Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです 作:這い寄る影
オスカー・ワイルド著書「獄中記」より抜粋。
槍とは一般創作に於いて基本、不遇な割り当てが多い。
何故なら剣の方が見栄えが良いからと言う。身もへったくれもないこともあるが。
実際のところ、その挙動の単純さが弱く映してしまうのである。
だが実際は違う、剣に対する絶対的アドバンテージは無論存在する。
即ちリーチの差である。
間合いの差というのは大きい物であるし。
突くという単純動作故に雑兵であっても槍を持たせれば一定の戦力にはなる。
故に、槍の術理を学び鍛えた武将が槍を振るえばどうなるかは明白であった。
―押し切れぬ?!―
ランスロットは長可に押されていた。
無論それは先ほども言ったアドバンテージもある。
だが殺す技術は古いよりも新しい方が洗練され術理としては性能も高い。
アーサー王伝説の方が古く、神秘的な強度で言えばランスロットが圧勝するが。
長可は日本の武将である。
あの狭い島国で続いた戦国という地獄を駆け抜け武を学んだ生粋の武将にして槍の名手である。
時代的に考えて、先ほども言ったように術理は新しければ新しいほど洗練化されている。
この時点でランスロットは才能的意味合いでは長可に勝るものの。
純粋な技量という宝具やスキル抜きでの技量勝負では劣るのが道理である。
さらに兇化と呼ばれる狂化の亜種スキルによって長可自身がぶれることはない。
周りの敵は自分の部下たちに放り投げるという割り切りを即決で慣行。
間合いを保ちつつ槍を繰り出す。
徹底した合理性と術理にランスロットは押されていていた。
がしかしだ。
―チッ、長くは出来ないなコレ―
長可は内心で舌打ちをしていた。
既に並大抵の将であるなら詰ませている連撃である。
それでも仕留めきれないのは純粋にランスロットの戦闘センスがずば抜けているからである。
このままでは対応されると長可は判断した。
槍を横一文字に振るながら、後退し間合いを離す。
ランスロットは無論、間合いを詰めることを選択する物の。
長可は手首を返し石突きで地面を抉る様に槍を振るい小石を巻き上げて飛翔させる。
サーヴァントの膂力で放たれたソレは広範囲に散らばる散弾と大差が無い。
ランスロットはそれに対応し足を止めて迎撃を選択。
アロンダイトに魔力を振いぬき、纏わせた魔力を放射する散弾のように射出し迎撃する。
―できる―
ランスロットは長可の実力に舌を巻いた。
円卓で上位とはいかずとも中堅クラスの実力はあり。
さらに精神的執念で上位に食い込めるまで行けると判断する。
自分たちの先の時代の異国ではこういった戦士が生まれたのかと感嘆しながら。
ランスロットは油断なく剣を構えなおす。
長可も呼吸を一つ置き手筋を考える。
長くは続けない。続けられない
間違いなくこちらを上回ってくると判断したがゆえだ。
ランスロットと剣と槍を交わすたびに実感し確信した。
―コイツ、俺の筋を一手ごとに覚えてやがる―
即ち、槍を放つ都度に対応されていると理解する。
これだから天才というのは恐ろしいと長可は痛感する。
無論生前。格上の敵とやり合うということは何度もあった。
カルデアに来てからはクーフーリンや宗矩に書文という一種の極みを持つ人たちや。
将来有望株の達哉、マシュ、オルガマリーとも違う才である。
即ち、受けて覚える聖闘士式才能と言えば読者たちにも想像しやすいであろう。
長期戦は不利。かと言って無計画に攻め立てては手札を丸裸にされてしまう。
通常、こういった手合いはバーサーカーにとって相性不利すぎる相手だが。
長可の場合は狂化ランクが低く。
それを利用し他の思考を意図的に低くして戦闘思考に特化させており。
他の思考は愚鈍化するが武芸だけを効率よく考えることに特化させていた。
要するに思考のリソースを戦闘に効率化せているという具合である。
故に技の冴えに曇りはない。
だが才能の差で詰め切れない。
であるならどうするかと言われれば単純である。
―天才は一太刀で詰ませればいい―
そう天才は初見殺しで即座に殺せればいい。
それなら対応する事もなく殺せる。
無論言うだけならタダだ。
ランスロットも一時代を駆け抜け無双の名を冠する英雄である。
そう言った初見殺しの類は潜り抜けてきている。
