャンヌ・オルタやり方にはすべてを賛同できない。

だがこの苦界を駆逐できるなら、そうするほかないというのは、アタランテには理解できる事ではあった。

刹那の思考に思い出すのは嘲笑う影。

 

 

―ククク。馬鹿極まるとはこのことだなぁ、自分に対し優先事項も付けられないのか? どちらが大事だったのだ? 誓いか? それとも道に落ちている林檎というなの財貨か? まぁ貴様にとっては誇りや誓いより林檎の方が重いと見たがな。 故に告げてやろう、お前は大事な者を取り逃がすのだ。―

 

 

生前の勝負の後の敗北後にアタランテを嘲笑したのはヒッポネスを友人の形で諭した影。

その後、座に至って。

真実を知った。

 

影が嘲笑し試練を課し人々を苦しめ子供たちを打ち据える世界がこの世界であると。

 

そんなものに救いはなく。故に苦渋の果てにジャンヌ・オルタの計画に賛同した。

子供も女も老人も男もすべて殺し尽しリセットするという愚行の極みを。

 

それもひとえに。

 

『憎みなさい、アタランテ、世界を、自分を、私を。その憎悪全て私が受け止めて成し遂げてあげる。その果てに殴るべき私と理不尽を殴らせてあげる』

 

憎しみを肯定し。

報復心を聖女の如くに肯定してくれた。

涙さえ流れた。

アタランテは英雄である、その思想は常人に理解されないことがほとんどであったから。

故に影を倒し自分たちの夢をかなえ、新たな地平線を作ろうとする、ジャンヌ・オルタにアタランテ・オルタは忠誠を誓っている。

だからと言って。

彼女が憎悪の果てに朽ちるのを認めたくはなかった。

 

「私は汝と勝利の果ての酒が飲みたい・・・、故に無茶はするな」

「はっ、だから勝ち目をなくすのよ、アナタは、一度得た影法師の如き生ですもの。少しは愚直になりなさいな」

「哀れみを嫌っているのは知っている。故にこれは純粋な敬意と友人心と言う奴だよ、ジャンヌ・オルタ」

 

ジャンヌ・オルタの一蹴にアタランテは自分自身が選んだゆえの行動だと言い切り。

それを聞いたジャンヌ・オルタはため息吐きつつアタランテの意思に拒絶を吐く。

 

「どうせ最後には殺すのよ。情なんて持たない方が気が楽よ」

 

そうは言う、幾ら友情を抱こうともジャンヌ・オルタは最後まで殺し尽す気である。

それは召喚した自らのサーヴァントも例外ではない。

自分でさえもだ。

最もアタランテもそれを知っている。

だが他者であるからこそ見えてくるものもあるのだ。

 

 

「汝は「それ以上言ったら殺すから」 すまん」

 

 

アタランテの印象としてジャンヌ・オルタは完成に至っていない。

まだ枷は外れ切っていないとの印象がある。

徹底的に刻み付けると言いながらどこか。カルデアに期待しているような思わせぶりであった。

現にジャンヌ・オルタがその気になれば、計画はとうの昔に成就しているはずだから。

 

故に思う。

 

―彼女は・・・カルデアに自分自身を殺してほしいのではないか―と。

 

それを口に出そうとしてジャンヌ・オルタが殺意をむき出しにして止める。

彼女自身わかっているのだ。

いくら言葉を合理性で繕っても。

只の八つ当たりやテロリズムに過ぎないと。

がしかし、抱く憎悪は本物だ。

故に止まれない。

坂を転がる小石は底にたどり着くまで止まれないのと同様である。

 

「ジャンヌ」

 

玉座の間に「シュバリエ・デオン・アサシン・アヴェンジャー」が来る。

ドレス姿に軍服の上着を肩に羽織っており、腰の鞘にはレイピアと言ったいで立ちの

黄金比の体現したかの様なスタイルを持つ美女である。

同時に男でもあるらしいのだが詳細は不明だ。

彼女の衣類も所々が破けている。

 

「なにか問題でも?」

「清姫が暴れ出したよ。何とか拘束はしたけれどね。」

「またか・・・」

 

アタランテは右手を額に当てつつデオンの言う状況にため息を吐いた。

 

「清姫・バーサーカー・アヴェンジャー」

 

召喚した時にはもう人ではなくなっていった。

いや、確かに召喚術式に復讐者スキルを召喚したサーヴァントに組み込むようにしたのはジャンヌ・オルタ自身であるが。

召喚は完全に向こう側が答えなければ召喚されない方式である。

ようはジャンヌ・オルタと英霊側の双方の合意が無ければ成り立たない代物なのだ。

 

 

アタランテは子供たちが報われぬ世を正すために応じ。

ヴラド公は己を怪物と定義した世を壊すために応じ。

デオンと「シャルル=アンリ・サンソン・アサシン・アヴェンジャー」はマリー・アントワネットを犠牲にしながらもあの様になった国を憎んで応じた。

「ランスロット・セイバー・アヴェンジャー」は未だなお王に纏わりつく影への報復心で応じている

ファブニールはまぁジークフリードへの憎悪で応じた。

ジル・ド・レェは言わずもかなである。

清姫は安珍への恨みで応じた。

カーミラは愚かな自分への報復心だ。

 

無論、ジャンヌ・オルタは彼等をだます気はさらさらなく。

召喚術式に応じた場合、人格が変容するレベルでの復讐者スキルを付属するということを。

伝わるようにした上で。

それでも召喚に応じた者たちを召喚し。

その上で自身の計画を話し賛同した者たちをサーヴァントとして従えているが。

 

清姫の場合説得もくそもなかった。

 

彼女自身が召喚された時には自身の復讐心が増幅された結果、清姫と言う英霊はバーサーカークラスの影響もあり常に暴走状態となった。

己の憎悪に飲み込まれ、竜化が常時発動し。

憎みに憎むあまり霊基が変質し鬼化まで同時に引き起り。

最早、その姿さえ人でないのだ。

自己嫌悪と復讐心に狂う彼女は常に暴れ散らすのである。

ジャンヌ・オルタや彼女が従えるサーヴァントたちの憎悪に指向性があり一貫しているのもあって、それゆえに理性があるが。

清姫の場合はその復讐心に二面性があるゆえに一貫性が無く、

自身と他者を憎み続ける二律背反が発生しており、その二面性によって常時錯乱状態である。

故に意思疎通はジャンヌ・オルタも不可能である。

精々が彼女自身の憎悪を吸い取って鎮静化し。

戦になれば解き放つことくらいなものだ。

 

 

「いいわよ、いつも通り静めればいいでしょ」

「僕的には推薦しないね、君とて抱えているものが多いんだ」

 

いつも通りに復讐心を引き取ればいいんでしょと何度目になる暴走に慣れたかのようにジャンヌ・オルタは言うが。

デオンは止める。

アタランテもそれに頷いた。

 

「然り、我らの憎悪を受けとめている上に有象無象共の怨霊までため込んでいるんだぞ・・・。」

 

自己改造EXがあるとはいえ。

聖杯まで取り込んで。サーヴァントたちとの霊基を一体化。

そこにさらに怨霊やら魂喰らいで出力アップを続けているのである。

何度とも述べる通り無茶苦茶である。

少し感情が揺らいだ時点で城が消し飛びかねないのだ。

というよりも、そこまでしておきながら、彼女自身の人格が擦り切れて居ない方がおかしいのだが。

二人の言葉を右から左へと受け流すように「わーってますよ」言う風に受け流し玉座の間を出て廊下を抜けて。

庭に出て素通りし出る。

 

鍛錬場だったそこは。もうすでにそのあと形もない。

鍛錬場の中央には一匹の化け物が佇んでいるというよりも。

鎖で雁字搦めにされて藻掻いているという表現が正しいだろう有様だった。

全長は6m前後、骨格は竜と鬼種の中間問った風情である。

体には竜のような虚が多い。

両目は完全に爬虫類のそれであるが。人間とも鬼とも竜ともにつかぬ顔の造形と頭部から生えている白髪が。

かつてそれが美少女だったという名残を残している証明である、

身を応用に色褪せズタボロになった着物を羽織っており、

女の怪物といった風情だ。

 

「安珍様ァァアアアアアアアアアア!!」

 

頬まで裂けた口を開き愛しき人の名を叫ぶさまはもう目も当てられないとのことであろう。

狂っているというより狂っていなければ耐えられない。

だというのに。

影が生前の正気に戻してしまった。

 

 

―確かに、お前は彼を愛していたんだろう、だが愛とは相互の想いが成ってこその物。好意を君は持っていたが、彼は持っていなかった。だから彼は君の事を配慮し遠回しに振るのはごく現実的選択だ―

 

 