故に彼が想定できない技の類を一発で成功するほかない。
その時だ。
フランス陣営の本陣が爆発の如き爆音と筒煙で覆われる。
がしかし。サーヴァントや兵士たちにとっては予定道理だ。
動揺する要素はない。
これから達哉たちはまっすぐ敵本陣を目指すのはブリーフィングで何度も言われている。
寧ろ道を開けることに集中せねばならない。
長可は意を決する。
打ち合いで何度も確認はした。
相手に致命的な隙があることをだ。
時代的にはまだ洗練されていなかった武芸だ。
それに事前にランスロットのスペックはたたき込んである。
であるならここまでくれば予想通りだろう。
後は致命的な隙を作ればいい。
「ウォラァァアアアアアアアアア!!」
長可は叫ぶ。
猿声と呼ばれる技法に近い。
本来であれば薩摩の技法だが、大声を出して相手の気を竦ませるのは殺しの場に於いて常套手段だ。
ついでに自分に気を入れることもできる。
声と同時に脚に力を込めて突進。
無論、ランスロットほどの相手となれば愚手でしかない。
本来であれば。
ランスロットは死兵相手にさらさら付き合う気はなかった。
無論付き合うとは適当にあしらうではなく。
確実に次の一撃で殺すという意味合いである。
長可のような存在は放っておくと何仕出かすか分かったものではないからだ。
故に最短、最大火力の一撃をもって決するとランスロットは心に決めて。
「
愛剣の真名を解放した。
達哉たちの支援を上回る強化が一瞬にして行われ。
剣が禍々しい気配を放つ。
だが知ったことかと長可は突進。
ランスロットは完全に迎え撃つ形である。
こうなれば長可は不利だ普通であるなら。
「ッ」
突進する長可と彼の愛槍の穂先を見てランスロットは顔を歪めた。
穂先が揺れているのである。
長可レベルの使い手と有れば普通ならありえない。
これだけぶれていれば致命傷なるような刺突は出せない。
だがランスロットレベルならそのブレに規則性があると見抜ける。
即ち、攻撃のフェイントだ。
これで狙いをかく乱しつつ多くの選択肢を迫るのである。
「こそばゆい!!」
がランスロットはこそばゆいと言い切って見せる。
どれが来ようとも手足程度なら具足を使って受け流して見せる実力がランスロットにはある。
彼もまた偶然的に長可と同じ思考に至ったのである。
死兵相手は何をするか分かったものではないのだ。
故に一太刀で殺しきると踏み込んでくる。
それを見て長可は思考を変更。
次の一歩を踏み込みに変更し。
腰に力を入れ、間合いを詰めようとするランスロットに連撃を放つ。
無論それにランスロットは悠々と対応して見せた。
―柳生の爺さんじゃぁねぇんだからヨォ!―
内心悪態つきつつ”乗って来てくれた”事には感謝しながら連続の突きを読まれる、学習される前提で放つ。
刃と刃が擦れる音が響いた。
ランスロットと長可の打ち合いは続く。
間合いが徐々に縮まり。
槍から剣への間合いへとなっていく。
長可は槍の柄を短く握って対応する。
懐の脇差と刀はとっておきだ。
無理をしてでも槍で対応する。
「グッ!? オォォ!!」
アロンダイトが両腕を掠め、手甲を引き裂いて鮮血を飛ばす。
間合いが小さくなればなるほど圧倒的に明らかになる地力と才能の差。
なんとか両腕を持っていかれないことで一杯一杯になっていくが。
剣先は遂に銅の部分を掠めて。
フルフェイス型の兜を弾き飛ばす。
鉄と鉄が弾けるような音と共に兜が上にとんだ。
同時に長可の体勢が崩れる。
ランスロットはそれを好機と見るや否や。
一歩踏み込む。アロンダイトはまだ振るわない。
こういう時は大概に。
「シャァ!!」
破れかぶれの攻撃が飛んでくるというのが相場だからだ。
だがランスロットは長可の太刀筋を見切っている。
より確実に仕留めるべく。槍と剣を交差させ軌道を反らしながら相手を切り捨てる交差殺法の軌道。
槍と剣が交差する瞬間に手首を傾けつつ穂先を反らし。
そのまま踏み込んでいく算段なのだ。
このまま手をこまねいていては長可は切り捨てられるのみ。
もっとも長可が待っていたのは、この行動に他ならない。
刃を捌きつつ攻撃に転ずる瞬間と軌道をだ。
ランスロットは気づかない。
というより初見ではまず気づけと言う方が無理な手段が発動した。
「嗤え、人間無骨」
「!?」
アロンダイトと槍である「人間無骨」が接触する寸前で駆動音を立てて人間無骨の穂先が開く。
槍から十文字槍の形にだ。
それと同時に手の内で槍を回転させ。
翼の部分と刃の側面で挟み込むようにアロンダイトを絡めとり。
そのまま全体重を乗せて人間無骨の刃事、アロンダイトの切っ先を地面に埋める勢いでランスロットの構えを下段へと強制移行させる。
無論、そうすることに何の意味があるのかという話だが。
長可はそのまま下段に運んだ人間無骨の槍の根元を踏みつけて両方の獲物を固定。
既に長可の両手は人間無骨から離れている。
新たな得物を手にする気配もない。
ランスロットは絡めとられ人間無骨事地面に突き刺さったアロンダイトを抜こうとしたが。
一歩踏み込んで既に拳を振りかぶった長可が存在していた。
「ウォラァ!!」
「ッ!?」
アロンダイトを引き抜くよりも早く。
拳の方が早く走る。
ランスロットの頬を掠めて右腕が通過。
ランスロットは後退し剣を振える間合いに出ようとするが。
先ほど通過した長可の右腕の指がランスロットの後頭部の髪の毛を掴んでいた。
髪の毛を掴まれた激痛に一瞬呻くランスロット。
それを逃さず。鎧の襟首を左手でつかみ。
右足でランスロットの足を払いつつ。右腕を髪の毛掴んだまま。
長可の自身の咆哮に押すようにあるいは抱きかかえるように腕を動かし。
長可は体の加重を後方に移行させつつ体の位置を入れ替えていく。
柔道における山嵐に近い形であるが。
殺し合いの場であることで正調の型から外れているが。
要するに押し倒せれば問題はない。
押し倒し。
即座にマウントを取った長可は腰の脇差を引き抜いて逆手に持つ。
「死ねや!!!」
「断る!」
長可の叫びと同時に振り落とされた脇差の側面を左手の手甲で叩いて反らす。
脇差はランススロットの左側頭部すぐ横の地面に刺さり。
それによって頭部を下げてしまい。
ランスロットの拳の間合いに入った長可の顔面に体勢的に不完全で本来の力を発揮できないとはいえ。
ランスロットの全力の拳が長可の顔面にヒットする。
鼻がへし折れて顔面が陥没でもするのではないかという衝撃が長可の頭部を襲うが。
それが来るとわかっていたので瞬間的に上体を後方に反らして威力だけは削がす。
それでも額のが割れ派手に出血。折れた鼻からは鼻血が噴出した。
だがそれだけだ。
この男にそんな程度でひるませることは不可能だ。
お返しとばかりに左拳で頭部ではなく、ランスロットの胸部を殴りつけた。
全体重を乗せて指やら拳やらが砕けるのをいとわずにである。
如何に肉を蘇生できても。装備まではそうはいかない。
陥没した鎧が鋳型となって胴を圧迫。継続ダメージを与え続ける。
肺が破裂しへし折れた肋骨が食い込みランスロットが吐血する。
無論、祝福属性の乗っていない攻撃の為。
ジャンヌ・オルタの支援で傷は癒えようとするが。
先ほど述べた通りへこんだ鎧が鋳型となって再生を許さない。
再生しようとする体組織が無理に傷口を埋めようとしては鎧に圧迫され崩壊を繰り返す。
再生と崩壊の繰り返しだ。
こうなっては何度も同じことをされているようなものである。
と言っても長可とて無事で済むはずがない。
継続ダメージを与える代わりに左拳を犠牲にしたにも等しいのだ。
鉄に対し拳を叩き込み無事で済むのは書文などの優れた拳法家くらいな物だろう。
そも前提からして選択肢に入らない行為を長可は狂った感性で選び取ったに過ぎないのだ。
指がへし折れて無茶苦茶になるのを構わず。
本来ならば達哉に回復魔法を頼むという手段を選ぶべきだが。
聞こえてくる戦場の前線を突破しようとする音に彼はその選択肢を捨てた。
第一に脇差を握っているのは右手だ。
戦闘続行に支障は無いと判断する。
第一に実力差を顧みて、腕一本くらいはくれてやるつもりだったのだ。
こんなことでいちいち達哉たちにけがの治療などは要請していられない。
右手の脇差は取って置きなので振り下ろす振りだけを今はして。
長可は更なる致命的な隙をこじ開けるべく、左腕を振り下ろし。ランスロットの顔面やら喉元を殴りつけていく。
へし折れた指がさらに潰れるが知った事ではないとばかりにだ。
傷は治癒するが痛みやら脳震盪までは回復してくれることはない。
さしものランスロットもこれには堪ったものではないと。
彼の振り下ろされた左腕を右手で防ぎ掴み取り。
万力の如き力を籠める。
長可の左腕の肉と骨が軋みを上げた。
「ヅッ!?」
さしもの長可も悶絶する。