彼女の脳裏に浮かぶのはあの燃え盛るお堂。

正気に戻った時に、狂う瞬間に、現れた黒に塗れた僧である。

彼は口を吊り上げ淡々と事実を告げる。

確かに清姫は安珍を愛していたんだろう。

だが彼は君を愛していなかった。

だから遠回しに断って場を後にしたという現実を。

 

 

―ウソです・・・それは嘘です!―

 

―クク、ならなぜ彼を殺した? 問い詰めて聞けばよかっただけの話だろう? それで一切合切話しはついたはずだ。―

 

だが清姫は伝説にもある通りそうはしなかった。

追い詰めて焼き殺した。

 

―そしてその理由も単純だ。お前は怖かったのだ。自分が愛されてなどいないという事実を聞くのが。だから自分だけの都合の良い悲劇と言う、自分自身の妄執と嘘で塗り固めた思い出を作り上げるために。彼を焼き殺した―

 

―ち、違います!! 私はそんな、そんなことは―

 

―違うと言うのなら、なぜ殺した? 先も言っただろう? 聞けば済む話だと。だがそうはしなかった。死人に口無しという言葉の通り、殺してしまえばあとは自分の胸の中で好きなようにこねくり回して美化してしまえば良い。現実から目を背ける方法としては上等な手段だ。要するに貴様はフラれるのが怖くなり愛されていないという現実から逃げるために殺しただけだよ。―

 

 

そう違うというのなら殺す必要はない。

只聞けばいいだけの話であるから。

そうはしなかったのはどういうことか。

影の言う通り。自分可愛さに殺しただけ、自分自身を理想の幻想と言う嘘に塗り固めて現実から逃げようとしただけではないかという物を完全否定することは出来ない。

僧からすれば清姫は愛されていないという事実に恐怖し、己ですら騙して都合のいい解釈に逃避する少女にしか見えない

 

―うそは吐くなとお前は言うが・・・、お前ほど自分に嘘を吐き、己が可愛さに逃げてるやつも早々はいまいな―

 

―嘘・・・です・・・―

 

―まだ逃げるか? であるなら本当の自分に聞いてみると良い、本音と言う奴をな―

 

 

僧はケラケラと嗤いつつ、怯え竦む清姫に近づき、頭に右手を乗せて。

彼女の心の中からシャドウを引き出した。

 

 

 

そして清姫は壊れた。

結果がこれである。

無論、それだけなら原作通りなのかもしれないが。

召喚条件事態が違うのだ。

座の清姫が良心の呵責で自分自身への復讐を望みジャンヌ・オルタの召喚に応じ。

人格に影響の出るレベルの復讐者スキルを付属され召喚された結果がこれである。

常に泣き叫ぶように叫び散らし暴れる。

影が場にいたならケタケタと嗤っていたであろう状況であろう。

ジャンヌ・オルタはため息を吐きつつ、清姫に歩み寄る。

 

「全く、嘘が嫌なら俗世から離れて尼にでもなればいい物を。」

 

そう愚痴りつつ、炎を口の端や体の全身から魔力放射の形で吐き出す清姫に、ジャンヌ・オルタは事も無げに近づく。

今更、この程度の炎で痛みなんぞ感じていないと言わんばかりだ。

無論、皮膚は焼けただれ髪の毛は焼ける。

だが取り込んだ聖杯と怨霊たちがそれを許さず、即座に再生を始める。

霊核を穿たらなければ死ぬことはない。

が痛みはシャットダウンできるほど便利な物ではなく。

負傷と再生が繰り返される激痛にも彼女は眉一つ歪めていなかった。

清姫の背に触れて彼女の増悪をジャンヌ・オルタは吸い取ってエネルギーに変換する。

無論、それは彼女の感情をそのまま引き受けるのと同じだ。

生身で今と同じように炎を浴びるのと違いはない。それが肉体面的であるか精神的な面であるかの違いだけである。

憎悪を吸収されて清姫が沈静化する。

 

が今度はジャンヌ・オルタであった。

肉体内面から噴き出るエネルギーに霊基が軋みを上げる。

無論彼女とて馬鹿ではない。

 

堪える。

 

自分自身が望んだことであるし、いつも通りなのだから。

 

耐えて己が力とする。

 

 

「君こそ、それが合致すると思うが」

 

ジャンヌ・オルタが膝をつく前に。

割って入ったサンソンがジャンヌ・オルタを支える。

 