骨の折れた指先を掴まれランスロットの指が食い込んでいるのだ。
自身から殴りかかる痛みは一瞬で済むが。
掴み圧迫されればそれは握られる限り絞めあげられるが如きの痛みだ。
流石に長可も痛みに苦悶の声を上げるという物である。
長可の苦悶の声を、チャンスととらえたランスロットは。
そのまま長可の左腕を引っ張り引きはがそうとする。
既にもう片方の腕にはアロンダイトが握りしめられていた。
このまま引きはがせば形勢は逆転するだろう。
だが此処にきてはミスだ。
引きはがすのではなく。
多少無理をしてでもアロンダイトで長可に傷を与えておくべきだった。
長可は完全にランスロットの両腕がふさがったことを確認し。
左腕から力を抜いてあえて引っ張らせる。
ランスロットの力を込めた右腕が不要に力んで空振るように伸び切った。
そしてもう片方はアロンダイトを握りしめている。
完全に長可の右腕の事が眼中からなくなっていた。
組み伏せられたことから脱却するのに思考が埋め尽くされていたからである。
「しまッ」
長可の脇差が躊躇なく振り下ろされ。
その思考の最後の刹那。
王の遠ざかっていく背中が見えた気がして
「なぜ・・・私の祈りは何時も届かぬ・・・」
ランスロットは呆然と呟くように言った。
決着が付いたのである。
脇差がランスロットの眼孔から後頭部まで貫通しているのだ。
刃に祝福が乗っている以上、致命傷である。
さらに追撃とばかりに致命傷を広げ、尚且つ脇差を抜きやすくするように
脇差を半回転させ傷口を広げつつ傷口を掻きま回しつつ脇差を長可は引き抜き
頭部を完全に破壊。
如何にサーヴァントと言えどここまでされれば死ぬのみ。
そのままジャンヌ・オルタの持つ聖杯に回収され復活するまでは出てこれない
ランスロットはそれ以降言葉を発することなく粒子化し消えていく。
完全に消えたのを見届けて一息つきつつ長可は脇差を鞘に納めて立ち上がり。
「自分本位だからだろ」
長可は自分なりに応えた。
生前彼もやらかしている。故に人の事は言えないが。
それでも償うように長可は動いた。
関守を切った時も腹を切れと言われれば腹を切った。
放置され錆びついて行く刃の様な無様な生き恥を晒せと言われればそうする覚悟はあった。
「王に無様に生き恥を晒せと言われたんだから。甘んじて受け入れろよ。王の嫁さん寝とって、当然の罰が科せられて、それを受けることなく姫の方を取って仲間殺して逃げ切って。後で後悔するなんかただの馬鹿じゃねぇか。そんなもん忠義とは呼ばねぇ」
尽す相手に対する裏切り。
それが身を捧げ主に利益をもたらす物であればいい。
だが先ほども述べた通り。
ランスロットの場合は弁解の余地がないのだ。
長可ですらドン引きした物である。
彼からすればランスロットの過去の所業は織田の家臣団一名除くの結束に泥を叩きつける様なものだからだ。
気に入らないのも当然だろう。
「そこまでやっといて楽に死ねるだとか。栄光ある物だとかあると思うんじゃねぇよ。本当に王様の為だとか思ってんならやること別にあるんだろうが」
そう吐き捨てて長可は右手で落ちていた人間無骨を拾い上げる。
長可とランスロットのあり様の違いは。最後まで主に忠を貫いたか否か。
死に際に納得するように歩めたか否かであろう
本陣からは爆音と轟音に咆哮が響き渡ってきて。
彼の目線の先では戦場の中枢を駆け抜けていく馬車が見えた。
それと同時に士気が上がる。
事前に流しておいた噂が効力を上げているのだ。
「さぁて。もう一仕事すっかな」
片手で器用に槍を担ぎ。
長可は敵の集中している手短な場所へと突撃する。
いま仕えるべきは殿でもなければ殿下でもない。生きようとする青年少女たちだ。
それと同時に。視界の片隅で巨躯が倒れる影が映っていた。
兜割り
鎧抜き
具足狩
大よそ普通では成せぬ魔剣。
鉄を鉄で断つという矛盾。
『父上。このような業に何の意味がありますか?』
かつて若き宗矩は父であり師である「宗厳」に問うた。
聞こえはいいが混戦状況下における戦場でこのような剣技に何の意味があるのかと。
現に城に居る殿を喜ばせる、天覧の為の妙技でしかないと宗厳に問う。
剣術とは如何に常人が完全武装の人間を惨殺するかにある。
そんな魔剣は必要ない。
銃と一緒だ。
いかに効率で手軽に殺せるかの物でしかない。
故にこんな常人では至れぬ魔剣に何の意味があるのか?
天覧で将軍なりなんだり。
喜ばせる術理に何の意味があるのかと。
そのあんまりな言いように宗厳は苦笑しつつ。
『ふむ。貴様の言う事も一理ある』
若き宗矩にそう言って。
『時に肌は煮皮の如く。骨は鉄の如く。外殻は鉄側の如き相手を仕留めなければならぬ敵を屠らなければならぬときがある。』
『そのような相手は居ませぬ』
宗厳の語る相手は夢想の住人。
既に神秘が去ったこの江戸でそんな想定何の意味があるのかと。
『カカッ そうかもなぁ・・・。だが何れわかるさ。宗矩』
その時は生前の宗矩は訪れることはなかった。
だがしかし。
皮肉にも死後の現在でそのような相手と殺し合う羽目になるとは思いもしなかった。
宗矩はその巨躯から放たれる一撃を凌いでいた。
普通ならばありえない。
がしかし、柔術の基本である受けて流すを行うことによってそれを成す。
高速で振るわれる四肢に攻めこむように攻撃を加えて。攻撃軌道を反らす高等攻勢防御術である。
理論的には銃弾を弾くのと同じである。
理論は簡単だが成すのは難しい。
打ち込む角度と間合いを間違えれば宗矩の愛刀事、その身をひねり潰される。
技巧の極み。剣豪としての腕を極めた宗矩だからこそできる芸当である。
さらにそこから弾いて反らして。その衝撃を得物に伝達させ刃の威力を損なわず。
寧ろ相手の攻撃の威力を上乗せしてカウンターする妙技を行えるのは。日本でも両手指より少し少ないくらいであろう。
鮮血が走る。
無論、清姫の鮮血だ。
怒涛の攻撃を行っているのは清姫のはずなのに。
一方的に宗矩に切り刻まれていく。
「すっげ・・・」
「あれが、極東の剣士」
周囲の掃討に移っていたフランス兵も思わず見惚れる武の極致である。
如何にサーヴァントとは言え人間が剣一本と技巧のみで竜と対峙し圧倒する様は神話のそれに近い光景だからだ。
と言っても宗矩の心中に余裕はない。
一手のミスが先ほども述べた通りの致命傷だ。
単純なスペック差はそれだけで脅威である。
第一に膾にこそにしているが。
「Syaaaa・・・」
清姫はいまだ健在であった。
愛刀にマルタのスキルを付属させている物の。
あくまでもそれはジャンヌ・オルタの加護を妨害、あるいは無効にするものだ。
サーヴァントが所持する自動再生スキルや蘇生を無力化は出来ない。
故に如何に切り刻もうが、魔獣クラス以上の竜種が備える再生の力を備える、今の清姫には意味がない。
現に、湯気を湯立たせながら傷が数秒にも満たぬうちに完治している。
がしかし。これでもまだましだ。
マルタのスキルによって鬼種としての再生能力及びジャンヌ・オルタの加護は封じ込めている。
もし加護が無い場合はジャンヌ・オルタの加護&鬼種の生命力&竜の治癒能力で刀傷程度なら瞬きせぬ間に回復してしまうからだ。
―殺しきるには、首を落すか脳を破壊するなどの再生不可能な傷或いは霊核を貫くほかないか―
分かり切っていたが宗矩の手札ではそれしかない。
幸いにも相手の急所はワイバーンとの交戦経験と剣術家としての戦闘経験から導き出されている。
さらに確認のために何度かカマを掛けたが。
案の定、弱点は弱点であるゆえに理性が吹っ飛んでいても本能で庇うような動きをしていた。
であるなら。あとは簡単である。
相手の体幹を崩し、防御力皆無な瞳から脳へ刀を突き入れるか魔剣による防御無視で霊核を貫けばいい。
柳生の秘伝には刃で鎧を通す秘剣という名の魔剣もあるのだ。
喫するべきことは決まった。