「・・・居たのアンタ・・・」

「まぁ、医者の言う事を聞かない患者がいるからね・・・、いつでも動けるようにはしているのさ」

 

清姫が暴れ散らしていたことは既に彼は認識済みだ。

そこにアタランテからの連絡が飛んでくれば来るという物なのだから。

霊基の同一化によって光属性やら祝福儀礼済みの武器でも霊核に喰らわない限り。

ジャンヌ・オルタのサーヴァント一同不死である者の。

逆を言えばジャンヌ・オルタが消えれば彼等もまた消えるのである。

それでは困るのはどういう感情がアレ、困るというのは真理であるのだ。

 

「とにかくこれ以上の強化処置は自爆でしかない、僕としては困るから怨霊の消化に努めてほしいね」

「はいはい、分ってるわよ」

 

サンソンの物言いに投げやりだがジャンヌ・オルタは答えた。

彼女のエネルギー源であり霊基の強化剤の一つである怨霊は吸収して片っ端から消化と言うわけにもいかない。

誰にも胃の容量と消化時間がある様にすぐにとはいかないのが現状だ。

しかしである。

 

「けれど明日には出撃するわよ、それで明後日には決戦ね」

「あのね、少し自重するようにって言ったばかりじゃないか」

 

予定されていたこととはいえ。

サンソンもジャンヌ・オルタの無茶には苦言を呈する。

本当におかしいのだ。霊基の同一化、怨霊の吸収、聖杯の取り込み。

自我が崩壊するのが普通なのに。

彼女の人格は欠損すらしていない。

いいや壊れているから壊しようがないというべきであろう。

憎いからすべて終了するの一念と、カルデアへの希望で彼女は動いている。

 

無論、それを知ることはサーヴァントたちには理解できない。

彼女の憎しみはそこまで根深く。

自死衝動と両立されているものだった。

あやふやで矛盾しているが絶対にやり通すと言う危ない意識が彼女を彼女足らしめている。

それはどこかの聖女と同じもの。

コインの裏表だ。

無論、ジャンヌ・オルタは気づいていない。

そういう風に誘導され、作り上げられた。合わせ鏡であるということも。

最も知ったところで止まりはしない。

今の彼女を打破できるのは。

カルデアだけだろう。

同じ同族であり憎しみを持つ者たちだけがジャンヌ・オルタを倒せるのだ。

故に屈さぬ、倒れぬ、進み続ける。

この程度、喰らい尽くせずして何が報復者かと言わんばかりに。

何もかもを飲み干して己が憎悪を増幅させるためにあらゆる憎悪を背負うかのようにジャンヌ・オルタは立ち上がった。

 

「・・・」

 

その様子を見て、サンソンは口を歪めた。

それは哀れみであった。

サーヴァントと言う死者に囲まれ、怨霊に囲まれ、そのすべての憎悪を取り込んで復讐の為だけに歩き続ける。

まるで死者を背負って冥府魔導を歩み続ける聖女の如くに。

だからこそこの場に居る誰もが何も言えぬ。

だって、彼女の憎悪に乗っかる形でしかこの場に存在できないからだ。

英雄に縋る大衆のように。

 

 

彼女の憎悪に惹かれて縋っている亡霊共が何をいえようか。

 

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!!」

 

 

だが物事の道理を弁えず全力で縋っていく人間も居るわけで。

ジル・ド・レェもそんな人間だろう。

拗らせて間違えて現実から逃げて目を背けている。

 

「ランスロット殿が回復し全ての準備が整いましたぞ!! 屍兵にワイバーン、悪魔たちもいつでもティエールに攻め込める準備が整いましたぞ!!」

「そう」

 

 

故にジャンヌ・オルタは未だに現実を直視せず自分とオリジナルを重ねているジル・ド・レェに冷たい目線を送るのだ。

まぁいずれにせよ準備は整った。

 

 

「総員、出撃準備、ヴラドと合流しティエールを落す」

 

 

相対との時まであとわずかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは奇妙な部屋だった。

大よそ金持ちの所持するダイニングルームと言った方が表現的には正しいだろう。

最も壁は全て黒で塗りあげられており、壁自体には様々な国の文化が生み出した仮面が掛けられている。

その部屋のカウンター越しのすぐ隣の部屋では、yシャツと黒のスラックスにエプロン姿のくすんだ金髪の美中年が料理をしていた。

軽く茹でた豆腐を均等に切り分けて。

香味料や豆板醬、豚のひき肉が混ぜられ炙りに困れた赤黒くトロミのある液体の入った中華鍋へと投入する。

所謂、麻婆豆腐と言う奴であるが。

常人では悶絶しかねない、辛いという香りが蔓延していた。

同時にすっごくおいしそうな香りまで漂ってくるのである。

 