後は行くのみと宗矩は意を決し刃を構えて疾駆しようとする刹那。
清姫も攻めを替えた。
本能で察したのである。
目の前の男が自分を殺せる技を放ってくると。
であるならばとばかりに清姫は魔力を炎に変換し全身から噴射。
ただの人間ならば一瞬にして丸焼きであろうものの。
「――――」
宗矩は迫りくる炎を見つめ。
右手で刀を持ちペン回しのように器用に刃を回転させた。
無論それはミンチメーカーの回転刃の如き鋭い回転である。
クルクルと回る刃は空気を攪拌し、炎を巻き取りながら散らして無力化する。
いわば回し受けの刀術版といった形であった。
柔術も併用して修める柳生新陰流だからこその妙技であろう。
無論、得物を盾にしている以上。
攻めには転じれない。
清姫はそんな事情知ったことではないとばかりに右腕を振う。
無論、炎を纏ったままの腕だ。
だが宗矩はそれを逃さない。
清姫が腕の攻撃に転じる瞬間。炎の噴射が止んだのである。
放射ではなく鎧として身にまとった影響である。
高波の構えを取って最大速で踏み込みつつ。
腕を引き拳を振るわんとした清姫の腕の筋肉の動きと鱗の一を見て一線を結び。
躊躇なく踏み込んだ。
瞬発的機敏性であればクーフーリンですら上回る宗矩の踏み込みである
炎が衣類に着火するよりも早く。腕とすれ違う形で清姫の右腕を斬り飛ばしつつ清姫の脇を通り抜けて見せたのだ。
「―――――――!?」
「如何に骨を焦がす程の猛火とて・・・」
驚愕に目を見開く清姫を他所に。宗矩はそのまま切り抜く形で距離を置き。
再び清姫に向き直りつつ。
「着火する前に走り抜けてしまえば安泰である」
そんな理不尽を口にする。
先ほども述べた通り。瞬発力ならクーフーリンよりも上だ。
言ってやれないことはないのである。
だがしかし。
理不尽なのは向こうも一緒だった。
トカゲのしっぽ切りの如く傷の表面から湯気を出しながら腕が生えてきている。
加護ではない種族としての特異性故だ。
規格外の供給元もあるから成せる荒業である。
時間をかければ倒せないことはない。
だが時間はない。
既に本陣では戦闘が開始。段取り道理であれば達哉たちが突っ込んでくるのだ。
今すぐ倒さねばならない。殺し切らねばならない。
次の手筋で殺しきる事を意に決し。
主たちに念話をつなげて支援を要請する
『オルガマリー殿、主殿でも良い。防御壁の様な支援が欲しいのだが』
長可とは違い相対する相手が相手である。
下手に相打ち狙いなんぞすれば、宗矩が消し炭だ。
『だったら俺がマカラカーンで』
『いえ私がやっておくわ』
『所長の方が余裕ないんじゃないのか?』
『魔術回路で分割思考があるからね、こっちは!!』
通信越しに聞こえてくる爆音。
両者ともにすさまじい火力を応酬していることは手に取るようにわかる。
それで意外だったのは。オルガマリーの方に若干余裕がある事であった。
魔術回路は演算機としての側面もある。
本来なら時計塔魔術師としては邪道的扱いであるものの。
そんな建前なんぞ糞の役にも立たないのでそうやっているがゆえに若干の余裕があった。
『分かり申した。ではオルガマリー殿。タイミングはこちらで上げまする。』
宗矩は余裕があるオルガマリーに支援を委託。
後は斬り通すのみである。
相手を見据えて。
呼吸を一つ二つ置いて。
『今!!』
走ると同時に念話を飛ばす。
『オシリスの塵!!』
宗矩の合図と共に乱戦の最中でありながら。