「一種の麻薬だな」

 

リビングの大テーブルの一角に腰かけている神父はぼやく。

中年男の作る麻婆は辛すぎる、それこそ作る工程で悶絶する代物である。

辛さも神父が嘗て通っていた店の倍である。

大よそ常人が食える代物ではないというのに、凄まじく美味いのだ。

辛さと美味さが拮抗し、辛すぎて死ぬかもと、わかっていっても手と口が動くのだから。

麻薬的に美味い物という表現があっているだろう。

 

「酷い言い草だね、言峰」

 

中年男は苦笑しつつ鍋を振るう。

そのたびに麻婆と鍋が熱で焼ける音が響いた。

 

「それだけ美味ということですよ。師よ」

「ならもっと詩的に表現したまえよ、他者を巻き込む魅力を生み出すのは知識とそれを応用し適切に運用できる頭脳だからね」

「誰しもが知識に憧れる故でしたか?」

「そうだとも。人という物は自分にない物に惹かれるからね」

 

言峰の返しに満足げに中年男は頷き。

二つ用意された皿に分量が均等になる様に盛り付け。

優雅に皿を運び、言峰の前に一つ。自分自身が座る位置の机に一つ置き。

保存棚からワインを取り出す。

 

「シャトーペトリュス1981年、良い物だよ此れは」

「ほう、ぜひ拝啓したいものですな」

「無論、君にも飲んでほしい、そのために開けるんだから」

 

 

コルクを男が引き抜き。

言峰と呼んだ神父のグラスにワインを注ぐ。

それと同時に部屋の壁に取り付けられた液晶テレビに砂嵐が走り。

映像を映し出す。

 

 

「ようやく、開演ですな」

「ああそうだとも。ようやく始まって彼らの物語が始まる」

「すべての人類に対するですかな?」

「無論だとも、時に言峰、彼女をどう思う?」

「実に正しいと言えるでしょうが・・・、そんな極論を語らせるために用意したわけではありますまい」

「その通り。彼女もまた影なのだよ。」

 

言峰の言葉に中年男は頷きつつ言う。

彼女もまた影であると。

 

「・・・師の化身でしたか?」

「いいや違うよ。すべてが私でしたは、興覚めも甚だしいところだろうからね、だから用意した物だ。すなわち何かしらに紐づけて憎む自分。そして世の不条理さを知るがゆえに憎しみ殺すというテロリズム、誰もが抱える世の不条理に怒る仮面そのものだ。

同時に周防達哉という存在が持ちえる怒りの具象でもある」

「・・・すなわち理解者と言う事ですかな?」

「その通り、世界を滅ぼした悲哀と自罰意識を持ち世界を救った男にはぴったりの番いだろう? 世界をどうであるかを知り憎しみ抜き滅ぼし、なお足りぬと叫ぶ、他罰意識に飲まれた女と言うのはね」

 

要するにジャンヌ・オルタは中年男にとって周防達哉の抱える憎悪の具象でしかないという。

現実、彼も一歩間違えれば彼女のようになっていっただろうということは明らかであるし。

そう言った境遇である。

故にすべてを憎み、報復を望む女の声は、自罰意識などで抑え込んではいる物の。

世界に対する理不尽への怒りを持つ、達哉を揺さぶるのには絶好の玩具として中年男も期待しているのである。

中年男の言いように言峰は苦笑しつつ

 

 

「相変わらず趣味が悪い、それだけではないでしょう?」

「ほう、その心は」

「IFの自分も、またペルソナでしょうに。ありえたかもしれないというのは精神的に変容すればなることが出来る。オルタの姿はありえたIFでしょうな」

 

そう、IFの自分と言うのも、またもう一人の己である。

生活環境が違うだけで人という物は変わる。

もしかしたらありえたかもしれない自分という存在なのは間違いがないだろう。

ジャンヌ自身が神の声を聴かなかった。大切な何かを胸張って言えるような性格だった。

そして超常的物語に運命の歯車として組み込まれ世界の真理を知って何もかもを失えばこうなるだろう存在である。

言い過ぎと侮るなかれ英雄譚とはそういった不幸の積み重なりで動く物なのだから。

環境が違えばありえたかもしれない、ジャンヌの姿なのだジャンヌ・オルタはジャンヌにとっての。

 

「その通り、故に彼女の存在は周防達哉だけではない、常に不遇の中で生きてきたオルガマリー・アニムスフィア、理不尽にさらされているカルデア職員、憎悪を知らず外の世界に憧れる、マシュ・キリエライト、そして白痴の極まったカルデアの王に対する問いだよ、同時にジャンヌ・ダルクに対する試練でもある、なにを見て、どう考えて、決断し、履行するかというな」

「ふむ・・・マシュ・キリエライトは成長株ではあるが、正直期待できないのでは?」

 

ハッキリ言って言峰から見れば、マシュ・キリエライトは成長株ではあるが。

まだ収穫もできない苗の様なものだ。

そんなものが影の試練に晒されればどうなるかは火を見るよりも明らかである。

 

「無論、目を背けたとして今は罰は与えんよ、自覚が出来るまでは待つさ。遅咲きの花を踏みにじるのは咲き誇ってからと相場が決まっている」

 

今は見逃す、されど目を背けて、成長できないツケはいずれ払うから見逃すということに他ならない。

 

「ジャンヌ・ダルクは?」

「無論、彼女には態度で示してもらおう。成長したのか否か」

「成長していない場合は壊すのですね」

「ああ、そうだとも、いい加減彼女も自分のしたことに目を向けるべきだからな」

 

影は運命から逃れるものを逃がしはしない。

例外はないのだ。

だれであろうとも。

 

 

「ジャンヌは人を破滅に蹴り落す天才だ。そして自覚していないと来ている、ならば自覚させたうえで選ばせると言うのがジャンヌにとっての試練であり罰となるのだ。その為にまずは与えてやろうではないか」

 

 

そう言いつつ影は嘲笑った。

無論彼らに対しての問いで済むはずがない。

影の試練とは対峙した者たちを問答無用で巻き込む試練だ。

人理光体に取り込まれた人々にとっても。

嘆き狂う獣にとっても。

それは例外なく己が怒りとの対峙なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




敵視点だと執筆が滾ったため投稿。
次回は年明けになるかなぁ・・・。作者のメンタルはランダムダイスの如くである。

邪ンヌ、ニャル様監修、VRペルソナシリーズ&メガテンシリーズを受けて人にブチ切れるの巻き。
それを強制プレイされれば、まぁ誰だって切れるし拗らせるよねって話。
ペルソナシリーズ、メガテンシリーズ共に主人公たちは奇跡を起こしてきましたが。
結局人は変わらないという絶望がありますからね。

たっちゃんも影を追い返せましたが人が変わったかと言われるとNOですし。
結局P3で桐条の爺がやらかして(ニャルの関与の可能性大)、キタローが尻拭いに奔走して奇跡を起こしても人は変わらず。むしろエレボスなんぞ生み出してますし。
番長たちも頑張ってイザナミを殴り抜いたが、世の中は何時もの通り。
ジョーカーたちに至っては、奇跡を起こしたから、それに有象無象の大衆が乗っかってヤルオをぶちのめしたけれど何も変わらないという、世の無常さですよ。

そこにメガテンシリーズとDSJまで追体験すりゃ、自分も含めて人間駄目じゃん、人類皆殺して影を追い出して次の生命体に期待するしかねぇ!!ってなるのは道理なわけで。

ニャル「たっちゃん達が抱える、憎悪の合わせ鏡としては上々、邪ンヌが全力で自覚している上で間違えるスタンスに草wwwwwwwwwwww」


それと文字稼ぎでニャルとコトミーの日常
既にコトミーはニャルの眷属です。
第一部ではコトミーは主にニャルとの会話担当兼傍観者
第二部で暴れる予定。

ニャル&コトミー「ペ~ルペ~ル、ぺ~ルソナ~♪ ジャンヌはどうなるだろうかなぁ~♪ マシュはどうなるかなぁ~♪」



と言う分けで、次回はすまないさんは確定として。カルデアの誰かとのコミュ回のち迎撃準備

次の次はカルデア&フランス連合軍VSジャンヌ・オルタ率いるインスタントアヴェンジャー軍団との戦争だよ!!





最後に言わせてください。


キヨヒーファンの読者さんたち、本当に申し訳ないッッ!!(土下座)

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