魔術回路を使っての分割思考でタイミングをミスることなく礼装に魔力を込めて術式を起動。
アマデウスのラインを使って宗矩に伝達起動する。
アトラス院の秘術である「オシリスの塵」はいわばサーヴァントを無敵化させるものである。
耐性を付与すると言っても良い。
どの様な原理かはオルガマリーもよくわかっていない。
神秘は隠匿されるものだからだ。
他者にばれては効果が激減するゆえに原理自体はブラックボックス化されている。
信用も信頼もないが使えるなら使うしかないのが現状だ。
ただし乱発は出来ない。消費魔力が大きいのと礼装の演算機能のリセットに時間がかかる為である。
無敵化した宗矩はその信頼を受けて。
躊躇なく炎の渦に飛び込み。
その健脚をフル稼働させて清姫の膝を踏み台に真上に跳躍。
頭部辺りを横切る際に彼女の髪の毛を左手で掴んでおき、そのまま清姫の真上を取る。
清姫は反射的に真上を見て口に炎を滾らせ吐き出さんとするが。
宗矩は先ほど掴んでおいた髪の毛を力の限りに引っ張る。
無論、竜種の頭髪である、早々簡単には抜けることはないが。
髪の毛を引っ張られれば。痛みに悶えるのが生物的反応の原則だ。
頭部に走る痛みに数瞬。清姫の攻撃が遅れる。
そのまま髪の毛を類寄せるように引っ張り空中で反転。
今度は垂直に下降しながら、刀を握る右腕を引き絞りながら腰から上を右に捩じる。
間合いまで降下し。宗矩は捩じった腰と引き絞った右腕をバネにしながら。
下降の速度と体重を全乗せした刺突を放った。
それは清姫の左目から脳髄、喉まで貫通するレベルで深々と刺さる。
清姫が絶叫する。
「まだ・・・倒れぬかッ!?」
確かに頭部機能を破壊したはずだ、
まだ動けるとは恐ろしい生命力である。
頭部を振り回し宗矩を振り下ろさんと狂乱する。
無論、いつまでもしがみ付いているつもりなど毛頭も無く。
これで倒れぬならばと。剣を引き抜き跳躍。
地面に着地し大上段に剣を構え。
最速で踏み込んだ。
同時に清姫の顔面が宗矩に向けられ。その顎が開かれて炎が灯る
最大威力のブレス攻撃だ。
ファヴニールのそれに比べれば大したことはないが何度も言う通り直撃も。
かすり傷も避けなければならない。
ふぅと息を吐き宗矩は刃を構え思う。
―まさか。影法師に成り果ててようやく理解するとは―
天覧の為の魔剣。実戦で使う意義の無い魔剣。
それを使う相手が今目の前にいる。
「Syayyyyyyyyaaaaaaa」
今まさに対峙するのは鬼竜。
鱗は鉄の如く。
皮膚は煮皮の如くに。
骨は鉄の如きに。
まさに人外の領域。
宗矩は苦笑一つしつつ。
埃被った魔剣を宗矩は引っ張り出した。
「柳生・・・奥義」
それに術理はない。
それに理論はない。
それに道理はない。
それは万人が見る夢である。
ただの刀の一振り。
ただの振り下ろしのみをもって刀で頑強な兜を断つなどありえないことなのだ。
鉄を断つなど人間では成せるはずもない。
出来れば因果が破綻していると言わざるを得ない。
故に幻想。故に夢想。故に魔技。
何故か切れてしまうという夢の極致。
それはどうしようもなく魔剣であった。
「安珍サまァアアぁぁあああああああああうjhぐkhlvch;;ひうhycgjyhjglx!!」
清姫の絶叫と共に吐き出されようとした炎よりも早く。
「兜割り!」
頭部に宗矩の縦一閃が炸裂する。
『私はどうすればよかったのでしょうか?』
痛みにあえぐ中で清姫はぼうと思う。
どうすればよかったのか?
自分がそれほどまでに憎かった。
他者を責めたいわけではない。
だが13の少女が自罰意識を抑え込むのは無理だ。
どうしても他罰意識として八つ当たりしてしまう。
結果この様だ。
挙句現世に出ては嘘を許さず他者に安珍を重ねて強要する。
そんな醜い存在になりたくはなかった。
が成ってしまった。
『誰か・・・誰かわたしを・・・・』
激痛で自我が多少戻りかけて。
自分の前に立つ侍が白刃を振り下ろす
それが酷く救いに見えてしまった。
「助けてください・・・か」
轟音。清姫の頭部は真っ二つに切り落とされ倒れ伏す。
そのまま粒子化し消えていく。
それを見つつ宗矩は最後に聞こえた言葉を口に出して呟いた。
個人名を叫ぶ様な絶叫。
聞こえたような気がした鈴の様な声。
それから推測するに安珍清姫伝説の清姫であろうと当りを付ける。
宗矩とて禅の心得がある。
高名な和尚から教えられたこともある。
故に彼女が抱えていた物を察する。
究極的自己嫌悪をだ。
だがそれをどうすることもできない。
腰を据えて話し合える状況下ならメンタルケアからできるが。
いまこの状況の殺し合いの場ではその前提に意味はない。
此処は戦場だ躊躇し臆した者から死ぬ。
同情しないとなれば嘘になるが。今この場においてはその心理を切り離して。
左右から襲い掛かってきた悪魔を振り向きざまに切り捨て呟く。
「・・・だからか?」
敵の判明サーヴァントの情報は伝承込みで予習済みだ。
無論達哉もだ。
達哉の話はある程度は聴いている。
大事な人を守れなかったトラウマ。友と別れざるを得なかったトラウマを抱えているということをだ。
「これ以上は想像の域を出ないか」
意図的に達哉や戦闘経験のないオルガマリーやマシュに対し。
悔いや憎悪を突き付けることで傷つけるための意図的配置なのかと。
無論推測に過ぎない。
だが敵の”
しかし思っている暇などないのだ。
後方から馬車が疾駆し。馬車に乗った達哉がメタトロンを呼び出し。
マリーアントワネットはジュノンを呼び出し光魔法をばら撒きつつ。
敵を馬車で引き殺し。それでも取り付こうとする悪魔や屍兵をマシュの大盾とジャンヌの旗が弾き飛ばしながら。
高速で戦場を駆け抜けていく。
「武運を」
そう短く祈って宗矩もまた戦場に向き直る。
クーフーリンは間に合わない。
未だ前方で巨躯が揺れて激戦の閃光は止むことはなかった。
やっとできた・・・仕事がイソガシイ・・・イソガシイ・・・
頭がマワラナイ・・・マワライナイ・・・
あと電波VSジャンヌの回のぷろっとが・・・どこかに消えてしまった・・・
渾身の出来だったのに・・・渾身の煽りだったのに・・・
資料を漁って書き直そうと思えば、その資料が見つからない。どうしてこうなった・・・
ランスロの独白は端折りました。
だって書くと。侮辱にしかならないですもん。
ほんとランスロットって功績でかいけれどそれ以上にやらかしの方がでかくてフォローのしようがないですよね・・・
まぁ原作の方で散々描写はやってますし許してください。
でもランスロットはマジ強いですよ。
長可君が勝てたのはランスロットの時代には無かった十文字槍による武器拘束からの組手甲冑術という初見殺しのお陰ですね
サーヴァント戦だと基本的に高機動しながらの打ち合いになるから。
英霊になった後でも味わう機会はないと思われるので。
ランスロは生前なまじ才能があったとの対戦相手が基本人外だったということもあって。寝技の完全に対応できないのと。
故に平安から続く内戦国家だった日本内で洗礼された寝技には対応できなかったというわけです。
これが無かったら逆に森くんがフルボッコでしたからね。
というか、森くんの場合は寝技以外に勝ち筋がないというクソゲー使用。
かと言って暴走キヨヒー相手ではスペック差でゴリ押されて勝ち目がないと言う事なので。
ランスロットを相手取るしかなかったという事情もあります。
キヨヒーはまぁ相手が悪かった。
宗矩を相手にするには力云々かんぬんではなく技量で優れるやつじゃないとまず無理。
でもまぁ・・・神秘が強大なのに技量も頭おかしいのは居ますけど。
アチャクレスやらオジマンやらですね。
仙人やら剣聖もヤベーとか。
次はたっちゃん達の現状をほんのりやって。
兄貴VSアタランテとエリちゃんVSカーミラでお送りします。